前編に続き、3月の重要レースを振り返っていく。
「北のクラシック」がいよいよ本格化。4月頭のロンドとルーベに向けて、各チームの有力選手たちの仕上がり具合を確認していく重要な時期である。
そして、バスクと並ぶこの時期の重要なステージレース「カタルーニャ」も。ジロ、そしてツールに向けて、グランツールライダーたちも徐々に本気の走りを見せ始めるころだ。
↓3月上半期の振り返りはこちら↓
- ノケレ・コールス(1.HC)
- ブレーデネ・コクサイデ・クラシック(1.HC)
- ミラノ~サンレモ(1.WT)
- トロフェオ・アルフレッド・ビンダ(1.WWT)
- グランプリ・ド・ドナン(1.HC)
- ボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャ(2.WT)
- ドリダーフス・ブルージュ・デパンヌ(1.WT)
- ドリダーフス・ブルージュ・デパンヌ女子(1.WWT)
- E3・ビンクバンク・クラシック(1.WT)
- ヘント~ウェヴェルヘム女子(1.WWT)
- ヘント~ウェヴェルヘム(1.WT)
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ノケレ・コールス(1.HC)
ヨーロッパツアー HCクラス 開催国:ベルギー 開催日:3/20
石畳の短い登り「ノケレベルグ」を含んだ周回コースを5周し、最後はその頂上でフィニッシュするというレイアウト。いわゆる「登りスプリント」のゴールだが、勾配も距離もそこまできつくなく、直前の下りも存在するため、必ずしも登りスプリントに強い選手でなくても上位に来ることは多いレースだ。
この日は度重なる落車によって数多くの優勝候補が勝負に絡むことすらできずに終わった。マックス・ヴァルシャイドや、シクロクロス世界王者でそのヨーロッパデビュー戦として期待されていたマチュー・ファンデルポールも、ゴール直前の落車に巻き込まれてしまった。
残った集団の中で最強は間違いなくアッカーマンだった。しかし大柄の彼は、わずかではあっても登り基調のスプリントに対し、十分な力は発揮できなかったのかもしれない。逆に伸びたのが、元SEGレーシングアカデミーで今年からサンウェブに正式加入した新人ケース・ボルだった。彼も190㎝を超える大柄な体格を持つものの、アルデンヌ系のレースでも好成績を残していた彼は、この小さな登りスプリント程度は最も得意としていたのかもしれない。
サンウェブの隠れた新鋭。
これからも注目していくべき選手だ。
ブレーデネ・コクサイデ・クラシック(1.HC)
ヨーロッパツアー HCクラス 開催国:ベルギー 開催日:3/22
昨年まではハンザーメ・クラシックと呼ばれていたこのレースが、ゴール地点をハンザーメから海沿いの街コクサイデに移して生まれ変わった。
ノケレ・コールスと比べても純粋なスプリント勝負になることの多いこのレースで勝ったのは、2日前の雪辱を見事に晴らしたアッカーマン。
今年、クラシカ・デ・アルメリアに続く2勝目となった。
ミラノ~サンレモ(1.WT)
ワールドツアー 開催国:イタリア 開催日:3/23
↓詳細はこちら↓
まるでアルデンヌ・クラシックか何かのようなリザルト。
結局、3年連続でポッジョでのアタックによる逃げ切りor小集団スプリントでの決着となってしまった。
今回の動きのきっかけを作ったのはドゥクーニンク・クイックステップ。
ベルギーチャンピオンジャージのイヴ・ランパールト、ロンド覇者のフィリップ・ジルベール、そして今年のオンループ覇者のゼネク・スティバルなどが、ポッジョの登りの直前の位置取りからポッジョでのピュアスプリンター引き離しのための猛牽引などで、アラフィリップに尽くし続けた。
「誰もが勝てる」チームがゆえにそれぞれがそれぞれの勝利を追い求めて勝機を失う——なんていうのはこのチームには通用しない。誰もが勝てるタレント揃いなのに、その日のエースと決めたもののためにその全てを費やす。このマインドこそが、このチームをクラシック常勝軍団に仕立て上げている。
そして、チームの偉大なるクラシックハンターたちの信頼を背負ったアラフィリップは、実に見事な走りをしてみせた。ポッジョのラスト1kmをフルガスで走り、その後はラスト1kmまで完全温存。最後の1kmで抜け出した危険なアタックを再び自ら捕まえにいくという、力の使いどころを完璧なまでに正解し続けた彼の走りは、神がかっていると言えるレベルだった。一時期のサガンと同じような状態だ。
この状態の彼であれば、今年は本気で世界選手権を狙えるのではないか。
そんな風に確信できる勝ち方だった。
200mを過ぎて、先頭はホッジを牽引するケイセ。
しかし、リードアウターというよりはルーラー的な役割を担うことの方が多いケイセの牽引はさしてハイペースになり切らず、かといってホッジもそこから踏み出すことをためらった。クイックステップのアシストの枚数が少なく、ケイセがゴール前に至るまでの間に牽引する時間が長すぎたのも原因だろう。
その隙に、右手から抜き出てきたのが、アッカーマンを牽引するエリック・バシュカ。
過去この大会でも優勝経験のあるバシュカは、今年に入ってサンフアンなどを見ていてもかなり強いリードアウトを見せている。
この日も、ケイセを軽々と抜いてアッカーマンを先頭に連れていくバシュカ。
そこから残り100mで放たれたアッカーマンの加速に、ホッジはまったくついていくことができなかった。
アッカーマンの純粋な強さと共に、バシュカのリードアウターとしての成長がよく見えた一戦。ボーラは今年も強さを見せつけ続けてくれそうだ。
トロフェオ・アルフレッド・ビンダ(1.WWT)
ウィメンズ・ワールドツアー 開催国:イタリア 開催日:3/24
イル・ロンバルディアの舞台にも近い北イタリアの丘陵地帯で開催された、激しいアップダウンが連続するクライマー/パンチャー向けレース。終盤はアタックの連続となるが、あらゆる攻撃をマリアンヌ・フォスが抑え込む。
最後の下りを終えたあとはフォスのチームメートのアシュリー・ムールマンパシオが先頭牽引。最後のスプリントは2位以下に圧倒的な差をつけてフォスが圧勝した。ゴール40mも手前からガッツポーズを繰り出す余裕があった。
グランプリ・ド・ドナン(1.HC)
ヨーロッパツアー HCクラス 開催国:ベルギー 開催日:3/24
かつては4月に行われていたピュアスプリンター向きのレース。昨年から石畳を多く加えた「パリ〜ルーベ前哨戦」的な意味合いを強くした北フランスのレース。ルーベで使われる石畳も一部含んでいる。
勝ったのはこれが今期3戦目、ヨーロッパでは2戦目となるマチュー・ファンデルポール。4日前のノケレ・クールスではゴール前の落車に巻き込まれ担架で運ばれる場面も映し出されたが、その落車をものともしないような走りで本場シクロクロスさながらの独走を見せつけた。
#GPDenain - @mathieuvdpoel WINS THE RACE!@f_cancellara style! pic.twitter.com/p7ZQ4jYzNH
— La Flamme Rouge (@laflammerouge16) March 24, 2019
ゴール前40㎞で集団から抜け出して逃げを捕まえたマチューは、残り8㎞から独走態勢に。残った逃げを飲み込んだプロトンがこれを追いかけるも、3秒差でこれを振り切って見事な逃げ切り勝利をかました。
ボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャ(2.WT)
ワールドツアー 開催国:スペイン 開催日:3/25~3/31
山、山、山の実にイベリア半島らしいレイアウトが続くステージレース。とはいえ2つある山頂フィニッシュもバスクのような異様な急勾配というわけでもなく、今年も最強クライマーというよりは、チャンスをものにしたロペスが抜け出してのステージ勝利とそのまま総合優勝を勝ち取った。
それでも最終日はサイモン・イェーツにアシストされたアダム・イェーツという恐ろしい存在によって逆転の危機に陥っていたロペス。自らも積極的に前を牽き続けた勇気ある走りの結果、総合リーダーを守りきった。
そしてデヘントの圧倒的な初日逃げ切りと山岳賞、マイケル・マシューズのパリ〜ニース落車からの復活を意味する鮮やかな2勝など、見所は沢山あった。のちにバスクでさらなる覚醒を見せるシャフマンも、この大会で2度のラスト抜け出しによる上位入賞と逃げ切りというアグレッシブさを見せた。
少しずつ、グランツールに向けた仕上がりを見せる各選手たち。バスクの次は、ジロ前哨戦の「ツアー・オブ・ジ・アルプス」だ。
ドリダーフス・ブルージュ・デパンヌ(1.WT)
ワールドツアー 開催国:ベルギー 開催日:3/27
ドリダーフスとは「3日間」の意。すなわち、以前は「デパンヌ〜コクサイデ3日間レース」と呼ばれていたレースが、昨年からワンデー化。その辺りのわかりづらさを排するためか、DAZNではこの名称で統一することにしたらしい。カタルーニャ1周とかも極力現地語で表記するという原則に基づいて、というのもあるだろう。
ワンデーレース化するとともに日程も変更。以前は現在より1週間後、すなわちヘント〜ウェヴェルヘムとロンド・ファン・フラーンデレンに挟まれた水曜日に開催されていたが、昨年からそれをドワーズ・ドール・フラーンデレンと交換。この「ドリダーフス」が、ロンド・ファン・フラーンデレンに至る「フランドルウィーク」の開幕戦となった。
3日間あったときは純粋な北のクラシックのあるステージも用意されていたが、ワンデー化した今はピュアスプリンター向けのクラシックに。ある意味、週末のヘント〜ウェヴェルヘムの前哨戦とも言えそうだ。
しかしさすがにヘントよりはイージーなこの「ドリダーフス」を制したのは、キッテルに代わりピュアスプリンター界の頂点に立ちつつあるフルーネウェーヘン。しかも、ガビリアとヴィヴィアーニという、これまた頂点候補だった男たちを共に打ち倒した。しかも、最後は圧倒的につけ抜けるスプリントで、まるで「ガビリア、もういい。あがくな」とでも言うかのように差し出された手。フルーネウェーヘンという男の圧倒ぶりを印象付けた。
彼らがツールにてまたぶつかる時が楽しみだ。
ドリダーフス・ブルージュ・デパンヌ女子(1.WWT)
ウィメンズ・ワールドツアー 開催国:ベルギー 開催日:3/28
女子レースもまた、オランダの至宝たるピュアスプリンターが勝利を掴んだ。
ワイルドはトラックの世界選手権で合計6つの金メダルを獲得している女子レース界随一のスピードウーマン。2位と3位の選手にバイク1台分の差をつけて圧倒的な勝利を飾った。
ゴール前2㎞の時点で、ワイルドは前から40番目ほどの位置に沈んでいた。逆にコペツキーはそのときすでに前方に位置取っており、ウィーベスもマリアンヌ・フォスの後輪というベストなポジションを手に入れていた。
ゴールまで1.5㎞になって、ワイルドのチームメートであるブレナウアーが前から30番目ほどの位置に上がってきた。このときワイルドも、巧みなバイクコントロールで番手をあげ、ブレナウアーのすぐ後ろに張り付いた。
残り1㎞を切って、ブレナウアーがワイルドを一気に前に引き上げた。一切の風を受けることなく先頭付近に出ることのできたワイルド。頼れるアシストの存在はピュアスプリンターにとっては貴重である。
そして判断力も。残り300mでアマリー・ディデレクセンがスプリントを開始すると、彼女の後ろにはコペツキーやスザンヌ・アンデルセン、マルタ・バスティアネッリなどが続いた。
そしてワイルドの前を走っていたレピストもこのディデレクセンの風下に着こうと進路を右に変えたとき、コースの左側に空間が生まれた。この瞬間を見逃さなかったのがワイルドとウィーベスだった。ゴールまで2.5㎞を、彼女たちは突き抜けた。
E3・ビンクバンク・クラシック(1.WT)
ワールドツアー 開催国:ベルギー 開催日:3/29
ロンド・ファン・フラーンデレンでも使用される急坂を多く使用し、ロンド優勝者との相関性も高い、正真正銘の「ロンド前哨戦」。昨年優勝者のテルプストラは昨年のロンド覇者でもある。
そんな重要レースで、レースを動かす最大の働きをしたのがボブ・ユンゲルスであった。
残り60㎞で集団から抜け出して逃げと合流し、残り30㎞で独走を開始した彼に危機感を抱いたファンアーフェルマートは、自らの足を使って全力でこれを追走した。
その甲斐あって残り7㎞でユンゲルスを捕まえたものの、すでに彼にはスプリントで足を使う余裕はなかった。
最後はオンループ覇者スティバルが余裕の勝利。
今期、ワールドツアー2勝目。
しかしその立役者は紛れもなく、ユンゲルスその人であった。
また、このユンゲルスの走りに対し、最初から逃げていたマルク・ヒルシがかなり良いところまで喰らい続けるタフな走りを披露していた。
昨年のU23世界選手権で優勝しているネオプロ。まだその脚質は確定していないものの、クラシックでの活躍が期待できるリザルトとなった。
ヘント~ウェヴェルヘム女子(1.WWT)
ウィメンズ・ワールドツアー 開催国:ベルギー 開催日:3/31
またワイルドが勝った。しかも、デパンヌのとき同様に、チームメートのリサ・ブレナウアーのアシストを受けて。しかも今回、ブレンナーは終盤にパンクする不運に見舞われていたのだ。それでもなお、彼女は成し遂げた。
「リサはラスト15㎞で2回もパンクしていた。そこからの復帰もあって、彼女は万全な足を残せてはいなかったはずだった。それでも彼女は私をベストなポジションに連れていってくれた。私はただゴールするだけでよかった」
「風のクラシック」「エシェロン・クラシック」の異名を持つ横風のレースであるのは男子と同様。CCCリブなんかは、この横風を利用した分断を仕掛けようと、ゴールまでまだ30㎞以上も残っている時点で集団の前の方に陣取り、プロトン破壊を試みた。しかしこれは十分には成功しなかった。
残り20㎞を切って再びCCCは、そしてミッチェルトン・スコットなども、この横風分断を試みようとしたものの、そこで強すぎる向かい風が吹いてエシェロンを組むことすらできなくなった。
あとは力の勝負だった。最強のアシストと最強のピュアスプリンターが揃ったWNTローターがウィメンズ・ワールドツアー2連勝を飾った。
ヘント~ウェヴェルヘム(1.WT)
ワールドツアー 開催国:ベルギー 開催日:3/31
ロンド・ファン・フラーンデレンの1週間前に開催され、全長250㎞超という長距離でのレースとなる「ロンド前哨戦」。
前半はドーバー海峡沿いの強い横風区間を通過するために「風のクラシック」「エシェロン・クラシック」とも呼ばれているが、まさにその通りのエシェロンが連続する展開が生まれ、その中でサガン、ファンアールト、ファンデルポール、デゲンコルプ、ガビリア、テルプストラなどの超有力選手ばかりが集まった18名の大規模逃げ集団が形成される。
この逃げ集団の大半はやがてメイン集団に追いつかれるものの、その中から4名、ペテル・サガンとマッテオ・トレンティン、マイク・テウニッセン、そして遅れてルーク・ロウだけが抜け出し、先頭集団としてそのままタイム差が縮まらず、すわ逃げ切りか、という状況になりつつあった。
だがここで、この日ずっと後手に回ってきたドゥクーニンク・クイックステップが底力を発揮。イヴ・ランパールトが自らの全てを出し切る猛牽引で、これが終了すると今度はスティバルが、ジルベールが、次々と集団を牽引し始めた。
すべては、昨年悔しい結果に終わったヴィヴィアーニのため。
これによって、残り17kmで4名の逃げは吸収され、以後、散発的なアタックはあるものの、最終的には集団スプリント決戦となった。
ここで、意外なコンビネーションを発揮して見せたのが、UAEチーム・エミレーツだった。
ロビー・マキュアンも指摘したという、クリストフのためのガビリアの見事なポジション取りに関しては、以下の動画で詳しく解説されている。
クラシック最強軍団ドゥクーニンクすら手玉に取った「UAEコンビ」。
今年のツールは、このコンビが支配してしまうのか?
↓次月のレース振り返りはこちら↓
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