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グランプリ・シクリスト・ド・ケベック&モンレアル2019 プレビュー

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Class:ワールドツアー

Country:カナダ

Region:ケベック州

First edition:2010年

Editions:10回

Date:9/13(金)・9/15(日)

 

いよいよブエルタ・ア・エスパーニャもクライマックス。その中で開催される、カナダのワンデーレース2連戦。時期的にもコース的にも直後の世界選手権の前哨戦とされ、数多くの有力パンチャーたちが鎬を削る。

展開としても大・小集団スプリントから逃げ切りまでバリエーションに富んでおり、純粋に単独のレースとしても魅力十分。

今回はそんな「パンチャーズクラシック」について、詳細にプレビューしていく。

 

 

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コース詳細

グランプリ・シクリスト・ド・ケベック

9/13(金)に開催される「GPケベック」の方は、州都ケベック・シティ中心部の1周12.6㎞の周回コースを16周回する合計201.6㎞のレース。

総獲得標高は2,976mにも及ぶ。

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各周回の残り3.5㎞からは名前のついた4つの登りが登場する。

まずは登坂距離375m、平均勾配10%のコート・ド・ラ・モンターニュ

次に、残り2.6㎞から登り始めるコート・ド・ラ・ポタッシュは登坂距離420m、平均勾配9%。

いずれも短くも急な強烈な登りであり、たとえば2016年大会では最終周回のこの登りを利用してマッテオ・トレンティン、ジュリアン・アラフィリップ、ジャンニ・モスコンらが抜け出した。

 

また、残り1.4kmから登坂距離190m、平均勾配7%の3つ目の登りモンテ・ド・ラ・ファブリケ。

これを乗り越えると最後の直線に突入し、そこには1kmにわたって4%の勾配が続く緩やかな登りグラン・ダリーを突き抜けてフィニッシュへと向かう。

2016年・2017年大会はいずれも、このグラン・ダリーで2015年覇者リゴベルト・ウランが単独アタックを仕掛けた。

 

しかし、モスコンたちも、ウランも、あるいは2018年大会で最終周回を独走し続けたピーター・ケニャックも、結局はこのグラン・ダリーの残り数百メートルで集団に捕まえられてしまう。

そのまま集団スプリントで決着するパターンがこの大会の結末としては最も多い。今年も、登り適性をしっかりと持ったスプリンター&パンチャーたちの中から、勝者が現れると見てよいだろう。

Embed from Getty Images

2018年大会の覇者、マイケル・マシューズ。2016年5位、2017年3位と悔しい結果を重ねてきたことへのリベンジを達成した。

 

 

グランプリ・シクリスト・ド・モンレアル

9/15(日)に開催される「GPモンレアル」の方は、ケベック州最大の都市であるモンレアル(モントリオール)中心部1周12.2kmの周回コースを使用。

ただし、コースも距離も昨年と全く同じだったケベックと違い、モンレアルの方はコースそのものは同一ながら、周回数が昨年より2周分増えている。

結果、コースの総距離は219.6kmに及び、その獲得総標高は4,734mにまで達する。

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総獲得標高5,000m弱の超アップダウンコースは、ケベックとはまた違ったドラマを生み出しやすい。2017年には6名の逃げ切りが決まり、その中で抜け出したディエゴ・ウリッシが勝利を掴んでいる。

Embed from Getty Images

 

そのカギを握るのが、2つの強烈な登り。

1つ目は「カミリアン・ウードの丘」。各周回のスタート直後から登り始めるこの丘は、登坂距離1.8km、平均勾配8%。150mの高低差を一気に駆け上がる。

もう1つが「ポリテクニークの丘(モントリオール大学理工学部横の丘)」。各周回残り6.5kmあたりから登り始めるこの丘は、登坂距離800m、平均勾配7%。ただしその途中には、最大勾配11%(一説では14%)に達する激坂ポイントを有している。

 

これらの登りを乗り越えて、なおも集団に残り続けた選手たちは、ラスト600mに現れる180度のヘアピンカーブをこなし、最終ストレートは4%の登り勾配となっている。

2016年にはこのヘアピンカーブで落車も起きている。そうでなくとも、トレインなるものが全く機能しなくなるこの仕掛けの後に、各々がただ純粋にそのパワーだけで競い合う舞台が生まれる。2016年にはファンアーフェルマートが、2017年には逃げ切ったウリッシが、そして2018年には、ケベックに続く連勝となるマイケル・マシューズが、この「アヴェニュー・デュ・パルク」の頂上を先頭で駆け抜けた。

 

ケベックよりもずっとタフなコースレイアウトで、サバイバルな展開の中での集団スプリントを制するものは誰か。

また、2017年のような逃げ切りが発生する可能性も十分にある。スプリントでは勝ち目の薄いクライマーたちの奇襲には十分に注意を払おう。

 

続けて今大会の注目選手たちをピックアップしていく。

 

 

注目選手

1.マイケル・マシューズ(オーストラリア、29歳)

チーム・サンウェブ(SUN)所属

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昨年、ケベック&モンレアル制覇と、同じオージーパンチャーの先輩サイモン・ゲランスに並ぶ成績を残した。

過去の実績から言っても、ケベックは2015年以来2位→5位→3位、モンレアルは2016年以来4位→8位とかなり安定して上位に入り続けている。今年も有力候補の1人だ。

ツール・ド・フランスのマイヨ・ヴェールを獲得した2017年と比べると、ここ2年はやや勢いに陰りが見えているようには思う。それでも今年も、ボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャでステージ2勝とポイント賞、そしてツール・ド・フランスでも登りスプリントの第3ステージで集団先頭を取るなど、決して悪くはない。

昨年同様、このシーズン最終盤でドカンと成績を出せるか。今年の世界選手権優勝候補の1人して、良い状態を見せてほしい。

 

 

11.ジュリアン・アラフィリップ(フランス、27歳)

ドゥクーニンク・クイックステップ(DQT)所属

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今年最も勢いのある男と言ってもよい。シーズンの早すぎる開幕戦たる1月のブエルタ・ア・サンフアンでステージ2勝。2月のツアー・コロンビアでステージ1勝とポイント賞、3月のストラーデビアンケとミラノ〜サンレモでは連勝し、ティレーノ〜アドリアティコとボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャでも1勝ずつ。1月から4月まで、出たレース全てで勝っているのだ。

アルデンヌ・クラシックでもその強さは健在だった。ブラパンツ・ペイル2位、アムステルゴールドレース4位、フレーシュ・ワロンヌでは昨年から連勝。ただリエージュ〜バストーニュ〜リエージュだけは、ラ・ロッシュ・オ・フォーコンで宿敵フルサングに引き千切られて、あえなく惨敗する。

そこからまたコンディションを整えて参戦したクリテリウム・ドゥ・ドーフィネではステージ1勝と山岳賞。昨年同様に山岳賞を狙ってくるのかと思われたツール・ド・フランス本戦では、個人タイムトライアルを含めたステージ2勝を果たしたうえで、実に14日間にわたってマイヨ・ジョーヌを着続けた。今年のツール覇者はエガン・ベルナルではあったが、今年のツールの主役はアラフィリップであったと言っても良いかもしれない。フランス全土を熱狂の渦に巻き込んだ男であった。

さすがにツールの疲れが溜まったのか、そのあとの彼は比較的大人しい。ディフェンディングチャンピオンとして挑んだクラシカ・サンセバスティアンでは早々にリタイア。そして相性は良さそうなドイツ・ツアーも、どちらかというとアシスト的な動きの方が目立った。

そして、ここ数年出場していたツアー・オブ・ブリテンへの参加を取りやめ、今年、3年ぶりにこのカナダ2連戦に参戦する。前回出場の2016年では、GPケベック終盤の3.5㎞でトレンティンやモスコンと共に飛び出した。そのときはモスコンに千切られてしまったアラフィリップだったが、そこから彼はさらに飛躍的な成長を遂げている。

コンディションが十分に戻っていれば、今年、最大の優勝候補の1人であることは間違いない。そして、その先にはもちろん、アルカンシェルの可能性が顔を覗かせている。

 

 

14.レムコ・エヴェネプール(ベルギー、19歳)

ドゥクーニンク・クイックステップ(DQT)所属

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常に想像を超える男であった。わずか19歳、U23カテゴリをすっ飛ばしていきなり参戦することとなったワールドツアーの舞台、その初戦ブエルタ・ア・サンフアンで、エースのアラフィリップを助ける最終盤のアシストを見事に演じ切ってみせた。結果、新人賞。4月のツアー・オブ・ターキーでは総合優勝争いに関わり、総合4位で終える。そしてハンマー・リンブルフおよびベルギー・ツアーでは、持ち前の自由な「逃げ」の姿勢で、それぞれ衝撃的な勝利を我々にもたらしてくれた。

それら、シーズン前半戦の彼の功績については以下の記事に詳しい。

www.ringsride.work

 

ここまででも十分に期待を遥かに超える活躍を見せていたエヴェネプールだったが、さらにその常識を打ち破る走りを見せつけたのが、8月のクラシカ・サンセバスティアンであった。

www.ringsride.work

 

直後のヨーロッパ選手権個人タイムトライアルでもエリート部門で優勝し、もはや驚きすらなくなってしまった。

 

アラフィリップ同様に、直近のドイツ・ツアーでは比較的おとなしかったエヴェネプール。今回のカナダ2連戦の目的は、まずは世界選手権に向けて足の調子を整えていくことが最大の目標だと思われる。

ただし調子の整え方は人によって違う。彼にとってのそれが、集団を抜け出しての独走であるというならば、我々はまた伝説の実現を期待しても良いだろう。もちろん、プロトンももう、彼を19歳とは見ていないはずだ。クラシカ・サンセバスティアンのように簡単に逃げを許してもらえるようなことはないだろう。

それでも、このカナダではアラフィリップ、そして世界選手権ではジルベールやファンアーフェルマートなど、うまい具合にエヴェネプールの目隠しになるような強力なエースがいてくれている。たとえ勝てなくても、目立つ良い走りを見せて欲しい。それくらい控えめに言っておけば、きっと勝つから。

 

 

21.ペテル・サガン(スロバキア、29歳)

ボーラ・ハンスグローエ(BOH)所属

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2016・2017年のケベック覇者、2013年のモンレアル覇者。昨年はブエルタに出場していたため、直近2回はそのままアルカンシェルジャージも獲得している。今年の世界選手権も、2年ぶりにサガン向きのコース。4度目のアルカンシェルのために、このカナダ2連戦も4勝目を飾りたい。

今年はサガンの不調が常に囁かれ続けてきた。年初のツアー・ダウンアンダーでは1勝したものの、そのあとは5月のツアー・オブ・カリフォルニアまで勝利がなかった。そんな事態は2015年以来だ。彼がもうロードレースに興味を失ってしまっただとか、マウンテンバイクに再転向するだとか、色々な噂がメディアを騒がせていた。そんな噂たちに対する彼の答えは以下の記事で書かせてもらっている。

www.ringsride.work

 

だが、カリフォルニアで4ヶ月ぶりの勝利を遂げたあとは、少しずつ「いつものサガン」に戻っていった。ツール・ド・スイスではステージ1勝とポイント賞。第8ステージのTTではふざけてランパールトのホットシートのところに遊びに来て一緒に勝利を祝った。ツール・ド・フランスでも1勝と7枚目のマイヨ・ヴェール。最終日のパレードランでは、イネオスの記念撮影に後ろで写り込むというお茶目な姿も見せつけ、精神的にも本来の彼の姿が戻ってきていることを印象づけた。

今年ここまでたったの4勝。チームメートのパスカル・アッカーマンやサム・ベネットの方がよっぽど勝利数を稼ぎ、目立っている。2年前のチーム発足時には考えられなかったことだ。

それでも、彼が今年のアルカンシェル候補でないとは考えていない。その状態の如何は、このカナダ2連戦ではっきりと示してくれることだろう。

 

 

31.グレッグ・ファンアーフェルマート(ベルギー、34歳)

CCCチーム(CPT)所属

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苦境に立たされた旧BMCチームを牽引する絶対のリーダーとしての責務を背負わされた。

目指すは年間20勝。

www.ringsride.work

 

結果として現時点で彼が手に入れたのは2勝。チーム全体としても、ハンマーシリーズを含めても5勝でしかない。

それでも、各出場レースで、彼は常に、チームのリーダーとしての責任ある走りを見せ、アグレッシブに上位に入り続けた。勝利という結果には到達しなかったものの、その走りは実に見事なものであった。

そのうえで、シーズンのグランドフィナーレとなる世界選手権に向けて、最後の仕上げをかけにかかる。カナダ2連戦は、彼が最も得意とするレースの1つ。モンレアルでは2016年にサガンを下して勝利しており、ケベックではここ3年連続で2位に入り込んでいる。

その意味で今年もまた「勝てない」かもしれない。が、チームのためのポイントを稼ぎ、そして世界選手権に向けて仕上げるべく、2016年リオオリンピック金メダリストは今回もまた上位入賞は確実にもぎ取ってくることだろう。 

 

 

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