平均年齢24.3。
これが、今年のブエルタ・ア・エスパーニャにおける、総合表彰台3名の平均年齢である。
過去10年のグランツールのデータをひっくり返してみても、これほどに平均年齢の低い総合表彰台は初めてである(2014年ジロ・ディタリアのキンタナ、ウラン、アルのときも平均年齢25歳と非常に低かった)。
また、初出場や若めの選手の出場が多いブエルタではあるが、かと言って総合表彰台の平均年齢が他2つのグランツールと比べて低いわけでもなく、今回のブエルタのこの結果は、新たな時代の幕開けを象徴するものであったと言える。イェーツ兄弟、ユンゲルス、アラフィリップといった「92年世代」以降の世代の存在感が、今後のグランツールでもより高まっていくかもしれない。
【参考】過去10年間のグランツール総合表彰台年齢データ
そんな、新時代到来を予感させる今ブエルタにおいて、特に目立った活躍をした「25歳以下の選手たち」を5名ピックアップし、独断と偏見に基づいてランキングしてみた。
総合優勝争い以外の観点も含んだごちゃまぜミックスのランキングではあるが、各分野で注目のこれら若手選手が、今後数年間の間でより力を示していくのは間違いない。今から注目しておいて、損はないだろう。
なお、ミゲルアンヘル・ロペスは昨年すでに台頭しているということでランキングからは除外しているので悪しからず。
それでは行ってみよう。
第5位 セップ・クス(24)
今年のツアー・オブ・ユタで圧巻のステージ3勝と総合優勝をもぎ取ったネオプロ。ラリー・サイクリング所属時代の昨年のツアー・オブ・カリフォルニアにて、既にその才能の片鱗を見せていたとはいえ、驚きの結果であった。
その成績でもって選ばれた、初のグランツールという檜舞台。その最初の山場である第9ステージの山頂フィニッシュにて、チームの2大エース、ステーフェン・クラウスヴァイクとジョージ・ベネットを堂々と前で牽引する姿はとても印象的であった。一時はクラウスヴァイクがつき切れしかねないほどの勢いだったのだ。
とはいえ、さすがにその勢いは2週目以降は続かなかったように見える。終盤ではクラウスヴァイクがほぼ1人で頑張る場面も。さすがに初のグランツール、というか初のワールドツアーチームでの大きな舞台である。むしろ、しっかり完走しただけでも十分スゴい。
来期はさらなる活躍に期待。
第4位 イヴァン・ガルシアコルティナ(23)
ネオプロで出場した昨年のブエルタでも終盤の山岳ステージで逃げに乗っており、その潜在能力の高さに驚かされていたガルシアコルティナ。
今年も、地元アストゥリアスを走る第15ステージで、残り8kmまで独走するより進化した走りを見せてくれた。ステージ優勝を得るまで、あと一歩というところまで来ているのかもしれない。
そして今年の彼は、スプリンターとしての可能性も見せつけてくれる年だった。ライドロンドン・サリークラシックでは強豪スプリンターたちに混じっての4位。今回のブエルタでも、第6ステージ(ブアニ勝利)で6位、第10ステージ(ヴィヴィアーニ勝利)で7位、そしてギリギリの逃げ切り勝利が決まった第18ステージでは5位と、ピュアスプリンター顔負けの上位入賞を繰り返していた。
さらにはバルベルデが勝利した激坂スプリントとなった第8ステージでも9位に入り込むなど、80㎏の重量級とは思えない軽快な走りを見せるなど、その脚質はもはや、定義不能である。
エンリク・マスがコンタドールの後継者と称されるならば、このガルシアコルティナという男は、もしかしたらアレハンドロ・バルベルデの後継者とも言うべき存在なのかもしれない。偉大なる存在に負けぬよう、そのポテンシャルの成長をこれからも見せてほしいところ。
第3位 リチャル・カラパス(25)
エクアドル、モビスター・チーム
ジロ総合4位も十分凄かったが、何よりも今回、最終盤まで常にキンタナ、バルベルデの傍らに控え、ときに彼ら以上の実力を感じさせる走りで最後までサポートし続けたそのアシスト力に脱帽。ときに前から降りてきて牽き、ときにオールアウトするまで牽引する。アシストの鏡である。
そもそも今年のパリ~ニースにおけるソレルの総合優勝も、カラパスの助けなくしては成し得なかった可能性もある。
カラパスとソレルという2人のエース候補が控えているモビスターの未来は今のところまだ明るい。
第2位 オスカル・ロドリゲス(23)
スペイン、エウスカディ・ムリアス
誰もが驚く成果を叩き出した。
何しろ、20%超えの超激坂で、 マイカとディラン・トゥーンスを抜き去って勝利したのである。しかも、プロ1年目で。
これまで目立った勝利はない。ジュニアやU23でのタイトルもない。経歴として認められるのは、スペインのパレンシア州で行われたアマチュアレースで優勝歴くらいか。一応、エンリク・マスやティシュ・ベノートなどが上位に入ったこともあるレースではあるが・・・。
現状は来年もエウスカディ・ムリアスの契約が残ってはいるが、安定した成績を出せれば2020年にはワールドツアーチームへの昇格も十分ありうるだろう。20年代注目のクライマーの1人となるはずだ。
第1位 エンリク・マス(23)
スペイン、クイックステップ・フロアーズ
というわけで、今大会最も意外な結果を叩き出した男は間違いなくこの人物だった。チームですら彼の躍進を想像できていなかったのは、(ブエルタにも関わらず)ヴィヴィアーニのスプリントに全振りをしたチームメンバーにも現れている。
そんな彼がたった一人で勝利を掴んだのは、ひたすら冷静に無理をせず、チャンスを掴んで飛び出すその戦術眼の鋭さだったと思う。最後の最後でステージ優勝を取ったのも、巧みにラストコーナーのインを取る走りのお陰だった。
この嗅覚は「単独で走る」環境においては最適なもののように思える。その意味で彼は、結構デュムランとかと近いタイプなんじゃないだろうか。
しかし腕、長いなぁ。
ブエルタらしくスペイン人の若手の躍進が目立つ。
暫く「次代の成長がない」と嘆かれていたはずのスペインが、今にわかにその未来を輝かしいものとしている。
そこに来て、スペイン人の大ベテラン、バルベルデの世界選手権優勝。
偉大なる老兵からの導きを受けて、新たな時代のスペインの才能たちが活躍することはできるか。