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グランプリ・シクリスト・ド・ケベック2019――マイケル・マシューズの「失敗」と勝利の理由

「登りの入り口で大きな失敗を犯した」という言葉の通り、マイケル・マシューズは、残り3.5kmから始まる登りの連続で集団がペースアップする中、その集団の只中で身動きが取れずにいた。

そのあとに巻き起こった激しいアタックと強力な逃げの形成。

それを見送りながら、彼は「自分自身に腹が立って仕方なかった」と振り返っている。

 

だが、抜け出した選手たちは、最後の登りストレート「グラン・ダリー」で失速。「ただただラッキーだった」と語るマシューズは、そのあとスプリントへと動き始めた集団の中で冷静に体制を整え、そして完璧なタイミングでスプリントを開始した。

最後は、サガンも、ファンアーフェルマートも、すべてを抜き去って、先頭に飛び出たマシューズ。

昨年に続く2連覇。今年も決して派手な活躍はなかったものの、常に安定して良い成績を出し続けていた隠れた好調スプリンターが、世界選手権を前にまずは大きな成果を挙げることができた。

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今回は、マシューズにとっても驚きの結果となってしまったこの「カナダ2連戦の初戦」について、その終盤の展開を振り返りつつ、その勝因を探っていきたい。

 

 

↓GPケベックおよびモンレアルのプレビューについてはこちら↓

www.ringsride.work

 

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2010年初開催のまだまだ若いワンデーレース。にも関わらず、ケベック・シティ中心街の程よいアップダウンに溢れた周回コースを利用していることで、スプリンター向けからパンチャー向けまで、あらゆるタイプの世界選手権の前哨戦として最適なレイアウトが世界中の選手たちに好まれている。

今年も、サガン、ファンアーフェルマート、アラフィリップ、マシューズといった今年のヨークシャー世界選手権の優勝候補たちが勢揃い。

白熱した闘いが演じられた。

 

ケベックのレースは各周回のラスト3.5kmから4つの登りをこなしてフィニッシュに向かう。

それまでの間にいくつかのアタックや独走が作られることが多いが、そのいずれもが、最後まで到達することなく挫かれ続けている。

 

 

今年も、集団が1つになったまま最終周回のラスト3.5kmへ。

ここで、ドゥクーニンク・クイックステップのアシストたちが先頭でハイ・ペースを作り、集団が一気に縦に伸びる。

とくに、ドリース・デヴェナインスの猛牽引は集団を引き千切りかけ、その勢いのまま、残り2.1kmでアラフィリップが飛び出した。

これにすかさずついていったのがサガン、ファンアーフェルマート、ウリッシといった過去のカナダ2連戦優勝者たち。

プロトンを5秒以上突き放し、最終ストレートの「グラン・ダリー」へと突入する。

 

 

ただ、この最後の緩やかな登りストレートは、過去にも数多くのアタッカーたちの足を阻んだことで有名である。

今回はこれまでに例がないくらい超強力な逃げ集団が作られはしたものの、その中には、エースのダリル・インピーを集団に控えさせているミッチェルトン・スコットの選手(おそらくジャック・ヘイグ)が追い付いてきて入り込んでもいた。

彼は当然、前を牽くことはなく、ローテーションを妨害する。彼の働きもあって、結局は残り300mで捕まえられてしまうこととなった。

(また、メイン集団の先頭でも、AG2Rラモンディアルの選手が超強力に牽引していた。彼もまた、エースのオリバー・ナーゼンのためだったのだろうが、その肝心のナーゼンがこの日はまったく勝負に絡むことができずに終わった)

 

 

このとき、マイケル・マシューズはまだ完璧なポジションにはいなかった。

確かに集団の前の方にはいたものの、その前にはティム・ウェレンスやジャスパー・ストゥイヴェン、アルベルト・ベッティオルなど有力な選手が並んでいた。

その中で番手を沈めていたマシューズが、彼らの後ろから突き抜けてゴールできる状態だったかどうかは定かではない。

 

しかし、ここでもまた、展開がマシューズに味方をした。

残り300mで捕まえられてしまったサガン、ファンアーフェルマート、ウリッシ、アラフィリップたち。

しかしここで足を緩めて最後のスプリントに備えたサガンたちと違って、アラフィリップは最後にもうひとふみ、粘りのスプリントを開始した。

ゴールまではまだ距離があり、すでに足を使ってしまっている状態の中でのこの動きはあまりにも無謀。事実、彼は最終的に7位に沈んでしまっている。

 

だが、当然後ろに控えていたライバルたちは、このアラフィリップのスパートを見逃すわけにはいかない。集団前方にいたウェレンスが慌ててペースを上げ、結果としてロングスプリントの形となってしまった。

同様にウェレンスの背後から横にそれて早めのスプリントを開始するベッティオル。

その背後に乗ることができたマシューズにとって、これらの動きは実に完璧な「発射台」となってくれた。

 

そして、残り150m。最適なタイミングで発射することのできたマシューズは、そのままの勢いでフィニッシュラインに突っ込んでいった。

アラフィリップを踏み台にしてこれもまた最適なタイミングでスプリントを開始できたサガン、ファンアーフェルマート、ウリッシだったが、先ほどの登りとそのあとのエスケープで足を使いすぎていた。上位には入り込めたものの、マシューズを追い抜くことはできなかった。 

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登りの入り口で大きな失敗を犯した。優勝候補たちがみんな行ってしまったとき、僕は十分に良いポジションを取れずにいたんだ。僕は自分自身に腹が立って仕方なかった。最後のストレートで彼らがお見合いをしたことで僕は勝てた。ただただラッキーだっただけなんだ

 

www.cyclingnews.com

 

もちろん、ラスト300mで先頭に追い付いたあと、深いポジションにいながらも冷静に状況を見極め、ベッティオルの背後から完璧なタイミングでスプリントを開始したその判断力は決して「ラッキーだっただけ」とは言えない大きな勝因となっていただろう。

それでも、やはり展開に助けられた部分は大いにあり、今回の勝利だけをもって、彼が世界選手権の最有力候補であると断定することはできないだろう。

 

 

たとえば、ペテル・サガン。今年、不調もささやかれていた彼ではあったが、今回の走りは、ヨークシャーにて4度目のアルカンシェルを獲得する候補の1人であることを明確に示した。

ディエゴ・ウリッシも、ツアー・オブ・スロベニアやドイツ・ツアー、あるいは東京テストイベントなどでの好調さをしっかりと継承し続けていることがわかり、彼もまた、世界王者候補であることは間違いなさそうだ。

 

 

そして、ジュリアン・アラフィリップ。

確かに彼は最終的に7位に沈んだ。

しかしそれは、彼がラスト300mをあえて先頭で牽き続けるという選択を取ったがゆえ、という見方もできる。

それはまるで、このレースでの勝利には興味がなく、あくまでも世界選手権に向けた調整であると捉えているかのようである。 

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さて、カナダ2連戦はまだまだ続く。

9/15(日)には同じケベック州のモンレアル(モントリオール)を舞台として、同様のワンデーレースが開かれる。

こちらはケベック以上に起伏が激しく、サバイバル。今回のような終盤のアタックが同じように行われれば、モンレアルの方では最後まで捕まらずに逃げ切れる可能性は高いだろう。

 

マシューズは果たして、このモンレアルでも昨年に続く勝利を挙げ、その実力・状態が本物であることを示せるか。

あるいは、サガンやアラフィリップ、ファンアーフェルマートなどが、世界選手権に向けた仕上がりの良さを印象付けることができるか。

 

こちらもまた、見逃すことはできない。

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