見事、今大会初の「2度目の勝利」を手に入れたスプリンター、カレブ・ユアン。
その勝ち方は単純な強さだけでなく、的確な判断力と勇気、そして実力とがすべて高いレベルで揃ったうえでの勝利であった。
今回は、そのスプリントの「勝ち方」を、レース画像を用いながら解説。
今大会「最強」スプリンターの野生の勘ともいえる巧みな戦術をじっくりと確認していこう。
↓参考動画↓
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最強のトレインを形成したのは間違いなくドゥクーニンク・クイックステップだった。
ロット・スーダルのジャスパー・デブイストが最初、先頭を支配していたものの、あまりにもタイミングが早すぎて失速。
その脇からミケル・モルコフ、マキシミリアーノ・リケーゼ、そしてエリア・ヴィヴィアーニという必勝態勢のトレインが猛スピードでデブイストを抜き去っていく。
残り500mでの出来事だった。
フルーネウェーヘンの番手という、第11ステージと同じパターンでの勝利を狙っていたユアンも、これが失敗であったことを認めざるをえなかった。
そのままモルコフを先頭にしたドゥクーニンク・トレイン、その後ろについたサガン、フルーネウェーヘン、クリストフのさらに後ろの7番手という、かなり不利なポジションで最後の数百メートルに挑まざるを得なかった。
そのまま戦えば当然、敗北以外の可能性を持てなかった。
だからユアンは、勝負に出る。
残り230m。
モルコフがリードアウトを終え、左に避けたそのタイミングで、クリストフの背中からユアンが発射する。
あまりにも早いタイミングだった。また、誰もいない空間をたった一人で駆け抜けるというのは、空気抵抗のことを考えれば、勝率を一気に下げる悪手であることは間違いがなかった。
この距離で、この空気抵抗の中で勝利を奪い取れるのはフルーネウェーヘンくらいなものである。
だから、ユアンはまっすぐそのままゴールに向かうのではなく、残り150mでヴィヴィアーニを発射させ、左に避けようとしていたリケーゼの背中に向かって、勢いよくアクセルを踏み切ったのである。
「風よけ」のために。自らの踏み台として、世界最強リードアウターの背中を一瞬だけ借りたのだ。
思わずリケーゼに接触しかけるユアン。
しかしそんなことお構いなく、次の瞬間には彼は再スタートを切っていた。
この瞬間、ヴィヴィアーニとは同じ状況でのスタート。
あとは、今大会最も安定して上位に入り続けている「最強」スプリンターの足の見せどころであった。
もしかしたらヴィヴィアーニは、連日の山岳でのマイヨ・ジョーヌのためのアシストで思った以上に足を使い果たしていたのかもしれない。それが最後の伸びに影響した可能性はある。
しかしそれでも、盤石の構えであったドゥクーニンク・トレインに対し、思いもかけぬ戦略を思いつき、思い切った動きでここから勝機を掴んだユアンの判断力、勇気については、実力を超えた勝利への執念を感じ取った。
ジロ・デ・イタリアと合わせ、これで今年のグランツール4勝。
この勢いは冗談でなく、今年「最強」のスプリンターが彼であることを示すものであるかもしれない。
カレブ・ユアン、そしてそれを支えるロット・スーダル。
彼らの存在は、このツールを超えて、ここから先のスプリンター戦国時代の中での新たな筆頭候補となるやもしれぬ。
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