ブエルタらしからぬ平坦ステージが多めの今年の第1週も、後半戦になってくるとさすがに山が増えてくる。
とくに最終日第9ステージは今大会最初の超級山岳山頂フィニッシュであり、総獲得標高4,500mの超級山岳ステージ。
総合争いにおける大きな大きな動きも巻き起こっていく。
激動のブエルタ・ア・エスパーニャ2021第1週後半第6~9ステージを丁寧に振り返っていく。
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目次
- 第6ステージ レケナ〜アルト・デ・ラ・モンターニャ・デ・クリェラ 158.3㎞(山岳)
- 第7ステージ ガンディア〜バルコン・デ・アリカンテ 152㎞(山岳)
- 第8ステージ サンタ・ポーラ〜ラ・マンガ・デル・マール・メノール 163.3㎞(平坦)
- 第9ステージ プエルト・ルンブラレス〜アルト・デ・ベレフィケ 188㎞(山岳)
第1~第5ステージはこちらから
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第6ステージ レケナ〜アルト・デ・ラ・モンターニャ・デ・クリェラ 158.3㎞(山岳)
ステージ前半は下りと平坦だが、ラスト1.9㎞から最大勾配21%の激坂が現れる。これこそブエルタといった感じのレイアウトのステージだ。
この日は序盤から抜け出しては引き戻されといった感じのアタック合戦が暫く続いていくが、50㎞ほど消化したところでようやく5名の逃げが生まれた。
そして残り30㎞を前にして横風区間に突入し、モビスター・チームが積極的に先頭牽引。一時はマイヨ・ロホを着るケニー・エリッソンドや昨年総合2位ヒュー・カーシーが遅れる場面も。
この混乱の中で思ったよりも逃げとのタイム差が縮まらず、残り8.5㎞で1分以上のタイム差がまだ残っていた。
残り3.3㎞でトム・ピドコックを先頭にイネオスも先頭を牽き始め、残り2.9㎞でタイム差は32秒、残り2㎞でタイム差は20秒と少しずつ縮めていく。
そしていよいよ、最後の登り、「クリェラの気象観測所への登り」が開始される。登坂距離1.9㎞、平均勾配9.4%、最大勾配21%。
昨年のボルタ・ア・ラ・コムニタ・バレンシアナの第2ステージでも使われ、タデイ・ポガチャルがアレハンドロ・バルベルデとディラン・トゥーンスを打ち破って勝利した登りである。
先頭集団ではまずは地元のジョアン・ボウ(エウスカルテル・エウスカディ)がアタックし、これをマグナス・コルトニールセンがしっかりと追随していった。
ボウが脱落すると、コルトニールセンがそのまま先頭を突き進む。ここについていけたのは、キュベカ・ネクストハッシュのベルトヤン・リンデマンのみ。
集団ではロペス、ウラソフ、カラパス、ログリッチ、ベルナル、バルベルデ、マス、そしてマイケル・マシューズが抜け出し、マイヨ・ロホを着るケニー・エリッソンドは完全に脱落してしまった。
残り1㎞。先頭ではコルトニールセンがリンデマンを突き放し独走を開始。
コルトニールセン、逃げ切れるか?
後続の集団からは、こういったレイアウトにはめっぽう強いログリッチが抜け出してきて、猛烈な勢いで加速してくる。
フィニッシュは目の前。しかしコルトニールセンのすぐ後ろにも、ログリッチの姿。
それでも、コルトニールセンは何とかこれを振り切った。
ブエルタ・ア・エスパーニャ4勝目。最初の2回は純粋な集団スプリント、昨年の1勝は総合系ライダーたちしか残っていないような小集団でのスプリント勝利。そして今回は、逃げからのギリギリの山頂フィニッシュ逃げ切り。
さまざまなバリエーションでの勝利を成し遂げられる男、それがこのマグナス・コルトニールセンである。
総合では前日まで逃げで上位に入っていた選手たちが軒並み遅れ、順当な総合優勝候補たちが上位に並ぶ格好に。
とくにモビスターはエンリク・マス、ミゲルアンヘル・ロペス、アレハンドロ・バルベルデのトリプルエースがそれぞれ総合2位~4位を独占する形に。
このまま、今年はこのトリプルエースが見事に機能するのではないか、と思われていたのだが・・・。
第7ステージ ガンディア〜バルコン・デ・アリカンテ 152㎞(山岳)
アクチュアルスタート直後から1級山岳の登り。そして全部で6つの山岳ポイントが用意され、最後は強烈な1級山岳パルコン・デ・アリカンテが待ち受ける、今大会最初の本格的な山岳ステージ。
当然、逃げ切り向きでもあり、山岳賞ポイントも稼げるチャンスとあって、逃げに乗りたい選手が大量に出現。最終的には29名もの大規模逃げ集団が形成された。
そして、最初の1級山岳の登りで早くもヒュー・カーシーが脱落。昨年総合2位、今年のジロ・デ・イタリアでも総合8位だった男は、そのままリタイアを選択することとなった。
そして先頭の29名の逃げ集団の中ではやはり白熱の山岳賞争いが勃発。
最初の1級山岳こそまだ確定していない逃げの中でジャック・ヘイグが1位通過していたが、その後の3級は第5ステージの落車で総合争いから脱落したロマン・バルデが先頭通過。エリッソンドもここに食らいつくが届かなかった。
続く2級山岳はこの日のマイヨ・ロホ着用も狙っていたヤン・ポランツが先頭を獲り、バルデ、エリッソンドがそれぞれ2位・3位通過。
さらに終盤、残り39㎞地点の2級山岳ではエリッソンドが早くも脱落し、バルデがパヴェル・シヴァコフとローソン・クラドックと共に先頭から抜け出して1位通過。山岳賞ランキング暫定首位に立った。
そしてこの2級へと至る道では悲劇も巻き起こる。メイン集団から奇襲のようにして飛び出したアレハンドロ・バルベルデが下りで落車。危うく崖下に落ちかける危険な転倒によるダメージで、一度はバイクにまたがって走り始めるも、最終的にはリタイアを選ぶこととなった。
いつまでも衰えぬ強さをたしかに見せていたバルベルデが、地元を走る第8ステージを前にして悔しいリタイアとなった。
そして2級山岳を越えた下りでクラドックが独走を開始。残り28㎞地点でシヴァコフとマイケル・ストーラーも合流。暫定マイヨ・ロホを着ていたポランツも追走集団から脱落し、暫定総合2位だったフェリックス・グロスシャートナーにチャンスが回りつつあった。
残り12.7㎞地点の3級山岳への登りでクラドックが脱落し、先頭はストーラーとシヴァコフの2人だけに。
さらに残り8.4㎞から最後の1級バルコン・デ・アリカンテへの登りが始まると、追走集団からアンドレアス・クロンとカルロス・ベローナが抜け出して先頭の2人と合流した。
残り4㎞。ベローナがアタックし、クロンが脱落。
残り3.2㎞。ストーラーがアタックし、ベローナとシヴァコフは互いの様子を見ながら静観。
残り2㎞。シヴァコフがついに脱落し、ベローナは独りで先頭のストーラーを追いかけるが、タイム差はすでに20秒。
そしてそのタイム差は以降縮まることなく、そのまま、若手オージー期待株の1人だったストーラーがグランツール初勝利を飾った。
2018年に現チームDSMでプロデビューを果たして以来、勝利なしできていたストーラー。
今年のツール・ド・ランで逃げ切りによりプロ初勝利&総合優勝を果たしてから1ヵ月後に、この世界最高峰の舞台での見事な勝利。
来年からはグルパマFDJ。ピノが苦しい状況の中、総合系ライダーに不足しているこのチームでなら、彼も再び輝けるチャンスがあるかもしれない。
そして山岳賞は最終的に区間3位に入り4ポイントを追加で手に入れたシヴァコフが獲得。
メイン集団ではラスト1㎞でアダム・イェーツがアタックし、そこにログリッチ、マス、ロペス、ベルナル、デラクルス、ルイ・メインチェスがついていき、塊のままストーラーから3分33秒遅れでフィニッシュ。
総合6位のウラソフはそこから13秒遅れ、ギヨーム・マルタン、ジュリオ・チッコーネ、ファビオ・アル、リチャル・カラパスそして総合9位ミケル・ランダはログリッチから30秒遅れでのフィニッシュとなった。
逆に逃げ集団に入り込んでいたフェリックス・グロスシャートナーはマイヨ・ロホこそ掴み取れなかったもののログリッチから8秒遅れの総合2位に浮上。
一度総合争いから脱落したと思われていた昨年総合7位の復活。実力的にはこのままある程度上位をキープできてもおかしくはないだろう。
その他、ポランツも総合5位に、ヘイグも総合7位に浮上し、バーレーンはランダ単独ではなくダブルエース状態で臨むことになるかもしれない。
第8ステージ サンタ・ポーラ〜ラ・マンガ・デル・マール・メノール 163.3㎞(平坦)
ムルシア州の東海岸、コスタ・カリダと呼ばれる美しい海岸線を南下する今大会4度目のオールフラットスプリントステージ。
危惧されていた海風もさほどなく、予定通りの大集団スプリントで決着することとなる。
前回の第5ステージの解説で、 今大会のドゥクーニンク・クイックステップはファビオ・ヤコブセンの個人的な力量においては最強クラスだが、チーム力としてはアルペシンやFDJに負けている・・・という趣旨のことを書いたが、この日はそれをひっくり返すような展開が形づくられた。
まずは残り1㎞。ベルト・ファンレルベルフとフロリアン・セネシャルの2人が集団の先頭を突き抜け、UAEチーム・エミレーツやグルパマFDJに決して前を奪わせないハイ・ペースで加速し続けていく。
このときエースのファビオ・ヤコブセンは先頭から8列目くらいに位置しており決して良い位置ではなかったものの、ファンレルベルフとセネシャルは彼を信じて全力で先頭を牽引していた。
そしてファンレルベルフが先頭を譲らないまま、残り600m。ファンレルベルフが外れ、セネシャルが先頭に立った。
ここからのセネシャルの牽きが本当に素晴らしかった。
残り600mから残り185mまでの実に400m以上の長距離を、やはり誰にも先頭を譲らないままに駆け抜けた。
残り400mの時点で先頭セネシャルの後ろにはジャコポ・グアルニエーリ(グルパマFDJ)、フアン・モラノ、マーティン・ラース、マイケル・マシューズ、リカルド・ミナーリ(アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ)、その後ろにマイヨ・プントスを着るジャスパー・フィリプセン、ファビオ・ヤコブセン、ジョルディ・メーウスと並ぶようにしてアルベルト・ダイネーゼと続いていった。
そして残り200m地点の直角右カーブ。
ここも先頭でセネシャルは駆け抜けていったが、残り185mの時点でついにその足は終了。
だが、このとき一連の流れに沿うようにして――つまり誰もが目の前のスリップストリームを護りラスト150mまで勝負を預けようとする中で――このカーブを使って勝負を仕掛けようとした男が2人いた。
そのうちの1人がリカルド・ミナーリ。
あえてこのカーブでその勢いのままアウト側に膨らんだ彼は、誰もいない空間で加速を開始。目の前のマシューズをまずは追い抜き、その前のモラノにも並びかけた。
しかしここで足を失った新たな先頭グアルニエーリがポジションを落とすために左に動いたのにつられたのか。その背中にいたモラノも同様に体を左に移し、ややフェンスぎわにまで動いてしまった。
そのタイミングと、ミナーリが加速してくるタイミングとが重なってしまった。接触・落車こそしなかったものの、これでミナーリは失速を余儀なくされ、勢いは素晴らしかったにも関わらず、上位入賞は叶わなかった。
そしてこの動きをもってモラノは降格処分に。当初5位のリザルトだったものが、先頭集団の最後尾につけられることになった。
そしてもう1人の勝負師がファビオ・ヤコブセンだった。
誰もがセネシャルの後ろのグアルニエーリ、モラノ、ラース、マシューズラインを守って保守的に走っていた中で、彼はイン側に体をずらし、フィリプセンの背後から抜け出した。
目の前には誰もいない空間――いや、ちょうど、先頭牽引を終えて身体を右にずらしていたセネシャルが目の前に。
もしかしたら多少は、最後の「発射台」の役割を果たしたことだろう。
あとはもう、誰よりも速いスピードでラスト175mを駆け抜けていったヤコブセン。
フィリプセンを、マシューズを抜き去り、あくまでもアシストだったグアルニエーリやラース、そして接触しかけるアクシデントを起こしていたモラノは敵ではなく、一気に先頭に突き抜けていった。
同じ勢いで加速で来たのは、このヤコブセンの背中にぴったりとついていたダイネーゼだけ。しかし彼も、決してヤコブセンに並びかけることはできなかった。
ヤコブセン自身の巧みな判断力と地足のみならず、チーム力も絶妙に発揮されたこの第8ステージでの勝利。
マイヨ・プントスも逆転で獲得し、今大会「最強」の座をかけて、フィリプセンに真っ向から挑みかかる2勝目を飾った。
第9ステージ プエルト・ルンブラレス〜アルト・デ・ベレフィケ 188㎞(山岳)
総獲得標高4,500m。第1週の締めくくりに相応しい、超級山岳ステージ。
この日は2つのレースが展開した。出入りの激しい展開の末に出来上がった11名の逃げの中から、レース中盤の1級山岳「アルト・コラード・ベンタ・ルイーザ」中腹の激坂区間を利用して飛び出したのが今年のジロ・デ・イタリア総合2位、ダミアーノ・カルーゾ。
一度ロマン・バルデも同伴したものの、これもあっという間に突き放し、迷いのない走りで70㎞の道のりを彼は走破した。
ジロでは常に保守的な走りに徹し、唯一第20ステージにおいてのみ果敢に飛び出し、そこから栄光の勝利を掴み取ったカルーゾ。
今回の彼は最初からアグレッシブだった。そして堂々たる凱旋。今年のバーレーンの「強さ」を象徴する男が、この日もミケル・ランダの不調に悲しむチームに歓喜をもたらした。
そして後方ではもう1つの戦いが。
残り13.2㎞地点から始まる、今大会最初の超級山岳「アルト・デ・ベレフィケ」。
常に厳しい勾配が待ち受けている登りではないが、残り10㎞から8㎞の地点に平均10%超えの急勾配区間が登場する。
この区間に突入すると同時に集団の先頭を牽引し始めたのがイネオス・グレナディアーズ。
山岳賞ジャージを着るパヴェル・シヴァコフとディラン・ファンバーレの牽引によってここまで集団を牽き続けてきたユンボ・ヴィスマのアシストたちが次々と剥がれ落ちていき、さらには今大会の総合優勝候補の1人であったミケル・ランダまでもが、ここで崩れ落ちる。
さらにシヴァコフとファンバーレが仕事を終えると、総合10位アダム・イェーツがアタック。ここに総合4位ミゲルアンヘル・ロペスが貼り付くと、ユンボ・ヴィスマも総合8位セップ・クスをチェックに行かせる。
残り8㎞。激坂区間が終わるとともにログリッチがブリッジを仕掛けメイン集団は一旦数を増やすが、残り6㎞からは再び勾配が増していく中で、アダム・イェーツがもう一度アタックを仕掛けた。
今度のこの攻撃は、真のセレクションを生み出した。
すなわち、ここにプリモシュ・ログリッチとエンリク・マスがついていき、ミゲルアンヘル・ロペスとジャック・ヘイグはわずかに遅れ、そしてジロ・デ・イタリア総合優勝者エガン・ベルナルは、さらに大きく遅れることとなる。
最終的に(カルーゾを除いた)先頭に残ったのはログリッチとマス。
史上3人目のブエルタ・ア・エスパーニャ3連覇に向けて着実に調子を上げつつあるログリッチに、3年前のブエルタで総合2位に輝きながらも、それ以来なかなか思うような走りができずにいたマス。
この2人が、まずはこの第1週における「最強」を証明してみせた。
一方、苦しい戦いを強いられたのがエガン・ベルナル。
ヘイグ、ロペス、イェーツの3人に置いていかれたばかりか、さらに後ろから追い付いてきたマーダーとチッコーネにも抜かれての9位。
最終的な総合順位はログリッチから1分52秒遅れの総合5位。
今回、彼が得意とする標高2,000m超の山岳が登場しない中で、第1週のこの滑り出しはなかなかに手痛い。
とはいえ、ログリッチも万全とは言い難い。ツール・ド・フランスでのタデイ・ポガチャルのような圧倒ぶりはもちろんないし、チーム力においてはイネオスに先を行かれているのは事実だ。
まだまだタイム差も致命的なところにまで広がっているわけではなく、3週間を終えた先で、このリザルトがどうなっているかは正直、予想がつかない。
最後まで何が起こるか分からない。それがグランツールであり、ブエルタ・ア・エスパーニャは特に、そうだ。
第2週のコースプレビューはこちらから
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