前編に続き、女子ロードレース世界ランキングの今回はTOP10を紹介!
昨年はまさかのロレーナ・ウィーベス1位。今年は・・・?
女子ロードレース界で今最も強い10名の選手たちと、彼女たちがどんなレースでどんな走り方をしてみせたのか、少しでも参考になれば幸いだ。
目次
- 第10位 エレン・ファンダイク(トレック・セガフレード)
- 第9位 セシリーウトラップ・ルドヴィグ(FDJヌーベルアキテーヌ・フチュロスコープ)
- 第8位 ロッテ・コペッキー(ロット・スーダル)
- 第7位 リアヌ・リッパート(チーム・サンウェブ)
- 第6位 マリアンヌ・フォス(CCCリヴ)
- 第5位 エリザベス・ダイグナン(トレック・セガフレード)
- 4位 リサ・ブレナウアー(セラティツィット・WNTプロサイクリング)
- 第3位 アネミエク・ファンフルーテン(ミッチェルトン・スコット)
- 第2位 エリザ・ロンゴボルギーニ(トレック・セガフレード)
- 第1位 アンナ・ファンデルブレッヘン(ブールス・ドルマンス)
↓20位~11位はこちら↓
↓昨年のランキングはこちら↓
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第10位 エレン・ファンダイク(トレック・セガフレード)
昨年25位、オランダ、33歳、TTスペシャリスト
プロ15年目、トラックとロードの両方で輝かしい成績を重ね続けているオランダの名選手。トラックでは2008年にスクラッチで世界王者に輝き、ロードでは2013年に個人タイムトライアル世界王者に輝いた。クラシックでも2014年にロンド・ファン・フラーンデレンを制している。
そんな彼女も、今年は強豪揃いのトレック・セガフレードの中での3番手、ややアシストに近い位置で働くこととなった。たとえばヘント~ウェヴェルヘムでは残り30㎞のケンメルベルクで、チームのダブルエースとして今年絶好調のロンゴボルギーニ、ダイグナンのためにペースアップを仕掛け、ロレーナ・ウィーベス率いるサンウェブを後方に突き放す役割を果たした。
2018年に総合優勝しているマドリッドチャレンジでは、得意のTTで総合3位にまで登り詰めて迎えた最終日。ここでもエースのロンゴボルギーニが積極的なアタックを繰り返しボーナスタイムを収集。最終的には彼女が総合2位になった代わりに、ファンダイクは総合4位に転落してしまった。
だがその機関車のような出力はチームにとって欠かせない存在であることは間違いない。強豪チームをさらに強くする重要な第3軸として、今後にも期待。
第9位 セシリーウトラップ・ルドヴィグ(FDJヌーベルアキテーヌ・フチュロスコープ)
昨年22位、デンマーク、25歳、クライマー
男子レースでも次々と才能が輩出されつつあるデンマーク。彼女もまた、その逸材の一人だ。
2017年にストラーデビアンケ9位、2018年にジロ・ローザ総合6位、2019年にはロンド・ファン・フラーンデレンで3位、そして今年、ジロ・ローザ総合4位にフレーシュ・ワロンヌ2位と、着実にその成績を伸ばしつつある存在である。
その最大の魅力はキャラクター。彼女のそのキャラクターについては、下記の記事に詳しい。
女子版サガン? 明るく、強い。そして不思議な語彙力(笑)
今年はそんな彼女が飛躍した年。来年以降も、注目し続けていくべきだ。
第8位 ロッテ・コペッキー(ロット・スーダル)
昨年11位、ベルギー、25歳、スプリンター
彼女にとってもまた、飛躍の年となった2020年。
実にベルギー人らしいクラシックスプリンター。男子でいうとティム・メルリエとか、ジャスパー・フィリプセンみたいなイメージ。
2位を4回繰り返していた国内選手権ロードレースでついに優勝。ベルギー王者の証を胸に挑んだジロ・ローザでは初優勝を遂げた。
さらにはヘント~ウェヴェルヘムで2位、ロンド・ファン・フラーンデレンで3位。
これまでもTOP10には入り続けてきたベルギー最高峰のレースたちでついに表彰台を連発。
その頂点に辿り着くまで、あとわずか。
第7位 リアヌ・リッパート(チーム・サンウェブ)
昨年65位、ドイツ、22歳、パンチャー
今年大きく飛躍した若手といったらやはりこの人物。年初からオーストラリアの地で暴れまわり、ワールドツアー最初のレース、カデルエヴァンス・グレートオーシャンロードレースで見事に優勝。リーダージャージを着用したまま、レース中断期間に突入した。
そして、その勢いはシーズン後半でも衰えることはなかった。
一度その名を観るものの記憶に刻んだ以上、彼女の名が世界選手権、リエージュ~バストーニュ~リエージュ、フレーシュ・ワロンヌと重要なレースの上位に躍り出るたびに注目が集まった。
そんな彼女はまだ22歳。破格の若さ。
これからどこまでも無限に成長していきそうで、実に楽しみな選手である。
第6位 マリアンヌ・フォス(CCCリヴ)
昨年2位、オランダ、33歳、パンチャー
もはや説明の必要すらないほどの、生ける伝説、「女王」マリアンヌ・フォス。
昨年は以外にも世界ランキング1位にはなれなかった彼女だが、今年はそれと比べるとやや失速。
これまで231勝という信じられない勝利数を稼いでいる彼女だが、今年積み重ねたのはわずか3勝。それも、ジロ・ローザでの区間勝利3つのみである(それ自体は十分に凄いことだが・・・)。昨年の19勝と比べるとやはり物足りない。
来年は新創設されるユンボ・ヴィズマの女子チームに加入。男子では今や世界最強チームの仲間入りを果たしたこのチームも、女子チームの方はまだ若い選手も多い。フォスの存在が、このチームをどう引っ張っていくのか。
なお、今年はズイフトを使用して行われたバーチャルレース「ズイフト・ツアー・フォー・オール」でも初日インスブルックステージで優勝している。
ロード、シクロクロス、マウンテンバイクとあらゆる自転車競技でその強さを轟かせている女子自転車界最強の女王は、バーチャルの世界でも強かった、ということで・・・。
第5位 エリザベス・ダイグナン(トレック・セガフレード)
昨年44位、イギリス、32歳、パンチャー
別名リジー・ダイグナン。元チーム・スカイのフィリップ・ダイグナンと結婚して姓を改めており、それ以前はアーミステッドを名乗っていた。
10年以上のキャリアを持つ大ベテランで、2015年には世界王者の地位に。ロンド・ファン・フラーンデレン、ストラーデビアンケ、リエージュ~バストーニュ~リエージュなどあらゆるトップレースを制覇しており、今年はそこにラ・クルスを加えた。トラックレースでも活躍しており、2009年には団体追抜種目で金メダルを獲得している。
ここ数年はかつてほどの成績は出せずにいた彼女が、今年はエリザ・ロンゴボルギーニ、エレン・ファンダイクといった名選手たちと共にトレック・セガフレードを最強チームの一角に押し上げ、かつて自分が所属していた「最強」ブールス・ドルマンスや「最強」アネミエク・ファンフルーテンらを圧倒することもしばしば。
その象徴がラ・クルスでのロンゴボルギーニとのコンビネーションによる勝利であり、リエージュ~バストーニュ~リエージュでの独走による完全勝利などである。
ここにまた一人の「女王」が復活を遂げた。
次なる目標は過去2回の2位を経験しているラ・フレーシュ・ワロンヌや2017年に2位を経験しているアムステルゴールドレース、あるいは2度目の世界王者の座の獲得か。
4位 リサ・ブレナウアー(セラティツィット・WNTプロサイクリング)
昨年20位、ドイツ、32歳、スプリンター
稀代のTTスペシャリストにしてスプリンター。昨年はチームのエーススプリンター・キルステン・ワイルドの発射台としての活躍が目立っていたが、今年は彼女自身の成績を一気に押し上げていった。
その成果が上記の錚々たるリザルト。そしてドイツ国内においては3度目のロード王者に輝き、タイムトライアル王者となった回数と並んだ。
そしてチームと同じスポンサーが主催するマドリッドチャレンジでも、2度目の総合優勝。
今年のマドリッドチャレンジは登りスプリントフィニッシュ・個人TT・マドリード周回スプリントステージの3Day構成だったがブレナウアーは第2ステージのTTで危なげなく優勝。総合2位のエリザ・ロンゴボルギーニに10秒差をつけて最終日を迎える。
だが、最終日はまさかの特別ルール。1周6㎞のコースを17周し、2周目から14周目までの偶数ラップに5-2-1秒のボーナスタイムが設定されているという、まるでトラックレースにおけるポイントレースのような特別仕様。
そして、ここでロンゴボルギーニがアタックを繰り出して独走を開始し、ボーナスタイムポイントを次々と先頭通過。バーチャルで総合逆転を果たしてしまう。
だが、ブレナウアーは慌てることなく、ロンゴボルギーニを吸収したあとの終盤で再びボーナスタイムを収集開始。
最終的にはタイム差をむしろ12秒に広げ、しっかりとマイヨ・ロホを守り切り、男子の総合優勝者プリモシュ・ログリッチと共に表彰台の頂点に立った。
来年もまた、彼女自身のために走るか、それともまた別のエースを引き立てるか。
どんな役割も演じて見せる。実力派ベテランの走りに来年も注目だ。
第3位 アネミエク・ファンフルーテン(ミッチェルトン・スコット)
昨年3位、オランダ、38歳、オールラウンダー
昨年の世界王者。泣く子も黙る世界最強の女王の一人。一度抜け出したら誰も止められない無限列車。今年もまた、圧倒的に強かった。
とくに彼女のリザルト欄を開催順に並べたときの今年の序盤は「1」ばかりが並ぶ。2月のオンループ・ヘットニュースブラッドで今季初レースを迎え早速優勝したあとは長期のレース中断期を迎え、シーズン再開後はスペインの1クラス3連戦を総なめ。そして仕上げにストラーデビアンケでの圧倒的勝利。
先頭マビ・ガルシアから5分以上遅れていた「第2追走集団」から一人飛び出して第1追走集団をいとも簡単にパスしてガルシアに追い付き、最後のカンポ広場の激坂で容赦なくこれを引き千切った。
今にも倒れそうな様子でフィニッシュしてくるガルシアを尻目に、随分と余裕そうな表情でインタビューに答えている姿が実に印象的だった。
彼女の伝説はそれだけではない。昨年同様圧倒的な強さで当たり前のように総合優勝してしまうかと思われたジロ・ローザ。その第7ステージの集団スプリントで大落車が巻き起こり、それに巻き込まれた彼女は左手首を骨折して悔しくもリタイアしてしまう。
そう、彼女はこのとき左手首を骨折したはずだった。
しかし、その「わずか1週間後」の世界選手権。
アンナ・ファンデルブレッヘンの独走勝利で幕を閉じたこの日、エリザ・ロンゴボルギーニと繰り広げた2位争い。
そこで彼女は骨折しているはずの左手でしっかりとハンドルを振って強力なスプリントを披露。ロンゴボルギーニを打ち破って銀メダルを獲得したのである。
実に恐ろしきファンフルーテン。
だが、そんな彼女も、昨年同様に世界ランキング3位で終わってしまった。
それでは、2位、そして1位の人物とは――?
第2位 エリザ・ロンゴボルギーニ(トレック・セガフレード)
昨年15位、イタリア、29歳、クライマー
リザルトを見るとわかると、実は勝ったレースというのは決して多くはない。ただし、今年の彼女は、あらゆるレースで常に上位に入り続け、その存在感を強烈に示した。
たとえばヨーロッパ選手権。
終盤に形成された10名の先頭集団の中に、現・元世界王者4名を含む最強集団オランダ代表が7名も入り込んでいた。
そこからさらに、ファンフルーテンがアタック。一度独走を始めると手の付けられない彼女の攻撃についていったのがカタジナ・ニエウィアドーマとこのロンゴボルギーニであった。しかもこうして形成された先頭3名に、追走からもう1名のオランダ代表、シャンタル・ブラークがブリッジを架けてきて、ただでさえ強いオランダが2名に。
こうなってしまっては、守勢では勝てるはずもなく、ロンゴボルギーニは積極的に動くしかなかった。
残り12㎞地点のコート・デュ・レソで1回目のアタック。これでブラークをまず払い落とした。
だがファンフルーテンは難なくこれに食らいついてきて、それどころか残り9.5kmでカウンターを仕掛けられてしまう。
許してはいけない独走を許してしまったロンゴボルギーニ。ここから彼女の「執念」が始まる。
伴走者ニエウィアドーマを突き放し、単独で世界王者ファンフルーテンを追いかけるロンゴボルギーニ。2㎞、3分の追走の果てについに追い付く。
そして残り3㎞地点のコート・デュ・ポン・ヌフでロンゴボルギーニの2回目のアタック。これは決まらず、再びファンフルーテンがカウンター。
しかし今度は、ロンゴボルギーニも離さなかった。しっかりとその後輪を捉え、しがみつく。
ファンフルーテンも必死だった。1か月前、ストラーデビアンケでの驚異的な勝利の際に見せていた余裕は、その表情には一切残っていなかった。
腰を上げ、ハンドルを左右に振りかざしながら懸命にペダルを回すが、ロンゴボルギーニはその背後から決して離れることがなかった。
何度も腰を下ろしては上げ、何度も加速を繰り返すが、それでも「執念の女」は決してその背中から離れることはなかった。
結局、最後はファンフルーテンのロングスプリントによって、ロンゴボルギーニは敗北を喫する。
しかし、この時の執念は2日後のラ・クルスでも発揮される。
それは彼女の勝利をもたらすことはなかった。
代わりに彼女は、彼女のチームメートのエリザベス・ダイグナンを勝利に導いた。
2位、そして仲間の勝利。
これらの活躍の果てに、ついに彼女は彼女自身の栄光を掴み取る。
すなわち、女子ロードレース界の頂点とも言える最大のステージレース、「ジロ・ローザ」。
その最終第8ステージで、「今年最強の女」とのマッチスプリントを制した彼女は、ついにこの世界最高峰の舞台での初勝利を遂げる。
エリザ・ロンゴボルギーニ。
イタリア最強の女は、今年、「女王」マリアンヌ・フォスも、「女王」ファンフルーテンも超えて、世界の頂点のあと一歩にまで辿り着いた。
しかしそんな彼女も、やはり今年はこの人物には勝てなかった。
今年世界ランク1位はもちろん、この人物――。
第1位 アンナ・ファンデルブレッヘン(ブールス・ドルマンス)
昨年5位、オランダ、30歳、オールラウンダー
2021年末での引退をすでに表明している女子ロードレース界最強の選手の一人、ファンデルブレッヘン。
そんな彼女が、今年はまさに爆発的な成績を叩き出した。2度目のロード世界王者、3度目のジロ・ローザ制覇、6度目のフレーシュ・ワロンヌ制覇、そして初の個人TT世界王者へ。
結果、誰から見ても文句なしのUCI世界ランキング1位。堂々たる君臨である。
(とはいえ、実はロンゴボルギーニとのポイント差はわずか。ロンゴボルギーニも今年は本当に強かったことがよくわかる)
引退イヤーとなる来年は、どんな走りを見せるのか。やはり期待したいのは、前回のリオ・オリンピックに続く東京オリンピックロード制覇。有終の美を飾ることはできるか。
今年は新型コロナウイルスによる影響が避けられないシーズンだった。
昨年は圧倒したファンフルーテンやフォスを差し置いて、まさかのロレーナ・ウィーベスがUCI世界ランキング1位を獲っていたが、それと違って今年は順当にオールラウンダー・クライマー系の選手が上位に並ぶこととなった。
それは今年のクラシックレースの多くがキャンセルになってしまったからというのも影響があるに違いない。
男子レースと比べ、まだまだ露出の機会が少ない女子レースではあるが、今回のこのランキングが、「興味はあるけれど全然知識がなくて・・・」という人たちの助けに少しでもなれれば幸いだ。
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