りんぐすらいど

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ラ・クルス by ツール・ド・フランス2020 「執念の女」がもたらしたチームの勝利とは

 

ラ・クルス by ツール・ド・フランス。

ツール・ド・フランスと同じA.S.O.が主催する、その年のツール・ド・フランスのコースの一部を使用して行われるワンデーレースである。

新型コロナウイルスの影響によりいくつかのレースがキャンセルされたウィメンズ・ワールドツアーの第4戦にあたり、男子のツール・ド・フランスの開幕日と同じ8/28に、男子と同じニース周辺を巡る周回コースを利用したレースとして開催された。

 

勝ったのは、トレック・セガフレードの元世界王者エリザベス(リジー)・ダイグナン。昨年覇者マリアンヌ・フォスの強烈スプリントを最後の最後でギリギリ差し切っての勝利だった。

3日前のグランプリ・ド・プルエーに続く、ウィメンズ・ワールドツアー2連勝となった。

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しかし、この勝利は決して、ダイグナン1人の力で手に入れたものではない。

フォスもまた圧倒的に強く、もし彼女が万全であったならば、ダイグナンのこの勝利は得られていなかったかもしれない。

 

そこでフォスを苦しめたのが、ダイグナンのチームメートであるイタリア人パンチャー、エリザ・ロンゴボルギーニ。

彼女の「執念」がもたらした、「3度のアタック」の成果であった。

 

 

いかにしてトレック・セガフレードが女王マリアンヌ・フォスを退けるに至ったのか。

そして、その秘訣となった「執念」を、ロンゴボルギーニが見せていたもう1つのレースについても含めて触れていく。

 

 

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ラ・クルス by ツール・ド・フランス

「女子版ツール・ド・フランス」ラ・クルスは、男子のツール・ド・フランス第1ステージの開幕直前に、その第1ステージと同じ3級山岳「コート・ド・リミエ」を含んだ周回コースを使用して開催された。

ただし男子がその周回コースを3周(しかも最終周回はやや膨らんだ追加ルートを使用)したのに対し、女子はこれを2周。

また、男子が最後の登りの山頂からゴールまで40㎞弱あるのに対し、女子は30㎞ちょっと。

しかも21日間にも及ぶ長いステージレースの初日である男子と違って、一発勝負の女子レース。

そんな、様々な要素が加わったことで、同じ周回コースを使用しながらもそのレースの展開は男女で全く異なるものとなった。

 

残り44㎞。2つ目のコート・ド・リミエに入ると同時に、世界王者アネミエク・ファンフルーテンがペースアップ。

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これがこのファンフルーテンにとっての必勝パターンであり、これを許せば彼女に勝利を渡してしまうことは確実だった。

ファンフルーテンにとっても、最後の集団スプリントに持ち込みたくないだけに、ほぼ先頭固定で牽引し続ける。

結果、先頭集団は以下の6名に絞り込まれた。

 

  • エリザベス・ダイグナン(トレック・セガフレード)
  • エリザ・ロンゴボルギーニ(トレック・セガフレード)
  • アネミエク・ファンフルーテン(ミッチェルトン・スコット)
  • マリアンヌ・フォス(CCC・リブ)
  • カタジナ・ニエウィアドーマ(キャニオン・スラム)
  • デミ・フォラーリング(パークホテル・ファルケンブルク)

 

ここに2人入り込ませることができたトレック・セガフレードはかなり有利なことは間違いなかった。

その数の有利を活かし、終盤に攻撃を仕掛ける。

 

 

まずは残り2.5㎞。エリザ・ロンゴボルギーニがアタック。

すぐさまマリアンヌ・フォスが反応して食らいつくが、その背中にはきっちりとダイグナンが貼りついた。

ここに残りのメンバーが追いついたと同時に、今度はアネミエク・ファンフルーテンがカウンターアタック。

これにもすぐさまフォスが反応し、ダイグナンはまたもここに貼り付いていった。

 

このファンフルーテンの攻撃によって、ロンゴボルギーニは一度、遅れかける。

しかし、一旦落ち着いた先頭5名に対して、再びギアを上げて追いすがる。

その勢いのまま、コースの右側から鋭い加速。

フォスはこれにもすぐ反応してその背後に飛びつくが、ロンゴボルギーニはそのままひたすら先頭を牽引し続けた。

 

すでにフォスは3度、自らチェックに入っている。

このままなら、足を削れたこの女王に対し、ダイグナンによるスプリントで勝利する可能性は十分にある。

あとは不用意なアタックを生み出さないためにも、ロンゴボルギーニはほとんど残っていないであろう体力の限りを尽くして、ひたすら先頭牽引を続けていったのだ。

 

だが、残り1㎞。フラム・ルージュを潜ると同時に、やはりスプリントに持ち込みたくないファンフルーテンが、あえて少し千切れかけた集団の後ろから最後のアタックを仕掛けた。

全てを出し切った、渾身のアタック。

これにもまた、フォスはきっちりと食らいついていった。

 

そして、このペースアップで、いよいよロンゴボルギーニは完全に脱落したように思えた。

それはそうである。すでに2度、アタックを繰り出している。しかもその後、残り1㎞まで集団先頭で牽引し続けた。

その中でのファンフルーテンによるペースアップ。だから、ロンゴボルギーニはここで完全に脱落した。

 

 

そう確信していたからこそ、この後ダイグナンが自ら集団の前に躍り出てペースを意図的に落としたとき、誰もこれを打ち破って攻撃しようとは思わなった。

すでに誰もが疲弊しており、最後のスプリントに賭けたいと思っていた。ファンフルーテンももう、アタックを繰り出す余力は残っていなかった。

ダイグナンは自分が集団の前を牽くふりをして、ちらちらと視線を集団の後方に送った。

その先には、執念で三度集団に追い付こうともがくロンゴボルギーニの姿があった。

 

 

そして、残り400m。

ロンゴボルギーニは、3度目のアタックを繰り出した。

もう、限界を超えた攻撃だったに違いない。

その勢いは1回目よりも2回目よりもさらに力のないものであった。

だから、フォスは、5度目のチェックにも関わらず、簡単にこの背中を捉えることができた。

それどころか簡単にこれを追い抜いて、スプリントを開始した。

第1回と前回に続く、3度目のラ・クルス勝利を掴み取る、必勝のスプリントであった。

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だが・・早すぎた・・・・

 

まだフィニッシュまでは400m。

ロンゴボルギーニの驚くべき執念のアタックに釣られ、フォスはあまりにも早すぎるスプリントを開始してしまった。

ロンゴボルギーニすらも、あのままフィニッシュまで行けるとは思っていなかっただろう。

本当はフォスはこれを見送るべきだったのかもしれない。しかし、思いもかけぬこの攻撃に、彼女は反応せざるをえなかったのである。

 

フィニッシュまでが遠すぎた。私はあまりにも早くスプリントを開始してしまった。エリザ・ロンゴボルギーニに反応してしまったのだ。私は本当にあともうちょっとだけ、待つべきだった*1

 

そして、常にフォスをチェックし続けていたダイグナンが、そのフォスの背中から追い上げていく。

それでもフォスは強すぎた。一旦はダイグナンも、彼女から引き離される瞬間もあった。

 

しかしやはり、早すぎた。そしてここまで5回ものチェックを続けていたことで、さすがの女王も、その足を確かに失っていた。

もがき続けるダイグナンが、残り100mでフォスに並びかけ――そして、わずか数センチの差で、女王を打ち破った。 

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私とエリザは最後の瞬間まで待ち続けた。そして彼女はマリアンヌに早めのスプリントを仕掛けさせるための完璧な仕事をしてくれた。そうして、私はアドバンテージを得たのだ*2

 

強すぎた女王マリアンヌ・フォス。

それを打ち破ったのはダイグナンのスプリント力と、そして最後のわずか数センチを生み出すに至った、エリザ・ロンゴボルギーニの「執念」であった。

 

 

 

ヨーロッパ選手権ロードレース

実は、この「執念」には伏線があった。

それは、このラ・クルスの2日前にフランス・ブルターニュ地方(前日のGPプルエーと同じコース)で開催された、ヨーロッパ選手権ロードレースであった。

www.cyclowired.jp

 

世界選手権もそうだが、国別対抗レースとなってしまうと、オランダ勢が他国を圧倒してしまう。

この日も、現・元含め世界王者経験者が4名含まれたオランダチーム8名中7名が含まれる10数名の先頭集団が形成され、メイン集団に取り残された選手たちは勝負権を失うこととなった。

 

しかも、この先頭集団からさらに、現世界王者のアネミエク・ファンフルーテンがアタックを繰り出す。

ここに食らいついたのがエリザ・ロンゴボルギーニとカタジナ・ニエウィアドーマ。それだけならばスプリントでロンゴボルギーニたちが勝つ可能性はあったが、集団からはさらにもう1人のオランダ人、シャンタル・ブラークがブリッジを架けてきたことで、形勢は一気にオランダ有利となった。

 

ロンゴボルギーニは積極的な攻勢に出るしかなかった。

まずは、残り12㎞地点のコート・デュ・レソ(登坂距離1,400m、平均勾配4.2%、最大勾配6.9%)でアタックを仕掛けたロンゴボルギーニ。

この攻撃で、狙い通りまずはシャンタル・ブラークを払い落とした。

しかしファンフルーテンは難なくこれに食らいついてきて、それどころか残り9.5kmでカウンターを仕掛けられてしまう。

 

ロンゴボルギーニとニエウィアドーマを突き放し、独走を開始するファンフルーテン。

このまま行かせてしまえば、完全に彼女の必勝パターン。

ここでロンゴボルギーニは、ニエウィアドーマを置き去りにしながらギアを上げ、「執念」の追走劇を開始した。

2㎞、3分間にわたるこの追走の果てに、世界最強の独走屋ファンフルーテンに、辛くもしがみつくことができた。

 

その後はファンフルーテンもペースを落とし、牽制状態に陥った2名のもとに再びニエウィアドーマとブラークが戻ってきた。

そして、最後の勝負所、残り3㎞地点のコート・デュ・ポン・ヌフ(登坂距離1,500m、平均勾配4.1%、最大勾配6.6%)に突入する。

 

ここで、再びロンゴボルギーニがアタック。最後までオランダ人2人を集団に残したままフィニッシュしたくなかった彼女にとって、この攻撃は必然だった。案の定、これでブラークは再度、脱落する。

となればファンフルーテンも自ら行くしかない。再びのカウンターアタック。ニエウィアドーマは脱落。そして、ロンゴボルギーニは今度はその後輪をきっちりと捉えて離さなかった。

ファンフルーテンも必死だった。1か月前、ストラーデビアンケでの驚異的な勝利の際に見せていた余裕は、その表情には一切残っていなかった。腰を上げ、ハンドルを左右に振りかざしながら懸命にペダルを回すが、ロンゴボルギーニはその背後から決して離れることがなかった。

何度も腰を下ろしては上げ、何度も加速を繰り返すが、それでもイタリア人は離れることがなかった。

 

最後は結局、ファンフルーテンのロングスプリントによってロンゴボルギーニは敗北する。

しかし、このとき彼女は、世界王者をあとわずかで差し切るほどの、「執念」を見せていたのである。

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そして、このときのその力が存分に発揮され、もう1人の女王を打倒したのが今回のラ・クルスだった。

 

エリザ・ロンゴボルギーニ。過去にストラーデビアンケ、ロンド・ファン・フラーンデレン、そして真の「女子版ツール・ド・フランス」とも言うべきジロ・ローザを2度制している、今年29歳の女。

これまでも十分に強い彼女ではあるが、これから先、さらなる栄冠――もちろんその1つは、世界王者の座である——を手に入れることを期待しながら、その行く末を見守っていこう。

 

 

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