りんぐすらいど

サイクルロードレース情報発信・コラム・戦術分析のブログ

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ブラバンツペイル2019 プレビュー

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Class:ヨーロッパツアー

Country:ベルギー

Region:フラームス=ブラバント州~ブラバン・ワロン州

First edition:1961年

Editions:59回

Date:4/17(水)

 

パリ〜ルーベとアムステルゴールドレースに挟まれた週の水曜日に開催される、「アルデンヌ前哨戦」。例年、起伏に強いパンチャーや登れるスプリンターたちの打ち合いにより、最後には小集団でのスプリント決戦となっている。

ルーベをパスしたマチュー・ファンデルポールが出場することでも注目を集めている。すでに今年、ドワース・ドール・フラーンデレンで優勝しているこの若者が、アルデンヌ・クラシックでも旋風を巻き起こしてしまうのか。

 

 

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レースについて

ブラバンツペイルは「ブラバントの矢」を意味するフラマン語。開催地域のフラームス=ブラバント州はフランドル地方に分類され、大会自体もフランダース・クラシックスによって主催されているため、厳密にはフランドル・クラシックの一種となる。

が、そのコースレイアウトは石畳を特徴とする北のクラシックというよりは、起伏を特徴とするアルデンヌ・クラシックにかなり近い。過去の優勝者もジルベールやウェレンスなどアルデンヌに強いパンチャー系が揃っている。

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過去8年の上位入賞者一覧

フラームス=ブラバント州もワロン地域に隣接し、フランス語を話す住民の数も多い。コースは一部、ブラバン・ワロン州も通過する。

それもあってこの大会も、「ラ・フレーシュ・ブラバンソンヌ」というフランス語で呼ばれることも多く、実質的にこの大会は「アルデンヌ・クラシックの前哨戦」という位置付けで問題ないだろう。

 

 

2019年の全長は196.2㎞。その中に31個の登りが含まれ、獲得標高は2000mを超える。

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フラームス=ブラバント州の州都ルーヴェンの街からスタートしたプロトンは、一度ブラバン・ワロン州に立ち寄ってからフランドルに戻ってきて、ゴール地点のオーベレルエイセの街の周回コースに突入する。

周回コースは1周23km。これを3周する。

その中に「ハーガールト(平均勾配10%)」「ヘルトストラート(平均勾配4%)」「ホルストハイデ(全長1㎞、平均勾配5%、最大勾配12%)」「エイケルダーラーン(全長400m、平均勾配7%)」「シャヴェイ(全長700m、平均勾配6%)」の5つの登りが詰め込まれている。

とくにラスト10㎞から始まるホルストハイデからの3連続登坂が勝負所で、最後のシャヴェイからゴールまでは200mほどしかない。

 

過去3年の展開を振り返ってみよう。

 

2016年の展開

残り5㎞地点の最後の「エイケルダーラーン」の登りでトニ・ガロパン、デイヴィット・ターナー、エンリーコ・ガスパロット、ジュリアン・アラフィリップ、そしてペトル・ヴァコッチの5名が抜け出した。

チームメートのアラフィリップの献身的な牽引にも助けられ、5名はそのまま逃げ切り。最後はギャロパンとガスパロットを突き放してチェコチャンピオンのヴァコッチがスプリントを制した。

 

2017年の展開

周回コース突入と同時にソンニ・コルブレッリの抜け出しをきっかけに激しいアタック合戦。14〜15名の集団は残り30㎞を切った「エイケルダーラーン」で10名程度に絞り込まれる。ローレンス・デプルス、ドリース・デヴェナインスのクイックステップコンビ、コルブレッリとグレガ・ボーレのバーレーン・メリダコンビ、シルヴァン・ディリエ、クリストファー・ユールイェンセンなど。

チームメートのボーレの献身的なアシストにも助けられ、集団と逃げのタイム差が縮まらない。残り5㎞でボーレが力を使い果たして脱落すると、前年覇者ペトル・ヴァコッチとティム・ウェレンスが集団からブリッジ。

デヴェナインスのリードアウトからのヴァコッチのスプリントも、ピュアスプリンターとして実績を残すコルブレッリには敵わず。最後はパワーで押し切った。

 

2018年の展開

最大勾配12%を誇る最後のホルストハイデ(残り12km地点)でマキシム・モンフォールのペースアップからイエール・ヴァネンデルがアタックし、ティム・ウェレンス、エンリーコ・ガスパロット、カルロス・ベローナ、ベアトヤン・リンデマンなど8名が抜け出す。

そして残り7㎞でウェレンスが独走を開始。直前のパリ〜ルーベで亡くなった若きベルギー人マイケル・ホーラールツに捧げる勝利を飾った。

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起伏をものともしないアタッカーによる抜け出しと小集団スプリントによる決着が続いている。

今回も、アグレッシブなパンチャー、もしくは登れるスプリンターに注目していきたい。

 

 

注目選手

1.ティム・ウェレンス(ベルギー、28歳)

ロット・スーダル(LTS)所属

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昨年優勝者。アグレッシブなエスケープスペシャリストで、例年アルデンヌ・クラシックでは終盤の飛び出しを敢行してきており、昨年はそれが実った形に。今年はアムステルでこれを成功させたいところ。

とはいえさすがにウェレンスももういい加減プロトンの中では危険視される存在になりつつある。ディフェンディングチャンピオンということで同じようには抜け出すことを許されないだろう。集団スプリントとなればやや不利である。

となれば、ウェレンスの存在を囮にしてチームメートによる奇襲が実現するかもしれない。その意味で最も期待したいのが、直近のイツリア・バスクカントリーで輝いていたビョルグ・ランブレヒト(ベルギー、22歳)。第2ステージの平均勾配8%の登りフィニッシュで、先駆けしたマキシミリアン・シャフマンを追い抜き、他のライバルたちを突き放して先頭に躍り出た。

ラスト100mでジュリアン・アラフィリップに敗れてはしまったものの、アラフィリップはもはや規格外の存在になりつつ男。そのことを差し引けば、この男はかなりの実力を示したことになるだろう。

2年前にはU23リエージュ〜バストーニュ〜リエージュを制した有望株。今年のアルデンヌでの活躍に期待したい。

 

 

21.ジュリアン・アラフィリップ(フランス、27歳)

ドゥクーニンク・クイックステップ(QST)所属

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今最も勢いに乗っている男だ。昨年のバスク1周での立て続けの2勝に、フレッシュ・ワロンヌ勝利、ツール・ド・フランスでステージ2勝と山岳賞、そしてクラシカ・サンセバスティアン優勝。

今年も勢いは止まらず。ストラーデビアンケとミラノ〜サンレモの両方を制した彼を止められる者などもはやいない。今年はアルデンヌを全制覇してもおかしくはないだろう。そして世界選手権も。

不安な点があるとすれば、バスクでの落車の影響。今回のブラパンツペイルはもしかしたら様子を見ながら走るかもしれない。

実際、絶対のエースでなく「誰もが勝てる」が「ウルフパック」の魅力。過去優勝者のペトル・ヴァコッチはもちろん、もう1人注目したいのが、いぶし銀の名アシスト、ドリース・デヴェナインス(ベルギー、36歳)だ。過去には3度TOP10に入るなど、今大会との相性は良い。

今年のカデルレースでも、チャランブラ・クレセントで抜け出そうとするライバルたちを抑え込む役割を果たした。

www.ringsride.work

今大会も、終盤で抜け出そうとしたライバルを抑える役割で前に出て、そのまま逃げ切って優勝・・というパターンは十分考えられそうだ。 

 

 

41.ダリル・インピー(南アフリカ、35歳)

ミッチェルトン・スコット(MTS)所属

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今年、ツアー・ダウンアンダー2連覇を果たした名パンチャー。最近でもボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャのスプリントステージで何度も上位に入るなど、起伏含みのステージでのスプリント力には定評がある。

過去の最高位は10位。しかし歳を重ねてむしろ安定感を増しつつある彼が、今回大きな成果を出す可能性は十分あるだろう。

チームメートには他にも過去7位のクリストファー・ユールイェンセンや、新加入のディオン・スミスなどがいる。スミスもまだまだ実績の少ないニュージーランドランド人だが、その素質は十分。今回のアルデンヌで頭角を現してほしい。 

 

 

61.マイケル・マシューズ(オーストラリア、29歳)

チーム・サンウェブ(SUN)所属

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登れるスプリンターの代表格。このブラバンツとアムステルゴールドレースはかなり彼に向いているレースだと思うのだ、勝利はゼロ。ブラバンツで2位が2回、アムステルで3位が1回と惜しいところまではいっている。

今年は序盤のパリ〜ニースこそ落車で早々にリタイアしたが、カタルーニャではきっちり2勝。ロンドでも上位に入り込み、アルデンヌで結果を出す準備は整えてきているようだ。

そんな彼とともに、注目しておきたいのが同じくバスクで活躍していたマルク・ヒルシ(スイス、21歳)。第3ステージと第4ステージの登りを含むスプリントで上位に入った。

また、E3・ビンクバンククラシックでは序盤から逃げてのちに合流してきたボブ・ユンゲルスにも喰らいつくタフな走りを見せつけていた。U23インスブルック世界選手権を制した男でもあるため、クライマーとして成長する可能性もあるが、まずはこのアルデンヌでどこまで走れるか。 

 

 

91.マチュー・ファンデルポール(オランダ、24歳)

コレンドン・サーカス(COC)所属

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ここまでの彼の戦績は想像通り?想像以上?

今年のロード1戦目の勝利はさすが、と思いつつ所詮は1クラス。次に出場したノケレ・コールスはゴール直前に落車に巻き込まれ、続くGPドナンの勝利は十分に凄かったがそれでもまだ、HCクラスだった。

だから、ドワーズ・ドール・フラーンデレンでの優勝は驚くべき成果だった。そして、ロンド・ファン・フラーンデレン。あの衝撃的な落車の後の復活劇は、観ている者すべてを虜にしたと言っても良い。

しかしここで彼の今年の北のクラシックは終了。

パリ~ルーベをパスし、途中に足慣らしのシルキュイ・シクリステ・サルテ(1.1)に出場。このブラバンツペイルとアムステルゴールドレースに挑む。 

そのサルテ第1ステージでの勝利の模様がこちら。

この映像を見た人々のコメントを抜粋。

  • なんだこのラスト10mくらいのスプリントの動きは👀
  • ゴール前みたら、なんだこのスプリントww
  • このマチューのスプリント何かおかしい…(褒めてます、3度くらい見直してしまいました
  • なんじゃこりゃ。
    この距離からで勝てると踏んでのことだろうけど、こんなの初めて見た 

 

とにかく規格外の男、マチュー。

クラシック後半戦もきっと、僕たちを魅せてくれるはずだ。

 

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