アングリル決戦を終え、 なおも総合1位と2位とのタイム差はわずか10秒。総合4位までも35秒以内で迎えた第3週。
ここまでのステージと比べると比較的緩やかなレイアウトが多く、総合争いはもしかしたら初日の「激坂」個人TTで決着してしまうかもしれない。
もちろん、最後まで何が起こるかわからない。11月という、過去に類を見ない時期に至りつつあるプロトンが、この最後の6日間でどんな化学反応を起こしてしまうのか。
今年最後のドラマの舞台となる、ブエルタ・ア・エスパーニャ2020第3週の6日間を確認していこう。
- 第13ステージ ムロス〜ミラドール・デ・エサロ 33.7㎞(個人TT)
- 第14ステージ ルーゴ〜オーレンセ 204.7㎞(丘陵)
- 第15ステージ モス〜プエブラ・デ・サナブリア 230.8㎞(丘陵)
- 第16ステージ サラマンカ〜シウダード・ロドリゴ 162㎞(丘陵)
- 第17ステージ セケロス〜ラ・コバティーリャ 178.2㎞(山岳)
- 第18ステージ サルスエラ競馬場〜マドリード 124.2㎞(平坦)
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第13ステージ ムロス〜ミラドール・デ・エサロ 33.7㎞(個人TT)
「みんな大げさに言いすぎだと思っていた。でも本当に、予想を越えて遥かに、厳しい登りだった*1」と語ったのは、2012年のブエルタ・ア・エスパーニャ第12ステージ、このミラドール・デ・エサロフィニッシュの「平坦ステージ」で勝利したときのホアキン・ロドリゲス。
その年のラ・フレーシュ・ワロンヌを勝利した「激坂ハンター」をもってして、「ミラドール・デ・エサロほど厳しい登りは経験したことがなかった」と言わしめるこの登りのプロフィールは、登坂距離1.9㎞、平均勾配13.1%、そして最大勾配は・・・30%。
そんな悪魔のような激坂を個人タイムトライアルの終着点に設けられたのがこの第16ステージ。
さすがブエルタ。正気の沙汰ではない。
よって、ゴール直前までのタイム差はあまり参考にならない。
そこでどんなに安全圏でも、あるいは危険な状態でも、最後のこの激坂の処理次第で如何様にもジャージは入れ替わる。
果たして勝つのはTTスペシャリストか、激坂ハンターのパンチャーか、あるいは総合系のクライマーたちか。
第14ステージ ルーゴ〜オーレンセ 204.7㎞(丘陵)
スペイン北西部、ガリシア州の2つの街を結ぶ。この地域特有の小刻みなアップダウンが連続するが、総合争いが勃発するようなレイアウトでは決してなく、かつ終盤にも3級山岳が存在しスプリンター向きとは言えなさそう。
ということで、逃げ切りの可能性が最も大きいであろうステージ。
実力派クライマーでなくとも最後まで行けそうなレイアウトだけに、ジロでチャンスを掴み取ったアレックス・ドーセットやヤン・トラトニクやヨセフ・チェルニーのような、TTスペシャリスト系の選手たちにも注目しておきたい。ドゥクーニンク・クイックステップのレミ・カヴァニャやヤニク・ステイムル、サンウェブのヤシャ・ズッタリンやモビスターのネルソン・オリヴェイラなど。
一方で、逃げに乗りたい選手たちのアタック合戦で平均速度が高止まりする可能性も・・・?
第15ステージ モス〜プエブラ・デ・サナブリア 230.8㎞(丘陵)
スペイン西岸、大西洋に近いガリシア州のモスから、ポルトガル国境を沿うようにして東に一直線に進み、 カスティーリャ・イ・レオン州のプエブラ・デ・サナブリアへ。
今大会最長ステージ。そして、丘陵に塗れた前日に続く「逃げ切り向きステージ」。前日以上にスプリンターにはチャンスがないだろう。ラスト1㎞(過去の例を見ると残り400m?)から登りが始まるとの情報も。
結構連日良い逃げを見せているドゥクーニンク・クイックステップのマティア・カッタネオや、ロバート・パワーやマイケル・ストーラーなどのチーム・サンウェブの選手たちの逃げ切りに期待したいところ。
なお、2016年のブエルタ・ア・エスパーニャ第7ステージでもほぼ同じレイアウトのフィニッシュ地点が用意され、当時は逃げ集団を吸収したあとのプロトンから、残り30㎞で新たな逃げ数名が形成。その中で最後まで生き残り続けたルイスレオン・サンチェスとルイス・マテマルドネスが残り200mまで逃げ続けたあえなく集団に吸収。
アルベルト・コンタドールを巻き込む大クラッシュで混乱する集団の中から、登りスプリントを制したのは当時IAMサイクリング、現B&Bホテルス・ヴィタルコンセプトのヨナス・ファンヘネヒテン。
あれ? 意外と集団スプリントでの決着もありうる・・・? ただ、第1週目に登場した2016年と、最終週に登場する今年という違いは間違いなく影響を及ぼすことだろう。
第16ステージ サラマンカ〜シウダード・ロドリゴ 162㎞(丘陵)
ポルトガル国境沿いを西から東へと突き進んだ前日とは違い、今度はカスティーリャ・イ・レオン州の中でポルトガル国境沿いを北から南に進むような進路を取る。
前日までの2ステージと比べ、比較的標高の高い登りが用意されたステージ。とくにゴール前30㎞地点には1級山岳が設定されている。
とはいえ登坂距離11.7㎞、平均勾配は3.8%。下り区間も含んでいるとはいえ、さして難易度の高いものではない。逆転を狙ういくつかのチームはその前の2級山岳と合わせアグレッシブな動きに出てくるかもしれない。そういったチームもむしろ翌日のステージに向けて足を貯めるべきだとも考えられる。
結果、3日連続の逃げ切り勝利というのは十分に可能性があるだろう。実質的に今年最後のレース。わずかな可能性にかけたチャンスを掴む走りは必要になる。
とくに来年消滅の危機に陥りつつあるNTTプロサイクリング。来年の契約が決まっていないミケル・ヴァルグレンやエンリーコ・ガスパロット、ベンジャミン・ダイボールなどはここで結果を出さないといけない。
第17ステージ セケロス〜ラ・コバティーリャ 178.2㎞(山岳)
総合逆転を狙うチームにとってはやきもきさせるような丘陵ステージが続いた果てに、ようやく総合争い最終日となる第20ステージにもたらされたのはスキー場「ベハル・コバティーヤ」に至る超級峠ラ・コバティーリャ。
直近では2018年の第9ステージで用いられ、バウケ・モレマの追走を振り切ったベンジャミン・キングが見事な逃げ切り勝利を果たしているステージだ。同年2度目のブエルタステージ勝利に輝いたアメリカ人エスケーパー。しかし今年はそういった逃げマスターの手に勝利がもたらされる可能性は低いかもしれない。何しろ、最後の総合争いの舞台なのだから。
登坂距離11.4km。平均勾配7.1%。
ブエルタらしい異様なプロフィールというほどではないものの、それでも中盤にかけて12%に達する激坂区間は存在する。
この登りの過去の制覇者はサンティアゴ・ブランコ(2002年)、フェリックス・カルデナス(2004年)、ダニーロ・ディルーカ(2006年)、ダニエル・マーティン(2011年)。
この登りのフィニッシュ地点で、今年のブエルタ覇者、そして混沌の2020年最後のグランツール覇者がほぼ確定することとなる。
第18ステージ サルスエラ競馬場〜マドリード 124.2㎞(平坦)
ブエルタ・ア・エスパーニャはツール・ド・フランスのシャンゼリゼ同様、首都マドリードの中心部の5.8km周回コースを利用したスプリンターズ決戦においてフィナーレを迎える。
よって、ここでは原則として総合争いは巻き起こらない。山岳賞も当然決まっている。とはいえ、ポイント賞くらいは最後の最後までもつれることは時折ある。
ただ、基本的には最後のスプリンター頂上決戦の舞台となることだろう。とくに今年は、今年最後のスプリンターズバトルになると言ってよい。
過去の優勝者は以下の通り。
2010年:タイラー・ファラー
2011年:ペテル・サガン
2012年:ジョン・デゲンコルプ
2013年:マイケル・マシューズ
2014年:(最終日TTのためなし)
2015年:ジョン・デゲンコルプ
2016年:マグナス・コルトニールセン
2017年:マッテオ・トレンティン
2018年:エリア・ヴィヴィアーニ
2019年:ファビオ・ヤコブセン
今年はサム・ベネットか? パスカル・アッカーマンか? それともジャスパー・フィリプセンやヘルベン・タイッセンか?
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