前月から続くブエルタ・ア・エスパーニャと、そして月末の世界選手権が大きな目玉。よって、その世界選手権に向けた「前哨戦」とも言うべき各レースが活発に行われる月でもある。
とくに今年の世界選手権はパンチャー向けで、「前哨戦」レースとの相性も良い。
その世界選手権については、開催地となったヨークシャー特有の悪天候が大きくレースに影響を及ぼす事態になったほか、各カテゴリで「意外」な勝者たちが登場。
ジュニア選手でも来期すでにワールドツアーと契約している選手たちも多く、2020年代を占ううえでも重要な大会となっている。
シーズンクライマックス。なおも白熱する9月のレースシーンを振り返っていこう。
↓昨年同時期の振り返りも要チェック↓
- ブルターニュクラシック・ウエストフランス(1.WT)
- ブールス・レディース・ツアー(2.WWT)
- ブリュッセル・サイクリング・クラシック(1.HC)
- グランプリ・ド・フルミー(1.HC)
- ツアー・オブ・ブリテン(2.HC)
- グランプリ・シクリスト・ド・ケベック(1.WT)
- マドリッドチャレンジ by ラ・ブエルタ(2.WWT)
- グランプリ・シクリスト・ド・モンレアル(1.WT)
- ブエルタ・ア・エスパーニャ(2.WT)
- プリムス・クラシック(1.HC)
- UCIロード世界選手権
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ブルターニュクラシック・ウエストフランス(1.WT)
ワールドツアークラス 開催国:フランス 開催期間:9/1
フランス国内でもとくに自転車文化の活発な地域ブルターニュを舞台にしたワンデーレース。
前日に行われた女子レース(8月主要レース後半で取扱)に続き、男子レースも同じブルターニュの小さな街プルエーを中心に開催される。
ただし、男子レースはプルエーの街を飛び出て、ブルターニュ半島を縦断する。昨年は東側に進路を取り、半島南端のヴァンヌに向かっていたが、今年は西方に進路を取り、半島の西の端に近いランデヴァンネックの辺りにまで向かう。
実にブルターニュらしい豊富なアップダウンに石畳までも加わり、クラシックスペシャリストたちが覇を競い合う秋の「北のクラシック」といった様相。
レース終盤にはこの大会を2度制しているオリバー・ナーセンや、今年好調なマッテオ・トレンティンなどが遅れる厳しい展開となった。
残り27㎞あたりから始まるコート・デ・マルタ(登坂距離2.5㎞、平均勾配4%)を経て、20名前後まで絞り込まれたメイン集団=先頭集団の中から、残り23㎞でベノートがアタック。
その背後についていたファンマルクが追随し、のちにヘイグもブリッジした。
優勝候補の1人、ファンアーフェルマートは得意のお見合いによってこの決定的な動きに乗れず。またも勝利を逃す形となった。
今年のファンアーフェルマートは、数年前までにかなり近いシルバーコレクターぶりに磨きがかかっているようだ。
綺麗にローテーションを回していた先頭3名だが、残り1.4㎞でベノートがアタック。ファンマルクはこれをしっかりとチェックする。
ヘイグが遅れかけるが、これをファンマルクもベノートも待って合流。
ベノートはまたアクセルを踏むが、抜け出せない。
後ろを何度も振り返りながら、残り1㎞を過ぎたタイミングで、今度はファンマルクがアタック。ベノートはここですぐに追いかけることをしなかった。
すでに先ほどの攻撃で足を使ってしまっていたので、ここでさらにチェックをかけてしまえば、それで終了と思ったのかも知れない。
結局ヘイグが先頭で追いかける羽目になったが、このわずかな逡巡の時間は、クラシックスペシャリストのファンマルクに対しては致命的なものとなってしまった。
最後は3秒差をつけてセップが逃げ切り。この春、ロンド・ファン・フラーンデレンでチームメートの勝利のために全力を尽くし、パリ〜ルーベではあまりにも悔しい結果に終わった男が、ついにキャリア初のワールドツアー勝利を手に入れた。
ブールス・レディース・ツアー(2.WWT)
ウィメンズ・ワールドツアー 開催国:オランダ 開催期間:9/3~9/8
女子ロードレース界最強チームの一角であるブールスドルマンス。その冠スポンサーがスポンサードするオランダのステージレースである。
そのコース構成は実にオランダらしく平坦に溢れ、昨年までは初日のタイムトライアルで稼いだアネミエク・ファンフルーテンが、そのまま最終日まで総合リーダージャージを着る展開が2年連続で続いていた。
だが、今年は初日のTTがわずか3.8㎞しかないプロローグに変更。
例年通りファンフルーテンが勝利したものの、翌日からボーナスタイムを稼げそうなスプリンター系の選手たちから、大きなタイムを稼ぐことはできなかった。
事実、翌第1ステージ、第2ステージは、共にオランダの若手最強スプリンター、ウィーベスが制し、総合リーダージャージをファンフルーテンから奪い取った。
そのままウィーベスが総合首位のまま行くかと思ったが・・・第4ステージで、3名の大逃げが決まった。
その中にはTT能力とスプリント力とを合わせ持ったマジェラスも含まれていたことで、最終的には彼女がルクセンブルク人として初めてこの大会を制することに。
ウィーベスは総合2位に終わった。
ブリュッセル・サイクリング・クラシック(1.HC)
ヨーロッパツアー HCクラス 開催国:ベルギー 開催期間:9/7
その名の通りベルギーの首都ブリュッセルの周辺を走る、1893年創設の非常に歴史の長いレース。来年で100回目。昔はパリ〜ブリュッセルと呼ばれていたらしい。
今年のツール・ド・フランス第2ステージにも登場した「アトミウム」の麓にゴールする。表彰式もそこで。途中、ベルギーらしい起伏は豊富に用意されてはいるものの、基本的にはスプリンターたちによる戦いが繰り広げられる。ただし最後は若干登っている。
今年のブリュッセルサイクリングクラシックは前代未聞の決着を迎えた。なんと、上位6名が綺麗に横一直線に並んだのである。
その中で、わずかに先着したカレブ・ユアンが初優勝。しかしまあ、すごいものを見てしまった。
そして、名だたる名スプリンターが並ぶこの6名の中に、失礼ながら意外な人物が1名。そもそもアスタナのジャージが並んでいた時点で誰だ?!と困惑したものだが、確認するとこれはダヴィデ・バッレリーニ。昨年まではアンドローニ・ジョカトリに所属していた選手で、今年のヨーロピアンゲームロードレースで優勝している。が、ほかにはツアー・オブ・カリフォルニアの山岳賞を獲ってたり、イタリアのパンチャー向けワンデーで上位に入っていたりとイマイチよく分からない脚質を持つ。
ただし今回の結果から、トップスプリンターたちに張り合えるだけのスプリント力も備えていることがはっきりした。昨年のジロのポイント賞も3位だったりと、それは間違いなさそうだ。
来年からはドゥクーニンク・クイックステップ入り。名リードアウターのリケーゼとサバティーニが立ち去るこのチームにとって、新たな重要なリードアウト役として活躍が期待されるところである。
グランプリ・ド・フルミー(1.HC)
ヨーロッパツアー HCクラス 開催国:フランス 開催期間:9/8
フランスの最北東端、ベルギーに接するノール=パ・ド・カレー地域圏フルミーで開催されるワンデーレース。前日に開催されたブリュッセル・サイクリング・クラシックから続いて参加するライダーたちが多い。
こちらもスプリンターたちが毎年勝っているワンデーレース。今年も集団スプリントとなり、前日ブリュッセルで惜しくもユアンに敗れたアッカーマンがリベンジを果たした。まあ、ユアンはこっち欠場してしまったんだけど。
ただ、何事もない平穏なスプリントとはならなかった。メカトラがあったのか、ゴール前にバランスを崩したナセル・ブアニが「あり得ない動きをしながら」落車。大怪我には繋がらなかったものの、騒然とするフィニッシュとなってしまった。
↓詳しくは下記リンクも確認↓
前日ブリュッセルの6名横一線ゴールと並び、この週末の2連戦はいずれも、普段見られない瞬間を見るレースとなってしまった。
ツアー・オブ・ブリテン(2.HC)
ヨーロッパツアー HCクラス 開催国:イギリス 開催期間:9/7~9/14
イギリス最古かつ最大のステージレース。ブエルタ・ア・エスパーニャの裏で開催されるものの、アップダウンが豊富なレイアウトは世界選手権を睨むパンチャーたちにとっても魅力的なレイアウトとなっており、マチュー・ファンデルポールを含む豪華な選手たちが参戦することに。
ワールドツアーチームも合計10チーム参加する。
今年のツール・ド・フランスやビンクバンクツアーでは、昨年ほどの勢いを見せられなかったフルーネウェーヘン。今回のブリテンも、結構起伏のあるステージが多いだけに、場合によってはテウニッセンの方が活躍するのではと考えていた。
が、蓋を開けてみればしっかりと3勝。これで今期の勝利数は13に。最強スプリンターの一角であることをしっかりと示した。
そして総合争いは下馬評通りのマチュー・ファンデルポール圧勝。最初のチャンスであった第2ステージでは集団の中に沈み込んでしまい、やはりロードレースの普通の戦い方ではまだ厳しいのかと思わせておきながら、ついで「じゃあ集団の中にいなければいいんだろう」とばかりにプロトンから飛び出し、先行していた選手たちをあっという間に追い抜いて勝利した第4ステージ。
登りスプリントとなった第7ステージでもその勢いはとどまるところを知らず、追随するトレンティンは「やってられない」とばかりに手をあげる始末。
第8ステージでは、残り300mで一度前に出された後、振り返った背後のボルを先に前に出してから再度スプリントを開始して勝つという、ちょっとありえない勝ち方も見せている。
予想はできていた。
が、相変わらず驚かせ続ける男である。
カナダ2連戦でどことなく不調を感じさせるその他の優勝候補たちと比べ、このマチュー・ファンデルポールの勢いは、彼が今年の世界選手権の最大の優勝候補であることを決定づけた。
グランプリ・シクリスト・ド・ケベック(1.WT)
ワールドツアークラス 開催国:カナダ 開催期間:9/13
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2010年初開催のまだまだ若いレース。にも関わらず、ケベック・シティ中心街の程よいアップダウンに溢れた周回コースを利用していることで、スプリンター向けからパンチャー向けまで、あらゆるタイプの世界選手権の前哨戦として最適なレイアウトが世界中の選手たちに好まれている。
今年も、サガン、ファンアーフェルマート、アラフィリップ、マシューズといった今年のヨークシャー世界選手権の優勝候補たちが勢揃い。白熱した闘いが演じられた。
ケベックのレースは各周回のラスト3.5㎞から4つの登りをこなしてフィニッシュに向かう。それまでの間にいくつかのアタックや独走が作られることは多いが、そのいずれもが最後まで到達することなく挫かれ続けている。
今年も、集団が1つになったまま最終周回のラスト3.5㎞へ。ここで、ドゥクーニンク・クイックステップのアシストたちが先頭でハイ・ペースを作り、集団が一気に縦に伸びる。とくにデヴェナインスの猛牽引は集団を引き千切りかけ、その勢いのまま、残り2.1㎞でアラフィリップが飛び出した。
これにすかさずついていったのがサガン、ファンアーフェルマート、ウリッシといった過去のカナダ2連戦優勝者たち。プロトンを5秒以上突き放し、最終ストレートの「グラン・ダリー」へと突入する。
ただ、この最後の緩やかな登りのストレートは、過去にも数多くのアタッカーたちの足を阻んだことで有名。今回はこれまでに例がないくらいに超強力な逃げではあったが、その中に、エースのダリル・インピーを集団に控えさせているジャック・ヘイグが追いついてきて入り込み、そのローテーションを妨害したこともあって、結局は残り300mで捕まえられてしまった。
このとき、集団の中には、ウェレンスやジャスパー・ストゥイヴェン、アルベルト・ベッティオルらの背後に隠れて、ディフェンディングチャンピオンのマイケル・マシューズが潜んでいた。
逃げていたアラフィリップは捕まえられてからもなお、ペースを緩めることなく、先頭のまま全力で足を回した。サガンもファンアーフェルマートもその背後につけて、飛び出す最高のタイミングを探っていた。
だから捕まえたはずのメイン集団の面々も、力を緩めるわけにはいかなかった。メイン集団先頭にいたウェレンスも、その背後から飛び出したベッティオルも必死だった。
唯一冷静だったのは、そのベッティオルの背後にいたマシューズだった。彼は悠々とベッティオルの背中に乗りながら、残り150mでようやくスプリントを開始した。
あとは、残っている足の違いが明確だった。サガンもファンアーフェルマートもマシューズにまったくついていくことができず、そのままマイケル・マシューズは昨年のカナダ2連戦W制覇に続く連勝を果たした。
マドリッドチャレンジ by ラ・ブエルタ(2.WWT)
ウィメンズ・ワールドツアー 開催国:スペイン 開催期間:9/14~9/15
ラクルス by ツール・ド・フランスのブエルタ版。男子のブエルタ・ア・エスパーニャ最終日に合わせ、その前座としてマドリード中心部周回コースで争われる。
2017年まではこのマドリードでのスプリント勝負のみのワンデーレースであった。そのため、2016年・2017年はスプリンターのジュリアン・ドーレが連覇。
しかし昨年からそこに1ステージ追加で加わり2日間のステージレースに。昨年はその初日がチームTTとなり、2位に18秒差をつけたチーム・サンウェブのエレン・ファンダイクがそのまま総合優勝を掴み取った。
今年は初日が9.3㎞の個人TTに。元世界王者のTTスペシャリスト、リサ・ベルナウアーが2位のルシンダ・ブランドに4秒差をつけて勝利した。
そして2日目のマドリード周回コース決戦。
ここでは、合計7つの中間スプリントポイントでもたらされるボーナスタイムを巡る争いが白熱する。ベルナウアーもブランドも、スプリント力の高い選手たち。特にベルナウアーは、普段はエーススプリンターとしてベルナウアーにアシストされる側であるクリステン・ワイルドが、今回ばかりはベルナウアーのためにリードアウト役を買って出て、ブランドに対してベルナウアーが先着を繰り返す成果をもたらした。
最後のフィニッシュラインではブランドが4位となり、ボーナスタイムを得られず。
最終的にはベルナウアーがブランドに対して10秒差をつけて総合優勝を果たすこととなった。
グランプリ・シクリスト・ド・モンレアル(1.WT)
ワールドツアークラス 開催国:カナダ 開催期間:9/15
↓詳細はこちら↓
「GPケベック」と比べると総獲得標高も大きく、逃げ切りも発生しやすいより複雑な「モンレアル」。事実、最終周回に入ると同時に、AG2Rラモンディアルのナンス・ピータース、そしてブノワ・コズネフロワが立て続けに攻勢に出た。
この一連の動きで縮小された集団からは、ケベック勝者マシューズも脱落。抜け出したコズネフロワに対しては、残り3.2kmでブリッジを仕掛けたアラフィリップだけが追いつく。そのまま2人で逃げ切りとなるか・・・と思いきや、残り500mの緩やかな登りスプリントでアラフィリップがローテーションを拒否した。
そして雪崩れ込むように追いついてきた集団に飲み込まれ、その中で最も足を残していたファンアーフェルマートが勝利を掴んだ。
ファンアーフェルマートが強かった、というよりは、優勝候補筆頭と思われていたアラフィリップの不調がより印象的だったこのモンレアル。
果たして、世界選手権本番はどうなってしまうのか。
ブエルタ・ア・エスパーニャ(2.WT)
ワールドツアークラス 開催国:スペイン 開催期間:8/24~9/15
↓詳細はこちらから(第2週・3週のリンクもあり)↓
シーズン最後のグランツールにして、様々な要因が絡み合い、最も予想のつかないとされるグランツール。
一応、総合優勝者は下馬評通りのプリモシュ・ログリッチェ。トニー・マルティンやセップ・クスを筆頭に完璧なチーム体制が機能し、ログリッチェ自身も一度もバッドデイがないまま安定して勝利を掴み取った。
一方で、誰もが予想しきれなかった大躍進がタデイ・ポガチャル。昨年のラヴニール覇者で今年のカリフォルニア覇者。ベルナルほどの才能ではないだろうというのが大方の予想だったが、ある意味では1年目のベルナル以上の成績を叩き出した。
ステージ1勝くらいはできるだろうと思いながらの3勝。しかも総合3位・新人賞。2週目の終わりに一度この新人賞を失ったときは仕方のない必然と思っていた中で、まさか第20ステージで、さらなる強さを見せつけてこれを奪い返すとは。
初めてのグランツールで、ほぼ全開に近い走りを続けながら、最後の最後までそのパワーを失わなかったこと。
あまりにもできすぎで、逆にこれからが心配になるような成果であった。
それ以外では、プロコンチネンタルチームの選手たちの活躍が目立った。序盤、山岳賞ジャージと共に、ステージ1勝も奪い取ったアンヘル・マドラソ。コフィディスもヘスス・エラダのステージ勝利とニコラ・エデのマイヨ・ロホと大躍進。さらには、地元バスクで挙げた、ミケル・イツリアの感動的な勝利。
カハルラルは勝利こそなかったものの、若きバスクの激坂ハンター、アレックス・アランブルの2度のステージ2位は十分に大きな成果。アランブルはこの成績も提げて、来期はアスタナ・プロチームに。フルサングらと共に、アルデンヌ・クラシックでは期待のかかる男だ。
ほかにも、ヴィヴィアーニやサバティーニ、リケーゼを失う来期のドゥクーニンクにとって重要な存在となるであろうヤコブセンの2勝や、今年カリフォルニア総合2位から今回のEF大不運を乗り越えて結果を持ち帰ったイギータなど、今年も若手の活躍が目立ったブエルタ・ア・エスパーニャ。
2020年代のスターも、このブエルタで活躍した選手たちから輩出されていきそうだ。
プリムス・クラシック(1.HC)
ヨーロッパツアー HCクラス 開催国:ベルギー 開催期間:9/21
ベルギー中央部、フラームス=ブラバント州で開催される石畳と急坂のフランドルクラシック。過去の優勝者にもスプリンターたちに混じって北のクラシックスペシャリストたちの名前が並び、集団スプリントだけでなく終盤抜け出しの独走勝利や小集団スプリントのパターンも多い。
今年はサガンやファンアーフェルマート、マチュー・ファンデルポールなど、世界選手権を目前に控えた選手たちが調整の一環として参戦。
実際、終盤にファンデルポールが得意の飛び出しを見せる場面もあったが、これにはすぐさまサガンとファンアーフェルマートが食らいつき、失敗に終わった。
これは本気のアタックというよりかは、1週間後の世界選手権に向けた調整のようにも思えた。
そのまま集団スプリントに突入するか、と思われた最終盤。残り10㎞を切って、ジャスパー・ストゥイヴェンが得意のレイトアタック。8月末のドイツ・ツアーでもこの動きで総合優勝を手繰り寄せている。
だがメイン集団もさすがにこれを許すわけにはいかない。タイム差は大きく広がることなく、いつでも捕まえられるような距離をキープされたまま残り3㎞。いよいよ、ストゥイヴェンが集団に飲み込まれそうになった、そのとき。
集団から、エドワード・トゥーンスが飛び出した。
そして今にも飲み込まれそうだったストゥイヴェンに合流。そこからストゥイヴェン、残ったわずかな体力を使い果たして猛牽引。
その時間、わずか数秒。
だがその数秒が、最後の勝敗を決定づけた。
チームメートの決死のアシストから放たれたトゥーンスは残り3㎞を独走し続け、最後のストレートで集団からミサイルのように飛んできたパスカル・アッカーマンを、ほんのごくわずかの差で振りきった。
リザルトだけ見れば、まるで集団スプリントでトゥーンスがアッカーマンを下したと見えるかもしれない。そうだとしても、素晴らしい勝利ではあるが、このリザルトの裏に隠れているのは、トレック・セガフレードの一か八かの戦略と、そしてストゥイヴェンのチームメートのためのわずか数秒の全力牽引というドラマである。
ICYMI ⤵️
— Trek-Segafredo (@TrekSegafredo) September 22, 2019
It's been a long 2 years, and coming off the back of some cohesive and aggressive teamwork, makes this win that much sweeter!
Read the report of a thrilling and beautiful win by @edwardtheuns in the
🇧🇪#PrimusClassic here 👉https://t.co/Qvra1ueUe6
📷 Photo News pic.twitter.com/80lbKvKCUN
トレックは昨年もシーズン末期に突如としてチームワークを発揮しながら勝利を積み上げていっている。
決して良いシーズンを過ごしていたわけではないこのチームだが、最終盤のこの追い込みのような勢いの良さは、きっと大きな結果に繋がるはずだ。
そして実際、1週間後にーー。
UCIロード世界選手権
開催国:イギリス(ヨークシャー) 開催期間:9/22~9/29
9/22(日)から1週間の日程で開催された2019UCIロード世界選手権。
舞台はイギリス・ヨークシャー。2014年のツール・ド・フランスのグランデパールにも選ばれたこの地で、豊かなアップダウンと激しい悪天候に見舞われた激動の1週間が繰り広げられた。
まずは今年から新たに導入された「チームタイムトライアル・ミックスドリレー」。ロードレースでも使用されるハロゲートの周回コースを舞台に、各国のまずは男子3名が走り、その2番手の選手が通過したタイミングで女子3名がスタートする。最後は女子の2番手の選手がゴールしたタイムで競われる。
最初に好タイムを記録したのは地元イギリス。現在はカチューシャに所属している英国個人追抜王者ハリー・タンフィールドや、女子英国個人TT王者のアンナ・ヘンダーソンなど、トラックで才能を見せる選手たちが力を見せつけた。
この記録を打ち破ったのが、TT元世界王者のリサ・ベルナウアーと男子TT元世界王者のトニー・マルティンを含む強豪ドイツ。
男子3名の時点ではわずかにイギリスチームには敵わなかったが、今年のドイツ国内選手権TTの表彰台を独占したベルナウアー、ミーク・クローガー、リサ・クレインの3名で構成されたドイツ最強TTスペシャリストたちがしっかりと逆転。暫定首位に踊り出た。
しかしやはり、欧州選手権で一足先にこの種目での優勝を経験しているオランダは強かった。そのときのメンバーであるモレマ、ボウマンに加え世界最強クラスのTTスペシャリスト、ヨス・ファンエムデンが合流。女子も同じく欧州選手権時のメンバーであるリアンヌ・マークス、エイミー・ピータースに加え、やはりオランダ国内最強クラスのルシンダ・ブランド。より強力なファンフルーテン、ファンデルブレッヘンらは欠場するものの、十分すぎる強さを発揮した。
最終的にはドイツに23秒、イギリスには51秒もの大差をつけて勝利。オランダが国を挙げての強化を図っていることが示された結果となった。
月曜日からは個人タイムトライアル種目が開催。まずは女子ジュニアでアイグル・ガレーヴァがコースミスを、男子ジュニアでアントニオ・ティベリがスタート直後にメカトラに遭うというアクシデントに見舞われつつ、いずれも勝利。それらのトラブルがなければ、さらに圧勝していたと考えると、恐ろしいものがある。
U23ではミケル・ビョーグが驚異の3連覇を達成。来期はUAEチーム・エミレーツに所属することが決まっている彼は、3年以内のアワーレコード更新を目指すという。将来、エリートやオリンピックで金メダルを獲得するのも、時間の問題だろう。
女子エリートでも恐ろしい存在が。アメリカの22歳クロエ・ダイガートが、昨年まで2年連続でワンツーを達成していたアネミエク・ファンフルーテンとアンナ・ファンデルブレッヘンの二人を1分半以上突き放しての圧勝。コース上では元世界王者リサ・ベルナウアーを含む8名の選手たちを追い抜いたという。
確かに、ここ最近明らかに調子の良いダイガートだが、まさかこれほどとは。彼女もまた、ビョーグと並び新時代のTTスペシャリストの最高峰の存在として活躍してくれることだろう。
そして、男子エリートでは、メーカーを隠したBMCのバイクでローハン・デニスが連覇を達成。実はこの時点ですでにチームから契約破棄されていたというデニス。世にも珍しい、所属チームなしの世界王者となった。
そして、さらっと2位につける19歳のレムコ・エヴェネプール。すでにヨーロッパ王者に輝いている以上、別段おかしくはないのだが、それにしても驚きである。着実に成長しつつあるイタリアの若手フィリッポ・ガンナの3位も注目に値する。
今年アワーレコード更新を果たしたヴィクトール・カンペナールツは、立て続けに落車とメカトラに見舞われる不運を経験。悔しい結果に終わった。ブエルタ覇者プリモシュ・ログリッチェも期待はされていたが、さすがに疲労の蓄積からは逃れられず、3分後にスタートしたデニスにパスされながらのゴールとなった。
そして、ブエルタの個人TTでログリッチェに次ぐ2位につけ、そのブエルタもこの世界選手権に備えて早期リタイアしたパトリック・ベヴィンがしっかりと4位に。個人的に嬉しい結果となった。
そしていよいよ木曜日からはロードレース種目が開幕。
まずは男子ジュニア。今年すでに11勝を挙げているアメリカの超期待株クイン・シモンズが、33㎞の独走の果てに勝利を掴んだ。
ジュニア個人TTを制したティベリと共に来期からトレック・セガフレード入りするシモンズは、エヴェネプールよりもさらに1学年若い2001年生まれ。
トレックはこの才能をしっかりと育て上げることができるか。
女子ジュニアでは、残り3㎞でTT王者ガレーヴァが抜け出すも、アメリカのメーガン・ジャストラブがこれに追随。最終スプリントでガレーヴァを突き放し、ジャストラブがアメリカに今大会3つ目の金メダルをもたらした。
U23男子は波乱の展開となった。落車が頻発するナーバスな状況の中で、最後に残った7名が緩やかな登りスプリントフィニッシュに挑んだ。
このスプリントを先頭で突き抜けたのは、来年サンウェブへの移籍が決まっているオランダ人のニルス・エークホフ。しかし、フィニッシュ後に審議が行われ、落車後にチームカーのドラフティング利用やスティッキーボトルの容疑で失格処分となってしまった。
U23世界王者のタイトルは来年NTTへの移籍が決まっているイタリア人のサミュエーレ・バティステッラに。しかし彼自身も心の底からは喜べないようなコメントを残しており、世界の頂点を決める戦いはなんとも後味の悪い結末となってしまった。
女子エリートはさらなる衝撃が。序盤の登りで抜け出したアネミエク・ファンフルーテンが、驚異の105㎞独走を果たして勝利。個人TTでファンフルーテン、ファンデルブレッヘンを下したクロエ・ダイガートは終盤で単独抜け出しを図りファンフルーテンを追いかけるも届かず。逆に後続から遅れて飛び出してきたファンデルブレッヘンに追い抜かれ、表彰台すら逃した。オランダコンビによるリベンジ達成である。
今大会のようなパンチャー向けレイアウトでは今年圧倒的な成績を残し続けているマリアンヌ・フォスは、序盤の登りでのペースアップについていけず、追走のさらに後ろの集団でゴール。しかしここではしっかりと先頭を捉えて6位。結局、先頭も、追走集団の先頭も、さらにその後ろの集団の先頭もオランダが独占。
他国がどんな戦略で来ようと、オランダに敵う隙はなかった、ということで良さそうだ。強すぎである。
男子エリートについては以下の記事で詳述しているので、ぜひ確認してもらいたい。
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