読み:ロット・スーダル
国籍:ベルギー
略号:LTS
創設年:1985年
GM:ジョン・ルランゲ(ベルギー)
使用機材:リドレー(ベルギー)
2020年UCIチームランキング:17位
(以下記事における年齢はすべて2021年12月31日時点のものとなります)
【参考:過去のシーズンチームガイド】
Lotto Soudal 2018年シーズンチームガイド - りんぐすらいど
Lotto Soudal 2019年シーズンチームガイド - りんぐすらいど
Lotto Soudal 2020年シーズンチームガイド - りんぐすらいど
目次
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2021年ロースター
※2020年獲得UCIポイント順
結構なベテラン選手たちを放出し、新たに獲得した9名のうち5名が育成チームからの昇格。それ以外も別のチームの育成チームからの昇格だったり、実質的なデンマーク人若手の育成チームの役割も果たしているリワルからの昇格だったりと、とにかく若手を中心に獲得している印象。
しかも、獲得しているネオプロたちの半分近くが、クライマー系の選手たちというのも、これまでのこのチームの特徴を考えると意外。
スプリントでは相変わらずユアンが絶好調で、ブエルタではタイッセンという若手が可能性を感じさせる走りをしており、北のクラシックでもデゲンコルプが好調でジルベールも昨年は振るわなかったが今年はもちろん期待できる、そんな中で、カールフレドリク・ハーゲンも他所に行ってしまったことだし、長期的に総合系ライダーを育成していこうーーそんな狙いがあるのかもしれない。
平均年齢26.7歳は他チームと比べてもかなりの低年齢。この「改革」が、果たして吉と出るか凶と出るか。
少なくともネオプロたちが活躍するのは来年か再来年を待たなくてはいけないだろうし、まずは今年、現有戦力でどこまで結果を出せるか、だ。
ということで以下では現有戦力中心に紹介していく。
注目選手
カレブ・ユアン(オーストラリア、27歳)
脚質:スプリンター
2020年の主な戦績
- ツール・ド・フランス区間2勝
- サントス・ツアー・ダウンアンダー区間2勝
- UAEツアー区間1勝
- シュヘルデプライス優勝
- ミラノ~トリノ2位
- カデルエヴァンス・グレートオーシャンロードレース7位
- 年間7勝
- UCI世界ランキング35位
実績でいえば、ジロ・デ・イタリア4勝シーズン14勝のアルノー・デマールや、ツール・ド・フランスでシャンゼリゼとマイヨ・ヴェールを獲得したサム・ベネットには残念ながら、敵わないだろう。
しかし、少なくとも単騎でのスプリンターとしての実力で言えば、2020年もユアンは最強だったと感じている。
その最たるものが、ツール・ド・フランス第3ステージ。混沌とした第1ステージを経て、ようやくまともな大集団スプリントで争われる最初のステージとなった。
残り2㎞を切って、集団の先頭を支配したのはロット・スーダルだった。
しかし残り1.4㎞の時点でアシストがたったの1枚になるなど、決して理想的な展開とは言えなかった。
「ラスト1㎞の時点でちょっと前にいすぎていたので、少し後方に下がって集団の中に入ることにした。リスクはあったけど、それで足を休めることもできた」
その言葉通り、フラム・ルージュをくぐると同時にユアンはするすると集団の中に紛れ込む。
残り600mで最後のアシストが後ろを振り返りユアンの姿がないことに焦る姿も見せたが、ユアンはしっかりとサム・ベネットの背中を取り、チャンスを伺っていた。
実際、強い向かい風が吹き荒ぶ今日のステージは、ユアンのこの選択が功を奏する形となった。
残り300mで飛び出したペテル・サガンも、残り200mでスプリントを開始したサム・ベネットも、本来であれば絶妙なタイミングだと言えたかもしれない。
しかし向かい風が、彼らの加速を押し留める。
そして、集団の中にいたユアンが、恐ろしいコース取りでサガンの右、フェンスとの間のわずかな隙間を抜けて、サム・ベネットの巨体を一瞬風除けに使用して、そしてもう一段階の加速を見せて、ギリギリでベネットを差し切った。
驚異的な加速は向かい風に当たっていたかそうでないかの差ということでまだ納得できるが、いずれにせよあのコース取りは神がかっていた。
2019年のツール・ド・フランスでも同じように野生の嗅覚ともいうべき判断とコース取りで勝利を掴んでいる。
2020年冒頭のツアー・ダウンアンダーでも、純粋なスプリントのためのリードアウトトレインを作ろうとして位置取りに失敗し敗北した第1ステージを反省し、即座に作戦会議に入り、結果として「サム・ベネットの番手につけるべくそこまでのリードアウトに全力を尽くす」という戦略に切り替えて成功していたりもする。
ドゥクーニンクのミケル・モルコフのような最強リードアウターも、グルパマFDJのような完璧なトレインも、このチームは提供できないかもしれない。
しかしラスト1㎞までロジャー・クルーゲやジャスパー・デブイストたちがユアンを先頭集団のベストなポジションまで運び上げてくれれば、あとはこの天才スプリンターが「なんとかしてくれる」。
ユアンとロット・スーダルのこの新戦略は、今年も多くの勝利をチームにもたらしてくれそうだ。
ジョン・デゲンコルプ(ドイツ、32歳)
脚質:スプリンター
2020年の主な戦績
- ドリダーフス・ブルッヘ〜デパンヌ4位
- ヘント〜ウェヴェルヘム6位
- ロンド・ファン・フラーンデレン9位
- ツール・ド・ルクセンブルク区間1勝
- ビンクバンクツアー総合10位
- UCI世界ランキング67位
現チームDSMのアルゴス・シマノ~ジャイアント・アルペシン時代に所属しており、当時はブエルタ・ア・エスパーニャ同年区間5勝(2012)や同年区間4勝(2014)、ミラノ~サンレモとパリ~ルーベの同年制覇(2015)など、世界トップクラスのスプリンター・クラシックハンターとして名を馳せていた。
しかし2016年の年初、スペインでのトレーニング中に車に轢かれ、左手の人差し指は切断寸前になるなどの重傷を負った。
その後、トレックに移籍し、ツール・ド・フランスのパリ~ルーベ風ステージで優勝するなど活躍を続けるが、怪我の影響が残り続けているのか、かつてのようなトップスプリンター同士の戦いに割って入ることはなかなか難しく、ここ2年は1勝ずつ、それも非ワールドツアーでの、という結果となっている。
ただ、2020年シーズンは勝利こそツール・ド・ルクセンブルクでの1勝のみだが、上記記載のとおり各種北のクラシックでは強さを見せつける走りを披露しており、彼の実力が決して衰えきってはいないことを示した。
2020年はフィリップ・ジルベールがイマイチではあったものの、今年彼が復調することができれば、この2人によるコンビネーションで北のクラシックを席巻することすら可能と言えるかもしれない。
また、スプリントでも、トレック時代から「運び屋」としての強さを発揮。経験からくる嗅覚で、とくにユアンが苦手とするラスト1㎞からの位置取りにおいて活躍することで、ユアンがその実力を存分に発揮して勝利を掴み取る最高のアシストを演じてくれることだろう。
今や彼はチームの主役ではないかもしれない。それでも、チームを勝たせ、そして若手を育成していく、重要な存在であることは間違いがなさそうだ。
ティム・ウェレンス(ベルギー、30歳)
脚質:パンチャー
2020年の主な戦績
- ブエルタ・ア・エスパーニャ区間2勝
- ツール・ド・ルクセンブルク総合4位
- ヴォルタ・アン・アルガルヴェ総合5位
- ツール・ド・ポローニュ総合12位
- UCI世界ランキング77位
生粋の逃げ屋、という印象のあった彼も、いよいよチームの中心を担う存在となりつつある。そんな彼にとっての2020年は、必ずしも良い幕開けではなかった。
新型コロナウイルスの影響による長い中断期間が明け、彼も当然チームの中心人物としてツール・ド・フランスに出場する予定でいた。
しかし、その開幕直前のトレーニング中に激しく落車し、欠場が確定。ブエルタに出場することにはなったものの、その直前まで自身のコンディションに不安をもっていたという。
だが、蓋を開けてみれば、積極的な逃げとラストの激坂を含んだスプリントでの圧勝で、ステージ2勝を獲得。
この年もしっかりと、ポイントを稼ぎ取ることに成功した。
今年の目標は、やはりツール・ド・フランスだろう。これまでジロ・デ・イタリアで2勝、今回ついにブエルタでも2勝を稼ぎ出し、あとはツール・ド・フランスで優勝することで、3大グランツールすべてで勝利した選手の1人に名を連ねることになる。
あとは、相性はいいはずなのに、なかなか勝利に手を届けられないアルデンヌ・クラシックでの勝利と、ここ数年力をつけつつある、クライマー向きの1週間ステージレースでの総合成績。
2021年もチームのエースとして、活躍していけることを願う。
その他注目選手
ヘルベン・タイッセン(ベルギー、23歳)
脚質:スプリンター
2018年にトレーニーとして半年このチームで走り、2019年7月からチームに合流。ロット・スーダルU23出身の生え抜き選手だ。
元々はトラック競技で名を売っており、2015年のジュニア世界選手権ではポイントレースで銅メダル、2016-2017トラック・ワールドカップのアペルドールンでは、チームパーシュートで銀メダルを獲得している。
そして2017年、トラック欧州選手権にて、エリミネート種目のエリートカテゴリで見事、優勝。
ロードレースにおいても2018年のベルギー国内選手権U23部ロードレースで優勝しており、U23版ジロ・デ・イタリア(ベイビー・ジロ)のスプリントステージでも実質的に優勝している(両手を挙げるのが早すぎなければ・・・)。
そんな実績をもつ男だから、2019年のシーズンチームガイドでも注目選手として取り上げていた。
だが、その2019年においては合流が遅かったこともあり、レース出場数自体も少なく、あまり目立つことはなかった(それでも実は合流前は2クラスのレースで3勝しており十分な実績を持ってはいた)・
しかし2020年においては、終盤のブエルタ・ア・エスパーニャにて集団スプリントで区間5位と区間2位。
一気にその名を、世界トップクラスの舞台で轟かせることとなった。
やはりネオプロが1年目から結果を出すなんていうのは特殊な例であって、2年はじっくりと見ないといけないと身につまされた思いであった。
意外とユアンに続くピュアスプリンターが出てきていないロット・スーダルにとって、今後非常に重要な存在になりうる男である。
ハーム・ファンフック(ベルギー、24歳)
脚質:クライマー
昨年注目の走りをした若手の一人。
年初のブエルタ・ア・アンダルシアで、そこまで正直その名前を意識したこともなかったこの男が、ヤコブ・フルサンの勝った第1ステージでいきなりの区間9位。
そのまま総合上位をキープし続け、最終的にはTTでも少しポジションを落としたものの総合10位に入賞。
総合ライダーの少ないチームにとって、期待の存在として気になる存在となった。
そしてその可能性を、年内もう1つの、非常に大きなレースでも発揮。
それはジロ・デ・イタリア。第3ステージのエトナ山頂フィニッシュで、逃げに乗って区間3位。
それで総合5位に浮上したのち、第5ステージの山岳ステージでも、トップクライマーたちに遅れることなく区間7位でフィニッシュし、総合4位にまで登り詰めた。
そして第1週の最終日。第9ステージの「ロッカラーゾ山頂フィニッシュ」ではさすがに大きくタイムを失うも、それでも先頭ルーベン・ゲレイロから1分59秒遅れ。マリア・ローザのホアン・アルメイダからは3秒、のちの総合優勝者テイオ・ゲイガンハートからも40秒遅れに留めたことで、総合7位をキープすることには成功した。
さすがに2週目に入るとずるずると順位を落とし、最終的には総合60位でフィニッシュ。まだまだグランツールでの総合争いは遠い目標になるだろうが、それでも1週間のステージレースなどでの活躍は十分見込める走りを見せてくれた。
今年のロット・スーダルは若手のクライマーたちを大量補強していく方針のようだが、この男はまさにその先駆けのような存在。
今後のこのチームの成功は、この男の走りにかかっていると言っても過言ではない。今年もその走りに注目していきたい。
ハリー・スウィーニー(オーストラリア、23歳)
脚質:パンチャー
元ミッチェルトン・スコットの育成チーム。エヴォプロレーシングを経て、2020年にロット・スーダルU23入りを果たした。
そして2020年はピッコロ・ロンバルディア(U23版イル・ロンバルディア)を優勝。2019年の優勝者アンドレア・バジョーリは2020年に早速ツール・ド・ランでログリッチに先行したりジロ・デッレミリアで5位に入るなどの活躍を見せており、2018年の覇者ロバート・スタナードも、昨年のブエルタ・ア・エスパーニャで積極的な走りを見せていた。
それ以前の優勝者でもファウスト・マスナダやジャンニ・モスコン、ダヴィデ・ヴィレッラなどの優秀なクライマー・パンチャーを輩出しているこのレースを勝ったということで、このスウィーニーも注目の選手であることは間違いない。なお、2016年の優勝者は上記のハーム・ファンフッケである。
スウィーニーはどちらかというと純粋なクライマーというよりは丘陵系とスプリントに強いパンチャー系タイプ。バジョーリ、スタナード、モスコンに近いタイプだ。
よって、山岳アシストやステージレース総合で強いというよりは、アルデンヌ・クラシックや山岳/丘陵エスケープからの勝利を得意とするだろう。ジュニア時代にはオセアニア大陸選手権のTTで優勝しており、独走力も期待できる。
すなわち、ティム・ウェレンスの後継者、という見方もできるかもしれない。オーストラリア人とはいえ、末永くこのチームに腰を落ち着かせ、ウェレンスのようなチームのエースを目指してほしいところ。
総評
2021年もメインはユアンによるスプリントと、ウェレンスやデヘント、あるいはホームズやマルチンスキーらによる山岳エスケープなどでのステージ勝利がメインとなるだろうか。
そこにジルベール&デゲンコルプによる北のクラシック、あるいはウェレンスの「いよいよ」なアルデンヌ獲りなどに期待したい。
グランツール総合はもしかしたらチームの長期的な目標となるかもしれない。
しかしまだまだ慌てるべき時期ではない。まずはウェレンスやファンフックなどで短めのステージレースでの総合を狙いつつ、じっくりと、しっかりと若手を育て、未来において挑戦してほしいところ。
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