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2020年シーズンを振り返る② 今年のベストレース5選(+1)【後編:2位~1位+番外編】

 

【前編:5位~3位】に続き、独断と偏見で選ぶ私的ベストレース5選の後半戦、2位~1位そして「番外編」をお送りする。

とはいえ、ある程度は一般的な視点を意識はする。個人的な趣味が出ていたのはどちらかというと5位~3位の方だったかもしれない。

 

それでも、番外編のレースについてはどうしても取り上げておきたかった。結局はこういうレースが好きなのだ。

 

 

今年も実に素晴らしいレースが多かった。

まだまだ状況は予断を許さず、2021年シーズンも決して「元通り」のものになるとはあまり思えない。

 

だがそれでも、ときに命を懸けて、走り続ける選手たちに最大のリスペクトを持ちつつ、個人的に印象に残った今年を象徴するレースたちをお送りしていく。 

 

 

【前編:5位~3位】はこちら

www.ringsride.work

 

【参考:過去の「振り返る」シリーズ】

2016年シーズンを振り返る カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど

2017年シーズンを振り返る カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど

2018年シーズンを振り返る カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど

2019年シーズンを振り返る カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど

 

【参考:過去の「ベストレース」シリーズ】

2016年シーズンを振り返る③ ~今年のベストレース4選~ - りんぐすらいど

2017年シーズンを振り返る① 今年のベストレース4選+1 - りんぐすらいど

2018年シーズンを振り返る① 今年のベストレース4選+1 - りんぐすらいど

2019年シーズンを振り返る① 今年のベストレース4選 - りんぐすらいど

 

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第2位 ロンド・ファン・フラーンデレン

相変わらず毎年、ドラマを生み続けるのがこのロンド・ファン・フラーンデレンというレースだ。

今年もそれは例外ではなく、誰もが想像しなかった展開と、誰もが想像しながらも実現するとは思っていなかった展開とが、同時に巻き起こった。

 

 

レースはジュリアン・アラフィリップによる実にアグレッシブな攻撃の連打によって始まった。

残り45㎞地点の「コッペンベルフ」を前にした平坦区間。

イネオスのディラン・ファンバーレのアタックに合わせ、ドリス・デヴェナインスに牽かれる形で、北のクラシック初挑戦の世界王者が飛び出した。

 

この動きはすぐさま押さえ込まれるが、続く激坂コッペンベルフにて2度目のアタック。

これもワウト・ファンアールトやマチュー・ファンデルポールを含む精鋭集団によって飲み込まれ、やがてチーム・サンウェブが牽引するメイン集団も合流して1つに。

 

だが、残り40㎞から始まるシュテインビークドリシュの下りで、アラフィリップはこの日3度目のアタックを繰り出した。 

 

そしてこの3度目のアタックで、アラフィリップは完全に集団から抜け出した。

唯一食らいついていけたのがマチュー・ファンデルポール。そしてこのライバルの動きを絶対に逃すまいと、猛烈な勢いで単独追走を仕掛けてきたワウト・ファンアールトがのちに合流。

 

オリバー・ナーセンを先頭に追いかけるメイン集団は、ナーセン以外が軒並み消極的な動きを取ったことでペースが上がらず。

フィニッシュまで40㎞を残し先頭3名、マチュー・ファンデルポール、ワウト・ファンアールト、そしてジュリアン・アラフィリップの逃げ切りがほぼ濃厚となった。

Embed from Getty Images

 

シクロクロス世界王者を3度経験し今年のミラノ〜サンレモを制したワウト・ファンアールト。

同じくシクロクロス世界王者を3度経験している自転車の天才、マチュー・ファンデルポール。

そして今年のロードレース世界王者ジュリアン・アラフィリップ。

世界最強の3人が先頭に集い、勝敗を争うというまさに贅沢な展開。

このまま、アラフィリップは初挑戦のクラシックの最高峰レースで、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュの雪辱を晴らすことができるのかーー。

 

と、思っていたところで、まさかの展開。

アラフィリップが少しよそ見をしていた瞬間に、路肩に止めてあったモトバイクを先頭のマチュー・ファンデルポールがギリギリで回避。

背後のワウト・ファンアールトは難なく反応できたものの、顔を上げた瞬間に目の前にバイクが現れた格好となったアラフィリップは、なすすべなくその障害物に正面衝突してしまった。

 

激しく地面に叩きつけられるアラフィリップ。

絶叫と共に、身動きが取れなくなる世界王者。

フランスの英雄は大いなる栄光の可能性を目の前にして、突如としてその機会を奪われる形となった。

 

歓喜と失望。

この1年のアラフィリップは、まさにジェットコースターのような感情の揺れ動きを経験しつつ、唐突にそのシーズンを終えた。

 

 

 

そうして思いがけなく2人旅となった先頭では、恐ろしいほど静かな道のりを歩んでいた。

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シクロクロスの舞台ではすでに5年以上頂点で鍔迫り合いを続けている2人。

だが、こうしてロードレースの舞台で2人だけで先頭を走るというシチュエーションは初めてであった。

互いの手の内、性格は十分に理解していたはずだ。

だから例年決定的な勝負所になっているオウデクワレモントもパテルベルクも、2人の間に差をつけることはできなかった。

 

 

そして迎えた、運命のラスト1㎞。

 

先頭はマチュー・ファンデルポール。

トラックのスプリント競技のように、何度も後ろを振り返りながらスローペースでフィニッシュに向かうファンデルポール。

ファンアールトは決して前に出ることなく、ひたすら「そのとき」を待ち続ける。

 

残り500m。

残り300m。

後続のメイン集団が迫り、そこからカスパー・アスグリーンがアタックしても、2人はまだ動かなかった。

 

残り200m。

ついに、マチュー・ファンデルポールが動いた。

 

すぐさま反応し、加速するワウト・ファンアールト。

勢いは、ファンアールトが上だった。

最高速度に達し、ファンデルポールの左隣に並び立つ。

 

そして、最後の瞬間。

バイクを投げる2人。決着はーー。

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わずかに、ファンデルポールが先行していた。

「クラシックの王」はマチュー・ファンデルポールにその手を差し伸べた。  

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のちに、「待ち過ぎた」と告げたワウト・ファンアールト。

たしかに、空撮で見ていると、フィニッシュ直前にファンデルポールが力を失いかけている様子がわかる。

もしあと100、いや50m残っていれば、ファンアールトが差し切っていたかもしれない。

もしかしたら彼は、最後の最後、マチュー・ファンデルポールという巨大なライバルの存在に、警戒し過ぎていたのかもしれない。

 

 

いずれにせよ、世界最高峰の舞台で繰り広げられた、世界最高峰の2人による一騎討ちは、まずはファンデルポールの勝利に終わった。

 

だが、この2人による戦いはこれからもまた幾度となく繰り返されていきそうな気はする。

 

この結末は始まりに過ぎない。

これから先もこの2人が描く伝説を楽しみにしていよう。

 

 

 

第1位 ツール・ド・フランス第20ステージ

タイムトライアルレースをここに持ってくるのはなかなか珍しいだろう。

しかし2020年を最も象徴し、最も衝撃的であったレースはこれしかない。

少なくともこれは、実に「歴史的な」レースであった。

 

もちろん、その衝撃を正確に伝えるためには、この日だけを語っても意味がない。

そこまでの19日間の間にユンボ・ヴィズマとプリモシュ・ログリッチが積み上げてきたものについて、まずは語る必要があるだろう。

 

 

2012年から2019年まで、2014年を除く7年間ツールを支配し続けてきた「帝国」チーム・スカイ/イネオス。

今シーズンに関しても昨年覇者エガン・ベルナルに2018年覇者ゲラント・トーマス、そしてツール4勝を記録するクリス・フルームらが集い、万全の体制であると思われていた。

 

しかし、これに対抗する存在として今年、急浮上してきたのがユンボ・ヴィズマというチームであった。

かつてはラボバンク、あるいはベルキン、ロットNLユンボなどと呼ばれてきたこのチームは、エースのプリモシュ・ログリッチやステフェン・クライスヴァイクなどを先頭に、近年急速にグランツールでの実力を高めつつあった。

 

2018年のツールではログリッチとクライスヴァイクが総合4・5位。2019年のツールではクライスヴァイクが総合3位となり、ログリッチがジロ総合3位、ブエルタ総合優勝と、ある意味イネオス以上の成績をグランツールで叩き出してもいた。

そして今年はそこに2017年ジロ覇者・2018年ツール総合2位のトム・デュムランも加わり、イネオスに負けず劣らずの万全の構え、といった様相であった。

 

 

そして再開された今年のロードレースシーズンにおいて、早速勃発した「ツール・ド・フランス前哨戦」ツール・ド・ランとクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ。

その2つのレースにおいて、ユンボ・ヴィズマはイネオスを圧倒した。

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むしろイネオスはこのレースにおいてクリス・フルームとゲラント・トーマスのコンディションが十分でないと判断し、両名をツールのメンバーから外すことに決めた。

ユンボ・ヴィズマもステフェン・クライスヴァイクが落車により負傷し、ツールへの出場を回避することにはなったものの、その勢い、体制において、今年のツールはいよいよイネオスが敗れるときが来るのか、という予感が広まることとなった。

 

 

そして実際に、イネオスは崩れた。

初日の悪コンディションの中で筆頭アシストのパヴェル・シヴァコフが繰り返し落車に見舞われたことや、直前のドーフィネでベルナルが途中リタイアする原因となった背中の痛みがぶり返したことによって、第2週最終日グラン・コロンビエにてベルナルは脱落。翌週頭にバイクを降りる決断を下した。

 

以降のイネオスは積極的な逃げやステージ勝利などまた別の活躍をして見せてはくれたものの、6年連続の総合優勝はなくなり、「帝国」はたしかに崩壊した。

代わりに台頭した新・帝国ユンボ・ヴィズマのエース、プリモシュ・ログリッチが、そのまま新時代の最初のツール覇者となる

 

はずだった。

 

 

このログリッチに唯一対抗しうる存在と目されたのが、UAEチーム・エミレーツのエース、タデイ・ポガチャル。

2年前のツール・ド・ラヴニール覇者であり、今年22歳のネオプロ2年目。

 

しかし昨年のブエルタ・ア・エスパーニャにてまさかの区間3勝と総合3位に上り詰めた想像を超える天才の1人であり、事実このツール・ド・フランスでも第9ステージで早くも1勝し、第13ステージ以降はログリッチに次ぐ総合2位の座を守り続けていた。

 

第16ステージ終了時点でそのタイム差は40秒。

第7ステージでの横風分断による遅れ以外では、常にログリッチと同タイムか、彼よりも前でフィニッシュしている。

40秒というタイム差は、ログリッチやユンボ・ヴィズマにとっても、安心するにはあまりにも小さ過ぎるタイム差だった。

 

 

だが、クイーンステージの第17ステージで、ついにログリッチがポガチャルを突き放した。

このとき手に入れたタイム差はボーナスタイム込みで17秒でしかないが、これで両者の総合タイム差は57秒に。

およそ1分。続く第18ステージでポガチャルはなおも積極的な攻撃に出るがタイム差をつけることはできず、残る総合争いの舞台を第20ステージのラ・プランシュ・デ・ベルフィーユTT決戦を残すのみとなる。

 

 

たしかに今年のスロベニア国内選手権TTはポガチャルがログリッチを破り優勝している。

それが故に40秒というタイム差はまだ安心できないものではあったが、これが1分ともなると・・・

さすがにログリッチがこれを逆転されるような事態は、想像することすら、難しかった。

 

はず、だった。

 

 

 

だからこそこの日、第20ステージでは、そのほとんどの時間を「総合優勝争い」に注目するのではなく、あくまでも「ステージ優勝争い」もしくは「総合3位以下争い」に注目して見ていた。

実際、序盤で驚異的な記録を叩き出したレミ・カヴァニャ、そしてこれをさらに大きく上回る記録を出したワウト・ファンアールト、さらにこれを塗り替えるに至った元世界王者トム・デュムラン、といったステージ優勝を巡る争いの行方に常に注目していたのだ。

むしろここから分かるのはやはりユンボ・ヴィズマが万全だということ。

 

このまま、ログリッチも問題なくこの日を終えるだろう。

そう、思っていた。

 

 

第1計測地点では、ポガチャルがログリッチを13秒上回っていた。

 

それ自体は、そこまで驚くべきことではなかった。

ワウト・ファンアールトも後半にかけてペースを上げる走りをしていたし、むしろこれは、ポガチャルの焦りを反映した記録であるかのようにも思えていた。

 

 

 

だが、

第2計測地点をログリッチが通過したときに届けられた「36秒」というタイム差。

何か、信じられないようなことが、起こりつつあった。

 

 

ログリッチとポガチャルとの総合タイム差は57秒。

ログリッチに残された「貯金」は、もう半分も残っていなかった。

 

 

 

それでも、ここからログリッチが「本気」を出せば、十分に挽回できる、そう思うことだってできた。

何しろまだ20秒残っている。ここから先はラ・プランシュ・デ・ベルフィーユの激坂が待ち構えており、ポガチャルが飛ばし過ぎているのだとしたら、ここからペースがガクっと下がるはずなのだから。

 

しかし、画面に映るログリッチの様子がおかしい。

軽快に一定ペースでペダルを踏み続けているポガチャルに対し、ログリッチの走りにはどことなくぎこちない様子が見られた。

 

 

そして、登りの手前でのバイク交換。

 

ポガチャルは予定通り、観客との間にフェンスが設けられ十分に広い空間が保たれていた場所で、実にスムースなバイク交換を行うことができていた。

一方のログリッチは、フェンスのない空間で、後続のチームカーが観客たちに場所を開けろとジェスチャーしながら慌ててバイクを交換をしていた。

まるで、予定していなかったことをしているかのように無駄の多いバイク交換。

 

そして、ログリッチの表情からは完全に余裕が消えていた。

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それからの2人の走りにはより一層の差が生まれることとなった。

決してペースを乱さず、重いギアをシッティングで淡々と踏み続けるポガチャルに対し、ログリッチは頻繁にダンシングを挟みながら、軽いギアを回し続けている。

じわじわと失われていくログリッチの「貯金」。

数十分前まで想像していたものとはまったく違った結末が今、生まれようとしていた。

 

そして残り4.2㎞。

 

画面に表示されていたログリッチの「貯金」が、0になった。

 

 

それはわずか15分のできごとであった。

それまで84時間にわたり積み上げてきたユンボ・ヴィズマとプリモシュ・ログリッチの勝利への確信が、第2計測地点を通過したあとのわずか15分で、すべてをひっくり返されてしまったのだ。

 

この、22歳のネオプロ2年目の青年によって。

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決して、ログリッチがバッド・デイだったわけではない。

実際、ログリッチの成績はトム・デュムランから35秒遅れの区間5位。

決して悪い数字ではなかったのだ。

 

もしタデイ・ポガチャルが、元世界王者デュムランと同じタイムを叩き出したとしても、逆転はなかった計算になる。

にも関わらず、ポガチャルが叩き出したのはデュムランを1分21秒上回るという異次元過ぎる記録だったのだ。

 

すなわち、この日起きたこととは、タデイ・ポガチャルという男があらゆる人間の想像を超えた走りを見せたという、実にシンプルな出来事なのである。

 

 

 

ただただ強い走りを見た瞬間、もはや我々に語る言葉は残されていない。

この日の出来事は歴史に刻まれ、語られ続けていくだろう。

 

 

だが、一方で、本当に重要なのはこの先である。

ポガチャルがこの走りで終わってしまうのであればそれは奇跡と呼ばれることになるだろう。

「出来事」だけが歴史に刻まれるのでは意味がない。

 

アルベルト・コンタドールという男、クリストファー・フルームという男。

そういった男たちの名前が刻まれた2010年代に続く、2020年代という10年代には、一体どんな男たちの名が刻まれていくのだろうか。

 

 

それは今まさに、始まったばかりである。

 

 

参考リンク

www.ringsride.work

 

 

 

 

 

番外編  イル・ロンバルディア

このレースの名は、あまりにも辛く哀しい悲劇によって彩られ過ぎていて、「ベストレース」と形容するにはやや抵抗があった。

それゆえに、ここでは「番外編」として取り上げることとする。

 

だが、その悲劇があってもなお、そのクライマックスにおける攻防戦は実にドラマチックで、2020年シーズンを象徴するものであったと確信する。

その主人公はアスタナ・プロチーム。

もちろんそれは勝者ヤコブ・フルサンであり、そして、そのチームメートで3位に入った男、アレクサンドル・ウラソフである。

 

レースの全容は以下のリンクを参照していただきたい。

www.ringsride.work

 

 

ここでは、アスタナ・プロチームに焦点を絞って、振り返っていこう。

 

 

 

 

まず彼らが最初に攻撃を仕掛けたのが、このレース最大の難所であり、今大会の大きな勝負所となった「ムーロ・ディ・ソルマーノ」すなわち「ソルマーノの壁」である。

登坂距離1.9km、平均勾配15.8%、そして最大勾配27%という超激坂で、「不可能の怪物」などという呼ばれ方もしている。

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この登りにさしかかると同時に、集団牽引を開始したのがアスタナのネオプロ、ハロルド・テハダ。

昨年のU23コロンビア国内選手権ロードレース・TT王者であり、ツール・ド・ラヴニールでも1勝。

今年はモンヴァントゥ・デニヴレチャレンジでアレクサンドル・ウラソフの優勝を強力にサポートしながら自らも6位に入る活躍をしてみせた、コロンビア期待の新星の1人である。

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そしてこのテハダの牽引が終わったあと、前を牽き始めたのが、アレクサンドル・ウラソフ。

今年24歳の彼は2年前のU23版ジロ・デ・イタリア(ベイビー・ジロ)で総合優勝しており、昨年はロシア国内選手権エリート部門のロードレースで優勝。

今年はツール・ド・ラ・プロヴァンス区間1勝と総合2位、ルート・ドクシタニー総合3位、モン・ヴァントゥー・デニヴレ・チャレンジ優勝、グラン・ピエモンテ4位と絶好調のままにこのイル・ロンバルディアにやってきていた。

 

そんな彼の牽引によって集団は崩壊。

マキシミリアン・シャフマン、マチュー・ファンデルポール、マイケル・ウッズ、リチャル・カラパス、ラファウ・マイカ、そしてディエゴ・ウリッシといった実力者たちも、このソルマーノの壁のウラソフの牽引によって引き千切られ、最終的な勝負に絡むことができなくなってしまった。

そしてさらに言えば、ここで前年覇者バウケ・モレマとそのチームメートのヴィンツェンツォ・ニバリも遅れかける。

一応山頂を越えたあとに2人は先頭集団に復帰するのだが、一度力で遅れたものがその後挽回することはなかなか難しい。

結局、この日トレック・セガフレードは、ジュリオ・チッコーネ含め3名を先頭に送り込むことに成功したにも関わらず、表彰台すら手に入れられないという散々な結果を味わうことになる。

それもこれも、このソルマーノで優勝候補2人の足をズタズタに引き裂いたウラソフの力によるものであった。

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そして、例年最後の勝負所になることの多い残り16.5㎞地点「チヴィリオ」。

ここでボロボロのトレック3人組はあえなく沈没し、先頭はヤコブ・フルサン、ウラソフ、そしてユンボ・ヴィズマのジョージ・ベネットの3名だけに。

チヴィリオの頂上付近でウラソフは一度遅れかけたものの執念で先頭復帰を果たしており、ベネットにとってはかなり不利な状態で最終局面を迎えることになる。

 

そして残り8㎞。

最後の登りサンフェルモ・デッラ・バッターリア。

例年であればほぼチヴィリオで最後の勝負がつくために省みられることの少ないこの登りで、今年は最後の重要な勝負が繰り広げられた。

 

 

最初に仕掛けたのはジョージ・ベネットだった。

サンフェルモ突入直後にアタック。この攻撃にアレクサンドル・ウラソフはたまらず遅れていくが、ヤコブ・フルサンは当たり前のように食らいついてきた。

ベネットは背後に張り付いたフルサンに「牽けよ」と肘でジェスチャーを送る。

が、もちろんすぐ後ろにウラソフが残っているフルサンが牽くわけはない。ここでもし、ウラソフが圧倒的に遅れ、25秒差で追いかけてくるトレックの2人に抜かれるようなことがあれば、フルサンもまた、積極的に前を牽く必要が生まれたことだろう。

 

だが、ウラソフはベネットに突き放された後もなお、一定の間隔を保ったまま耐え続けていた。

そのため、フルサンもベネットの背中に張り付いたまま、彼にプレッシャーを与え続けることができていた。

で、あれば、ベネットは仕掛けるしかなかった。

彼にはもう、選択肢が残されていなかったのだから。

 

ジョージ・ベネット、2度目のアタック。ゴールまで残り7.5km。

しかしフルサンは全く離れない。ウラソフもまた、2人からわずか3秒しか遅れていない。

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残り6.9km。ジョージ・ベネット、3度目のアタック。

しかしもうキレがない。

残り6.6km。ベネットの4度目のアタック。

これに難なくついていったフルサンは、ここで容赦ないカウンターアタックを繰り出した。

 

 

この一撃で、勝敗は決した。

 

あとはもう、35歳のデンマーク人は、悠々と凱旋するだけでよかった。

昨年のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュに続く、2つ目のモニュメント制覇。

プロ12年目に掴み取った、大きな大きな栄光であった。

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そしてヤコブ・フルサンは、フィニッシュ後のインタビューで次のように語った。

 

ウラソフが今日のカンピオーネだ。彼の走りが今日の私の勝利の最大の要因だった

 

それは誇張でもなんでもなく、真実であった。

アレクサンドル・ウラソフという24歳のロシアの才能がいなければ、先日グラン・ピエモンテを獲ったばかりの勢いあるニュージーランド人を止めることはできなかったであろう。

この後、ジロ・デッレミリアを制し、ブエルタ・ア・エスパーニャでも総合11位に輝く男、アレクサンドル・ウラソフは、右手に小さなガッツポーズを作りながら、悠々とフィニッシュ地点にやってきたのであった。

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かくして、悲劇に覆われながらも、実にロードレースらしい美しい勝利も演じられた今年最高のレースの1つが幕を閉じた。

 

もちろん、このレースはエヴェネプールの悲劇のほかにも、マキシミリアン・シャフマンがコースに乱入してきた車に撥ねられるという許し難い事故も起きている。

それゆえにこの言葉で締め括るのにはやはり抵抗はあるがーーそれでも、ヤコブ・フルサンとアレクサンドル・ウラソフ、そしてアスタナ・プロチームの組み上げた勝利を祝い、この言葉を捧げよう。

 

「良きレースであった」と。

 

 

 

 

【前編:5位~3位】はこちら

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