ブルゴス大聖堂からサンティアゴ・デ・コンポステーラまで。ブルゴスからバレンシア、アンダルシアから再び北スペインに戻って北西部へと向かう、スペイン全土を巡る3週間の旅がいよいよ始まる。
プリモシュ・ログリッチは史上3人目となるブエルタ3連覇を果たせるのか。カラパス、ベルナル、アダム・イェーツという強力無比なトリプルエース体制を敷くイネオス・グレナディアーズはこれに対抗できるのか。
白熱の展開に向けての序章となる、スプリントステージ多めの第1週前半戦(第1~第5ステージ)を振り返っていく。
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目次
- 第1ステージ ブルゴス〜ブルゴス 7.1㎞(個人TT)
- 第2ステージ カレルエガ〜ブルゴス 166.7㎞(平坦)
- 第3ステージ サント・ドミンゴ・デ・シロス〜ピコン・ブランコ 202.8㎞(山岳)
- 第4ステージ エル・ブルゴ・デ・オスマ〜モリナ・デ・アラゴン 163.9㎞(平坦)
- 第5ステージ タランコン〜アルバセテ 184.4㎞(平坦)
第6~9ステージはこちらから
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第1ステージ ブルゴス〜ブルゴス 7.1㎞(個人TT)
着工800周年にあたるブルゴス大聖堂の門前からスタートし、最初の2.5㎞でブルゴス城跡地へと登る登坂距離1.2㎞・平均勾配7.1%の「3級山岳」を経て、最後は下りと平坦の日にフィニッシュする短距離ながら味のあるステージ。
序盤でトップタイムを叩き出したのはイネオス・グレナディアーズの中での最初の出走となったアダム・イェーツ。その後、フィニッシュの記録はアレックス・アランブルに塗り替えられるものの、2.5㎞地点の中間計測記録はしばらくトップタイムを保持したままとなった。
トム・スクーリー、ヤン・トラトニク、ヨセフ・チェルニーなどの強豪選手が次々と好タイムを叩き出すが、それでもアランブルのフィニッシュタイムは塗り替えられず。
このままアランブルがまさかの大金星となるか・・・と思っていた中で、やはりこの男は強かった。
最終出走者、昨年・一昨年の覇者にして、東京オリンピック個人タイムトライアル金メダリスト、プリモシュ・ログリッチ。黄金のバイクを操りながら、アランブルの記録を6秒上回る記録を叩き出し、見事ステージ優勝&マイヨ・ロホ獲得を成し遂げた。
中間計測のトップタイムを最終的に叩き出したのはログリッチのチームメートであるセップ・クス。山岳賞ジャージの着用権を手に入れた。
総合勢ではアレクサンドル・ウラソフが14秒遅れでログリッチのライバルとしては最も良く、エンリク・マスが18秒、アダム・イェーツが20秒、ミゲルアンヘル・ロペスが21秒、リチャル・カラパスが25秒遅れ。
それはまだいいのだが、問題はエガン・ベルナルが27秒、ヒュー・カーシーが33秒、ミケル・ランダに至っては39秒。
40秒弱のタイムロス自体も痛いが、より怖いのは、30㎞超となる最終日TTに向けてどれくらいタイム差をログリッチにつけないといけないのかという話。
逆にログリッチは、史上3人目となるブエルタ・ア・エスパーニャ3連覇に向けての、まずは重要な一手を掴み取ることに成功した。
第2ステージ カレルエガ〜ブルゴス 166.7㎞(平坦)
ブエルタにしては珍しい、第2ステージから山岳ポイントの一切ないオールフラット集団スプリントステージ。
アクチュアルスタート直後にUCIプロチームの3名が抜け出して逃げを作るという、教科書のようなパターン。
その中からブルゴスBHのディエゴ・ルビオが最後1人抜け出すも残り21㎞地点で吸収され、予定通り最後の集団スプリントへと突入することとなる。
比較的早い逃げ吸収は、フィニッシュ前16.7㎞地点に用意された中間スプリントポイント&ボーナスタイムポイント。
とくに前日6秒差でマイヨ・ロホを掴み取り損ねたアランブルのために、アスタナ・プレミアテックが集団を牽引してこのボーナスタイムを獲りにいく。
結果的に先頭はファビオ・ヤコブセンに獲られたものの、アランブルもなんとか2位には入り、2秒のボーナスタイムを手に入れた。
ログリッチまであと4秒だ。
そして、グランツールのラインレース初日はトラブルは避けられない。残り4㎞地点で落車が発生し、ボーラ・ハンスグローエのスプリンター、ジョルディ・メーウスと、そして総合も狙っていたはずのマキシミリアン・シャフマンが巻き込まれてしまう。
それでもあらかたの有力勢は残っていた中で、残り2㎞からアルペシン・フェニックス、ドゥクーニンク・クイックステップ、グルパマFDJの今大会「3強」チームがトレインを形成して肩をぶつけ合いながら激しい位置取り合戦。
ラスト500mでFDJトレインは崩壊し、アルペシンとドゥクーニンクがそれぞれアシスト1枚ずつ残し先頭を突き抜けていくが、その左側からフアン・モラノを率いたマッテオ・トレンティンが猛烈な勢いで加速。
アルペシンとドゥクーニンクのトレインを軽々と追い抜いて、2017年ブエルタ・ア・エスパーニャで4勝したトップスプリンターが今大会最強の「発射台」ぶりを披露。
だが、さすがに無理が祟ったのか、残り200mでトレンティンは終了。フィニッシュまで少し離れた距離でモラノはスプリントを開始せざるを得なかった。
その後ろにはマイケル・マシューズ。そして、トレンティンの強烈な加速を見てすぐさまそちらに乗り換えたファビオ・ヤコブセンとジャスパー・フィリプセンが、並んでマシューズの背後についていた。
残り100mでマシューズがスプリントを開始。
そして残り75mで、マシューズの右からヤコブセンが、左からフィリプセンが同時にスプリントを開始した。
しかし、マシューズがポジションを右に移しながらスプリントを開始したのをよけながら、つまり回り道をしながら突き進まなければならなかったヤコブセンに対し、狭いながらもまっすぐにフィニッシュまで進むことのできる左側を選んだフィリプセンが最後にはわずかに先着。
モラノも自らの左側を決して閉めることなく、自らのラインを守ってクリーンにスプリントを行ったことにより、この美しきスプリントバトルが無事執り行われた。
かくして、ツール・ド・フランスでは2位が3回、3位も3回と悔し涙を流し続けた男、フィリプセンが、昨年に続く2年連続のブエルタ勝利を成し遂げた。
そしてこれは、アルペシン・フェニックスにとって、今年の3大グランツール全てにおいて、初日スプリントステージを制したことになる。
グランツール参戦初年度でのこの偉業。やはりこのチームは、異様である。
第3ステージ サント・ドミンゴ・デ・シロス〜ピコン・ブランコ 202.8㎞(山岳)
ブルゴス3連戦の最終日は、ブエルタ・ア・ブルゴス定番の1級ピコン・ブランコ山頂に至るフィニッシュ。登坂距離7.6㎞・平均勾配9.3%で、廃棄された軍事施設へと向かう狭く険しい道のりは、総合争いの舞台としては十分すぎるほどに相応しい場所だ。
まだ総合タイム差も少ない最初の山岳ステージということで、さすがに逃げ切りはないだろうと思っていたが、そこは昨今のトレンド。
プリモシュ・ログリッチも初日から最後までマイヨ・ロホを着たくはない思いでいっぱいなのだろう、カルメジャーヌやタラマエ、エリッソンド、今年のジロでも逃げ切りで勝っているドンブロウスキーなど、強力な8名の逃げができあがりタイム差も残り40㎞時点で8分を超えた。
逃げ切りは濃厚か、と思われた中で残り20㎞地点の3級山岳を越える頃にはそのタイム差も4分を切るほどになり、最後の登りのことを考えるとやや逃げ切りに黄信号が灯り始めた。
これを受けて残り15㎞でリリアン・カルメジャーヌが2度にわたるアタックの末、独走を開始。
最後のピコン・ブランコへの登りの開始直後、残り6.6㎞でエリッソンド、タラマエ、ドンブロウスキー、それから逃げていたUCIプロチームの中から唯一の生き残りであるフレン・アメスケタ(カハルラル・セグロスRGA)が追いつき、先頭は5名に。
カルメジャーヌは残り5.2㎞で3度目のアタックを繰り出すが今度はライバルたちを引き離すことはできず、残り4.5㎞から始まる15%の超激坂ゾーンでドンブロウスキーがペースを上げると、アメスケタと共にカルメジャーヌはついに陥落した。
先頭はドンブロウスキー、エリッソンド、そしてタラマエの3名。
残り3.3㎞でドンブロウスキーとタラマエの2人が交互にアタックし、エリッソンドもこれにかろうじてついていく。メイン集団とのタイム差はまだ2分34秒あり、彼らの逃げ切りはなんとかなりそうだ。
残り2.8㎞。タラマエが再び加速すると、エリッソンドが完全に突き放され、そしてドンブロウスキーも今度はついていくことができなかった。
レイン・タラマエ。プロ生活15年。15回のグランツールに出場した経験を持つ大ベテラン。
カチューシャ・アルペシン所属時代の2016年のジロ・デ・イタリア第20ステージで、前日の激しいクラッシュで総合5位のままジロを去らざるをえなかったチームのエース、イルヌル・ザカリンのために「Z」ジェスチャーを見せながら山頂フィニッシュで勝利したシーンは今もなお鮮やかに記憶に残っている。
そんな男が、ブエルタ・ア・エスパーニャでは実に10年ぶりの勝利。そして、初の、グランツール総合リーダージャージ着用も掴み取った。
アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオは昨年のシーズン終盤で突如ワールドツアー昇格の切符を手に入れ、そこから大急ぎで補強を行った「急拵え」チームである。
そのため、5月まで勝利なしという苦境に立たされていた中で、ジロ・デ・イタリアでまさかのタコ・ファンデルホールンによる勝利。
そして今回のタラマエの勝利。これぞロードレース、というのを体現して見せた瞬間であった。
総合では昨年総合2位のオリンピック金メダリスト、リチャル・カラパスが遅れ始める。逆に前日の落車によりタイムを失っていたアダム・イェーツが調子が良い。
最後は8名ほどの小集団となった総合有力勢の中から、エンリク・マスが抜け出してログリッチたちから3秒を奪う。
昨年総合7位のダビ・デラクルス(UAEチーム・エミレーツ)は12秒、昨年総合2位のヒュー・カーシー(EFエデュケーション・NIPPO)は21秒、バルデとウラソフは29秒、カラパスに至っては1分もログリッチから遅れる結果に。フェリックス・グロスシャートナーもそこからさらに27秒を失っており、前日のシャフマンの落車による遅れと合わせ、ボーラ・ハンスグローエは早くも終戦状態か?
もちろん、総合を巡る争いはまだまだ始まったばかり。これからどうなるかはまだ、わからない。
第4ステージ エル・ブルゴ・デ・オスマ〜モリナ・デ・アラゴン 163.9㎞(平坦)
第2ステージに引き続き、山岳ポイントの一切ない集団スプリントステージ。この日もアクチュアルスタート直後からUCIプロチームの3名が逃げに乗り、完全に泳がせモードに。
この逃げも残り13.5㎞地点でまとめて吸収され、何の問題もなく最後の集団スプリントへと突入することに。
第2ステージでは早々に崩れてしまったグルパマFDJトレインがこの日は絶好調。逆にドゥクーニンク・クイックステップはトレインの存在感を全く示せずにいた。
残り1.5㎞。アルペシン・フェニックスがアシスト2枚がジャスパー・フィリプセンを率いて先頭へ。その後ろにグルパマFDJ。
残り1㎞。緩やかな登りが始まると共に、一旦アルペシンとグルパマFDJだけが集団から抜け出す形に。しかしフィリプセンもすでにアシストが1枚しか残っておらず、そのまま前の方にいるのはリスクと判断。
2枚のアシストを残していたデマールの番手を取ることにした。
残り300m。FDJがなおもアシスト2枚。その最後尾につけたデマールの後ろに、マイヨ・プントスを着た前回勝者フィリプセン。
そしてフィリプセンの後ろから一気に加速したアシストのサッシャ・モドロが、FDJ3名を追い抜いて先頭に躍り出た。
このままフィニッシュに突入しても、盤石なFDJに敵うのは難しい。
であれば正攻法ではなく、搦め手で仕掛けるしかない。すなわち、あえてFDJの前に出て早めの加速を見せることで、FDJのペースを乱し崩壊させるという作戦。
ゆえに残り300m。捨て身の早駆けで加速するモドロだったが、後ろを振り返って彼が見たのは、加速するFDJトレインの後ろから、力なく離れていくフィリプセンの姿だった。
仕方なく自ら勝利すべくさらに加速したモドロだったが、さすがにもう体力は残っていなかった。残り150mで崩れ落ち、代わって先頭に飛び出したのはデマール。
しかし、やはりモドロの撹乱は、FDJを崩すという意味では成功していたのかもしれない。あれだけアシストがいれば、盤石に残り100m未満でスプリントを開始することもできていただろうが、モドロについていった結果、残り150mでデマールは独りになってしまっていた。
それでも、十分に勝てる距離のはずだった。その背後に、どこからともなく突然現れて貼りついていたファビオ・ヤコブセンがいなければ。
アシスト不在の中、コーナーのイン側を潜り抜けて見事デマールの番手に入り込んでいたヤコブセンが、残り75mまでしっかりとデマールのスリップストリームに留まり、そこから最高のタイミングで、最高の足を見せつけた。
かくして、ファビオ・ヤコブセン。昨年のツール・ド・ポローニュで命の危機にすら陥った大事故から1年。わずか1年で、このブエルタ・ア・エスパーニャでの勝利を掴み取った。
まさに復活。オランダの才能が、世界最高峰の舞台に再び戻ってきた。
第5ステージ タランコン〜アルバセテ 184.4㎞(平坦)
この日も、というかここまでの第2・第4ステージ以上に高低差のない正真正銘のオールフラットステージ。
しかし、ブルゴスを離れ、バレンシアに向けて移動するこの地域は、遮るものが一切なく、常に強烈な横風が吹き付ける地域でもある。
この日も、レース序盤はまだしも、後半にかけて天気が悪くなっていき、時速20㎞から40㎞程度のそれなりに強い風が吹きつけることとなった。
しかし、横風は来ると分かっていれば集団が警戒し大きなダメージを負うことはない。この日も、むしろディフェンシブな走りに徹し、積極的に集団を割ってやろうという意志を持つチームはそれほど見られなかった。
ゆえに、集団を大きく割ったのは横風ではなかった。
それは残り11.7㎞で巻き起こった、大規模な落車だった。
まずマイヨ・ロホを着るレイン・タラマエがアスファルトに叩きつけられる。前日に続き2日連続の落車である。ラスト3㎞を過ぎたあとに落車した前日と違い、この日は救済なし。うまくいけば第7ステージくらいまでは着られていたはずのマイヨ・ロホを、立て続けに起きた不運により早くも脱ぐ羽目になってしまった。
さらに前哨戦ブエルタ・ア・ブルゴスで3年ぶりの勝利を果たし、今大会も注目されていたロマン・バルデも酷いダメージを負い、路肩に座り込む姿を見せていた。
それでも、各チームのエーススプリンターたちはどうやら無事だったようだ。
残り2.2㎞くらいまではアルペシン・フェニックスが。残り2㎞からUAEチーム・エミレーツが集団の先頭を支配する。
残り500mを切って再びアルペシンが先頭に踊り出てくる。ジャスパー・フィリプセンの前にはアシストが1枚。
左側からはグルパマFDJが番手を上げてくるが、肝心のデマールの姿がない。そしてマイヨ・プントスを着る前日覇者ファビオ・ヤコブセンは、アシスト不在の中、深く後方に沈んでいた。
そして残り200m。おそらくサッシャ・モドロであろうアルペシンの最終発射台が外れ、フィリプセンがスプリントを開始。
早すぎる? しかしその勢いは衰えなかった。背後にはアルベルト・ダイネーゼが貼り付いており、こちらも非常に素晴らしい足を持っていたが、フィリプセンの前に出ることは叶わなかった。
一方、遥か後方に沈んでいたはずのヤコブセンが、ここでするすると番手を上げていく。
最後は残り100mでコースの左側からスプリントを開始。
マシューズもモラノもダイネーゼも、それぞれ誰かのスリップストリームに入っていた中で、誰もいない空間を突き進むヤコブセンは、その誰よりも速かった。
だがそれでも、届かなかった。
もしかしたら今大会、個人の能力だけで言えばヤコブセンが最強かもしれない。
しかし、チーム力と個人の実力との高いバランスで成り立ったアルペシン・フィリプセンがこの日はヤコブセンの能力を上回った。
ジャスパー・フィリプセン、今大会2勝目。それはグランツールで初めて成し遂げる「2勝目」であった。
例年以上に平坦ステージの多い第1週前半戦が終わり、いよいよブエルタもブエルタらしい登り基調の多いステージが増えていく。
第1週の最終日には総獲得標高4,500mの強烈なステージも待ち受ける。
果たして、総合争いの行方は。
そして第8ステージに待ち構えるもう1つの平坦ステージも含め、最強スプリンターの座を巡る争いの行方は。
【参考】第5ステージ後の総合リザルト
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