おそらく新型コロナウイルスの影響を最も強く受けたグランツールと言えそうだ。まずは開幕時期が本来のスケジュールから5か月後ろ倒しとなり、しかもハンガリー開幕という目玉も失われた。
さらにはツール・ド・フランス閉幕から2週間後の開幕ということで、ツール出場組で連戦で出る選手が例年以上に少なくならざるを得ないということ。
そんな逆風に耐えながらも、それでも開幕にこぎつけることができた。
しかし、その展開はツール並みの、ある意味ではツール以上の混乱をもって迎えた。
初日から連続するミゲルアンヘル・ロペスとアレクサンドル・ウラソフというアスタナの主力メンバーのリタイア。
第3ステージという異例に早いタイミングで登場した本格的な山頂フィニッシュ(エトナ)ステージでいきなりの落車リタイアとなる総合優勝最有力候補ゲラント・トーマス。
そして、サイモン・イェーツのコロナ陽性による退場。
いきなりの早すぎる総合優勝候補筆頭とそのチームたちの大混乱の中、「何が起こるかわからない」3週間が開幕した。
今回はその第1週を振り返っていく。
- 第1ステージ モンレアーレ~パレルモ 15.1㎞(個人TT)
- 第2ステージ アルカモ~アグリジェント 149㎞(丘陵)
- 第3ステージ エンナ~エトナ 150㎞(山岳)
- 第4ステージ カターニア~ヴィッラフランカ・ティッレーナ 140㎞(平坦)
- 第5ステージ ミレート~カミリアテッロ・シラノ 225㎞(丘陵)
- 第6ステージ カストロヴィッラリ~マテーラ 188㎞(平坦)
- 第7ステージ マテーラ~ブリンディジ 143㎞(平坦)
- 第8ステージ ジョヴィナッツォ~ヴィエステ 200㎞(丘陵)
- 第9ステージ サン・サルヴォ~ロッカラーゾ 207㎞(山岳)
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↓第2週の全ステージレビューはこちらから↓
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第1ステージ モンレアーレ~パレルモ 15.1㎞(個人TT)
長いストレートな下りをメインに据えた珍しいタイプのTT。
それゆえにデータが少なかったが、重量級のピュアTTスペシャリストが上位を占めるのかと思いきや、意外な顔ぶれが上位に並んだ。
時速100㎞を超える区間が登場したということから、もしかしたら「怖いもの知らず」な若者たちがタイムを伸ばしたと言えるのかもしれない。
その筆頭が、ジョアン・アルメイダ、そしてトビアス・フォスである。
アルメイダはどちらかというとピュアクライマーのイメージを勝手に持っていたが、今回のこの好走により、レムコ・エヴェネプール同様にオールラウンダーとしての走りに期待ができることが分かる。
かなり気が早いのは分かっているが、もしかしたら本来総合優勝候補の筆頭であったエヴェネプールの代わりに、今大会総合優勝争いの台風の目となる可能性もあるかもしれない。
もう1人の驚きたるフォスは、昨年のツール・ド・ラヴニールの覇者。
その前の2年のラヴニール覇者はエガン・ベルナルとタデイ・ポガチャルであり、彼らと比べるとフォスはここまで正直目立った走りは全くしてこなかったが、ここに来てこのTTでの好記録。
彼もまた、TTが速いという印象は全くなかったため、嬉しい誤算である。
それでも勝ったのは、前評判通りの世界王者フィリッポ・ガンナ。
彼もまた、若者の範疇にはいる男だが、全体の平均速度は58㎞/hと、異様なスピードで駆け抜けた。
何の文句もなく「世界最速の男」である。
元世界王者ローハン・デニスは15位に沈む。
過去のジロ・デ・イタリアTT優勝者ヨス・ファンエムデンやチャド・ハガも10位台である。
そんな中、ガンナに続き活躍したピュアTTスペシャリストとしてはローソン・クラドックなどが挙げられる。
そういえば彼もまた、骨折しながら21日間を走りきった伝説を持つ男だったな・・・。
ミケル・ビョーグは昨年まで3年連続でU23世界王者であり続けた男だったが、エリート初挑戦となる今年は世界選手権17位と、早速壁にぶつかっていたかと思っていたが、今回は大健闘。
これも若さパワーか。
総合優勝候補たちの中では、ティレーノ〜アドリアティコや世界選手権のTTで好成績を出していたゲラント・トーマスが大方の予想通り区間4位としっかりとまとめた。
他の総合優勝候補たちのトーマスからのタイム差をまとめると、
- サイモン・イェーツ +26秒
- ペリョ・ビルバオ +36秒
- サム・オーメン +48秒
- アレクサンドル・ウラソフ +57秒
- ウィルコ・ケルデルマン +1分05秒
- ヴィンツェンツォ・ニバリ +1分06秒
- ドメニコ・ポッツォヴィーヴォ +1分10秒
- ステフェン・クライスヴァイク +1分21秒
- ヤコブ・フルサン +1分24秒
- ラファウ・マイカ +1分37秒
サイモン・イェーツが良かった一方で、TTに強いと思われていたクライスヴァイクとフルサンがまさかの大ビハインド。
フルサンは有力なアシストをしてくれる可能性のあったミゲルアンヘル・ロペスが、不可解な落車により初日からリタイアということで早くも苦境に立たされている。
次のTTは第14ステージ。ワインの産地として有名な丘陵地帯を駆け巡る長めのアップダウンTTで、今回とはまた違った顔触れが活躍するであろうから、そこで挽回をしていきたいところ。
第2ステージ アルカモ~アグリジェント 149㎞(丘陵)
どのグランツールも大体、第2ステージ、遅くとも第3ステージまでにはスプリンターのためのステージがやってくる。
しかし今年のジロはそんなことはない。
この第2ステージも、全体的な難易度はそこまで高くはないものの、ラストは6〜9%の勾配を持つ登りフィニッシュ。
パンチャーのための日であり、スプリンターのための日ではなかった。
かといって、まだまだ総合タイム差も決して大きくはない第2ステージから逃げにチャンスが与えられることもなかった。
ベン・ガスタウアーやトーマス・デヘントなどを含んだ5名の逃げは最大で5分のタイム差を許されながらも、残り9㎞ですべて吸収。
いよいよ登り決戦に突入する。
ウルティモキロメトル(残り1㎞)を通過すると同時に飛び出したのはヴィーニザブKTMのルーカ・ワッケルマン。
しかし、ランプレ時代はツアー・オブ・ジャパンにも来てくれていたこの28歳のイタリア人は、やがて後方から迫りくるジロ6勝の男ウリッシと、プロ2年目のホノレに簡単に追い抜かれ、さらに抜け出したこの2名に集団からブリッジしてきたサガンを加えた3名が勝利を争った。
そんな中、勝ったのはこの男。
パンチャーの中のパンチャー。
集団スプリントには弱く、本格山岳にも弱い。
だけどこういう、パンチャーのための丘陵登りスプリントステージには滅法強い。
今や珍しくなったピュアパンチャーのウリッシが、ジロ7勝目を記録した。
勝てないだけでなく初めて実力でマイヨ・ヴェールを失ったばかりのサガンも、ここで復活の勝利か、と期待されていたものの、届かず。
しかし、相変わらずの陽気な姿を見せてくれたりと、この初のジロをしっかりと楽しんでくれている様子だった。
きっとそのうち、勝つだろう。今回のジロのどこかで。
そしてホノレの3位は驚きだった。
これまでプロ勝利なし。昨年のウルフパック初年度は、ベテランも若手も活躍する中、シングルフィニッシュは一度もなく、正直まったく目立てずに終わった1年だった。
しかし、本当に力がない選手を、ルフェーブルGMが3年も契約するはずがない。
今回のこの活躍をきっかけに、ホノレという選手が頭角を表してくるのはきっと、そう遠い未来の話ではないだろう。
なお、この日、アスタナ・プロチームのアレクサンドル・ウラソフが胃腸トラブルによってリタイアを決めている。
前日のミゲルアンヘル・ロペスの脱落と共に、アスタナのトリプルエース体制がいきなり瓦解する結果となった。
総合優勝候補の1人、ヤコブ・フルサンは早くも苦境に立たされることに。
第3ステージ エンナ~エトナ 150㎞(山岳)
第3ステージにしていきなり登場する、ヨーロッパ最大の活火山、エトナ山頂フィニッシュ。
ツールではこの早過ぎる山頂フィニッシュは比較的平穏な物語を紡ぎ出したものの、ジロ・デ・イタリアでは波乱に満ちた展開となった。
その最も大きなものが、スタート時点で総合3位、そして今年のジロ・デ・イタリア最大の総合優勝候補と目されていたチーム・イネオスのゲラント・トーマスが、正式スタート前のパレード走行時に路面に転がっていたボトルを踏んでしまったことで落車し、左半身を強く叩きつけてしまったこと。
まるで、2015年ブエルタ・ア・エスパーニャの第11ステージを彷彿とさせる出来事だった。
あの日、直前のツールを制したばかりの優勝候補クリス・フルームが、パレード走行中の落車によって大きく傷つき、大幅に遅れながらも完走。
しかし、結果として途中リタイアを決めることとなった。
今回のトーマスも、傷つきながらも走り続けた。しかし、最後のエトナの登りに入ると同時に、マリア・ローザを着るフィリッポ・ガンナに支えられながらも、ずるずると遅れ始めていった。
そのタイム差は1分、2分と開いていき、最終的には12分遅れでのフィニッシュ。
完走はしたが、少なくとも総合争いからは確定的に脱落。翌日以降走るかどうかも、不安になる結果となった。
前回出場した2017年のジロ・デ・イタリアも同様に落車により前半戦でリタイアしているだけに、悔しい結末。今回のジロは非常に彼向きのコース設定だったので、尚更である。
レース自体はジョヴァンニ・ヴィスコンティ(ヴィーニザブKTM)やローソン・クラドック(EFプロサイクリング)など8名の逃げが生まれてスタート。
最大で5分半のタイム差を許された逃げ集団は、それを3分ほどに縮められながらも、この日のフィニッシュ地点である1級山岳エトナ/ピアーノプロヴェンツァーナ(登坂距離18.8km、平均勾配6.6%)に突入していく。
登りで抜け出したのはプロ歴16年の大ベテランジョヴァンニ・ヴィスコンティと、エクアドルチャンピオンジャージを着るヨナタン・カイセドの2人。
さらにカイセドは山頂まで残り5㎞を前にしてヴィスコンティを突き放し独走を開始。
カイセドはそのまま、後続を追い付かせることなく単独フィニッシュ。2年前、同じジロ・デ・イタリアの雨の中の山岳ステージで同年代のエクアドル人リチャル・カラパスがステージ勝利。翌年、彼はジロを制した。
カイセドもまた、ストーリーを紡げるか。
カイセドに追いつくことのできなかった総合勢たちの中からは、今年2年前の再リベンジを誓っていたはずのサイモン・イェーツが遅れ始める。
山頂までまだ10㎞近くも残っている。あまりにも早過ぎる、そして不可解な失速によって、最終的には4分以上のタイムを失うことになり、総合争いに残るには少し厳しい状況に。
ゲラント・トーマスと共に初日のTTで好成績を残していただけに、非常に残念な結果である。
残ったメンバーの中から残り7㎞を切ったところでジョナタン・カストロビエホ、残り6㎞を切ったところでハーム・ファンフック、そして残り4㎞を切ったところでウィルコ・ケルデルマンがアタックして抜け出した。
その後もヤコブ・フルサンやヴィンツェンツォ・ニバリなどの総合優勝候補たちが次々とアタックを仕掛け、集団が一気に絞り込まれる。
結果、残り2㎞でフルサン、ニバリ、ポッツォヴィーヴォ、マイカ、少し遅れてクライスヴァイクといったメンバーが形成される。
その動きの中でカストロビエホは吸収されたものの、ファンフックとケルデルマンは捕らえられることなくそれぞれフルサンたちに21秒、12秒のタイムを奪い取っている(ファンフックはさらにボーナスタイム4秒)。
驚くべきはファンフックである。
今年のブエルタ・ア・アンダルシアでも最終的に総合10位に入り界隈をざわつかせた男である。
ベルナルやログリッチらが活躍したツール・ド・ランでも総合12位を記録しており、今回のこの3位フィニッシュによって総合5位に上り詰める。
これからの爆発も十分に期待できる男である。
そしてケルデルマンもまた、フルサンたちから12秒を稼ぎ出して総合4位に。
今年のUAEツアー総合6位、ティレーノ〜アドリアティコ総合4位の男は、ここ数年の中で最も調子が良い状態にあるのは間違いなく、トーマスとサイモンが脱落した中、表彰台候補として十分に注目に値する男だ。
そして、フルサンたちからわずか12秒遅れに留めたアルメイダが、この日の最終的なマリア・ローザに。
レムコ・エヴェネプール不在で総合で目立つのは難しいと思われていたドゥクーニンク・クイックステップが、まさかの活躍である。
波乱に満ちた第3ステージ。思わぬ脱落者と、思わぬ躍進者たち。
今年のジロは、ツール以上に何が起こるかわからない。
第4ステージ カターニア~ヴィッラフランカ・ティッレーナ 140㎞(平坦)
コースのど真ん中に巨大な山を設けた独特な、しかしある意味ジロらしいステージ。
スプリンターがどこまで残れるか、判断の難しいステージではあったものの、やはりようやく訪れた今大会最初の平坦ステージを、スプリンターチームたちは無駄にはしたくなかったようで、結果として集団スプリントで決着することとなった。
しかし、ツール・ド・フランスでもサム・ベネットを切り離すためのチーム戦略を取り続けていたボーラ・ハンスグローエが、この日も登りで積極的に動いた。
このペースアップでエリア・ヴィヴィアーニやフェルナンド・ガビリアが脱落。
ヴィヴィアーニはのちに集団復帰するも、平坦区間ではグルパマFDJも積極的に牽いたことで、ガビリアはついに先頭に戻ることなく、この日の勝負権を失った。
残ったスプリンターたちによる集団スプリント。
主導権を握ったのはアルノー・デマール率いるグルパマFDJと、エリア・ヴィヴィアーニ率いるコフィディス・ソルシオンクレディ。
しかし、残り1㎞を切って先頭を奪ったFDJが、その先頭を牽いていたマイルズ・スコットソンを単独で抜け出させる。
2017年ジロ・デ・イタリアの第1ステージを思い出させるようなこの不意打ちに、先頭牽引の責任を担わされたのはコフィディスだった。
残り400mでスコットソンが捕まえられるも、予定通り同じタイミングでジャコポ・グアルニエーリがデマールのためのリードアウトを開始する。
最初に仕掛けたのはペテル・サガンだった。ツールでの悔しさを晴らすかのように、強烈な加速を見せるサガン。
だが、ほぼ同時にスタートを切ったデマールが左側から猛烈な勢いで追い上げを見せ、最後はわずか数センチの差でデマールに軍配が上がった。
今年絶好調のデマールは、マリア・チクラミーノ争いの最有力候補といって良い。その前評判通りの、初日平坦ステージでの勝利。
このあとも、チームワークを活かした勝利を重ねていくことはできるか?
第5ステージ ミレート~カミリアテッロ・シラノ 225㎞(丘陵)
この日からシチリアを抜けてイタリア本土へ。「つま先の先端」カラブリア州から北上する225㎞の長距離ステージは、総獲得標高4,500mの難関ステージでもある。
一昨日のゲラント・トーマス脱落を受け、イネオス・グレナディアーズは「全員がエース級」であることの真価を発揮する。
過去のジロ・デ・イタリアでもそれでミケル・ニエベやミケル・ランダが勝利する場面があり、今年のツールもまた、リチャル・カラパスの連日の逃げとクフィアトコフスキの勝利を演出していた。
そして今回のジロも早速やってのけた。
まずはローハン・デニスやジョナタン・ナルバエスといった面々もアタック合戦に加わり、そのうえで最終的に確定した8名の逃げの中にも、2年前ジロのフルーム大逆転勝利の立役者の1人サルヴァトーレ・プッチョと、第1ステージですでに勝利しているフィリッポ・ガンナとが加わった。
この日は山頂フィニッシュではないものの、ゴール前11.6㎞に1級山岳ヴァリコ・ディ・モンテスクーロ(登坂距離24.2km、平均勾配5.6%、最大勾配18%)が用意され、逃げの吸収と総合優勝候補による争いが期待された。
実際、24㎞もの登りの麓で逃げ集団とメイン集団とのタイム差は3分。吸収される可能性の方が高いと思えるようなタイム差だった。
だが、先頭集団は粘り強さを見せる。
残り20㎞を切って先頭に残ったのはエクトル・カレテロ(モビスター・チーム)とエドアルド・ザルディーニ(ヴィーニザブKTM)、そしてフィリッポ・ガンナ。
そこにメイン集団から抜け出したトーマス・デヘント(ロット・スーダル)とエイネルアウグスト・ルビオ(モビスター・チーム)が合流して5名になるが、山頂まで残り4㎞でガンナが独走を開始した。
トラック個人追抜世界記録保持者にして、今年のロードレース個人タイムトライアル世界王者。
今回のジロの第1ステージは勝ったものの、序盤の僅かな登り区間はそこまで速くなかったために、登り適性はそこまでないピュアTTスペシャリストの印象があった。
だが、一流クライマーたちを1級山岳で引き千切る今回の走りは、トム・デュムランやローハン・デニスを彷彿とさせる、将来のオールラウンダー化を期待させるものであった。
トレック・セガフレードやアスタナ・プロチームが積極的に牽いたメイン集団は結局このガンナを捕まえることができず、34秒を残して独走勝利を成し遂げた。
イネオスが早々に総合を諦め、ステージ優勝にフォーカスして早速勝利を掴み取る。
これもまた、時代の変化を感じさせる瞬間であった。
総合勢はノーコンテスト。
第3ステージで力なく遅れていったサイモン・イェーツを含む22人の一団がガンナから34秒遅れでフィニッシュに雪崩れ込んでいった。
第6ステージ カストロヴィッラリ~マテーラ 188㎞(平坦)
平坦ステージにカテゴライズされながらも、残り3㎞を切って10%の激坂区間を含むアップダウンが控えており、単純な集団スプリントというよりは、逃げ切りやパンチャーに有利なレイアウト、と考えられていた。
しかし生まれた逃げは4名。しかもそのうち3名はUCIプロチーム。
逃げ切りを狙うには、やや頼りないメンバーであった。
そして、この日もボーラ・ハンスグローエが、ピュアスプリンターたちを振るい落とすべく残り30㎞前後から登り始める3級山岳でペースを上げる。
さらに残り3㎞から始まる最大勾配10%激坂区間で25歳の若手マッテオ・ファッブロが猛牽引。エトナの山岳牽引でも活躍していた、今大会注目の選手の一人だ(先日のティレーノ~アドリアティコでは惜しくも逃げ切れずにマチュー・ファンデルポールに抜き去られてしまっていた)。
このボーラの攻撃によってエリア・ヴィヴィアーニ、フェルナンド・ガビリアといったスプリンターたちは軒並み脱落。
このままボーラの作戦勝ちか?
しかし、この男は最後まで生き残り続けていた。
今年のフランス国内選手権でも、のちの世界王者ジュリアン・アラフィリップの執拗なアタックに食らいつき続けた男。
もはや彼はピュアスプリンターではない。
何しろ、最後はマイケル・マシューズや、ヤコブ・フルサンにリードアウトされたファビオ・フェリーネといった、一流のパンチャーたちを後ろに従えて、圧倒的なスプリントで緩斜面の登りスプリントを制したのだから。
今大会2勝目。
そして、いよいよ手に入れた、マリア・チクラミーノ。
ここまでの絶好調ぶりを見れば、このジャージを今年最後まで着続ける可能性は十分にある。
最強の「チーム・デマール」はこのままこのジロを支配し続けてしまうのか?
第7ステージ マテーラ~ブリンディジ 143㎞(平坦)
143㎞と、長距離ステージの多いジロ・デ・イタリアにおいては異様に短い距離と、山岳ポイントが1つもない、今年のジロの中では珍しいくらいに平坦なレイアウト。
ここまで激しいステージの多かった中で、この日は実に平穏に終わることになるだろう、と誰もが思っていた。
しかし、そう思っているときこそ襲い掛かるのが横風の洗礼である。
そして、そんな横風を最も支配下に置くことができるのがこの男たち、ドゥクーニンク・クイックステップである。
序盤から積極的に動き続けていた彼らの働きによって、集団はエシェロンを形成しながら4つに分裂。
序盤に形成された逃げ集団たちもあっという間に吸収されてしまった。
とはいえ、その混乱は最後までは続かなかった。
時速50㎞を超えるハイ・ペースで走り続けた2時間の末に、集団は最終的には1つに。
どっぷりと肩にのしかかるような疲労を抱えながら、形だけは実に平坦ステージらしい集団スプリントで決着した。
せっかくなので、残り1㎞を詳細に解説していこう。
残り800mから集団の先頭を支配するグルパマFDJ。
この時点でデマール(マリア・チクラミーノを着用)の前には最終発射台のヤコポ・グアルニエーリとそのリードアウトのおそらくはマイルス・スコットソン。
スコットソンのリードアウトは残り500mまで続き、続くグアルニエーリにバトンタッチするが、ここで後方から一気にまくり上げていったフアン・モラノ(UAEチーム・エミレーツ)がグアルニエーリと肩をぶつけながら先頭を奪い取る。
さらに(おそらくは)マキシミリアーノ・リケーゼがコースの左からさらなる加速。最高速度に達しているはずのグアルニエーリの隣に単独で並び、そしてデマールのためのその背後のポジションを強引に奪い取った。
このフアン・モラノ、そしてリケーゼというリードアウターはドゥクーニンクのミケル・モルコフ並みの世界トップクラスのスプリンターズアシストである。
しかしデマールも落ち着いていた。このリケーゼによるポジション強奪に対し強気で反撃することなく、落ち着いて足を緩め、チャンスを窺った。
そして右手から早駆けしたダヴィデ・バッレリーニの背中に乗るようにしてスプリントを開始。
アシストたちの走りに報いなければならないフェルナンド・ガビリアはデマールの背後から遅ればせながらスプリントを開始するが、まったく足が動くことなく、左から同時にスプリントを開始したペテル・サガンに力なく遅れていくだけであった。
そしてあとは、デマールの独壇場。
ややコースを右に締めるような動きが気になりはしたが、それでもちゃんとサガンのスペースは残したうえで、彼を一切並ばせることなく勝ち切った。
チームの力と、そして彼の冷静な判断力と純粋なパワーとが、今大会3勝目をもたらした。
ちょっと気になったことが一つ。
今回、ダヴィデ・バッレリーニは明確にアルバロホセ・ホッジのアシストとして動いていた。
第4ステージはホッジが登りで遅れてしまったために仕方なくバッレリーニがエースを務め、第6ステージもそれは同様だった。
ホッジはちょっとした起伏にも弱い典型的なピュアスプリンターであり、平坦ステージではホッジ、起伏を含んだステージのスプリントではバッレリーニ、という棲み分けがされていたのだろう。
そしてこの日は、横風による混乱はありながらも、ホッジも最後まで残ったことで、チームとしては本来のオーダー通り、「新人」バッレリーニがホッジのためのリードアウトをする、という戦略で挑んだはずだった。
実際、バッレリーニはそのような動きを行った。
それがあの「残り400m」での早駆けである。ステージを狙うのであれば、あれだけ早いタイミングでのスプリントは行わない。
あとはそこに釣られたデマールなりサガンの背後からエースのホッジがうまく抜け出して力で差し切る——そういった戦略を描いていたはずなのに、彼らを追ってスプリントを開始したホッジの加速は想像以上に弱く、ベン・スウィフトにすらついていけない様相だった。
アシストとしての仕事を終えてペースを落としていたバッレリーニは、どこかまだ余裕のあるような表情で隣に並びかけながら項垂れるホッジを見つめていた。
最後はギリギリでホッジを前に出させたものの、正直、もう一回加速してホッジよりも前でフィニッシュしていてもおかしくなかったのではないか――そんな風に思わせる、フィニッシュ直前のバッレリーニの様子だった。
ホッジを見つめるその視線、そしてその直後、画面から消える直前に、なんとなく、首を振っていたように思うバッレリーニ。
この先のスプリントステージでは、たとえピュアスプリンター向きのレイアウトであったとしても、もしかしたらエースはバッレリーニとなってしまうかもしれない。
昨年のシーズン終盤の落車以来、どこか振るわない様子を見せ続けるホッジ。
彼の復活は、あるのか?
第8ステージ ジョヴィナッツォ~ヴィエステ 200㎞(丘陵)
2年前の輝きと失速に対するリベンジを誓っていたサイモン・イェーツ。
直前のティレーノ〜アドリアティコ総合優勝と良い状態で入りながらもエトナのステージで4分以上遅れ、それでもまだ総合を諦めないと宣言していたはずの彼が、PCR検査の陽性反応が出たことで、悔しくもジロを去ることとなった。
決して弱いわけではない。ただ、どこか噛み合わないサイモン・イェーツ。
心を砕くことなく、その再起をまた、願っている。
この日は終盤にアップダウンが連続し、スプリンター向きではないレイアウト。一方で、総合争いが巻き起こるほどの難易度をもつフィニッシュレイアウトでもない。
となれば、翌日の厳しいステージに備えて体力を温存したい総合系チームの思惑もあり、大胆な逃げ容認が生まれるのは必然であった。
実際、以下の「決して総合で驚異にはならないであろう」6名の面子の逃げが容認されたあと、そのタイム差はみるみるうちに10分を超えていき、逃げ切りが確定することとなった。
- シモーネ・ラヴァネッリ(アンドローニジョカトリ・シデルメク)
- ジョセフ・ロスコフ(CCCチーム)
- アレックス・ドーセット(イスラエル・スタートアップネイション)
- マティアス・ブランドル(イスラエル・スタートアップネイション)
- マシュー・ホームズ(ロット・スーダル)
- サルヴァトーレ・プッチョ(イネオス・グレナディアーズ)
ステージ優勝を巡る6人の激しいバトルの舞台となったのは、その入り口(残り25㎞地点と残り11㎞地点)に最大勾配17%の激坂区間を擁する周回コース。
1回目の激坂区間でアタックしたのはサルヴァトーレ・プッチョ。
2018年ジロ・デ・イタリアのクリス・フルームの歴史に残る大逆転劇を演出した名アシストの一人なれば、このメンバーの中で最も強い登坂力を持っていてもおかしくはない。
そしてここに食らいつくはマシュー・ホームズ。
今年のツアー・ダウンアンダー最終日、激坂ウィランガ・ヒルで「ウィランガの王」リッチー・ポートの加速に食らいつき、最後はこれを追い抜いたその足で、しっかりとプッチョの加速に食らいついていった。
そして、TTスペシャリストで構成されたイスラエル・スタートアップネーションの2人はこの登りで完全に遅れる。
このまま先頭の2人(あるいはそこに少し遅れて追い付いていったジョセフ・ロスコフを加えた3名)で勝負は決まってしまうのか?
しかし、決定打にするにはこの登りは短すぎ、そしてその先の平坦は長すぎた。
マティアス・ブランドルとアレックス・ドーセット。共に国内選手権TT王者に6回輝いているTTスペシャリストたちは、登りを終えた先の平坦区間でローテーションを回しながら全力で加速し続けた。
平坦最強の足の本領発揮。やがて残り20㎞を迎えるころには、先頭の3名に追い付くことに成功した。
そして登りではどうしようもないこの2人が、「2人」であることを活かした最高のチームワークを発揮する。
残り18㎞。集団の先頭をブランドル、その後ろにドーセット。2人で前に出るという、複数名を逃げに乗せた場合のセオリーとは真逆のことをやってのける2人。
だが、それは作戦の一環だった。ブランドルが加速し、ドーセットは足を止める。
当然、不意を突かれた3番手のロスコフは、独走を開始するブランドルを慌てて追撃する。
「2人」であることを活かした、(ややセコい?)戦術である。
そして、抜け出したブランドルを追いかけていく逃げの残りメンバーたちの最後尾に、ひっそりとドーセットがついていく。
じっくりと足を貯め、次の瞬間を狙う。
ロスコフを先頭に、無事ブランドルを捕まえた4名。
だが、そこで一息ついたその隙に、集団の最後尾から一気に助走をつけて加速したドーッセットが4名を追い抜いていく。
完全にしてやられた。
「2人」が作り上げたこの波状攻撃によって、ついにロスコフたちは、逃がしてはいけない男を逃がしてしまった。
その後も、ブランドルが常に後続の追走集団の2番手に陣取ってローテーション妨害。
その間にドーセットはひたすらペダルを回し続け、追走集団とのタイム差をみるみるうちに開いていく。
あとは問題は、残り11㎞地点に控えた、17%急勾配区間。
そこまでにどれだけのタイム差を作り上げることができるか、が勝負だった。
そして訪れた残り11㎞。ここで最初に仕掛けたのがマシュー・ホームズ。そしてこれに食らいつくサルヴァトーレ・プッチョという構図は、1周目と同様であった。
やはり突き放されるブランドル。そしてホームズたちとドーセットとのタイム差がみるみるうちに縮まっていく。
だが、登り始めで50秒差まで開いていたドーセット。
登り終えたタイミングでもなお、そのタイム差は30秒弱残っていた。
そして、残りは平坦しかない。
となれば、この「平坦王」を捉えるには、30秒は長すぎた。
むしろタイム差をさらに開いていく元英国TT王者は、最終的には1分以上ものタイム差をつけてチームに初のワールドツアー&グランツール勝利をもたらした。
TT以外の勝利は5年ぶり。これまでの14回の勝利のうち実に12回がTTでの勝利という真正のTTスペシャリスト。
だからこそ登りでは苦戦したが、その分、平坦での自らの武器を最大限に生かして勝利した。
そして、これはもちろん、「2人」の勝利である。
イスラエル・スタートアップネーションという、決して強くはないチームが見せた、コンビネーションが光った勝利だった。
第9ステージ サン・サルヴォ~ロッカラーゾ 207㎞(山岳)
長い第1週を締めくくるのは、イタリア半島の「背骨」アペニン山脈にフィニッシュする総獲得標高4,500mの高難易度ステージだ。
平坦区間は序盤だけ。残り150㎞からはひたすら登っては下っての繰り返し。
最後は1級山岳の山頂フィニッシュ。大きなタイム差がつくほどには長くはないが、それでも確実に総合勢による差はつきそうな厳しい激坂フィニッシュとなっている。
だが、総合勢がこの日「ステージ優勝」を争うことはなかった。
前日に続き、8名の逃げを容認し、そこまで大きなタイム差は許さなかったものの、最後はこの8名の中でのステージ優勝争いが確定することとなった。
- ラリー・ワーバス(AG2Rラモンディアル)
- ルーベン・ゲレイロ(EFプロサイクリング)
- キリアン・フランキーニー(グルパマFDJ)
- エドゥアルド・セプルベダ(モビスター・チーム)
- ベン・オコーナー(NTTプロサイクリング)
- ジョナタン・カストロビエホ(イネオス・グレナディアーズ)
- ミッケル・ビョーグ(UAEチームエミレーツ)
- ジョヴァンニ・ヴィスコンティ(ヴィーニザブKTM)
逃げ集団で動きが起こり始めたのは、残り35㎞地点の2級山岳ボスコ・ディ・サンタントニオへの登りの途中。
このメンバーの中では最も山を登れなさそうなイメージのあったTTスペシャリスト、ミッケル・ビョーグが加速。これについていったのはジョナタン・カストロビエホを始めとした5名。ここから、ジョヴァンニ・ヴィスコンティ、ベン・オコーナー、そしてエドゥアルド・セプルベダが脱落した。
その後はしばらく先頭集団内での大きな動きはなかったが、最後の登りに突入する直前の残り6.3km。勾配7%弱の区間でカストロビエホがアタックを繰り出し、ここにルーベン・ゲレイロが食らいついていった。
元はスペインのTT王者に5回輝くなど、TTスペシャリストと言ってもよい脚質をもつカストロビエホ。
しかし今年はクリテリウム・ドゥ・ドーフィネで、イネオスの最強の山岳アシストとでも言うべき牽引を見せるなど、かつてのヴァシル・キリエンカを彷彿とさせるような登坂力を見せつけた。
一方のルーベン・ゲレイロは、現在もジョアン・アルメイダやミッケル・ビョーグなどを輩出している世界最高峰の育成チームの1つ「ハーゲンスバーマン・アクセオン」出身のポルトガル人。
2016年には共にアクセオン所属だったテイオ・ゲイガンハートやニールソン・ポーレスと共に、ツアー・オブ・カリフォルニアの新人賞ワンツースリーを独占する走りを見せていた「若手期待の星」だったこの男は、その後トレック・セガフレード、そしてカチューシャ・アルペシンと所属チームを変えながらも、なかなか結果を出せず苦しい思いを過ごしていた。
だが、昨年のブエルタ・ア・エスパーニャの終盤戦で、テイオ・ゲイガンハートと共に連日逃げに乗り続けるアグレッシブな走りを披露。勝利までは手に入れられなかったものの、その走りに魅了されたジョナサン・ヴォーターズによって今年EFプロサイクリングに加入。
そして手に入れた今回のチャンス。
最後は12%の急勾配激坂フィニッシュ。
実は、この登りレイアウトであれば、有利なのは間違いなくゲレイロだった。
登れるとはいえ基本はTTスペシャリストであり、加速というよりは一定ペースでの登坂を得意とするカストロビエホに対し、どちらかというとパンチャー気質のあるゲレイロ。
残り300m。カストロビエホが前に出て一定ペースで登っていくが、ラスト200mでゲレイロが加速を開始すると、もはやカストロビエホには成すすべながなかった。
あのとき、残り6㎞でカストロビエホのアタックにしっかりとついていけたときに、ゲレイロの勝利は決定づけられていた。
それは、良い逃げを見せながらも、常に2番手・3番手集団で終わってしまっていた昨年のブエルタへの見事なリベンジとなった。
メイン集団では、先頭でカストロビエホたちがアタックを仕掛けたちょうどそのとき、メイン集団からルーカス・ハミルトンとテイオ・ゲイガンハートが抜け出した。
それぞれ、サイモン・イェーツ、そしてゲラント・トーマスが離脱した今、チームの新たな総合エースの責任を背負わされた男たち。
まだ大きなビハインドを抱えている今のうちに少しでもそれを挽回するべく、勝負すべきタイミングで勝負した2人は、ケルデルマンやフルサンたちに対してそれぞれ19秒、6秒を稼ぎ取ることに成功した。
そしてゲレイロがフィニッシュしてから 1分38秒後、第3ステージのエトナ以降調子の良さを見せ現在総合3位につけているウィルコ・ケルデルマンを先頭に、ヤコブ・フルサン、ジェイ・ヒンドレーの3人ひとかたまりでフィニッシュ。
その後方から少し遅れてマイカ、コンラッドのボーラ2人組、そしてマクナルティ、ポッツォヴィーヴォ。
総合5位ヴィンツェンツォ・ニバリと総合2位ペリョ・ビルバオはこの日、フルサンから14秒遅れ。
総合首位ジョアン・アルメイダはフルサンから18秒遅れの19位でフィニッシュすることとなった。
2016年以来のリベンジを狙うステフェン・クライスヴァイクはこの日21秒を失い、総合でもTOP10から脱落する痛手を負うこととなった。
第1週の9ステージを終えて、総合成績は以下の通り。
一体、ジロ・デ・イタリア開幕前にこの総合成績を予想できていた人はどれくらいいるだろうか。
あまりにも波乱に満ちた第1週の結果が、このカオスな総合順位を生み出している。
一方で、見た目の激しさに比べて、それほど大きな総合争いは巻き起こらなかったこの第1週。
結局、まだ初日の個人TTでの影響が残っている総合リザルトであることも確かで、これからより厳しさを増す第2週・第3週を経て、より実力に則った順位へと変動していくことになるだろう。
現時点で、今大会最も強い足をもった総合ライダーは(チームメートの力も含めて)サンウェブのウィルコ・ケルデルマンであることは疑いようがない。
そこに続いてヤコブ・フルサン、ドメニコ・ポッツォヴィーヴォ、マイカ、コンラッド、ヒンドレーなどが続いていく。
ニバリも第3ステージでは調子が良かったが、この第9ステージでちょっとした遅れを見せており、これが果たして何を意味するのか。
また、アルメイダは現時点でマリア・ローザをキープしてはいるものの、第3ステージでもこの第9ステージでも粘ってはいるが着実にタイムを失っている。
本格的な総合セレクションのかかる第2週を終えた時点で、そのジャージを護り続けている可能性は正直、低いだろう。
また、ここまで安定した走りを見せてくているケルデルマンだが、彼が3週間そのコンディションを維持し続けられている経験はそれほど多くはない。これまでのグランツール最高成績は2017年のブエルタ・ア・エスパーニャでの総合4位。
表彰台は狙えるかもしれないが、最終的に彼がマリア・ローザを獲る、というヴィジョンはなかなか見えづらくはある。
ただ、彼の大きな武器はそのチーム力である。この第9ステージでも、ヒンドレーだけでなく、全部で4~5名のチームメートが終盤まで残っている驚きの姿を見せてくれていた。
ツール・ド・フランスでもそのチーム力によって勝利を重ね続けてきたサンウェブが、このジロではもしかしたら、総合という舞台においてその輝きを、奇跡を見せてくれるかもしれない。
一方、ゲラント・トーマスとサイモン・イェーツが去った今、本来であれば総合優勝候補筆頭に挙げられるはずのヤコブ・フルサン。
ここまでの走りは堅調で、個人の力としては文句なしのマリア・ローザ最有力候補ではあるが、サンウェブとは逆に彼はすでに重要なチームメートを二人、失っている。
この第9ステージでも終盤、ファビオ・フェリーネのアシストを受けてはいるが、彼は本来的にはパンチャータイプの選手。1~2ステージならばともかく終盤の連続する難関山岳ステージで連日生き残り続けてフルサンのアシストをするのは無理があるため、早晩、フルサンはアシスト不足に悩まされる日に直面することになるだろう。
ポッツォヴィーヴォも相変わらず安定した走りを見せるが、やはりほぼ単騎での戦いになっているのが痛い。
その点でマイカ、コンラッドのボーラ・ハンスグローエ・ダブルエース体制は心強いところだが、彼らも個人の力としてはあと一歩、フルサンたちに及ばないところがある。彼らの弱点はTT能力であり、第14ステージの中距離個人TTで大きくタイムを失う恐れがあることも不安だ。
結論から言えば、今回のジロは本当に、まったく、何が起こるか予想がつかない。
ただ一つ言えるのは、この先に間違いなく、想像のつかなかったドラマが待ち受けているであろうということだけ。
激動の3週間はまだ始まったばかり。
今日から始まる第2週もまた、楽しみに一日一日を味わっていこう。
総合争いに大きな影響を及ぼす34.1km丘陵個人TTからピアンカヴァッロ山頂フィニッシュまで、より激しさを増す第2週の全6ステージのコースは以下の記事でチェック!
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