りんぐすらいど

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ツール・ド・フランス2021 注目コースプレビュー

 

2020年11月1日。

新型コロナウイルスの影響で例年のような大々的な発表ではなく、フランスのテレビ番組によって発表された。

元々予定されていたデンマーク開幕は、延期された東京オリンピックとの日程の兼ね合いによって断念。

代わりに2022年に予定されていたブルターニュ地方での開幕となった。

 

2008年以来の開幕地となる同地は、フランスでもとりわけ自転車熱の高い地域。

そしてそこには、ベルギーのアルデンヌ地方やイタリアのトスカーナ地方にも似た激しいアップダウンの丘陵地帯が広がる。

この「自転車の聖地」を出発して、2021年は一体どんなドラマが描かれるのだろうか。

 

今回は、この2021年ツール・ド・フランスですでに分かっている情報から注目すべき10ステージを確認していこうと思う。

 

 

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第1ステージ ブレスト~ランデルノー 187km(丘陵)

 

普段であれば個人TTか集団スプリント向きの平坦ステージで始まることの多いツール・ド・フランス。

しかし、2021年はブルターニュスタート。ということで、初日からそんな生温いことは言わず、珍しいパンチャー向き丘陵コースに仕上げられた。 

 

そしてフィニッシュ地点は登り初めに14%勾配を含む登坂距離3km・平均勾配5.7%の登りフィニッシュ!

明確に登りに強いパンチャーたちが鎬を削り合うことになるこのレイアウトで、2021年最初のマイヨ・ジョーヌを着るものは誰だ。

 

個人的に注目したいのはこの出発地ブレスト出身のパンチャー、ヴァランタン・マデュアス。

2019年パリ~ニース総合11位、ジロ・デ・イタリア総合13位などステージレーサーとしての才能を伸ばしつつ、2019年アムステルゴールドレース8位、2020年パリ~ツール4位など、パンチャー向けのワンデーレースでの成績も重ねつつある今最も期待すべきフランス人若手の1人。

 

地元ブルターニュで見事栄光のマイヨ・ジョーヌを身に着けて凱旋してほしい。

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第2ステージ ペロス=ギレック~ミュール=ド=ブルターニュ 182㎞(丘陵)

 

第2ステージもブルターニュの洗礼は終わらわない。

むしろそれはより激化していき、ブルターニュの誇る激坂「ミュール・ド・ブルターニュ(ブルターニュの壁)」が3年ぶりの登場。しかも3年前と同じ、「2回登坂」という演出を引っ提げて。

その特徴はひたすらまっすぐに進む勾配10%の登り。

2018年はダニエル・マーティンが、2015年に(そのときは1回登坂だけど)登場したときはやはり激坂ハンターのアレクシー・ヴィエルモが勝利している。

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2021年もやはり激坂ハンターが勝利を掴むことになりそうだ。

アレハンドロ・バルベルデに次ぐフレーシュ・ワロンヌ2連勝を成し遂げたジュリアン・アラフィリップか、それとも今年のフレーシュ・ワロンヌを制した新時代の才能マルク・ヒルシか。

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第7ステージ ビエルゾン~ル・クルーゾ 248km(丘陵)

 

3つの平坦ステージと1つの個人TTとを間に挟み、ブルターニュからアルプスへと向かう旅路の途中で、2000年以降のツールで最も長いコースが提供される。

 

そしてゴール前18㎞地点に、ツール初登場の登り「シニャル・ドゥション」。

登坂距離5.7km・平均勾配5.7%というプロフィールはとんだ詐欺。実際にはラスト2㎞が真っ黒な色で染まった超激坂である。

公式サイトのコメントでも「総合争いに影響を及ぼすかも」と書かれているステージでもあり、アルプス突入前とはいえ全く油断はできない。

 

なお、まだコース全容が未発表のためわからないが、逃げ切り向きコースの可能性は高い。
もしかしたらこの日が今大会最初の逃げ切りステージになるかも。
激坂にも自信のある逃げスペシャリストたちが虎視眈々と狙うことになるだろう。

 

 

第8ステージ オヨナ~ル・グラン=ボルナン 151km(山岳)

 

いよいよアルプスに突入する第8ステージは、2018年大会第10ステージにも登場し、アラフィリップが勝利した1級ロム峠〜1級コロンビエール峠〜13㎞の下りを経てのル・グラン=ボルナンフィニッシュというレイアウト。

ただし今回はロム峠の前にもう1つの登りが存在する。

 

今回も2018年大会同様に逃げ切り勝利が濃厚か?
2018年のアラフィリップはそれまでのパンチャーのイメージを塗り替えて見事ステージ2勝と山岳賞を獲得。

それだけでも異様な進化だったのに、翌年はさらにマイヨ・ジョーヌを14日間着続けた。

 

今年も「奇跡」を起こす選手が現れるか?

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第9ステージ クリューズ~ティーニュ-ヴァル・クラレ 145km(山岳)

 

第1週を締めくくるのは、昨年のツール・ド・フランス第19ステージで「幻」に終わったティニュ峠フィニッシュ。

同じくキャンセルされた第20ステージのロズラン峠と共に再登場。

今度こそこの地は偉大なる優勝候補を迎え入れるか、それともまた?

 

なお、プレ峠〜ロズラン峠の組み合わせは2018年ツール・ド・フランス第11ステージの中盤に登場。
前日逃げ切り優勝したアラフィリップが再度逃げるも、この1級プレ峠を前にして脱落。

先頭通過したのは前年山岳賞のワレン・バルギルだった。

 

総合争いだけでなく、今年もこの山岳賞争いが白熱しそう!

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第11ステージ ソルグ~マロセーヌ 199km(山岳)

 

今大会最大の目玉ステージかもしれない。

2016年の「ランニングフルーム」事件以来5年ぶりの登場となる「死の山」モンヴァントゥが、今回は「2回登坂」で、しかも山頂ではなくそこから下ってのゴールというエディションで登場する。

 

1回目の登坂は「いつもの」登坂とは逆方向のソー(Sault)からの登り。

こっちは比較的ゆるやか。

 

そして2回目の登坂こそがモンヴァントゥの本来の姿。

非常に厳しいベドアンからの登りである。

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問題は、山頂フィニッシュではないということ。

確実に集団は絞り込まれるだろうが、そこからの下りで抜け出した選手が逃げ切れるのか、それとも追撃者たちが追いつくことができるのか。

単純な山頂フィニッシュでは描かれない、白熱の追走劇を楽しむことができそうだ。

 

ただし、悲劇的な落車にだけはご注意を・・・。 

 

 

第15ステージ セレ~アンドラ・ラ・ベリャ 192km(山岳)

 

モンヴァントゥに続き、2016年以来の登場となるアンドラ。

山頂フィニッシュだった当時と違い今回は下りのあとこの国の首都へと到達するレイアウトだが、アンドラの厳しい山々は健在。

5年前は大雨の中デュムランが勝利。

雨の多いピレネー。今回は?

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なおスタート地点のセレはツール初登場。

またセレを含むピレネー=オリアンタル県(地域圏としてはオクシタニー)も2009年以来の登場だという。

 

 

第17ステージ ミュレ~サン=ラリ=スラン-コル・ド・ポルテ 178km(山岳)

 

シンプルかつ強烈! 

ペイルスルド峠と1級山岳ヴァル・ルーロン・アゼ峠、そして超級山岳サンラリ=スラン/ポルテ峠フィニッシュ。
このヴァル・ルーロン・アゼ〜ポルテ峠は2018年ツールのあの「65㎞」ステージで使われた区間。

そのとき勝ったのはナイロ・キンタナである。

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16㎞の長い登りにも関わらず、その平均勾配は「8.7%」。

上記ツイートを辿って詳細をぜひ見てほしいが、ほとんどすべての区間で8%・・・どころか8.5%以上の勾配が続いている。

常に延々と厳しい勾配が続いていく最終決戦。

 

2018年は残り13.5㎞地点で当時総合4位のプリモシュ・ログリッチがアタック。これを総合2位クリストファー・フルームがチェック。フルームはマイヨ・ジョーヌのゲラント・トーマスのために重し役に徹した。

追走集団の先頭は総合3位のトム・デュムラン。ハイ・ペースで刻むデュムランの牽引によって2名は引き戻されるが、この結果集団は10名程度にまで絞り込まれていた。

さらに続いて総合7位のステフェン・クライスヴァイクがアタック。今度はエガン・ベルナルが集団を牽引してこれを吸収し、集団からは総合5位のロマン・バルデが脱落。総合1位~4位と総合6位のミケル・ランダ、そしてクライスヴァイクとベルナルの7名のみが残った。

そしてもう一度、ログリッチがアタック。この攻撃でついに、フルームが脱落する。

ベルナルがフルームのアシストに回るが、最終的にこれでフルームは総合3位に転落。デュムランが総合2位に浮上することとなった。

 

とにかく、総合争いが白熱の展開を迎えたこのポルテ峠。

それを3年前のように短い距離ではなく十分に長い距離を走らせたうえで迎えるわけだから、注目しないわけにはいかない!

 

ある意味今大会もっとも楽しみなステージである。

 

 

第18ステージ  ポー~リュス・アルディダン 130km(山岳)

 

2日連続ピレネー山岳山頂フィニッシュ。

そしてこの日が今大会最後の山岳ステージでもある。

 

リュザルディダンは2011年第12ステージでも使われたフィニッシュ。

フランス革命記念日でもあったその日、その年の最初の本格的な総合争いの舞台だった。

そのときもまた、ピレネーの名峰ツールマレーとセットでの登場だった。

 

勝ったのはピレネーの下りで抜け出した下りスペシャリストのサミュエル・サンチェス。

そして、総合争いは残り4㎞のアンディ・シュレクのアタックによって始まった。

 

アンディの攻撃はすかさずアルベルト・コンタドールが抑え込んだものの、兄のフランク・シュレクがカウンターアタック。

フランクの攻撃に反応したイヴァン・バッソのペースアップによって集団は一気に10名程度にまで絞り込まれる。

その中に、当時マイヨ・ジョーヌを着ていたトマ・ヴォクレールが、チームメートのピエール・ローランの助けを借りながらかろうじて残り続けていた。

 

残り2.5㎞で、フランク・シュレクが再びアタックした。

ここまでの様子見のアタックとは違う、本気のアタック。これに、誰もついていくことができなかった。

残り1.8㎞でバッソがペースアップを図るが、カデル・エヴァンスがこれを抑え込む。

そしてエヴァンスが残り1.5㎞で自ら攻撃を仕掛けたものの、ライバルたちを突き放すまでには至らなかった。

 

そしてフランク・シュレクは先頭サミュエル・サンチェスから10秒遅れのステージ3位でフィニッシュ。総合順位を2位にまで押し上げた。

そこから20秒遅れでバッソ、エヴァンス、アンディ・シュレク。25秒遅れでダミアーノ・クネゴ、そしてコンタドールはフランク・シュレクから33秒遅れでのフィニッシュとなった。

この日、マイヨ・ジョーヌを失うことになると予想されていたヴォクレールは、コンタドールからわずか7秒、フランク・シュレクからも40秒遅れに留めたことで、その栄光のジャージを護り切ることになる。

フィニッシュ地点で、自身を守り続けてくれたピエール・ローランと讃え合うヴォクレール。彼はその後、第18ステージまでこのジャージを護り続けることになる。ツール・ド・フランス史に刻まれる、伝説の1ページだ。 

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当時はまだ第12ステージという序盤だけに、展開はまた違ったものになるだろうが、それでもやはり、第17ステージに引き続き、総合勢による白熱の争いが期待されるステージ。

今年のツール・ド・フランスを見ていても、「やっぱり山頂フィニッシュは熱いな」と感じることが多かっただけに、最終週にこのピレネー山頂決戦が2日連続で用意されたことは実にありがたく思う。

ここ最近のツールは下りフィニッシュだったり超短距離決戦だったりといった「搦め手」がトレンドだったが、ここで少し「原点回帰」しつつあるように思う。

 

正直、かなり期待している。

2021年のツールは、この最終週で、最高に熱くなるバトルが展開されることに。

 

 

第20ステージ  リブルヌ~サン=テミリオン 31km(個人TT)

 

そして最後の総合争いの舞台は、ここ数年すっかりトレンドとなった最終日TT。

そして今大会は第5ステージにも個人TTが設けられており、そちら(27㎞)と合わせるとTTの総距離は58㎞と結構長い。

タイムトライアルが2回設けられたのは2017年以来4年ぶりだが、当時は2つのTTの合計が36.5㎞とそこまで長くなく、今回と同じくらいの総距離に匹敵するのは2016年(54.5km)。

ただし2016年の片方(第18ステージの17㎞)は山岳TTに分類されるようなレイアウトであったことは注意する必要があるだろう。ロマン・バルデが5位だし・・・。

今回の第20ステージのTTもボルドーの葡萄畑を使用しているだけにオールフラットなTTというわけではなさそうだが、それでも山岳TTに匹敵するようなクライマーでも不利ではないTT、というわけにはいかないだろう。

 

よって、何が言いたいかというと、ここ数年ずっと叫ばれ続け(そして本当に意味があったのかわからない)「クライマー向け」という称号をはっきりとかなぐり捨てたというわけだ。

山頂フィニッシュへの原点回帰はあるものの、TT能力も大きく勝負を左右する。今回のステージ発表を受けたティボー・ピノは「クライマーよりもより『完璧なライダー』に向いているだろう」と述べ、クリス・フルームは「ここ数年よりもずっとバランスが取れている」「とても喜んでいるよ」と述べている。

www.cyclingnews.com

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以前、「タイムトライアルはもっと長くなるべきだ。それがよりオープンなレースを作る」と主張していたトム・デュムランもきっとこのコース発表を喜んでいることだろう。

 

もちろん、TTが苦手な選手たちは、第17・第18ステージで死に物狂いの走りを演じなければならない。

その結果、トーマスやフルーム、ログリッチやデュムラン(もしくはポガチャル)といったTT型オールラウンダーが総合3位とか4位とかに入った状態でこの第20ステージを迎えることになれば、それは非常に白熱した展開を期待できるようになるはずだ。

 

果たして、主催者の思惑は成功するのか、否か。

 

 

なお、前回ボルドーの地でタイムトライアルが行われたのはおそらく2010年の第19ステージ。

当時はファビアン・カンチェラーラがトニー・マルティンを17秒差で斥けている。

当時はまだカンチェラーラ全盛時代であり、その後少しずつ「マルティン時代」がやってくる、そんな時代であった。

今やマルティン時代も終わり、トム・デュムランやローハン・デニスの時代が訪れ、そして今世界の頂点にいるのはフィリッポ・ガンナである。

もちろん、そこに食らいつくであろう存在としてワウト・ファンアールトやレムコ・エヴェネプールなどもいる。

直後に東京オリンピックも控えている時期で微妙ではあるが、願わくば、このボルドーの地で世界最強決定戦が繰り広げられることを期待したいところ。 

 

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