第3ステージでのいきなりの総合優勝候補筆頭の脱落。総合優勝候補2番手格の選手たちが新型コロナウイルス陽性反応によりチームごと撤退。
蓋を開けてみればツール・ド・フランスよりも遥かにずっと混沌に満ち溢れている今年のジロ・デ・イタリア。
そしてその混乱はきっと、この激動の第3週にも止まることなく繰り返されていくことになるだろう。
標高2,758mのステルヴィオを抱える総獲得標高5,400mの第18ステージに、標高2,744mのアニェッロを抱える総獲得標高5,300mの第20ステージ。
いうなれば「クイーンステージが2つある」このジロ3週目は、これだけカオスな展開が繰り広げられているにも関わらず例年以上に厳しい3週目だとすら言えるのかもしれない。
というかそもそも、10月のアルプスは本当にまともに走れるの?
コースを見れば見るほど「どんな結末が待ち構えているのか予想がつかない」となってしまうかもしれないが、それでも少しでも参考になれば幸いだ。
- 第16ステージ ウーディネ~サン・ダニエーレ・デル・フリウーリ 229㎞(丘陵)
- 第17ステージ バッサーノ・デル・グラッパ~マドンナ・ディ・カンピーリョ 203㎞(山岳)
- 第18ステージ ピンツォーロ~カンカノ湖(ステルヴィオ国立公園) 207㎞(山岳)
- 第19ステージ モルベーニョ~アスティ 253㎞(平坦)
- 第20ステージ アルバ~セストリエーレ 198㎞(山岳)
- 第21ステージ チェルヌスコ・スル・ナヴィーリオ~ミラノ 15.7㎞(個人TT)
参考リンク
ジロ・デ・イタリア2020 コースプレビュー 第1週 - りんぐすらいど
ジロ・デ・イタリア2020 コースプレビュー 第2週 - りんぐすらいど
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第16ステージ ウーディネ~サン・ダニエーレ・デル・フリウーリ 229㎞(丘陵)
スタート直後から登り。ラストもスプリンター向けではないレイアウト。翌日からは厳しい山岳ステージが連続する・・・とあれば、明確な逃げ屋向きのステージに。ピュアクライマーでなければ乗り越えられないような高い山もないため、クライマーからパンチャー、多少登れるルーラーまで、幅広い選手に勝ちの目があるステージだ。
終盤は3級山岳モンテ・ディ・ラゴーニャ(登坂距離2.8km、平均勾配10.4%、最大勾配16%)を含む周回コースを3周。さらにフィニッシュ直前には最大20%の激坂区間が。
若手がどんどん活躍して勝利も掴み取っていく昨今。
この日も、若き注目パンチャーがその名を轟かせる瞬間が来るかも。
総合勢でも数秒~十数秒のタイム差が生まれる可能性のあるレイアウトだ。ここまで調子の良い選手でも、ちょっと遅れる姿をこの日見せたとしたら、この先の難関ステージで大失速する予兆と言えそうだ(例:2018年のサイモン・イェーツなど)。
第17ステージ バッサーノ・デル・グラッパ~マドンナ・ディ・カンピーリョ 203㎞(山岳)
わかりやすいくらいの難関ステージ。大きな4つの登りはいずれも10㎞を超える登坂距離をもつ。ただ、わかりやすい「激坂」はそれほどなく、最後の登りもラスト3㎞はかなり緩やかな勾配。選手たちの足を疲弊はさせるものの、総合争いはさほど激化するステージではないかもしれない。
その意味で注目したいのは逃げ切りでのステージ優勝者と、山岳賞争い。
最近元気な若手クライマーの活躍に注目したい。
第18ステージ ピンツォーロ~カンカノ湖(ステルヴィオ国立公園) 207㎞(山岳)
登りはたったの4つだけれども、そのいずれも非常に凶悪。
総獲得標高5,400m。今大会の総合争いを左右する重要な山岳ステージである。
何しろ、チマ・コッピ(大会最標高地点)擁するステルヴィオ峠がフィニッシュまで37.6㎞地点に設けられている。
登坂距離24.7km。平均勾配7.5%。
後半は常に8~9%の急勾配が続き、最大勾配は12%。
長く、そして厳しい。
さらには標高2,758mという異様な高さがもたらす寒さと、酸素濃度70%という空気の薄さとが、単純なプロフィール以上の苦しみを選手たちに与える。
ここまでどれだけ好調な走りをしている選手でも、ここで大崩れする可能性は十分にある。
ただでさえ混沌に満ちている今年のジロ・デ・イタリア。この最凶の登りで、総合争いが一気にひっくり返される可能性もあるだろう。
もちろん、そもそも通れるのか?という問題もある。10/12の時点で雪に覆われたステルヴィオの峠道。
Chiuso da Trafoi il passo Stelvio https://t.co/DBhr37wead pic.twitter.com/iQggJ5HlEY
— Valtellina Turismo (@valtellinatweet) October 12, 2020
最も最近このステルヴィオに上ったのが2017年大会の第16ステージ。
この日、マリア・ローザを着るトム・デュムランが大トラブルに襲われる中、やはり雪に包まれたステルヴィオでアタックしたヴィンツェンツォ・ニバリが、最後、ミケル・ランダとのマッチスプリントを制してステージ優勝を果たした。
これだけの厳しいステージを制するには、単純なフィジカルやポテンシャルだけでは不十分で、歴戦の経験と精神性がモノを言う。
今年のジロ・デ・イタリアはあらゆる波乱に満ち溢れていたが、その結果、ゲラント・トーマス、サイモン・イェーツ、ステフェン・クライスヴァイクといった優勝候補たちは皆、すでに大会を去ってしまっている。
ヤコブ・フルサンもミゲルアンヘル・ロペスとアレクサンドル・ウラソフという強力な2人のアシストを早々に失い、メカトラにも襲われてタイムを失っている現状。
総合上位のジョアン・アルメイダやウィルコ・ケルデルマンといった若手格の選手たちを抑えて頂点に立つのはもしかしたら、3年前と同じく、「メッシーナの鮫」なのかもしれない。
もちろん、ステルヴィオの山頂でフィニッシュではない。かつてクライスヴァイクを悲劇に陥れた下りを経て、最後に待ち受けるのは「カンカノ湖」にいたる1級山岳「フレーレの塔(Torri di fraele)」。
ステルヴィオに比べればずっと短くて緩やかな登りだが、それでもゴール前7㎞地点に最大勾配11%の激坂区間。
最後の1㎞は平坦でのフィニッシュとなるが、おそらくはスプリントで決着することはなく、苦しい1日を終えて最後に体力を残したマリア・ローザ候補が独走でフィニッシュする姿を見ることになるだろう。
第19ステージ モルベーニョ~アスティ 253㎞(平坦)
アルプスの厳しい山岳ステージに囲まれた第19ステージは、今大会最長ステージであると共に、ポー平原を駆け抜ける今大会最後の平坦ステージ。
マリア・チクラミーノ勝負における最終決戦の舞台となることは間違いないが、ここまでの厳しいステージの連続で果たしてスプリンターチームとエーススプリンターたちにどれだけの体力が残っているのか。
それこそ似たような境遇に置かれていた昨年の18ステージはまさかまさかの波乱の結末を迎えており、今回もまた、ということは十分にありうるだろう。
そして総合優勝候補たちにとっては、翌日の山岳最終決戦に向けてここで一息ついておきたいところ。
だが、こういった平穏に終わるようにしか見えないステージにこそ、悪魔が潜んでいるということもまた、ロードレースの常でもあり・・・。
第20ステージ アルバ~セストリエーレ 198㎞(山岳)
「チーマ・コッピ」は第18ステージのステルヴィオに奪われたものの、この日最初にプロトンが訪れるアニェッロ峠は標高2,744m。実はステルヴィオからわずか「14m」しか低くない。ある意味今大会2つ目のチマ・コッピと言ってもよいこのアニェッロ峠を越えた先はひたすら登っては下ってのサバイバルレース。
総獲得標高も第18ステージに匹敵する5,300m。
そして最後も1級山岳山頂フィニッシュということで、実は大会が公式に「クイーン(最難関)ステージ」と呼んでいるのはこっちのステージだったりする。
正真正銘の最終決戦ステージである。
その「準チマ・コッピ」アニェッロ峠は、2016年大会のチマ・コッピでもあり、ラスト9㎞はひたすら9~11%の厳しい勾配が連続する凶悪なレイアウト。
そして真に注意すべきはこの登り以上に下りなのかもしれない。
2016年大会では大雪に覆われたこのアニェッロの下りで、マリア・ローザを着続けていたステフェン・クライスヴァイクが雪壁に激突してしまった。
そしてプロトンが2番目に訪れるのは、ツール・ド・フランスでお馴染みのイゾアール峠。
アニェッロ峠に比べれば短いが、厳しさは変わらず。こちらも標高2,300m超えの厳しいコンディションの中で、早くも総合優勝候補集団はその数を減らしてしまい、とくにヤコブ・フルサンなんかは一人になってしまっていてもおかしくはなさそう。
さらに2級山岳を1つ越えたあと、今大会最後の山頂フィニッシュに到達する。
こちらも標高2,000m超え。1級山岳セストリエーレ。
2015年のジロ・デ・イタリアで、当時25歳だったファビオ・アルが新人賞ジャージを着ながらフィニッシュし、アルベルト・コンタドールに次ぐ総合2位を決定づけた登りであった。
今年もまた、イタリアの若手がその栄光を掴み取ることができるのか。
最終日タイムトライアルが残っているとはいえ、大勢はこの日に決することになるだろう。
いや、そう思っていたツール・ド・フランスでの、まさかの事態を考えると・・・?
第21ステージ チェルヌスコ・スル・ナヴィーリオ~ミラノ 15.7㎞(個人TT)
昨年同様に3つの個人TTが用意された今年のジロ・デ・イタリア。
最終日はオールフラットな短距離TTで締めくくり。15㎞という距離は、決して大きなタイム差を生み出すものではなく、よほどの接戦でない限り、この日に逆転、ということはなさそうだ。
なんて言いつつも、何が起こるかは本当に最後までわからない。そのことを、今年のツール・ド・フランスの第20ステージで思い知らされた。
特にTTの苦手な総合系ライダー・・・ドメニコ・ポッツォヴィーヴォやラファウ・マイカ&パトリック・コンラッドのボーラ・ハンスグローエコンビなどは注意が必要。もしも彼らが総合表彰台圏内でこの日を迎えていたとしたら、それはまさかの悲劇を生み出す可能性すらある。ツールのロペスのような。
逆にわずかにそこに届かない中でこの日を迎えることになったTTが得意な総合系ライダー・・・ウィルコ・ケルデルマンにペリョ・ビルバオ、ヤコブ・フルサン――あるいは今年はそこにおそらくはジョアン・アルメイダも加わることになりそうだ――にとっては、この日はチャンスの日となるはずだ。
だが、ステージ優勝は彼ら総合ライダーのものになる、とは限らないだろう。実際、過去のジロ・デ・イタリアの最終日個人TTは意外なる勝者を生み出してきた。たとえば2017年にトム・デュムランを倒したヨス・ファンエムデンや、2018年にプリモシュ・ログリッチを倒したチャド・ハガのように。
とくに、総合エースを失ったチームのTTスペシャリストがここまでじっくりと足を貯めて・・・なんて展開は十分にありうる。
その意味で大本命はやはりフィリッポ・ガンナだが、前半にTT勝利や逃げで大暴れした彼はやや後半にかけてその存在感を薄めつつあるか? 初のグランツール、ペース配分に失敗していると見ることもできるかもしれない(し、最終日のこの日に向けて足を貯めていると見ることもできる)。
一方で期待されながらもこの初日に結果を出せなかった&逃げでも存在感を示せていないローハン・デニス――短距離TTも得意な彼――が、元世界王者としての意地を見せてくれるかもしれない。
イネオス以外に目を転じれば、昨年の最終日TTではわずかにハガに敗れたカンペナールツのリベンジが見られるかもしれないし、第8ステージで見事なコンビネーションを見せたマティアス・ブランドル&アレックス・ドーセットが再び強さを示してくれるかもしれない。あるいは登りでも強いことを示した過去3年のU23TT王者ミッケル・ビョーグも決して忘れてはいけない存在だ。
そんな中、ファンエムデンやハガのような「意外だけど納得する」ポジションの選手として、個人的にはバーレーン・マクラーレンのヤン・トラトニクを推したい。2017年ジロ最終日TTで9位。今年のティレーノ~アドリアティコ最終日TTで9位。さらにはヨーロッパ選手権TTで6位・・・真正面から戦って勝てる戦績ではないものの、昨年のハガのように、この最終日に向けてどう足を残していったかという戦略次第では、十分に可能性のあるチョイスだと思っている。
そして、最後にマリア・ローザを手にするのは誰か?
この記事を書いている10月15日時点では正直、全く予想がつかない。
波乱に満ち溢れた2020年シーズンの「ジロ」はどんな結末を迎えるのだろうか。
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