23位~12位のランキングを出してからちょっと時間が経ってしまったが、少しずつ作り進めていた全チームランキングの後半、11位~1位を発表していく。
基本的にはエースの総合順位が影響しているランキングではあるものの、必ずしもそうなっていない部分にこそ、総合争い以外での活躍ぶりを意味してもおり、注目すべきポイントとなる。
各選手がどういった成績でポイントを稼いでいるかも表にまとめているため、「勝利」以外での各選手の活躍を確認するのにも参考にしてもらえれば幸い。
23位~12位はこちらから
目次
- 第11位(昨年18位) AG2Rシトロエン・チーム 312pt.
- 第10位(昨年12位) コフィディス・ソルシオンクレディ 312pt.
- 第9位(昨年3位) EFエデュケーション・NIPPO 420pt.
- 第8位(昨年-位) アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ 464pt.
- 第7位(昨年6位) UAEチーム・エミレーツ 624pt.
- 第6位(昨年14位) チームDSM 652pt.
- 第5位(昨年13位) ドゥクーニンク・クイックステップ 708pt.
- 第4位(昨年2位) イネオス・グレナディアーズ 904pt.
- 第3位(昨年4位) モビスター・チーム 972pt.
- 第2位(昨年10位) バーレーン・ヴィクトリアス 1207pt.
- 第1位(昨年1位) チーム・ユンボ・ヴィズマ 2146pt.
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第11位(昨年18位) AG2Rシトロエン・チーム 312pt.
逃げ一覧
- スタン・デウルフ(第7、12、16、18、20ステージ)
- リリアン・カルメジャーヌ(第3、9、10、20ステージ)
- ジョフリー・ブシャール(第7、10、15ステージ)
- クレモン・シャンプッサン(第10、14、20ステージ)
- ミカエル・シェレル(第18、19ステージ)
- ニコラ・プロドム(第14ステージ)
- ダミアン・トゥゼ(第19ステージ)
本命の総合エースがいるわけでも、確実に勝利を狙えるスプリンターがいるわけでもない。ただ、「何か」を起こしてくれる、そんな信頼感があるのが最近のAG2Rだ。
今回も、そんな驚きをもたらしてくれた。
2018年ツール・ド・ラヴニール総合5位、2019年ツール・ド・ラヴニール総合4位、昨シーズンからAG2R入りし、今年はすでにフォーン・アルデシュクラシック2位、トロフェオ・ライグエーリア4位、ツール・ド・ロマンディ区間4位などの実績を重ね続けていた男、クレモン・シャンプッサン。
今年23歳のまだ若い才能が、早くもグランツールでの勝利を掴み取った。
しかも第20ステージの「ミニ・リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ」ステージ。最も疲労が蓄積されているはずのタイミングで、全ての逃げが一旦捕まり、セレクションの末に残った先頭集団でプリモシュ・ログリッチやエンリク・マスらが牽制しあっていたそのわずかな瞬間を狙って、残り1.7㎞から飛び出した。
よくぞ、この3週目の最終局面であれだけの足を残していた。
そしてその一撃で、決めた。この勝利が、今後の彼の栄光のスタート地点となれば良いのだが。
同じく若手のニコラ・プロドム。今年24歳で、昨年はコフィディスのトレーニーではあったが今年はAG2Rでのプロデビューを果たした。
そしていきなりのグランツール出場。そのチャンスを与えてくれたチームに報いる走りを、してみせた。
それは第14ステージ。形成された18名の逃げの中に入り込み、3級と平均勾配14%の超激坂1級山岳を越えたあとのアップダウンの中で、たった一人で18名の中から抜け出した。
追走を仕掛けるのはダニエル・ナバーロやセップ・ファンマルク、アンドレイ・ツェイツなどの実力者たち。
にも関わらず彼は、フィニッシュに用意された1級山岳の中腹となる残り6㎞地点までたった一人で逃げ続けたのである。
最後は18名の中から飛び出してきたロマン・バルデによってぶち抜かれ、最終的にも9位で終わってはしまう。
それでもその走りは本物だった。今後も名前を覚えておくべき存在であることは間違いない。
今年からチーム名もチームの方向性も大きく変化したAG2R。
しかし、グランツールで確実に私たちを沸かせてくれる、そんな魅力はまだまだ健在だ。
第10位(昨年12位) コフィディス・ソルシオンクレディ 312pt.
逃げ一覧
- ヘスス・エラダ(第7、10、14、17、20ステージ)
- フェルナンド・バルセロ(第7ステージ)
- ギヨーム・マルタン(第10ステージ)
- ホセ・エラダ(第18ステージ)
- エディ・フィネ(第19ステージ)
最初に遅れてそれから逃げに乗って順位を一気に上げて最終的にはそれなりの位置に落ち着く・・・という最近よく取る方法を揶揄されがちなギヨーム・マルタンだが、もちろん総合TOP10に安定して入れるようになったこと自体は良いこと。
とはいえ、やはりグランツール向きの安定性ではないかもしれないというのは確かで、そんな中、来年からなんとヨン・イサギレが加入するんだとか。マルタンはもちろん、本来スペインレースのエースを任されているはずのヘスス・エラダはよりその立場が脅かされることは確かだろう。
元NIPPOデルコ・ワンプロヴァンスで移籍時にも注目されていたロシャスがその期待に応えるような総合15位。今年25歳のフランス人。今後の2~3年でどこまでその成績を伸ばしていけるか。キャリアを決定づける重要な時期に差し掛かろうとしている。
そして、2019年10月のツール・ド・ユーロメトロポールにて「信じられない」といった表情での涙の勝利を果たして見せてくれていたピート・アレハールトが、すっかり貫禄あるコフィディスのスプリンターとして成長し区間5位に入り込んでいるというのが個人的にはとても嬉しい。
今年はほかにもトロ=ブロ=レオンで2位など。相変わらず勝利はそのユーロメトロポール以来ないが、このあとも着実に実力を伸ばし、いつかビッグレースでの勝利を期待している。
第9位(昨年3位) EFエデュケーション・NIPPO 420pt.
逃げ一覧
- マグナス・コルトニールセン(第6、10、11、19ステージ)
- ローソン・クラドック(第7、10、19ステージ)
- ディエゴ・カマーゴ(第7、15、17ステージ)
- イェンス・クークレール(第10、14、18ステージ)
昨年総合3位のヒュー・カーシーが序盤から調子が良くなく、第7ステージを最後にリタイア。しかし、今年のEFはそんなこと気にしないほどに絶好調だった。あらゆるファンに衝撃を与えた、マグナス・コルトニールセンの3勝。ログリッチが2位に入るような激坂フィニッシュや逃げ小集団からの余裕のスプリント勝利、さらには最終日個人TTではログリッチに次ぐ区間2位・・・そのあらゆるタイプの勝ち方を狙える万能ぶりに思わず口をついて出た言葉が「ジェネリック・ファンアールト」。ある意味失礼な言い方だが、しかし本当に恐るべき脚質の持ち主だ。
もちろん、この成果は彼独りの力によるものではない。
とくに第12ステージの勝利は、チーム・バイクエクスチェンジによって支配されていた最終局面において、突如としてイェンス・クークレールがコルトニールセンを引き連れて飛び出し、そのまま彼を最高のタイミングで放ったがゆえに成し遂げられた勝利である。コルトニールセンはもちろん、その局面であのリードアウトができるクークレールのタフネスさとスプリント力は驚嘆に値する。
さらに、3勝目を決めた第19ステージも、7名の逃げ集団が残り10㎞の時点で集団とのタイム差が30秒を切ったにも関わらず逃げ切れたのは、7名の中にクラドックがいたからである。
世界最高峰のTTスペシャリストの1人で「根性の男」クラドックが、最後までコルトニールセンのために集団の先頭を牽き続けてくれた。スプリント力ではコルトニールセンに勝てないがゆえに早めのアタックで勝負を仕掛けなくてはならないライバルたちも、クラドックの高速域での牽引を前にして、アタックの芽を摘まれてしまっていた。
そんな完璧なお膳立てがあってのコルトニールセンの勝利である。
コルトニールセンの3勝は間違いなく偉大ではあるが、それは同時に、EFエデュケーション・NIPPOの勝利でもあった。
第8位(昨年-位) アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ 464pt.
逃げ一覧
- レイン・タラマエ(第3、18ステージ)
- シモーネ・ペティッリ(第7、15ステージ)
- オドクリスティアン・エイキング(第10ステージ)
- ヤン・ヒルト(第20ステージ)
今シーズンの頭に・・・いや、それどころか5月の頭の段階で、今年のアンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオがこんな成績を残すなんて予想できていた人はいるだろうか。
昨年シーズン後半になってからの突如のワールドツアー昇格。そこから慌ててかき集めたメンバーは2年前のCCCチーム以上に厳しく、プロチームの亜種のようにしか見えなかったはずのこのチームが、ジロ・デ・イタリアでのまさかのタコ・ファンデルホールンによる逃げ切り勝利。
とはいえそこからさらに勝利が重なるわけでもなく、あくまでもそこで終わりかと思っていたが・・・このブエルタ・ア・エスパーニャでのまさかの覚醒である。
まずは大ベテランのレイン・タラマエによる逃げ切り勝利とマイヨ・ロホ着用。
こちらもまたベテランの域に達しつつあるルイス・メインチェスによる復活と言っても良いような走りと、それを支えたヤン・ヒルトのさすがの山岳アシスト力。
メインチェスは残念ながら総合10位という記録のまま第19ステージで落車リタイアしてしまうものの、彼らの走りはこのチームが十分にグランツール総合争いをできる可能性を感じさせてくれた。メインチェスはまだ来年の契約はないが、ぜひ継続してもらいたいところ。
そして何よりも、オドクリスティアン・エイキングのまさかのマイヨ・ロホ7日間着用。第2週目が例年と比べ難易度の低い週だったとはいえ、第15ステージでも6位に入る登坂力は本物だった。それを証明するように、最終的にも総合11位。もはや彼をパンチャーと形容するのは相応しくないのかもしれない。
果たしてこのあと彼が、このチームが、どういう進化を遂げてくるのかは予想がつかない。最近もまたタコ・ファンデルホールンが勝利していたりと好調なので、間もなくやってくるであろうワールドツアーライセンス更新時期も無事に乗り越えていってほしい。
第7位(昨年6位) UAEチーム・エミレーツ 624pt.
逃げ一覧
- ジョセフロイド・ドンブロウスキー(第3、15、17ステージ)
- ダビ・デラクルス(第17ステージ)
- マッテオ・トレンティン(第7、10、17、20ステージ)
- ヤン・ポランツ(第7、19ステージ)
- ライアン・ギボンズ(第6、14、20ステージ)
- ラファウ・マイカ(第9、15、18ステージ)
- ルイ・オリヴェイラ(第10、19ステージ)
元もタデイ・ポガチャルが出場予定だった中で、さすがにオリンピックなどの疲れもあり、出場を取りやめ。にもかかわらず、十分な成績を残したと思われる。チームとしても間違いなく強くなってきている。
まずはスプリント。前哨戦ブエルタ・ア・ブルゴスでは2勝するなどエースとしての風格を見せ始めていたモラノは残念ながら早期にリタイアしてしまった。その後はトレンティンがエースとして働くが、フロリアン・セネシャルにギリギリで敗北した第13ステージでの2位が最高位となってしまった。
第2ステージで見せた、モラノのためのトレンティンの鬼牽きはアルペシン・フェニックスもドゥクーニンク・クイックステップも歯が立たない最強無比なリードアウトであった。
モラノがしっかりと残り、この2人によるコンビネーションを続けることができれば、もしかしたらチャンスはあったのかもしれない。
来年はパスカル・アッカーマンやアルバロホセ・ホッジなど、スプリンター勢の強化もさらに図られることになり、それがどんな結果をもたらしていくのかも楽しみだ。
そして総合勢では、ラファウ・マイカによる実に4年ぶりの勝利。残り150㎞を切ったところにある1級山岳の時点ですでにファビオ・アルとマキシム・ファンジルス(ロット・スーダル)の2人との先頭集団を形成しており、すぐにファンジルスが脱落しやがてアルも力で引きちぎり残り90㎞から独走。
実質的に100㎞以上の独走を果たしたと言っても良い、圧倒的な強さ。これこそが、2回ツール山岳賞に輝いたこともある男の実力だ。今年のツールでのポガチャルに対する山岳アシストも強力で、今後もこのチームにとってなくてはならない存在になってくれるような気がする。
そしてダビ・デラクルス。2016年のクイックステップ所属時代と昨年と同じ、総合7位を死守。第18ステージまでは総合TOP10にも入れていなかった中で、ライバルのリタイアなどにも助けられた面はあるものの、第20ステージの「ミニ・リエージュ~バストーニュ~リエージュ」ステージの難しいサバイバル展開も生き残り、そして最終日の個人TTでは高いTT力を見せて見事に総合7位にギリギリジャンプアップした形だ。
決して総合上位が安定と言える選手ではない。だが、第18ステージでの果敢な飛び出しからの強烈なクライミングで3勝目を狙って独走していたマイケル・ストーラーをあっという間に捉えた瞬間など、「魅せる」走りをしてみせてくれる男だ。
今後もやや地味ながらも、確かな実力をもった仕事人として楽しみに見ていたい。
第6位(昨年14位) チームDSM 652pt.
逃げ一覧
- マイケル・ストーラー(第7、10、15、17、18、20ステージ)
- マーティン・トゥスフェルト(第7、9、10、15ステージ)
- ロマン・バルデ(第7、9、14、20ステージ)
- テイメン・アレンスマン(第7、10、15、18ステージ)
- クリス・ハミルトン(第7、15、20ステージ)
- ニコ・デンツ(第17、19ステージ)
- チャド・ハガ(第12ステージ)
昨年のツール・ド・フランスで大活躍したこのチーム(当時はチーム・サンウェブ)。しかしそのときの筆頭格だったマルク・ヒルシも電撃移籍し、今年のツールはイマイチだった。さらに多くの有力選手の流出もささやかれ、昨年と比べてこのチームに関するイメージはやや落ちているような印象も・・・
といった中で、このブエルタでは大成功。これまでプロ勝利のなかったマイケル・ストーラーが直前のツール・ド・ランから突然の大躍進。ステージ2勝。どころか第18ステージではあわや3勝目、といった強い走りを見せていた。
さらにロマン・バルデも、前哨戦ブエルタ・ア・ブルゴスでの3年ぶりのステージ優勝を果たした勢いをそのままに、このブエルタでも逃げ切り勝利。しかも、目覚ましい走りを見せてくれていたニコラ・プロドムを颯爽と抜き去っていくその走りは、さすが元ツール・ド・フランス総合2位と思わせるような強い勝ち方であった。
ダイネーゼも勝てはしなかったものの、十分に今大会5本の指に入るスプリント力を見せてくれた。少なくともマイケル・マシューズよりは、強かったかな・・・。
そんな活躍を見せてくれたDSMメンバーだが、その中でも突出していたストーラーは残念ながら来季からFDJへ。戦力流出は止まらないが、思いのほかチームにフィットしている様子のバルデを中心に、新しい時代を創り上げていってほしい。
第5位(昨年13位) ドゥクーニンク・クイックステップ 708pt.
逃げ一覧
- アンドレア・バジョーリ(第10、15、19ステージ)
- マウリ・ファンセヴェナント(第10、17、18ステージ)
ファビオ・ヤコブセン、完全復活。昨年のあの大怪我から半年、春に復帰となったときは、今年は走れるだけでもすごい、勝利など狙わなくても十分だ、と思っていたというのに、まさか今年最強スプリンターの一角になろうとは・・・。ブエルタ後も絶好調でグーイクス・パイルとユーロメトロポール・ツアーを連勝。安定感は抜群である。
第4ステージではグルパマFDJのデマールトレインが万全の構えでフィニッシュ目前にまでやってきていたが、そこでどこからともなく現れたヤコブセンが颯爽と勝利を掴む。このときは彼は彼自身の強さが圧倒的であった。
一方、第8ステージでは、残り1㎞からベルト・ファンレルベルフが先頭を全力牽引し、UAEチーム・エミレーツやグルパマFDJに決して前を奪わせない圧倒的な支配力を見せるとともに、残り600mから先頭を担ったフロリアン・セネシャルが残り185mまでの400m以上を先頭のまま駆け抜けていった。
さらにこのチーム力の高さがより存分に発揮されたのが第13ステージ。ライバルチームのリタイアが相次ぎ力を失っていたというのもあったが、残り5㎞からドゥクーニンク・クイックステップがひたすら先頭を支配。残り2㎞の時点でもヤコブセンの前にアシストが4枚。最終的にはヤコブセンがメカトラ?で後退してしまうが、それでもなお3名残っており、勝負するには十分な体制であった。
あとは、ヤコブセンの代わりのエースを務めることとなったセネシャル次第。だが、彼もまた、十分にエースを任されるだけの力量を持つ男ではもちろんあった。対するはマッテオ・トレンティン。過去ブエルタで同シーズン4勝も経験している強敵だったが、ファンレルベルフの発射を受けて、しっかりとセネシャルがこれを倒した。
不意に訪れたチャンスを見事掴み取ったセネシャル。
やはりどこでもウルフパックは確かにウルフパックであった。
第4位(昨年2位) イネオス・グレナディアーズ 904pt.
逃げ一覧
- ディラン・ファンバーレ(第10、17ステージ)
- パヴェル・シヴァコフ(第7ステージ)
- ジョナタン・ナルバエス(第10ステージ)
- トム・ピドコック(第14ステージ)
- サルヴァトーレ・プッチョ(第18ステージ)
当初はベルナルとアダム・イェーツとカラパスのトリプルエース体制が想定されていたが、ツール、東京オリンピックと活躍し続けていたカラパスがさすがの息切れでリタイア。最終的にはベルナルとアダム・イェーツのダブルエースとなった。
とはいえ、結果から見れば「失敗したダブルエース」の典型にはなってしまったように思える。すなわち、アダム・イェーツが好調な時はベルナルが不調で、ベルナルが好調のときはアダム・イェーツが不調で・・・3~4年前のモビスターのバルベルデとキンタナのペアを思い出させるような状態だった。
だが、その中でも、第17ステージのベルナルのサプライズなアタック。リザルトだけ見れば失敗の部類に入るかもしれないが、「イネオス最強時代」ではないからこそのこのチャレンジマインドの発露は感情を揺さぶるものがあった。同時期のツール・ド・ラヴニール最終ステージのカルロス・ロドリゲスも同じように逆転を狙ったロングアタックを敢行して最終的には失敗に終わるが、ともにこのチームの2020年代を楽しみに感じさせる瞬間であった。
そしてアダム・イェーツにとっても、今大会は十分に成功だったと言っても良いようにも思っている。これまで、ツール・ド・フランスのエースとして期待され、挑むことの多かったアダムであったが、なかなか結果を出せずにいた彼が、エースの座を失う恐れすらあった中でイネオスに入り、シーズン初頭から結果を出し続けて・・・そして掴んだこのブエルタ・ア・エスパーニャでの複数エースの座で、キャリア最大の成績を残した。
あとはここが「頂点」になってしまうのか。それとも?
もう1人、注目していたのはトム・ピドコックの存在であった。彼にとって初のグランツール。東京オリンピックマウンテンバイクで金メダルを獲った直後の絶好調だった彼は、今年同じく初のグランツールを経験したマチュー・ファンデルプール同様、いきなりの勝利なんかもありうるんじゃないかと期待していたが・・・結果としては、割とアシストに専念し、そこまでアグレッシブな動きを見せることはなかった。
とはいえ、才能の片鱗は見せつけた。
とくに第14ステージ。ロマン・バルデが勝利したこの日の山岳の終盤で、ひたすらアタックを繰り返していた姿は印象的であった。
結果としてはそこから抜け出せたわけではなく最終的には4位。だが、厳しいステージの終盤で誰よりも積極的に動けているそのタフネスさはさすがである。ガチ山岳ではまだあまり走れていないマチュー・ファンデルプールとはまた違った強さを感じさせる、今後が楽しみになる選手である。
スカイ/イネオスが最強である時代は明確に終わった。しかし、彼らの走りは引き続き魅力的であることは間違いない。
これからも彼らの熱いグランツール、そしてクラシックを楽しみにしている。
第3位(昨年4位) モビスター・チーム 972pt.
逃げ一覧
- ネルソン・オリヴェイラ(第7ステージ)
- イマノル・エルビティ(第18ステージ)
- カルロス・ベローナ(第7、15ステージ)
イネオスとは逆に、これまで散々課題となってきていた「ダブルエース」を成功させたと言っても良いのが今年のブエルタのモビスター・チーム。演じたのはエンリク・マスとミゲルアンヘル・ロペスという、チームにとってはニューフェースにあたる選手たち。マスの調子の良さもそうだが、第18ステージなんかは、ロペスの勝利と後続でログリッチを抑え込むマスの存在など、実に見事な走りだった。ログリッチが強すぎたのは仕方ないにしても、2015年ツール・ド・フランスのキンタナとバルベルデのように、表彰台の2位と3位を独占するというのは十分に可能な状況であった。
それだけに、第20ステージでのロペスの離脱は残念であった。その後ロペスはチーム自体を離れることが確定。今後、マスを中心に、この良い流れを継続していけるか。
また、2人のダブルエース体制がうまくいっていただけに、バルベルデの1週目からのリタイアも痛かった。彼が最後まで残っていたら、展開もまた違っていたのかもしれない。
第2位(昨年10位) バーレーン・ヴィクトリアス 1207pt.
逃げ一覧
- マーク・パデュン(第17、19、20ステージ)
- ヤン・トラトニク(第14、17ステージ)
- ジャック・ヘイグ(第7ステージ)
- ダミアーノ・カルーゾ(第9ステージ)
- ワウト・プールス(第15ステージ)
今期のバーレーンは本当に強い。誰が、ではなく、誰もが。ジロ・デ・イタリアではカルーゾが総合2位。ツール・ド・フランスではモホリッチが2勝とディラン・トゥーンスが1勝、山岳賞争いでもワウト・プールスが活躍し、クリテリウム・ドゥ・ドーフィネではパデュン、そしてビンクバンク・ツアーからパリ~ルーベにかけてはソンニ・コルブレッリが・・・。
そんな絶好調バーレーンのブエルタでの主役は、ツール・ド・フランス序盤でリタイアしてしまった新加入エース、ヘイグ。本来のエースのランダが(ジロ同様に)序盤でレースを去ってしまったものの、これもまたジロ、ツール同様にすぐさまスイッチ。「最強」でないからこその自由で柔軟なスタイルで、最終的にヘイグが安定した走りで総合3位に食い込んだ。
そして、2018年ツール・ド・ラヴニール区間2勝・総合3位のジーノ・マーダーの「ダブルエース」。最終的には総合5位と、アタックなどがあったわけではないためあまり目立たなかったものの、冷静に考えるとものすごいリザルトを叩き出してくれた。まだ今年24歳である。ベルナルを抑えての新人賞は、今年のグランツ―ルで最も衝撃的な成績といってもいいかもしれない。
パデュンも要所要所で重要なアシストを行い、チームとしての強さをしっかりと発揮してくれた。
総合3位でありながらポイント総合では2位に入っていること自体が、チーム力を意味するリザルトと言えるだろう。
第1位(昨年1位) チーム・ユンボ・ヴィズマ 2146pt.
逃げ一覧
- セップ・クス(第7ステージ)
- ステフェン・クライスヴァイク(第15ステージ)
- クーン・ボウマン(第18ステージ)
圧倒的な強さ。昨年は総合争いの最終ステージとなった第17ステージでリチャル・カラパスに逆転される可能性もあるなどギリギリの戦いではあったが、今回は第1週からその強さが圧倒的であった。それこそ、ツール・ド・フランスのタデイ・ポガチャルのように。
これで史上3人目となる、ブエルタ・ア・エスパーニャ3連勝の達成。来年も続けて勝利することで、史上初の快挙となる。実力的には問題ないだろうが、最初からそれを狙うということはなさそうだし、果たして?
もう1人、その活躍が喜ばしかったのがセップ・クス。もちろん、彼は2年前のブエルタ、昨年のツール・ド・フランスなどでも、常にプリモシュ・ログリッチの右腕として活躍し、ときにログリッチ以上の登坂力を感じさせるような素晴らしい走りを見せていた男であった。
一方で、ステージレースにおける安定感はさほどでもなく、TTも決して得意ではないという特性から、エースを任される今年前半のレースなんかでは思ったほどの成績を出せずに終わっていた。むしろ、昨年のブエルタから徐々に頭角を現しつつあった新鋭ヨナス・ヴィンゲゴーが、今年のイツリア・バスクカントリーやツール・ド・フランスでは大活躍してしまった。
早くもクスの存在感が薄れてきてしまったか?と思っていたところで、今回のブエルタでは再び「右腕」ぶりを披露。さらには自身も総合8位と、十分すぎるリザルトを残した。
最強ではないかもしれないし完璧ではないかもしれないし、今後も「グランツールのエース」としてはヴィンゲゴーの方が可能性があるかもしれない——が、それでもこのクスという男が、これからもログリッチの信頼する右腕として活躍し、かつときに自身のステージ勝利も狙ってくれることを期待したい。
新加入のサム・オーメンも、イツリア・バスクカントリーに続き、良い働きをこなしてくれていたように思う。2020年代の新たなグランツール最強チームの一角として、とくにチーム力においてはUAE以上のものを見せるチームとして、引き続き存在感を示し続けていってほしい。
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