りんぐすらいど

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【全ステージレビュー】ツール・ド・フランス2020 第1週(前編)

 

長き中断期間を経て、いよいよ開幕した今年のツール・ド・フランス。

第1週から激しい山岳ステージの連続でどうなることかと思いきや、意外と集団全体は落ち着きを見せており淡々とこなしている印象。

それでも、やはりいつもとは違う。第1ステージから波乱に満ち溢れ、意外な勝者、意外な強者が次々と現れる。

そして、山岳ではユンボ・ヴィズマが圧倒的な支配力を見せて、「主役交代」を印象付けるような展開に・・・。

 

大注目のツール・ド・フランス2020の全21ステージの展開を詳細にレビュー。とくに「なぜ彼が勝ったのか」に注目しながら解説していければと思う。

今回は第1週。ただし、9ステージもあって長いため、前半後半に分けてお送りする。

 

今回は第1ステージから第5ステージまで。

  

 

↓全21ステージのコースプレビューはこちらから↓

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↓全22チームのスタートリストと簡単なプレビューはこちらから↓

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↓後編はこちらから↓

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↓昨年の全ステージレビューはこちらから↓

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第1ステージ ニース・モイエ・ペイ〜ニース 156㎞(平坦)

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混沌に満ち溢れた開幕ステージ

グランデパール・ニースの近郊を巡る周回レース。3級山岳コート・ド・リミエを実質的に3回登るレイアウトだが、最後はオーソドックスな集団スプリントを繰り広げられる――そんな風に思っていたが、やはりツール・ド・フランスの悪魔は例年通り第1日にいくつもの波乱を巻き起こした。

 

アクチュアルスタート直後に3名の逃げが生まれ、これが即座に容認されたところまでは、まだ平穏さを保っていた。

3名の逃げの面子は以下の通り。

 

  • ミヒャエル・シェアー(CCCチーム)
  • ファビアン・グルリエ(トタル・ディレクトエネルジー)
  • シリル・ゴチエ(B&Bホテルズ・ヴィタルコンセプト)


最初の3級山岳(残り107.5km地点)争いは、この3名の中で最も登坂力のあるグルリエが獲得。ゴチエが2番手につけ、唯一の非フランス人で大柄のルーラー、シェアーは一歩遅れる形となった。

 

しかしこの後、プロトンを激しい雷雨が襲う。そして、雨のあまり降らないこの地域の路面が、まるでスケートリンクのような危険な様相を呈し始める。

 

その結果、数えきれないほどの落車が発生。犠牲になった主なメンバーは以下の通り。

 

  • ブノワ・コヌフロワ(AG2Rラモンディアル)
  • パヴェル・シヴァコフ(イネオス・グレナディアーズ)
  • ジョージ・ベネット(チーム・ユンボ・ヴィズマ)
  • ジュリアン・アラフィリップ(ドゥクーニンク・クイックステップ)
  • ジャコモ・ニッツォーロ(NTTプロサイクリング)
  • カレブ・ユアン(ロット・スーダル)
  • サム・ベネット(ドゥクーニンク・クイックステップ)

 

画面に映らなかったところでも、エガン・ベルナルやナイロ・キンタナ、リッチー・ポートなども巻き込まれたようで、とくにパヴェル・シヴァコフはしばらくの間完走すらままならないのではないかという様子でゆっくりと走る姿が見受けられた。

最終的にバーレーン・マクラーレンのラファエル・バルスが右大腿骨骨折で即時リタイア。ロット・スーダルのジョン・デゲンコルプも完走はするもののタイムリミットまでわずか2分足らずに失格。同じくロット・スーダルのフィリップ・ジルベールは時間制限内にゴールできたものの、ゴール後のMRI検査で左膝の皿を骨折していたことが判明し、翌日は出走しないことに決めた。

第1ステージからいきなりの3名リタイア。

壮絶な開幕ステージとなってしまった。

 

 

そんな展開だったからこそ、今大会の総合優勝最有力候補であるユンボ・ヴィズマが、加熱する集団の抑え込み役を買って出た。

プロ入り13年、4度の世界王者の座についたトニー・マルティンが両手を広げ集団に落ち着くよう呼びかける場面や、それでも飛び出しを図ったアスタナ・プロチームに対してエースのプリモシュ・ログリッチ自らが説得に赴く場面、そして最終盤にログリッチがジュリアン・アラフィリップと話し込み、レースの「残り3㎞で総合争いを中止」を実現させる場面など。

最後はその残り3㎞を通過した直後の集団の弛緩によって大落車が発生し、ティボー・ピノが巻き込まれるなどの不幸はあったものの、なんとか最悪以上の展開を生み出さないよう、うまくコントロールされていたように思う。

 

そして、そんな混沌に満ち溢れたレース展開が、山岳賞とゴール争い(=マイヨ・ジョーヌ争い)の2つの戦いに影響を及ぼした。

まず山岳賞については、最初の山岳ポイントを先頭通過したファビアン・グルリエが、2つ目の山岳ポイント(残り59㎞地点)に突入したタイミングで脱落。

逆にここで最も力を発揮したのが、最初の山岳ポイントでは最も登れていなかったはずのミヒャエル・シェアーだった。

北のクラシックスペシャリストのタフネスさが、この山岳賞争いにおいて重要な要素となったのかもしれない。

 

なお、これで山岳ポイントは3名とも「2ポイント」で並ぶことになった。

同点で並んだ場合、本来はよりカテゴリの高い山岳ポイントをより多く先頭通過したものが優先されるが、今回に関してはそこもシェアーとグルリエは同条件。

そうなった場合、最終着順がより上位のものが優先される、というルールだったため、最終的に55位に入ったグルリエが、第2山岳ポイントで遅れていたにもかかわらず最終的にマイヨ・ブラン・ア・ポワ・ルージュを獲得することとなった。

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昨年のツアー・オブ・オマーンのグリーンマウンテンで残り100mまで逃げ続けた執念の男が掴み取った栄光。いつか必ず、ツールで区間勝利も挙げられる男と信じているため、これからもぜひ、頑張ってほしい。

 

 

そしてもう1つの波乱が、最後の集団スプリントである。

本来であれば、第1ステージの集団スプリント、最有力候補と言われていたのがサム・ベネット、カレブ・ユアン、そしてジャコモ・ニッツォーロといったところだったが、前述の通りこの3名ともすべて落車に巻き込まれておりフィニッシュまでたどり着いてはいたものの、疲労は蓄積されていたに違いない。

一方、この風雨と荒れた展開の中で最後まで体力を残していたのがシェアーと同じ北のクラシックでも戦えるだけのタフネスさをもったスプリンターたち――すなわち、ケース・ボル、マッズ・ピーダスン、そしてアレクサンダー・クリストフであった。

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2014年に2勝、2018年にシャンゼリゼで勝利しており今回で4回目となるツール・ド・フランスでの勝利。

しかし、ノルウェー人としては、2004年のトル・フースホフト以来となる史上2人目となるマイヨジョーヌ着用者に。

シーズン当初の予定では2012年以来のツール・ド・フランス不出場のシーズンとなるはずだっただけに、新型コロナウイルスの影響による予定変更の末に手に入れたこのチャンスを想像していた以上の成果でもって掴み取った。

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第2ステージ ニース・オー・ペイ〜ニース 186㎞(山岳)

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フランスの英雄と、若き才能

大雨による波乱が連続した第1ステージと打って変わって、実に南仏ニースらしい快晴に恵まれた美しき海岸線。

歴代パリ〜ニースのクイーンステージ山岳が盛り込まれたハードなステージながら、集団は比較的落ち着いた様子で推移した。

 

とは言え、スタートから16㎞地点に設けられた中間スプリントポイントに向けて、最初の駆け引きが始まる。

まず抜け出した数名の逃げ集団の中に、前日の中間スプリント集団2位に入っていたマッテオ・トレンティンが入り込む。これに危機感を覚えたのが、前日の中間スプリント集団先頭を獲ったペテル・サガン率いるボーラ・ハンスグローエ。集団を強力に牽引したのちにサガンを発射させ、しっかりとサガンもトレンティンと共に逃げ集団に入り込むと、間もなくやってきた中間スプリント争い。

勝ったのはトレンティン。前日の集団スプリントでは上位に入れなかったのでポイント賞ランキングではまだサガンには届かないものの、今年のマイヨ・ヴェール争いに名乗りを挙げるつもりなのは間違いなかった。

 

その後、トレンティンはパンクで集団に吸収され、この日の大部分を先頭で走り続けることになる逃げ集団は以下の7名。

 

  • ペテル・サガン(ボーラ・ハンスグローエ)
  • ルーカス・ペストルベルガー(ボーラ・ハンスグローエ)
  • ブノワ・コヌフロワ(AG2Rラモンディアル)
  • カスパー・アスグリーン(ドゥクーニンク・クイックステップ)
  • トムス・スクインシュ(トレック・セガフレード)
  • アントニー・ペレス(コフィディス・ソルシオンクレディ)
  • ミヒャエル・ゴグル(NTTプロサイクリング)

 

この中で最初の1級山岳コルミアーヌ峠(登坂距離16.3km、平均勾配6.3%)を制したのは2017年U23世界王者のブノワ・コヌフロワ。

続く1級山岳トゥリーニ峠(登坂距離14.9km、平均勾配7.4%)に至る登りでは一度遅れかけるコヌフロワだが、やがて一定ペースで先頭に舞い戻った彼は山頂直前で再びアクセルを踏む。

最後はギリギリでアントニー・ペレスに先頭を奪われるも、しっかりと2位通過。

前日に続きこの日も山岳賞は同ポイント争い。最終着順の差で順位が決まるが、勝ったのはコヌフロワ。92位でフィニッシュした彼は、94位のペレスにわずかの差で競り勝ち、この日の山岳賞を手に入れた。

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そうして迎えたエズ峠、そしてボーナスタイムポイントを山頂に据えたキャトル=シュマン峠。

毎年のパリ〜ニースのドラマを生み出すこの2つの登りに突入すると、平和だったプロトンが一気に活性化する。

 

まずエズ峠の登りで集団のペースアップを図ったのが、ドゥクーニンク・クイックステップの「山岳のトラクター」ことドリス・デヴェナインス。

アルデンヌ・クラシックやグランツールにおけるジュリアン・アラフィリップの最も信頼するアシストであり、かつ先日のイル・ロンバルディアでも勝負所でレムコ・エヴェネプールのための長い長い牽引を敢行していたこのデヴァナインスの牽きによって、集団は一気に6~70人規模にまで絞り込まれた。

山頂まで残り2㎞の地点でデヴェナインスの牽引は終了し、その後は一時ユンボ・ヴィズマがコントロールしたままエズの下りへと突入していくが、一度ゴール地点を通過して最後のキャトル=シュマン峠へと入っていく残り14㎞地点で、今度はボブ・ユンゲルスがアラフィリップを背後に控えさせて集団の先頭に躍り出てくる。

世界トップクラスのTT能力をもつユンゲルスの牽きによって、40名程度に絞り込まれた集団の先頭から、残り13.3㎞でジュリアン・アラフィリップがアタックを敢行した!

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まるで、昨年の第3ステージの焼き直しであった。

 

しかし、昨年と違ったのは、ここに食らいついていった男がいること。それも、2018年のU23世界王者、今年まだ22歳の超若手マルク・ヒルシである。

昨年もイツリア・バスクカントリーの激坂フィニッシュで上位に入り、クラシカ・サンセバスティアンでも集団2位を記録した一流パンチャーのヒルシは、世界最強のパンチャーたるアラフィリップの後輪をしっかりと捉える。さらにはメイン集団からもう1人の「パンチャー」アダム・イェーツも飛び出してきて追いつき、3名でキャトル=シュマンの山頂を通過する。

登りではアラフィリップを差し切ったアダム・イェーツ。しかし、最後のスプリントでは後塵を拝した。

一方、迫りくるメイン集団を背後に控え、最後まで冷静さを失わず自分の勝負所たる残り200mジャストで飛び出したアラフィリップに対し、ヒルシは遅ればせながらも加速を開始し、なんとそのアラフィリップを超えるような勢いでフィニッシュに飛び込んでいく。

最後はわずか車輪1個分未満で届かなかったヒルシだが、完璧な自分のタイミングで飛び出せたアラフィリップに対するこの惜敗は、ヒルシという男の底知れない才能を感じさせる瞬間だった。

 

そして、ミラノ〜サンレモのポッジョ・ディ・サンレモでは強烈なアタックを見せながらも後輩ファンアールトに敗れ、クリテリウム・ドゥ・ドーフィネでも山岳で連日遅れる姿を見せていたアラフィリップは、今回のツール、やや調子が悪いのでは?と危惧されていた。

だが、この日はそんな憶測をハナから吹き飛ばすような鮮烈なる勝利を果たす。

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1年ぶりのマイヨ・ジョーヌを身にまとい、彼は今年もフランスに奇跡をもたらすのか、それとも今年こそやはり「ステージ優勝だけ」なのか。

 

まあもはや、何が起きてもおかしくないのが、このツールであり、アラフィリップという男だ。

 

 

 

第3ステージ ニース〜シストロン 198㎞(平坦)

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ポケット・ロケットの異様な軌道

途中、突然の豪雨がプロトンを襲う場面もあったものの、全体的にはここまでの2ステージと比べると非常に落ち着いた1日となった。

逃げに乗ったのは以下の3名。

 

  • ブノワ・コヌフロワ(AG2Rラモンディアル)
  • アントニー・ペレス(コフィディス・ソルシオンクレディ)
  • ジェローム・クザン(トタル・ディレクトエネルジー)

 

このうち、コヌフロワとペレスは現在同ポイントで山岳賞を争う間柄。

最初の2つの3級山岳を共にペレスが1位通過し、リードするものの、その次の3級山岳の下りでペレスが自らのチームのチームカーに衝突する事故が発生。肋骨の開放骨折と中程度の肺挫傷、そして気胸という診断が下された。

思わぬ形で山岳賞ジャージをキープすることになったコヌフロワ。レース後、彼は「より強かったのはペレスだ」と、悲劇に見舞われたライバルへのリスペクトを見せた。

 

そしてコヌフロワも集団に戻り、逃げはクザンただ1人に。120㎞近くに及ぶ単独走の末に、残り16㎞地点で集団に吸収されてしまうクザンだが、彼にとって4度目のツール・ド・フランス敢闘賞の獲得となった。

 

そしてトレンティンとサガンの争いが気になる中間スプリント(残り37.5㎞地点)だが、クザンに続く集団先頭を獲ったのはペテル・サガン。トレンティンは集団7位となり、マイヨ・ヴェール争いでは大きなビハインドを抱えることに。

サガンはクリストフも抜いてポイント賞首位に立ち、クリストフに次ぐ3位には、フィニッシュでも上位に入り続けるサム・ベネットで、現状5ポイント差となっている。この2人の争いが今後の注目ポイントとなるだろう。

 

 

そして、レースはいよいよ今大会2度目のーーそして本格的なトップスプリンター争いとしては初のーー集団スプリントへ。

残り3㎞地点ではドゥクーニンク・クイックステップがカスパー・アスグリーン→ジュリアン・アラフィリップ→ミケル・モルコフ→サム・ベネットの最強トレインで有利な展開を作るも、その後のラウンドアバウトなどでやや崩壊。

代わって先頭に躍り出てきたのはロット・スーダルトレインだが、こちらも残り1.4㎞地点でアシストが1人だけになるなど、早すぎる仕掛けとなってしまった。

 

ラスト1㎞の時点でちょっと前にいすぎていたので、少し後方に下がって集団の中に入ることにした。リスクはあったけど、それで足を休めることもできた

 

その言葉通り、フラム・ルージュをくぐると同時にユアンはするすると集団の中に紛れ込む。残り600mで最後のアシストが後ろを振り返りユアンの姿がないことに焦る姿も見せたが、ユアンはしっかりとサム・ベネットの背中を取り、チャンスを伺っていた。

 

実際、強い向かい風が吹き荒ぶ今日のステージは、ユアンのこの選択が功を奏する形となった。残り300mで飛び出したペテル・サガンも、残り200mでスプリントを開始したサム・ベネットも、本来であれば絶妙なタイミングだと言えたかもしれない。

しかし向かい風が、彼らの加速を押し留める。

そして、集団の中にいたユアンが、恐ろしいコース取りでサガンの右、フェンスとの間のわずかな隙間を抜けて、サム・ベネットの巨体を一瞬風除けに使用して、そしてもう一段階の加速を見せて、ギリギリでベネットを差し切った。

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驚異的な加速は向かい風に当たっていたかそうでないかの差ということでまだ納得できるが、いずれにせよあのコース取りは神がかっていた。2017年にマリア・チクラミーノを手に入れた絶好調フェルナンド・ガビリアを彷彿とさせるようなその走りは、今年もまたユアンが、「最強」のスプリンターとなるかもしれないという予感を覚えさせた。

 

なお、それこそ昨年のツール・ド・フランスの第16ステージでも、彼はこのゴール前の野生の嗅覚とでも言うべき恐ろしい判断力を見せてステージを獲っている。

そのときの模様は以下の記事を参照のこと。

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2015年のブエルタ・ア・エスパーニャでの突然のステージ勝利を遂げた「天才」ユアン。

その進化はまだまだ、止まらない。

  

 

 

第4ステージ シストロン〜オルシエール・メルレット 160.5㎞(山岳)

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ユンボ・ヴィズマが完封

今大会を象徴する「4日目にして1級山岳山頂フィニッシュ」ステージ。

全部で5つもの山岳ポイントが用意されるも、プロトンの興味はラストの登りだけ。アクチュアルスタートと同時に6名の逃げが確定する。

 

  • アレクシー・ヴィエルモ(AG2Rラモンディアル)
  • クリスツ・ニーランズ(イスラエル・スタートアップネイション)
  • ニルス・ポリッツ(イスラエル・スタートアップネイション)
  • ティシュ・ベノート (チーム・サンウェブ)
  • カンタン・パシェ(B&Bホテルズ・ヴィタルコンセプト)
  • マチュー・ブルゴドー(トタル・ディレクトエネルジー)

 

51㎞地点に用意された中間スプリントポイントで、7番手を巡る集団内での争いは、積極的な動きを見せたサム・ベネットが先着。

5ポイント差で首位に立っていたペテル・サガンはベネットの5つ後ろでスプリントポイントを通過したことで、この日マイヨ・ヴェールを巡るポイントは同点で並ぶ。

最終的には総合順位がより高いサガンがマイヨ・ヴェールをキープしたものの、ベネットがこのジャージに対して強い興味を持っていることを示していた。

 

5つの山岳ポイントを越えていくたびに逃げ集団の人数は絞り込まれていき、最後はニーランズただ1人に。

これもペースアップするメイン集団に飲み込まれ、いよいよ山頂フィニッシュとなる1級山岳オルシエール・メルレット(登坂距離7.1㎞、平均勾配6.7%)に突入する。

常に6~8%の勾配が連続する一定の勾配が特徴の登りである。

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登り始めはマイヨ・ジョーヌを保有するドゥクーニンク・クイックステップが牽引。まずは1㎞をドリス・デヴェナインス、続いてボブ・ユンゲルス。ペースをコントロールし、しばらくは膠着状態が続いていた。

これを打ち破ったのがピエール・ローラン。残り4.5kmでの彼のアタックに集団も反応し、ペースアップ。ユンゲルスも脱落し、ローランを吸収した集団の先頭はアダム・イェーツ。

そして、ここからがユンボ・ヴィズマ祭りの始まりである。

 

残り3.4km。アダムが一旦後ろに下がり、集団の先頭に出てきたのはユンボ・ヴィズマのワウト・ファンアールト。

トニー・マルティンと同じ平坦牽引役、もしくはスプリントでの勝利を期待されていたはずの彼がその得意の独走力でもってハイ・ペースで牽引。集団の人数が一気に4~50名ほどに絞り込まれていき、先頭付近にはイネオスとユンボ、そしてアシストをすべて失ったアラフィリップたちだけとなっている。

8~9%の急勾配区間をものともせず、残り1.4㎞までひたすら牽引し続けたファンアールト。その後ろにはイネオス・グレナディアーズのミハウ・クフィアトコフスキとジョナタン・カストロビエホも控えているが、いずれも表情は苦しそうで、反撃の糸口を見つけられずにいた。

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そして残り1.4㎞ファンアールトが落ちると同時に、今度はクリテリウム・ドゥ・ドーフィネで驚異的な山岳アシスト力を見せつけたセップ・クスが、エースのログリッチを率いて集団の先頭に躍り出る。

そしてダンシング。あっという間にイネオスはベルナルただ一人になって、集団の数も13名程度に。

そして残り500m。最初にこの精鋭集団から飛び出したのが、今年のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ総合3位のギヨーム・マルタン。

これをログリッチが自ら追いかけ、その背中についていたベルナルも食い下がろうとするが、しかし爆発力が全然ない。ポガチャル、アラフィリップなどに前を譲り、ポジションを落としていく。

そして残り250mでマルタンが腰を上げラストスパート。ログリッチはこれにしっかりと食らいつき、残り180mでスプリントを開始。マルタンをかわして先頭に。

3番手についていたポガチャルがアラフィリップと横並びで追撃を図り、やがてアラフィリップを突き放して偉大なる母国の先輩に追いすがろうとする。

 

しかし、勝ったのはログリッチ。スロベニアチャンピオンジャージを輝かせながら、堂々たる姿でフィニッシュラインを横切った。

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この日、総合争いにおいては、上位勢がタイム差をつけられてしまうような事態は起こらず、まだ「無風」に近い状態である。

それでも、最後のわずかなスプリント争いにおいて、ログリッチが相変わらず絶好調であることと、ベルナルが少なくともこの第1週には焦点を合わせていないことがよく分かる結果となった。

さらに、ユンボ・ヴィズマというチーム自体が、今大会における最強であることも。

ワウト・ファンアールトもセップ・クスも強すぎて、アシストが余っているような状態。トム・デュムランも全く仕事をすることなく、ログリッチと共にダブルエース状態で集団の中にいられるような理想的な状況である。

 

また、この日「脱落」した総合勢は以下の通り。

  • エマヌエル・ブッフマン(9秒遅れ)
  • エンリク・マス(9秒遅れ)
  • アレハンドロ・バルベルデ(21秒遅れ)
  • ダニエル・マルティネス&セルジオ・イギータ(28秒遅れ)
  • マルク・ソレル(1分17秒遅れ)
  • ダン・マーティン(3分9秒遅れ)
  • イルヌール・ザッカリン(3分22秒遅れ) 

 

 モビスター・トリプルエース(早くも)陥落中・・・。

 

 

第5ステージ ギャップ〜プリバ 183㎞(平坦)

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「無風」のステージと最後の瞬間の白熱

第1週から厳しい山岳ステージが連続すること、前半に標高が高く終盤にかけて平坦になっていく最も逃げ向きでないタイプのレイアウト、そしてスプリントポイントが̘前寄りで山岳ポイントも後ろ寄り、しかも最大で合計2ポイントしか取れない2つの4級山岳しかない――といった、逃げ屋たちにとってまったくモチベーションの上がらない条件が揃いに揃った結果、少なくともここ30年は(ニュートラルや集団ボイコットなどの特殊な状況を除き)間違いなく存在しなかったという「逃げの一切生まれないステージ」となった。

47.5㎞地点の中間スプリントポイントはここまでも積極的な動きを見せてきたサム・ベネットが先着。この日、マイヨ・ヴェールをサガンから奪い取る。

残り53㎞地点と16㎞地点に用意された2つの4級山岳では、山岳賞ジャージを着るブノワ・コヌフロワが2ポイントを上乗せすることを許された。

しかし、それ以外の動きが一切起こることがないまま、集団は最後のスプリントへと突入していく。

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登り勾配を含んだ終盤のレイアウト。

アンドレ・グライペルやエリア・ヴィヴィアーニ、ソンニ・コルブレッリといった例外を除き、集団から切り離されるトップスプリンターたちの姿はなかったものの、残り3㎞から集団を支配したのはいつものトップスプリンターチームではなく、若きしあのうケース・ボルを抱えるチーム・サンウェブだった。

残り1㎞を切ってもボルの前に3名ものアシストを残しているサンウェブ。登り勾配でのこのペースアップに、ロット・スーダルもドゥクーニンク・クイックステップも主導権を握れず、各チーム単騎での戦いの様相を呈してくる。

 

そしてラスト300m。

今年2月のヴォルタ・アン・アルガルヴェでもボルの勝利を導いたサンウェブ最強の発射台、カスパー・ピーダスンの強力無比なリードアウトが炸裂する。

 

しかし、この強すぎたサンウェブの攻撃に対して、唯一食らいついていったのが、前日に1級山岳の終盤2㎞をひたすら牽引し続けていた男、ワウト・ファンアールトであった。

ボルのための最高の舞台をただ一人利用して、圧倒的なスプリント力で若き才能をねじ伏せる。

昨年に続き、ツール・ド・フランス2勝目。

1年前、選手生命すら危うくしかねない大怪我を負った男とは思えない瞬間だった。

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だがやはり、サンウェブのチーム力もまた、驚嘆に値する。

今年のパリ~ニースでもそうだったが、決して最強ではない彼らだが、最もチームとしての結束力が強いのは彼らなのかもしれない――最も平均年齢の(しかも圧倒的に)低いメンバーにも関わらず。

 

今回は残念だったが、ここから先、ヒルシも含め必ず勝利を得られる瞬間があるはずだ。

楽しみにしていよう。

 

 

後編につづく。

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