読み:モビスター・チーム
国籍:スペイン
略号:MOV
創設年:1980年
使用機材:Canyon (ドイツ)
2017年UCIチームランキング:6位
(以下記事における年齢はすべて2018年における数え年表記となります)
2018年ロースター
やはりこのチームらしく、他チームと比べるとクライマーの割合が非常に大きい。また特徴として、ベテラン勢の数が少なく、平均年齢が低いことも挙げられる。スペイン人選手のベテラン層自体は多いが、他チームに在籍していることが多く、モビスター自体はスペイン人の若手を積極的に育成していこう、という意志を感じられる。
その中で、バルベルデとベンナーティの年齢の突出ぶりがわかりやすい。とくにバルベルデは年齢を感じさせない活躍を見せており、この年齢でチームのトップエースを張れるのはほかにない特徴だ。
エクアドルやコスタリカなど、中南米のスペイン語圏の選手が在籍していることも特徴。
来年は何といってもミケル・ランダの加入が注目を浴びている。キンタナ、バルベルデ、ランダのトリプルエース体制でどのような形でグランツールに挑むのか。
ラファエル・バルスも今年ダウンアンダー総合7位など地味な活躍を見せており、来年も期待したい選手の1人だ。
注目選手
ナイロ・キンタナ(コロンビア、28歳)
脚質:クライマー
2014年ジロ・ディタリア総合優勝
2016年ブエルタ・ア・エスパーニャ総合優勝
2013年・2015年ツール・ド・フランス総合2位
20歳のときにツール・ド・ラヴニールを総合優勝し、23歳のときにツール・ド・フランスで総合2位にまで登りつめた天才。翌年にはジロを制し、昨年はブエルタも制した。
だが、早熟の天才は得てして、そのキャリア中盤に伸び悩む。2016年ツールでは体調不良、今年はジロとの連戦?準備不足?で結果を出せず。
2度目のジロ制覇も確実視されていたが、新たな才能デュムランの想像以上の走りに阻まれ、今年は控えめに言っても散々なシーズンとなった。
キンタナに再興の可能性はあるか? 当然、それはあるだろう。問題はその時期だが、それは2018年だとも思っている。贅沢を言えば2015年のように、個人TTが極端に短い年を狙いたい。だがそれでも2018年のツールは、ラルプデュエズがあったり、超短距離山岳ステージがあったりと、対フルームにおいてキンタナがチャンスを掴んだタイプのコースに富んでいる。これは大きなチャンスかもしれない。
もちろん、石畳などの不安も残るが、ベンナーティやエルビーティの存在、昨年は初日で失われたバルベルデの助力、そして新戦力ランダがいることで、これまで以上の力をキンタナは発揮できる可能性がある。そして何より、今年はフルームがジロに出場することが決まっている。これほどのチャンスはほかにない。
これが実現すれば、非ヨーロッパで初となる3大グランツール制覇者である。来年は28歳。自転車選手が最もピークを迎える時期といっても過言ではない年。この年に、早熟の天才キンタナは、花を開かせることができるのだろうか。
2017年は辛いシーズンに終わった。それでも、彼は新たなシーズンに向けて、強い希望を持って臨んでくれるはずだ。
アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、38歳)
脚質:オールラウンダー
フレッシュ・ワロンヌ5勝(2006年、2014年~2017年)
リエージュ~バストーニュ~リエージュ4勝(2006年、2008年、2015年、2017年)
ブエルタ・ア・エスパーニャ総合優勝(2009年)
プロ通算94勝*1
2017年は2月~4月のステージレース、クラシックで異様なほどに勝ちまくった。勝利数はスプリンターに匹敵する年間11勝。だが、肝心のツールではまさかの初日リタイア。ブエルタにも出場できず、落差の大きいシーズンとなった。
だが、2018年にキンタナが本気でツール制覇を目指すのであれば、このバルベルデの助力は欠くことができない。もちろんバルベルデも、自身のクラシックへの更なる野望や、2度目のジロ挑戦もありうるかもしれない。それでも、若きエースの栄光の為に、その力を注いであげてほしい、とも思う。
2015年ツール第20ステージでのキンタナとのコンビネーションは完璧だった。そして、2016年ブエルタでキンタナが総合優勝するきっかけとなった第15ステージでの、フルームらの残るメイン集団での働きなど・・・アシストとして働いたときのバルベルデは本当に頼りがいのある男となるのだ。
一方で彼もまた、遠くない将来に「引退」の瞬間を迎えることになるだろう。そうなったとき、彼が最後に選ぶレースは一体何になるのだろうか。
ミケル・ランダ(スペイン、29歳)
脚質:クライマー
2015年ジロ・ディタリア総合3位
2017年ツール・ド・フランス総合4位
この男が最初に脚光を浴びたのは、2015年のジロ・ディタリア第5ステージだったように思う。残り5.5kmでアタックを仕掛けたコンタドールについて行けたのは、リッチー・ポートとアル、そしてこのランダだけだった。
のちにランダはこのジロでステージ2勝を挙げた。第20ステージでも逃げに乗り、エースのアル以上の順位でフィニッシュを迎えることもできる状態だった。それでも、最後はチームのオーダーに従う走りを見せ、自らの勝利の可能性を捨て、アルのために最後まで尽くした。同年のブエルタもまた、アルと共に出場し、ステージ1勝を挙げたうえでアルの総合優勝を支えた。
アシストとしては最強の男。だがエースとして走ることを強く望んだ彼は、2年間過ごしたアスタナを去り、チーム・スカイへの移籍を決めた。
移籍の条件とも言うべきグランツールでのエース――その約束は直ちに、2016年のジロで果たされた。しかしこのときは体調不良に罹り、2週目の冒頭にはもうイタリアを去っていた。翌年、すなわち今年のジロは、ゲラント・トーマスとのダブルエース体制。トーマスをリタイアに追い込んだ大落車に自らも巻き込まれ、総合争いからは完全に脱落してしまった。なんとかステージ勝利と山岳賞は得られたものの、満足のいくレースとはならなかった。
そしてツールでは、フルームに匹敵するが如き実力を見せつけた。だがやはり、フルームのいるスカイではアシスト止まり。だから彼は再び新天地を求めた。今度は母国スペインのチーム、モビスター。
この選択が正しいのかどうかはわからない。キンタナにバルベルデといった長く在籍する強力なエースのいるチーム。果たしてどんな走りを見せてくれるのか。
実力は申し分ない。だが、ステージレースでの総合優勝やクラシックでの勝利では満足しないだろう。彼が目指すのはあくまでもグランツールの表彰台、できればその頂上。果たしてこのモビスターでその夢に近づけるのだろうか。
その他注目選手
ホセホアキン・ロハス(スペイン、33歳)
脚質:スプリンター
ケース・デパーニュ時代から在籍し、来年で12年目となる。モビスター一筋の男。スプリンターとは言うものの、集団スプリントで上位5名に入るような走りはあまり見せず、むしろ平坦牽引役などのルーラー的な役回りが多い。とくに今年出場したジロとブエルタでは、いずれも山岳逃げだったり前待ちだったりと、平坦に限らない走りも見せられる非常に有能なベテラン。キンタナ、バルベルデ、ランダそれぞれのグランツールにおける活躍には無くてはならない存在と言えるだろう。
とはいえ、やはり彼自身の勝利も、見てみたい。今年はアムステルゴールドレースで5位。アムステルはバルベルデにとってもあまり狙っていかないレースなので、JJロハスにはぜひチャンスを掴んでほしいところ。
アンドレイ・アマドール(コスタリカ、32歳)
脚質:オールラウンダー
2015年ジロ総合4位。2016年ジロ総合8位。マリア・ローザ着用経験もアリ、それがゆえに母国でお痛をしたことが昨年のチクリッシモ選手名鑑にも載っており、有名な話となっている。
当然それだけ実力のある選手のため、キンタナらのアシストを任せると非常に有能。2016年ジロのバルベルデ、そして2017年ジロのキンタナを支えた。
だが今年のツールはイマイチな結果に終わった。ジロからの連戦とはいえ、同条件でより活躍していた選手もいた。
また、本人の勝利は2012年以来なく、その勝利がプロ生活で唯一の勝利である。現在の契約は来年いっぱい。その次の年に移籍する可能性も、十分ありうる選手かもしれない。
ウィネル・アナコナ(コロンビア、30歳)
脚質:クライマー
アマドール:ジロは良かったがツールではまったく活躍できず。 バルベルデ:今年はツールで初日リタイア。 ランダ:読めない。 ということで、最も安定し、キンタナにとって一番頼りになるアシストがこのアナコナである。2013年・2015年ツール総合2位も、2014年ジロ総合優勝も、このアナコナの働きによるところが大きい。今年の秋のイタリアンクラシックでも、アマドールがさっさと脱落する中で長時間牽引するなど、相変わらずの働きっぷりを見せつけていた。最強の右腕。フルームにとってのプールスのような存在である。
となれば、プールスのようにアルデンヌでの勝利なども期待したいどころだが、実際にはバルベルデもいるし、まあ、難しいだろうなぁ。
カルロス・ベタンクール(コロンビア、29歳)
脚質:パンチャー
かつて、突然の里帰り戻ってこない事件や太りすぎ事件などを引き起こした人物とは思えない。昨年あたりから再び調子を取り戻してきて、今年のフレッシュ・ワロンヌではエースのバルベルデのために、逃げを次から次へとアタックして潰す献身的な働きを見せた。そしてハンマークライムでの力強い走りと、そしてツール・ド・フランスではアマドール以上に役立つ山岳アシスト力を見せつけた。
来年もアルデンヌ系クラシックとグランツールでの山岳アシストに期待。もう子豚ちゃんとは言わせない。(でもなんでいつも不安そうな顔してるの?)
ヤッシャ・ズッターリン(ドイツ、26歳)
脚質:TTスペシャリスト
シーズン冒頭のダウンアンダーで単独逃げを敢行しており、おやっと注目し始めた選手だったが、今年は国内選手権ITTでマルティンに次ぐ2位、ツールのITTでも悪くない走りを見せるなど、少しずつ才能を見せつけつつある。
モビスターには珍しいドイツ人、ということも注目した理由ではあるが、この辺りは自転車メーカーとの絡みもあるのだろう。色白だが堀が深くイケメン。
マルク・ソレル(スペイン、25歳)
脚質:クライマー
2年前のラヴニール覇者。今年はパリ~ニースでコンタドールと逃げたのち、カタルーニャ1周では新人賞も獲得した。初のグランツールとなったブエルタでも積極的な走りを度々見せながら完走するなど、十分なシーズンを過ごせたと言える。
来年は新人賞期間最後の年。何かしら大きな結果を期待したいところ。国内選手権ITT部門でも4位となるなど、独走力も決して低くない。
カタルーニャ1周終盤で、新人賞ジャージを着ながら、コンタドール、バルベルデ、フルームといった強豪たちを牽引して走る。この経験をもとに、来年爆発することが楽しみな選手の1人である。
2018年ツール 出場メンバー案
1.ナイロ・キンタナ(総合エース)
2.アンドレイ・アマドール(山岳アシスト)
3.ウィネル・アナコナ(山岳アシスト)
4.ダニエル・ベンナーティ(平坦アシスト)
5.イマノル・エルビーティ(平坦アシスト&石畳要員)
6.ミケル・ランダ(山岳アシスト)
8. アレハンドロ・バルベルデ(山岳アシスト)
山岳アシストの豪華ぶりはスカイすら凌ぐ可能性があるレベル。その分平坦アシストの層が薄くなると不安ではあるが。また、チームTTも決して短い距離ではないので、山岳アシストもこなせるオリヴェイラ辺りを連れてくる可能性は十分にあるだろう。
どんなに豪華な面子を揃えても、機能しない結果に終わるのもモビスターでは良くあること。メンバー選定は細心の注意が必要となるだろう。
総評
まあ、北のクラシックは絶望的。エルビーティ1人が頑張ってどうにかなるとは思えないし。強力なクライマーたちが揃っているので、グランツールでは絶対に結果を残したい。今年のバルベルデはモビスター全勝利数の半分近くを賄っているので、彼が今年ほどの結果を出せなくとも勝利数を稼げるように、各種ステージレースも含めた区間勝利の数を増やせるようなレースの仕方が課題となるかもしれない。
バルスやロソン、セプルヴェダといった新加入メンバーはその辺りの小回りの利いた走り方を十分にできる選手たちだ。低クラスでも構わないので勝利を稼げるか。
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*1:PCSでは94勝の表記。ただし100勝達成の記事もあり。要検証。