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「ダブルツール」達成! エリア・ヴィヴィアーニ2018の軌跡

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ブエルタ・ア・エスパーニャ第21ステージ。

マドリード周回コースで競い合う恒例のスプリントステージで、エリア・ヴィヴィアーニは今大会3勝目を記録した。

途中、ナセル・ブアニに勝利を奪われた場面もあったものの、それ以外の平坦集団スプリントとなったステージ全ての勝利を手に入れた。

 

ジロ・ディタリアでも4勝しており、今シーズンは出場した2つのグランツールでいずれも「最多勝利」を達成。

2つのグランツール両方で「最強スプリンター」であることを証明したわけである。

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その意味で、ヴィヴィアーニは今年、「ダブルツール」を達成したことになる。

同年に2つのグランツールで「最多勝利数」を記録する、スプリンター版「ダブルツール」。

過去11年のグランツールを紐解いてみると、2008年~2012年の5年間で4回、マーク・カヴェンディッシュが「ダブルツール」を達成している。

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そして今年は、実に6年ぶりとなる「ダブルツール」を、ヴィヴィアーニが達成。

今年29歳となるイタリア人が新たな時代の扉を開いた。

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グランツールの勝利だけではない。

今年はイタリア国内選手権やユーロアイズ・クラシックなどのワンデーレース、デパンヌ3日間のようなクラシックレース、そしてドバイ・ツアーでの総合優勝など、これまでと比べても幅広い活躍を見せている。

今年の勝利数は18*1

これは、彼の9年間のプロ生活の中で最高の数字となっている。

 

 

いかにして今年のヴィヴィアーニはこれほどの勝利を積み重ねたのか。

その要因、そして彼の前に立ちはだかった困難とそれを乗り越えた方法とを振り返りつつ、今年のヴィヴィアーニの走りの「軌跡」を見ていこう。

 

 

 

 

2018年以前のヴィヴィアーニ

2010年にリクイガス・ドイモでプロデビューを果たしたヴィヴィアーニは、5年間をイタリアのワールドツアーチームで過ごす。

その後、当時すでに最強チームの一角として名を馳せていたチーム・スカイに加入。スカイとしても、2012年に在籍していたマーク・カヴェンディッシュのようなエーススプリンターの存在を欲していたこともあるだろう(あるいはイタリア市場へのアピールか)。

移籍1年目に早速ジロ・ディタリアに出場し、念願のステージ優勝。

チームにとってもヴィヴィアーニにとっても、Win-Winな関係を築くことができたシーズンであった。

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しかし、翌2016年のジロでは1勝もできないままに序盤でタイムアウト失格。

シーズン後半はリオ・オリンピックのトラック種目に集中したこともあり、金メダルは獲得したものの、ロードレースでの成績自体は年間2勝と思わしくないものだった。

 

そして、ロードに集中すると宣言した2017年の前半も、相変わらずの2位続き*2

この状況をスカイの首脳陣がどう判断したのかは不明だが、最終的に彼にもたらされた結論は、「2017年のジロ・ディタリアに出場させない」という事実。

ヴィヴィアーニもその決定を「理解できる」と告げた*3

 

しかしそれでもイタリア人として、オリンピック金メダリストの栄光を手に、母国最大のレースの第100回記念大会に出場するという2度とは訪れない最大のチャンスを失ったことは、彼に大きな決断を促すに十分な理由となったのだろう。

 

スカイとの間の契約を1年残したまま、新たな環境――クイックステップ・フロアーズに移籍するという決断を。

 

 

最強アシストの存在

2018年シーズンは、スプリンターたちにとって戦国時代の様相を呈していた。

シーズン緒戦となるツアー・ダウンアンダーではサガン、グライペル、ユワン、そしてヴィヴィアーニ。

カデルエヴァンス・グレートオーシャンロードレースではジェイ・マッカーシー。

2月のドバイ・ツアーではフルーネヴェーヘン、カヴェンディッシュも勝者としてその名を連ねていった。

そして前年まで敵なしの走りを見せていたマルセル・キッテルの絶不調。

もはや、スプリンターの誰が勝つのか、予想のまったくできない状況が続いていた。

 

そんな中、ダウンアンダー1勝、ドバイ・ツアーでステージ2勝と総合優勝、そしてアブダビ・ツアーでも1勝と、他のスプリンターたちと比較しても頭一つ抜け出た成績を残すことができたのがヴィヴィアーニだった。

昨年の同時期、ひたすら2位続きだったのとは、対照的な成績だ。

 

そんな彼の勝利を支えたのが、クイックステップ・フロアーズというチームの力であった。

その中でも特に、ファビオ・サバティーニという最強アシストの存在は、ヴィヴィアーニの勝利に大きな役割を果たした。

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サバティーニは1985年生まれ。今年33歳のイタリア人スプリンターである。

最初はミルラム、続いてヴィヴィアーニも在籍したリクイガス(キャノンデール)に所属。アレッサンドロ・ペタッキ、サガン、そしてヴィヴィアーニのリードアウト役を務めてきたベテランの「発射台」である。

 

そんな彼が2015年、在籍していたチームを失ってフリーになったところを、オメガファルマ・クイックステップ(現クイックステップ・フロアーズ)のパトリック・ルフェーブルGMが迎え入れた。

このとき、同チームのエーススプリンターであったマーク・カヴェンディッシュの強い要望があったようである*4

 

翌2016年にカヴェンディッシュはチームを去るが、代わって最強のドイツ人スプリンター、マルセル・キッテルがメンバー入りを果たした。

たちまちサバティーニはキッテルにも気に入られ、彼の勝利の多くを支え、そして今年、チームを去ることを決めたキッテルは、サバティーニに声をかけた。

共にチームを移籍することを。

 

しかし、サバティーニは残留を選んだ。

彼は、かつてのチームメートであるヴィヴィアーニがクイックステップ入りすることを知り、彼を支えることを選んだのだ*5

 

かくしてヴィヴィアーニは最強アシストを手に入れた。

 

 

プレッシャーとの闘い

最強のチームを手に入れたことはヴィヴィアーニにとっては僥倖ではあったが、一方で彼は大きなプレッシャー背負うこととなった。

1月~2月と好調のシーズンを過ごしていく中で、そのプレッシャーは日増しに大きくなっていったことだろう。

そして3月のヘント~ウェヴェルヘム。

直前のデパンヌ3日間では危なげなく勝利し、好調のヴィヴィアーニとクイックステップ・フロアーズ。

石畳の激坂ケンメルベルクなど、ピュアスプリンターには決して優しくはないコースをチームメートたちに助けられながら、ヴィヴィアーニは23名の先頭集団の一員としてフィニッシュを迎えることができた。

先頭集団にはジルベール、スティバール、ランパールトの3名のアシストが含まれており、万全の態勢で最後の勝負に挑むことができた。

 

 

ヴィヴィアーニはここで選択のミスをした。

彼はマッテオ・トレンティンとアルノー・デマールに照準を絞り、彼らの後輪を捉えることにした。

最終的にヴィヴィアーニはデマールの背後から飛び出し、これを軽々抜き去って先頭に躍り出ることができた。

・・・左方よりサガンが恐ろしい勢いで抜け出てくることさえなければ。 

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ゴールの瞬間、悔しさに何度もハンドルを叩きつけるヴィヴィアーニ。

さらに、彼はゴール後に座り込み、涙を流した。 

 

「ジルベール、イヴ、スティバールがどれだけ前を引っ張って僕のポジションを守ってくれていたか。ニキがレース全体を通してどれだけ僕を守ってくれていたか。僕は結果に対する責任を持っていた。なのに、僕は敗北した・・・彼ら完璧な仕事を果たしてくれたのに。後悔は何もない。ただ悲しみだけが押し寄せてくる*6

 

最高の仕事をしてくれる仲間たちに支えられているからこそ、ヴィヴィアーニは大きな責任と重圧を背負うこととなった。

その結果が敗北であれば、たとえ2位という十分に大きな結果であっても、彼はこれまでに感じたことのないような深い失望に襲われることになるのである。

 

 

そんな彼が挑む、2年ぶりのジロ・ディタリアは、それこそ想像を絶するプレッシャーとの闘いであっただろう。

このジロ・ディタリアは、プレッシャーの要因となる要素が少なくとも3つあった。

 

  • チームは総合リーダーを置くことなく、ヴィヴィアーニのスプリントに全力を注ぐ体制を準備した。
  • 昨年はガビリアがステージ4勝+マリア・チクラミーノ(ポイント賞)を獲得している。
  • キッテル、サガン、グライペル、フルーネヴェーヘン、ユワンといった一流スプリンターたちがジロを回避し、ヴィヴィアーニにとっては「勝って当たり前」という空気が存在していた。

 

しかし、彼はこのプレッシャーを跳ね除けた。 

最初のスプリントステージとなった第2ステージで、見事先頭を取って勝利したヴィヴィアーニは、インタビューに対して次のように答えた。

 

「出走前のインタビューで、僕は落ち着いていると答えていたが、あれは嘘だった。でもこれだけ早く勝利を得ることができて、プレッシャーの8割をなくすことができた*7

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その言葉通り、以降は伸び伸びとした走りで3つの勝利を掴み取り、合計4勝。

マリア・チクラミーノ(ポイント賞)も獲得し、チーム内の若きライバルに対して自らがまったく遅れをとっていないことをチームにも証明した。

 

 

進化するヴィヴィアーニの走り

以後のヴィヴィアーニの躍進は、誰にも止められない勢いだった。

6月イタリア国内選手権ロードレースでは、ゴール前の登りでアタックしたジョヴァンニ・ヴィスコンティの後輪を捉えて離さず、そのままゴール前のスプリントを制してナショナルジャージを手に入れた。

3位はポッツォヴィーヴォ、4位はサンタロミータ。どう考えてもピュアスプリンターが勝てるようなレイアウトではなかったレースで、これまでにない走りを見せたヴィヴィアーニが初めての栄光を掴み取った。

 

サイクラシック・ハンブルクでは2年連続となる勝利。

そして6年ぶりの出場となったブエルタ・ア・エスパーニャでは再び彼のためのチームを用意してもらい、見事にステージ3勝。

とくに最後のマドリードの勝利は、ゴールに至る道でチームメートを失い、ブアニに敗れた第6ステージと似たような展開に陥ったものの、このときの彼は冷静に状況を判断し、サガンの後輪にしっかりと飛び乗った。

 

そして、これを抜き去っての勝利。

まるで、ヘント~ウェヴェルヘムのリベンジのような鮮やかな勝利であった。

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ヴィヴィアーニ自身、「今までで最高のシーズンだった」と振り返る2018年。

しかし一方で、彼は次のようにも述べている。

 

「今年は最高のシーズンだった。けど、来年以降も、これ以上の成績を出していかなければならない*8

 

 

気になるのは、ツール・ド・フランスにおけるエースの座。

今年はヴィヴィアーニがジロを優先し、昨年目覚ましい活躍を見せたガビリアがキッテルの代わりにツールに出場することとなった。

しかし、今年のガビリアは正直、思うような結果を出せずに終わった。シーズン序盤は怪我で苦しみ、ツールも2勝したもののそれはマクシミリアーノ・リチェセという天才的なアシストの賜物だったとも言える。

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そしてガビリアはアルプスの厳しい山岳を前にしてリタイアを喫することにもなった。

この調子が来年も続くようであれば、ヴィヴィアーニがツールのエースの座を獲得したとしても不思議ではなさそうだ。

 

 

その他にも、彼が今年「取り損ねた」栄光はまだまだある。

たとえばミラノ~サンレモ。あるいは今年は敗れたヘント~ウェヴェルヘムなど・・・。そのときこそ彼は、カヴェンディッシュにも並ぶ「最強スプリンター」となることだろう。

 

2019年も、その圧倒的な走りを見せてくれるか。

楽しみにしているぞ、ヴィヴィアーニ。

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