りんぐすらいど

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ブエルタ・ア・エスパーニャ2020 コースプレビュー 第2週

 

ユンボ・ヴィズマの圧倒的な支配力でもって、ジロ・デ・イタリアと比べてそこまで激しい展開になることはないだろう――と思っていたブエルタ・ア・エスパーニャだったが、やはり一筋縄ではいかない。

第6ステージの雨の中の山岳ステージで、レインウェアを巡るトラブルが原因とはいえ、ユンボ体制の完全崩壊によって、19ジロ覇者カラパスがマリア・ローザを着ることとなった。

そして、今大会「最も厳しい」第2週が開幕する。

この週の終わりでどんな総合順位になってしまっているのか、きっと誰にも、予想がつかないだろう。

 

そして今大会4つあるスプリントステージのうちの2つもこの週に存在する。

最強スプリンター決戦と、最強クライマー決戦。

その2つが同時に楽しめる、今年のブエルタ・ア・エスパーニャの「肝」となるこの第2週を見逃すな! 

 

 

↓全ステージレビューはこちらから↓

www.ringsride.work

↓第1週のコースプレビューはこちらから↓

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↓第3週のコースプレビューはこちらから↓

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第7ステージ ビトリア=ガステイス〜ビリャヌエバ・デ・バルデゴビア 159.7km(丘陵)

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カスティーリャ語でビトリア、バスク語でガステイスと呼ばれるバスク州の州都ビトリア=ガステイスからスタートする第2週開幕ステージ。

残り92.4㎞地点と残り19.1㎞地点に登場する1級山岳プエルト・デ・オルドゥニャ(登坂距離7.8km、平均勾配7.7%)。

決して難易度の低い登りではないものの、総合争いが勃発するほどではなさそう。翌日も厳しい山頂フィニッシュが待っているので・・・。

 

第5ステージに続く、今大会2度目の逃げ切り勝利となるか?

連日逃げに乗っているギヨーム・マルタンやロバート・パワーなどに注目。

 

 

 

第8ステージ ログローニョ〜アルト・デ・モンカルビリョ 164㎞(山岳)

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今大会2度目の「山岳」カテゴリステージ。

とはいえ、前半は平坦ではないとはいえ山岳ともいえないレイアウトで、中盤の2級山岳(登坂距離9.8km、平均勾配5.3%)もそこまでセレクションを生むことはないだろう。

よって、すべての戦いは最後の1級山岳アルト・デ・モンカルビリョ(登坂距離8.3km、平均勾配9.2%)での勝負となるはずだ。

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8㎞という距離で平均9%というのはかなり厳しい登りであることは明白だ。

とくに頂上まで残り3.5㎞地点からは10%を超える超・激坂区間が連続し始める。

戦いのゴングは間違いなくここで鳴り響くことだろう。

 

 

 

第9ステージ カストリージョ・デル・バル〜アギラル・デ・カンポー 157.7㎞(平坦)

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カスティーリャ・イ・レオン州を舞台に行われる、今大会2度目の平坦ステージ。

山岳ポイントもなく、ラストも下り基調のため、集団スプリントを阻む要素は一切ないだろう。

今大会は最終日のマドリード含めスプリントステージが4回。昨年も同様で、昨年はサム・ベネットとファビオ・ヤコブセンが2勝ずつ。

今大会早速1勝目を果たしているサム・ベネットだが、今大会は果たしてどこまで勝利を伸ばせるのか・・・第4ステージで惜しかったフィリプセンの飛躍には注目しておきたい。

 

 

 

第10ステージ カストロ・ウルディアレス〜スアンセス 185㎞(平坦)

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スペインの北岸、ビスケー湾沿いにカンタブリア州を西に突き進む。

海岸沿いらしい、標高のほとんどないオールフラットステージとも言える。

 

が、フィニッシュ地点には注意が必要。ラスト2㎞から500mくらいまでは6~7%程度の勾配が続いている。

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スプリンターがこなせない、というレベルではないだろうが、ある程度は「登れるスプリンター」がチャンスを掴みやすい日だと言えそうである。

・・・たとえば第4ステージ3位と健闘したヤコブ・マレツコあたりには少し厳しいか? 逆にそのとき7位だったマックス・カンターなんかは、ピュアスプリントよりも登りスプリントで存在感を示すタイプの選手なので、ちょっと期待してみても良いかも?

サム・ベネットはいずれも強いので、結局のところ最大の優勝候補なのは変わらないだろう。

 

・・・だが、第5ステージの件もあるので、こういうフィニッシュレイアウトを公式が出してきたときは、実際の厳しさは2倍近くある可能性もあるので、油断禁物だ。

 

 

 

第11ステージ ビリャビシオサ〜アルト・デ・ラ・ファラポナ、ラゴス・デ・ソミエド 170㎞(山岳)

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この日のフィニッシュ地点ラ・ファラポーナは2014年ブエルタ・ア・エスパーニャのクイーンステージ(第16ステージ)で使用された登りである。

 

あのときは残り5㎞を切ったところでクリス・フルームがアタックし、マイヨ・ロホを着たアルベルト・コンタドールだけがこれに食らいつく、という展開だった。

まったく同じ登りを使用するかどうかはわからないが、今回のラ・ファラポーナも残り5㎞を切ってからが非常に厳しい勾配が続く。

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フルームはシッティングでハイ・ペースを刻み、さらにペースを常に変化させてコンタドールを振るい落とそうとしていた。

だが、コンタドールはこれを冷静に対応し続け、残り700mでアタック。

最終的にはフルームを15秒突き放してのフィニッシュ。「バキュン」ポーズでの凱旋となった。

Embed from Getty Images

 

だが、コンタドールの記憶に関わるステージはこの日だけではない。

むしろ翌日のステージこそが、今大会中最も重要で、メモリアルなステージとなる。

 

すなわち、「魔の山」アングリルである。

 

 

 

 

第12ステージ ポラ・デ・ラビアナ~アングリル 109.4㎞(山岳)

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まだ記憶に新しい2017年のブエルタ・ア・エスパーニャ第20ステージ

そのシーズンでの引退を決めていたアルベルト・コンタドールにとって、この日が最後の山岳ステージであった。

ここ数年、かつてロードレース界の頂点に立ち続けていた男とは思えない不調に苦しんでいた。

ツール・ド・フランスでも、ブエルタ・ア・エスパーニャでも、総合表彰台にすら立つこともできず、ステージ優勝もグランツールにおいては上述の2014年ブエルタ以来遠ざかり続けていた。

 

そしてこの年のブエルタ・ア・エスパーニャでも、総合5位と低迷したままこの最終山岳ステージを迎える。だが、彼は最後まで諦めることをしなかった。残り20㎞。最後から2番目の山の下りで果敢に飛び出したコンタドールは、逃げに乗っていた別チームのエンリク・マスの力も借りながら、メイン集団とのタイム差を30秒、40秒と開いていった。

そして平均勾配15%の激坂区間が待ち受ける残り6.5km地点から、「エル・ピストレロ」は最後の栄光に向けた独走を開始した。

 

一時はバーチャルで総合表彰台にまで手が届きかけたコンタドール。

その勢いを嫌ってメイン集団でも総合4位イルヌル・ザカリンや総合3位ウィルコ・ケルデルマンらがペースアップを仕掛ける。

そして、残り2㎞を切ってついにマイヨ・ロホを着たクリス・フルームが、盟友ワウト・プールスの猛アシストを受けながら集団からアタック。

一気にタイム差を縮めてくるプールス&フルームコンビに追い詰められながらも、スペインの英雄は辛くも逃げ切ってその銃口をカメラに向けた。

Embed from Getty Images

 

「最後の銃弾」は笑顔ではなかった。

様々な思いを乗せて、彼は最後の一撃を繰り出した。

それでも、それは数多くのロードレースファンの胸を打ち、永遠に刻まれる瞬間の一つとなった。

 

 

そんなドラマが、今年もまた描かれることになるのか。

第1週の終盤は激しい総合バトルの激化によって、盤石と思われていたプリモシュ・ログリッチのまさかの脱落も演出された。

この第2週最終日の段階で、総合ランキングがどんな風に入れ替わっているのかは想像がつかない。

それでもきっと、この「エル・インフェルノ(地獄)」とも呼ばれるアングリルが、今大会最も激しい瞬間を描いてくれるのは間違いないだろう。

 

 

そして、3年前のこのアングリルで偉大なる先達コンタドールの栄光をアシストした「後継者」エンリク・マスは、この日どんな走りを見せてくれるのか。

 

最後に、このアングリルのプロフィールを置いておこう。

これが2020年のブエルタ・ア・エスパーニャ最大のドラマを生み出す登りである。

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