りんぐすらいど

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クライマーたちの波状攻撃と、クイックステップのチームワーク――今年も白熱の攻防戦が繰り広げられたカデルレース2019を振り返る

ゴール前11kmを切ったところから始まる、登坂距離1.2km、平均勾配8.4%、最大勾配20%の激坂「チャランブラ・クレセント」。

今年もこの登りから戦いのゴングは鳴り響き、そしてその頂から仕掛けるクライマー/パンチャーたちと、それを追いかける優勝候補スプリンターを擁するチームとの熾烈な攻防戦が繰り広げられることとなった。

 

今回はこの例年通りの白熱の戦いが演じられた「カデルエヴァンス・グレートオーシャンロードレース(カデルレース)」のラスト10kmを振り返りつつ、その勝因と活躍した選手たちを確認していこう。

 

 

「職人」デヴェナインスの働き

ラスト11kmを切ってチャランブラ・クレセントの登りが始まると、集団の先頭付近にはディエゴ・ウリッシを引き連れたUAEチーム・エミレーツ、ピエール・ラトゥールを引き連れたAG2Rラモンディアル、ワウト・プールス擁するチーム・スカイ、そしてマイケル・ウッズ擁するEFエデュケーション・ファーストといったクライマー/パンチャーをエースに据えるチームが集まってきていた。

しかし、ジェイ・マッカーシー擁するボーラ・ハンスグローエがこの集団の前方でペースコントロール。一時はラトゥールを含める数名が抜け出す場面も出来上がるが、イマイチ後続を突き放せないままプロトンは山頂へ。

 

その直前にウリッシが一気にペースを上げて先頭に飛び出し、ウッズやラトゥールがこの動きに反応。その数名の中に、それまで集団の前方にはいなかったはずのドリース・デヴェナインスドゥクーニンク・クイックステップ)が含まれていた。

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チャランブラ・クレセント頂上でアタックするウリッシ。そして前から4番目、EFの選手の後ろに控えているのがデヴェナインスである。

 

昨年も同じチャランブラ・クレセントの登りでのアタックに喰らいつき、先頭集団のローテーションをかき回す役割を担った職人デヴェナインス。 

今回もきっちりと先頭集団に入り込んだばかりか、そのあとも集団の先頭から3番目以内に必ず陣取って、その後のリッチー・ポートやルイスレオン・サンチェス、ワウト・プールス、そしてディラン・ファンバーレのアタックに常に反応し続けた。

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ポートの動き(上)と、ファンバーレの動き(下)にそれぞれ即座に反応するデヴェナインス。 

 

残り3km。女子レースの方ではこの距離からアタックを仕掛けたアレニス・シエラ(アスタナ・ウーメンズ・チーム)がそのまま独走勝利を成し遂げたが、同じタイミングでファンバーレが何度目かのアタックを繰り出す。

しかし、この動きに対してもデヴェナインスがメイン集団の先頭につけ、一定のペースで着実にファンバーレとの距離を縮めていく。

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残り3kmで抜け出したファンバーレを追うために集団先頭を牽引するデヴェナインス。 

 

そして、その間に集団内では、ゆっくりとミケル・モルコフがそのポジションを上げつつあった。そして、エースのエリア・ヴィヴィアーニの傍に現れる。

 

 

「世界最強のリードアウトマン」モルコフの働き

2018年シーズンも、ファビオ・サバティーニと共にヴィヴィアーニの勝利を援助し続けた「世界最強のリードアウトマン」ミケル・モルコフ。

この日も、チャランブラ・クレセントの登りを経てやや集団内にポジションを下げていた彼が、ゴール前3kmを切ったあたりから徐々に前方に上がってきて、そしてエースのヴィヴィアーニの前にしっかりと陣取った。

 

残り1.5kmを切ってチーム・スカイの若手パヴェル・シヴァコフが鋭いアタックを見せるが、これもボーラ・ハンスグローエのダニエル・オスと、クイックステップのレミ・カヴァニャが喰らいつくことで、危険な動きの抑え込みに成功した。

カヴァニャも北のクラシックを中心に活躍する若手の実力者であり、こういった平坦におけるアシストとしての動きにおいてはベテランに負けない良い働きをしてみせている。

 

残り1km。飛び出したEFエデュケーション・ファーストの選手の後ろにモルコフがついて最後の先導を開始する。残り700mでEFの選手が離れ、モルコフは集団の先頭につく形となった。

この時点でヴィヴィアーニのリードアウト要員はモルコフ1人だけ。残り700mで1人というのは、やや不安の残る体制ではあった。

しかしここで、彼は粘り強い走りを見せる。他チームのアシストを誰一人前に出させないまま、向かい風の中、残り200mまできっちりと先頭を守り続けた。

これだけのタフなリードアウトを行える選手はそう多くはないだろう。しかも、下り坂のスピードが上がりやすい地形の中で。

 

まさに完璧なリードアウト。

この発射台から放たれたヴィヴィアーニのスプリントを前にして、勝てる選手は誰一人いなかった。

唯一、その背中につけていたカレブ・ユアンが残り100mからスプリントを開始するが、少しスタートが遅すぎたのか、わずかに届かず敗北を喫することとなった。

 

ヴィヴィアーニ、今期2勝目。3日前の前哨戦クリテリウム「ゼロレース・メルボルン」(非UCIレース)に続く勝利であり、2位に終わった昨年の雪辱を晴らした。

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ユアンも僅かの差であった。モルコフの力と戦術がこの僅かな差を生み出した。 

 

 

正直、最後のスプリントの勢いだけで言えば、カレブ・ユアンが最も強いスプリントを見せてくれたとも言えるかもしれない。

しかし、そのユアンが最後、伸び切らなかった理由は、DAZNの放送内で解説した元プロロードレーサー、土井雪広の次の解説が参考になるだろう。

 

「ゴールに向かっている道がですね、やや画面に向かって右側から風が吹いていてですね。ですからクイックステップとしては左側を開けないようにしてスプリントを開始したことによって、ユアンは、右側から行かなければいけなかったんですね。そうすると、なかなかもうスピードは伸びないですね。(クイックステップは)そういう状況を作りましたね」

 

実際、モルコフは常にコースの左端を走るよう心掛け、ヴィヴィアーニもときどきそこから左に体を動かして、後続が左手から抜け出すことをブロックし続けていた。

ゴール前における風向きを考慮したこの戦術。そこも含めて、ミケル・モルコフという選手はやはり「世界最強のリードアウトマン」なのだと言える。

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ゴール後、デヴェナインスと抱き合い、感謝を伝えるヴィヴィアーニ。レース映像では、ゴール直後にすぐさまモルコフの元に駆け寄って抱擁する姿も映し出されていた。 

 

 

 

 

チーム・スカイは最後のチャランブラ・クレセントを超えて、プールス、ファンバーレ、そしてシヴァコフと、しっかりと人数を揃えたうえでかなり積極的な攻撃を仕掛け続けた。

とくにファンバーレはダウンアンダーに続くアグレッシブさを見せており、かなり調子が良いことを証明してくれたものの、やはりチャランブラ・クレセント自体で大きな差をつけることができなかったことで、どれだけ平坦で頑張っても、クイックステップの強大なチーム力を崩すことはできなかった。

 

しかし最後の最後まで、ポートやサンチェスも含め、クライマーたちのアグレッシブな走りを見ることができ、それに対して絶対的優勝候補のチームがいかに対応していくかを見ることができたという点で、やはりこのカデルレースというのはシンプルながらも非常に魅力的なレースだと言える。

 

来年はまた、同様にアタッカーとスプリンターチームとの打ち合いが見られるのだろうか。

今後も実に楽しみなレースの1つとなり続けるだろう。