りんぐすらいど

サイクルロードレース情報発信・コラム・戦術分析のブログ

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2021-2022注目移籍情報まとめ

 

毎年恒例の注目移籍情報まとめ。

今年もペテル・サガンやサム・ベネット、ジョアン・アルメイダ、ローハン・デニスなど意外なものも含めビッグネームが並ぶ。

今後さらに最新情報は都度更新予定。

2022シーズンに向け、早速イメージをしていく手助けになれば幸い。

(最終更新:12/12)

 

※すべて公式Twitter・公式サイトで発表された情報のみを掲載にしております。

※年齢はすべて2021/12/31時点のものとなります。

 

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目次

 

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アスタナ・カザフスタン・チーム(カザフスタン)

ヴィンツェンツォ・ニバリを獲得

兼ねてより噂になっていた「ヴィンツェンツォ・ニバリ(イタリア、37歳)のアスタナ復帰」が現実のものに。直近のアスタナ黄金期ともいえる2014年~2016年頃の中心にいた選手であり、2014年ツール・ド・フランス総合優勝、2016年ジロ・デ・イタリアの2度目の総合優勝などは記憶に新しい。

その後も、決して派手ではないものの着実に勝利を重ねていく、その安定感は実に素晴らしい。2015年と2017年の2回のイル・ロンバルディア制覇、2018年のミラノ~サンレモ制覇、ツール・ド・フランスでも2014・2015年に続き2019年にもステージ優勝、そして直近の地元ジロ・デ・シチリアでも最終日逆転総合優勝と、キャリア晩年に差し掛かる時期だというのに、実に「魅せる」男だ。

このアスタナがキャリア最後の場所となるか。まだまだイタリア人を熱狂させてほしいところ。

 

ジャンニ・モスコンを獲得

ニバリの獲得と合わせ、こちらもイタリアの類稀なる才能ジャンニ・モスコン(イタリア、27歳)も獲得。スペイン(バスク)コネクションからイタリアコネクションへと変化しつつある?

ピナレロを意識してか、イネオスもなかなか手放さなかった「問題児」ではあるが、その強さは間違いなし。2021年もシーズン前半に積極性を見せつけてツアー・オブ・ジ・アルプスで立て続けに2勝したりスイスのチッタ・ディ・ルガーノで勝利したり、クラシカ・サンセバスティアンでも9位に入り込んだり・・・。ラスト10㎞を切ってからのレイトアタックで勝利へ動き出すことも多い勝負勘の鋭いアタッカー。アランブルとロドリゲスという2大バスクパンチャーを失ったアスタナにとっては、その穴を埋める良い補強と言えるだろう。

 

ダビ・デラクルスを獲得

2015年にクイックステップでプロデビュー。2017年にパリ~ニース最終ステージで逃げ切り勝利、ブエルタ・ア・エスパーニャでも前年のステージ優勝に続き2017年には総合7位。その才能を買われ、2018年からはチーム・スカイ入り。だが、イマイチ十分な走りは見せられなかった。

2020年からはUAEチーム・エミレーツ入り。タデイ・ポガチャルの数少ない山岳アシストとして起用され、そこそこの活躍。2021年のブエルタ・ア・エスパーニャでは第18ステージで強烈なアタックを繰り出して逃げていたマイケル・ストーラーをあっという間に追い抜いていく。

最後にはミゲルアンヘル・ロペスに抜かれて勝利は奪われてしまったものの、これらの走りをもとに3度目のブエルタ・ア・エスパーニャ総合7位を手に入れる。

そんなダビ・デラクルス(スペイン、32歳)の、決して突出した何かがあるわけではないが、山岳での信頼感は確かなこの脚質は、アスタナの山岳アシストにはぴったりではある。2019年頃の、ヨン・イサギレ&アンドレイ・ツェイツ&ダヴィデ・ヴィレッラ&ヤン・ヒルト&オマール・フライレ&ダリオ・カタルドといった強力な山岳アシスト陣が、移籍によってかなり縮小されてしまった中で、デラクルスの補強は望ましい一手と言えるだろう。

一方でデラクルス自身のチャンスは得られるのか。そこはもう、彼次第としか言いようがないが・・・。

 

ジョセフロイド・ドンブロウスキ―を獲得

「ドンちゃん」の名で日本でも知られ、スカイ→キャノンデール→UAEと渡り歩いてきたジョセフロイド・ドンブロウスキー(アメリカ、30歳)。2021年のジロ・デ・イタリアでもステージ勝利を果たして再び脚光を浴びた彼が、2022年からはアスタナへ。

元々プロ勝利は4つと少な目の彼、新チームでも基本はニバリでデラクルスのアシストとして働くことが中心か? ジロではアレッサンドロ・デマルキをしっかりとマークし続けて最後に勝利を掴み取ったクレバーさを売りに、いよいよベテランの域へと達しつつある彼が、再び大きな舞台でのチャンスを掴み取ってほしいものだ。

 

ミゲルアンヘル・ロペスを獲得

2015年のプロデビュー以来、6年間を過ごしてきたアスタナを去ったのが2021年。キンタナ、ランダ、アル、カラパスを失ったモビスターにとって、エンリク・マスと並ぶ新たな次世代エースとして期待され、その期待通りの走りをブエルタ・ア・エスパーニャで見せたばかりだったが・・・その第20ステージで、想像もしていなかったトラブルにより、9月いっぱいをもって突如の契約解除となったミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、27歳)

その行先として確かに噂の一つには挙がっていたが、まさか・・・と思っていたアスタナへの復帰が、現実のものとなった。だがこれもまた、プレミアテックとヴィノクロフ一派との綱引きの結果の1つなのかもしれない。

いずれにせよ、ウラソフ、フルサン、イサギレ兄弟、さらにはルイスレオン・サンチェスまで去ることになってしまったアスタナは、代わりにニバリとこのロペスという、かつての姿に戻るかのような総合系の大変革が行われることとなった。ニバリはさすがにもうグランツールエースとして走るのは限界があるだろうが、ロペスは今回のこのブエルタで見せた力は本物。フルサンも去ったことで正真正銘のエースとして任されることになる新生アスタナで、色々背負ってしまった微妙な評判を打ち砕くような結果を見せてほしい。

 

リアブシェンコ、ヴェラスコ、ガゾッリを獲得

2017年のトレーニー時代から数えれば4年半を過ごしたUAEチーム・エミレーツを離れ、2016年U23ヨーロッパ王者アレクサンドル・リアブシェンコ(ベラルーシ、26歳)がアスタナに。登りスプリントを得意とするパンチャーというイメージだが、どちらかというとワールドツアー級というよりは1クラスやプロシリーズに向いているタイプで、タレントがどんどん増えていくUAEではやや窮屈な思いもあっただろうから、アスタナへの移籍は悪くないものと思える。好きな選手だけに、活躍を期待する。

今年のU23世界選手権ロード4位のミケーレ・ガゾッリ(イタリア、22歳)はチーム・コルパック・バラン出身。大きな実績はない選手だが、フアン・アユソー、アントニオ・ティベッリ、アレッサンドロ・コーヴィといった、これまでも有力な若手を幾人も輩出してきたチームだけに、期待は十分だろう。あとはアスタナが育てられるか・・・。

そして個人的に最も注目しているのはガスプロム・ルスヴェロからやってくるシモーネ・ヴェラスコ(イタリア、26歳)。2019年にはトロフェオ・ライグエーリアでも優勝している名パンチャーだが、今年もかなり調子が良く、ティレーノ~アドリアティコ第6ステージで区間3位(逃げ切り)、ジロ・デッラペンニーノとコッパ・アゴスティーニで4位、そしてツール・ド・リムザンでは区間1勝と、1クラス中心ではあるもののTOP10リザルトに度々顔を出している実力者だ。

ワールドツアーでどこまで通用するかは未知数だが、個人的にこういうリザルトを小刻みに出している選手はそろそろ大きな勝利を手に入れてもおかしくはないと思っている。2022年期待の選手の1人だ。

 

 

バーレーン・ヴィクトリアス(バーレーン)

ルイスレオン・サンチェスとヨハン・プリース=パイタスンを獲得

絶好調すぎるシーズンを過ごした2021年のバーレーン・ヴィクトリアス。その強靭さをさらに補強するかのように、2022年も新たなベテラン、ルイスレオン・サンチェス(スペイン、38歳)を獲得する。山岳アシストはもちろん、レイトアタックの名手であり、2019年にはツール・ド・スイスを、直近でも2020年に国内選手権を制するなどまだまだその強さは衰えていない。2021年にダミアーノ・カルーゾが大ブレイクしたように、サンチェスもまた、大きな勝利を挙げて感動させてほしい。

そして、そのサンチェスから一回り以上に若い有望株ヨハン・プリース=パイタスン(デンマーク、22歳)も獲得。ミッケル・ビョーグがいよいよいなくなったU23の世界選手権TTを(欧州選手権と合わせて)制覇した若手最強TTスペシャリスト。そしてまたデンマーク人なのだから本当に凄い・・・。

2022年のツール・ド・フランスはデンマークスタート。もしかしたら出場も許されるかも・・・? そのためにはシーズン前半からしっかりと活躍して見せる必要がある。先輩ビョーグはやや、苦しんでいるが、プリース=パイタスンは果たして?

 

ズッタリンとオソリオとザンバニーニを獲得

ドイツメーカーのキャニオンを使っていた縁があったのか、スペイン籍チームのモビスターに長年在籍し、逃げなどで活躍。その後はドイツチームのサンウェブ/DSMに2年所属するも、2021年はツール・ド・フランス初日の「オピオミ事件」に巻き込まれていきなりリタイアに巻き込まれるなど、ついていなかった。

そんなルーラー/クラシックスペシャリストのヤシャ・ズッタリン(ドイツ、29歳)が2022年からはバーレーン・ヴィクトリアスに。個人的にこの移籍はとても嬉しい。とくに2021年は大きな躍進を遂げたこのバーレーンチームは、それこそズッタリンのように、実力はあるがそれが十分に発揮されてきたとは言い難い選手にとってはチャンスとなるようなチームだと思っているからだ。ワールドツアーレースの個人TTでも時折TOP10に入るそのTT力を用いて、たとえばヤン・トラトニクのような牽引や逃げでその存在感を示してほしい。

同時にバーレーンに行くアレハンドロ・オソリオ(コロンビア、23歳)も個人的に気になっていた選手であった。2018年のベイビー・ジロで区間1勝&総合6位、ツール・ド・ラヴニールで山岳賞を獲得したこの男は新時代の有望なコロンビアンクライマーになると確信していた。それも2019年にNIPPOヴィーニ・ファンティーニに移籍するとあって、より注目していた。

だが、そのシーズンはそこまで目立つことなく、チームも解散。その後はスペインのプロコンチネンタルチーム(プロチーム)、カハルラルへ。

だが、それで沈黙したわけではない。ツアー・オブ・ジ・アルプスでは区間5位、セッティマーナ・コッピ・エ・バルタリでは山岳賞など、2021年は着実にその存在感を示しつつあった。

そして2022年。バーレーン・ヴィクトリアスにてワールドツアーデビュー。そもそも、U23レースで活躍して翌年からワールドツアーで勝ちまくるなんてことが普通だと思うのは感覚が麻痺しすぎている。ナイロ・キンタナもエステバン・チャベスも、世界トップクラスでの活躍はラヴニール制覇から2~3年後だったのだから。

2022年のバーレーンの山岳エースをグランツールでアシストする男の一人がこのオソリオであったならばそれはとても嬉しいことだ。

最後に。エドアルド・ザンバーニ(イタリア、20歳)はイタリアのコンチネンタルチーム、「ザルフ・ユーロモービル・フィオル」出身のネオプロ。アンドローニジョカトリやバルディアーニに選手を送り込んでいるチームだ。

正直まだ飛び抜けた成績はないが、最近はイタリアの若手の注目選手はマッテオ・ファッブロやジョヴァンニ・アレオッティなど気になる選手も多く、世界選手権でもU23男子でフィリッポ・バロンチーニが優勝、ツール・ド・ラヴニールでもフィリッポ・ザナが総合3位を獲るなど、元気が良い印象。バーレーンは2021年にジョナタン・ミランという選手を獲得しているが、共に活躍してくれればよいのだが。

 

 

ボーラ・ハンスグローエ(ドイツ)

サム・ベネット、アーチボルド、ファンポッペル、ミューレンを獲得

2014年のネットアップ・エンデューラ時代から「ボーラ」に6年間所属していた生え抜きのスプリンター、サム・ベネット(アイルランド、31歳)。チームのワールドツアー化後もペテル・サガンと双璧をなす世界最高峰のスプリンターとして活躍していたが、2020年にドゥクーニンク・クイックステップに移籍。その際にこのボーラとは色々揉めていたはずだったのだが・・・この度、チームへの復帰を決めた。

クイックステップを離れたスプリンターは調子を落とすとはよく言われる話。ただ、ベネットの場合は「元のチーム」であることはその点安心か? ボーラ時代からの盟友シェーン・アーチボルド(ニュージーランド、32歳)も同行。サガンもアッカーマンも同じタイミングでボーラを離れるため、ツールをエースで出場できる可能性がかなり高いことも、ベネットにとっては幸いな話だ。

また、ダニー・ファンポッペル(オランダ、28歳)も同時に獲得を発表。上記リンクの公式発表によると、どうやらこれは明確にサム・ベネットのアシストとしての獲得のようだ。

ファンポッペルはトレック所属時代の2015年のブエルタ・ア・エスパーニャで、22歳の若さで衝撃的なグランツール初勝利を果たし期待され続けてきたが、その後はなかなか大きな勝利を重ねられず。スカイ→ユンボ→現アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオと、ほぼ迷走に近い形でチームを移り変わってきた。

これまでエースとしてそれぞれのチームで活躍を期待され続け(そしてなかなかその期待に応えられなかった)彼が、いよいよその座を捨て、アシストとして生きることを決心したか。しかしその実力は間違いなく、彼のその才能が、最強スプリンターの勝利の重要なピースになってくれるのであれば幸いだ。

もう1人、ライアン・ミューレン(アイルランド、27歳)は優れたTTスペシャリスト。とはいえ、ビッグレースでのTT勝利を期待できるほどではない彼の次の役割は、このベネットトレインをさらに強化する重要な1ピース。

強いスプリントトレインとは、ただ単に加速力の優れた発射台がいればいいわけではない。超高速化するラスト10㎞から1㎞において、エーススプリンターを常に集団の先頭に維持し、そもそもの勝負権を失わせないための、強力なルーラーの存在が必要不可欠である。ロット・スーダルでいえばデヘントやクルーゲ、グルパマFDJでいえばコノヴァロヴァスやスコットソン、クイックステップでいえばアラフィリップ、ランパールト、アスグリーンといった選手たちだ。

マレン→アーチボルド→ファンポッペル→ベネットの新生ボーラ・トレインは、その実力を100%出すことができれば、それはものすごく強力なものになることが期待できる。

オフシーズンのチーム合宿でどれだけその結束を高めシーズンを迎えられるか、実に楽しみだ。

 

ヒンドレー、イギータ、ハラーを獲得

2021年のウィルコ・ケルデルマンに続き、2020年ジロ・デ・イタリア総合2位ジェイ・ヒンドレー(オーストラリア、25歳)もボーラ入り。ボーラの総合系強化への強い意志を感じると共に、2021年もマルク・ヒルシやマイケル・マシューズを取られたチームDSMの未来に不安を感じる・・・。

さらにこちらも総合系、2019年ツアー・オブ・カリフォルニア総合2位や2020年パリ~ニース総合3位のセルジオ・イギータ(コロンビア、24歳)もEFエデュケーション・NIPPOから獲得。ここ最近伸び悩んでいるイギータだが、ボーラの走りとは割と合致するイメージなので、躍進に期待したい。

そしてそんな若手2人に混じって、プロ11年目になるマルコ・ハラー(オーストリア、30歳)も獲得。2021年にE3サクソバンク・クラシックで10位に入ったその適性は、ニルス・ポリッツを支えるクラシック班の一員であると共に、自ら2019年にエシュボルン・フランクフルトで9位に入ったり2020年にカデルエヴァンス・グレートオーシャンロードレースで8位に入るスプリント力で発射台の一部にもなりうる脚質をもつ。彼自身も公式サイトでのコメントで語っている。「僕はとてもオールマイティで、リードアウターにもなれるしグランツールでアシストすることもできる。僕は自分の経験をあらゆる地形のチームの助けになれることを望んでいる」。

積極的なメンバー入替を進めるボーラ。大きな変化が、このチームの新たな可能性を開くきっかけになることを期待している。

 

アレクサンドル・ウラソフを獲得

2018年ベイビー・ジロ(U23版ジロ・デ・イタリア)覇者にして、2020年イル・ロンバルディア3位。グランツール表彰台も狙える男アレクサンドル・ウラソフ(ロシア、25歳)が、ボーラ・ハンスグローエの新たなエース候補として移籍する。

これでボーラは2019年ツール総合4位のエマヌエル・ブッフマンに2020年ジロ・デ・イタリア総合2位・3位の ジェイ・ヒンドレー&ウィルコ・ケルデルマン、そして2020・2021パリ~ニース覇者マキシミリアン・シャフマンと、総合勢が渋滞を起こす状況に。さらにジョヴァンニ・アレオッティなどの若手の台頭も期待できる中で、ウラソフもうかうかはしていられない。

イネオス、ユンボ、UAEで繰り広げられるグランツール総合争いの頂上決戦の舞台に、ボーラも食い込むことができるか?

 

コッホと18歳のルュースを獲得

CCCスプランディ・ポルコウィチェからCCCチームへと在籍し続け、2021年はアンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオで走っていた ヨナス・コッホ(ドイツ、28歳)がチームの新たなスプリントトレイン要員として加入。2019年のブエルタ・ア・エスパーニャでは区間5位に入るなどしていた実力者。エースは難しいかもしれないが、出戻りするサム・ベネット、あるいはジョルディ・メーウスなどの若手スプリンターたちのためのアシストに精を出してほしい。

また、合わせてボーラの育成ジュニアチームである「Team Auto Eder」に所属していたルイス=ジョー・ルュース(ドイツ、18歳)も新たに加入。

近年進む「ジュニアからU23を飛ばしてのワールドツアー入り」がまた1人。果たしてどんな才能を見せてくれるのか。今のところは未知数だ。

 

 

コフィディス・ソルシオンクレディ(フランス)

ブライアン・コカールを獲得

エリア・ヴィヴィアーニを獲得し意気揚々とワールドツアー化したにも関わらず、そのヴィヴィアーニが不発で窮地に陥っているコフィディス。何としてでも悲願のツール・ド・フランス勝利を・・・との思いで次に手を付けたのがブライアン・コカール(フランス、29歳)

しかし、ブアニでもラポルトでもヴィヴィアーニですら届かなかった勝利を、コカールで果たして手に入れられるかというと・・・。

コカールは2015年のツール・ド・フランス・シャンゼリゼで2位に食い込み、翌年2016年もマルセル・キッテルにギリギリで敗れ涙していた。その意味で、ツール勝利まで本当にあと一歩・・・というところまで来ているのだが、以降、チーム移籍問題などのゴタゴタでしばらくツール・ド・フランスに出られない期間があって以来、正直全盛期の力からは衰えているように感じる。

もちろん、復活は望みたいが、果たしてどうなるか・・・。

 

ダヴィデ・チモライを獲得

コカールに続き、さらに有力スプリンターを獲得。元はFDJでジャコポ・グアルニエーリと共にアルノー・デマールの発射台として活躍し、現在はイスラエル・スタートアップネーションのエースとしてたとえば今年のジロ・デ・イタリアではとくに登りや横風によるカオスな展開となった第3ステージや第7ステージでは区間2位、第10ステージでは区間3位など上位に何度も食い込み続けたダヴィデ・チモライ(イタリア、32歳)

 プロ12年目ながらまだまだ衰えを見せないトップスプリンターの彼がコフィディス入り。いきなりコカール、立場が危うくなってないか?

これでラポルト、ヴィヴィアーニ、コカール、チモライとエーススプリンターが乱立・・・ヴィヴィアーニはさすがに去るかもしれないが。

これが吉と出るか。それとも、迷走という名の凶に出てしまうか・・・まあ、イスラエルも、随分と混沌としたスプリンター陣容の中でチモライが結果を出しているので、彼ならばなんとかなる、かも?

 

バンジャマン・トマを獲得

先日の東京オリンピックでも中距離種目で活躍し、男子マディソンでは現アルケア・サムシック所属のドナヴァン・グロンダンとペアを組んで銅メダルを獲得したバンジャマン・トマ(フランス、26歳)。昨年はオムニアムで世界王者にもなっている実力者中の実力者だ。

ロードレースではフランス陸軍チーム(エキップ・シクリスト・アルメ・ドゥ・テール)所属時代の2017年にダンケルク4日間レースやツール・ド・ワロニーなどで区間優勝。同年限りでチームが解散したのに伴い、その実績を買われグルパマFDJにてプロデビュー。以来、とくに個人タイムトライアルではトラックレースで培われた独走力でもって上位に食い込み続け、今年は2019年以来2回目となるフランス国内TT王者となった。また、ツール・ド・スイスでもあわよくば逃げ切りというところまでいったが、最後はシュテファン・ビッセガーにスプリントで負けて惜しくも2位。

まだまだ活躍が見込める中堅どころのルーラーライダーとして、とくにスプリントトレインの中継ぎ役など、重要な役回りを期待されてコフィディスに。同様の能力値が高い選手の多いFDJではどうしても2軍扱いだった彼も、1軍待遇で活躍するチャンスがもたらされるかも。

ぜひワールドツアー級のレースでの逃げ切りなども見てみたい。

コフィディスはほかにも同時期に現イスラエル・スタートアップネーションの逃げ屋アレクシー・ルナール(フランス、22歳)やAG2R一筋6年間勤めあげてきたフランソワ・ビダール(フランス、29歳)などを新規獲得し、増強を図っている。

 

ヨン・イサギレを獲得

元モビスター、バーレーン・チーム創設時の初期メンバーとなり、現在はアスタナに所属するオールラウンダー、ヨン・イサギレ(スペイン、32歳)を獲得。

登坂力とTT力を兼ね揃え、モビスター時代はパンチャー、バーレーン時代は総合エースとして活躍。アスタナに入ってからは地元バスク最大のステージレースであるイツリア・バスクカントリーで総合優勝するなど一定の成績を収めつつ、基本的には山岳アシストやステージ優勝狙いで活躍するアタッカーとしての役割が中心であった。2012年にジロ・デ・イタリア、2016年にツール・ド・フランス、そして2020年にはブエルタ・ア・エスパーニャの山岳ステージでも勝利し、3大グランツールすべてでの勝利を手に入れた。

下りが得意という特徴もあるが、一方で落車もそれなりに目立つタイプでもある。

そんな彼がコフィディスへの移籍で手に入れるのは・・・おそらくは再び、総合エースの立場。確かに、同じスペイン人のヘスス・エラダが期待されていたほど安定感を持っておらず、このままではブエルタ・ア・エスパーニャでのエースの座は完全にイサギレに奪われることになるだろう。

また、ギヨーム・マルタンについても、「逃げからの総合上位に入り込み、そのまま順位を維持する」という方法でグランツールの総合TOP10を安定して獲れるようになってきてはいるものの、総合エースとしての安心感はまだまだ弱い。下手すると、マルタンのエースの座すら・・・?

いずれにしても、コフィディスにとってはかなり望ましい補強。イサギレもキャリア終盤戦に差し掛かるこのタイミングで、もう一花咲かせたいところだ。

 

 

EFエデュケーション・NIPPO(アメリカ)

エステバン・チャベスを獲得

2015年ブエルタ・ア・エスパーニャで突如現れた才能、エステバン・チャベス(コロンビア、31歳)。もちろん、2011年ツール・ド・ラブニール総合優勝という伏線はあった中ではあったが。

その後、2016年にジロ・デ・イタリア総合2位とブエルタ・ア・エスパーニャ総合3位。当時はまだオリカという名を残していたこのチームが、総合へと舵を切っていく、まさにそのきっかけを作った男であった。

しかし、その主役がイェーツ兄弟へと移り変わっていくと同時に、彼は苦難の歴史を歩み始めていく。その中でも、彼は何度も、少しずつ、復活へのチャレンジを続けてきた。

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今回のEFエデュケーション・NIPPOへの移籍は、そんな彼の復活を支え続けてきた旧チームとの決別を意味するわけではないと信じている。事実、2021年は、このチャベスの復活がいよいよ結果に結びつき始める兆候を見せていた。

そんな中でのチャベスの離脱は、もっと、経済的なものを含む仕方のない理由なんだろうと思う。

そして彼のデビューから彼を陽に陰に支え続けてきたチームの意思を受け継ぎ、新たな舞台で、彼はもう一度新たな歴史を刻み始めることだろう。

 

オドクリスティアン・エイキングを獲得

FDJに2年所属したが芽を出せず、流れつくようにしてワンティへと辿り着き、そこでまさかのマイヨ・ロホ7日間着用と総合11位という素晴らしい成績を残した「パンチャー」オドクリスティアン・エイキング(ノルウェー、27歳)がEFエデュケーション・NIPPOに移籍! アンテルマルシェに残ってチームの中心として活躍し続ける姿も見てみたかったが、EFもなかなか戦力流出が続く中で、残ったメンバーでめきめきと結果を出していくすごいチーム。もうだめだと思っていたミケル・ヴァルグレンが直近で2連勝したり、ユンボで芽を出せなかったニールソン・ポーレスがクラシカ・サンセバスティアンを制したりと、本当に凄い。エイキングがクラシカ・サンセバスティアン勝ったりなんかも夢じゃないかも?

あとはヒュー・カーシーやサイモン・カーが作り出していく山岳チームの一員として、彼らのアシストをする姿なんかも見られるかもしれない。最初の2年契約でさっさと手放したFDJを見返してやろう!

 

オウェイン・ドゥールを獲得

2016年のプロデビュー当初からスカイ/イネオス一筋できていたチーム・ウィギンス出身のオウェイン・ドゥール(イギリス、28歳)。起伏に強いスプリンター、あるいはスプリント力の強い丘陵ルーラー? 2019年のヘラルドサン・ツアー、2020年のツール・ド・ラ・プロヴァンスはいずれも逃げからのスプリント勝利である。

才能は感じるがイネオスというチーム特性ではどうしても目立ちづらいタイプの選手だとは思っていたので、今回のEF行きはぴったりだとは思う。イネオスに居続けてほしいという気持ちもあったが、これで彼自身のチャンスが増えるなら歓迎だ。

EFは2021年、確かな戦力縮小があったように感じながらも、これまでなかなか(他チームでも)芽が出なかった選手などが大きな勝利を掴むなどかなり勢いが良い。ドゥールもまた、2022年にその勢いを掴み取ることができるか。EFにとっても、イギータが放出される中、悪くない補強だと思われる。

 

メルハウィ・クドゥスを獲得

同じく山岳トレインの強力な補強として、現アスタナ・プレミアテックのメルハウィ・クドゥス(エリトリア、27歳)がEFに新加入。

こちらも2014年からMTNクベカ(現キュベカ・ネクストハッシュ)に所属し2019年からはアスタナ入りするも、その実力・潜在能力の高さに比してイマイチ活躍しきれていないように見える。実績としては2017年のツアー・オブ・オマーン総合4位や2019年のツアー・オブ・ターキー総合3位、そして2017年ブエルタ・ア・エスパーニャでルツェンコが勝った山岳ステージでの2位くらいなものか。

こういう選手を活躍させるのがEFの真骨頂のはず。アシストもいいけど、自由に走らせて結果を持って帰らせてほしい。

 

ベン・ヘーリーを獲得

現トリニティ・レーシング所属。2019年ツール・ド・ラヴニールで(19歳ながら)1勝、2021年のベイビー・ジロでも最終ステージを勝利している注目の若手の1人、ベン・ヘーリー(アイルランド、21歳)がEFエデュケーション・NIPPOに加入。2020年には「エリートの」国内選手権ロードレースでも優勝している、非常に有望な選手だ。

ベイビー・ジロでもTT2位、最終日の勝利も逃げ切りなど、基本的には山よりも平坦系の脚質と見てよさそう。もちろん、最近の若手は脚質がどう変わるかはまったく予想できない。

ただこのチームが若手をしっかり育てているイメージはあまりない・・・どちらかというと、他のチームで芽が出なかった才能を復活させるイメージ。

果たしてどうなる? ヘーリー。

 

マライン・ファンデンベルフを獲得

ヘーリーに続き、若手最有望選手の1人マライン・ファンデンベルフ(オランダ、22歳)もEFが獲得。若手への積極的な投資はやや資金難感が凄くあるし実際にそうなのだろうが、才能は間違いないのでしっかりとモノにしてあげてほしい。

2021シーズンは通算8勝。ツール・ド・ラヴニールではステージ2勝にポイント賞獲得と、圧倒的な強さであった。平坦系スプリンターでTT力もあるが、起伏や登りにも全然弱みを見せないオランダ人スプリンターらしい特性をもつ。彼と同じグルパマFDJ育成チーム出身で現在グルパマFDJでエース級の活躍をしているジェイク・スチュアートに近い脚質とも言えるかもしれない。

後は本当に、これをしっかりと育てきれるか、EF。

 

 

グルパマFDJ(フランス)

パシェ、ストーラーを獲得

2016年のプロデビュー以来フランス籍のプロコンチネンタルチームを転々としてきたパシェだが、初出場となった2020年のツール・ド・フランスで積極的な逃げと共に区間4位・7位など上位入賞を繰り返し、2021年のツール・ド・フランスでも区間8位が最高位ながらも総合では35位と非常に魅力的な走りを見せたカンタン・パシェ(フランス、29歳)。ついにワールドツアーチームの座を手に入れた。

もちろん目的の1つは、チームの新エース、ダヴィド・ゴデュの頼れるアシスト。ただ個人的には、ぜひ今度こそ、ツールでの区間勝利を、狙ってほしい。

総合系ではより期待度の高いマイケル・ストーラー(オーストラリア、24歳)。UniSA出身の有望オージーの一角。もちろん、そういう才能はなかなか花開くのも難しいのだが、2021年はついにプロ初勝利。1クラスではあるが、ツール・ド・ランの最終日ステージ勝利と共に逆転総合優勝を果たした。

基本はパシェ同様ゴデュのアシストになりそうだが、ピノがこのまま復活しきれないままキャリア終盤を迎えるのであれば、ゴデュの次のエース候補として、マデュアス、アッティラ・ヴァルテルあたりと並ぶ可能性になりうるので、頑張ってほしい。

 

ブラム・ウェルテンを獲得

プロ勝利こそないが、今年はブレーデネ・コクサイデ・クラシックやトロ・ブロ・レオンなどで8位を取っているルーラー/スプリンターのブラム・ウェルテン(オランダ、24歳)をグルパマFDJが獲得。デマールのトレイン要員、およびシュテファン・キュングのクラシック班要員としての活躍が期待される。

2017年はBMCレーシングのトレーニーで実は同年のジャパンカップでも走っている。そのまま昇格とはいかず、翌年にフォルテュネオ・サムシック(現アルケア・サムシック)でプロデビュー。今年まで在籍していた。

近年の傾向から言えば遅咲きのワールドツアーデビュー。さて、どんな活躍を見せてくれるのか。

 

 

クイックステップ・アルファヴィニル(ベルギー)

イーサン・ヴァーノンを獲得

今年のツール・ド・ラヴニールで1勝、世界選手権U23TT7位、東京オリンピックトラックレースチームパーシュート英国代表の1人であったイーサン・ヴァーノン(イギリス、21歳)がクイックステップ入り。トラックで培ったスプリント力と独走力とで、同じイーサンの名をもつイネオスのイーサン・ヘイターに負けない活躍を見せられるか。ラヴニールではスプリントでの勝利だが、結構でこぼこしたステージのラストのスプリントのため、比較的登れる足を持ってそうなところもヘイターに似ている。

しかしこのチームに英国人というのは珍しい・・・と思ったけど、昨年のジロ・デ・イタリアでも総合14位と活躍したジェームス・ノックスもイギリス人だったね。彼も新たに2年の契約更新。

 

マウロ・シュミットを獲得

今年の驚くべき勝利の1つ。ジロ・デ・イタリア第11ステージ。エガン・ベルナルが強さを見せつけ、レムコ・エヴェネプールが大きく崩れ落ちた「ストラーデビアンケ」ステージで、11名の逃げ集団の中で生き残り続け、最後はアレッサンドロ・コーヴィとの一騎打ちを制したマウロ・シュミット(スイス、22歳)

正直、全くの無名と言っても良いイメージだった。2020年のツール・ド・ルクセンブルクで総合11位など、どちらかというとパンチャー的な脚質をイメージさせるような成績を残していたほどであった。だが、本人曰く、未舗装路はとても好きなのだとか・・・。

そんな、才能の塊に目をつけたのがドゥクーニンク・クイックステップ。このチームは、とにかく目の付け所がよい。2020年のファウスト・マスナダは大当たりだったし、2021年に獲得したヨセフ・チェルニーはやはり期待通りの活躍をしている。元々才能がありながらもそれをまったく生かし切れないチームがいる一方、クイックステップは、その才能を十二分に発揮し、さらに成長させるだけの素質を持っている。

ゆえに、この男も期待して間違いないだろう。2022年のロンド・ファン・フラーンデレンで、アラフィリップやセネシャル、スティバルらと共に最終盤に残っていたとしても、何も不思議ではないだろう・・・。

 

イラン・ファンワイルダーを獲得

U23初年度(19歳!)の2019年にツール・ド・ラヴニール総合3位に入るという驚きの成績を残していた注目の若手イラン・ファンワイルダー(ベルギー、21歳)。20歳でチーム・サンウェブ(現DSM)に昇格を果たし、その未来を嘱望されていたが・・・ここ最近のサンウェブ/DSMのゴタゴタの一環として、彼もまた、契約途中でチームから離れることを決断した。

法廷闘争にまで持ち込まれていたこの騒動が最終的に決着。行先はこのクイックステップとなった。

これまで、同様のパターンでチームを去った選手たち(トム・デュムランやマルク・ヒルシなど)が軒並みあまり良いとは言えない状況になっている中ではあるが、クイックステップであれば・・・という信頼感はある。そのクイックステップが彼を選んだということがちょっと嬉しい。

今期はツール・ド・ロマンディ最終日丘陵TT(16.19㎞)やクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ丘陵TT(16.4㎞)でリッチー・ポートやブランドン・マクナルティなども倒して区間4位&区間5位。ベルギー国内選手権TTでも4位となるなど、オールラウンダーとしての素質を存分に発揮している。

まさにクイックステップが好みそうな脚質。ジョアン・アルメイダのチーム離脱は残念ではあるが、新たにレムコ・エヴェネプールの山岳アシストとして活躍してくれることに期待だ。

 

 

イネオス・グレナディアーズ(イギリス)

ルーク・プラップを獲得

2021年の1月に開催されたツアー・ダウンアンダー代替レース「サントス・フェスティバル・オブ・サイクリング」で活躍した今最も注目すべき若きオージーライダー、ルーク・プラップ(オーストラリア、21歳)が、イネオス・グレナディアーズへ移籍することが決まった。

性格には8/1からまずはトレーニー(スタジエール、研修生)として加入。2021シーズンからイネオスの一員としてレースを走ることが期待される。

2021年は上記のサントス・フェスティバル・オブ・サイクリング以外でもオーストラリア国内選手権個人タイムトライアルでも優勝している。もちろん、U23ではなく、エリートカテゴリで。 ローハン・デニスやリッチー・ポートなどはいなかったとはいえ、2019年・2020年とそのデニスを打ち破って王者に輝いていたルーク・ダーブリッジを43秒も上回っての優勝だから半端ない。登れてTTでも強い選手は今の若手のトレンドだし、そこでイネオスに育てられるのだから、この男も怪物となることはもはや保証されたも同様。

そしてリッチー・ポートとの先輩・後輩コンビは実に楽しみである。2022年にツアー・ダウンアンダーが復活するかどうかはまだ分からないが、実際に開催されたらぜひ2人で出てほしい。

プラップの走りやサントス・フェスティバル後のインタビューなどを以下の記事でまとめているのでぜひ。

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ベン・トゥレットを獲得

2018年&2019年シクロクロスジュニア世界王者に輝いている、まさにトム・ピドコック2世とも言える逸材ベン・トゥレット(イギリス、20歳)をイネオスが獲得。ロードレースでも2021年、アルペシン・フェニックスの一員として、フレッシュ・ワロンヌ12位やツール・ド・ポローニュ総合9位(&ビョルグ・ランブレヒト賞獲得)など、注目に値する成績を叩き出している男。

彼自身も将来の夢は総合系ライダーになることと語る。まずはイネオスとの3年契約の中で、どこまでその才能を伸ばしていけるか。

目下、ツアー・オブ・ブリテンに出場予定。得意のタイプのレースだけに、活躍に期待だ。

 

オマール・フライレを獲得

カハルラル所属時代の2015年、ディメンションデータ移籍後の2016年と2年連続でブエルタ・ア・エスパーニャ山岳賞を獲得。その秘訣は高い逃げ力と重要な山岳ポイントで魅せるスプリント力。

アスタナ移籍後は山岳アシストとして活躍しつつ、今年も同じバスク人の若手アレックス・アランブルをサポートしてイツリア・バスクカントリーで勝利させたり、自身もスペイン国内選手権ロードレースで勝利してナショナルジャージを手に入れたりと活躍し続けている男、オマール・フライレ(スペイン、31歳)をイネオスが獲得した。

正直、意外に思う方も多いだろう。方向性としてはかつてのセルジオ・エナオやワウト・プールス、ケニー・エリッソンドに連なる系譜のような立ち位置を期待されているような気がするが——それらの選手がすべてチームを去っている以上、今更そういった選手を?という思いはある。

一方、別の見方もある。かつては確かに山岳アシストもしくは山岳エスケーパーといった印象だったが、今年のバスク1周や国内選手権での活躍を見ても(あるいは重要なところでのスプリント力などを見ても)、丘陵系レースでのパンチャー・アルデンヌクラシックスペシャリストとしての活躍を期待できる側面もある。

そうなると、たとえば今年ブラバンツペイルを優勝しアムステルゴールドレースでも2位となったトム・ピドコック、あるいは大活躍しているイーサン・ヘイターらのアシストとしての活躍も期待されているのだとしたら、これはイネオスの「新しい道」に非常に即した補強ということもできる。

2020年代の「新・イネオス」の礎となれるのか。それとも、やはり2年程度でチームを離れることになるのか―—じっくりと見守りたい。

 

ベン・ターナーを獲得

それこそ「新・イネオス」を明確に意識した獲得がこのターナーである。ピドコック、ヘイター、そして同じく2022年加入がすでに決まっているベン・トゥレットと並ぶ、イギリスの若手の「ワンデーレーサ―」タイプの獲得。ピドコックが所属していたトリニティ・レーシングに現在も所属し、ピドコックが優勝した2017年のシクロクロス世界選手権ジュニアで3位銅メダルを獲得し、2018年にはコレンドン・サーカス(現アルペシン・フェニックス)に所属していたこともあるシクロクロッサー、ベン・ターナー(イギリス、22歳)である。

2022年もピドコックと共にシクロクロスも継続する予定のターナー。今年も国内選手権U23タイムトライアルで2位になるなど、基礎力ももちろん十分にある男だが、ロードレースでどんな覚醒を見せるのか。

 

エリア・ヴィヴィアーニを獲得

これもとても意外な獲得だった。エリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、32歳)の復帰。もちろん噂にはずっとあったが、彼がチーム・スカイに所属していた時代に決して高い成績を出していたわけではない。むしろ、ツール・ド・フランスはもちろん走らせてもらえないし、不遇といっても良かったかもしれない。だからこそその後のクイックステップ時代で一気に脚光を浴びることになるのだが。

一方、彼が初のグランツール勝利――それも彼にとってもしかしたらツールでの勝利以上に重要かもしれないジロ・デ・イタリアでの勝利を手に入れたのはスカイ時代の2015年だった。また、トラックレースでオリンピック金メダルを手に入れたのも、同じくスカイ時代の2016年だった。

今回も、普通に考えれば今のヴィヴィアーニを獲ろうとするチームとしてはあまり考えづらい「3年契約」。その3年目とはすなわち、2024年のパリ五輪である。

これも一つの「新・イネオス」の姿なのか。もちろんピナレロの意向もあろうが。

今シーズン、終盤のフランスのレースで(1クラスやプロシリーズとはいえ)2連勝を果たすなど少しずつ調子を取り戻しつつあるヴィヴィアーニ。

イネオスでの3年で、彼なりに満足できる走りをしていってほしい。もちろん、ジロでのガンナとコンビを組んでの活躍も!

 

以上、新しい時代の到来を感じさせる獲得を続けているイネオス。さらに大きくは紹介はしないが、もう1人ネオプロとしてキム・ハイドゥク(ドイツ、21歳)という意外な獲得もしている。2021年はドイツ国内ロード王者にはなっているものの、それ以外は目立った成績はそれほどない。2020年に引退したクリスティアン・クネース以来となるドイツ人の獲得は一体どんな意味をもつのか。

もはやイネオスは「最強」ではない。しかし、面白いチームには着実になっている気がする。

 

 

アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ(ベルギー)

クリストフとビストラムを獲得

エーススプリンターのダニー・ファンポッペルがボーラ・ハンスグローエに行くことが決まったアンテルマルシェ。代わりのエーススプリンターを探す必要があったが、その白羽の矢が立ったのが、ミラノ〜サンレモとロンド・ファン・フラーンデレン覇者、ツール・ド・フランス通算4勝のアレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、34歳)

クリストフも2020年もツールで勝っているにも関わらず、2021年はどのグランツールにも出場させてもらえないような待遇。チームを出る理由は十分にありそうだ。

同じノルウェー人の平坦アシスト、スヴェンエーリク・ビストラム(ノルウェー、29歳)も、同じタイミングでアンテルマルシェに。クリストフと同じチームだったことも多い気心の知れた間柄だ。

これまでのプロ勝利は国内選手権ロードだけという地味な選手ではあるが、2021年のブエルタ・ア・アンダルシアで割合登れる姿も見せるなど、新たな活躍の可能性も感じさせている。

2021年は8月までの間で結局3勝しかできていないアンテルマルシェ。2022年はこのクリストフで勝ち星を稼ぐことはできるのか?

 

ビニヤム・ギルマイを獲得

2020年に石上・岡と共に「NIPPOデルコ・ワンプロヴァンス」の一員としてプロデビューし、いきなりシーズン開幕戦のラ・トロピカーレ・アミッサ・ボンゴで2勝+ポイント賞。さらには2月のトロフェオ・ライグエーリアでジュリオ・チッコーネにつぐ2位と、圧倒的な才能を感じさせたビニヤム・ギルマイ(エリトリア、21歳)がこの8月6日からアンテルマルシェ入り。

所属していた「デルコ」が諸々の事情で消滅しかかっており、所属選手に移籍自由権を与えた結果である。

 

実際、これほどの才能がこのまま埋もれてしまうにはあまりにも勿体ない思いでいっぱいであった。なんとかワールドツアーチームで居場所を見つけられたことは幸い。あとは、しっかりと結果を出すだけ。

エリトリア人はこれまでも有力選手を数多く輩出してきたが、テクレハイマノにせよ、クドゥスにせよ、ベルハネ、ゲブレイグザブハイアーにせよ、「強い」と感じさせてもそこからさらに突き抜けられている選手がまだいない。

ギルマイがその可能性を花開かせてくれるか。まだまだ若いことは大きな武器である。

 

ホーセンス、タイッセン、ハイスを獲得

ロット・スーダルから若手を2名。アグレッシブな逃げを得意とし、今年のジロ・デ・イタリア山岳ステージで区間6位、ツール・ド・ロマンディでは山岳賞獲得、昨年のブエルタ・ア・エスパーニャでは総合24位と強さを見せているコービー・ホーセンス(ベルギー、25歳)と、元トラックレーサーで昨年のブエルタ・ア・エスパーニャでは区間2位に入るなど、本物であることを証明している有望スプリンター、ヘルベン・タイッセン(ベルギー、23歳)

さらにベルギーのUCIプロチーム、ビンゴール・パウェルス・ソーセスWBからローレンス・ハイス(ベルギー、23歳)も獲得した。こちらはまだ大きな実績はないが、今年のツール・ド・ハンガリーで総合6位、若手の登竜門アルプ・イゼール・ツアーで総合5位など、クライマーとしての進化の可能性を感じさせる走りを見せている。

アンテルマルシェにとっては順当に良い強化。とくにベルギー若手をしっかりと育てていこうという意志を感じる。

一方、有望な若手を獲られていくロット・スーダルには不安を覚える・・・。大丈夫だろうか。せっかく今年ずいぶん沢山集めたのに。

 

ディミトリ・クレイスとアドリアン・プティを獲得

2020年のロンド・ファン・フラーンデレンで6位を獲得し、2021年の春先のクラシックでもヴィクトール・カンペナールツらと共に活躍して見せてくれていた、キャリア終盤に差し掛かる中でむしろ実力を高めつつあるように感じるディミトリ・クレイス(ベルギー、34歳)と、チーム・トタルエナジーズ(旧ディレクトエネルジー)でヘント~ウェヴェルヘム6位などクラシックレースでの強さを発揮しているスプリンターのアドリアン・プティ(フランス、31歳)といった、年季の入ったクラシックライダー2名を獲得。2021年絶好調のタコ・ファンデルホールン、そして新加入のクリストフを中心に、チームの2022年の目標はクラシックでの勝利か。

 

 

イスラエル・スタートアップネーション(イスラエル)

ヤコブ・フルサンとユーゴ・ウルを獲得

プレミアテック社がスポンサーを降りるアスタナから、総合およびイル・ロンバルディアを始めとするアルデンヌ系ワンデーのエースたるヤコブ・フルサン(デンマーク、36歳)がイスラエルに。デンマークスタートとなる来年のツールのエース候補か? タレントが揃いながらも決定力に欠けるイスラエルにとっては非常に強力な補強であり、マイケル・ウッズと共にアルデンヌ系レースでは大きな勝利を狙えることは間違いなしだ。

そして、カナダ系ユダヤ人のオーナーを持つイスラエルチームとしては不思議ではないユーゴ・ウル(カナダ、31歳)も獲得。元AG2Rでアスタナではプレミアテック社による「カナダ枠」感が当初はあったウルだったが、2020~2021シーズンでは急成長を遂げており、登りも平坦も悪路も安定した走りで重要なアシストを務める場面も多数。カナダの先輩ウッズやフルサンと共にアルデンヌ系レースでも活躍しうるだろう。ルーベ8回、ロンド9回、リエージュ3回、ロンバルディア1回出場する万能アシストだ。

そしてウルは2021年の国内選手権TTを制すると共に世界選手権TTでもなんと7位! 円熟期に入りつつある中で、まだまだ進化を見込める男だ。

 

ジャコモ・ニッツォーロを獲得

こちらも強力な補強。2021年にもジロ・デ・イタリアでステージ1勝しているジャコモ・ニッツォーロ(イタリア、32歳)がイスラエル入り。パトリック・ベヴィンやダリル・インピーなどの元ワールドツアーチームのスプリンターたちが振るわない中、むしろユーゴ・オフステテールやイタマル・アインホルンなどの元プロコンチネンタルチームのスプリンターたちの方が元気だった(しかしやはり勝利はなかなか得られなかった)イスラエルのスプリンター班に強力なエースの登場だ。引退するダニエル・マーティンの代わりのヤコブ・フルサンのように、引退するアンドレ・グライペルの代わりの支柱となれるか。

イスラエル・スタートアップネーションはどこかツール・ド・フランス以上にジロ・デ・イタリアを意識している節もあり、その意味でこのニッツォーロも、ジロ・デ・イタリアで再び活躍することが期待されることだろう。

 

 

ロット・スーダル(ベルギー)

ルディガー・ゼーリッヒを獲得

ロット・スーダルはいまやチームの顔となった世界最強スプリンターの一角、カレブ・ユアン(オーストラリア、27歳)の契約をさらに2年更新、2024年末までとすると共に、ボーラ・ハンスグローエから一流リードアウターのルディガー・ゼーリッヒ(ドイツ、32歳)を獲得した。

すでにロット・スーダルトレインは、トーマス・デヘント→ロジャー・クルーゲ→ジャスパー・デブイストとかなり完成されているように思うし、とくにデブイストは今年のジロを見てもかなり強力な発射台として機能している。

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また、若手でもステファノ・オルダーニなどが期待の存在として経験を積みつつある中で、ゼーリッヒの獲得はどこまで意味を持つのかは今の段階では未知数。ここ最近のゼーリッヒは盟友であったはずのパスカル・アッカーマンとの連携があまりうまくいってなかったように見受けられるのも気になるところ。

一方、ゼーリッヒの北のクラシックでの適性の高さにも注目したい。問題はその彼のアシストを受けるべきエースの存在。いつまでもジルベールやデゲンコルプに頼るわけにはいかないだろうし、若手で最も有望株なフロリアン・フェルメールシュ(昨年のヘント〜ウェヴェルヘム13位)の成長に期待したいところ。

 

ヴィクトール・カンペナールツを獲得

元ヨーロッパTT王者で現アワーレコード保持者であるヴィクトール・カンペナールツ(ベルギー、30歳)。所属チームのキュベカ・ネクストハッシュが消滅の危機に立たされる中、移籍自由権を手にして古巣のロット・スーダルに戻ることに。

ただ、今年のカンペナールツは割と輝いていた。元々の武器であるTTは、同じベルギー国内でもワウト・ファンアールトやレムコ・エヴェネプールのような化け物だらけでオリンピック代表の座を逃すなど報われず、ただそのTTを捨てたことで、逆にジロ・デ・イタリアでの勝利など、逃げや北のクラシックでの活躍が目立つように。

そのまま、「逃がしたら怖いアタッカー」として活躍してくれることを期待したいところ。

 

 

モビスター・チーム(スペイン)

アレックス・アランブルを獲得

バスクの至宝・アレックス・アランブル(スペイン、26歳)。元々その才能は明白だったが、2021年はさらにそれが進化。2021年はミラノ~サンレモ7位、アムステルゴールドレース11位、フレーシュ・ワロンヌ13位、イツリア・バスクカントリー初日ステージで(オマール・フライレに助けてもらったうえで)優勝、国内選手権ロードレースを(オマール・フライレの優勝を助けたうえで)3位、クリテリウム・ドゥ・ドーフィネでソンニ・コルブレッリに続く区間2位、そしてブエルタ・ア・エスパーニャの初日TTではなんとプリモシュ・ログリッチにわずかの差で敗れるまではホットシートを守り続けての2位と、元々のパンチャーとしての才能以上のものを次々と叩き出していく。

そんな中、そんな才能を伸ばしてくれたアスタナに残るのではなく、モビスターへ。モビスターにとっては、バルベルデがさすがに晩年に差し掛かる中、新たな「勝ち星稼ぎ屋」として頼もしい存在。さらに、育て方次第ではステージレースの総合も狙いうる男だけに、今後の育成に期待したい。

なお、役割としては完全に重なってしまうある意味で上位互換とも言えるアランブルの参画に戦々恐々としているのはゴンサロ・セラーノだろう。今年かなり活躍してくれていただけに、ここで彼の立場が脅かされるのだとしたら少しかわいそう・・・頑張れセラーノ!

 

オスカル・ロドリゲスを獲得

アランブル同様に激坂に強いパンチャータイプのバスク人オスカル・ロドリゲス(スペイン、26歳)もアスタナからモビスターへ。モビスターは2020年から新規獲得の方向性が変わってきているという印象で、若手中心だったりスプリンターを含めたり・・・このロドリゲスやアランブルの獲得、次の項目で紹介するマックス・カンターなども、これまでのグランツール偏重ではなく勝利数を稼いでいこうとする強い意志を感じる。それはどちらかというと新興チームが目指す方向性でもあるのだが、一方で、歴史の長さに胡坐をかいていつの間にか「最強チーム」の座から零れ落ちかけているモビスターにとっては、あるべき方針転換なのだと思っている。

さて、このロドリゲスはプロコンチネンタルチームの「エウスカディ・ムリアス」(現在は消滅)時代の2018年にブエルタ・ア・エスパーニャ山岳激坂フィニッシュステージ(第13ステージ)でラファウ・マイカやディラン・トゥーンスを下して勝利している。2020年に期待をもってアスタナに迎え入れられたが、さらに進化したアランブルと比べると、やや期待外れな状況になってきてはいる。

今回のモビスター移籍でその状態を挽回できるか。

なお、グライドさんの情報だが、このロドリゲスの代理人はジュゼッペ・アクアドロ。アンドレイ・アマドールやリチャル・カラパスなどの代理人も務めている人物で、有力な南米系選手とのコネクションが強い。かねてよりモビスターにとっては重要な存在だったが、数年前にその関係が悪化した結果、アマドールやカラパスの流出につながった。

今回のこのロドリゲスの移籍はモビスターとアクアドロとの関係改善を意味するのか。そうなると、モビスターの復権も近いようにも思える。

 

マックス・カンターを獲得

チーム・サンウェブが育成チームからじっくり育ててきたジャーマンスプリンター、マックス・カンター(ドイツ、24歳)。登りもこなせる器用な男だが、決定力に欠けているのかここまで勝利なし。むしろアルベルト・ダイネーゼやケース・ボルなど、才能ある若きスプリンターが次々と出てくる中で、存在感を失いつつあった。2021年はポローニュやブリテンで、TOP5リザルトはそれなりにあるのだが・・・。

そんな彼が新天地を求めてモビスターへ。モビスターにとっても、2021年のイバン・ガルシアに続く「登れるスプリンター」の獲得。2021年はガルシアは思ったほどの活躍を成し得なかったが、このタイプの似ているカンターとの組み合わせが、良い化学反応を起こしてくれれば幸いだ。

個人的にはガルシアもカンターも好きなタイプの選手なので頑張ってほしい。このまま埋もれてしまうには、勿体ない。

 

イバン・ソーサを獲得

元アンドローニジョカトリ所属で2018年ツール・ド・ラヴニール区間1勝と総合6位、当初はトレック・セガフレード入りの予定を横からチーム・スカイが掻っ攫う形で2019年に加入し、エガン・ベルナルの後輩として、そして一時期はベルナル以上の才能を持っていると言われた男イバン・ソーサ(コロンビア、24歳)。2019年パリ~ニースのベルナル総合優勝を支え、暫くその影をひそめながらも、2021年ツール・ド・ラ・プロヴァンスでは再びベルナルとのコンビネーションを発揮して自ら総合優勝。まだまだいける!という可能性を感じさせもした。

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が、やはり放出が決まった。それも、モビスターから数多くの有力選手をイネオスに流すきっかけになったエージェント、ジュゼッペ・アクアドロとの復縁が確定的になったことを象徴するかのように、アランブルに続きこのモビスターに。

ただ、この移籍が彼にとって幸いになればそれでよい。イネオスという舞台だからこそ難しかっただけで、新天地であれば、彼の本来の力を発揮できると・・・信じている。

ほぼエンリク・マスのみとなってしまったモビスターの「ツール軍」を支える存在として、ぜひ活躍してほしい。

 

ゴルカ・イサギレを獲得

元々弟ヨンと共にモビスター・チームに在籍していたゴルカ・イサギレ(スペイン、34歳)、2017年のバーレーン・メリダ創設と同時にヨンが先行してバーレーンに。その後ゴルカも後を追って再び兄弟は一緒になるが、この度ヨンがコフィディスに移籍した一方でゴルカはモビスターへと出戻りとなった。

ステージレース総合と長い登りと下りとTTが得意なヨンに対し、ゴルカはTTが得意なのは変わらないがどちらかというと丘陵系のレースが得意な特徴をもつ(ヨンもパンチャー気質はあるがよりステージレーサー寄り)。印象的なのは2019年、ジュリアン・アラフィリップと鍔迫り合いをしていたヤコブ・フルサンのアルデンヌ系レースでの最有力アシストであったこと。2022年、すでに上で述べているようにアランブルやロドリゲスのようなアタッカー勢を補強している中で、このゴルカを加えたチームのアルデンヌ組はなかなかに強力なような気がする。

果たして勝利数を稼いでいけるか、新生モビスター。

 

 

チーム・バイクエクスチェンジ・ジェイコ(オーストラリア)

マッテオ・ソブレロを獲得

ディメンションデータ育成チーム出身で2020年はNTTプロサイクリングに昇格。そのチームが解散したことで2021年は単年契約でアスタナに所属したが、2022年からは2年契約でこのオージーチームに。

そんなマッテオ・ソブレロ(イタリア、24歳)は正直2020年までは印象の薄かった選手で、TT能力が高いくらいかな・・・と思っていたが、2021年は大ブレイク。タデイ・ポガチャルとラファウ・マイカとディエゴ・ウリッシで大人げない大暴れを見せたツアー・オブ・スロベニアのUAE表彰台独占を防いだのはこの男。第2ステージで4位、第3ステージで3位となって総合でも3位。いずれも登りフィニッシュでタデイ・ポガチャルとディエゴ・ウリッシが勝っているステージだが、そこに食らいついていった。その勢いのままイタリア国内選手権TTで優勝し、世界選手権ミックスドリレーでもイタリア代表メンバーの1人として銅メダルを獲得した。

今、間違いなく成長中のこの男が、なかなかタレント不足に苦しんでいるバイクエクスチェンジに希望をもたらしくれることを期待。

 

ケランド・オブライエンを獲得

イネオスの期待の新人ルーク・プラップと同じインフォーム・TMXメイクというアマチュアチームに所属。2021シーズン冒頭のツアー・ダウンアンダー代替レース「サントス・フェスティバル・オブ・サイクリング」でもプラップやポートのチームメートとして、サム・ウェルスフォードと共に平坦アシストで活躍。直後の国内選手権TTでは3位、ロードレースでも2位とプラップに負けない活躍を見せていたケランド・オブライエン(オーストラリア、23歳)。2021年はバイクエクスチェンジのトレーニーとして9月末から走っていたが、2022年はそのまま昇格し、プラップと共にプロデビューを果たす。

トラックレーサーとしても実力は折り紙付きで、東京オリンピックではチームパーシュートでのオーストラリア代表の1人として出場し、銅メダルを獲得。

スプリントでも平坦アシストでも期待のできる存在。初年度からの活躍があっても驚くには値しないだろう。

 

ローソン・クラドックを獲得

2018年のツール・ド・フランス第1ステージで落車。肩甲骨を骨折しながらも走り続け、総合最下位(ランタン・ルージュ)でシャンゼリゼにフィニッシュしたことで一躍有名になったTTスペシャリスト、ローソン・クラドック(アメリカ、29歳)

2021年のブエルタ・ア・エスパーニャでは第19ステージにおけるマグナス・コルトニールセンの逃げ切り勝利を強力にサポート。絶対に捕まると思っていた5名の小集団の中にコルトニールセンと共に入り込んでいた彼は、エースのための献身的な牽引を敢行。結果として集団から18秒差をつけて逃げ切った集団の中でコルトニールセンはしっかりと勝ちきった。

プロ勝利は一度だけ。2021年の国内選手権TTでの勝利のみ。しかし勝ち星の数だけではない魅力が、この男にはある。

とくにこのクラドックやイェンス・クークレールなど、このブエルタでEFの選手たちによって勝利を奪われることの多かったマイケル・マシューズにとっては、非常に心強い存在であることは間違いない。あとはマシューズがそのアシストに応える勝利ができるかどうかだ。

 

キャンベル・スチュアートを獲得

2021年の東京オリンピック男子オムニアムで銀メダルを獲得したジェイク・スチュアート(ニュージーランド、23歳)。2019年には同種目で世界王者にも輝いている。この種目はフェルナンド・ガビリアやエリア・ヴィヴィアーニなど世界トップクラスのスプリンターが頂点を極めている種目。ゆえに、この男も注目すべき存在であることは間違いない。

ロードレースでは地元ニュージーランドでのレースなど2クラスを中心に勝ち星を重ねている。さらに9月のオンループ・ファン・ヘット・ハウトラント(タコ・ファンデルホールンが逃げ切り勝利したレース)では、ダニー・ファンポッペルが先頭を獲った集団の中での6番手(全体では7番手)でフィニッシュするなど、プロレースでも十分に存在感を示していた。

決して派手な獲得はしないにしても、こうやって、本来のこのチームのスピリットとも言うべき補強と育成を期待している。

 

ディラン・フルーネウェーヘンを獲得

年の瀬も差し迫ってくる中での突然の電撃移籍。2022年末まで契約を残していたディラン・フルーネウェーヘン(オランダ、28歳)が、契約途中での解約をチームと合意し、バイクエクスチェンジへの移籍が確定した。

あれだけの事故を巻き起こしながら早期復帰を実現し契約も継続していたユンボ・ヴィスマだったが、チームとしてもやはりこのビッグスプリンターの扱いには苦慮する部分もあり、ワウト・ファンアールトの存在もあって今後のツール出場も見込めない。

そのうえでツールに出たい彼自身の思いも慮り、解約に同意。そしてバイクエクスチェンジとしても、チームの復活に向けた第一歩として、まずは(チーム創成期がそうであったように)スプリントでの勝ち星を稼いでいくことを優先したのだろう。

気になるのは、では、マイケル・マシューズはツール・ド・フランスを諦めたのか?ということ。ジロ・デ・イタリアやブエルタ・ア・エスパーニャで着実に勝利を重ねていきたいという意図があれば納得はできるが、そのあたりのマネジメントなしでの獲得だとしたら少々不安にはなる。

そしてフルーネウェーヘン自身も、その責任を勝利という形で果たしていく必要がある。もちろん、クリーンなスプリントを最優先に心掛けつつ・・・。

 

 

チームDSM(ドイツ)

ジョン・デゲンコルプを獲得

ミラノ~サンレモとパリ~ルーベの覇者であり、ブエルタ・ア・エスパーニャで通算10勝しているジョン・デゲンコルプ(ドイツ、32歳)が、アルゴス・シマノ時代からの2012年~2016年の計5年間所属していたチームへと「出戻り」することに。

上記サンレモ&ルーベ&ブエルタ10勝という栄光はいずれもこのチームの時代に獲得したもの。しかし2016年初頭のトレーニング中に事故に巻き込まれて指を切断しかける大怪我。以降、全盛期の力を取り戻すことができないまま、トレック、ロット・スーダルと放浪してきていた。

新たな栄光を求めるための戦いというよりは、2021年から所属するロマン・バルデと共に、このチームの特徴である(そしてかつての自分でもある)若手たちの成長を手助けすることが大きな目標となるか。

しかしそのバルデがブエルタ・ア・ブルゴスで3年ぶりの感動的勝利を成し遂げるなど、DSMも少し変化の時を迎えている印象もある。デゲンコルプももしかしたら、3年以上遠ざかっているワールドツアー勝利を再び手にする可能性もある、かもしれない。

 

 

チーム・ユンボ・ヴィズマ(オランダ)

ファンデルサンドとラポルトを獲得

比較的起伏のあるスプリントを得意とし、今年のポストノルド・デンマークルントやツアー・オブ・ノルウェーでも繰り返し上位に入り込み続けていたトッシュ・ファンデルサンド(ベルギー、31歳)と、起伏はもちろん石畳も激坂TTもいける割と万能タイプのスプリンター、クリストフ・ラポルト(フランス、29歳)を新たに獲得。

ファンデルサンドは今年のドワースドール・フラーンデレンで5位、ラポルトは2位と実績も残しており、ワウト・ファンアールトによる北のクラシック制覇に向けての重要なアシストを担うことになるだろう。

これまでナセル・ブアニに代わるツール・ド・フランスのエーススプリンターとしてのチャンスを与えられていたラポルトも、一旦再びアシスト業への専念が増えてしまうかもしれない。ただ、彼の万能さはその立場でもひときわ輝くものになるはずなので、活躍を楽しみにしている。

 

ローハン・デニスを獲得

兼ねてからの噂通り、元TT世界王者ローハン・デニス(オーストラリア、31歳)を獲得。これでユンボ・ヴィスマは、2020東京オリンピックTT金メダリストのプリモシュ・ログリッチ、銀メダリストのトム・デュムラン、そして銅メダリストのローハン・デニスの全員を擁することに。一度このメンバーで走るチームTTを見てみたい(そこにさらにトニー・マルティンやワウト・ファンアールト、ヨナス・ヴィンゲゴーにトビアス・フォスあるいはヨス・ファンエムデンなんかが加わりうるのだから恐ろしい)。

もちろん、デニスの強みはTTだけではない。かつてはグランツールの総合エースすら視野に入れていたオールラウンダーの素質を持つ男。2020年のジロ・デ・イタリアにおける、テイオ・ゲイガンハートの総合優勝の最大の立役者は間違いなく彼であった。

もちろん、すでにユンボにはワウト・ファンアールトという同じ役割を果たせる強力な男が存在するし、トム・デュムランも元の力を取り戻せば十分にその位置に値する。

むらっけも多いデニスが、果たしてこの最強格チームの中でどんな役割を与えられるのか・・・。

ただ一つ言えるのは、ヨナス・ヴィンゲゴーというログリッチに並ぶグランツール総合優勝候補者を手に入れたユンボ・ヴィスマが、全グランツール制覇を目指しうる体制の一角をこのデニスの獲得で確かに築き上げつつあるのは確かだ。

ユンボはすでに2度、ツールで敗けた。

しかし彼らは諦めていない。まだまだ、イネオスにも、UAEにも敗けない、最強チームを創り上げるべく虎視眈々と準備を進めている。

 

ミック・ファンダイケを獲得

「若手の登竜門」ツール・ド・ラヴニールで区間2位や区間4位などに入り込み、勝利こそないものの第3ステージから第6ステージまでの間マイヨ・ジョーヌを着続けていたミック・ファンダイケ(オランダ、21歳)。元々ユンボ・ヴィスマのディヴェロップメントチームに所属していたものの、9/5時点で急遽エリートチームに昇格。契約自体は2024年まで続く。

国内選手権U23TTで優勝。ロードでも2位。なお、ロード優勝のTT2位は双子の兄弟のティム・ファンダイケが獲得しており、ファンダイケ兄弟で国内選手権U23TTとロードの1位と2位を独占している格好に。こちらのティムの方もディヴェロップメントチームに所属しているが9/23段階で来期の状況は未確定。普通なら一緒にそのままエリートチームに昇格しそうなものだが・・?

実際、実績はわずかにミックの方が上。9月頭に開催された今年初開催のU23向けステージレース「フランダース・トゥモロー・ツアー」で区間2勝と総合優勝を成し遂げている(ティムの方は総合9位)。つい先日の世界選手権TTでも5位と好成績だった。

果たして明日のU23ロードの方はどうなるか。注目だ。

 

ティシュ・ベノートを獲得

チームDSMからの流出が止まらない。未舗装路でも登りでも活躍でき、重要な山岳アシスト的役割も担うことの多かったティシュ・ベノート(ベルギー、27歳)が、契約期間途中での解約をチームと合意し、来年からはユンボ・ヴィスマへの電撃移籍が確定。

ユンボ・ヴィスマとしては2018年ストラーデ・ビアンケ覇者の獲得は、まだまだ心もとないクラシック班の補強にとって非常に大きな意味を持つことは間違いなく、クリストフ・ラポルトの獲得とともに来年のクラシックでの大きな進化に期待したくなるところ。

また、彼自身としても、たとえば2019年に2位で終わっているブルターニュ・クラシックなんかは、ユンボ・ヴィスマとしてもエアポケットになっているレースだったりもするので、チャンスとして狙っていければと思う。

 

 

トレック・セガフレード(アメリカ)

マルクス・フールガードを獲得

UCIプロチームのUno-Xプロサイクリングチーム所属ながら、今年のE3サクソバンク・クラシックで8位、アークティックレース・オブ・ノルウェー初日ステージで優勝など活躍を重ねているマルクス・フールガード(ノルウェー、27歳)を獲得。昨年のツール・ド・ルクセンブルクでも総合2位。東京オリンピックノルウェー代表としても出場し、34位で完走している。

トレックは合わせてアルペシン・フェニックスのマチュー・ファンデルプールのためのアシスト要員であったオット・フェルハード(ベルギー、27歳)も獲得しており、ジャスパー・ストゥイヴェンやマッズ・ピーダスンら北のクラシック班のさらなる強化が進行中。

今年もミラノ~サンレモやクールネ~ブリュッセル~クールネで優勝し、ロンド・ファン・フラーンデレンでも4位と好成績を残しているトレッククラシック班の2022年の更なる活躍に期待だ。

 

ジョン・アベラストゥリを獲得

一時期チームUKYOに所属し、日本のレースでも無双していたために日本人にとっても有名なジョン・アベラストゥリ(スペイン、32歳)がトレック・セガフレードに加入。スペインに戻ってからも強さは衰えないどころかむしろ増しており、登り系のスプリントであればワールドツアーチームの選手たちに混じって上位入賞候補筆頭に常に上がってくる存在。今年の勝利はツアー・オブ・スロベニアの1勝のみだが、2位が4回にTOP5入りが8回、今回のブエルタ・ア・エスパーニャでも、第13ステージまでの間に2回6位を獲っている。

ゆえに、トレックに入ってからも、エドワード・トゥーンスやマッズ・ピーダスン、マッテオ・モスケッティらと共にチームの稼ぎ頭になってくれることだろう。もちろん、彼らを発射させるアシストとしても。

なお、カハルラル・セグロスRGAはこれで2011年から12年連続でワールドツアーチームに選手を送り込んだことになるらしい。すごい。というかクフィアトコフスキとかもカハルラルに所属していたのか・・・。

 

アントワン・トールクを獲得

racing.trekbikes.com

2018年ジャパンカップ2位、2018年クラシカ・サンセバスティアンでもムルギル・トントーラでアタックし、最終的にも10位に入るなど、パンチャーとしての高い素質を見せ続けていた男アントワン・トールク(オランダ、27歳)が5年間在籍していたユンボ・ヴィスマを離れトレックへ。

ユンボが強力なチームへと変化する中で、こういった「伸ばし切れなかった才能」が抜け出ていくことは残念ではあるが、トレック・セガフレードはモレマ、ブランビッラ、エリッソンドなど中堅~ベテランメンバーが息長く活躍する姿も見せているチームなので、その点ではトールクも良い位置に入り込み自由な走りができそうで期待もある。同じく2022年にAG2Rから移籍してくるトニー・ガロパンと共に、活躍を願いたいところ。

 

 

UAEチーム・エミレーツ(アラブ首長国連邦)

フィン・フィッシャーブラックを獲得

ユンボ・ヴィスマ・ディヴェロップメントチームに所属し、2021年はニュージーランド・サイクルクラシックで2勝、国内選手権U23TTで優勝、そして「ユンボ・ヴィスマの一員」として出場したベルギー・ツアーの個人TTではエヴェネプール、ランパールトに次ぐ3位という類稀なる成績を叩き出したフィン・フィッシャーブラック(ニュージーランド、20歳)。このままユンボ・ヴィスマのエリートチーム入りを果たし、次代の超有望株として成長していくか・・・と期待していたが、なんとそこでUAEチーム・エミレーツが横からかっさらう。2021年7月14日付で、突如UAEチームに電撃移籍。電撃プロデビュー。

2020年代のグランツール最強チームの名をかけた2大チームによる仁義なき戦い。TTが強いことは今の時代のグランツール頂点を狙うオールラウンダーの必須条件とも言えるため、この男は間違い無く今後も伸びていく。

早ければ2022年から無視できない活躍をしていくかも? 要注目だ。

なお、1歳年上の姉ナイアム・フィッシャーブラックは、女子界における最強チーム「SDワークス」に今年から所属し、ブエルタ・ア・ブルゴスとジロ・デ・イタリア・ドンナ(女子界最高峰のレース)で新人賞を獲得するなどその才能を遺憾無く発揮している。

姉弟揃って最強チームで最強の若手を演じるフィッシャーブラック家。姉弟まるごと大注目だ。

 

ジョアン・アルメイダを獲得

こちらも噂通り。2020年のジロ・デ・イタリアでレムコ・エヴェネプールの「代役」としてエースを張り、そのまま衝撃のマリア・ローザを15日間にわたり着用し続けていたジョアン・アルメイダ(ポルトガル、23歳)。2021年も復帰初戦となったエヴェネプールと共にジロに参戦し、表向きは彼が最初からエースのはずだったのだが・・・

最初の本格的な山岳ステージとなった第6ステージ「サン・ジャコモ」でまさかの失速。代わりにエヴェネプールが調子の良さを見せたため、ここで一度「エース交代」が行われた。

だが、さらに第11ステージ「ミニ・ストラーデビアンケ」。エヴェネプールにとっては初めてとなる「11日目」の戦いに、大きな大きな失速。そしてアルメイダは、チームの指示を受けて、このエヴェネプールの「アシスト」を行うこととなってしまった。

 

このときのチームの戦略の是非は問わない。

結果としてこの日と、同じく遅れたエヴェネプールのアシストをした第14ステージ「モンテ・ゾンコラン」とで8分32秒遅れの総合14位にまで落ち込んでしまったアルメイダだったが、そこからはいよいよ自由な立場を取り戻し、快進撃を始める。

とくに第3週目で見せた走りは、今大会エガン・ベルナルとサイモン・イェーツと並ぶ「3強」に数え上げてもおかしくはない。激坂における鋭い一撃を得意とするサイモン・イェーツに対し、アルメイダはペース走行タイプ。一度は彼に突き放されることがあっても、やがて確実に彼は先頭に戻ってくる。そして最後は、緩斜面区間で、サイモンを突き放すのだ。

それは2017年ジロ覇者トム・デュムランを彷彿とさせるような走り。

 

決して派手な走りを見せる男ではない。2021年序盤のUAEツアーなどでも、タデイ・ポガチャルの走りには全くついていけず、後手を踏み続けていた印象だ。まだ、世界最高峰の舞台でエースを任されるほどの存在ではないことは、否定できない。

ゆえに、そのポガチャルのアシストとしてツールを走る姿というのは、意外と彼に合うのではないかと思っている。もちろん、今度こそ「ジロのエース」を最初から果たし、リベンジを狙う姿も楽しみだ。

 

パスカル・アッカーマンを獲得

アレクサンダー・クリストフの移籍を発表したばかりのUAEチーム・エミレーツ。入れ替わるようにして、ボーラからパスカル・アッカーマン(ドイツ、27歳)を獲得した。

しかしそもそもクリストフも2021年にグランツールを1つも出られないままチームを去ることに。トレンティンくらい器用ならまだしも、アッカーマンのようなピュアスプリンターに果たして適性な居場所はあるのか。

ただ、フアン・モラノは2020年・2021年において最強の発射台であり続けたし、そのエースたるガビリアが2022年の契約が怪しい以上、その位置に座ることができれば、そしてアッカーマン自身が2020年以前の調子を取り戻すことができれば、勝利の量産は夢ではない。

逆にその調子を取り戻せなければ、それこそブルゴスでも2勝しているモラノが逆にエースの座を狙うライバルとしてアッカーマンの前に立ちはだかるだろう。

この移籍が吉と出るか凶とでるか。まずはアッカーマン自身の頑張りにかかっている。

 

マルク・ソレルを獲得

「ポガチャルのための最強総合チーム」作りが止まらない。次なる標的は元モビスターで2015年ツール・ド・ラヴニール覇者マルク・ソレル(スペイン、28歳)。2018年にはパリ〜ニースを制するも、その後は不運もありなかなか実績を出せずにいる伸び悩み中の彼が、エースでパンクするモビスターを飛び出し、UAEへ。

もちろん、この地でも単独エースを任せられる可能性はほぼないだろう。だが、ツール覇者の最強アシストの一角として走れることはまた、大きな誇りとなるはずだ。2018年ツールのときは「トリプルエース」を支えるアシストとしてかなり優秀な走りをしていたことが印象に残っている。

2021年にUAEはボーラのエースであったラファウ・マイカを手に入れ、そしてこれがツールで結果を出した。

同様にアルメイダやこのソレルを獲得することは決して「金に任せてただ強い選手を引っ張ってきているだけ」では決してない。

それらはたしかに効果的に機能し、真の最強山岳チームが生み出されることだろう。2022年のツールが今から楽しみだ。

 

アルバロホセ・ホッジを獲得

2017年ツール・ド・ラヴニールでエガン・ベルナルやカスパー・アスグリーン、ファビオ・ヤコブセンらと共に活躍し、翌年ヤコブセンと共にドゥクーニンク入りしたアルバロホセ・ホッジ(コロンビア、25歳)。片方が勝利すればもう片方も同等のレースで勝利するという、実に良きチーム内ライバルとして競り合い続けていたホッジとヤコブセン。

しかしホッジが2019年末のツール・ド・ユーロメトロポールで激しい落車。さらにヤコブセンも2020年ツール・ド・ポローニュでの大事故を経験し、共に苦しい時期を過ごした。

ヤコブセンは先日のツール・ド・ワロニーで2勝して復活を遂げ、ホッジもまた、ツール・ド・ランで2年ぶりの勝利を飾ることに成功した。

再び力を取り戻しつつある両社だが、それと同時に、歩む道は違えることとなる。ヤコブセンはそのままドゥクーニンクに残り、そしてホッジは、UAEチーム・エミレーツに招き入れられることに。

フェルナンド・ガビリアがチーム残留するかどうかはまだ確定していないが、残るのであればこれでガビリア、ホッジ、フアン・モラノのコロンビアントップスプリンターが3人、集う形に。

ほかにもアッカーマンやトレンティンもいるUAEでは、もしかしたらエースとしての走りは難しいかもしれない。

それでも、ホッジが再びその力を認められ、活躍する場ができるのであれば、それは喜ばしいことである。

 

ジョージ・ベネットを獲得

ペテル・サガンやナイロ・キンタナらと同じ1990年生まれの「黄金世代」の一人、ジョージ・ベネット(ニュージーランド、31歳)。だが、そんな彼が注目されたのは意外と遅く、2017年のツアー・オブ・カリフォルニアでの総合優勝から。最終日前日の個人TTでの大逆転総合優勝は衝撃的だった。

だが、その後グランツールでのエースを任された彼はなかなか結果を出せずにいた。そのうちに、プリモシュ・ログリッチやステフェン・クライスヴァイク、セップ・クスなどの新たな才能が台頭していく。

だから、彼の今回のこの選択は驚きではあったが、不可解ではなかった。もちろん、今のこのUAEチーム・エミレーツに移籍するということは、エースという道はほとんど考えられず、最強のポガチャルあるいはそれに準じるジョアン・アルメイダなどのアシストとして全力を尽くす運命にあることは十分に理解しているだろう。

だが、個人的に彼が最も輝いたように見えた瞬間は、2019年ツール・ド・フランスでクライスヴァイクの総合3位を支えた瞬間だった。そのときの力を、今度はポガチャルという稀代の才能が描く新たな歴史の始まりを支える最前線で発揮できるのであれば、それは一人のファンとしても嬉しい限りだ。

もちろん、2020年イル・ロンバルディア2位など、彼自身の類稀なる戦績もある。そんなチャンスも、きっと掴んでみせてほしい。

 

 

アルペシン・フェニックス(ベルギー)

ステファノ・オルダーニを獲得

コメタ・サイクリングチーム(現EOLOコメタ)出身で昨年ロット・スーダルにてプロデビュー、その初年度にジロ・デ・イタリアに出場して区間6位や8位を獲得、今年もユアンが撤退したあと、第10ステージで区間4位に入るなど、目覚ましい活躍を見せている期待の若手スプリンター、ステファノ・オルダーニ(イタリア、23歳)

ユアントレインにも入らず、自由な走りを許されているし大事に育ててもらえるのかなと思っていたら・・・なんとアルペシンに移籍。ロット・スーダルにとっては大きな才能を失うという意味でとても残念なことだ。

一方、アルペシンにとっては、ただでさえ今年ワールドツアー最強級の力を誇っていたトレインがさらに強化され、手がつけられなくなることに。恐ろしい・・・。

 

ロバート・スタナードを獲得

2018年ピッコロ・ロンバルディア覇者。「U23版イル・ロンバルディア」とも言われるこのレースは、ジャンニ・モスコンやファウスト・マスナダ、アンドレア・バジョーリなど実力者たちが優勝者として名を連ねており、このロバート・スタナード(オーストラリア、23歳)も期待されてミッチェルトン・スコット(現チーム・バイクエクスチェンジ)入りを果たしていた。

しかし、オージーチームもなかなか彼を育てきれなかった。彼の脚質も、山岳・丘陵・スプリントなどそれぞれともにそこそこできるものの、突き出るものもない中途半端なものでもあり、いい走りはするがプロ3年で勝利はいまだ0。

それでも今年はブラバンツペイル6位やティレーノ~アドリアティコ区間6位など頑張っており、チッタ・ディ・ルガーノでもあと少しで勝利というところでフィニッシュ前での落車トラブルに巻き込まれての悔しいリタイアとなっていた。

そんな彼がアルペシン入り。チャンスは広がるはずだ。北のクラシックはもちろん強いこのチームだが、アルデンヌ系レースでは、クエンティン・ヘルマンスやクサンドロ・ムーリッセが頑張ってはいるものの決め手に欠けている状態。本来期待していたシルヴァン・ディリエも2021年はイマイチだったし、期待の若手ベン・トゥレットもイネオスに行ってしまう。

そんな中のこのスタナードの加入はチームの方向性にも合っている。同じく2022年からアルペシン入りする2021年ストラーデビアンケ6位のミヒャエル・ゴグルと共に、チームの新アルデンヌエースとしての活躍に期待だ。

 

ヤコブ・マレツコを獲得

イタリア籍プロコンチネンタルチームのサウスイースト~ウィリエール系列を走り、2019年にはCCCチームにてワールドツアーデビュー。その解散に伴い2021年に再びサウスイーストの流れを汲むヴィーニザブに出戻りしていたヤコブ・マレツコ(イタリア、27歳)が2022年にはアルペシン・フェニックスに。プロチーム(旧プロコンチネンタルチーム)であることは変わらないが、実質的にはワールドツアーチーム復帰と言ってもいいような移籍である。

彼自身は今では珍しいくらいのピュアスプリンター。少しでも起伏などがあると勝負に絡めないものの、その爆発力は非常に高く、4度出場しているジロ・デ・イタリアでも区間2位にまで登り詰めたことが複数回ある。

その勝利の大半がアジアでの勝利であることもよく取り沙汰されているが、実力者であることは間違いなく、アルペシンとしても来年離脱するサッシャ・モドロの代わりとして、チームのスプリントトレインの補強要員として期待することとなるだろう。

もちろん、そのモドロも今年、3年ぶりの勝利を掴み取っていたりもするので、マレツコ自身もなんとかこのチームで、チャンスを掴み取っていきたいところだが。

 

 

チーム・トタルエナジーズ(フランス)

ペテル・サガン、ボドナル、オス、そしてスペシャライズドを獲得

かねてよりの噂通り、3度の世界王者、ロンドとルーベの覇者、7回のマイヨ・ヴェール取得者であるペテル・サガン(スロバキア、31歳)を獲得したトタルエナジーズ。当然、「サガンファミリー」であるところのマチェイ・ボドナル(ポーランド、36歳)ダニエル・オス(イタリア、34歳)、そして4年前ボーラにもサガンと共にもたらされたスペシャライズドバイクもまた、一緒になってトタルエナジーズにもたらされることに。

さて、トタルエナジーズは昨年もピエール・ラトゥールやエドヴァルド・ボアッソンハーゲンなどの強力なライダーを獲得している。一説にはワールドツアーチーム化も狙っているという噂もあるが、果たして。サガンもいれば今まで以上にツール・ド・フランス始めトップレースには招待されるだろうし、ワールドツアー化のメリットは多くないかもしれないが。 

 

 

 

(都度、更新予定)

 

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