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Astana - Premier Tech 2021年シーズンチームガイド

 

読み:アスタナ・プレミアテック

国籍:カザフスタン

略号:AST

創設年:2007年

GM:アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン)

使用機材:ウィリエール(イタリア)

2020年UCIチームランキング:7位

(以下記事における年齢はすべて2021年12月31日時点のものとなります) 

 

【参考:過去のシーズンチームガイド】 

Astana Pro Team 2018年シーズンチームガイド - りんぐすらいど

Astana Pro Team 2019年シーズンチームガイド - りんぐすらいど

Astana Pro Team 2020年シーズンチームガイド - りんぐすらいど

 

目次

 

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2021年ロースター

※2020年獲得UCIポイント順

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アスタナとはカザフスタンの首都の元の名前である(2019年3月からヌルスルタンへと改称)。

そこから分かるように、このチームは長年、タイトルスポンサーをカザフスタンという国家のみに頼り続けてきた。

アレクサンドル・ヴィノクロフという国家の英雄的な人物をGMに据え、アスタナ・シティやヴィノ・アスタナモータースなどの下部育成チームから若手カザフスタン人たちを昇格させ、アレクセイ・ルツェンコなどのカザフスタンの強豪選手たちを輩出してきた。

しかし、やはり国家単独タイトルスポンサーというのは、どうしても財政的な不安定さをもたらす。近年、給与未払い問題が毎年のように噴出してきたのも、その現れである。

そして今年。ついにアスタナは単独タイトルスポンサーを止め、それまでスポンサーの1つではあったカナダのグローバル企業「プレミアテック」の名を冠することに。

チーム創設15年の歴史の中で初めての事態は、このチームに新たな風をもたらすのか。

 

と言いつつ、メンバーは大きくは変わっていない。むしろ、シーズン終盤まで経済的危機に瀕しており移籍市場への参戦どころか既存メンバーの存続すらなかなか決まらないままだった。

結果、チーム叩き上げの才能ミゲルアンヘル・ロペスを手放すことに。それでも、イネオス行きの噂のあったウラソフや、同じく移籍の噂が出ていたルツェンコ、そしてステージレース・ワンデーレースともに欠かせないアシストたるイサギレ兄弟やルイスレオン・サンチェスは皆、残留。

弱体化は最低限にまで留められたが、獲得は若手や同じくチーム存続の危機に瀕していたNTTからの移籍ばかりで正直、物足りない。

 

フルサン、ウラソフ、そして若手の期待株テハダといった有力選手たちがどう活躍できるか。

かつての最強チームの一角は、「上位」をいざし続けることは果たしてできるのだろうか。



 

注目選手

ヤコブ・フルサン(デンマーク、36歳)

脚質:オールラウンダー

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2020年の主な戦績

  • イル・ロンバルディア優勝
  • ブエルタ・ア・アンダルシア総合優勝
  • ツール・ド・ポローニュ総合2位
  • 世界選手権ロードレース5位
  • ストラーデビアンケ5位
  • ジロ・デ・イタリア総合6位
  • UCI世界ランキング5位

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かつての最強山岳アシストはいまやチームの立派な顔に。一昨年のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュに続く昨年2つ目のモニュメントたるイル・ロンバルディアを制覇。歴史に名を残す名選手の1人となった。

一方、いまだ遠いグランツール表彰台。昨年のジロも総合優勝候補と謳われながら、最初の2日間でミゲルアンヘル・ロペスとアレクサンドル・ウラソフの両方を失い、山岳アシストがパンチャーのファビオ・フェリーネしかいなくなる事態に。

案の定、後半の山岳では常に一人で走る姿が見られ、こうなってしまっては実力に関係なくずるずると落ちるしかなかった。 

ステージレースに比べればワンデーレースの成績は安定しており、今年は東京オリンピックが最大の目標。前回のリオオリンピックが2位だっただけに、その制覇は十分に現実的な目標であるといえる。

もちろん、最大の目標はツール。今年はロペスもおらず、ウラソフら有望な若手はいるものの、基本的には単独エースで臨むことができるだろう。

あるいは、オリンピック最優先でジロに集中するか。今度こそ完璧な布陣で彼を支え、総合優勝を狙ってほしい。

 

 

アレクサンドル・ウラソフ(ロシア、25歳)

脚質:クライマー

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2020年の主な戦績 

  • ジロ・デッレミリア優勝
  • モンヴァントゥー・デニヴレ・チャレンジ優勝
  • イル・ロンバルディア3位
  • グラン・ピエモンテ4位
  • ティレーノ~アドリアティコ総合5位
  • ブエルタ・ア・エスパーニャ総合11位
  • UCI世界ランキング12位

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2018年ベイビー・ジロ(U23版ジロ・デ・イタリア)総合優勝者。前年の総合優勝者は現イネオスのパヴェル・シヴァコフであり、今年はトム・ピドコック。ツール・ド・ラヴニールと並ぶ、若手登竜門レースの最高峰の1つである。

ゆえに早くから期待されていたが、その期待の大きさと比べると少し物足りない戦績・・・というイメージはあった。比較する相手がエガン・ベルナルやタデイ・ポガチャルなのだから、致し方ない部分はあるものの。

だからこそ、昨年ツール・ド・ラ・プロヴァンスで総合2位になったときも、「強いのにまた勝ちきれない」印象の方が先に来て、それまでとあまり変わらないシーズンを過ごすのではないかという思いがあった。

しかしシーズン中断期間明けのルート・ドクシタニーでティボー・ピノやバウケ・モレマらを退け、エガン・ベルナルやパヴェル・シヴァコフに食らいついて総合3位になったとき、そしてリッチー・ポートやギヨーム・マルタンを打ち倒してモンヴァントゥ・デニヴレチャレンジで優勝したときに、少しずつ「今年はちょっと違うか?」という印象を抱き始めた。

その思いが決定的なものになったのが、イル・ロンバルディア。ヤコブ・フルサンのアシストとして完璧な仕事を成し遂げ、彼にカンピオーネと言わせたこのときのウラソフは間違いなく世界トップクラスのクライマーであり、直後のジロ・デッレミリアを勝ったときにはもはや何も不思議はなかった。

www.ringsride.work

 

そして2日目に体調不良でリタイアとなったジロ・デ・イタリアを経て、特別措置で出場を許されたブエルタ・ア・エスパーニャ。

ジロのときの体調不良を引きずって序盤からタイムを大きく失うが、後半にかけて彼本来の実力を発揮。

序盤のビハインドはあまりにも大きく最後は総合11位に終わるが、常にログリッチ、カラパス、カーシーらこのブエルタ最強のライダーたちに食らいつく走りを見せていた彼は、体調不良さえなければ総合TOP5に入ってもおかしくない実力を見せていた。

 

ゆえに、今年、ロペス不在のアスタナ・プレミアテックにおいて、フルサンに次ぐ総合セカンドエースの座は間違いないと言えそうだ。

個人的にはジロでフルサンの総合を支えつつ、ブエルタで自身の総合表彰台を狙ってほしいところ。

 

 

アレクセイ・ルツェンコ(カザフスタン、29歳)

脚質:クライマー

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2020年の主な戦績  

  • ツール・ド・フランス第6ステージ優勝
  • UAEツアー総合3位
  • ツール・ド・ラ・プロヴァンス総合3位、ポイント賞
  • UCI世界ランキング75位

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コンチネンタルチーム・アスタナ(のちのアスタナ・シティ)出身の生え抜き選手。一時はチーム離脱の噂も立っていたが、しっかりと残留。昨年もツールで区間勝利を果たし、ヴィノクロフに次ぐ国の英雄といっても良い活躍を続けている。
高い独走力と純粋なクライマーとは言い切れない登坂力からかつては逃げスペシャリスト(山岳系ルーラー)という印象の強かった彼だが、2018年と2019年のツアー・オブ・オマーン総合優勝、とくにロペスがアシストした2018年と違って本人の力で成し遂げた2019年オマーン総合優勝から、1週間ステージレースでの総合エースとしての可能性を高めつつあるように思う。

2020年はアダム・イェーツ、タデイ・ポガチャルに次ぐUAEツアー総合3位は立派なもの。うまくいけばパリ〜ニースやツール・ド・ポローニュあたりも総合優勝を狙えそう。

今年は新しい彼の強さを見せてみてほしい。

 

 

 

その他注目の選手

ハロルド・テハダ(コロンビア、24歳)

脚質:クライマー

2019年のツール・ド・ラヴニールで1勝。プロ勝利はまだないものの、そういった選手たちの中で最も印象に残る走りをしていたのがこの男だと思う。りんぐすらいど的2021年注目選手の1人。

昨年の戦績としては、モンヴァントゥ・デニヴレチャレンジでアレクサンドル・ウラソフの勝利を支えつつ自らも6位に入ったことと、イル・ロンバルディアの勝負所ムーロ・ディ・ソルマーノにてフルサンとウラソフに次いで最後まで残っていたアシストとしての走りがハイライト。

そしてネオプロでありながらツール・ド・フランスのメンバー入り・・・期待しかない存在である。

ロペスが去った後のこのアスタナにおける、次代を担う男へと成長してほしい。・・・他のチームに行くことなく。 

 

サミュエーレ・バティステッラ(イタリア、23歳)

脚質:スプリンター

2019年のU23世界王者。その意味で期待すべき人材であったのだが、昨年はツール・ド・ランカウイでの区間3位(中根が勝ったステージでの集団先頭)が最高位でその他に目立った成績はなし。正直、このU23世界選手権を「先頭でゴールした」ニルス・エークホフの方が目覚ましい活躍を遂げていたようにも思える。

とはいえ、それは所属していたチームの差とも言える。同様に期待されていたジーノ・マーダーも、同じチームで1年目は全く結果が出せず。2年目となる昨年の終盤のブエルタでようやくその才能の片鱗を見せていたほどであった。対するエークホフは若手の才能発掘に実績の大きいサンウェブ。その差はどうしても避けられないであろう。

その意味で、バティステッラのこの新チームで迎える2年目には期待したい。スプリンターとはいうものの、比較的登りにも適性を持ち、独走力もある。あらゆる可能性を秘めたこの若き才能を、アスタナはしっかりと輝かせることができるか。

 

ハビエル・ロモ(スペイン、22歳)

脚質:ルーラー

元トライアスリートで、ジュニア時代の2017年には世界トライアスロンシリーズグランドファイナル・ロッテルダムで9位、ヨーロピアンカップ2位などの成績を残している。

昨年はアマチュアの‪Baqué-Ideus-BH Team‬に所属し、ボルタ・ア・バレンシア総合4位、ブエルタ・ア・カンタブリア総合3位など(いずれも非UCIレース)。特筆すべき成績としては、U23スペインロード王者に輝いたこと。TT部門でも7位となっている。

未知数ではあるが、可能性はある。正直、新獲得選手が苦しい中での、原石にもなりうる数少ない可能性とも言えそうだ。期待しすぎない程度に、期待しておきたい。

 

 

総評

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チーム存続すら危うくなりかねない財政問題は、新たなタイトルスポンサーの獲得でひとまず沈静化。

ミゲルアンヘル・ロペス以上の中心的な選手の離脱も避けることはできたが、その穴を埋めることはできておらず、「弱体化」は避けられない。

あとはウラソフやテハダといった若手たちがいかにして成長し、活躍するか・・・。

そしてフルサンを中心に今年もアルデンヌ系クラシック、クライマー向けワンデーレースや東京オリンピックでの成果を期待したい。

なお、北のクラシックチームランキングではワールドツアー最下位。デボッドやソブレロは一応その方面での補強にはなるものの、基本的には今年も苦戦しそうだ。

 

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