総合争いにおいては「無風」となった第2週。だが、コースとしては一筋縄ではいかないステージが続き、3人の「2勝目」が生まれ、スプリントでもまさかのアシストが勝利するなど、波乱の展開が続いた。
5~6年前からのファンにとっては懐かしい顔ぶれによる嬉しい勝利も・・・。
スペイン南岸アンダルシアから北上するブエルタ・ア・エスパーニャ2021第2週を振り返る。
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目次
- 第10ステージ ロケタス・デ・マル〜リンコン・デ・ラ・ビクトリア 189㎞(丘陵)
- 第11ステージ アンテケラ〜バルデペーニャス・デ・ハエン 133.6㎞(丘陵)
- 第12ステージ ハエン〜コルドバ 175㎞(丘陵)
- 第13ステージ ベルメス~ビリャヌエバ・デ・ラ・セレナ 203.7㎞(平坦)
- 第14ステージ ドン・ベニト~ピコ・ビリュエルカス 165.7㎞(山岳)
- 第15ステージ ナバルモラル・デ・ラ・マタ~エル・バラコ 197.5㎞(山岳)
第1週の全ステージレビューはこちらから
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第10ステージ ロケタス・デ・マル〜リンコン・デ・ラ・ビクトリア 189㎞(丘陵)
全体的にはフラットだが、ラスト15.8㎞地点に獲得標高500m近くの2級山岳が用意された一筋縄ではいかないステージ。
スプリント勝利は望むべくもないこの日、ユンボ・ヴィスマもマイヨ・ロホを手放したい思いがあり、31名もの大規模な逃げ集団が生まれた。
最大で13分という、今大会ここまでで最長のタイム差をつけて許された逃げ集団の中からこの最後の2級山岳プエルト・デ・アルマチャール(登坂距離10.9㎞、平均勾配4.9%)の登りでマイケル・ストーラーがアタック。おそらくは山頂まで3㎞の時点。
ファンセヴェナント、シャンプッサンといった有望な若手ライダーたちが追走集団を形成して追いかけるも届かず。わずか1か月前に長く切望し続けたプロ初勝利を遂げたばかりだったストーラーが、その1ヵ月後にはこうして、グランツールで2勝目を飾っているという奇跡。
思い切りの良さと純粋な強さとが、この瞬間を実現した。
そして無風と思われていたメイン集団でも動きが。
この最後の2級山岳の登り初めのところでプリモシュ・ログリッチが突如アタック。
完全なる不意打ちに、総合2位エンリク・マスもすぐには反応できず、総合3位のチームメート、ミゲルアンヘル・ロペスに牽かれながらこれを追う。
マスに20秒差をつけて山頂を通過したログリッチ。その先の下りもアグレッシブに仕掛けていったのだが——ストーラーもマスもレース後に「慎重に下った」とコメントしていた道路は非常に滑りやすくなっており、一度バランスを崩しかけるシーンを見せたログリッチは、その後実際に落車してしまう。
幸いにも大きな怪我はなかったようだが・・・せっかく突き放していたマスたちに追い付かれ、最終的には同タイムフィニッシュとなった。
とはいえ、この集団にいたのはマスとロペスとチームメートのセップ・クスと総合4位のジャック・ヘイグ、総合9位のフェリックス・グロスシャートナーくらいであり、総合5位エガン・ベルナルと総合6位アダム・イェーツからは40秒近いタイム差を奪うことに成功。
全くの報酬無しではなかったものの・・・それでもやはり、ちょっと不用意な下り方だったように思う。
なお、この日ユンボは目論見通りマイヨ・ロホを脱ぎ捨て、代わりにこれを手に入れたのがアンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオのオドクリスティアン・エイキング。
第3ステージで勝利したレイン・タラマエに続き、チームから輩出された今大会2人目のマイヨ・ロホ着用者。シーズン冒頭に苦しい時期を過ごしていたチームにとっては、とても大きな達成の1つとなった。
第11ステージ アンテケラ〜バルデペーニャス・デ・ハエン 133.6㎞(丘陵)
アンダルシアの海岸沿いから北上して内陸部へ。小刻みなアップダウンの果てに訪れるのは、ラスト1㎞に待ち構える最大勾配30%の超激坂。
逃げは5名。最大でも2分程度の差しかつけられず、逃げ切りは難しいかと思われていたが、残り7.8㎞地点に用意された2級山岳プエルト・デ・ロクビン(登坂距離8.8㎞、平均勾配5%)の登りで第6ステージでも勝利したマグナス・コルトニールセンがアタック。単独で抜け出すことに成功する。
この山頂ポイントは第9ステージで勝利して山岳賞ジャージも着用したダミアーノ・カルーゾが2位通過を果たし、山岳賞ポイントの累計を31ポイント。2位のロマン・バルデに対して9ポイント差を付ける格好となった。
その後もコルトニールセンは独りで逃げ続け、15秒のタイム差を残した状態でラスト1.2㎞の激坂フィニッシュに挑む。
すぐさまプロトンの先頭にはセップ・クスが躍り出てきて、エースのプリモシュ・ログリッチを牽引する。
クスが離れるとそこからはログリッチが先頭で加速。そこに(実質的な)総合2位エンリク・マスも食らいつき、完全な総合系による争いが開始された。
コルトニールセンが捕まるのも時間の問題――かと思ったが、残り500m時点で、コルトニールセンのすぐ後ろにいるマスとログリッチが互いに互いを見やり牽制する様子。これは、いけるか?
いや、その後マスが思い切って加速。と同時にコルトニールセンとの距離が一気に縮まっていく。
コルトニールセンも後ろを振り返ってしまう。その瞬間、彼を追い抜いていくマスとログリッチ。
先行していたマスに残り50mでログリッチが並びかけ、そのまま再加速。
今年のラ・フレーシュ・ワロンヌでもジュリアン・アラフィリップに次ぐ2位を記録していた激坂ハンターログリッチが、さすがの強さを見せつけた。
ボーナスタイム込みでマスから9秒を奪い取ったログリッチ。これで総合タイム差は35秒に。
前日は落車でケチのついてしまった彼が、それをすぐさま取り返すような鮮やかな今大会2勝目であった。
そしてマイヨ・ロホを着るオドクリスティアン・エイキングもしっかりと11秒遅れでフィニッシュ。マイヨ・ロホは問題なく守り切ることに成功した。
第12ステージ ハエン〜コルドバ 175㎞(丘陵)
この日もなかなか一筋縄ではいかないステージ。ラスト17.2㎞地点に「14%峠」というそのまんまな名称の登りが待ち構え、スプリンターにはいやなレイアウトとなってしまった。
逆にマイケル・マシューズやマッテオ・トレンティンなど、ピュアスプリントではなかなか勝つのは難しい登れるスプリンターたちにとってはチャンス。
そして逃げ切りにとっても。序盤から激しい打ち合いを経たうえで、最終的に形成された15名の逃げは、やはりこの最後の2級山岳アルト・デル・14%(登坂距離7.2㎞、平均勾配5.6%)の登りでバラバラになり、最後はマキシム・ファンジルス(ロット・スーダル)が独りで逃げ続けるが、これも登りの途中のラスト21㎞地点で捕まえられてしまった。
そこから新たな展開が。集団からジェイ・ヴァイン(アルペシン・フェニックス)、ジュリオ・チッコーネ(トレック・セガフレード)、ロマン・バルデ(AG2Rシトロエン・チーム)、セルジオ・エナオ(チーム・キュベカ・ネクストハッシュ)の4名が抜け出す。
バルデが2級山岳の山頂を先頭通過。山岳賞ポイントの合計を27ポイントにまで伸ばし、首位のカルーゾとのポイント差を4ポイントに縮める。
そしてその後の下りも利用してプロトンとのタイム差を30秒近くにキープ。逃げ切りを図った。
だが、なんとかして勝利がほしいチーム・バイクエクスチェンジが、マシューズのために強力に集団牽引。マッテオ・トレンティンも、一度は集団からアタックして先頭にブリッジしようとする動きを見せるが引き戻され、この試みが失敗に終わると今度はプロトンの中でUAEチーム・エミレーツが彼のための牽引を開始した。
この2チームによるペースアップでさすがに逃げもすべて捕まえられて、いよいよ集団スプリント。
引き続きバイクエクスチェンジがトレインを形成して完璧な体制か――と思っていた中で、最終カーブで突如、EFエデュケーション・NIPPOのイェンス・クークレールが、エースのマグナス・コルトニールセンを率いて猛加速。
あっというまに先頭を奪い取り、そこからコルトニールセンが発射。その背後についていたアンドレア・バジョーリが追いすがるが届かず。マシューズもバジョーリの後輪を捉えるので精一杯だった。
マグナス・コルトニールセン。過去ブエルタで集団スプリント2回+今日のような登りのあとの小集団スプリントで1回の計3回勝利している男が、今大会は山岳ステージでの逃げ切りという第6ステージに続く2勝目。ブエルタでの勝利数を計5回に伸ばした。
ツール・ド・フランスでも逃げ切り勝利をしていたりと、まさに万能ライダー、コルトニールセン。今後もコンスタントに勝利を稼いでくれそうな男だ。
第13ステージ ベルメス~ビリャヌエバ・デ・ラ・セレナ 203.7㎞(平坦)
第1週には4回も登場したスプリンターのための平坦ステージも、第2週は4日目にあたるこの日にようやく登場。そして第2週では唯一のスプリンターズステージとなった。
とはいえ、ここまでの過酷な展開ですでに今大会2勝しているジャスパー・フィリプセンがリタイア済。グルパマFDJのエース、アルノー・デマールも、発射台のジャコポ・グアルニエーリを失っており、戦意喪失気味。
そんな中、ほぼ一強状態となっていたドゥクーニンク・クイックステップが圧倒的な組織力を見せつけて残り5㎞から常に集団先頭を支配し続けた。
残り2㎞時点でもまだファビオ・ヤコブセンの前にアシストが4枚。
このまま必勝態勢か・・・と思われていた中で、ヤコブセンが突如メカトラ。戦線離脱してしまう。
それでもまだ、3枚残っている。ゼネク・スティバルに牽かれたベルト・ファンレルベルフとフロリアン・セネシャル。その後ろにはマッテオ・トレンティンとアレクサンダー・クリーガーに牽かれたサッシャ・モドロ。
残り500mでクリーガーが強烈な加速で先頭を奪い取る。この5㎞でドゥクーニンク以外が先頭を獲るのは初めてのことであったが、いかんせん早すぎた。おそらくはモドロのためのアシストのつもりだったのだろうが、そのモドロが後続から抜け出せずにいた。
案の定早々に力を失ったクリーガーが踏み台にして、ベルト・ファンレルベルフがセネシャルを発射。そこにトレンティンも食らいつくが、セネシャルの勢いはすさまじく、結局トレンティンに一度も横に並ばせることなくそのまま先頭でフィニッシュラインに飛び込んだ。
北のクラシックにもめっぽう強いクラシカル・スプリンター。ティム・メルリールとの一騎打ちなどでは敗れるなど、第一線級のスプリントでは力負けすることはあるものの、今回は突如その手の中に零れ落ちてきたチャンスを見事掴み取る勝利を果たした。これにて、プロ3勝目にしてグランツール初勝利。さらなる進化が期待できる男だ。
ドゥクーニンクの破壊的な牽引により集団はバラバラに。10位に入り込んだベルナルは、そのどさくさに紛れてプリモシュ・ログリッチたちに対して5秒を奪い取ることに成功した。
しかしもちろん、その5秒はこの週末に待ち受ける山岳2連戦を前にしたらささいなものである。
いよいよ第2週における本格的な総合争いが開幕する。
第14ステージ ドン・ベニト~ピコ・ビリュエルカス 165.7㎞(山岳)
コース中盤に登坂距離2.8km・平均勾配14%という超激坂が登場したものの、フィニッシュまでは距離もあり、逃げ集団においても総合勢においてもそれほど大きなスパイスにはならなかった。
完全に容認され最大で14分近いタイム差を許された18名の逃げ集団の中から、残り30㎞を切ってネオプロ1年目の24歳ニコラ・プロドム(AG2Rシトロエン・チーム)が独走を開始するが、最後の登りのラスト6㎞で、後続から飛び出してきたロマン・バルデによって追い抜かれた。
最後まで踏み続けたバルデは、3年ぶりの勝利となった前哨戦ブエルタ・ア・ブルゴスに続く今季2勝目。そして、グランツールでの勝利としては2017年のツール・ド・フランスでの勝利以来4年ぶり。
常に「変化」を求め続けてきた男が、新天地にて復活を告げる勝利を掴み取った。
最終的にエラダと共に追走集団を形成し、3位に入り込んだジェイ・ヴァインも、今年プロ1年目の選手だが残り35㎞地点で激しい落車を経験。そのときは動けないような姿も見せていた彼が、執念での先頭集団復帰からの、アグレッシブな攻撃でこの位置を手に入れた。
怪我の影響さえなければ、残りのステージでの活躍も期待できそうな男だ。
総合勢では大きな争いは起きず。最後の登りは終始ユンボ・ヴィスマがコントロールし続け、残り3㎞を切ったところでミゲルアンヘル・ロペスがアタックしたが、最終的にはログリッチから4秒しか奪うことはできなかった。
逆にここでアダム・イェーツが遅れるなど、好調なモビスターに比べてイネオスはやや苦しい状況が続く。
一方でログリッチと同タイムでフィニッシュしたベルナルが復調気味であれば、この先のステージが楽しみになるのだが・・・。
第15ステージ ナバルモラル・デ・ラ・マタ~エル・バラコ 197.5㎞(山岳)
2つの1級山岳と2級・3級の計4つの山岳ポイントを擁するステージながら、最も厳しい1級山岳も登坂距離は長いものの勾配としてはそこまで厳しくはなく、その山頂からフィニッシュまでは40㎞弱も残っており、ラストも短く緩い3級山岳と下りフィニッシュということで、2週目の最終日としてはそこまで厳しいステージは用意されなかった。
ゆえに、勝負権は逃げに託された。ただ、この逃げの作られ方も、やや特殊だった。
序盤、あまりにも激しいアタックの打ち合いによって逃げが作られては消えの繰り返しとなった影響か、最後の最後は最初の1級山岳の登りでふらふらと飛び出した3名の選手が先頭に立つことになった。
2015年ブエルタ・ア・エスパーニャ覇者ファビオ・アルと、同年総合3位のラファウ・マイカ。そしてここ数日積極的に逃げに乗っている若きマキシム・ファンジルス。
ファンジルスはさすがにこの名ライダーたちについていくことはできず登りの途中で脱落し、最初の1級山岳の山頂はマイカとアルの2人で先頭通過を果たしていくことになった。
その後、2つ目の2級山岳の登りの途中、その山頂まで3.5㎞、フィニッシュまでは87.3㎞の地点で、マイカがアルを突き放して独走を開始。
彼らを追いかける21名の追走集団、さらにそこから最終的に単独で飛び出したステフェン・クライスヴァイクを寄せ付けることなく、マイカがそのまま、2017年のブエルタ・ア・エスパーニャでの勝利以来、4年ぶりとなる勝利を掴み取った。
2017年にボーラ入りしてから山岳エースを任されてきた中で、ステージレースでの総合上位は数あれど、勝利自体はほとんど手にすることがなかった。
そんな中、タデイ・ポガチャルという若き実力者の「アシスト」として招かれた今年、早速手に入れた自らの勝利。
運命とは数奇なるもの。ツール・ド・フランスでのアシストぶりも見事であり、ここから彼の新たなキャリアが始まっていくと思うと感慨深い。
とくに最後のシーン、フィニッシュ直前の、カメラに向けて勝利を確信し笑顔を見せる彼の姿は、2015年のツール・ド・フランスで同様に独走逃げ切り勝利をしたときと同じ表情であり、心に迫るものがあった。
後続のメイン集団ではやはり総合争いはほとんど起こらず。
唯一、アダム・イェーツが終盤にアタックして抜け出し、ログリッチらから15秒を奪い取ったくらいだが、前日に失った12秒を取り返しただけとも言える。
総合首位エイキングとマルタンを一旦無視すると、(実質)総合首位ログリッチと2位マスとのタイム差は35秒。3位ロペスとは1分22秒。4位ヘイグとは1分53秒。5位ベルナルとは2分34秒。6位アダムとは2分47秒。
これは、前週末の総合リザルトとほとんど変化がない。ベルナルとアダムが40秒ずつ失っているくらいだ。
総合争いにおいては明白な「無風」であった第2週。
しかし第3週は悪名高き「コバドンガ」と「登坂距離15㎞・平均勾配10%の史上最凶の登り」が待ち構えている。
総合争いが大きく動くのは間違いない。
果たしてどうなるか。楽しみだ。
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