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グランプリ・シクリスト・ド・モンレアル2019――ジュリアン・アラフィリップの「不調」と敗北の理由

スムースに例年通りの集団スプリントで決着したケベックに対し、やはりモンレアルは混乱にまみれた展開となった。

最終周回で生まれた、フランス人デュオによる決定的な逃げ。

しかしその結束は脆くも崩れ去り、最後は漁夫の利を得るような形でグレッグ・ファンアーフェルマートが勝利を掴んだ。

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「幸運にも」とケベックのマシューズに続きファンアーフェルマートもレース後に語っている。

今回もまた、勝者が自らの手で掴み取ったというよりは、展開のあやで生まれた最後のチャンスをモノにしたという形であった。

 

そんな結末を生み出すに至ったモンレアルの混乱はいかにして生まれたのか?

そして、その動きは来る世界選手権に向けて、何を意味するのか?

 

カナダ2連戦、より厳しい丘陵ステージとなったモンレアルの顛末を振り返っていく。 

 

↓GPケベックおよびモンレアルのプレビューについてはこちら↓

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↓GPケベックのレースレビューはこちら↓ 

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残り12.2kmの最終周回。

登坂距離1.8㎞、平均勾配8%の「カミリアン・ウードの丘」で、AG2Rラモンディアルのナンス・ピータースがアタックした。

ここにマイケル・ウッズとエンリク・マスが合流し、先頭に出たウッズの牽引でさらなる加速を見せた。

 

ミッチェルトン・スコットの2人の選手が牽引する追走集団が、登りの頂上で3名を捕まえる。だがそのときには集団の数はわずか20名に満たないほどに縮小していた。

この集団が最後まで逃げ切る集団となる。マイケル・マシューズはここに乗れずにレースを終えた。

 

 

そして、カミリアン・ウードの丘の下りで、AG2Rラモンディアルのブノワ・コズネフロワ(フランス、24歳)がアタックした。

2017年の世界選手権U23カテゴリ世界王者。昨年のパリ~ツールでは、逃げ切ったセーアンクラーウ・アナスンをニキ・テルプストラと共に追走し、彼を怒らせながらもしっかりと表彰台を獲得した胆力の持ち主である。

 

そんな彼が、得意の下りと独走力でもって集団から抜け出し、あっという間に20名弱の勝ち逃げ集団からも距離を開いていった。

残り6.5kmから始まる今大会最後の重要な登り「ポリテクニークの丘(登坂距離0.8km、平均勾配7%)」を登り始める頃には、そのタイム差は10秒ほどに。

追走集団からはティム・ウェレンスとエンリク・マスが飛び出して決死の追走を試みるが、そのタイム差はなかなか縮まらず残り距離だけが着実に減っていった。

そして残り3.2km。ウェレンスとマスもメイン集団に飲み込まれ、追走集団は再び1つになった。

 

ここで、カウンターアタックを仕掛けたのが、ケベックでも積極的な動きを見せたジュリアン・アラフィリップであった。

鋭いその一撃に誰もついていくことはできず、残り2.7kmで彼は一気にコズネフロワに追いついた。

これはさすがに逃がしてはいけない動きであることを察知したペテル・サガンは、いつもの牽制は一切行わない構えで集団を牽引し、フランス人デュオを追い詰めようとする。

だがコズネフロワもすぐさまアラフィリップのために前を牽く。400m進んだ後には今度はアラフィリップが前を牽き、さらに300m進んだ後にはコズネフロワが前を牽き・・・とフランス人同士の協調が円滑に進んだ。

さらには残り1.7kmからの下りでトップチューブに座ってペダルを回す「宇宙的」なダウンヒルでコズネフロワは更なるリードを獲得。

「最強のふたり」の猛進撃に、さしものサガングループも追い付くことは難しいように感じられた。

 

だが、ラスト600m地点の180度カーブを曲がり、緩やかな登り勾配のアヴェニュー・デュ・パルク」に到達したとき、フランス人デュオの絆は脆くも崩れ去った。

残り500mで後ろを振り返り、アラフィリップに前を牽くよう指示をするコズネフロワ。

だがアラフィリップはこれを拒否し、それを見たコズネフロワは、悔しそうにハンドルを叩いた。

 

がっかりしているよ。このモンレアルで、フランス人によるワンツーが実現できていたとしたら、それはすごく素敵なことのはずだったから。彼と同じ表彰台に立てるなんて最高だっただろうに。僕たちはチームは違うけれど同じフランス人で、僕は彼のことを長い間よく知っていたから・・・

www.cyclingnews.com

 

 

しかし、アラフィリップがレース後に彼に話したという「僕はもうガス欠だったんだ」という言葉は、真実だった。

その後、残り200mでコズネフロワが諦めたとき、アラフィリップはスプリントを開始したが、その勢いはまったくもってていをなしておらず、フラフラのしぼんだ風船のようだった。

そしてそれをかわしながら、残り150mでスプリントを開始したディエゴ・ウリッシの背後から、グレッグ・ファンアーフェルマートは勝利を掴む一撃を放った。 

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前回のケベックでも自ら動き出しながら、最後は足を失って7位に沈んだジュリアン・アラフィリップ。

前回は、ラスト300mであえて先頭を牽き続けるという選択肢を取ったがゆえの転落であり、それを見て、まるでケベックの勝利というよりは世界選手権に向けた足の調子を確かめるための走りのように見えた、とコメントした。

 

今回もまた、勝利を犠牲にしてでも、足試しのためにあえて限界を超えた走りを試みた結果だったのかもしれない、と読むことはできなくはなさそうだ。

 

しかし、ストラーデ・ビアンケを勝ったときの彼であれば、あの鋭いアタックから、最後まで力を残し続けることは十分に可能だったはずだ。

 

にも関わらず、23kmを逃げ切ったストラーデ・ビアンケに対して、わずか3.2kmすらも最後まで体力を残せなかった今回のモンレアル。

それも、ブノワ・コズネフロワの助力を十分に借りながら。

 

 

「神話」を創り上げたツール・ド・フランスの疲れが未だに残り続けているのか。

大会最右翼だったはずのジュリアン・アラフィリップの「不調」は、世界選手権に向けた予想の行方を混沌とさせつつある。

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一方で、新たな新王者最有力候補となりつつあるのが、直近のツアー・オブ・ブリテンを総合優勝したばかりのマチュー・ファンデルポール(オランダ、24歳)

ブリテンでステージ3勝と総合優勝。

集団の中での場所取りにはまだまだ難が残るものの、そこから抜け出してほぼ独走状態で突き抜けていくロングスプリントの「長さ」と「速さ」はロードレースの常識を超える。

ブリテン最終日には、残り300mで一度前に出されたあと、振り返って背後のボルを先に前に出してから再度スプリントを開始して勝つという、ちょっとありえない勝ち方も見せている。

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アラフィリップがストラーデ・ビアンケ同様に鋭いアタックから勝利の目前にまで迫っていたアムステルゴールドレースで、そのシナリオをぶち破ったのもマチュー・ファンデルポールだった。

サガンも、マイケル・マシューズもイマイチ。ファンアーフェルマートも「待ち」の姿勢を貫いたうえでの勝利で、ブルターニュ・クラシックでは逆にそのせいで勝負権を失っている。ダークホースのレムコ・エヴェネプールも、今回のモンレアルで得意の独走を始める動きも見せたが、最終的には捕まえられている。

 

 

結局、今回のヨークシャー世界選手権。このファンデルポールに、大きな可能性が集まりつつある。

結局、この「怪物」が世界の頂点を制するのか? ベテランロードレーサーたちの意地に期待したい。

 

 

 

また、今回、実に悔しい結果を味わってしまったコズネフロワ。

だが、今回の走りが最後の決め手になったのか、見事、世界選手権フランス代表の最後の椅子を手に入れた。

 

今回果たせなかった「フランス人の協調」が今度こそ果たされるか。

くれぐれも、「前のリベンジだ!」って言ってアラフィリップと喧嘩しないように・・・。

 

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