ヨーロッパでのサイクルロードレースシーズンの開幕を告げる灼熱の5日間。
平坦など全く許されないかのような厳しい山岳の連続で、はっきりと実力をもったクライマーたちが炙り出される結果となった。
どの選手がどのように強かったのか。その中でどんなアシストが活躍していたのか。
全5ステージを詳細に解説していこう。
↓各ステージの詳細はこちら↓
- 第1ステージ アラウリン・デ・ラ・トレ〜グラサレマ 174㎞(山岳)
- 第2ステージ セビリア〜イズナハル 194㎞(丘陵)
- 第3ステージ ハエン〜オベダ 177㎞(山岳)
- 第4ステージ ビジャヌエバ・メシア〜グラナダ 125㎞(山岳)
- 第5ステージ ミハス〜ミハス 13㎞(個人TT)
- 総合結果
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第1ステージ アラウリン・デ・ラ・トレ〜グラサレマ 174㎞(山岳)
第1ステージからいきなりの獲得標高3,740m。
5つの山岳ポイントが含まれ、最後のそれは、ゴール前6.5㎞で頂上に到達する登坂距離12.7㎞、平均勾配6.5%の1級山岳。
長くはあるものの、勾配はそこまで厳しくないはず・・・ということで、ここでいきなり総合が決することはないだろう、と考えていた。
だがまさか、あのような展開になるとは。
ゴールまで残り11.3km。1級山岳の山頂まで残り4.8km。
単独で先頭を走っているたロイック・ヴリーヘン(サーカス・ワンティゴベール)をプロトンが飲み込もうとした瞬間に、一人でそこから飛び出す選手がいた。
バーレーン・マクラーレンのエースナンバーをつけた男、ミケル・ランダ。
そして集団から抜け出して単独でこのランダにブリッジした選手が1人。
ゼッケンNo.1をつけた、ディフェンディングチャンピオンのヤコブ・フルサン(アスタナ・プロチーム)である。
いきなりの総合優勝候補2名の飛び出し。
プロトンからはミッチェルトン・スコットのアンドレイ・ツェイツが単独で追いかけるも、2人には届かない。
ツェイツは集団に戻り、彼の守るべきエース、ジャック・ヘイグのために先頭を牽引する。
その集団もすでに、以下の10名に絞り込まれていた。
- ジャック・ヘイグ(ミッチェルトン・スコット)
- アンドレイ・ツェイツ(ミッチェルトン・スコット)
- クリス・ハーパー(ユンボ・ヴィズマ)
- ルーベン・フェルナンデス(フンダシオン・オルベア)
- ハーム・ファンフック(ロット・スーダル)
- ダビ・デラクルス(UAEチーム・エミレーツ)
- マルク・ソレル(モビスター・チーム)
- ヨン・イサギレ(アスタナ・プロチーム)
- ディラン・トゥーンス(バーレーン・マクラーレン)
- ペリョ・ビルバオ(バーレーン・マクラーレン)
この10名の追走集団は、先頭2名から45秒遅れで山頂を通過した。
結局、先頭の2人は追いつかれることなくグラサレマの街中に突入。
ここから先は、狭い石畳の激坂。
ここでは、昨年のアルデンヌ・クラシックで支配的な強さを誇ったフルサンが圧倒的に有利であった。
ミケル・ランダをいとも簡単に突き放し、シーズン最初のレースでいきなりの勝利を掴み取った。
絶叫と共に両手を前に突き出した感情豊かなガッツポーズ。
シーズン開幕を前にして、突然のドーピング疑惑にも巻き込まれ、精神的にも混沌とした思いを抱えていたに違いないフルサン。
そのすべてを打ち払い、今年の成功に向けた幸先の良いスタートを切ることができたようだ。
一方、3位以下の集団で抜け出したのは「激坂ハンター」のディラン・トゥーンス。
ビルバオも5位に入り込んだことで、バーレーン・マクラーレンは上位5名に3名を入り込ませるという、チームとしての成功を収めることとなった。
一方、マルク・ソレルとエンリク・マスという、期待溢れる2人の若手エースを共に連れてきていたモビスター・チームは大失敗。
ソレルは山頂付近で後れを喫し、アシストとしての仕事を全うしたツェイツと共にフルサンから1分21秒遅れの12位でゴール。
さらに、マスは3分58秒遅れの31位と、総合争いからのあまりにも早すぎる脱落となってしまった。
第2ステージ セビリア〜イズナハル 194㎞(丘陵)
今大会最長ステージ。
ただし、他のステージと比べ、1つ1つの登りの難易度は決して高くない。
それがゆえに「スプリンター向けのステージ」とも囁かれ、実際にプロトンもソンニ・コルブレッリのためのバーレーン・マクラーレンと、ブライアン・コカールのためのB&Bホテルスの選手たちが集団の先頭を牽く場面が多く見られたように思える。
ただ、最後の登りは1.5㎞の登坂距離で平均勾配が8.5%。最大勾配は17%という超激坂である。
たとえその麓に大集団で突入できたとしても、登り始めればそれはあっという間に縮小されてしまった。
コルブレッリとコカールも早々に脱落。そんな中、残り1㎞の地点でプロトンから飛び出した男がいた。
男の名はゴンサロ・セラノ。カハルラル・セグロスRGAに所属する、まだプロ未勝利の男だ。
小刻みにダンシングを続け加速を止めない彼は、残り500mの時点でプロトンとのタイム差を12秒にまで広げる。
プロトンもその後、ペースアップを図り、ゴール前のストレートではいよいよセラノのすぐ後ろにまで迫ってきていた。
が、遅かった。
すでにセラノの逃げ切りは確定した。
2週間前のボルタ・ア・ラ・コムニタ・バレンシアナの最終ステージでも、同様に終盤の勇気あるアタックを繰り出していたセラノ。
そのときは無情にもプロトンに飲み込まれていたが、再度の挑戦で彼はついに人生初の栄冠を手に入れたのである。
プロトンの方ではほぼ団子でゴールした形となり、総合成績においてはほぼ変動なし。
また、クレマン・ヴァントゥリーニやアンドレア・パスクアロンはもう少しスプリンター寄りの選手であるように思っていたので、ここまでの激坂でも対応できるのだというのは新鮮な驚きだった。
第3ステージ ハエン〜オベダ 177㎞(山岳)
総獲得標高3,000m超えの、今大会クイーンステージ。
スタート直後から総合12位のアンドレイ・ツェイツを含む10名の逃げが生まれるが、やがてツェイツは集団に戻り、総合リーダー擁するアスタナが淡々とプロトンを牽引し、逃げ集団とのタイム差を縮めていった。
結局、この日の決定的な動きが起きたのは残り3.5㎞地点。
ここから始まるカテゴリのついてない急勾配の登りで抜け出した8名の精鋭集団が、逃げ集団の中で粘り続けていたエンリク・マス(モビスター)を残り2.5㎞で吸収した。
8名の内訳は以下の通り。
フルサン、ランダ、ビルバオ、ヘイグ、ヨン、トゥーンス、ソレル、マクナルティ。
残り2㎞を切って街中の石畳の登りに。
ここでディラン・トゥーンスとジャック・ヘイグが先行し、そのままゴールに突入するかと思われていたが、ラストのカーブでトゥーンスがコースミス。
直後についていたヘイグも巻き込まれ、彼らから少し遅れていたフルサンたちが代わって先頭へ。
最後は追い縋るビルバオに前を譲らず、フルサンが今大会2勝目を飾った。
第4ステージ ビジャヌエバ・メシア〜グラナダ 125㎞(山岳)
距離は短いが、ゴール前17.7㎞に1級山岳の山頂を用意する、決して簡単ではないステージ。しかもこの1級山岳の登りは登坂距離9㎞、平均勾配7.5%と、第1ステージのゴール前にある登りよりも厳しい。
ある意味で前日よりも、総合に影響を与えるステージとなるかもしれない。
実際、1級山岳の登りに突入すると同時に、数多くの選手たちが千切れていく。
プロトンの先頭を牽くのはマーク・パドゥンとダミアーノ・カルーゾ。
パドゥンが完全に足が止まるほどに力を出し切って脱落すると、残り24.3㎞、ヤコブ・フルサンがアタックを繰り出した。
このフルサンに食らいついていったのはランダ、ヘイグ、マクナルティ、ヨン・イサギレ、そしてかろうじてマルク・ソレル。
ただ彼らもまた、1級山岳山頂が近づくにつれ、まずはソレルが千切れ、ヨンが千切れ、そして一度は果敢にアタックをしたマクナルティもやがて千切れ、山頂を先頭で通過したのはランダ、ヘイグ、フルサンの今大会最強の3人だけであった。
この3名が最後まで後ろに追いつかれることなく、スプリント勝負に。
残り300mでランダが腰を上げてスプリントを開始。これを背後につけていたフルサンが余裕で追い抜く――かと思えば、その横に並んだジャック・ヘイグが、残り150mでさらなる加速。
最後は、前日にあまりにも悔しい形で勝機を逃していた男、ジャック・ヘイグが、歓喜と共に両手を挙げた。
元々、2018年のサイモン・イェーツの躍進を支えていた名アシストとして名前を売り出していた男。
オーストラリアの育成プログラム出身で、ダミアン・ホーゾンやルーカス・ハミルトンと並ぶ存在。昨年は、ブルターニュ・クラシック3位やイル・ロンバルディア6位など、少しずつ彼がエースとして力を発揮する場面が増えていった。
そして今年、ルーカス・ハミルトンと共にブエルタ・ア・エスパーニャのエースを担う予定だという。その資格があることを高らかに宣言するかのように、先日のボルタ・ア・ラ・コムニタ・バレンシアナでも総合2位。
今回もまた、フルサン、ランダに次ぐ3番目の男であることは明らかで、ランダとのタイム差を21秒にまで縮めた。
TT能力も決して弱くはないヘイグ。フルサンの総合優勝はかなり固くはなったものの、まだまだ総合表彰台の顔ぶれはシャッフルする可能性が高そうだ。
第5ステージ ミハス〜ミハス 13㎞(個人TT)
登り勾配で迎える中間スプリントポイントに、曲がりくねったテクニカルな下り。
一筋縄ではいかない短距離タイムトライアルで、長くホットシートに座り続けたのがミッチェルトン・スコットのアレクサンダー・エドモンソンだった。
2015年にU23版ロンド・ファン・フラーンデレンを制覇し、2018年にオーストラリア国内選手権ロードレースで優勝した生粋のルーラー。
その意味でたしかにTT能力は決して低くはないものの、それでも優勝候補のブランドン・マクナルティやペリョ・ビルバオを超える走りを見せるとは思わなかったし、特に登りが重要な意味を持った今回のTTで結果を出せるほど、登り適性があるとも思っていなかった。
もしかしたらこのままエドモンソンが・・・と思っていた中、この記録を塗り替えたのが、最後から4番目の出走となったディラン・トゥーンス。
昨年のブエルタ・ア・エスパーニャの個人TTも9位と意外なTT能力の高さを見せるこの男だが、急勾配の登りも含んだ短めの今回のレイアウトは、彼にとってもぴったりのコースだったようだ。
元々TT巧者で知られるフルサンも最終走者として出発するが、最後、トゥーンスには1秒未満のタイム差でギリギリ届かなかった。
チームのエース、ミケル・ランダが大失速し、総合順位を1つ落としてしまうという大失態を犯す中、なんとかチームの面目を保つ1勝をもぎ取ってきてくれた。
総合結果
圧倒的な力量を見せ、ヤコブ・フルサンが総合2連覇。登りでもTTでも安定して強く、シーズン初戦とは思えない。
昨年世界ランキング3位の男は、今年も引き続き絶好調であり続けるか。
とくに、4年前は悔しくも2位に終わったオリンピックに期待したい。
バレンシアナに続く総合2位を記録したヘイグには期待しかない。
第1ステージこそフルサンとランダに置いていかれてしまったものの、その後のステージでは常にこの2人に食らいつく走りを見せ、最後はTT能力でランダを追い抜いた。
はっきりと強かった5日間だ。
そして新アシストのツェイツもその前評判通りの働きをしてくれた。
今年「弱体化」の雰囲気を感じていたミッチェルトンだが、ヘラルドサン・ツアーのダイネーゼの活躍と合わせ、なんだかんだで期待ができるかも。
マクナルティも安定した強さを誇っており、ポガチャルと並ぶチームの総合エース候補として十分に頼りになるだろう。
昨年まではTT能力や独走力は優れているが登りではまだ突き抜けたものはない、という印象だったが、今回の走りはその不安を打ち消しうるものであった。
そして、誰よりも驚きの走りを見せたのが、ロット・スーダルのハーム・ファンフック。
ロット・スーダルは過去にブエルタ・ア・エスパーニャで区間優勝しているマルチンスキーやアルメなどは登れる選手として認識していたが、この23歳のベルギー人は完全にノーマークだった。
2018年からロット・スーダル入りしているが、それまでに目立った経歴はなし。2017年のベイビー・ジロで、山岳ステージ逃げ切り勝利しているくらいか・・・
今年のロットはダウンアンダーのホームスといい、こういった意外な若手・ネオプロたちが活躍してくれるかもしれない。
個人的には今週末から始まる北のクラシックシーズンで、ファンフック同様に2〜3年目の若手たちが、ジルベールの指導のもと驚きの結果を出してくれることを楽しみにしている。スタン・デウルフやヘルベン・ティッセンなど。
今後もそういった意外な若手選手たちの活躍を楽しみに見守っていよう。
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