読み:モビスター・チーム
国籍:スペイン
略号:MOV
創設年:1980年
GM:エウゼビオ・ウンスエ(スペイン)
使用機材:キャニオン(ドイツ)
2019年UCIチームランキング:7位
(以下記事における年齢はすべて2020年12月31日時点のものとなります)
参考
Movistar Team 2018年シーズンチームガイド - りんぐすらいど
Movistar Team 2019年シーズンチームガイド - りんぐすらいど
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2020年ロースター
※2019年獲得UCIポイント順。
キンタナ、ランダ、カラパス、アマドール、フェルナンデス・・・有力選手の放出はどのチームにもあることだが、これほどの数が一気に放出されるなんてことはなかなか例を見ない。その裏にはイネオスやモビスターの多くの選手の代理人を務めるジュゼッペ・アクアドロとモビスターとの不仲もあるようではあるが、少なくとも言えるのは、2020年のモビスターがこれまでの「最強候補」と比べて一気に・・・一気に戦力ダウンしてしまうということ。
逆に、良い意味での大きな変化を迎えるチャンスなのかもしれない。チームの半数が入れ替わる今回、意識的にとしか思えないくらいに「若手」選手を大量に獲得している。これほどの規模と経験をもつチームが全力で若手育成に力を振ったらどうなるか、というのは見てみたい。UCIポイントだけで見れば明らかな「戦力ダウン」だが、意外と2020年は、あるいはその先において、その予想を超えた活躍を見せてくれるかもしれない。
その筆頭がマスとソレルである。いずれも、今後のスペイン人オールラウンダーの中心に立つことが間違いのない才能あふれた若手選手である。アマドールやフェルナンデスが抜けた穴は、アスタナから獲得した強力な山岳アシスト、カタルドとヴィレッラが埋めてくれる。
ツール・ド・ラヴニールで活躍してくれたマッテオ・ジョルゲンセン(ポイント賞。終盤までマイヨ・ジョーヌを着続けた)、マティアス・ノルスガード(第1ステージ優勝の身長2mTTスペシャリスト)の2大新人も期待大である。ただ、ノルスガードはトレーニング中の事故で、いきなり初年度の半年は戦線離脱してしまいそうなのが残念だ。
2020年はこのチーム、もしかしたら沈んでしまうかもしれない。しかしその中で、着実にその地盤を固めていく姿を、楽しみに眺めていきたいチームだ。
注目選手
アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、40歳)
脚質:オールラウンダー
2019年の主な戦績
- ツール・ド・フランス総合9位
- ブエルタ・ア・エスパーニャ区間1勝、総合2位
- イル・ロンバルディア2位
- ミラノ〜サンレモ7位
- ロンド・ファン・フラーンデレン8位
- UAEツアー総合2位
- クラシカ・サンセバスティアン10位
- ルート・ドクシタニー総合優勝
- 世界ランキング5位
世界王者として過ごした1年間は、さすがにこれまでの絶好調ぶりはやや衰えを見せた。といいつつ世界ランキング5位にブエルタ・ア・エスパーニャ総合2位とか、衰えとは何なのか、というレベルだけれども。
ただ、さすがの彼も、引退という言葉を口にし始めてはいる。2021年末がその候補だという。そして、2020年は、彼がまだ手に入れられていない栄冠の1つである、オリンピックの金メダルを目指す。
だが、それでいて彼はツール・ド・フランスもしっかり出場するという。ただ強いだけでない、常に私たちを驚かせ、ワクワクさせてくれる。
この男は、間違いなくスーパースターである。
エンリク・マス(スペイン、25歳)
脚質:クライマー
2019年の主な戦績
- ツール・ド・フランス総合9位
- ブエルタ・ア・エスパーニャ区間1勝、総合2位
- イル・ロンバルディア2位
- ミラノ〜サンレモ7位
- ロンド・ファン・フラーンデレン8位
- UAEツアー総合2位
- クラシカ・サンセバスティアン10位
- ルート・ドクシタニー総合優勝
- 世界ランキング5位
2017年、アルベルト・コンタドールがそのキャリア最後のレースとなったブエルタ・ア・エスパーニャの第20ステージ「アングリル」。その感動的なフィニッシュを(それとなく)支えたのが、別チームに所属していたこのマスだった。彼は、コンタドールが運営する、スペインの育成チーム出身の選手だったのだ。
それもあって、翌日のマドリードではコンタドールから「スペイン自転車界の未来」と称賛される。その言葉が感謝の意味を込めたお世辞なんかでは決してなく、真実であったことを、翌年、2019年のブエルタ・ア・エスパーニャで見事に証明してみせた。
すなわち、最後の山岳ステージとなる第20ステージでの、感情を爆発させたガッツポーズによるステージ勝利。それも、ほぼチームメートの助けがない中で、耐え抜いて、耐え抜いて、掴み取ったチャンスであった。
これで総合2位。グランツール初出場であった前年のブエルタで総合71位。2回目のグランツールにしてこの成績は、驚異的であった。
それがゆえに、高まる期待は、2019年におけるツールデビューに繋がった。
しかし、当初予定されていたはずの、マスのためのチームを作る、というのは実現されず、やはりヴィヴィアーニを中心としたスプリント体制が構築され、マスはまたも孤軍奮闘を余儀なくされた。
さらに、ジュリアン・アラフィリップの躍進。マスは彼のアシストを担う立場になっていくが、その際も、いまいち、前年通りの力は発揮できずに終わった。
消化不良のシーズンだったに違いない。だからこそ、彼は2020年には大きな期待と野心を抱いているはずだ。しかも、地元スペイン最大のチームで、キンタナやランダ、カラパスがいない中、エース候補として走れるチャンス。
彼が本当に「スペインの未来」なのかどうかは、この2020年にある程度はっきりしそうだ。
マルク・ソレル(スペイン、27歳)
脚質:オールラウンダー
2019年の主な戦績
- ブエルタ・ア・エスパーニャ総合9位
- ツール・ド・スイス総合12位
- ツール・ド・フランス総合37位
- ブエルタ・アラゴン総合8位
- 世界ランキング245位
2015年ツール・ド・ラヴニール覇者。2017年のパリ〜ニースあたりからその実力がはっきりと現れてきていたが、2018年にはついにパリ〜ニース総合優勝を成し遂げる。それも、前2年、アルベルト・コンタドールが試みて失敗に終わった「エズ峠総合大逆転」を見事に成し遂げて。2018年はツール・ド・フランスでトリプルエースをほぼ一人で支える重要な役割も果たした。
2019年でもその実力は衰えていない。たしかに勝利はないし、パリ〜ニースでも序盤に横風でタイムを失って連覇を果たせなかったが、ブエルタ・ア・エスパーニャでは、ビッグ5(ログリッチェ、バルベルデ、キンタナ、ポガチャル、ロペス)に食らいつく唯一のアシスト選手であった。アシスト拒否、と取れるようなアクションに関する騒動もあったが、間違いなくあの大会で最も強い選手の1人であった。
そして、キンタナもランダもカラパスもいなくなる2020年は、ソレルにとって、誰にも邪魔されずにエースとして走る大きなチャンスを与えられることに。もちろん、マスはいる。彼との間でグランツールを分け合うことにはなるだろうが、少なくとも1つは、エースとして走れる。
2020年、その躍進を最も期待したい男の一人が、このソレルである。
その他注目選手
エドゥアルド・プラデス(スペイン、33歳)
脚質:パンチャー
2014年に日本のマトリックス・パワータグに所属したこともある選手。兄のベンジャミン・プラデスは現チーム右京である。
カハルラル、エウスカディ・ムリアスを経て、着実に成績を積み重ねながらモビスターへ。エウスカディ時代の2018年には、ツアー・オブ・ターキーとツアー・オブ・ノルウェーといったパンチャー向けのステージレースで総合優勝、ツール・ド・ヨークシャーでも総合2位だった。
2019年はそれと比べるとややマイルドになったが、それでもブルターニュ・クラシック10位やGPインダストリア・アルティジアナート9位など、やはりパンチャー向けの各種レースで強さを発揮する。
キンタナ、ランダなど有力選手たちが抜けた後のモビスターの中では、UCIポイント順で3位。苦しいシーズンを迎えることになるこのチームにおいて、その活躍が期待される選手だ。これまで以上の実績が求められる。例えば・・・グランツールでのステージ優勝など!
ダヴィデ・ヴィレッラ(イタリア、29歳)
脚質:クライマー
2016年ジャパンカップ覇者にして、2017年ブエルタ・ア・エスパーニャ山岳賞獲得者。そして2019年においては、アスタナ・プロチームの強力な山岳アシストの1人であった。脚質はパンチャー寄りだったが、着実にその力を伸ばし、今はクライマーと呼んでも差し支えがない。
アマドールも失う2020年のモビスターにおいて、残されたマスやソレルを助ける貴重な山岳アシストとしてその価値は高い。2020年のモビスターは、決して沈んでよい船ではない。それを支えるべきは、この男だ。
総評
グランツールは2019年ブエルタ総合2位のバルベルデ、2018年ブエルタ総合2位のマス、そして2018年パリ~ニース総合優勝かつグランツールでは最強山岳アシストだったソレルがおり、アスタナから獲得したヴィレッラとカタルドといったアシストもいるため、1つはグランツールを制してもおかしくはない。少なくとも表彰台は狙えるだろう。
アルデンヌとステージ優勝はまだまだバルベルデにおんぶにだっこといったところ。とにかくこのチームに求められるのは、バルベルデに次ぐ突き抜けたスーパースターの登場だ。2020年、その「進化」の行方を見守っていきたい。
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