読み:イスラエル・スタートアップネーション
国籍:イスラエル
略号:ISN
創設年:2015年
GM:キエル・カールストローム(フィンランド)
使用機材:ファクター(イギリス)
2020年UCIチームランキング:22位
(以下記事における年齢はすべて2021年12月31日時点のものとなります)
【参考:過去のシーズンチームガイド】
Israel Cycling Academy 2018年シーズンチームガイド - りんぐすらいど
Israel Start-Up Nation 2020年シーズンチームガイド - りんぐすらいど
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2021年ロースター
※2020年獲得UCIポイント順
ワールドツアー2年目となるこのチームは、昨年、クリストファー・フルームの獲得によってまず大きな話題を呼んだ。そして次々と発表されるビッグディール。マイケル・ウッズ、ダリル・インピー、セップ・ファンマルク・・・一気に「ワールドツアーチームらしくなった」、そんな印象を抱くこともできなくはない。
ただ、気になるのは、全体的に即戦力級に大きな勝利を狙える選手の獲得ができた、というわけではないこと。ウッズは確かに強いが、モニュメントやグランツール表彰台を獲れるかというと、不可能ではないが簡単でもない。ファンマルクも優れたクラシックスペシャリストではあるが、勝ち切ることができずにここまできている。
山岳アシストの補強もセバスティアン・バーウィック、カールフレドリク・ハーゲン、既存のメンバーでもジェームス・ピッコリなど、個人的には非常に好きな選手たちではあるが、安心してフルームやウッズのアシストを任せられるかというと不安は付きまとう。
もちろん、それを結果につなげるのが今年のポイントではあるのだが、なおもこのチームがグランツール総合よりはスプリントや山岳エスケープなどに力を入れていくことになりそうだ、というのは変わらない。
まだまだ正念場のワールドツアー2年目。非常に国際的ながらイスラエル人の活用にも積極的なこのチームのマインドはかなり好感が持てるので、ぜひぜひ頑張ってほしいところ。
注目選手
ダニエル・マーティン(アイルランド、35歳)
脚質:クライマー
2020年の主な戦績
- ブエルタ・ア・エスパーニャ区間1勝、総合4位
- ボルタ・ア・ラ・コムニタ・バレンシアナ総合4位
- ラ・フレーシュ・ワロンヌ5位
- リエージュ~バストーニュ~リエージュ11位
- UCI世界ランキング29位
息の長い活躍を続けるアイルランドのクライマー・アルデンヌスペシャリスト。長くスリップストリーム系チームに在籍していたが、ここ最近はクイックステップ、UAEと、それぞれ総合エースとしてチームを転々。その度に「たった一人」で戦い続ける宿命にさらされ、そこそこの結果を出しつつも思うようには出せない、そんな「強いのに報われない」タイプの選手としてやってきた。
そんな中、同じように孤軍奮闘せざるを得ないイスラエルにやってきたものの、なんと2020年は彼にとってグランツール史上最高成績である総合4位を獲得。しかも、2年ぶりの勝利は、双子が生まれてから初の勝利となり、戦い続ける父の雄姿を家族に届けることに成功した。
今年はここに、マイケル・ウッズやクリス・フルームらがやってくる。より総合系に力を入れていくことになるであろうチームの方針が、マーティンに何をもたらすのか、今はまだ想像がつかない。
それでも、いつか必ず、彼にグランツール表彰台に立ってほしい。その優しい顔が、最高の笑みを浮かべる瞬間をまた、見てみたい。
マイケル・ウッズ(カナダ、35歳)
脚質:クライマー
2020年の主な戦績
- ブエルタ・ア・エスパーニャ区間1勝
- ティレーノ~アドリアティコ区間1勝、総合8位
- フレーシュ・ワロンヌ3位
- リエージュ~バストーニュ~リエージュ7位
- 世界選手権ロードレース12位
- UCI世界ランキング42位
今やカナダ最強のクライマーと言っていいこの男がイスラエルに来たのは、やはりオーナーのユダヤ系カナダ人のシルヴァン・アダムスの影響だろうか。元マラソンランナーの「遅れてきた新人」系のウッズは、丘陵系~山岳系ワンデーレースでは圧倒的な強みを発揮し、今年は東京オリンピックおよびリエージュ~バストーニュ~リエージュ、そうでなくともフレーシュ・ワロンヌまでは狙っていけそうな、そんな位置にある。
一方で、ティレーノ~アドリアティコでは途中まで守っていた総合リーダージャージをクイーンステージで脱ぐことに。2017年にはブエルタ・ア・エスパーニャで総合7位にまで登り詰めたことがあったものの、やはりグランツールでの総合を争うには今一歩、足りないか。
で、あれば逆に、山岳アシストとして、これまで孤独の戦いを強いられてきたダニエル・マーティンや、復活と5勝クラブ入りを諦めないクリス・フルームを助ける存在となってくれれば、これほど心強いものはない。
もちろん、ジロ・デ・イタリア、そしてツール・ド・フランスでのステージ優勝もまた、彼の目標の1つとなるだろう。
年齢はそれなりでも、キャリアはまだまだ10年も経っていない。このチームとの契約も2023年までと長く、じっくりと成績を積み上げていこう。
ダリル・インピー(南アフリカ、37歳)
脚質:パンチャー
2020年の主な戦績
- カデルエヴァンス・グレートオーシャンロードレース3位
- サントス・ツアー・ダウンアンダー総合6位
- 南アフリカ国内選手権個人タイムトライアル優勝
- 南アフリカ国内選手権ロードレース2位
- UCI世界ランキング69位
クリス・フルームとは2008~2009のバルロワールド(イギリス籍プロコンチネンタルチーム・2009年限りで解散)時代にチームメートだった。2年前のラグビーワールドカップのときには、さいたまクリテリウムで共に来日した際に、レース後に一緒に南アフリカ戦を観に行ったとか。
フルームもアフリカにルーツをもち、南アフリカ籍チーム*1に所属していたこともあるため、親交は深く、非常に仲の良い間柄のようだ。
そんなこともあり、今回のフルームと同時の移籍は、彼のためのアシストという意味合いも非常に大きいだろう。インピーは基本はスプリンター・パンチャータイプで自ら勝利を狙えるタイプではあるものの、山岳登坂も問題なくこなし独走力もあるため、フルームにとってはかなり頼れる山岳アシストともなってくれることだろう。
あとはその長年にわたる経験、それこそオリカ・グリーンエッジ~ミッチェルトン・スコットでは、若い選手たちと共に走ることも多かった彼が、まだまだ発展途上のこのチームにもたらしてくれるものは多くあることだろう。
チームキャプテンとしての活躍にも期待したい。
その他注目選手
ユーゴ・オフステテール(フランス、27歳)
脚質:スプリンター
2016年のプロデビュー以来、コフィディスでずっと走ってきた。その中で掴み取った勝利は2018年のツール・ド・ランでの区間勝利ただ一つ。ベルギーやフランスの1クラス/HCクラスのレースでの2位や3位や4位といった順位は非常にたくさん(本当にたくさん)取り続けているのだが、なかなか勝利に届かなかった。
そんな彼が、昨年イスラエル・スタートアップネーションへの移籍でワールドツアーデビュー。そして、ル・サミンにて、ようやくプロ2勝目を勝ち取った。
感極まってフィニッシュ後に何度も何度も雄叫びを繰り返し、号泣。チームにとっても貴重な1勝となった。
今年もまた、3勝目を目指して小さなレースで勝利を狙っていくことに加え、北のクラシックではセップ・ファンマルクのアシストとしての活躍が期待される。
決してトップ選手ではない。地味な選手ではあるが、こういう選手たちの活躍こそ、ロードレースを見ていくときの楽しみの1つである。
セバスティアン・バーウィック(オーストラリア、22歳)
脚質:クライマー
昨年までオーストラリアのコンチネンタルチーム、セントジョージ・コンチネンタルサイクリングチームに所属していたネオプロ。2019年にはツール・ド・北海道にも参戦しており、三国峠を越える帯広~北見の第2ステージで、区間6位を記録している。
彼の名、そして強さが知れ渡ったのは、昨年のヘラルドサン・ツアー。第2ステージのフォールス・クリーク山頂フィニッシュでチーム・サンウェブのマイケル・ストーラーが強力に牽引。残り2.6㎞で彼が脱落する頃には、先頭はすでにジェイ・ヒンドレー、ロバート・パワー、ダミアン・ホーゾン、ニールソン・ポーレスといった精鋭軍団しか残っていなかった。
そしてその中に、わずか21歳のバーウィックも残っており、それどころか残り2㎞で自らアタック。この動きで、ロバート・パワーを振るい落とすという強烈なアタックだった。
続いてニールソン・ポーレス、ヒンドレー、そしてダミアン・ホーゾンらが次々とアタックを繰り返すが、決まらない。バーウィックも残り続ける。
そして残り600mでバーウィックが再びアタックし、ポーレスが脱落。残り100mでバーウィックは腰を上げ最終スプリントに挑むが、結果としてはヒンドレーとホーゾンに先着され、3位に終わった。
そして、もう1つの山頂フィニッシュ、第4ステージの「マウント・ブラー」。
ここでもまた、13名だけ残った先頭集団の中から、残り1㎞で最初のアタックを繰り出したのはバーウィックだった。
そしてこのとき最後までついてこれたのは、総合リーダージャージを着るヒンドレーただ一人であった。
最終的には焦らずじっくりバーウィックの背中に張り付きつづけ、最後の最後、残り150mで飛び出したヒンドレーに勝利を奪われ、総合逆転も叶わなかったバーウィック。
しかし、トッププロ選手たちの集まるこのヘラルドサン・ツアーの舞台で、総合2位という結果は十分に誇るべきものであった。
もちろん、それ以外の目立った成績はなく。あくまでもこれからの選手であることは間違いない。
それでもこういった若手の実力者の将来を期待して見守るというのも自転車ロードレースの楽しみ方の一つ。注目していこう。
クリストファー・フルーム(イギリス、36歳)
脚質:オールラウンダー
フルームがイネオスを去ること自体は長く噂になっていたが、その行く先として最終的にこのチームが選ばれたことは非常に驚きであった。
ただ、移籍発表時の公式アナウンスで、シルヴァン・アダムスオーナーは彼を「引退するまで契約」とコメントするなど、この時代の刻まれた偉大なる選手に対する多大なリスペクトを感じさせた。そして彼に再びツールを勝たせるための移籍戦略もまた全力で実施するなど、本気でフルームのためのチーム作りを考えているようにも思われる。
あとは、フルーム自身がどこまで走ることができるか、ということ。2020年は一切結果を出すことのできなかったシーズンではあったものの、出場日数は43日とコロナ禍の中では比較的長く、かつブエルタ・ア・エスパーニャ含めすべてのレースを完走している。
ある意味で、2020年は今年に向けた意識的な「調整期間」だった、とも捉えられなくもない。
期待しすぎるのもよくないが、やはり2010年代、彼の走りに魅了され続けた者としては、再び彼が彼本来の力を取り戻し若手選手たちを圧倒する姿を、見たいものである。
総評
ワールドツアー2年目はまだまだ手探り。グランツール総合で存在感を示すことはまだ難しいだろう。
それよりは、マイケル・ウッズ、ダニエル・マーティンといった才能を生かし、アルデンヌクラシックスでいきなり大きな成果を出す方が可能性はありそう。魅力的なスプリンターが多いチームでもあるので、1クラスやProクラスも含め、勝利数を稼ぎにいきたいところでもある。
あとはクリス・フルームがどんな走りを見せてくれるのか、に期待したい。
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*1:コニカミノルタ。このときツアー・オブ・ジャパンに出場しエリートカテゴリでは初の勝利を遂げている。