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2020シーズン 9月主要レース振り返り

 

新型コロナウイルスの影響で2ヶ月開催が後ろ倒しとなったツール・ド・フランスがついに開幕。同時に女子版ツール・ド・フランスと言うべきジロ・ローザも開催され、ともに無事全日程を終えることとなった。世界選手権も、開催地こそ変更になったものの、新開催地のイモラにて、白熱の4日間が繰り広げられた。

一方で、(本来ならありえないスケジュールだが)来月頭からは早々にジロ・デ・イタリアも開幕するため、その前哨戦レースも次々と開幕。世界選手権もある種その様相を呈していた。

果たして10月のジロで活躍しうる選手は誰なのか。開幕直前の今だからこそ、しっかりとチェックしていこう。

 

  

↓過去の「主要レース振り返り」はこちらから↓

主要レース振り返り(2018年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど

主要レース振り返り(2019年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど

主要レース振り返り(2020年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど

 

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ツール・ド・フランス(2.WT)

ワールドツアー 開催国:フランス 開催期間:8/29(土)~9/20(日)

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2020年代の幕開けとなる今年のツール・ド・フランスは、例年にも増して面白いツールだったと思う。

それは第20ステージの大逆転劇だけでなく、10年代に猛威を振るった「スカイ/イネオス帝国」をついに真正面から打ち倒した年であり、またチーム・サンウェブが「チーム力」を活かした素晴らしい走りを連日披露してくれた。

その他、ヒルシ、ピーターズ、ケムナ、マルティネスなど、若き才能が次々その実力の高さを示しながら、リッチー・ポートの初の総合表彰台など、ベテランもまた歓喜に震えたツールだった。

10年代の総括と、2020年代の兆しを見せてくれた。

 

スプリンター戦争も白熱した。サム・ベネットのツール初優勝は涙で彩られた。モルコフの異様なリードアウト力と共に、単独のスプリントでは最強であることを示したカレブ・ユアン。そしてここでも活躍した若きサンウェブ。

一方で、中間スプリントポイントが全体的にステージの前半にあることが多かったことも原因で、ペテル・サガンがマイヨ・ヴェールを失うという、これもまた時代の変化を感じさせる結末に。

だがその流れが、ボーラ・ハンスグローエによる積極的なレースの混沌化を生み、決してピュアスプリンター向きではないレイアウトと相まって、平坦ステージをより面白くさせてくれた。

 

一方で、コロナ禍によって圧縮されたレース日程が災いしたのか、序盤から落車が頻発するレースだった。ピノが、イギータが、バルデが、そういった落車の犠牲になっていった。

良いことも悪いこともあった今年のツール。だが、やはり何よりも嬉しかったのは、このツールがしっかりと今年も開幕し、21日間を走り切ったこと。そこには数えきれぬほどのスタッフたちの熱意、思い、苦難が横たわっていることだろう。その果てにこの感動的なツールを創り上げてくれたことに、深い感謝を捧げよう。

今年のツール21日間の詳細なレビューについては、以下のリンクを参照のこと。

www.ringsride.work

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ティレーノ〜アドリアティコ(2.WT)

ワールドツアー 開催国:イタリア 開催期間:9/7(月)~9/14(月)

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ツール・ド・フランスの裏側での開催なれど、ジロ・デ・イタリア開幕3週間前のレースということで、例年以上にしっかりとした「ジロ前哨戦」に。

結果、ヤコブ・フルサンやサイモン・イェーツ、ゲラント・トーマスにスプリンターでもパスカル・アッカーマン、フェルナンド・ガビリアなど、ジロ・デ・イタリアでの活躍が期待される選手たちが一堂に会した。

 

まずはスプリンター対決。第1ステージ、第2ステージはパスカル・アッカーマンが連勝。今年はコロナ中断明け直後のツール・ド・ポローニュでマッズ・ピーダスンに敗れるわ、国内選手権ではシクロクロッサーのマルセル・マイセンに敗れるわ、ヨーロッパ選手権でもニッツォーロに敗れるわで散々な「2ゲッター」と化していたアッカーマンだが、復調を見せるような勝利。

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逆に勝ちきれないガビリアが不安でもあり、ジロ・デ・イタリアでは絶好調のデマールやマシューズ、そしてツールから連戦のサガン、ヴィヴィアーニたちとの対決がどうなるか、予想がつかない。

 

なおアッカーマンはブエルタの方に出場予定。そちらはまだまだ出場予定選手は不明だが、サム・ベネットやユアンが流れてくる可能性はあるため、アッカーマンも今回のティレーノの勝利だけでは全然安心できない。

そして、もう1つ残された土曜日のスプリントステージでは、第1ステージはゴール直前の落車に巻き込まれ、第2ステージは横一線のスプリントで5位になったティム・メルリエが、アッカーマンやガビリアを退けてワールドツアー初勝利を成し遂げた。

本来はマチュー・ファンデルポール同様、シクロクロスがメインのメルリエ。しかし昨年はベルギー国内選手権ロードレースで優勝し、今年すでにブリュッセル・サイクリングクラシックでバッレリーニやブアニを破っているこの男は、紛れもなく一流のロードレーサーでもある。

マチューが信頼しリードアウト役を務めるこのベルジャンスプリンター。来年はフィリプセンが加入して強力なライバルにはなるものの、まだまだ活躍には期待したい。

 

一方の総合争いは、「パンターニの壁」とも称される登坂距離1.6㎞・平均勾配10.7%の「ポッジオ・ムレッラ」がゴール前9㎞地点に設置された第3ステージで幕を開ける。

この超激坂で抜け出したのが、3月に大腿骨骨折を負ったはずのマイケル・ウッズ。激坂ハンターの名に恥じない快調な走りで他の総合優勝候補たちを突き放した彼は、下りでラファウ・マイカに追いつかれたものの、最後のスプリントでは彼を圧倒。ジロに向けても調子の良さをアピールした。

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ゴール前11.4㎞地点に超級オスペダレット(登坂距離7㎞・平均勾配6.2%)が備えられた第4ステージでは、イネオス・グレナディアーズが牽引するトレインから、サイモン・イェーツが山頂まで残り1.1㎞でアタック。

ここにゲラント・トーマスとマイケル・ウッズ、ラファウ・マイカ、そしてヤコブ・フルサンではなくアレクサンドル・ウラソフが食らいついた。ヴィンツェンツォ・ニバリは2日続けての勝負所での大失速。

その後下りで追いついてきた数名の中から、サイモンのアシスト役だったルーカス・ハミルトンが抜け出し、先日シーズン途中でのクイックステップ移籍となったファウスト・マスナダが食らいつく。最後はハミルトンがマスナダをロングスプリントで降し、ワールドツアー初勝利となった。

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そしてクイーンステージの第5ステージは、超級サッソステット(登坂距離14.2㎞・平均勾配5.8%)の山頂フィニッシュ。

EFプロサイクリングがマリア・アッズーラを着るマイケル・ウッズを守護するも、「ダブルエース」体制のアスタナが1分28秒遅れのフルサンのアタックによって揺さぶりをかける。

 

もはや最後のアシストのルーベン・ゲレイロも限界であると見てとった総合2位ラファウ・マイカが残り4.7㎞で仕掛けたことで集団が活性化。

8名に絞り込まれた集団から次々とアタックが発生し、最終的にサイモン・イェーツが独走を開始した。

 

マイカとゲラント・トーマスがサイモンを追いかけるも、最終的には彼らを35秒突き放してサイモンがフィニッシュ。

ウッズは完全に遅れてしまい、総合争いから脱落した。

 

サイモン・イェーツが総合首位、そこから16秒遅れでラファウ・マイカ、39秒遅れでゲラント・トーマスと続く中、最終日の10.1㎞個人タイムトライアルを迎える。TTの苦手なマイカはともかく、TTスペシャリスト級のトーマスとの39秒は決して小さくはない。

特に昨年もアダム・イェーツがこの最終日TTで逆転され、わずか1秒差でプリモシュ・ログリッチに敗れているので・・・

 

しかし、そこはサイモンもきっちりと粘りを見せた。トーマスの走りは期待通りのものを見せ、世界王者ローハン・デニスからわずか2秒遅れの区間4位。しかしサイモンもそこから22秒差でフィニッシュし、総合首位を最後まで守り切った。

昨年はあまりシーズン最初から飛ばさないようにしようとしていた結果、リベンジを狙ったジロでは散々な結果だったサイモン・イェーツ。結局、前哨戦ではある程度結果を出した方が良いのかもしれない、という意味では、今回のティレーノ〜アドリアティコの総合優勝はジロ「リベンジ」への期待のできる一歩だ。

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一方、登りでもTTでも安定した強さを見せていたゲラント・トーマスも期待のできる走り。フルサンは総合14位で終えるが、調子の良い若手ウラソフに花を持たせる走りをしていたのか、その状態の良し悪しは判断しづらい。

総合19位となったヴィンツェンツォ・ニバリは明らかにコンディションが悪いが、そもそも彼は事前の調子が良くないときの方が本番で結果を出すタイプでもあり、あまり当てにならない。

とりあえず、サイモンとトーマスに期待。そんな風に言える「ジロ前哨戦」だった。

 

 

なお、前半はメルリエのアシストに徹していた様子だったマチュー・ファンデルポールだが、ラストに平均勾配13%の「ユイの壁」級の激坂が用意されたアルデンヌ風味の第7ステージで、久々に強い走りを披露した。

残り20㎞で逃げ集団を抜け出して独走し続けていたボーラ・ハンスグローエのマッテオ・ファッブロ。

昨年はカチューシャで走っていたこの25歳の若者にとって、プロ初勝利の大きなチャンス。

しかし、最後の激坂で失速してしまったファッブロを、追走集団を率いていたファンデルポールが追い抜いた。

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昨年のアムステルゴールドレースを思い出すようなこの劇的な走り。ロンバルディアや今大会の第3ステージの激坂ではトップクライマーたちに遅れるものの、それぞれ最終的な順位は10位、12位と決して悪くなかったファンデルポール。

今年は元々予定していたフレッシュ・ワロンヌをビンクバンクツアーに出るために欠場するが、来年なんかは割と楽しみなレースになりそうだ。

 

 

ジロ・ローザ(2.WWT)

ウィメンズ・ワールドツアー 開催国:イタリア 開催期間:9/11(金)~9/19(土)

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正式名称ジロ・ディタリア・インテルナツィオナーレ・フェミニーレ。

昨年はマリアンヌ・フォスとアネミエク・ファンフルーテンの2人の「女王」が完全支配。

そして今年もまた、この2人はやはり強かった。

 

第2ステージの激坂フィニッシュも、第5・第6ステージの集団スプリントもどっちも強い無双ぶり。また、チームも、そんなフォスのために危険な逃げを捕まえたりピュアスプリンターたちを振るい落としたりと大活躍。ツールでは結果を出せなかったCCCの名をしっかりと轟かせた。

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そしてファンフルーテンもやはり圧倒的だった。ストラーデビアンケのような未舗装路を用意した第2ステージで、落車したにも関わらず2位のファンデルブレッヘンを1分以上突き放す圧倒的な(いつもの)独走を見せた。

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このまま今年も圧勝するのかーーと、思いきや。

 

第7ステージラスト500mで巻き起こった大落車。巻き込まれたファンフルーテンは左手首骨折と診断され、マリア・ローザを着たままリタイアしてしまった。

 

王者不在のまま迎えたクイーンステージの第8ステージ。今大会唯一の山頂フィニッシュ(登坂距離5.6㎞、平均勾配8.1%)。

この登りに突入すると同時に、集団の前を牽いたのがトレック・セガフレードのエリザベス・ダイグナン。先日のラ・クルスを制した彼女が、その勝利を強力にアシストしてくれたチームメートのエリザ・ロンゴボルギーニのために、この厳しい登りを全力で牽引していく。

ダイグナンのこの走りで集団からは次々と有力勢が脱落。総合8位のフォス、7位のマビ・ガルシア、6位のアシュレー・ムールマンなど。

先頭集団には総合1位から5位と、そして総合19位で今年1月のオーストラリアのレースで大活躍したドイツの新星リアヌ・リッパートが残っている。

 

だが、残り3.5㎞でついにこの女が動き出した。元世界王者でジロ・ローザも過去に2回総合優勝している総合2位アンナ・ファンデルブレヘン。

強烈なアタックについていけたのは総合5位のロンゴボルギーニと総合4位のミカイラ・ハーヴィーだけ。総合首位ニエウィアドーマはここで遅れ、ファンデルブレヘンに逆転されてしまう。

 

ハーヴィーも遅れ、ファンデルブレヘンとロンゴボルギーニの2人だけになった先頭集団。フィニッシュ直前まで続く激坂でファンデルブレヘンがダンシングで前に出ようとするが、これをロンゴボルギーニがシッティングのまま抑え込む。

残り100mからのスプリント勝負でも、横に並びかけようとしたファンデルブレヘンに対し一瞬たりとも前を譲らなかったロンゴボルギーニが先頭でフィニッシュした。

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今年の欧州選手権ロードレース2位や先述のラ・クルスでの活躍など好調さを見せているロンゴボルギーニが、念願のジロ・ローザ初勝利。総合順位も3位まで上げ、その強さを見事証明してくれた。

 

最終日は総合争いに差が出るような結果は生まれず、順位が確定。

ファンデルブレヘンが自身3度目の総合優勝。ニエウィアドーマ、ロンゴボルギーニと続く表彰台となった。

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ツール・ド・ルクセンブルク(2.Pro)

UCIプロシリーズ 開催国:ルクセンブルク 開催期間:9/15(火)~9/19(土)

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日本でいうと神奈川県くらいの面積しか持たない小国ながら、シュレク兄弟やボブ・ユンゲルスなどの名選手を次々と輩出しているルクセンブルク。

そのルクセンブルクで1935年から続く、歴史あるステージレースである。

 

決して標高の高い山は存在しないこの国では、必然的にレースはパンチャー向けのものとなる。昨年はヘスス・エラダが、その前の年はスプリンターにも分類されるアンドレア・パスクアロンが、その前の年はグレッグ・ファンアーヴェルマートなどが勝っている。

今年はやはりパンチャーの中のパンチャーともいうべきディエゴ・ウリッシが総合優勝。今年、ツアー・ダウンアンダーで総合2位、ツール・ド・ポローニュでも区間2位、グラン・ピエモンテでも2位と、かなり強い走りを見せていながらも、なかなか勝利にその手が届かなった男が、今大会だけで区間2勝と総合優勝。一気にブレイクした。

2010年から走り続け、ジロ・デ・イタリアでは4勝している息の長い名選手。今年まだ31歳と、これからの活躍もまだまだ期待のできる男だ。

 

そして今大会は、ティレーノ〜アドリアティコには出場しなかった今年のジロ・デ・イタリア注目選手の1人であるアルノー・デマールの活躍に期待が高まった。ミラノ〜トリノやフランス選手権で優勝し、ヨーロッパ選手権でも2位。今回のルクセンブルクでの勝利で今年すでに10勝目。勝利数単独トップに立っている(9月末現在)。

ただ、勝ったのは選手たちのストライキが起こって40㎞の超短距離勝負となった第2ステージ。起伏の激しいその他のステージではまったく歯が立たなかったのは、ジロに向けて決して好材料ばかりではない。ツール・ド・ワロニーでは結構起伏の激しいステージでも勝っていたりしたので、再開後の好調すぎる時期からやや息切れしていないか、不安である。

 

そしてそのストライキ騒動の原因となったのが、頻発したレース内への一般車両の侵入事件。すでに今年のイル・ロンバルディアではマキシミリアン・シャフマンの骨折を招いているし、昨年のロンバルディアでは若い才能から自転車人生を奪い去った忌まわしい事例が存在する。

今回のルクセンブルクでもこの車両侵入をきっかけとして落車も発生しており、しかも第2ステージでこの事態に憤った選手たちによるストライキが発生したにも関わらず、最終日にもまた同じ事態が発生しているという状況は、言語道断としか言いようがない。

 

波乱に塗れた大会となったが、注目すべき若手の存在も。最終日に勝った22歳のデンマーク人、クロンは、来年からロット・スーダルに。

激しいアップダウンを経てデゲンコルプが勝利した第3ステージでは、終盤にアタックしたクイン・シモンズ(トレック・セガフレード)が残り150mまで逃げる場面も。

昨年のジュニアロード王者で、一昨年のエヴェネプール同様、「飛び級」で19歳のワールドツアー入りを果たしたシモンズは、期待されていたタフネスさとアグレッシブさを見事発揮。エヴェネプールとはまた違った脚質ではあるようだが、今後のさらなる覚醒が楽しみな選手だ。

※9/30にシモンズがTwitter上で人種差別を想起させる発言あるいは社会的分断を引き起こしかねない発言をしたことを受け、トレック・セガフレードが彼の暫くの出場停止を決定している。

 

 

コッパ・サバティーニ(1.Pro)

UCIプロシリーズ 開催国:イタリア 開催期間:9/17(木)

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前日に開催されたスプリンター向けワンデーレース「ジロ・デッラ・トスカーナ」に対し、こちらは同じトスカーナを舞台にしつつフィニッシュが登り勾配のパンチャー向けレイアウト。

勝ったのは昨年のジャパンカップでも3位に入賞しているキーウィパンチャー、ディオン・スミス。今年のミラノ〜サンレモではマシューズを先頭にした23名の3位集団の中で4番手(全体では6位)と、着実にその実力を高めつつある27歳が、ついにプロ初勝利を成し遂げた。

 

3位に入ったリアブシェンコもまだまだ開花しきっていない才能を持つ若手スプリンター。昨年の同時期(今年は30日)のコッパ・アゴスティーニで、アレクセイ・ルツェンコと共に逃げ最後にスプリントでこれを下している。

2016年のU23ヨーロッパ王者で2017年のU23版イル・ロンバルディア優勝者。2年前はイツリア・バスクカントリーでもステージ2位を記録しており、今後大舞台での勝利も見込める「次に来る男」の1人だと思っている。

 

期待していたイネオスのヘイターは残念ながら9位。まだまだアップダウンの激しいレースや登りスプリントでは厳しいかーーと思いきや、2日後のジロ・デッラペンニーノ」で勝利。

過去にもカッタネオやチッコーネが勝っていて、今年もヘイター以下はロバート・スタナードやジャコボ・モズカなどパンチャー系が並ぶ中での勝利。レイアウトは確認できていないが、やはりヘイターは期待十分な男である。

 

 

UCIロード世界選手権エリート女子個人タイムトライアル

開催国:イタリア 開催期間:9/24

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ファンフルーテンがジロ・ローザでの落車で怪我をして欠場する中、そのファンフルーテンとファンデルブレッヘンの最強女王2人を昨年打ち破った驚異の新星クロエ・ダイガードが、今年も快調にフィニッシュへと向かっていた。

しかし、その途中、ダイガードの前輪がパンク? コントロールを失ったダイガードはそのままガードレールの向こうへと吹っ飛んでいってしまう。

あのまま何事もなくフィニッシュしていれば、ダイガードが連覇していてもおかしくないほどの快走だった。しかし結果としては、昨年悔しい想いをしたファンデルブレッヘンが初の世界選手権TT優勝。

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終盤まで長くホットシートを守っていた昨年6位のマーレン・ローセルも強かったが最後はわずか15秒差で初の世界王者のチャンスを逃してしまった。

 

 

UCIロード世界選手権エリート男子個人タイムトライアル

開催国:イタリア 開催期間:9/25

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昨年世界選手権3位。イタリアの若きTTスペシャリストはこの1年でさらに成長した。トラック世界選手権個人追い抜きでは、1年前に自らが築き上げていた世界記録をさらに塗り替えて、先日のティレーノ〜アドリアティコ最終日TTでは前年に世界選手権で敗北したローハン・デニスを打ち破った。

そして今回。世界選手権の舞台で、再びデニスを倒す。24歳の若者が誰もが納得の勝利を成し遂げた。

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もう1人の化け物がワウト・ファンアールトである。

今年ストラーデビアンケとミラノ〜サンレモを制し、ツール・ド・フランスでステージ2勝を記録し、超級山岳でチームを支え続けた男が、この世界選手権の舞台でもガンナに食らいつく26秒差の2位でフィニッシュする。

この男に、疲れというものはないのか。チームメートの元世界王者トム・デュムランが明らかに疲れを見せた走りをしていたのに対し、この男だけは次元が違った。

 

一方、今後を見据えて注目したいのはゲラント・トーマス。この世界選手権の舞台での4位は驚異的。

今年のジロ・デ・イタリアが3回も個人TTがあることを考えると、この成績はジロ制覇の予兆にも感じてしまう。しかもジロにはこのトーマスだけでなく世界王者となったガンナ、そして本日5位のデニスも加わるのだから、ツールを失った「帝国」は今度はジロでそれを築き上げるのかもしれない。

 

しかし、この結果を見て悔しいのは、やはりここにレムコ・エヴェネプールがいないこと。昨年ガンナを破って世界選手権2位を記録したエヴェネプールがいれば、ガンナとの間に激しいバトルを繰り広げられるのを見ることができただろうに。

 

 

UCIロード世界選手権エリート女子ロードレース

開催国:イタリア 開催期間:9/26

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イモラ・サーキットを発着し、その南方の丘陵地帯を利用。

激しいアップダウンが続きクライマー向けとすら言える厳しいレイアウトで、勝負所となるのは2つの丘「マッツォラーノ」と「チーマ・ガリステルナ」。いずれも1.5㎞、1.3㎞と短いが、平均勾配は8.7%、10.9%とかなり厳しい。

最後のチーマ・ガリステルナの山頂からゴールまでは11.5㎞の下りと平坦である。この2つの登りを含む1周28.8㎞の周回コースを、女子は5周する。全長143㎞、総獲得標高は2,800mである。

 

勝負が決まったのは最後から2つ目のチーマ・ガリステルナ。マリアンヌ・フォス、そしてアネミエク・ファンフルーテンという世界TOPクラスの2人のリードアウトを受けて、もう1人の世界TOPクラスであるアンナ・ファンデルブレヘンがアタックした。

この一撃で完全に抜け出したファンデルブレヘンは残り40㎞を完全に独走。誰一人寄せつけることなく、2日前のタイムトライアルに続く世界の頂点に立った。

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世界選手権のTT&ロード同年制覇は女子では25年ぶりの史上2人目。フォス、ファンフルーテンも成し遂げたことのない栄誉を手に入れた彼女は、表明していた来年いっぱいの引退を少し先延ばしするかも?という話も出しているらしい。

そして、2位争いとなった後続集団では、最後のチーマ・ガリステルナで今年絶好調のエリザ・ロンゴボルギーニがアタック。ここに食らいついて行ったのが、1週間前に左手首を骨折したはずのファンフルーテンだった。

今年幾度となく勝負を競い合っているライバルとも言えるこの2人だが、最後のスプリントで勝ったのはファンフルーテン。手首骨折から1週間でスプリントで勝つっていうのは一体・・・

 

そして5位にリアヌ・リッパートが入っていることも驚き。今年のツアー・ダウンアンダー総合2位、カデルエヴァンス・グレートオーシャンロードレースでも優勝している22歳のドイツ人。ラ・クルスでも10位に入っており、厳しい登りもスプリントもこなせるクライマー寄りのパンチャーといったところ。

これからの登り系ワンデーレースでは常に上位に入りうる存在となるだろう。

 

 

UCIロード世界選手権エリート男子ロードレース

開催国:イタリア 開催期間:9/27

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女子と同じコースを9周。全長258.2㎞、総獲得標高は5,000mに達する非常に厳しいコースとなった。

雨模様が予想される中、序盤にできた7名の逃げに新城幸也が入った。逃げ切りはまず有り得ないメンバーで集団も簡単に容認したが、今日のような厳しいコースで上位に入ってフィニッシュすることは難しく、数少ないチャンスを狙って逃げに乗った新城幸也の走りは、女子の与那嶺恵理の走りと(その置かれてる世界の中での位置づけの違いを考えれば)目指すべきところは決して変わらないと思う。すなわち、難しいかもしれないけれど勝ちを狙うという意味で。

しかしスタートから180㎞を消化したところでメイン集団に吸収。集団もいよいよ終盤戦に向けて加速していった。

 

残り40㎞。女子レースでファンデルブレヘンがアタックしたのと同じ最後から2回目のチーマ・ガリステルナでタデイ・ポガチャルがアタック。より今日のレースに向いているチームメートのプリモシュ・ログリッチのためのアシストとしての動きで、実際にこれを捕らえるべくベルギーチームやスペインチームが足を使うこととなった。

そして、最後のチーマ・ガリステルナで、マルク・ヒルシのアタックをきっかけに集団が活性化。最終的に抜け出したジュリアン・アラフィリップが残り11㎞を独走。途中、タイム差が縮まる場面もあったが、追走集団の中にスプリント力で他を圧倒するワウト・ファンアールトが含まれていたことで大牽制合戦に発展。それが原因でアラフィリップを捕まえることは叶わなかった。

ジュリアン・アラフィリップ、期待され続けていた中でついに獲得した世界の頂点。しかも、父が亡くなったその年に。表彰台でラ・マルセイエーズに包まれた彼の双眸からは、涙が零れ落ちていた。

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そして、2位争いとなった追走集団ではやはりファンアールトが圧倒。誰一人影を踏ませることなくロングスプリントを制した。

そして3位に入ったのがマルク・ヒルシ。ファンアールトのスリップストリームをうまく使ったのもあるが、ミラノ〜サンレモ覇者ミハウ・クフィアトコフスキが後方から迫る中、ごく僅かの差で逃げ切った。2年前U23世界王者になったばかりの若き才能がツールに続きその強さを明確に示した瞬間だった。

 

 

ラ・フレーシュ・ワロンヌ(1.WT)

ワールドツアー 開催国:ベルギー 開催期間:9/30(水)

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いよいよ「秋のクラシック」が開幕する。今年は北のクラシックよりも先にアルデンヌ・クラシックが、それもジロ・デ・イタリアと並行する形で開催される。ブエルタとも時期が重なってしまう北のクラシックに対し、こちらのアルデンヌ・クラシックはブエルタ・ア・エスパーニャに向けた前哨戦の1つとしても位置付けられる。

 

オランダの新型コロナウイルス対策の影響でアムステルゴールドレースの中止が決定する中、この「水曜のクラシック」は無事、開催。例年通り登坂距離1.3㎞、平均勾配9.6%、そして最大勾配は26%とも言われる「ユイの壁」を3回登るレイアウトだ。

 

ここ数年のユイ王者で有り続けた元世界王者アレハンドロ・バルベルデと新世界王者ジュリアン・アラフィリップの2人を欠く中、いつもと違った顔ぶれの揃うこのフレーシュ・ワロンヌで、いつもと違った展開となったのが、序盤から逃げ続けたドゥクーニンク・クイックステップのマウリ・ファンセヴェナントの存在である。

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この7月にシーズン途中でのクイックステップ入りが決まったネオプロのファンセヴェナントは、まだ21歳のベルギー人。昨年のツール・ド・ラヴニール総合6位、2年前のU23イル・ロンバルディア5位の才能溢れる若手である。

そんな彼が、共に逃げたUCIプロチームの面々を全て引き千切り、残り10㎞を切った時点でまだメイン集団とのタイム差を50秒近く残していた。

しかし、残り4㎞で勢いよくコースアウト。草むらに飛び込んだおかげで怪我はなくすぐにバイクに跨るもこれで20秒は失った。集団から単独追走を仕掛けていたリゴベルト・ウランとの合流後も積極的に前を牽く姿勢を見せるが、「壁」突入前に吸収。あの落車がなければ勝てはしなくとも「壁」で前の方で争うこともできていたかもしれかいだけに、悔しい結果とはなってしまった。

しかし、昨年もトレーニー期間中にいきなり勝利を挙げた(そして今年すでにスロバキアのステージレースで総合優勝している)ヤニク・ステイムルと共に、本当にクイックステップには次から次へと若い才能が集まっていく。

 

そして繰り広げられる「壁」争い。序盤は落ち着いた展開で始まった激坂勝負で、残り500mを切ってから最初に仕掛けたのがツール総合3位のリッチー・ポート。

例年「ウィランガの王」であり続けてきていたポートにとっては、決して苦手ではないタイプの登り。しかし(いつも通りといえばいつも通りだが)早すぎる仕掛けで失速。残り200mを切ったところで好調の激坂ハンター、マイケル・ウッズが加速する。

 

だが、ポートの背後、そしてウッズが抜け出してからはその背後を取り続けていたのが、世界選手権3位のマルク・ヒルシ。

ウッズのハイペースにもしっかり食らいつき、残り75mの登り頂上部の平坦区間で再加速し、ウッズをきっちりと追い抜いていった。

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チームメートの助けをうけて最高のポジションで登りに突入し、その後も仕掛けるべきタイミングをきっちりと待ち続けた完璧な展開で勝利したヒルシ。

プロ2年目でのツール・ド・フランス勝利に続くワールドツアー・ワンデーでの勝利は、今後を実に楽しみにさせてくれる勝利であった。

 

 

ラ・フレーシュ・ワロンヌ・フェミニン(1.WWT)

ウィメンズ・ワールドツアー 開催国:ベルギー 開催期間:9/30(水)

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「王者」バルベルデとアラフィリップが欠場した男子レースに対し、女子レースではファンフルーテンなどは欠くものの、世界王者でこのレース最強の女子であるアンナ・ファンデルブレヘンはしっかりと出場。

しかもユイの壁の麓から集団の先頭をきっちりと支配。そのペースアップで一気に集団の数が絞れる強い走りを見せつけてくれた。

登りの後半ではデミ・フォーレリングがその先頭を奪い勝負に出る積極的な走りをしてみせたものの、ファンデルブレヘンを振り払うことはできず、残り350mで力尽きる。

最後はファンデルブレヘンが食らいつくセシリーウトラップ・ルドウィグに2秒差をつける圧勝となった。

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また、この日も、若き期待のリッパートが8位に入る大健闘。しっかりと登る必要のあるこのレースでも上位に入れることは、彼女の可能性をさらに感じさせるリザルトであった。

 

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