読み:アージェードゥーゼル・シトロエン・チーム
国籍:フランス
略号:ACT
創設年:1992年
GM:ヴァンサン・ラヴニュ(フランス)
使用機材:BMC(スイス)
2020年UCIチームランキング:15位
(以下記事における年齢はすべて2021年12月31日時点のものとなります)
【参考:過去のシーズンチームガイド】
AG2R La Mondiale 2018年シーズンチームガイド - りんぐすらいど
AG2R La Mondiale 2019年シーズンチームガイド - りんぐすらいど
AG2R La Mondiale 2020年シーズンチームガイド - りんぐすらいど
目次
スポンサーリンク
2021年ロースター
※2020年獲得UCIポイント順。
シトロエンという大型のフランス国籍スポンサーを獲得したAG2R。しかし、その増大した予算で行ったのは、大きなチーム体制変革であった。
まずは、チームの顔とも言うべき存在だったロマン・バルデの放出。さらに彼に次ぐチームの総合エースであったはずのピエール・ラトゥールも同様に放出し、彼らの山岳アシストを務めていたヴュイエルモ、ジェニエ、ジョレギ、ドモンらも手放すこととなった。
そして新たに獲得したのは、稀代のクラシックスペシャリストであるグレッグ・ファンアーヴェルマートと彼のアシストたち、さらには同様に北のクラシックで才能を見せ始めていたボブ・ユンゲルスやマルク・サローなど。
クライマーも獲得はしたものの、どちらかというと総合狙いというよりは山岳逃げスペシャリストに近いオコーナーやカルメジャーヌなど。
チームの狙いは明確である。ツール・ド・フランスの総合は捨て、クラシックと逃げ、あるいはスプリントにて勝利数を狙うという方針。
それが果たしてうまくいくのかは分からない。
ただ、まずはチームの狙いの行く末を見守ることにしよう。
ところで一時期、ジュリアン・アラフィリップの将来的な獲得の噂も・・・。
しかもツール・ド・フランス総合優勝を狙いうる人材として、と・・・。
すでにして方針が滅茶苦茶な気がしなくもないが、まあ、それは噂、ということで・・・。
注目選手
グレッグ・ファンアーヴェルマート(ベルギー、36歳)
脚質:パンチャー
2020年の主な戦績
- ツール・ド・ワロニー総合2位
- グラン・トリティッコ・ロンバルド3位
- ミラノ~サンレモ8位
- ストラーデビアンケ8位
- オンループ・ヘットニュースブラッド13位
- UCI世界ランキング60位
今回の「新星AG2R」の中心となる選手といえばやはりこの男だろう。
2016年リオ・オリンピック金メダリストにして2017年パリ~ルーベ覇者。
他、E3ハーレルベケ、ヘント~ウェヴェルヘム、オンループ・ヘットニュースブラッド、グランプリ・シクリスト・ド・モンレアルなど各種石畳クラシック~パンチャー向けクラシックまで幅広く制覇。
間違いなく、2010年代を代表するクラシックスペシャリストと言える男だ。
一方、その実力に対して獲得しているモニュメントがパリ~ルーベだけというのは少し寂しくもある。
ロンド・ファン・フラーンデレンでは2位が2回、3位・4位・5位も1回ずつ。とにかく惜しい結果が多い。
その理由は、勝負所で乗り遅れる瞬間が非常に多いこと。一歩遅れてアタックして、強いので上位には入れるのだが、逃げ切られてしまうパターンというのがロンド以外のレース含めても非常に多い。
その意味で彼に必要なのは、彼と対等の力をもつライダーと連携して動くこと。一方が集団の中で足を貯めている間、もう一方が先頭で勝負に絡めるような体制を作れること。
そしてそれは、2020年のCCCチームで実現するはずだった。すなわち、マッテオ・トレンティンとのタッグ。3月のオンループ・ヘットニュースブラッドではある程度うまくいく兆しが見えた。しかし「秋のクラシック」のときには肝心のファンアーヴェルマートが骨折したことで実現されず。
そのままCCCチームが解散となり、トレンティンとファンアーヴェルマートはほとんど一緒に走ることができないまま離れ離れとなってしまった。
代わりに、今年はこのAG2Rで、オリバー・ナーセンとのタッグが見られる。ナーセンもまた、いつロンドを制してもおかしくない実力を持ちながら、やはり同じように単独エースで走らざるをえずうまくいかなかった選手である。
さらにそこにボブ・ユンゲルスも加わるので・・・今年こそ彼らがロンドを獲るときがくるはず。
それが実現すれば、今年の移籍戦略はそれだけで成功だと言っていいだろう。
ブノワ・コヌフロワ(フランス、26歳)
脚質:パンチャー
2020年の主な戦績
- ラ・フレーシュ・ワロンヌ2位
- パリ~ツール2位
- ブラバンツペイル3位
- エトワール・ド・ベセージュ総合優勝
- グランプリ・シクリスト・ラ・マルセイエーズ優勝
- UCI世界ランキング30位
バルデやラトゥールが去ったAG2Rで、残されたフランス人の中でエースとして活躍が期待されるのがこの男だ。
2017年のU23世界王者。2019年にはグランプリ・シクリスト・ド・モンレアルの最終版にジュリアン・アラフィリップと肩を並べ、逃げ切る一歩手前まで突き進んだ。その走りもあり、同年の世界選手権フランス代表の最後の枠にも滑り込み、フランス人ライダーとしてのトップクラスに位置付けられるようになった。
そして2020年。彼のパンチャーとしての成長が最高峰に至ったことを示す結果となったのが、ラ・フレーシュ・ワロンヌでの2位である。勝利こそ、2018年のU23世界王者マルク・ヒルシに奪われたものの、この成績で彼もまた世界一流のパンチャーとしての称号を手に入れることになった。
あとは、その実力に相応しい勝利を手に入れるだけ。おそらくはチームで総合を狙うことはないであろう2021年のツール・ド・フランスで、まずは「ツールでの1勝」を掴み取ってほしい。
オリバー・ナーセン(ベルギー、31歳)
脚質:ルーラー
2020年の主な戦績
- ロンド・ファン・フラーンデレン7位
- オンループ・ヘットニュースブラッド7位
- ツール・ド・ワロニー総合10位
- ミラノ~サンレモ14位
- ヘント~ウェヴェルヘム14位
- UCI世界ランキング104位
こちらもAG2R残留組だが、「新AG2R」を象徴する存在の方。元々2017年に移籍してきたときも、このチームの新たな方向性への舵切りの象徴的存在であったが、今回、その方向性がさらに推し進められた形だ。
すでにファンアーヴェルマートの項で述べたように、これまではなかなかチャンスを掴めずにいた彼も、ファンアーヴェルマート、そしてボブ・ユンゲルスの存在と共に、今年こそは大きなチャンスとなるはず。
実際、昨年はかなりうまくいかないように見えるシーズンながら、実はその走りは非常にアグレッシブだった。とくに最後のロンド・ファン・フラーンデレンにおいては、メイン集団でほぼ唯一、前を逃げるマチュー、ワウト、アラフィリップたちに対して追走を仕掛けるべく集団内で積極的な牽引を行っていた。
だが、哀しいかな、そこから抜け出せるだけの力が彼には足りなかった。のちにパテルベルクのあたりでようやく抜け出すがこれも前に追い付くことなく最後は捕まえられてしまう。
ロンドに対する思いは人一倍。その資格もないわけではない。だが彼一人の力ではなかなか届かない。その栄光に、今年こそは。
その他注目の選手
アンドレア・ヴェンドラーメ(イタリア、27歳)
脚質:パンチャー
2年前のジロ・デ・イタリアでファウスト・マスナダらと共に活躍したアンドローニ・ジョカットリ出身の才能ある男。そのジロの第19ステージ、エステバン・チャベスが逃げ切り勝利をしたそのステージで、同じ逃げ集団内にいた彼は終盤にチェーン落ちの憂き目に遭い、そのまま脱落したかのように思われていた。しかしそこから最終的に復活し、まさかの2位。驚くべき走りを見せていた。
昨年はその期待に見事に応えるシーズンであった。勝利こそなかったものの、ツール・ド・ワロニー総合6位、トロフェオ・ライグエーリア4位、パリ~カマンベール4位などパンチャー向けレースで次々と上位に入賞し、ジロ・デ・イタリアでも区間4位など。
チーム内ではナーセンを上回るUCIポイントを獲得し、世界ランキングでも74位となった。
いつ大きな勝利を掴んでもおかしくない。ジロでの勝利はもちろんだし、今年は15位だったブルターニュ・クラシックや、コースプロフィール次第では今年4位だったイタリア国内選手権ロードレースなども。また、ミラノ~サンレモも11位だったが決して不可能ではないはず。
いずれにせよチーム変革の中で昨年以上のフリーパスを得られているはずで、大きな活躍に期待したい。
ボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク、29歳)
脚質:オールラウンダー
かつてはTTスペシャリスト、あるいはグランツールの総合も狙いうる男(ジロ・デ・イタリア2016・2017の新人賞)。2年前からは突如として北のクラシックでの才能を見せ始めた。
もちろんリエージュ~バストーニュ~リエージュ優勝者でもある彼は、昨年のツール・ド・フランス第2ステージのジュリアン・アラフィリップの感動的な勝利を強力にアシストしてみせてもくれた。
そんな、まさに「オールラウンダー」。なんでもできる器用な男だが、彼自身が大きな勝利に恵まれる機会は、そのリエージュ以外ではなかなか多くはなかった。
どこか、夢破れるような雰囲気で、クイックステップを去った彼が選んだのは、クラシックへの強化を推し進める新生AG2R。ナーセン、ファンアーヴェルマートでロンド勝利を狙うこのチームにとって、ユンゲルスの存在は非常に重要なものとなるだろう。
そしてもう1つ。ほとんどステージレースでの総合を捨てるような雰囲気のあるこのチームにとって、ユンゲルスやベン・オコーナーの存在は、その意味でも重要になる。
かつて目指し、ほとんど諦めかけていたステージレーサーとしての道を、再び取り戻すことができるか。新生AG2Rという舞台は、新生ユンゲルスのための舞台でもある。
ベン・オコーナー(オーストラリア、26歳)
脚質:クライマー
2017年のツアー・ダウンアンダー顔見せクリテリウムで果敢な逃げを試みる姿が印象的であった。2018年にはツアー・オブ・ジ・アルプスで新人賞を獲得し、直後のジロ・デ・イタリアでは第19ステージの時点で総合12位。最終的には落車リタイアしてしまったものの、期待すべき走りを見せていた。
2019年はその期待に残念ながら応えることのできないシーズンを過ごしてしまったが、昨年はシーズン初頭のエトワール・ド・ベセージュで山頂フィニッシュを制する。今年はいけるかも、と思っていた中で、ジロ・デ・イタリアで逃げ、勝利を逃し、しかし諦めずにまた逃げ、ついに頂点を掴み取った。
総合系のトップライダーたちを一気に放出した新生AG2Rでは山岳アシストには恵まれることはないだろう。それでも、リリアン・カルメジャーヌやナンズ・ピータースと共に、積極的な山岳エスケープと、そして短めのステージレースでの総合を狙っていきたい。
結果に焦ることなく、じっくりと一歩ずつ。それで成功を掴める男だ。
ナンズ・ピータース(フランス、27歳)
脚質:クライマー
コヌフロワと共にAG2Rに残り、このチームの未来を担うことを期待されている実力派フランス人の一角。
何しろ、プロ2勝がいずれもグランツール。2019年のジロ・デ・イタリアと2020年のツール・ド・フランスという、「非常にコストパフォーマンスの良い男」。それをなしえているのは、山岳エスケープ集団の中から飛び出す嗅覚の鋭さとタイミング感覚、そしてアタックの切れ味。
決して最強の登坂力を持っているわけではないだろうが(だから総合を狙うのは難しいかもしれないが)、しかし機を見て刺す能力の高さはトーマス・デヘントに匹敵する「逃げ力」を感じさせる。
もちろん、今後は彼に対するマークも強くなるだろうから決して自由に走らせてはもらえないだろう。それでも、カルメジャーヌやオコーナーといった似たようなタイプの選手たちが新たにチームメートになることは、何よりも彼にとってプラスかもしれない。
「クライマーを捨てた」と思われかねない今年のAG2Rの中で、「意外と強い奴が揃ってるんだぞ」ということを示す走りをぜひ、見せてほしい。
総評
北のクラシックはこれだけのタレントを揃えているのだから・・・という期待込みで。リエージュ~バストーニュ~リエージュ覇者ユンゲルスとめきめきと実力を伸ばしつつあるコヌフロワによるアルデンヌ・クラシック獲りにも期待したい。
一方でグランツール総合とスプリントはやはり期待するのは難しい。もちろん、マルク・サローの存在は、場合によってはグランツールでのステージ優勝も狙えるという意味で注目したくはあるけれど・・・。
あとはカルメジャーヌの復活に期待だ。
スポンサーリンク