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ジロ・デ・イタリア2020 注目選手プレビュー

 

いよいよ開幕する今年のジロ・デ・イタリア。ツール・ド・フランスから数週間程度の間隔しか空いていないこと、ブエルタ・ア・エスパーニャともほぼ並行に開催されることなどもあり、選手層も割と例年と比べても独特な印象もある。

そんな中、注目すべき選手たちを、総合優勝候補、スプリンター、その他ステージ優勝候補とに分けて総勢14名選出してみた。

参考までに、チェックして欲しい。

※年齢はすべて2020/12/31時点のものとなります。

 

 

参考リンク 

ジロ・デ・イタリア2020 コースプレビュー 第1週 - りんぐすらいど

ジロ・デ・イタリア2020 コースプレビュー 第2週 - りんぐすらいど

 

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総合優勝候補

ゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアーズ)

イギリス、34歳

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2018年ツール・ド・フランス覇者。しかし今年のツール・ド・フランスのメンバーには選ばれず。代わりに赴くことになったのが、途中リタイアとなった2017年以来3年ぶりの出場となるジロ・デ・イタリアだ。

調子は未知数。ティレーノ〜アドリアティコでは圧倒的な強さこそ見せなかったが、クイーンステージを安定した走りでこなし、最終的には個人TTでの好走で総合2位。そして世界選手権の個人タイムトライアルでも、TTスペシャリストたちに混じっての4位と、かなり調子が上がってきていることを示してくれた。

今回のジロ・デ・イタリアはTTが多く、その意味で今回の総合優勝候補の中では頭ひとつ抜けている印象だ。

問題は、このチームが伝統的にジロ・デ・イタリアとの相性が悪いこと。もちろんそれを覆したのが2018年のクリス・フルームだったわけだが、その相性の悪さを2017年にトーマス自身が味わっているだけに、不安は残る。

 

 

ヤコブ・フルサン(アスタナ・プロチーム)

デンマーク、35歳

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リエージュ〜バストーニュ〜リエージュとクリテリウム・ドゥ・ドーフィネを制した昨年が特別だったかと思えば、今年もシーズン冒頭からブエルタ・ア・アンダルシア総合優勝と絶好調。

新型コロナウイルスによる長期中断期間を終えてもその勢いは衰えることなく、ストラーデビアンケ5位、イル・ロンバルディア優勝、そして世界選手権ロードレース5位と、好調を維持し続けている。

ティレーノ〜アドリアティコでは第3ステージで早々に遅れ、総合から脱落しているのが不安要素ではあるものの、このときはもう1人のエース格であったウラソフが好走を見せていたため、そのアシストに回ったともみられる。実際、クイーンステージでは、そのときの総合リーダーを抱えていたEFプロサイクリングのアシストをかき回すような走りもしてみせている。

今回のジロはウラソフのほか、ツールでも強い走りをしてみせていたミゲルアンヘル・ロペスも出場することが決まっており、トリプルエース体制と言うこともできそうな布陣。

ただ、TTが大きな存在感をもつ今回のジロ・デ・イタリアでは、TT能力においてフルサンが一歩先んじているため、やはりフルサンが本命のエースと見て良いだろう。

 

 

サイモン・イェーツ(ミッチェルトン・スコット)

イギリス、28歳

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2年前のジロ・デ・イタリアで鮮烈なる輝きを見せながらも最後失速してしまった男。その年のブエルタ・ア・エスパーニャでは見事総合優勝を果たすも、リベンジとして挑んだ昨年のジロは大失敗に終わった。

昨年の彼の反省は、あまりにもロースタート過ぎたこと。ジロまでのレースで全く結果を(あえてとも取れるような感じで)出せなかったために、本番でもしっかりとアクセルを吹かすことができなかった。

その意味で今回は、前哨戦のティレーノ〜アドリアティコで総合優勝しており、不安は幾分か少ない。アシストもダミアン・ホーゾン、ジャック・ヘイグ、ルーカス・ハミルトンと、オージー育成プログラム出身の最強アシストたちが勢揃い。ヘイグが来年移籍が決まっているため、この面子を見られるのは今回が最初で最後。このチームの出せる最大戦力でもって、今度こそ頂点を取りに行く。

不安要素があるとすればタイムトライアル。ティレーノ〜アドリアティコ最終日のTTでも10㎞で22秒もトーマスから失ってしまっている。昨年のパリ〜ニースではTTで優勝しているとはいえ、それも雨や登りなどの様々な要素が加わってのものであり、かつてよりは改善されているとはいえまだ得意と言えるものではないだろう。

TTである程度失っても大丈夫なくらいにあらかじめタイムを稼いでおくことが重要だ。

 

 

ステフェン・クライスヴァイク(チーム・ユンボ・ヴィズマ)

オランダ、33歳

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彼もまた、サイモン・イェーツ同様に、「リベンジ」を狙う男の1人だ。2016年、5日間マリア・ローザを着たまま迎えた第19ステージの下りで、雪壁に突っ込んでしまった。

しかしそこで終わらなかったのがこの男の強みだ。2年前のツールでプリモシュ・ログリッチの総合4位を支えながらも自らも総合5位。そして、昨年のツールでは単独エースで総合表彰台を射止めた。

今年はツールでログリッチのアシストを担う予定だったが、直前のドーフィネで落車し、回避。その結果このジロのエースの座を手に入れることができたのは、彼にとっては幸運なことだったのかもしれない。

メンバーは、とくにクライマー系の選手たちは皆若手。勢いはあり強いメンバーだが、昨年のジロのログリッチのための布陣も若手中心で、これがあまりうまくいかなかった印象があるのは不安なところ。

とくに昨年のラヴニール覇者フォスと、昨年のツアー・オブ・ジャパン総合優勝者のハーパーの走りには個人的に期待したい。

 

 

ヴィンツェンツォ・ニバリ(トレック・セガフレード) 

イタリア、36歳

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クリス・フルームと並び、現役選手で2人しかいない全グランツール制覇者。昨年もジロ総合2位などその強さはまだまだ衰えていない印象だ。

もちろん、ここ最近の彼の走りに不安を抱く向きは多いだろう。イル・ロンバルディアではモレマ、チッコーネとエース級3名全員が終盤に残っていたのに誰も勝てず、ティレーノ〜アドリアティコでも早々に送れる姿を見せていた。

しかしニバリという男は、そこまでの調子の良し悪しと全く関係なく結果を残す。むしろ悪いときの方がいいのではないかと思うくらいだ。ツールを制した年も、パリ〜ニース総合21位にツール・ド・ロマンディ総合5位、クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ総合7位とイマイチぱっとしなかった。ジロ総合2位の昨年も、UAEツアー総合35位にティレーノ〜アドリアティコ総合15位と正直、凄みを感じていなかった。

総合優勝まではさすがに期待しないが、何だかんだ総合TOP5には入ってくるんじゃないか、と予想。

ケルデルマンファンには悪いが、彼とケルデルマンとどっちか・・といったときに、彼を選んでしまった。

もちろん、昨年彼を強力にサポートしたカルーゾの存在がないのは結構痛いだろう。同じく昨年頑張った弟のアントニオ・ニバリや、今年プロ初勝利を成し遂げているジュリアン・ベルナールらのアシストに期待。

チッコーネについてはアシストというよりは昨年同様の自由な走りに期待したい。場合によってはニバリでなく彼がエースを担うパターンも、ありうるかもしれない。 

 

その他注目総合上位候補

  • ラファウ・マイカ(ボーラ・ハンスグローエ)
  • パトリック・コンラッド(ボーラ・ハンスグローエ)
  • ウィルコ・ケルデルマン(チーム・サンウェブ)
  • ペリョ・ビルバオ(バーレーン・マクラーレン)
  • イルヌル・ザカリン(CCCチーム)

 

 

スプリンター

アルノー・デマール(グルパマFDJ)

フランス、29歳

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シーズン再開後、最も調子の良いスプリンターと言ってよいだろう。8月頭のミラノ〜トリノでは、ユアン、ファンアールト、サガンを抑えて優勝。ツール・ド・ワロニーではステージ2勝と総合優勝。フランス国内選手権では終盤のアラフィリップのアタックにコカールと共に反応し、最後はスプリントでこれを制す。ヨーロッパ選手ではニッツォーロには敗れるものの、アッカーマンやファンデルポールを抑えての2位となっている。

ツール・ポワトゥ・シャラントゥやツール・ド・ルクセンブルクでも勝利を重ね、勝利数合計は10勝。ポガチャルとエヴェネプールの9勝を抑え、今年の勝利数単独トップに立っている(10/2現在)。

好材料ばかりではない。ワロニーや国内選手権で見せた、起伏への適性というところが、ルクセンブルクではやや陰りを見せている。「息切れ」しかけているかも?

ただ、完全にデマールのためのトレイン要員を最優先で揃えてきた布陣は、今大会最強のスプリンターズチームであることは間違いない。

昨年は惜しいところで逃したマリア・チクラミーノを、今年こそ奪い取れるか。

 

 

フェルナンド・ガビリア(UAEチーム・エミレーツ)

コロンビア、26歳

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昨年ジロ・デ・イタリアでの落車リタイア以降、正直本調子ではないところを見せ続けているガビリア。ブエルタ・ア・ブルゴスでは驚異的な伸びで、全盛期を思い出すような勝ち方をしてみせたものの、それ以降は2位を連発するなどなかなか勝ちきれない状況が続いており、ツール・ド・リムザンやジロ・デッラ・トスカーナなど、ランクの低いレースで勝つくらいである。

正直、不調である。今回のジロも、0勝だったとしても不思議ではないくらいに。

ただ、発射台は非常に強力。ガビリアのツールデビュー時、彼にマイヨ・ジョーヌとステージ2勝をもたらした最強発射台の1人マキシミリアーノ・リケーゼに、ガビリアの盟友ともいうべき存在でときに彼以上に強いんじゃないかと感じさせる瞬間もあるファンセバスティアン・モラーノ。

ツールのサム・ベネットがアシストの力で2勝をもぎ取ったように、ガビリアもまた、チームに支えられての勝利はあるかもしれない。

なお、チーム的には、今回がグランツール初出場となるブランドン・マクナルティに注目したいところ。TT能力も高い彼は、総合優勝候補層の薄い今回のジロにおいて、総合TOP10にはいる可能性も夢ではないと感じている。

 

 

ペテル・サガン(ボーラ・ハンスグローエ)

スロバキア、30歳

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今年のツールは転換点の1つだったのかもしれない。2012年のツール初出場以来、完走したツールでマイヨ・ヴェールを失ったのは今年が初めてだった。そして勝利なしのツールも、5年ぶりだった。

だが、それでも彼は、ジロに備えて途中でツールを降りるということはしなかった。チーム一丸となって逆転の可能性を最後の最後まで追求し、粘りを見せた。そして、しっかりと完走したうえで、このジロ・デ・イタリアの舞台にも、笑顔でやってきた。

だから、今回のジロも当初の予定通り、マリア・チクラミーノを狙ってくるだろう。ツールと違って中間スプリントポイントの配分が小さく、勝利なしでは手に入れることが難しいだけに、まずは勝ちを狙っていくしかない。とはいえ、今年のジロは意外と純粋なスプリントレイアウトが少ない印象なので、FDJやUAEのようにトレインで戦うよりも、サガンのように単独で戦うことのデメリットが少ないかもしれない。サガン向きの平坦ステージが多い、とも言い換えられるだろう。

チーム構成は割とクライマー寄り(マイカ、コンラッド、ベネデッティなど)であり、サガンの明確なアシストと言えるのはボドナールくらいだが、これも上記のコース特性を考えればそこまで不利にはならないだろう。

2010年代を彩った英雄の、ジロ初挑戦の行方やいかに。

 

 

マイケル・マシューズ(チーム・サンウェブ)

オーストラリア、30歳

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ツール・ド・フランスの出場を許されなかったマシューズは、それが原因かは分からないが、来季はミッチェルトンへの移籍を決めている。しかし、そんなマシューズの調子はかなりよい。ミラノ〜サンレモでは集団の頭を取り、ブルターニュ・クラシック優勝。世界選手権でも、パンチャー向きというにはやや厳しすぎるレイアウトを乗り越えてまさかの7位。純粋なピュアスプリントの機会が少ない今年のジロにおいてはむしろ勝利を稼ぎやすいコンディションといえる。

ただし、専属アシストはほぼいない。平坦アシストという意味ではハガやデンツがいてくれるが、ゴール直前の場所取りやリードアウト要員は皆無。単独で戦わなくてはならない場面が多く、脚質・立場ともにペテル・サガンと瓜二つである。

せめて、ブルターニュ・クラシックで彼を勝たせる大きな役割を担ったエークホフがいればなぁ・・・。

 

 

アルバロホセ・ホッジ(ドゥクーニンク・クイックステップ)

コロンビア、24歳

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かつてガビリア2世と呼ばれ、同チームのファビオ・ヤコブセンとネオプロ時代から勝利数を競い合っていた、ドゥクーニンクの次代エース候補だった。

しかし昨年、少しずつヤコブセンとの差が開きつつあった。彼がブエルタ・ア・エスパーニャで2勝する中、ホッジは昨年秋のユーロメトロポールで激しい落車に巻き込まれ、シーズンを終えてしまっていた。

その後も、なかなか振るわず。今シーズンは2位が4回で勝利はなし。今ジロも、たしか元々はヤコブセンが出場予定のところを、彼がポローニュでの大クラッシュで長期離脱となったのを受けての、登板だったように思われる。

しかも、エースを担えるかどうかは、やや不安がある。チームメートのダヴィデ・バッレリーニは今年からクイックステップ入りした選手だが、今年すでにツール・ド・ポローニュで1勝。イタリア国内選手権やブリュッセル・サイクリング・クラシックでもトップスプリンターたちと渡り合っての2位となっており、今年の調子だけでいえばホッジ以上と言っても差し支えない。ピュアスプリント向きのホッジよりも、登りもこなせるバッレリーニの方が今回のジロには向いていそうだという面もある。

あとは、実際の走りの中でチームが判断していくのだろうが・・・あの鮮烈な走りを記憶している者としては、ホッジの復活を期待したいところ。頑張れ!

 

その他注目スプリンター

  • エリア・ヴィヴィアーニ(コフィディス・ソルシオンクレディ)
  • アンドレア・ヴェンドラーメ(AG2Rラモンディアル)
  • ルディ・バルビエ(イスラエル・スタートアップネーション)
  • ダヴィデ・チモライ(イスラエル・スタートアップネーション)
  • ジョヴァンニ・ロナルディ(バルディアーニ・CSFファイザネ)

 

 

その他ステージ優勝候補

ジョアン・アルメイダ(ドゥクーニンク・クイックステップ)

ポルトガル、22歳

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今年ネオプロながら、レムコ・エヴェネプールのアシストとして出場したブエルタ・ア・ブルゴスで総合3位、エヴェネプールがイル・ロンバルディアで落車して戦線離脱したあとは、ジロ・デッレミリアでエースを担い、2位。本来であればエヴェネプールをエースとして、その総合優勝を強力に支えるアシストの一角として期待していたのだが・・・

エヴェネプールがいない中、新たなエース候補として参戦。8月から急遽クイックステップ入りしたファウスト・マスナダ、そしてジェームス・ノックスらと共に、山岳ステージの逃げ切り勝利を狙うメンバーの1人となるだろう。

もちろん、まさかとは思うが、総合TOP10入りも・・・狙えなくは、ない?

何が起きてもおかしくはないのが、最近の若手の特徴でもある。

【参考リンク】

www.ringsride.work

 

 

ルーベン・ゲレイロ(EFプロサイクリング)

ポルトガル、26歳

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昨年のブエルタの終盤で、テイオ・ゲイガンハートと共に何度も逃げに乗った若手。ゲイガンハートとはアクセオン・ハーゲンスバーマン時代のチームメートでもある。

今年もティレーノ〜アドリアティコではクイーンステージでウッズのための牽引をギリギリまで行っていたり、第7ステージでマチュー・ファンデルポールと共に逃げに乗り、2位でフィニッシュするなど、実力の高さは出している。

本来であればもっと早く結果を出し、ポルトガルの次に来る期待の若手になる、と思っていたのだが・・・なかなか結果を出せないうちに上記のアルメイダが現れてきてしまったので焦っていることだろう。

今回のジロでこそ、なんとか結果を! パンチャー的な脚質でもあり、小集団スプリントや激坂にも強い。

 

 

ベン・オコーナー(NTTプロサイクリング)

オーストラリア、25歳

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2018年のツアー・オブ・ジ・アルプスでステージ優勝しており、その年のジロ・デ・イタリアでは、第19ステージで落車リタイアするまでは総合12位につけていた。

翌年のジロは振るわなかったものの、今年は2月のエトワール・ド・ベセージュの山頂フィニッシュでステージ優勝を遂げている。

今回のジロはポッツォヴィーヴォが総合エースを担うことになるだろうが、彼もまたダブルエースとして総合で良い成績を狙って欲しい。その中で、山岳の逃げ切りも、十分にいけるはずだ。

もう1人このNTTで逃げ切り勝利を期待したいのが26歳のエリトリア人アマヌエル・ゲブレイグザブハイアーだ。

 

 

新城幸也(バーレーン・マクラーレン)

日本、36歳

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2014年以来、6年ぶりのジロ・デ・イタリア出場。昨年のブエルタでは残念ながら逃げには乗れなかったものの、最終日マドリードのスプリントでは15位。普段はコルブレッリなどのスプリンターのためのアシスト役を担うことの多い新城だが、今回はスプリンターというべき選手がいないため、ある程度自由に走れる機会も多いはずだ。

彼の得意とするそこまで厳しい山のないパンチャー向けかつ逃げ切り向きのステージも少なくない。問題は、そういうステージではバッターリンのアシスト役を任される可能性も高そうなところだが。

なかなか日本人の「次」が来ない現状はあるが、ここらへんでなんとか、夢を見させてくれる一撃を加えて欲しい。日本の自転車ロード界の未来のために。

 

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