シーズン最後のグランツール。そして最も予想のつかないグランツール、ブエルタ・ア・エスパーニャ。
今年はスペイン東部、地中海沿いのバレンシア州をスタートし、スペイン北東部、北部を経て中央マドリード周辺でフィニッシュを迎えるコースレイアウト。
その第1週は、バレンシア州から北上し、やがて近年の定番となったアンドラ公国へと向かう。ブエルタらしいというか何というか、1週目だというのに集団スプリントが狙える平坦ステージは2つしかなく、代わりに強烈な山頂フィニッシュ3連戦+アンドラ公国での超級山岳ステージという、いきなりのメインディッシュ感のある構成となっている。
よって、1週目から総合争いから目を離せない。そして、それ以上に波乱のつづく展開となったこの第1週を振り返っていく。
↓第1週のコース詳細はこちらから↓
↓全チームのスタートリストと簡単なプレビューはこちら↓
↓第2週の全ステージレビュ―はこちら↓
- 第1ステージ ラス・サリナス・デ・トレビエハ 〜 トレビエハ 13.4㎞(チームTT)
- 第2ステージ ベニドルム〜カルペ 199.6㎞(丘陵)
- 第3ステージ イビ〜アリカンテ 188㎞(平坦)
- 第4ステージ クリェラ 〜 エル・プイグ 175.5㎞(平坦)
- 第5ステージ レリアナ 〜 ハバランブレ 170.7㎞(丘陵)
- 第6ステージ モラ・デ・ルビエロス 〜 アレス・デル・マエストラート 198.9㎞(丘陵)
- 第7ステージ オンダ 〜 マス・デ・ラ・コスタ 183.2㎞(山岳)
- 第8ステージ バルス 〜 イグアラダ 166.9㎞(丘陵)
- 第9ステージ アンドラ・ラ・ベリャ 〜 コントラルス・デンカンプ 94.4㎞(山岳)
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第1ステージ ラス・サリナス・デ・トレビエハ 〜 トレビエハ 13.4㎞(チームTT)
美しき海岸線を有するバレンシア州の保養地を舞台にした短距離チームタイムトライアル。レイアウトはほぼオールフラットで、カーブも少なく波乱の少ない展開になるはずだった。
しかし、今年のUAEツアーやツール・ド・フランスのチームTTを制し、今回もログリッチェやトニー・マルティンなど世界トップクラスのTTスペシャリストを揃えてきている優勝候補ユンボ・ヴィズマが、出走直後のセップ・クスのメカトラブル、そして道路上に突如流れ込んできた水にタイヤを取られてのスリップ落車によって、大きくタイムを落とすこととなった。
幸いにも大きな怪我には繋がらなかったようで、またチームスタッフの迅速な対応とマルティンの鬼牽きにより、40秒の遅れに留めることはできた。しかし総合優勝を狙う最有力チームの突然のこのトラブルに、ツールに続きブエルタも波乱の連続が待ち構えていることを暗示しているかのようだった。
トラブルは止まらない。この落車への対応のため、ユンボ・ヴィズマのチームカーが停車した場所が、不運にもカーブのイン側。直後にやってきたドゥクーニンク・クイックステップの隊列は、このチームカーを避けるべく迂回して体制を立て直す必要からわずかにタイムをロスしてしまった。
最終的に彼らが優勝するために必要だった秒数は2秒。あのチームカーさえなければ・・・という思いをフィリップ・ジルベールもツイッターで漏らしていた。
A superb effort by the team today, but in the end we just missed out on the win and the red jersey because of the Jumbo Visma car who was still standing in our way. Such a shame! 😤😣 #LaVuelta19 #season17 #TTT
— PHILIPPE GILBERT (@PhilippeGilbert) August 24, 2019
📸 @Eurosport_UK pic.twitter.com/ktbTvIaBes
そんないくつものトラブルを乗り越えて、トップタイムでゴールに飛び込んできたのが、これまではチームTTでそこまでの成績を出してはいなかったはずのアスタナ・プロチームであった。
確かに、彼らの今回のメンバーにはフルサング、イサギレ兄弟、カタルド、サンチェス、ボアーロとTT能力の高いメンバーが揃っており、その能力値の合計から考えれば優勝候補の筆頭ではあった。シミュレーションゲームにおいても彼らが優勝している。
もちろん、個々人の能力だけで勝てるほどチームTTは甘くない。今回、そこまでTT能力の高いメンバーを揃えてきているわけではないはずのドゥクーニンク・クイックステップやチーム・サンウェブが上位に来ていることからも分かるように、いかにここに焦点を合わせて練習をしてきたか、そしてチームワークが問われるのである。
その点、今年のアスタナは例年にも増して、「チームとしてのまとまり」が非常に良い。シーズン冒頭は各種ステージレースでの総合優勝を次々と叩き出していったが、その多くが、ダブルエース体制の中で見事なコンビネーションで手に入れてきた勝利である。表彰台に2人入れてきたこともある。
そう考えると、まだ1日目とはいえ、稼ぎ出したタイム差以上に、このアスタナの走りに期待したくなってくる。今回のアスタナはとにかくひたすら強い選手を揃えてきているような印象があり、まとまれるのか不安もあった[リンク]が、今回のチームTTの結果を見ても、彼らのこの体制は問題なく機能すると言えるのかもしれない。
総合優勝候補のユンボ・ヴィズマに1日して40秒のアドバンテージを手に入れたアスタナ。エースのロペスはTT能力に不安があり、第11ステージの個人TTでログリッチェから40秒以上のタイムを失うことは必至と言えそうだが、そのビハインドを今のうちにある程度埋められたというのは大きい。また、フルサングであればそこまでタイムを失う可能性も少ないと思われるため、ダブルエース体制という観点から見れば、かなりの余裕を得られたように思える。
思いがけぬトラブルで、逆に3週間の行方をより予想不可能にしたという意味では良いスパイスになったかもしれない初日のチームTT。
もちろん、今後はトラブルが少なくなってくれることを願うが・・・。
第2ステージ ベニドルム〜カルペ 199.6㎞(丘陵)
総獲得標高が3,300mにも達する本格的な丘陵ステージ。スタート直後に2級山岳を登るほか、ゴール前25㎞地点には、全長3㎞、平均勾配9.5%、最大勾配18%の2級山岳プイグ・ジョレンサ峠が。
スプリンターたちを容赦なく破壊する強烈なステージで、早くも総合争いが巻き起こった。
今大会最初の「逃げ」を打ったのは以下の4名。
- ヨナタン・ラストラ(カハルラル・セグロスRGA)
- ウィリー・スミット(カチューシャ・アルペシン)
- アンヘル・マドラソ(ブルゴスBH)
- サンデル・アルメ(ロット・スーダル)
道中の山岳ポイントを最も熱心に収集したのはマドラソ。かつてモビスターで走り、ジロ・デッレミリア2位やトレ・ヴァッレ・ヴァッレジーネ6位、GPミゲル・インドゥライン3位など、スペイン・イタリアの激坂系レースで高い成績を残している実力派パンチャーである。
カハルラルのベテラン勢の1人で、エースナンバーを着けるものとしての意地を発揮し、まずはこの日だけで8ポイントを収集。映えある最初の山岳リーダーの座に立った。
2年前のブエルタで逃げ切り勝利を果たしたアルメが最後まで逃げ続けるが、これも残り30㎞で捕まえられ、この日の勝負所プイグ・ジョレンサを前にして全ての逃げが吸収された。
積極的な動きを見せたのはモビスター・チームの世界王者アレハンドロ・バルベルデだった。フレーシュ・ワロンヌを5度制したその激坂向きの足が集団をハイ・ペースで牽引し、これにたまらず千切れてしまったのはツール総合3位のステファン・クライスヴァイクやクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ覇者ヤコブ・フルサング。
ともすればそれぞれのチームのダブルエースすら担いうるはずだった精鋭クライマーたちを突き放し、わずか19名の精鋭集団が先頭で山頂を越えた。
その後、長い下りを経て残り21㎞地点から始まる平坦路で、おもむろにニコラス・ロッシュが抜け出し、ここにニエベ、ログリッチェ、キンタナ、ウラン、アルが追随し、6名の勝ち逃げが形成された。
最後は残り3㎞でアタックしたキンタナがそのまま独走。
なかなか珍しい、キンタナによる平坦逃げ切り勝利が決まった瞬間だった。
この日の決め手となったのは、残り27㎞のプイグ・ジョレンサにおけるバルベルデの強力牽引だった。ここで、とくにアスタナのアシスト陣を全て引き剥がしたことで、ロペスから大きなリードを奪うことに成功した。
そしてバルベルデはこのとき、自らの勝利の芽を捨てるほどに献身的に牽引した。その動きに応えるようにして、キンタナがしっかりと決定的な6名の逃げに乗り、そして最後も勝利を自らの手で引き寄せたことで、ツールでは不甲斐ないところを見せてしまったことへのリベンジを果たせた形となった。
バルベルデの完璧なアシストぶりはツール同様。そこにエースがしっかりと応えることで、戦前は不安視されていたモビスターの「ダブルエース」が見事に機能する形に。
一方のアスタナは、強力な布陣にも関わらずそれを活かしきれず、ロペスを単独にしてしまったことは大いに反省する点となるだろう。
そしてユンボに関してはクライスヴァイクが早々に遅れたものの、これは初日の落車によるところが大きいとのこと。
逆にジョージ・ベネットがプイグ・ジョレンサのラトゥールやフォルモロの危険な攻撃を抑え込むなど見事な働きをしてくれており、のちにクライスヴァイクがリタイアしその戦力を大きく失うことにはなったものの、まだまだユンボのチーム力には期待できるところがありそうだ。
このステージの詳細については以下のリンクも確認のこと。
第3ステージ イビ〜アリカンテ 188㎞(平坦)
ようやく訪れた今大会最初の平坦コース。全体はオールフラットというわけでは決してないが、それでもブエルタにとってはほぼ真っ平らなのと等しく、集団スプリントが予期された。
逃げは3名。
- アンヘル・マドラソ(ブルゴスBH)
- ディエゴ・ルビオ(ブルゴスBH)
- エクトル・サエス(エウスカディ・ムリアス)
ゴール前40㎞を切ったところにある2つ目の3級山岳ティビ峠(登坂距離4.6㎞、平均勾配5.8%)で集団がペースアップ。フェルナンド・ガビリア、フィル・バウハウス、ファビオ・ヤコブセンなどのピュアスプリンターたちが次々と脱落。平坦ステージでも一筋縄ではいかない展開となってきた。
なんとかバウハウス、ヤコブセンは集団復帰するものの、ガビリアはチームメートたちに守られながらも復帰が叶わず。初日の落車による影響がもしかしたらあるのかもしれない。
結局はガビリア以外のスプリンターがほぼ残る形で迎えた集団スプリント。
残り1㎞を超えた段階で先頭を支配していたのはチーム・サンウェブ。しかしこのとき前から10列目、25番手くらいの位置につけていたトレック・セガフレードのエドワード・トゥーンスが、ジョン・デゲンコルブの牽引によって一気に上がってくる。
残り200mの最終コーナーに入ったとき、デゲンコルブは先頭に。そしてトゥーンスはベストな位置でスプリントを開始した。
2位を得るには完璧な位置だった。この成績はデゲンコルブの実力の賜物だった。
しかし、最強にはなりきれなかった。それは、トゥーンスの背後にきっちりとついていて、そして彼が飛び出すより一瞬早く加速を始めたサム・ベネットに与えられた称号だった。
ガビリアが早々に脱落したこの日、彼を止めることのできる者などいなかった。残り150mで8番手の位置にいたルカ・メスゲッツが恐ろしい加速で一気にトゥーンスに並びかけるところにまで行くが、ベネットはその遥か先で両手を挙げていた。
↓この日と次の日の詳細も含め、サム・ベネットの走りについてはこちら↓
第4ステージ クリェラ 〜 エル・プイグ 175.5㎞(平坦)
前日以上の平坦ステージで、山岳ポイントは1つだけ。それ以外にもカテゴリなしの「詐欺山岳」もほぼないと言っていい様相で、さすがにこの日は大きなトラブルなく、あらゆるスプリンターたちが健在な中での集団スプリントに突入していった。
逃げは2名。
- イェレ・ワライス(ロット・スーダル)
- ホルヘ・クベロ(ブルゴスBH)
昨年、驚きの逃げ切り勝利を果たしたワライスが最後は独走にもっていくが、今年はまったく許されることなく、残り19kmで吸収された。
残り6kmからは独走力の高いレミ・カヴァニャ(ドゥクーニンク・クイックステップ)が飛び出すも、これもラスト1.2kmで引き戻された。
集団スプリントへ。
ここで、サム・ベネットは大きな失敗をする。
ゴール前1.3kmに設置されたラウンドアバウトで、彼は「遠回り」する方向へと進んでしまった。
合流して残り1kmのアーチを潜った時には、彼は伸び切った隊列の先頭から13番目というかなり厳しいポジションに陣取ることとなってしまった。そして彼の周りには、彼を助けてくれるアシストの姿は残っていなかった。
それでも、そこから驚異的な追い上げを見せたベネットは、最終的にはごくわずかの差で惜しくも敗れるという結果となる。
勝ったのはファビオ・ヤコブセン。今年、オランダチャンピオンジャージを身に纏い、人生初のグランツールに挑戦した23歳の若者は、マキシミリアーノ・リケーゼという現役最強リードアウターに牽引され、猛獣サム・ベネットを振り切って見事な初勝利を飾った。
ベネットにとっては、悔しい敗北だった。しかしこの、アシストが周りにおらずポジション取りに失敗した結果僅差で破れるというパターンは、つい先日のビンクバンク・ツアー第5ステージでも経験している。
そのときも敗れたのはドゥクーニンク・クイックステップが相手だった。先ほどのリンクの記事でも触れているように、年初のブエルタ・ア・サンフアンといい、強力なリードアウトトレインをもつチームがハイ・ペースで牽引する局面においてポジション取りに失敗した時が、サム・ベネットの敗北の瞬間となる。
逆を言えばそれ以外では取りこぼさず、また敗北したときでも僅差での敗北となるというサム・ベネットは、やはり今大会最強の男であることは間違いない。
第5ステージ レリアナ 〜 ハバランブレ 170.7㎞(丘陵)
今大会最初の山頂フィニッシュ。標高2,000m弱まで駆け上がる本格的な1級山岳は、間違いなく総合争いを誘発する。
ただし、ステージ争いは、逃げに乗った3名に委ねられた。
- アンヘル・マドラソ(ブルゴスBH)
- イェツ・ボル(ブルゴスBH)
- ホセ・エラダ(コフィディス・ソルシオンクレディ)
最初は、山岳賞ジャージを守るための逃げだった。しかし、プロトンが想像以上にペースダウンし、そのタイム差は11分近くにまで広がる。
登坂距離11㎞、平均勾配8%の最後の登りオブゼルバトリオ・アストロフィジコ・デ・ハバランブレの麓に到達したときでさえそのタイム差は9分も残っており、逃げ切りが確定した。
マドラソは何度となく逃げの同胞たちから遅れかけた。いつ切り離されてもおかしくない状況だった。
残り4㎞。13%勾配の登りでも、彼は遅れた。先頭を走るエラダが特別にペースアップをしたわけではない。しかし、マドラソは苦しそうに身体を左右に振り、少しずつその差を開いていった。
しかし、彼は諦めなかった。ひたすらマイペースにペダルを踏み続け、やがて残り800mで先頭2人に追いついた。
ボルもこれを待っており、ひたすらエラダに前を牽かせていた。
そして残り500m。マドラソが前に出てペースアップ。
最初はボルのためだったという。しかし、エラダがこれについていけない。彼もまた、限界だったのだ。
そして、念願のブエルタ初勝利。ケス・デパーニュ(現モビスター)でプロデビューを果たしながら、やがてプロコンチネンタルチームを渡り歩きつつ30代に。今は昨年プロコンチネンタルに昇格したばかりの現チームの指導役として走る彼が、まさかの「夢の実現」を成し遂げた。
エラダは完全に失速し、22秒遅れ。ボルもこれを突き放し、マドラソから遅れること10秒で2位ゴールし、今大会最も実績のないブルゴスが厳しいこのステージでワンツーフィニッシュを決めた。
総合勢での動きは残り3㎞から始まった。
まず動いたのは世界王者アレハンドロ・バルベルデ。これをプリモシュ・ログリッチェをアシストするセップ・クスが追う。この動きに食らいついていけたのはミゲルアンヘル・ロペスとタデイ・ポガチャルのみだった。
そして残り2.3㎞で、今度はロペスがアタック。そのままロペスは独走を決めて、追いすがるログリッチェとバルベルデに12秒先行して区間4位でフィニッシュ。マイヨ・ロホを着たニコラス・ロッシュが遅れたことで、4日ぶりにロペスがロホを着ることとなった。
大会最初の山頂フィニッシュは、25歳のコロンビア人がまずはリード、といったところで終えることとなった。
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第6ステージ モラ・デ・ルビエロス 〜 アレス・デル・マエストラート 198.9㎞(丘陵)
山頂フィニッシュ3連戦の中日。前後の日と比べこの日は3級山岳の山頂フィニッシュとなり、そこまで難易度は高くない。逃げ切りにも向いているステージということで、序盤からワウト・プールスが積極的に動く。しかしあまりにも強力すぎる彼の逃げが許されることはなく、やがて引き戻されたうえで改めて11名の逃げが形成される。
- ドリアン・ゴドン(AG2Rラモンディアル)
- ディラン・トゥーンス(バーレーン・メリダ)
- パウェル・ポリャンスキー(ボーラ・ハンスグローエ)
- ヘスス・エラダ(コフィディス・ソルシオンクレディ)
- ティージェイ・ヴァンガーデレン(EFエデュケーションファースト)
- ブルーノ・アルミライル(グルパマFDJ)
- スガブ・グルマイ(ミッチェルトン・スコット)
- ネルソン・オリヴェイラ(モビスター・チーム)
- ダビ・デラクルス(チーム・イネオス)
- ロベルト・ヘーシンク(ユンボ・ヴィズマ)
- ジャンルーカ・ブランビッラ(トレック・セガフレード)
そしてこの11名の逃げはメイン集団によって完全に容認され、ステージを巡る先頭集団と総合争いを考えるメイン集団と2つの舞台でそれぞれ戦われることとなった。
事態は落ち着き、平穏なまま進む、はずだった。
しかし、ステージ中盤で、大きな落車がプロトンを襲う。これによって、総合6位のリゴベルト・ウランや、同じEFエデュケーション・ファーストで未来が嘱望されているヒュー・カーシーなど、重要な選手が次々とリタイア。つい先日までマイヨ・ロホを着ていたサンウェブのニコラス・ロッシュもまた、落車に巻き込まれた影響で途中リタイアを決めている。序盤で積極的な動きを見せていたイタリア王者ダヴィデ・フォルモロも巻き込まれ、翌日に未出走を決めた。
さらに逃げ集団でも悲劇が。ゴール前25㎞の3級山岳の下りで、逃げに乗っていたEFエデュケーション・ファーストのティージェイ・ヴァンガーデレンが勢いよくコースアウト。ゴールには辿り着いたものの、翌第7ステージでリタイアするに至った。
強力な布陣を揃えていたEFエデュケーション・ファーストであったが、あっという間にその中心選手たちを数多く失う羽目になった。
ヴァンガーデレン以外の10名のうち、グルマイとオリヴェイラが40秒先行して迎えた残り4㎞。アルミライルのアタックをきっかけに追走集団の動きが活発化し、カウンターで飛び出したヘスス・エラダにトゥーンスが食らいついていった。
トゥーンスよりも総合順位で8秒リードし、この日マイヨ・ロホを手に入れるチャンスもあったデラクルスはこれに反応できず。
抜け出したエラダとトゥーンスはあっという間に先頭の2人も追い抜く。とくにトゥーンスは総合リーダーの座を手に入れるべく積極的に前を牽く。
そして残り300m。ツキイチについていたエラダが腰を上げると、トゥーンスはこれを見送った。
ヘスス・エラダ、念願のグランツール初勝利。今年はシーズン序盤から好調で、6月のモン・ヴァントゥーチャレンジではバルデを勢いよく突き放しての勝利も経験している。
その勢いのまま臨んだツール・ド・フランスでは思うような走りは見せられず悔しい思いをしたが、今回のブエルタでなんとか結果を持ち帰ることができた。昨年のマイヨ・ロホ獲得に次ぐ成果である。
そしてまた、ディラン・トゥーンスにとっても成功と言える結果だった。
2017年にフレーシュ・ワロンヌ3位で頭角を現し、シーズン後半のツール・ド・ワロニー、ツール・ド・ポローニュ、そしてアークティックレース・オブ・ノルウェーと立て続けに優勝・総合優勝を稼ぎ出していった「新・激坂ハンター」。
その脚質をより総合系に切り替えていった2018年シーズンはやや振るわないところがありつつも、今年、クリテリウム・ドゥ・ドーフィネとツール・ド・フランスでのステージ優勝を経て、今回のマイヨ・ロホ獲得。その強さが一瞬のものではないことを示した。
プロトンはこの日は総合争い休日の日、と思いきや、残り1.5㎞でタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)が単独で抜け出す。
これを追うものはおらず、最終的にプロトンに2秒差をつけてゴール。わずか2秒とはいえ、この若き(まだ今年で21歳!)ラヴニール覇者がブエルタでも恐れを知らず動ける逸材であることをはっきりと示した。
第7ステージ オンダ 〜 マス・デ・ラ・コスタ 183.2㎞(山岳)
ある意味で第1週で最も重要なステージかもしれない。最後の登りはたった4㎞ではあるが、平均勾配12.3%、最大勾配25%という超・激坂。
ライバル間で1〜2分のタイム差は容易についてしまうこの激坂で、総合シャッフルが起きる可能性は十分にある。
この日の逃げはアタック合戦の末、以下の10名で確定した。
- カンタン・ジョレギ(AG2Rラモンディアル)
- フィリップ・ジルベール(ドゥクーニンク・クイックステップ)
- トーマス・マルチンスキー(ロット・スーダル)
- イェーレ・ワライス(ロット・スーダル)
- セバスティアン・エナオ(チーム・イネオス)
- マイケル・ストーラー(チーム・サンウェブ)
- ジャンルーカ・ブランビッラ(トレック・セガフレード)
- セルヒオ・エナオ(UAEチーム・エミレーツ)
- ステファヌ・ロセット(コフィディス・ソルシオンクレディ)
- シリル・バルテ(エウスカディ・ムリアス)
しかし、前半の平坦部分と後半の山岳部分、というようにはっきりと分かれ、かつ最後の1級以外はそこまで厳しくはなく、そして最後の登りでは確実に総合が動く、というレイアウトは、逃げ切りは決して向いていないそれであった。
残り4㎞。いきなりの激坂区間と共に最後の登りがスタート。それとほぼ同時に、最後まで逃げ粘っていたジルベールとエナオが吸収される。
セップ・クスが先頭で一気にペースを上げると、集団は一瞬で13名にまで絞り込まれた。
残り3.2㎞でキンタナがアタック。チェックをかけたジョージ・ベネットもついていけず、ログリッチェ自らこれに食らいつく。そして、その背後にはロペスとバルベルデだけ。今大会の「4強」が、はっきりと抜け出す形となった。
そのあとも何度かキンタナはペースアップを試みるが、いずれも抜け出すことはできず。そのまま4名でゴール前にまで近づいていくが、残り300mでバルベルデが先頭に出ると一気に加速し、残り100mでロペスとキンタナが千切られた。
ログリッチェは最後までバルベルデに食らいついたが、その前に出ることはできず。39歳、今大会最年長の世界王者が、凶悪なる「壁」を制した。
第8ステージ バルス 〜 イグアラダ 166.9㎞(丘陵)
頂上フィニッシュ3連戦を終え、しかし翌日はアンドラ公国のやはり厳しい山岳ステージ。谷間となるこの日は、プロトンにとっては休息を願う日となった。
すなわち、大逃げのチャンスである。ルイスレオン・サンチェス(アスタナ)やディラン・トゥーンス、ダビ・デラクルスなどを含んだ合計で21名の逃げが決まり、最終的には9分ものギャップを開いたメイン集団からは独立してステージ勝利を巡る争いが勃発した。
雨の中、勝負所の2級山岳モンセラート(残り27.5㎞)を起点にアタック合戦が繰り広げられるが、決定打はなかなか決まらない。
終盤ではゼネク・スティバルがアタックし独走を開始するが、この試みもゴール直前で吸収され、
結局は14名が集団のままフィニッシュに到達する。
あとは最もスプリント力のある男が勝つだけだった。力を使い果たし千切れたスティバル以外の13名のうち、スプリンターと呼んでも差し支えのない男はニキアス・アルントだけだった。今年28歳のドイツ人。3年前のジロ・デ・イタリアでも1勝を飾っているが、それはジャコモ・ニッツォーロの降格による勝利であり、グランツールでゴールラインを先頭で突き抜けるのはこれが初だった。
2013年から現チーム一筋。クリテリウム・ドゥ・ドーフィネやカデルエヴァンス・グレートオーシャンロードレースでの勝利などはあるものの、活躍するヴァルシャイドやアッカーマンのような「勝利の量産」はなかなか成し遂げてこれなかった。
一方で、登りスプリントを得意とするマイケル・マシューズのアシストや、同様に逃げの中でチャンスを掴みかけた2年前のツール・ド・フランスのように、純粋なスプリンターではない成績の出し方を得意としつつあった。言ってしまえば、現アスタナのコルトニールセンのような。
今後も、スプリンターというよりは、山を登れるルーラータイプの選手としての活躍を期待したい。そういう選手は、必ずや、総合を狙う選手たちにとっても重要な存在となるはずだから。
第9ステージ アンドラ・ラ・ベリャ 〜 コントラルス・デンカンプ 94.4㎞(山岳)
いよいよ第1週の最終日。舞台はアンドラ公国。100㎞に満たない距離の中に今大会初登場の超級山岳を含む5つの山岳ポイントが登場。とくに最後の登りは3つの登りがほぼ一体となっており、その途中には未舗装路も用意されたチャレンジングなコースレイアウトとなっている。
明らかに総合争いにおける重要局面となるこのステージ。30名以上にも及ぶ大規模な逃げ集団の中には、連日逃げているカールフレドリク・ハーゲン(ロット・スーダル)や総合争いから脱落しかけているウィルコ・ケルデルマン(サンウェブ)、セルヒオ・イギータ(EFエデュケーション)、ミケル・ニエベ(ミッチェルトン)などの実力者のほか、モビスターからはソレルとペドレロ、アスタナからはフライレとフルサングとゴルカ・イサギレ、ユンボ・ヴィズマからはヘーシンクとクスとパウレスといった、いわゆる「前待ち」要員が含まれている。すでにして激戦の予感が漂っている。
また、本来は総合争いに参戦しているはずだった最強チーム、イネオスからは、ゲオゲガンハート、プールス、デラクルス、セバスティアン・エナオといったエース級の選手たちが揃って逃げに乗る。
ステージ争いも総合争いも白熱することが宿命付けられた逃げとなった。
逃げ36名の内訳
- (MOV)ペドレロ、ソレル
- (ALM)ラトゥール、ブシャール
- (AST)フライレ、フルサング、Gイサギレ
- (TBM)ペルンシュタイナー
- (BOH)グロスチャートナー
- (CPT)ベヴィン
- (EF1)クラドック、イギータ
- (GFC)シーグル
- (LTS)デヘント、ハーゲン
- (MTS)ニエベ
- (TDD)ゲブレイグザブハイアー、オコーナー
- (INS)プールス、デラクルス、ゲオゲガンハート、Sebエナオ
- (TJV)ヘーシンク、クス、パウレス
- (TKA)ファブロ、ゲレイロ
- (SUN)ケルデルマン、パワー、ストーラー、トゥスフェルト
- (TFS)イーグ
- (COF)Jeエラダ、アタプマ
- (EUS)ビスカラ、サミティエ
そして、山岳賞ポイントをここまで荒稼ぎしていたブルゴスBHのアンヘル・マドラソはここでは逃げに乗れず。大会初の超級山岳の山頂は、逃げから抜け出して独走を開始したAG2Rのジェフリー・ブシャールが先頭通過。続く2級山岳の山頂も獲得し、もう1つの2級3位通過と合わせこの日だけで21ポイントの山岳ポイントを収集。山岳賞首位マドラソに8ポイント差まで迫り山岳賞2位に躍り出る。この日の敢闘賞受賞者ともなった。
ジェフリー・ブシャール。今年で27歳だが、実はプロ1年目。昨年はアマチュアチームで走りながら、過去にピノやケルデルマン、シャフマン、ルーカス・ハミルトンなどが優勝しているツール・アルザス(2.2)で総合優勝。国内アマチュア選手権でもロード王者に輝いている。
当然、彼もこの敢闘賞と山岳賞「2位」で満足するつもりはないだろう。第2週以降の山岳ステージで、どれだけの走りを見せてくれるか。
そして、最後の「3連続登坂」が開始される。残り20㎞から始まる「1つ目の登り」で先陣を切ったのはミゲルアンヘル・ロペス。ここに「4強」のキンタナ、ログリッチェ、バルベルデがすぐに反応するが、ロペスはそこからさらに抜け出すことに成功する。
前からは、3人もいる豊富な「前待ち要員」が降りてくる。まずはゴルカ・イサギレ、次にクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ覇者フルサング。豪華な3段ロケットで必勝体制を築くアスタナに対し、ログリッチェ、そしてモビスターの2人は、同様に前から落ちてきたセップ・クスやアントニオ・ペドレロを使いながらなんとかタイム差を広げないように懸命に追いかけ続けていた。
白熱する総合争いにさらなる混沌を招き入れたのは、激しい悪天候だった。
霰交じりの大雨は勝負所の未舗装路区間を地獄の様相に変えてしまったようだ。中継映像が届かなかったために詳細は不明だが、この区間で抜け出ていたロペス、そしてメイン集団のログリッチェがそれぞれ落車する。
ロペスはこれでリードを失い、キンタナ、バルベルデ、ポガチャルらの追走集団に飲み込まれる。そこからさらにキンタナとポガチャルがアタックし、先頭を独走するマルク・ソレルとの距離を詰めていく。
ログリッチェもクスのアシストを受けながら追走。やがてクスも脱落し、1人でバルベルデたちを追いかける必要に迫られた。
だが別に実力で遅れたわけではない。軽快にペダルは回り、なんとかロペス、バルベルデたちのグループに合流する。
ただしそこにはすでにキンタナたちの姿はない。
そしてキンタナとポガチャルの前には、たった1人でゴールに向かって走り続けるマルク・ソレルの姿があった。
2015年のツール・ド・ラヴニール覇者。そして2018年のパリ〜ニースの覇者。キンタナ、ランダ、カラパスを失う来年のモビスターにおいて、ドゥクーニンク・クイックステップからやってくるエンリク・マスと並んでチームのエースになることが宿命付けられた男。
その彼が今、母国のグランツールで最も優勝に近い位置にいる。しかし彼の後方からは、ライバルたちを突き放したこの大会におけるエースが迫ってくる。
当然、チームカーからソレルに向けて告げられる作戦はこうだ。
「下がれ。エースをアシストしろ」
しかし、ソレルは首を振る。再三に渡って投げかけられる指示に対して、彼は左手を挙げて怒りのジェスチャーを見せる。
そしてペースダウン。残り3㎞でソレルとキンタナが合流する。
と、同時にアタックするポガチャル。キンタナはこれについていけない。
後方のロペスグループからはバルベルデがアタック。そこにログリッチェもついていく。ロペスは置いていかれる。足を使い果たしたか。落車の影響が大きいのか。
残り1.3㎞でソレルが外れ、キンタナが単独でポガチャルを追う。タイム差は18秒。
しかし若きポガチャルの勢いがキンタナのそれを大きく上回った。タイム差はむしろ開いていき、そしてそのまま、誰にも影を踏ませないまま、20歳、今大会最年少の男がアンドラの山頂フィニッシュを制した。
ベルナルも、ファンデルポールも、ファンアールトも、エヴェネプールも我々を驚かせ続けてきたが、やはりこの男も負けじと我々を驚かせ「続ける」。
ツアー・オブ・カリフォルニア総合優勝に続き、初出場のグランツールでいきなりのステージ優勝。そして総合成績においても、「4強」に次ぐ5位の位置に登りつめた。
ベルナルよりも1世代年下でありながらのこの成績。2020年代の総合優勝争いは、やはり一筋縄ではいかなそうだ。
キンタナはなんとかライバルたちからしっかりとタイム差をつけ、1週目の最終日をマイヨ・ロホを着て終えることとなった。
ひとまずは目標達成。チームとしても、ロペスの落車という悪運はあったものの、作戦成功といえる結果となった。
しかし同時にこの日に見せたチームの中の「亀裂」が、この先のより厳しい第2週に悪い影響を与えなければ良いのだが・・・。
第1週終了時点での総合順位
キンタナがマイヨ・ロホを着用。しかしわずか20秒の中に「4強」がひしめき合い、とくに休息日明けの個人TTで圧倒的なタイムを叩き出すことが確実視されているログリッチェとのタイム差は6秒でしかない。
2016年にキンタナがフルームを倒した際には、個人TTの前に3分半以上のタイム差をつけていた。だが今回は、まだ序盤ということもあって、このタイム差。週明けにログリッチェが大きな差をつけてマイヨ・ロホを手に入れることはほぼ確実だろう。
ただ、今年はこの個人TTを終えてもなお、むしろそれ以降にこそ凶悪な登りの連続が待ち構えている。
今年のブエルタの命運をかけた第2週を終え、このランキングがどのような姿になっているかは、まったく予想がつかない。
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