りんぐすらいど

サイクルロードレース情報発信・コラム・戦術分析のブログ

スポンサーリンク

【全ステージレビュー】ボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャ2019

f:id:SuzuTamaki:20190418014648j:plain

山、山、山。TTもなく、ピュアスプリンターにも全く優しくない、実にイベリアらしいステージレース。

過去2年連続で総合優勝、計3回の総合優勝を果たしているアレハンドロ・バルベルデは今回は失速。代わって、若きコロンビアンクライマーが頭角を表すこととなった。

スプリントでも、パリ~ニースで早々に落車してしまったマシューズの復活や、デヘントのパリ~ニースに続く絶好調、そしてボーラ新加入のマキシミリアン・シャフマンの台頭など・・・見所盛りだくさんの1週間を振り返っていく。

 

↓各ステージの詳細はこちら↓

www.ringsride.work

  

 

スポンサーリンク

 

 

第1ステージ カレーリャ~カレーリャ 164km(丘陵)

f:id:SuzuTamaki:20190414131630p:plain

3つの1級山岳を含みつつも最後は海岸線での平坦フィニッシュ。

例年スプリンターによる勝利が多いこのステージで、今年は「エスケープ王」トーマス・デヘントがいきなりの逃げ切り勝利。

プロトンに2分40秒もの大差をつけた彼は、新人賞以外の全ての特別賞ジャージを自らのものとした。

f:id:SuzuTamaki:20190418014741j:plain

 

昨日の夜、チームのボスに明日はどうするつもりかって聞かれた時に、もしも最後の1級山岳の頂上で3分差がついていれば逃げ切りのチャンスはあると伝えていたんだ

 

実際、ゴールまで残り56㎞地点にある1級山岳コル・ド・フォルミクで彼は集団に3分13秒のタイム差をつけていた。

 

最後の30㎞が逃げ切りに向いたレイアウトであることを僕は知っていた。向かい風になる海岸線の区間でそこまで強い風が吹いてなかったのも幸運だった。最後の3級山岳の頂上で1分半のマージンがあれば勝てるだろうと踏んでいた

 

その3級山岳コルサクレウ(ゴールまで残り17㎞)で彼はプロトンから2分以上のタイム差をつけていた。 

逃げスペシャリストとしての嗅覚が発揮された完璧な勝利だったわけだ。 

 

このカレーリャを発着する毎年恒例のオープニングステージでは、2015年以来の逃げ切り勝利となった。

独走での逃げ切り勝利は2012年のミヒャエル・アルバジーニ以来。

また、この勝利でデヘントはカタルーニャでの勝利数を4に伸ばした。

 

昨年この開幕ステージで勝利したアルバロホセ・ホッジは大きく遅れ17分34秒遅れ。

昨年は今年よりもずっと平坦だったので勝てたところもあるのだろう。

山岳での適性が彼の課題と言えそうだ。

 

 

第2ステージ マタロ~サント・フェリウ・デ・フイソルス 179.6km(平坦)

f:id:SuzuTamaki:20190414132011p:plain

25年ぶりに登場となる古い港町サント・フェリウ・デ・フイソルスのゴールはラスト800mが平均勾配4.5%の登りスプリント。

残り36㎞で一度ゴール地点を通過した際に、このフィニッシュがバルベルデにとって最適であると理解したマシューズはこれを「ターゲット」にすることを決め、実際に残り150mで彼が早駆けした際に、落ち着いてその後輪を捉えていた。

「バルベルデが少し苦しそうにしているのを見て勝てると思った」という今年29歳のオージースプリンターは、チームに今年2勝目、ワールドツアーでは初勝利をもたらした。

彼にとっても、得意としているパリ〜ニースの第2ステージでいきなり落車リタイアしてしまった悲劇からの、復活を意味する大きな勝利となった。

f:id:SuzuTamaki:20190418014836j:plain

 

残り36㎞の最終周回に入る直前に落車が発生し、クリス・フルームがこれに巻き込まれ、結果として14分以上の遅れをもってゴールした。

最初から総合エースはベルナルと決めていたようなところもありそうだが、これで彼が総合優勝争いをする可能性が0となった。

そしてデヘントは総合リーダーをキープしたうえに、最後の山岳も先頭で通過し、山岳賞ポイントを37に伸ばした。

パリ~ニースに続く山岳賞獲得に向けての重要な一歩となった。

 

 

第3ステージ サント・フェリウ・デ・フイソルス~バルテル2000 179km(山岳)

f:id:SuzuTamaki:20190414133057p:plain

その名の通り標高2000m超えの超級山岳バルテル2000山頂フィニッシュ。

昨年は積雪によりキャンセルとなったこの強烈な登りに入ると、それまでプロトンを先導していたロット・スーダルに代わり、チーム・スカイの山岳トレインがいつもの牽引を始めた。

 

先頭から順に、ジョナタン・ナルバエス、セバスティアン・エナオ、パヴェル・シヴァコフ、イバン・ソーサ、そしてベルナル!

このペースアップでモビスターの山岳アシストのカルロス・ベローナや、総合リーダーのデヘントなどが早々に遅れ始める。

残り6kmの時点ですでに先頭集団は12~3名にまで絞り込まれてしまい、過去3度、そしいて直近の2年で総合優勝しているアレハンドロ・バルベルデ、このタイミングで遅れ始めてしまう。

そして残り5.4km。ついにベルナルが強烈なアタック。

これにキンタナがすかさず喰らいつく。

 

後方にバルベルデが控えていることを理由にキンタナが前に出ようとしない中、後方からアダム・イェーツが追い付いてくる。

ローテーションを回し始める3名に対し、やがて残り2.6kmでミゲルアンヘル・ロペスとダニエル・マーティンが追い付いて先頭5名に。

アダムのアタックでマーティンが遅れそうになったり、ベルナルのペースアップに今度はロペスも合わせて遅れ始めたりなどもあったが、最終的には離れない先頭3名が牽制したこともあり、ロペスもマーティンもペースで戻ってきて5名のままゴールに。

最後は先駆けしたマーティンをかわし、パンチ力のあるアダムが小集団スプリントを制した。今期2勝目。

f:id:SuzuTamaki:20190418014917j:plain

 

ベルナルも2番手に入り、いつもスプリントステージでもなぜか上位に入り込むフルームと似た妙なアグレッシブさが発揮された。

彼もまた、クライマー同士のスプリントでは有利な選手と言えそうだ。

 

パリ~ニース総合優勝のベルナル、ティレーノ~アドリアティコ総合2位のアダムの調子の良さを確かに感じつつ、そこにパリ~ニース総合2位のキンタナがしっかりと喰らいつく姿を見ることができた。

クライスヴァイクも後続集団よりは前に出ての6位ゴール。昨年同様、表彰台までは得られずともツールでの総合上位は狙っていけそうだ。

 

一方、ザッカリンやケルデルマン、バルデ、マスなどは不安を感じさせるステージとなった。

ピノ? ピノはむしろこういうところは結果を出せないのが普通なので、そこまで不安は感じない。むしろ結果を出せるときの方が不安である。

 

 

第4ステージ イアナース~ラ・モリーナ 150.3km(山岳)

f:id:SuzuTamaki:20190414134509p:plain

カタルーニャお馴染みのラ・モリーナ山頂フィニッシュ。この日はラ・モリーナを2回登るレイアウト。

クリス・フルームのアシストを受けながらペースを上げるメイン集団は、逃げるマルク・ソレルとグレゴール・ミュールベルガーとのタイム差を1分20秒にまで縮めながら1回目のラ・モリーナ登坂を終える。

そして最後のラ・モリーナへの登り。この日も最初にプロトンを支配したのはパヴェル・シヴァコフやイバン・ソーサなどが率いる若きスカイ・トレイン! その中心に鎮座するのは22歳のベルナルである。残り10km時点で、プロトンの人数は16人にまで絞り込まれた。

 

残り8.4kmでミゲルアンヘル・ロペスがアタック! ここにベルナル、アダム・イェーツ、キンタナが喰らいつき、残り7.5kmの段階でこの4名だけが前方に残る形となった。

そして、同じタイミングでエンリク・マスとリッチー・ポートが脱落。ポートは気管支炎からの回復が遅れているとのことだが、マスがここで遅れてしまうのはあまりにも不安である。アルガルヴェでは、それなりに調子が良かったはずなのだが・・。

 

残り7kmで再びロペスがアタック。今度は誰もついていけなかった。

ロペスを追走する3名のもとに、サイモン・イェーツとクライスヴァイクが合流。サイモンが兄弟のために先頭を牽引しペースアップを図るも、前方のロペスとのタイム差はなかなか縮まらない。

そして残り2kmでロペスがソレルとミュールベルガーをキャッチ。そのまま先頭を牽引し、残り600mで最後のソレルを突き放した。

最後は間もなく生まれてくる我が子に向けたおしゃぶりポーズでゴール。つけた16秒というタイム差は決して小さくなく、カタルーニャ初制覇に向けた大きな一手となった。

f:id:SuzuTamaki:20190418015007j:plain

 

前日の走りを見るに、アダムとベルナルが今大会最も調子が良いと思われていた中で、ロペスのアタックは実に切れ味が鋭かった。

パリ~ニースでも横風の影響で総合タイムを失っていたものの、クイーンステージではサイモン・イェーツを突き放す走りを見せていた彼もまた、ジロ・デ・イタリアに向けてかなり状態を整えつつあることを感じさせた。
 

 

第5ステージ プッチサルダー~サン・クガ・ダル・バリェス 188.1km(平坦)

f:id:SuzuTamaki:20190414134530p:plain

激しい山岳2連戦を終え、第2ステージ以来のスプリンター向けステージに。

当然、2度目の勝利を狙いたいサンウェブや、アンドレ・グライペル擁するアルケア・サムシックなどがペースアップを図るが、4名の逃げの一員だったシャフマンが、そのまま追い上げる後続集団を振り切って鮮やかな逃げ切り勝利を果たした。

f:id:SuzuTamaki:20190418015059j:plain

 

昨年のカタルーニャでも逃げ切り勝利を果たし、ジロでの勝利も飾っている現在頭角を現し中のエスケープスペシャリスト。

今年はエスケープスペシャリスト御用達のGPインダストリア&アルティジアナートでも優勝しており、それこそデヘントの後継者を目指し得る才能を今回も見せつけた。

 

13秒遅れでゴールに飛び込んできた集団の先頭はマシューズが獲り、彼の調子の良さをしっかりと見せつけた。

 

 

第6ステージ バルス~ビラ・セカ 169.1km(平坦)

f:id:SuzuTamaki:20190414134558p:plain

終盤にダヴィデ・フォルモロが先頭に出て、これに総合リーダーのロペスが喰らいついていく場面も。集団は縦一列となり、スプリンターチームがトレインを組んでゴールに突入する、という状態にはならなかったが、その中で、集団の5~6番手から一気に番手を上げてきたマシューズが、追いすがってきたバウハウスをギリギリで振り切って今大会2勝目を果たした。

f:id:SuzuTamaki:20190418015154j:plain

 

およそピュアスプリンター同士の戦いとは思えないような上位陣の顔ぶれ。混乱に満ちたスプリント勝負だったが、そういう場面でこそマシューズは光る。

今期、このカタルーニャまでは不安の残るシーズン開幕を過ごしてきた彼が、ここにきて好調ぶりを示している。ロンドでも終盤まで残り6位。

次回はアルデンヌ。今年こそ、ブラバンツもしくはアムステルでの勝利を果たせるか? 

 

 

第7ステージ バルセロナ~バルセロナ 143.1km(丘陵)

f:id:SuzuTamaki:20190414134626p:plain

毎年恒例のバルセロナでの「モンジュイックの丘」ハイ・アップダウン周回コース。山岳コースではないものの、総合争いも十分にありうる難コースである。

ステージは序盤から逃げたダヴィデ・フォルモロが逃げ切り勝利。この2年、ジロで連続で総合10位を記録している彼は、今回のカタルーニャではまったく目立つことができずにいた。

それが今回の勝利でなんとか結果を残した。

今年、3度目のジロ総合優勝争いに挑む。 

f:id:SuzuTamaki:20190418015243j:plain

 

さて、後方の総合争いについては、残り40km地点、昨年もエガン・ベルナルが投げ出され総合2位のままリタイアを喫することとなったカーブで今年も大落車が発生。総合8位のロマン・バルデや総合10位のマルク・ソレルなどがレースを去ることに。

そしてその直後、ミッチェルトン・スコットが支配するプロトン先頭からまずはダリル・インピーが飛び出し、次いで総合12位のサイモン・イェーツがアタック。ここに総合4位キンタナ、総合7位マイケル・ウッズ、イバン・ソーサ、そしてアスタナからはアンドレイ・ゼイツが飛びついた。

アスタナが支配し、ロペスが含まれるメイン集団は約13秒遅れで残り34kmのラインを通過する。ロペスの後ろには総合2位アダム、その後ろには総合3位・新人賞ジャージを(繰り下げで)着るベルナルが控えていた。

逃げから降りてきたチームメートのカルロス・ベローナが合流。キンタナ自らも牽引してなんとか引き離そうとする逃げグループだったが、アシストの枚数を減らしながらペースアップを図るアスタナにより、残り25kmで引き戻された。

カウンターでチャベスとセバスチャン・エナオがアタック。これが吸収されると続いてもう一度サイモンがアタックした。

これに、集団の中からアダムがブリッジ。世界で一番危険なデュオによる逃げが始まり、ロペスとアスタナは最大級の危機に陥った。

f:id:SuzuTamaki:20190417002001p:plain

サイモンの全力の牽きでロケットのように加速するイェーツ兄弟。

初期から逃げていたメンバーから零れ落ちた残りの集団を吸収し、アダム自ら牽く場面も見せながら、バーチャルでの総合タイム差が刻一刻と縮まっていく。

残り20kmでフォルモロとのタイム差は1分に迫り、そしてロペスとのタイム差は30秒以上にまで広がった。

 

すなわち、アダムが総合首位に立ったのだ。

 

しかし残り2周(14㎞)を過ぎてついにサイモンが脱落。2人に食らいついていたジェームス・ノックスも間も無く千切れ、アダムは1人になる。

メイン集団でも一度は下がったアスタナのアシストが復帰し、全身を横に揺らしながら決死の牽引。それがいよいよ残り12㎞で終了すると、ロペスがアタックを繰り出した。背後の有力勢は誰も千切れない。しかしロペスは振り返ることなく、ひたすらペースアップを継続した。

残り1周(7㎞)になると、アダムもそろそろ限界を迎えつつあるのか、先頭フォルモロとのタイム差は、一時30秒台前半にまで縮まっていたものが、50秒台にまで。

そしてロペスとのタイム差も、一時40秒以上に広がっていたものが、30秒を切るようになってしまった。

メイン集団でもステージ勝利や逆転を狙いたいクライスヴァイクやキンタナなどが飛び出しを見せるなど統率が取れなくなってくる。とくに終盤ではベルナルのアシストや世界チャンピオンのバルベルデが猛牽引を見せた。

そして残り4㎞。ベルナルのアタックをきっかけに抜け出したロペス、キンタナ、マスがついにアダムをチェック。

残り3kmでマスがアタック。総合成績ではあまり上位にいない彼の攻撃に総合上位陣は牽制に陥り、マスはそのまま、フォルモロに続くステージ2位でゴールする。

そしてロペスはアダムやベルナルと同じ集団でゴール。

無事、総合リーダーの座を守り切った。

 

 

総合成績

f:id:SuzuTamaki:20190414134756p:plain

昨年総合2位のまま大会を去ったベルナルが今年はパリ〜ニースの勢いのまま圧勝かな、と思っていたところもあったが、意外と彼の攻撃で状況は決定的にならず、逆にそこから抜け出したロペスがリードを得てそのまま逃げ切った。

ロペスとアスタナが強かったことはもちろん、第3ステージでベルナルを抜け出させなかったキンタナやアダムがしっかりと強い、ということを感じた。ベルナルが抜け出せなかった分、チャンスを掴んだロペスが最後に勝利を掴んだ、といった形だ。

 

今回の結果自体はわずか2つの山頂フィニッシュのうち、1つの山での結果が反映されたものにすぎない。たとえばここにTTが1つ短くても入るだけでも全然違う。それだけでベルナルが総合優勝してもおかしくはなかっただろう。

迫るジロ・デ・イタリアではこんなにも簡単に結果を出すことは難しい。3週間の戦いの中では何が起こるかわからない。

 

今年のジロはこのロペスとベルナル、そして今年UAEツアーとティレーノ~アドリアティコで総合優勝しているログリッチェ、サイモン・イェーツ、さらにはミケル・ランダやトム・デュムランまで入り込んでくる。

今回のカタルーニャはジロと比べればその戦いの規模はほんの一部に過ぎなかったが、それでもジロが実に楽しみなる前哨戦レースだった、とは言えるだろう。

f:id:SuzuTamaki:20190418015812j:plain

 

スポンサーリンク

 

 

スポンサーリンク