りんぐすらいど

サイクルロードレース情報発信・コラム・戦術分析のブログ

2018シーズン 9月主要レース振り返り

ブエルタ・ア・エスパーニャから始まり、世界選手権で終わったこの9月。

大きな2大レースに挟まれて、カナダで行われたワールドツアーワンデーレース2連戦、あるいはフルームとトーマスも出場したツアー・オブ・ブリテンなど、細かなレースでも注目すべきレースは十分にあった9月。

いよいよシーズンも終盤。これまでにない顔ぶれの活躍も見られ、面白さはより加速しつつあるロードレースシーズンを振り返り!

  

 

 

ブエルタ・ア・エスパーニャ(2.WT)

ワールドツアークラス 開催国:スペイン

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サイモン・イェーツがジロ・ディタリアで悔しい思いを経験したとき、私は別のところで書いた記事で、「トム・デュムランも似たような経験をしたのちに今の地位に辿り着いた。きっとサイモンもまた、リベンジを果たせるときが来るはず」というようなことを書いた。

しかし、まさか同年にそれを果たしてしまうとは! その執念、勢いには脱帽以外のものがない。

彼以外にも、総合2位のエンリク・マス、総合3位のミゲルアンヘル・ロペス、そしてまさかのステージ勝利を記録したオスカル・ロドリゲスなど、例年にも増して若手が大活躍してみせたブエルタだったように思う。

今大会における若手選手の活躍については、以下の記事に詳しく書いている。

suzutamaki.hatenablog.com

あとはエリア・ヴィヴィアーニがステージ3勝を挙げ、ジロに続く、年間2つのグランツールにおける「最多勝利者」となった。これはすなわち、スプリンターにおける「ダブルツール」と形容しても良い。近年でダブルツールを達成しているスプリンターといえばマーク・カヴェンディッシュくらいだが、今年ついにヴィヴィアーニはこの伝説のスプリンターと同じレベルにまで達したのだ。来年はガビリアがクイックステップ・フロアーズを去るという話も少し出ており、ツールにおけるエースは、彼が掴む可能性は非常に高そうだ。

ほかにもベンジャミン・キング、マイケル・ウッズなど、死力を尽くした走りで栄光を掴んだ中堅選手たちの活躍にも感動を覚える、「最も面白いグランツール」という評判に恥じない3週間だったと言える。

そしてティボー・ピノ。目標を明確に据えた走りで堂々たるステージ2勝。やっぱり君は、魅せてくれる男だ。

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ブリュッセル・サイクリング・クラシック(1.HC)

ヨーロッパツアー HCクラス 開催国:ベルギー

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100年以上の歴史をもつベルギーの伝統的ワンデーレース。セミ・クラシックとも呼ばれる。昔はパリ~ブリュッセルと呼ばれていた。

13に及ぶ登りが用意されてはいるものの、いずれも短く、また最後の登りがゴールまで25km残した地点にあるため、スプリンターたちによる集団スプリントでの決着が多い。過去にもボーネングライペル、フルーネヴェーヘン、デマールなど、ブエルタへの出場を断念したピュアスプリンターたちがその名を連ねている。

元ベルギーチャンピオンのオリバー・ナーゼン(AG2R)を含む6名の逃げが生まれ、のちにレミ・カヴァニャ(クイックステップ・フロアーズ)らも合流し、先頭は最終的に8名に。ラスト25kmの最後の登りでカヴァニャが抜け出そうとする姿も見せたものの、ゴールまで10kmを残した時点ですべての逃げは吸収されてしまった。

 

ディフェンディングチャンピオンのアルノー・デマールを擁するグルパマFDJと、今期絶好調のアッカーマンを擁するボーラ・ハンスグローエとが互いに競り合う形で最終スプリントに。

ラスト250mで早駆けを仕掛けたロレンツォ・マンザン(ヴィタルコンセプト)の後ろにアッカーマンがつくと、その背後でクラッシュが発生。デマールはこれによって足止めを受け、逆にアッカーマンは万全の態勢で抜け出した。

スタイフェンが喰らいつこうともがくが、影も踏ませぬままアッカーマンが突き抜けた。圧倒的な勝利だった。彼にとっては初となる、ベルギーでの勝利だった。

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グランプリ・ド・フルミー(1.HC)

ヨーロッパツアー HCクラス 開催国:フランス

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前日のブリュッセル・サイクリング・クラシックに続き、ベルギー国境沿いにある北フランスを舞台にしたワンデーレース。こちらは今年で90周年を迎える、やはり伝統的なセミ・クラシックレースである。

過去にはナセル・ブアニやマルセル・キッテルなどが勝者に名を連ねている。

グルパマFDJのダヴィ・ゴデュやニッポ・ヴィーニファンティーニのマルコ・カノーラなど、集団スプリントに持ち込みたくないアタッカーたちが次々と攻撃を仕掛けるも、クイックステップ・フロアーズやボーラ・ハンスグローエが支配する集団がその全てを飲み込んでいく。

最後のストレートを先頭で入ってきたのはグルパマFDJ。その番手を巡ってラポートとアッカーマンが争うが、ポジションの死守に成功したアッカーマンが定石どおりにデマールの背後から抜き去って勝利。前日はデマールがアクシデントで足止めをされた中での勝利だったが、今回はこのフランス最強のスプリンターに真っ向から挑んだ結果の勝利ということで、アッカーマンの底知れなさを改めて思い知らされた。

 

これにて、ベルギー・北フランスでの連戦を共にこの24歳のドイツ人が制することに。この両日を制した選手は過去に1名だけ。スプリンターの代名詞たるロビー・マキュアン会長である。その名に並ぶ、偉大なる成績だ。

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アッカーマンはプロ2年目だが、プロ勝利は今年から。その今年でいきなりの8勝。しかも、その中にワールドツアークラスでの勝利が5つ。他の追随を許さない急成長ぶりである。

 

【参考】アッカーマンの今年の勝利レース一覧

  • ツール・ド・ロマンディ(2.WT) 第5ステージ
  • クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ(2.WT) 第2ステージ
  • ドイツ国内選手権ロードレース
  • ライドロンドン・サリークラシック(1.WT)
  • ツール・ド・ポローニュ(2.WT) 第1ステージ
  • ツール・ド・ポローニュ(2.WT) 第2ステージ
  • ブリュッセル・サイクリング・クラシック(1.HC)
  • グランプリ・ド・フルミー(1.HC)

 

 

ツアー・オブ・ブリテン(2.HC)

ヨーロッパツアー HCクラス 開催国:イギリス

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イギリス最大・最古のステージレース。イギリスという土地柄、険しい山岳地帯は存在せず、例年、ブエルタ・ア・エスパーニャへの参加を避けたトップスプリンターたちが覇を競い合う舞台となる。だが今年はツール山岳賞のジュリアン・アラフィリップやツール総合4位のプリモシュ・ログリッチェ、そして何より、ツール総合優勝&総合3位のゲラント・トーマス&クリス・フルームという、超豪華なメンバーを迎えてのガチバトルが展開された。

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総合優勝は今期絶好調のジュリアン・アラフィリップ。しかし、彼以上にその活躍に心沸き立たせてくれたのはBMCレーシングチームのパトリック・ベヴィン。

2016年パリ~ニースのプロローグではマイケル・マシューズ、トム・デュムランに匹敵するタイムを叩き出し、当時の実況に「どちらさま系」と呼ばれた意外な存在。さらには翌年のツール・ド・スイスでは連日上位に入る走りでスプリンターとしての才能も見せつけ、今年はティレーノ~アドリアティコで一時リーダージャージを着用した。

個人TT・スプリント共に高い総合力を持った選手だったが、今回のブリテンではスプリントステージもパンチャー向けステージでも上位に連続して入り、エースナンバーをつけるステファン・クンを差し置いて2日間総合リーダージャージを着用した。

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だが、チームとして得意としているはずのチームTTで大崩れ。最終的にはアラフィリップから42秒遅れの総合4位ではあったが、もしもこのチームTTで優勝していれば、総合首位まで4秒差近くにまで迫れていたのだ。そう考えると、今回のブリテンは彼にとっては大きなチャンスであっただろう。それだけに悔しい。

 

ベヴィン以外にも、グライペルやユワンなど、今年ちょっとうまくいかない思いを過ごしてきていた選手たちが軒並み結果を出していたのは嬉しかった。逆に、ガビリアは勝てず。第1ステージではラインを取れず仕方なく残り300mから早駆けするが、その距離からのスプリントは彼にとっては必敗ライン。アシストなしでは勝てないという、今年の彼の「不調」を象徴する敗北を喫した。第8ステージも位置取りが悪かった。

 

あとは個人的にスゲー!と思ったのは第3ステージ。アラフィリップの勝利。というか、アラフィリップというか、それを500m以上牽引し続けたボブ・ユンゲルスが凄すぎる。あの位置からのユンゲルスのリードアウトはそりゃあ、反則だよね。

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今年は結構コンビを組むことの多いこの2人。彼らやイェーツが牽引する1992年世代も、90年世代に匹敵する黄金時代だ。

  

 

グランプリ・シクリスト・ド・ケベック(1.WT)

ワールドツアークラス 開催国:カナダ

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2010年より開催されている、カナダのフランス語圏ケベック州にて開催される周回型ワンデーレース。獲得標高は3000m弱。2日後に開催されるグランプリ・シクリスト・ド・モンレアルよりはアップダウンが抑え目ではあるが、過去の優勝者を見るとフィリップ・ジルベールやサイモン・ジェラン、ペテル・サガンなどのパンチャー系の選手が名を連ねている。昨年はサガンが2年連続の勝利となり、ファンアフェルマートが2年連続の2位を喫していた。

今年はサガンブエルタ・ア・エスパーニャに出場中のため、ファンアフェルマートにとっては絶好のチャンスとなった。

 

カナダ人3名を含む5名の逃げが決まるが、残り2周で集団から抜け出したピーター・ケノー(ボーラ・ハンスグローエ)が独走を開始。ラスト1kmのゲートを5秒以上の差をつけて超えたが、残り400mで捕まえられてしまった。

混沌とした集団スプリントで、ラスト200mから先頭に出たマシューズが、これに追いすがろうとするファンアフェルマートを突き放して勝利を掴んだ。2015年には2位、昨年は3位と、優勝候補でありながら勝ちきれずにいた彼にとっては歓喜の勝利。一方、ファンアフェルマートは3年連続4回目の2位に沈んだ。

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マシューズは今年、あまりにも辛いシーズンを過ごしていた。8月に入るまでの勝利はツール・ド・ロマンディでの個人TT(プロローグ)のみ。

8月半ばのビンクバンクツアー「ミニ・ロンド」ステージでの勝利から少しずつ調子を取り戻し、今回の勝利。このまま10歳年上の先輩サイモン・ジェランに続く、ケベックモンレアル制覇を期待したいところだが、果たして。

 

 

グランプリ・シクリスト・ド・モンレアル(1.WT)

ワールドツアークラス 開催国:カナダ

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2日前のケベックに続き、同じケベック州の都市モンレアル(モントリオール)で開催されるワンデーレース。1974年の世界選手権、1976年のモントリオールオリンピックで使われたのと同じコースを使用する。

ケベックに比べるとよりアップダウンが激しく、ケベック以上のパンチャー向けのレースとなっている。

 

ゴール前600mは勾配4%の登りスプリント。このようなレイアウトを得意とするマシューズ、コルブレッリ、ファンアフェルマートがほぼ同時にスプリントを開始。最も先頭からスタートできたコルブレッリがリードするものの、その番手にマシューズが入り込み、もう一段階の加速を見せた。

単純な強さだけでなく、冷静に状況を分析し、戦術を組み立てるクレバーな走りでカナダ2連戦で2連勝を果たした。

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なお、このカナダ2連戦で2日続けて上位に入り込んだティモ・ローセンにも注目すべきだ。

今年絶好調のディラン・フルーネヴェーヘンの信頼する発射台でもある彼だが、ドバイ・ツアーのハッタ・ダムステージなど、ピュアスプリンターのフルーネヴェーヘンが対応できない登り系スプリントではエースを張れる実力をもつ。

パンチャー向けのステージレース、ツール・ド・フィヨルドでも今年、総合6位の実力を見せつけている。

もちろん、発射台としても、例えば8月に行われたフェーネンダール・フェーネンダール・クラシック(1.1)ではフルーネヴェーヘンのためのラスト1kmの牽引の凄まじさが強烈な印象を残している。

チーム・ロットNLユンボにとっては、フルーネヴェーヘンのアシストとしても、単独で勝利を狙えるパンチャー/スプリンターとしても、今後の更なる成長が楽しみな選手でもある。

 

 

ツール・ド・ユーロメトロポール(1.HC)

ヨーロッパツアー HCクラス 開催国:ベルギー

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ベルギー・ワロン地方のフランス国境沿いで行われる伝統的なレース。2016年以降はワンデーレースとして開催されているが、ディラン・フルーネヴェーヘン、ダニエル・マクレーとピュアスプリンターが連勝している。

今年は雨の中、荒れた展開に。最終周回に入る直前の残り14km地点で、ベノート、ドラッカー、ナーゼン、アルノー・デマール、アレックス・キルシュ、そしてヤスペル・スタイフェンという強力な6名による逃げが生まれる。

さらにそこにペダースンがブリッジを仕掛け、チームメートのスタイフェンと共に抜け出す。スタイフェンのために積極的に前を牽くペダースン。しかし、この逃げはゴールまで届かず、吸収されてしまう。

残り2kmでベノートが強烈なアタックを見せ、勝負は決定的になってしまったかのように思えた。

だがここから、先ほどは助けられていたスタイフェンが、今度は自分の番だとばかりに集団を牽引。このお膳立ての結果、最終ストレートでベノートを捕まえた集団の中から飛び出したペダースンが、ドラッカーやナーゼンの猛追を振り切り、そのまま先頭でゴールした。

まさにチームワークの勝利! そして、途中ブリッジを仕掛けスタイフェンのための牽きまでやってのけたペダースンが最後までスプリントする体力を残していたことにも驚き。

悪天候もありサバイバルなレースとなったことが功を奏したか。今年のフランドル2位の実力者でもあるペダースンの今後の活躍にも期待が集まる。

 

 

UCIロード世界選手権

世界選手権 開催国:オーストリア

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今年も若手からベテランまで、幅広く大きな活躍を見せてくれた白熱の世界選手権。今大会で個人的に注目すべき勝者は3名。

まずは個人タイムトライアルで前大会覇者デュムランに1分以上ものタイム差をつける圧倒的な勝利を記録したローハン・デニス。

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今年は完全にこの世界主権に焦点を当てて調整をしてきたのか、今年獲得している7勝すべてが個人TTである。直前のブエルタでも2つの個人TTの両方を制している。

正直、これまではデニスというのは、どちらかというと短距離が得意なタイプだと感じていた。しかし今回のこの52kmというとんでもない距離に対してもばっちりと合わせてきているあたり、今年の彼の本気度は間違いがなかったということだろう。

逆に、今年はグランツールにも本気を出してきていたデュムランは本人も認める悔しい走りに終わってしまった。山岳のために絞り過ぎた結果だったのだろうか。

逆にデニスも、今回ついにこのアルカンシェルを手に入れた以上、次の目標はグランツールに据えていく必要があるだろう。TTに全てを注いだ今年に反して、来年以降は山岳への対応力をつけていかなければならない。来年は29。そろそろ、グランツールを本気で狙える時期の終盤に差し掛かってきている。

来年以降の更なるデニスの変貌に期待していきたい。

 

また、男子エリートロードレースではアレハンドロ・バルベルデが優勝。これまで、2位や3位を繰り返し取り続けていた男の、38歳にしてついに掴んだ栄光。

彼の走りやそのライバルたちの走りについては、以下の記事に詳細を載せている。

suzutamaki.hatenablog.com

 

最後に注目すべきは、男子ジュニアのロード&TTを完全制覇したベルギーの超新星レムコ・イヴェネプール。彼の凄まじさについては既に多くのことが語られており、ここで詳述する必要はないかと思うが、とにかく同世代においては頭一つも二つも三つも飛び抜けた存在であることがわかる。

衝撃のレムコ・イヴェネプール。サッカーへの絶望からアルカンシェルまでの物語とは? - サイバナ

来年はすでにクイックステップ・フロアーズへの移籍が決まっている。今年もネオプロが大活躍しているこのチームで、じっくりと着実に成長していってほしい。