前回に引き続き、獲得UCIポイントという指標で今年のジロ・デ・イタリア出場全22チームをランキングしていく。
今回は11位〜1位の上位11チーム。
基本的には総合順位が大きく影響しているのは間違いないが、それとは関係なく上位に来ているチームにも注目。
また、逃げに乗った選手一覧と合わせ、各チームが今回のジロをどういう戦略で挑んでいったのか、分析していただけると幸い。
それでは行ってみよう。
- 第11位(昨年6位) トレック・セガフレード 348pt.
- 第10位(昨年12位) EFプロサイクリング 372pt.
- 第9位(昨年20位) NTTプロサイクリング 400pt.
- 第8位(昨年8位) UAEチーム・エミレーツ 408pt.
- 第7位(第5位) アスタナ・プロチーム 416pt.
- 第6位(昨年11位) グルパマFDJ 520pt.
- 第5位(昨年2位) ボーラ・ハンスグローエ 716pt.
- 第4位(昨年4位) バーレーン・マクラーレン 764pt.
- 第3位(昨年15位) ドゥクーニンク・クイックステップ 1304pt.
- 第2位(昨年17位) チーム・サンウェブ 1699pt.
- 第1位(昨年13位) イネオス・グレナディアース 1990pt.
↓22位~12位はこちらから↓
↓全21ステージの詳細な振り返りはこちらから↓
【全ステージレビュー】ジロ・デ・イタリア2020 第1週 - りんぐすらいど
【全ステージレビュー】ジロ・デ・イタリア2020 第2週 - りんぐすらいど
【全ステージレビュー】ジロ・デ・イタリア2020 第3週 - りんぐすらいど
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獲得UCIポイントで見る ジロ・デ・イタリア2019 全チームランキング(22位~12位) - りんぐすらいど
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獲得UCIポイントで見る ツール・ド・フランス2020 全チームランキング&レビュー(22位~12位) - りんぐすらいど
獲得UCIポイントで見る ツール・ド・フランス2020 全チームランキング&レビュー(11位~1位) - りんぐすらいど
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第11位(昨年6位) トレック・セガフレード 348pt.
逃げ一覧
- ジュリアン・ベルナール(第16,20ステージ)
- ジャコポ・モスカ(第19ステージ)
- ニコラ・コンチ(第20ステージ)
正直、順位以上に目立てなかったチームだと思っている。ニバリが総合7位にも関わらずランキングが11位であることがそれを何よりも物語っている。
今年のクラシックレースで積極的な走りを見せていたモスカや今年プロ初勝利を遂げているベルナールは良い動きをしていたが、過去マリア・ローザ経験もあるジャンルカ・ブランビッラや、昨年旋風を巻き起こしたジュリオ・チッコーネなど、確実に成績を残せる選手たちが軒並み途中でレースを去ってしまったのが痛い。
メンバーはすごく良いのに、結果が伴わない。めちゃくちゃ悪いわけではないけど、中途半端。
今年のこのトレックの「イタリア班」は、イル・ロンバルディアからこっち、ずっとそんな状態であり続けているような気がする。
ツールが良かっただけになおさら・・・。
なお、個人的にはアントニオ・ニバリが着実に強くなってきていることに期待感を覚える。
3年前のバーレーン時代から山岳で逃げたり秋のクラシックで勝利を支える重要な役割を果たしていて[リンク]、昨年はジロ・デ・イタリアでニバリの総合2位を支える欠かせない存在だった。
今年28歳で決して若くはないけど、単なる「弟」で終わらせない存在感をさらに出していってほしい。
第10位(昨年12位) EFプロサイクリング 372pt.
逃げ一覧
- ルーベン・ゲレイロ(第9,16,17,18ステージ)
- サイモン・クラーク(第10,12,19ステージ)
- ジェームス・フェラン(第6,16ステージ)
- ローソン・クラドック(第3ステージ)
- ヨナタン・カイセド(第3ステージ)
- ラクラン・モートン(第19ステージ)
- タネル・カンゲルト(第20ステージ)
開幕前のチームプレゼンテーションでお披露目された特別ジャージが世界中の話題を掻っ攫った。
そのときは正直言って、ツールと比べるとどうしても薄いメンバーなだけに、レース以外でしっかりと話題を呼ぶという作戦に出たのか、そしてそれは大成功だったな、なんて思っていたが、とんでもなかった。
ジャージの力かどうかは分からないが、蓋を開けてみればステージ2勝と山岳賞。
しっかりと結果を持ち帰る素晴らしい働きをしてみせた。
ゲレイロは個人的にとても好きな選手だった。
アクセオン時代からその強さは存分に発揮されており、ワールドツアーチームへの昇格と聞いてどんな活躍をしてくれるのか、楽しみでならなかったが、イマイチ結果が出ず。
チームを転々とする中で、ようやく掴んだ、国内選手権以外での勝利だった。
昨年のブエルタ・ア・エスパーニャでも終盤戦で積極的な攻勢。
実らなかったが、その走りは今回も繰り返され、そして今度は結実した。
ツールのケムナや、同じこのジロのオコーナーといい、今年はなんだかそういう、粘り強いチャレンジャーたちが報われている瞬間が多くてとても嬉しい。
そしてもう1人の勝者カイセド。
カラパス、ナルバエスに続き、世界の頂点で栄光を掴んだ3人目のエクアドル人に。
この短期間で続け様にこの「快挙」を成し遂げる選手たちが出てきているのはもはや偶然ではない。
今後もエクアドル人たちに益々注目が集まっていきそうだ。
第9位(昨年20位) NTTプロサイクリング 400pt.
逃げ一覧
- ベン・オコーナー(第9,16,17,18ステージ)
- ヴィクトール・カンペナールツ(第3,12,19ステージ)
- ルイス・メインチェス(第17,18ステージ)
- アマヌエル・ゲブレイグザブハイアー(第17,20ステージ)
- マッテオ・ソブレロ(第20ステージ)
2年前のジロ・デ・イタリアで総合12位のまま途中リタイアしてしまったベン・オコーナー。
以降も期待し続け、今年はエトワール・ド・ベセージュの山頂フィニッシュでも勝利し、今年こそは、という思いを持っていた中で、まさか本当に成し遂げるとは。
総合上位入賞ではなくステージ優勝という形ではあるものの、連日諦めず逃げ続けた、その執念が身を結んだ。
昨年のブエルタで同じようにもがき続けながらも勝ちを掴めなかったルーベン・ゲレイロとテイオ・ゲイガンハートも今回のジロで勝利を掴んでるし、ツールでもレナード・ケムナが似たような勝ち方をしてみせていて、EFプロサイクリングの項目でも書いたが、本当に今回のジロは若手の執念が結実する機会が多く見ていて本当に嬉しかった。
この勝利の直後、オコーナーの来期AG2R入りが決まる。グランツール総合成績を狙う方針は諦めたように見えるAG2Rの移籍方針からすると、オコーナーの役割もどちらかというと今回のような山岳逃げからのステージ勝利のような気はする。
ピータースの例を見てもわかるようにそういうのが昔から得意なこのAG2R。
オコーナーの次の目標はツールでの勝利だ。それが十分に可能な男だと信じている。
同じように執念の男カンペナールツ。
昨年はアワーレコードも更新するなど活躍しつつも、ジロ・デ・イタリアでは不運も重なり勝利には届かず。
今回もとくに最終ステージでは驚異の走りを見せたものの、最後は結局、ガンナには届かなかった。
あまりの彼の強さにお手上げといった表情すら見せるカンペナールツ。
しかし、TTだけではなく、その独走力の高さを活かし積極的な投げ攻勢に出る。
第19ステージでは同じTTスペシャリストであるチェルニーを逃がしてしまうものの、それでも2位は十分健闘したと言える。
今後も、もしかしたらTTで世界王者になるとかグランツールで勝つというところには届かない可能性はあるかもしれない。
それでも、その積極的な逃げで勝利を掴むところまではいけるはずだ。
あとは、しっかりと契約を勝ち取るかチームが生き残ることができれば・・・。
第8位(昨年8位) UAEチーム・エミレーツ 408pt.
逃げ一覧
- ミッケル・ビョーグ(第3,9ステージ)
- ヴァレリオ・コンティ(第5,16ステージ)
- マキシミリアーノ・リケーゼ(第12ステージ)
- ディエゴ・ウリッシ(第17ステージ)
- ジョセフロイド・ドンブロウスキー(第18ステージ)
- ブランドン・マクナルティ(第20ステージ)
ウリッシは本当にキング・オブ・ジロである。最初のジロ勝利が2011年。そこから10年。8つの勝利を積み上げた。
これだけ長い期間コンスタントに実績を出せている選手もそう多くないよな・・と思いながら見てみるとまだ31歳だから驚く。
まだまだこれからも勝ち星を重ねていけそう。個人的にはかつてツール・ド・フランスでの勝利も期待していて、実際に3年前は珍しくツールに出場して山岳ステージで果敢に逃げに乗っていた。
その後は結局、やはりジロがいいとなったのかツールには出ず。
ただし来年のツールは初日からパンチャー向けでマイヨ・ジョーヌのチャンスもあるので、密かに期待している。
それから、今大会、最強のスプリンターは間違いなくアルノー・デマールで、最強のスプリンターチームもグルパマFDJである、と言ってもよいかもしれないが、では「最強のリードアウターは?」と問われたら、個人的にはこのチームのフアン・モラノとマキシミリアーノ・リケーゼを推したい。
たとえば第7ステージでは残り500mで先頭を支配していたグルパマFDJトレインの前に、モラノがリケーゼを引き連れて一気に上がってくる。
時速60㎞を超える超高速の場面でこれだけの速度差を出して上がってきて、そのままグアルニエーリの背中という絶好のポジションをデマールから奪い取ったのである。
さらに第11ステージでは、グルパマFDJが他チームを寄せ付けない勢いで残り2.2㎞から支配していた集団先頭を、やはりモラノとリケーゼのコンビが残り1.4㎞で奪い取る。
この2人は間違いなく強かった。しかし、残念ながらガビリアがまだまだ最高のコンディションではなかった。モラノとリケーゼが最高のポジションを奪い取ったとき、残念ながらガビリアは常に数枚後ろに取り残されていた。
もちろんそういった選手をきっちりと引き上げていくこともチームのなすべきことなんだろうが、それでもガビリアにはもう少し頑張って欲しかったところ・・・。
あとは、ビョーグとマクナルティという2人の若手にももちろん注目。
マクナルティは終盤失速したが、TTも登りもいける次世代オールラウンダーとして期待通りの走りをしてみせてくれた。今後の躍進が楽しみだ。
そして世界選手権U23部門で敵なしの3連覇を果たして期待されまくっていたビョーグは、エリート初年度となる今年の世界選手権タイムトライアルでは17位。
今回のジロも、初日こそ3位と健闘するが、第14・21ステージではそれぞれ14位、27位で終わり、正直期待外れの結果となってしまい、やはりエリートの壁は厚いのか・・・という感想を抱きつつも、一方で山岳ステージとなった第8ステージでは9位、第9ステージでは3位と、山岳ステージでのアグレッシブな逃げで存在感を示してくれた。
2週目以降は若さゆえにグランツールの洗礼を浴びたという見方もでき、TTだけでない可能性という意味では今回のビョーグの走りは十分に注目に値する。
ベテランから若手まで。今年のツールの成功は言うまでもなく、このチームは本当に、とても面白いチームになってくれている。
第7位(第5位) アスタナ・プロチーム 416pt.
逃げ一覧
- マヌエーレ・ボアーロ(第12,15,16ステージ)
- ファビオ・フェリーネ(第16,18ステージ)
- ロドリゴ・コントレラス(第13ステージ)
- オスカル・ロドリゲス(第17ステージ)
決して満足できる成績ではないだろう。本来であれば、ツール総合6位のミゲルアンヘル・ロペスと、イル・ロンバルディア3位のアレクサンドル・ウラソフという、最強過ぎるアシストに支えられての総合優勝候補筆頭だった。
そこまで豪華なアシストが仮にいなかったとしても、それでも山岳アシストが最初の2日でいなくなるというのはあまりにも辛い。その後のアシストは主にフェリーネがやってくれていたけれど、彼は確かに登れるけれど純粋なクライマーでは決してない。
結局終盤では常に1人で走るフルサンの姿が映し出され、本当に見ていて可哀想だった。彼にとって、本来の実力が発揮できない辛いジロだったに違いない。
ただ欲を言えば、2年前のブエルタでもステージ優勝している若手オスカル・ロドリゲスがもう少し存在感を示しても良かった気がする。アルメイダや、同じアスタナでもウラソフだけでなくハロルド・テハダという若手が活躍している中で、今年のロドリゲスは少し期待外れというか、もったいない気がする。
とりもなおさずフルサン、まだまだアスタナのエースの座は揺るがなさそうなので、これに懲りずさらなる活躍を期待している。
第6位(昨年11位) グルパマFDJ 520pt.
逃げ一覧
- キリアン・フランキニー(第9,17ステージ)
- アルノー・デマール(第20ステージ)
- シモン・グリエルミ(第20ステージ)
文句なしの今年最強のスプリンターズチーム。2017年頃の「チーム・デマール」が大好きだったので、その頃の強さを取り戻している気がして、正直感動し続けていた。完全に贔屓目で見ているけれど。
リードアウターという点でグアルニエーリが最強とは言えないあたりは先のUAEの項目でも触れた通り。モルコフやモラノ&リケーゼには少し敵わない。
だが、コノヴァロヴァス、シンケルダム、スコットソン、そしてグアルニエーリと繋ぐFDJトレインの強さは唯一無二。他チームを寄せ付けない圧倒ぶりを今大会見せつけていた。
さらに登りで苦しんだステージではフランキニーやコノヴァロヴァスがしっかりと登りでデマールを支えていたのが印象的だった。
まさに「チーム・デマール」。チーム全員が一丸となってエースのデマールを支え、そのデマールがしっかりと完璧にこれに応えて結果を持ってくる。
どこよりも結束力のある、最強のチームだった。
逃げの少なさもそれを示しているだろう。
あとは最終発射台に2017年は「最強」チモライがいたので完璧だった。チモライ、帰ってこないかい?
なおスコットソンは第4ステージで不意打ち気味の抜け出しを図ったり、最終日TTで5位に入ったりと、単純なトレインの一員だけではない強さも見せてくれていたのが印象的。
来年はツール・ド・フランスでこの強さを見せてくれるか?
ただ、さすがにツールではここまでチーム・デマールにはできないと思うので、果たしてどうなるか。
いや、ある意味、来年のツールはそれでいくのもありかもしれない。
それはそれで、すごく見てみたいぞ。
第5位(昨年2位) ボーラ・ハンスグローエ 716pt.
逃げ一覧
- ペテル・サガン(第10ステージ)
- チェザーレ・ベネデッティ(第12ステージ)
- パウェル・ポリャンスキ(第16ステージ)
- マッテオ・ファッブロ(第16ステージ)
ツールに続き、初出場となったこのジロでもポイント賞2位。全力で挑み、真正面からぶつかり合った上で、いずれもそれを惜しくも逃した。
チームも幾度となく彼のために走ったが、それでも届かなかった。
もしかしたら今年ツールとジロとの間がこんなにも短くなかったら行けたのかもしれない。
本来のカレンダー通りならば、十分だったのかもしれない。
とはいえ、そんなたらればを言っても仕方ないだろう。
時代は変わった。そのことを印象付ける出来事だった。
だが、だからこそ第10ステージでの勝利は感動的だった。
グランツールでの彼らしい戦い方ではなく、クラシックの、それも彼の絶頂期の栄光の1つであるロンド・ファン・フラーンデレンの勝ち方にそっくりな形で。
たしかに勝ち方は変わったかもしれない。
それでも、サガンはサガンであり、その勝ち方は我々を感動させるのだということを証明してみせた、そんな勝利だった。
そして、もう1人このチームで注目したいのが、25歳のイタリア人、ファッブロ。
2018年にカチューシャ・アルペシンでプロデビューを果たした彼は、昨年のチーム解散後、今年から現チームへ。
それまでは正直目立つことのなかった彼だったが、今年はティレーノ〜アドリアティコでもジロ・デ・イタリアでも、もしかしたらチーム内で最も活躍した山岳アシストだったと言えるかもしれない。
登りでマイカをアシストしたり、サガンのためにスプリンターたちを振るい落とすためのペースアップを仕掛けるときに、常に動いていたのはこの男だった。
ティレーノ〜アドリアティコでは20㎞の単独逃げを敢行したものの、最後の最後でマチュー・ファンデルポールに追いつかれ勝利を奪われるという悔しい経験も。
来年はきっと大きな勝利と、さらなる山岳アシストとしての活躍が期待できるだろう。
第4位(昨年4位) バーレーン・マクラーレン 764pt.
逃げ一覧
- ヤン・トラトニク(第5,16,20ステージ)
- マーク・パデュン(第12,15ステージ)
- エンリーコ・バッタリーン(第16ステージ)
- ハーマン・ペーンシュタイナー(第17ステージ)
今回、ビルバオはかなり不思議な走り方をしていたように思う。
少なくとも彼は「最強」ではなかった。
第3ステージのエトナでは、フルサン、ニバリ、マイカ、ポッツォヴィーヴォのメイン集団から12秒遅れ。
第9ステージのロッカラーゾでもケルデルマン、フルサン、ヒンドレーのグループから14秒遅れ。マイカ、コンラッドのグループからも11秒遅れだ。
第15ステージのピアンカヴァッロではフルサンやニバリたちとは同じグループでフィニッシュしたものの、やはりマイカからは14秒遅れ。
個人TTは得意な方だが、それでも3つあるタイムトライアルでの順位はそれぞれ25位、22位、24位と、大きなアドバンテージを得られるほどのものではない。
それなのに最終総合成績は5位。
それだけ、彼は常に安定した、「崩さない」走りをしてきた。
そして、第3週に向けて少しずつコンディションが上がってきていたのも確かで、今大会のクイーンステージとなった第18ステージのステルヴィオでは、ヒンドレーとゲイガンハートに続く区間3位。一度はアルメイダを抜いて総合4位に浮上した(最後のTTでアルメイダに再逆転されてしまうけれど)。
結局、今回のジロの注目の中心ではなく、決して目立つことのなかった選手だったけれど、レース中に感じた印象よりもずっと「強かった」選手だ。
バーレーン・マクラーレン(来年はバーレーン・ヴィクトリアス?)はランダもいてプールスもいて、と非常にタレントの多い場所ではあるが、ビルバオもまた、彼らの後塵を拝するような選手ではないということをしっかりと証明してくれたように思う。
あとはトラトニクの見事な勝利。
最後の登りでクライマーのオコーナーを引き千切って勝ったときは驚嘆した。
あれは、追いつかれること覚悟でしっかりとマイペースに走り、足を貯めていたからなのだろうか。
だとしたら非常にクレバーな勝ち方だし、そういうのがなくて普通に登りも物凄く強くなっているというのであればそれはそれで今後がまた楽しみな選手である。
第3位(昨年15位) ドゥクーニンク・クイックステップ 1304pt.
逃げ一覧
- イーリョ・ケイセ(第19ステージ)
- ダヴィデ・バッレリーニ(第20ステージ)
- ピーター・セリー(第20ステージ)
- ミケルフレーリヒ・ホノレ(第20ステージ)
本来出場予定でいきなりの総合優勝候補と目されていたレムコ・エヴェネプールがまさかの負傷戦線離脱。
昨年のブエルタでマドリード含む区間2勝を成し遂げたファビオ・ヤコブセンも本来出場予定だったが、こちらもツール・ド・ポローニュでの大事故の影響で出られず。
完全に「今回のジロはドゥクーニンクきついかな」と思っていた中での、まさかのアルメイダ劇場であった。
いや、すでにブエルタ・ア・ブルゴスでもエヴェネプールに匹敵する実力の高さを見せてはいたけれど、まさかここまでとは・・・今年のロードレース界を席巻した「ミラクル」の1つである。
そしてそんなアルメイダを支えたのが、ワールドツアー1年目のマスナダと、英各人若手のノックス。どちらも山岳の終盤までアルメイダを支え、存在感を示した。
彼らの存在がエヴェネプール、そしてジュリアン・アラフィリップによるそう遠くない未来のグランツール制覇を導いてくれることだろう。
また個人的に興味深かったのが、ミケルフローリヒ・ホノレの成長。
昨年このチームでプロデビューを果たした今年23歳のデンマーク人。
昨年はそう目立つ場面はなかったものの、今回のジロは第2ステージの登りフィニッシュで、ウリッシとサガンに続く区間3位。
その後もやはりウリッシの勝った第13ステージで区間5位や、登りスプリントとなった第6ステージではバッレリーニが11位に沈んだ一方でホノレが7位に。
チームにとってはクライマー、スプリンターに続く第3の稼ぎ頭になりうるピュアパンチャーとして、信頼に足る存在となってくれたように思う。
将来的にはアムステルゴールドレースやグランプリ・シクリスト・ド・ケベック&モンレアルなどでの勝利も期待できるかもしれない存在で、今後のさらなる躍進が楽しみだ。
そして、まさしくザ・ウルフパック。
8名全員が何かしらのUCIポイントを稼ぎ出す。
誰もがエース。そんな、彼らクイックステップのポリシーを感じさせる結果であった。
第2位(昨年17位) チーム・サンウェブ 1699pt.
ツール・ド・フランスで衝撃を与えた「最強チーム」サンウェブが、このジロでも魅せてくれた。
ウィルコ・ケルデルマンの躍進と、24歳のジェイ・ヒンドレーのまさかの覚醒。
ヒンドレーはグランツールの総合表彰台はおろか、ワールドツアーの総合TOP10入りも、(どちらかというとパンチャー向けの)昨年ツール・ド・ポローニュ総合2位以外は経験のない男であった。
数多くの総合優勝候補がレースを去り、残ったものも不調に見舞われた異例尽くめのジロだったとはいえ、この結果を想像できたものはまずいないだろう。
そしてヒンドレーだけでなく、クリス・ハミルトンが、サム・オーメンが、チーム全体が一丸となって前半の山岳のケルデルマンを支えた。
やはり「チームとして強い」を体現したのが今年のサンウェブ。
ただしこれまでと違って今回のジロはガチモードできていて、一切の逃げを出さず集団をコントロールし続けるという手法を取った。
もしかしたらその結果、終盤に前半のようなチーム体制でエースを守ることができなかったのかもしれない。
かもしれないが、チームとしてしっかりと存在感を出し続けたことは間違いない。
今後もより有力なな若手選手たちが次々と輩出されてくるのを楽しみにしたい。
一方で、今年好調だったマイケル・マシューズが早々にレースを去らなければならなかったことがとても残念。
来季は出戻りとなるオージーチームに。
再び彼が輝く日を待ち侘びている。
第1位(昨年13位) イネオス・グレナディアース 1990pt.
逃げ一覧
- サルヴァトーレ・プッチョ(第5,8,16ステージ)
- フィリッポ・ガンナ(第5,10,18ステージ)
- ベン・スウィフト(第10,16,18ステージ)
- ローハン・デニス(第15,17ステージ)
- ジョナタン・カストロビエホ(第9ステージ)
- ジョナタン・ナルバエス(第12ステージ)
最初は当然、ゲラント・トーマスによる総合優勝争いを目指していた。
それがエトナの日に不可能だとわかると、今度はツールのときのように、各「最強アシスト」たちが自らの勝利を目指して活性化していった。
その結果が、ステージ7勝という、全21ステージの3分の1を支配する勝ち星の挙げ方。
ゲイガンハートとガンナのTT勝利を除いても、ガンナとナルバエスの逃げ切り勝利。
それ以外にもカストロビエホ、スウィフト、プッチョと常に積極的に逃げ続け、それはまさに「エースによる総合争いが不可能になったチーム」の動きそのものだった。
だがそれでも、その中でもまだ総合順位が上の方だった(とは言ってもエトナ終了時点では総合24位だった)ゲイガンハートが、第9ステージのロッカラーゾ山頂フィニッシュなどで積極的にアタック。警戒が薄いうちに少しずつタイムを挽回していった。
第2週最終日のピアンカヴァッロで勝ったときには、3分44秒遅れの総合11位から総合4位への大浮上。
正直その瞬間までは、この結末は予期されていなかったように思う。
自身は、イネオスのイギリス人エース候補として、必然的に「フルーム、トーマスの次」というプレッシャーを受けざるをえない立場だったように思う。
2019年はツアー・オブ・ジ・アルプス総合2位やツール・ド・ポローニュ総合5位など実績を重ねつつも、クフィアトコフスキと並ぶエース待遇で望んだブエルタ・ア・エスパーニャで望まれたような成績を残せなかった。
彼はもしかしたら、「フルーム、トーマスの次」を担うのは難しいのではないか。
アダム・イェーツの獲得は、チームのその思いの一つの表れなのではないか。
そんな風に思ってしまった瞬間もあった。
だが、そこからのこの驚きの成果。
これでまた、彼を巡る状況も一変することだろう。
だが今後は彼にとってより大きな自信をもって挑めるようになるはずだ。
テイオ・ゲイガンハート。
2020年代を代表する男に、彼もなれるはず。
これからもずっと注目していこう。
そして、ガンナという才能。
ローハン・デニスという、総合エースも担いうる男による最強の山岳アシスト。
ナルバエスという、カラパスに次ぐエクアドルの才能。
語るべきところの多いジロだったが、その中でもやはりこの(サンウェブやクイックステップとはまた違った意味での)「最強チーム」の存在はあまりにも大きかった。
今年はこのチームにとって良いことばかりではなかっただろうが、来年もまた、魅せてくれることを期待している。
ところで、ベン・スウィフトって「スプリンター」だと思っていたんだけど・・・
総合18位って、何?
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