りんぐすらいど

サイクルロードレース情報発信・コラム・戦術分析のブログ

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Mitchelton-Scott 2020年シーズンチームガイド

 

読み:ミッチェルトン・スコット

国籍:オーストラリア

略号:MTS

創設年:2011年

GM:シェイン・バナン(オーストラリア)

使用機材:Scott(スイス)

2019年UCIチームランキング:8位

(以下記事における年齢はすべて2020年12月31日時点のものとなります) 

 

参考 

Mitchelton-Scott 2018年シーズンチームガイド - りんぐすらいど

Mitchelton-Scott 2019年シーズンチームガイド - りんぐすらいど

 

 

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2020年ロースター

※2019年獲得UCIポイント順。

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実はメンバーの入れ替えが全チーム中最もないのでは?  かつてのエースであったチャベスが復活せず、インピーも2019年は活躍したが、年齢も高く、まだまだ活躍できるかは微妙。メズゲッツもまだ若い方だが、果たして同じ活躍を続けられるタイプかというと・・・

そう考えると、かつての強豪チームという雰囲気とは裏腹に、結構脆い足場の上に成り立っているチーム。イェーツ兄弟の活躍がなければ、存在感はもっとずっと薄くなっていたかもしれない。

そんな中、オーストラリアの若手育成プロジェクトの出身者たちの成長に大きな期待をかけたい。2019年は、ジャック・ヘイグがアシストからエースへと進化する途上を見せてくれていたし、ホーゾンとヘイグに次ぐ強力な山岳アシストとしてのルーカス・ハミルトンの台頭を見ることができた。

この2人の若き才能溢れるクライマーは、2020年のブエルタでエースを担う可能性が浮上している。カデル・エヴァンス以来となるオージーチャンピオンの誕生を楽しみにしたい。

 

 

注目選手

アダム・イェーツ(イギリス、28歳)

脚質:クライマー

Embed from Getty Images

2019年の主な戦績

  • ティレーノ〜アドリアティコ総合2位
  • ボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャ総合2位
  • リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ4位
  • イツリア・バスクカントリー総合5位
  • クロ・レース総合優勝
  • ブエルタ・ア・アンダルシア総合5位
  • ミラノ〜トリノ3位
  • ツール・ド・フランス総合29位
  • 世界ランキング18位

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2018年はサイモンに比べ振るわなかったアダム。ただ、ブエルタではサイモンをアシストする姿に強さを見出せた。そして2019年。今年こそは、という思いと共に、まずはティレーノ〜アドリアティコで、2019年最強の男ログリッチェにわずか1秒差という熾烈な争いを繰り広げた。

www.ringsride.work

 

続くボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャでも、サイモンとのタンデムアタックなどの見せ場を作りながらの総合2位。期待度が高まる中、ツール・ド・フランスを迎えた。

結果として、2019年のグランツールにおいても、アダムは実績を出すことができなかった。一方のサイモンが、総合を狙わないフリーな走りをする中で、ツール・ド・フランス区間2勝を手に入れたこととは対照的なように・・・2019年もアダムにとっては失敗の年だったのか?

いや、そうとは言い切れない。たとえばリエージュ〜バストーニュ〜リエージュの4位、ミラノ〜トリノの3位。もともとパンチャー的な気質をサイモン以上に持っていた彼は、ワンデーレースにおいて才能を発揮し始めている。アルデンヌ系クラシックランキングでも15位。ヨークシャー世界選手権でも、サイモンではなくアダムが選出されていた。

2020年の目標はまだ定まっていないが、この方向性をさらに伸ばしていくのはありだと思う。もちろん2020年のその方向性の終端にあるのは、東京オリンピック、そして2019年以上にクライマー向けのスイス世界選手権である。

 

 

サイモン・イェーツ(イギリス、28歳)

脚質:クライマー

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2019年の主な戦績

  • ジロ・デ・イタリア総合8位
  • ツール・ド・フランス区間2勝、総合49位
  • パリ〜ニース区間1勝、総合25位
  • ボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャ総合13位
  • 世界ランキング102位

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2018年のジロ・デ・イタリアで奇跡のような走りを見せながらも最後失墜し、しかし同年のブエルタでいきなりのリベンジを果たした男。「忘れ物を取りに行く」ために挑んだ2019年のジロ・デ・イタリアでは、十分な力を振るえずに終わった。

それ以外にも、全体を通して、2019年のサイモンは「振るわなかった」。各種ステージレースでも早々にタイムを失い、総合争いに加わることはなかった。ツール・ド・フランスでも、同様に。

ただ、だからといってサイモンが今年「弱かった」かというと、そうでもないような気がする。たしかにUCIランキングは低いけれども、そこだけでは見出せない部分で、今年のサイモンは十分に強かった、と感じるのだ。

たとえば、ブエルタ・ア・アンダルシアではタイムを失った代わりに逃げ切りステージ優勝。パリ〜ニースでもタイムトライアルでのまさかの勝利。カタルーニャではアダムに対する強力なアシストを行い、「タンデム走行」も見せつけた。そして何よりも、ツール・ド・フランス2勝。

8月以降はほぼレースに出なかったこともありUCIポイントは取れていないが、その存在感を十分に示すことのできたシーズンだったとは思う。

2020年は、ジロ・デ・イタリアへの3度目の挑戦を主軸に置く。また、東京オリンピックへの強い意欲も燃やしている。

「休息」期間は終わりを告げた。再びグランツールで、鮮烈な強さを見せてくれ。

 

 

ジャック・ヘイグ(オーストラリア、27歳)

脚質:クライマー

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2019年の主な戦績

  • パリ〜ニース総合4位
  • ブルターニュ・クラシック3位
  • イル・ロンバルディア6位
  • GPブルーノ・ベヘッリ3位
  • ブエルタ・ア・アンダルシア総合6位
  • GPシクリスト・ド・モンレアル11位
  • ツール・ド・フランス総合38位
  • 世界ランキング46位

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2018年ジロとブエルタでサイモンの躍進を支えた名山岳アシスト・・・という印象だった彼も、2019年はこのチームの「第4のエース」ともいうべき走りを見せつけていた。ブルターニュ・クラシックでは最後の3名に残り、GPシクリスト・ド・ケベック[リンク]では、終盤に抜け出した危険な4名を集団に引き戻す最も重要な役割を果たしていた。

その実績を受け、チームとしても2020年のブエルタ・ア・エスパーニャでは、イェーツ兄弟でもチャペスでもなく、ルーカス・ハミルトンとこのヘイグをエースに据えようとしているようではある。

www.ringsride.work

 

冒頭に書いたように、意外とこのチームはエースが少なく、トレンティンも移籍してしまう2020年は、「イェーツ兄弟だけ」になりかねない。ヘイグの存在は、非常に重要だ。

 

 

その他注目選手

ルーカス・ハミルトン(オーストラリア、24歳)

脚質:クライマー

2019年冒頭のオーストラリア、ツアー・ダウンアンダーとカデルエヴァンス・グレートオーシャンロードレースにて、ダリル・インピーを支える重要なアシストとして活躍。一気に注目した。

www.ringsride.work

 

その後も、セッティマーナ・コッピ・エ・バルタリでも登りでミケル・ランダに食らいつく走りを見せた結果、総合優勝。ジロ・デ・イタリアでは、期待通りの山岳アシスト力を見せ、チャベスが崩れ落ちたあとも、最後までサイモン・イェーツの傍に寄り添い続けた。

この男は間違いなく、本物だった。

チームとしても彼の未来には大きく期待をかけているようで、現時点では2020年のブエルタ・ア・エスパーニャは彼とヘイグをエースに据える計画があるという。

個人的には、まだグランツールのエースを任されるには経験が必要だとも感じている。より強力な山岳アシストとなるべく、2020年もイェーツ兄弟やチャベスの傍にいてほしいという思いはある。

 

 

ルカ・メズゲッツ(スロベニア、32歳)

脚質:スプリンター

これまでは基本的に、マッテオ・トレンティンの発射台、というイメージだった。あるいは、登りスプリントやクラシック風味の荒れた展開における強さを発揮するトレンティンに対し、ピュア平坦スプリントでの強さを発揮するメズゲッツ、みたいなイメージで。

しかし、ツール・ド・ポローニュでの2勝、それに先立つツアー・オブ・スロベニアでのステージ優勝は、そんな彼のイメージを塗り替えた。ただ、よくよく振り返ってみれば、2014年にはボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャの山々を乗り越えたスプリントで3勝を叩き出している。当時はジャイアント・シマノのマルセル・キッテルやジョン・デゲンコルブに並ぶ才能と期待されたものだった。ジロでも優勝した。しばらくの沈黙の後、再びこの男が、その才能を蘇らせ始めた。

トレンティンがいなくなる2020年は、ダリル・インピーと並ぶスプリント陣のエースとなりうるだろう。インピーがよりパンチャー的、山岳エスケーパーorアシスト的な働きを志向すれば、より純粋なスプリントにおける責任はメズゲッツが背負うことになるだろう。

 

 

アンドレイ・ゼイツ(カザフスタン、34歳)

脚質:クライマー

カザフスタン人がアスタナを離れる、というイメージがあまりなかったため、この男の移籍は衝撃であった。とくにこの男は、アスタナでプロデビューを飾ってから12年にわたり、18回のグランツールに出場し、ヴィンツェンツォ・ニバリの2回のジロ制覇とファビオ・アルのブエルタ制覇とを支えたチームの超重要アシストであったのだから。

そのチーム離脱の理由は不明だが、ミッチェルトンにとってこれほど心強い存在はあるまい。すでにしてヘイグやホーゾン、ニエベ、ハミルトンなど強力な山岳アシストはいるものの、そこにこのグランツール総合優勝請負人が加わることで、このチームがグランツールでの存在感を示す重要な道を進むことになるだろう。

あとは彼がどれだけチームにフィットすることができるかどうか。

 

 

総評

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トレンティンが抜けステージ優勝力と北のクラシック力は確実に減った。実は全体的なUCIポイントもかなり減っている印象で、イェーツ兄弟が結果を出せなければ、かなり脆い状態にあると言ってよいだろう。

その中で注目したいのがヘイグの成長。すでに彼は、チームの4人目のエースだ。まずはステージレースやアルデンヌ系クラシック、そしてもしかしたらエースで出場するかもしれないブエルタ・ア・エスパーニャでの活躍に期待したい。

また年齢は高いがまだまだスプリント、山岳逃げ切り、山岳アシストとバリエーション豊かに活躍ができるインピー、そして数年の沈黙を経て再び本来の実力の高さを取り戻してきたメズゲッツの、失った穴を埋め合わせるだけの活躍を楽しみにしている。

 

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