Class:ワールドツアー
Country:ベルギー
Region:オースト=フランデレン州
First edition:1945年
Editions:74回
Date:3/2(土)
ヨーロッパで開催される最初のワールドツアーレースであり、頂点たるロンド・ファン・フラーンデレンやパリ~ルーベへと向かうおよそ1ヶ月間の「北のクラシック」シーズンの幕開けを告げるレース。
昨年からコースが大きく変わり、往年のロンド・ファン・フラーンデレン伝統のフィニッシュレイアウトが用意された。
すなわち、ゴール前約16kmに伝説の「カペルミュール」、そして約12km手前に「ボスベルク」が待ち受けるレイアウトだ。
昨年もカペルミュールで絞り込まれた11名の小集団の中で、3名もの選手を入り込ませることに成功したアスタナ・プロチームが、そのコンビネーションを見事に発揮して優勝した。
11名の中には当然、グレッグ・ファンアーフェルマートやセップ・ファンマルク、ゼネク・スティバルなどの優勝候補がきっちりと入り込んでいた。
その中で、ミケル・ヴァルグレンという決して「最強」ではない男が勝利したことに、ロードレースの面白さ、魅力をたっぷりと感じられた名勝負であった。
今年も間違いなくドラマが生み出されるであろうこのレース。
今回はそのコースと注目選手をプレビューしていく。
レースについて
すでに述べたように、 昨年からこのレースは、かつて多くの伝説を生んだロンド・ファン・フラーンデレン伝統の名フィニッシュを再現している。
すなわち、ゴール前16.7km手前に設けられた「カペルミュール」ことヘラーツベルヘンの登坂距離1000m、平均勾配9.2%、最大勾配20%の石畳激坂が勝負を一気に動かすレイアウトである。
2010年にはファビアン・カンチェラーラが異次元の独走を見せ、トム・ボーネンを一瞬にして遥か後方に突き放したことでも有名なこのコース設定。
当然、伝説の再現が期待された。昨年この教会の坂で抜け出したのはセップ・ファンマルク。その後同じく集団から抜け出したゼネク・スティバルも合流し、先頭はこの2人だけになった。
しかし、結局2人は残り16kmを逃げ切ることはできず、追走してきた9名に飲み込まれてしまう。
その理由の1つとして、DAZNで解説を務めていた綾野真は、本家ロンド(250km超)と比べてこのオンループの距離が短く(200km程度)、追走集団の体力も十分に残っていたのではないか、との見解を示してもいた。
フィニッシュだけが伝説を再現しても伝説通りの展開になるとは限らない。
逆に、昨年はある意味で「オンループらしさ」を感じさせる展開が生まれたと言えるかもしれない。
伝統を活かしつつ、新たな伝統を生み出していくレースとなることを期待する。
そんな、オンループの「13の石畳急坂」の一覧は次の通りだ。
次に、今大会の注目チームを紹介していく。
注目チーム
ドゥクーニンク・クイックステップ(DQT)
北のクラシック最強チーム。 2017年ロンド覇者で昨年5位のフィリップ・ジルベールや、昨年のカペルミュールでファンマルクと共に一時抜け出したゼネク・スティバル、現ベルギー王者で昨年はドワースドール・フラーンデレン2連覇を果たしているイヴ・ランパールトなど、優勝候補になりうる精鋭が揃っている。
このチームの強いところは、単純な選手1人1人の強さだけでなく、その強さを生かした巧みなコンビネーションである。直近2年のロンドを彼らは制しているわけだが、その勝ち方はいずれも、「集団内のチームメートを信じて果敢に飛び出し、集団内のチームメートも飛び出した彼のために集団を抑える」という、互いの信頼が生み出した勝利と言えるのだ。まさにウルフパック(狼の群れ)。
また、エースを勝負所に運ぶ、抜け出したライバルを捕まえる、といった要所要所で重要な働きを見せる脇役たちも粒揃い。フロリアン・セネシャルとティム・デクレルクはいずれも、昨年のクイックステップ73勝の立役者の1人でもある。
また、昨年リエージュ~バストーニュ~リエージュ覇者のボブ・ユンゲルスは、今年、北のクラシックへの意欲に燃えているらしい。
もしかしたら、ユンゲルスが優勝を狙う動きもありえるかもしれない。
いずれにせよ、「誰が出るかわからない、誰をマークすれば良いのかわからない」とライバルチームに思わせることができるだけの布陣が、今年も揃っている。
順当にいけば今年も北のクラシック最強チーム。それは今大会においても同様である。
CCCチーム(CPT)
昨年夏の突然のスポンサー撤退により、大きな混乱と共に崩壊した旧BMCレーシングチーム。わずかに残った旧メンバーに、現スポンサーの運営していたCCCスプランディ・ポルコウィチャからの昇格メンバー、そしてプロコンチネンタルチームも含めた各チームからなんとか集めたメンバーで構成された急ごしらえのチームは、2019年の目標をまずは「20勝」と定めた。
その目標において重要になるのが、チームに残った最強のクラシックライダー、グレッグ・ファンアーフェルマートによる、北のクラシックでの勝利である。そのためにチームは2月のボルタ・ア・ラ・コムニタ・バレンシアナの頃よりファンアーフェルマートを中心としたクラシック班を共に行動させ、他のチームよりも入念にシーズンに向けた準備を進めていた。
そうして構成された最強メンバー。柱の1つとなるのが、昨年のカペルミュール後に絞り込まれた「11名」に後から喰らいついていき、最後のスプリントでも2位に入ったルカシュ・ヴィシニオウスキー。 同じく後から喰らいついていったランパールトはボスベルクで脱落し、ファンマルクとヴィシニオウスキー以外の「11名」は全員、最終的には大集団に飲み込まれてしまった中で、このヴィシニオウスキーは意外な粘りを見せていた。
そしてもう1人の柱が、元クイックステップで直近2年はワンティ・グループゴベールに在籍していたギヨーム・ファンケイスブルク。才能を持ちながらも婚約者を失う不幸や自らの事故によって燻り続けていた男が、ファンアーフェルマートの指名を受けて、彼の最強アシストの一角として今、再び浮上する。
実力の乏しいメンバーが集まっているように見え、その実、北のクラシックに対する意欲はどこよりも強いこのチームが、どれほどの結果を出してくれるのか、楽しみである。
【参考:CCCのクラシック戦略やファンケイスブルクについて】
EFエデュケーション・ファースト(EF1)
We've added a full report and more photos of Sep Vanmarcke's win at the Tour du Haut Var. Crashes on the descent saw Pinot and Bardet go down but the Belgian dominated the 14-rider sprint finish. @EFprocycling https://t.co/5cZ50j0GHN pic.twitter.com/DzZLYKVY6x
— Cyclingnews.com (@Cyclingnewsfeed) February 23, 2019
エースとして走るセップ・ファンマルクは、パリ~ルーベで2位が1回、ロンド・ファン・フラーンデレンで3位が2回、クラシックのビッグタイトルに一番近い位置にいる男の1人のはずだが、獲得しているタイトルはほぼ皆無。 唯一手に入れているのがこの大会だが、そのときはHCクラスの次代であった。無冠の王と呼んでもよい、切ない男である。
昨年はカペルミュールで抜け出すという大きなチャンスを掴んだ。しかしスティバルがついてきてしまって、彼とスプリントで一騎打ちするのを恐れたことも、最終的に追走9名に追い付かれてしまった要因だったのかもしれない。それでも最後に、ヴィシニオウスキーと共にもう一度集団から抜け出し、追走してきた大集団から飲み込まれることなく3位に入り込んでいる。
最近ではツール・ド・オー・ヴァルの第1ステージで小集団スプリントを制して3年ぶりの勝利を達成。状態が良いとは言えそうだ。
ただし他の選手がクラシックで強い選手たちかというと微妙。セバスティアン・ラングフェルドが2011年にオンループを制しているほか、タイラー・フィニーが2014年に7位に入っているくらいか・・・。基本的にはファンマルク単騎での戦いとなるだろう。頑張れ。
チーム・ユンボ・ヴィスマ(TJV)
何と言っても、今年、というか3/1付けで新加入のシクロクロス元世界王者ワウト・ファンアールトの走りに期待したい。 フェランダース・ウィレムスクレランに所属していた昨年もカペルミュール後の「11人」の中にしっかりと入り込んでおり、その後のストラーデ・ビアンケでは衝撃の3位、ロンド・ファン・フラーンデレン本戦でも9位と十分な成績を叩き出していた。
そして今年は十分に恵まれたチーム体制が彼を支えてくれる。クラシックスペシャリストとして着実に成長しているマイク・テウニッセン(昨年12位)や、ベテランのマールテン・ワイナンツが脇を固める。昨年の4位以下がそうであったように追いついてきたメイン集団の集団スプリントとなればティモ・ローセン(昨年16位)が有利になりうるだろう(スプリンターとしてはダニー・ファンポッペルがいるが、彼が最後まで残れるかというと微妙である)。
ライバルのマチュ―・ファンデルポールが2クラスとはいえ早速ツアー・オブ・アンタルヤでステージ1勝を挙げている。ファンアールトも、負けてはいられない。
トレック・セガフレード(TFS)
出場した直近3年間のオンループで9位→8位→4位と常に好成績を維持しているオンループマイスターのジャスパー・ストゥイヴェン。昨年はE3ハレルベーケ、ロンド・ファン・フラーンデレン7位、パリ~ルーベ5位とひたすら好調を維持しており、UCIポイントもかなり稼いでいた(世界ランキング16位)。
昨年6位のエドワード・トゥーンスも、謎の1年のサンウェブ移籍を経てチームに出戻っており、ストゥイヴェンと並ぶ今大会の優勝候補として存在感を示すだろう。最近はトゥーンスといったらディランみたいな風潮もあるので、個人的に好きな選手として頑張ってほしい。
そして注目は23歳のデンマーク人、マッズ・ペデルセン。過去のオンループでの実績はほとんどないが、昨年のロンド・ファン・フラーンデレンで、ニキ・テルプストラに追い付かれた逃げ集団の中から唯一喰らいつき、ジルベールを先頭にしたメイン集団からも逃げ切り2位に入った男である。
その秘められた才能がもしかしたら今回、花開くかもしれない。
ということで、実はクイックステップに並び、今大会最も充実したメンバーが揃っているチームの1つでもあり、誰かが上位に入り込む可能性は十分に高いと言えるだろう。
ストゥイヴェンとトゥーンス、上に挙げた写真のように同じベルギー人若手同士としてのコンビネーションを発揮した勝ち方なんかを、見せてもらえるとすごく嬉しい。
それ以外にももちろん、昨年優勝者ミケル・ヴァルグレン擁するディメンションデータや、スプリントとなったときに最強クラスの実力をもつマイケル・マシューズ率いるチーム・サンウェブ、そしてニキ・テルプストラが移籍したディレクトエネルジーなども、注目すべきチームだと言えるだろう。
北のクラシック開幕を告げる重要なこのレースで、今年のクラシックシーズンにおける各選手の状態をしっかりとチェックしていこう。