読み:モビスター・チーム
国籍:スペイン
略号:MOV
創設年:1980年
GM:エウゼビオ・ウンスエ(スペイン)
使用機材:キャニオン(ドイツ)
2020年UCIチームランキング:18位
(以下記事における年齢はすべて2021年12月31日時点のものとなります)
【参考:過去のシーズンチームガイド】
Movistar Team 2018年シーズンチームガイド - りんぐすらいど
Movistar Team 2019年シーズンチームガイド - りんぐすらいど
Movistar Team 2020年シーズンチームガイド - りんぐすらいど
目次
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2021年ロースター
※2020年獲得UCIポイント順
昨年は大幅な「弱体化」を伴ったモビスター。それと比べると今年は、チームの弱点であるスプリントや北のクラシックを埋めうる存在であるイバン・ガルシア、昨年抜けたランダやカラパスらの穴を埋める存在であるミゲルアンヘル・ロペス、そして実力派パンチャーのグレゴール・ミュールベルガーなど、しっかりとした補強になっているように思う。抜けた選手たちも決して弱い選手たちではないが、チーの新陳代謝という意味では悪くない結果だったと思う。
あとは、揃った戦力をどう活かすか。昨年も元々はトリプルエースをしないはずだったのに蓋を開けてみればトリプルエースになっていたのだが、今年こそは今のところの噂としてジロにマルク・ソレル、ツールにロペスとマス、ロペスはブエルタも狙い、バルベルデはジロもツールも出ない、といったあたりの話が出ており、ダブルエースはしてもトリプルエースはしない方向ではいるようだ。
実際このチームはダブルエースのときは割と上手くいっている印象だし、トリプルエースの問題点は、(今年のジロのように)エースが誰もいないグランツールが生まれてしまうことにこそある。
その点今年はすべてのグランツールで「戦える」布陣を用意できるのであればそれは非常に楽しみなことである。
あとはエースを支えるアシストの活躍にもっと期待したい。
そして昨年大量獲得した若手の覚醒も。
注目選手
エンリク・マス(スペイン、26歳)
脚質:クライマー
2020年の主な戦績
- ツール・ド・フランス総合5位
- ブエルタ・ア・エスパーニャ総合5位
- UCI世界ランキング40位
2017年のブエルタ・ア・エスパーニャ第20ステージ「アングリル」。
2010年代の英雄アルベルト・コンタドールの最後の山岳ステージでの勝利を、別チームに所属していたこの青年はそれとなくサポートした。それは、コンタドールの運営する育成チーム出身だった彼の、師への恩返しだったのかもしれない。
その翌日のマドリードで、コンタドールはマスのことを「スペイン自転車界の未来」と称賛する。
そしてそれが決してお世辞なんかでないことを、翌年のブエルタ・ア・エスパーニャで、早くも証明してみせる。
すなわち、2度目のグランツール挑戦でいきなり掴み取った総合2位である。
しかし、大きな期待をもって迎えた2019年のツール・ド・フランス初挑戦は、全フランスを沸かせたジュリアン・アラフィリップの陰で、総合22位という実に悔しい結果に終わってしまった。
元々、シーズン初頭はエンリク・マスのためのチームが用意されるという噂もあった。しかし蓋を開けてみればエリア・ヴィヴィアーニのための体制で、マスのための専属アシストもいない中での「孤軍奮闘」の戦いであった。
そんな彼が、2020年は地元スペインのチームでエースとして走ることを選択。そしてこの選択は、結果としては正しかったと言える。
ツール・ド・フランス、ブエルタ・ア・エスパーニャ共に、「トリプルエース」体制の中、実質的にマルク・ソレルとアレハンドロ・バルベルデがマスのためのアシストを担い、最終的にはともに総合5位。
かつてブエルタ総合2位を手に入れたことのあるマスにとってみれば満足のいく結果ではなかったかもしれないが、十分なチーム体制の中で掴んだ手応えとしては、十分なものであった。
今年は今のところ、予定としてはミゲルアンヘル・ロペスとのダブルエース体制でツールを走る。どちらが最終的に真のエースになるかはそこまでのコンディション次第ではあるだろうが、重要なのは、そんな二人にどんなアシストがつくのかということ。
まだまだ、「グランツール総合狙いにおける最盛期」まで2~3年を残しているマスにとって、その栄光は慌てて追いかけるものでもない。
今年もスペイン人総合エースとしての経験を重ね、より成長していける年にしよう。
ミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、28歳)
脚質:クライマー
2020年の主な戦績
- ツール・ド・フランス区間1勝・総合6位
- クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ総合5位
- ヴォルタ・アン・アルガルヴェ総合3位
- UCI世界ランキング41位
2014年のツール・ド・ラヴニール覇者。
2016年にはツール・ド・スイスを制し、折しもニバリ、ランダがチームを去るタイミングでの台頭に、新たなアスタナのエースとしての期待が寄せられた。
2018年。ファビオ・アルも去る中で、ヤコブ・フルサンと並ぶ名実ともにチームの筆頭エースに。そして、ジロ・デ・イタリアとブエルタ・ア・エスパーニャのダブル総合3位。
これらの実績を伴い、2020年はついに、遅すぎるとさえ思える、ツール・ド・フランスへの初挑戦となった。
結果は、素晴らしい走りだった。
序盤の滑り出しはイマイチで、第1週終了時点では総合9位。
しかしより厳しいステージが連続する第2週後半でライバルたちが崩れ落ちていく中、本来の実力を発揮したロペスは総合4位で第3週に突入する。
そして、第17ステージ。2020年のツールの、クイーンステージ。
ツール・ド・フランス初登場のコル・ドゥ・ラ・ローズの山頂フィニッシュで、鎬を削り合うプリモシュ・ログリッチとタデイ・ポガチャルを尻目に、強力な登坂力で先頭を突き抜けていったロペスは、チームの代表であるアレクサンドル・ヴィノクロフ大佐のバースデーを祝う最高の勝利をもたらした。
そして総合3位に。初出場のツールでの表彰台は、完璧な成果のはずだった。
しかし、まさかの、第20ステージ、ラ・プランシュ・デ・ベル・フィーユ山岳TT決戦での、大失速。
彼が決してTTが得意でないことは知っていたが、そんな彼でもそこまで大きく落とすはずのない山岳TTで、あっという間に総合6位へと転落してしまったのだ。
バッド・デイ。2017年のツール・ド・フランスの第20ステージで総合2位から崩れ落ちたロマン・バルデを彷彿とさせるような、完全なるバッド・デイであった。
それゆえに、この総合6位という結果は、彼がこのツールで見せた実力に不相応な結果であり、彼は十分に、この初のツールでの表彰台に値する走りを見せてくれたように思う。
それがゆえに、彼のアスタナ離脱は、純粋にチームの資金難による影響だろう。
そして彼は、キンタナとランダとカラパスを失った伝統チームに、新たなるエースとして招かれることとなる。
このチームで迎える「2年目のツール」は、果たして今度こそ結果を持ち帰ることができるのか。
育ての親を離れた「スーパーマン」の、本当に重要なシーズンが始まる。
イバン・ガルシア(スペイン、26歳)
脚質:パンチャー
2020年の主な戦績
- パリ~ニース区間1勝
- ヨーロッパ選手権ロードレース8位
- ブルターニュ・クラシック10位
- UCI世界ランキング136位
エドゥアルド・プラデスの離脱はモビスターにとっては意外と痛かった。ステージ勝利を狙えるスプリンターの不足は常にモビスター首脳陣の頭を悩ませてきたが、プラデスはとくに登りスプリントにおいてその貴重な勝利を提供しうる存在であった。
しかし、今年その代償にこのスペインの至宝ともいうべきイバン・ガルシアコルティナを手に入れたことは大きかった。かつてツアー・オブ・ジャパンでも走り、ネオプロだったその年のブエルタの3週目の積極的な逃げによって強い印象を残した選手。
いつかブエルタ・ア・エスパーニャのスプリント勝利を成し遂げることだろう、と期待していたが、2019年にはまさかのツアー・オブ・カリフォルニアでのプロ初勝利。
さらに2020年にはパリ〜ニースにおいてペテル・サガンを退けての勝利。
荒れた展開、登りを含んだスプリントにおいては、十分に世界の最高峰で戦える力を身につけていた。
長らく勝てるスプリンター不足に陥っていたモビスターにとっては、誰よりも貴重な存在であると言えるだろう。
そして、彼の強みはもう1つ。昨年10位に入ったブルターニュ・クラシックや2年前3位のグランプリ・シクリスト・ド・モンレアルのような、パンチャー向けクラシック。同じ系統のレースとしてはグランプリ・シクリスト・ド・ケベックやアムステルゴールドレースなどがある。
スプリント力を必要とするが、小刻みなアップダウンで耐える力も求められるこれらのレースもまた、意外とこのチームが強みを持てていないレースでもある(あえて得意な選手を探そうとすると、それこそバルベルデとかになる)。
「今年まさかの衝撃の2勝」たるこの古豪を復活させる最大の立役者は、このガルシアになるかもしれない。
その他注目選手
マルク・ソレル(スペイン、28歳)
脚質:オールラウンダー
2015年ツール・ド・ラヴニール覇者にして、2018年パリ〜ニース覇者。
昨年はブエルタでの「反旗」が話題になった選手でもあり、今年はそのキンタナがチームを去ったことで、いよいよ彼が主役に・・・
なると思ったのだが、ツールでは早々に総合から脱落。最初からジロ・デ・イタリア狙いだったのかと思えば、そのジロはパスしてブエルタに再びトリプルエースで臨み、ステージ優勝こそするものの総合ではやはり3人の中でも最も低い位置に。
アグレッシブな走りは見せていたが、それで順位を挽回したかと思えば翌日にはまた大きくこれを落とすなど、終始安定しない、散々なシーズンであった。
そんな中、さらなるライバルとして現れたミゲルアンヘル・ロペス・・・
2021年はエースとしての座を取り戻すことはできるか?
グレゴール・ミュールベルガー(オーストリア、27歳)
脚質:パンチャー
「ジュリアン・アラフィリップと2度競り合った男」。すなわち、彼と共に山岳を逃げ、その最後の瞬間を勝負できるほどの足の持ち主である。
正直、彼自身が自ら勝利を掴んでいくタイプ、というわけではない。上記のような逃げで勝利を掴めても、得意なはずのアルデンヌ・クラシックではリザルトをほとんど残していない。
そのうえで確かな実力を持つ彼は、生粋のアルデンヌ・アシストといえる。すなわちジュリアン・アラフィリップにとってのドリス・デヴェナインス、ヤコブ・フルサンにとってのゴルカ・イサギレのような。
そしてアレハンドロ・バルベルデにとっての、カルロス・ベタンクール。バルベルデの2017年フレーシュ・ワロンヌの「最後の勝利」は、まさに道中におけるベタンクールの執拗な「逃げ潰し」の結果でもあった。
その意味で、突然のベタンクールの離脱に対する最適な補強とも言える今回のミュールベルガーの獲得。
ただ問題は・・・さすがに引退間近のバルベルデに代わる、絶対のアルデンヌエースが果たしているのか、ということ。ダヴィデ・ヴィレッラとかには、頑張ってほしいのだが・・・。
セルジオ・サミティエル(スペイン、26歳)
エイネルアウグスト・ルビオ(コロンビア、23歳)
脚質:クライマー
この、まだプロ勝利のない2人のクライマーに注目する理由は、「トリプルエース」がすべてツール~ブエルタにかまけている中、「エース不在」のジロ・デ・イタリアにおいて、それぞれ人知れず活躍した二人だからである。
2019年までエウスカディ・バスクカントリーで走っていたセルジオ・サミティエルは、その2019年にツアー・オブ・ジ・アルプス山岳賞や、ブエルタ・ア・エスパーニャ第15ステージ敢闘賞・山岳賞総合3位など、主に山岳ステージでの逃げで活躍していた。
そんな彼が、ワールドツアー1年目となった2020年に、ジロ・デ・イタリア総合13位という、驚くべき成果を残した。
来年はバルベルデを除いてもなおミゲルアンヘル・ロペスを加えたトリプルエースが健在のこのモビスターだが、「それ以外」の存在としてのサミティエルの今後に注目しておきたい。
そして2019年のU23版ジロ・デ・イタリア(ベイビー・ジロ)総合2位を記録したネオプロのコロンビア人、エイネルアウグスト・ルビオは、昨シーズンこのモビスターが大量に獲得した新人選手たちの一人であり、ほかの新人選手たちと同様、決して2020年に大きな成果を残したわけではない。
しかし、このジロ・デ・イタリアの最終山岳ステージ、すなわち第20ステージの「セストリエーレ」において逃げに乗り、まさにこの最後のセストリエーレの登りで逃げ集団から飛び出して、独走を開始したことは非常に印象的な走りだった。
もちろんこれは最終的にローハン・デニスが猛牽引するテイオ・ゲイガンハートとジェイ・ヒンドレーのグループに捕まえられてしまう。しかしそれでも粘り切っての区間6位に入賞し、その才能を見せつけた。
正直、2020年のモビスターは苦しいシーズンを過ごしたし、その要因の一つは大量の戦力流出と数だけ埋め合わせるような若手の獲得であった。
しかし、この若手たちがしっかりと成長していけば、むしろこのチームはより強くなっていく。2020年は活躍できなかったが、2019年ツール・ド・ラヴニールのマッテオ・ヨルゲンセンや同ラヴニール第1ステージ優勝者のマティアス・ノルスガードなど、十分な素質をもった若手選手たちがこのモビスターには揃っている。
そんな彼らが「2年目」を迎える2021シーズン。
まるで昨年のサンウェブのような「驚きのリザルト」を残すのは、もしかしたら意外にもこのモビスターなのかもしれない。
総評
グランツールはタレントは揃っている。あとは、それがうまくかみ合うかどうか。
北のクラシックは今年ももちろん期待薄だが、それなりに適性のあるイバン・ガルシアがどこまで頑張れるかと、才能だけは間違いなく持っているはずのヨルゲンセンやノルスガードなどの19ラヴニール組はどこまでその才能を開花させるかにかかっている。ただ、まだ大きな勝利は望むべくもないだろう。
とにかくグランツール総合以外ではまずは勝利数。「2勝」という、伝統チームにあるまじき失態を犯した2020シーズンへのリベンジを、しっかりと果たしていこう。
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