ブルゴス大聖堂着工800年を記念して史上初の「ブルゴススタート」となる今年のブエルタ・ア・エスパーニャ。
この北部スペインから地中海を臨むバレンシアナの東海岸、そして灼熱の南スペイン・アンダルシアを経て、再び北部スペインへ。
最後は「聖地」サンティアゴ・デ・コンポステーラへとフィニッシュする、スペイン全土を巡る、巡礼の旅。
そんな2021年のブエルタ・ア・エスパーニャの、まずは第1週を見ていく。
「いつものブエルタ」を考えると平坦ステージの割合が多く、大人しいイメージ。ツールで悔しい思いをしたアルノー・デマールや、マイヨ・ヴェールまであと一歩だったマイケル・マシューズ、「復活」のファビオ・ヤコブセンなどの活躍に期待。
もちろん、相変わらずブエルタらしい激坂ステージも用意されている。オリンピックTTで見事な「リベンジ」を果たしたプリモシュ・ログリッチやこちらもジロ以来の復活勝利を誓うミケル・ランダ、そして「イネオス最強軍団」などが、1週目からその強さの片鱗を見せることはできるか。
全チームスタートリスト&プレビューはこちらから
目次
- 第1ステージ ブルゴス〜ブルゴス 7.1㎞(個人TT)
- 第2ステージ カレルエガ〜ブルゴス 166.7㎞(平坦)
- 第3ステージ サント・ドミンゴ・デ・シロス〜ピコン・ブランコ 202.8㎞(山岳)
- 第4ステージ エル・ブルゴ・デ・オスマ〜モリナ・デ・アラゴン 163.9㎞(平坦)
- 第5ステージ タランコン〜アルバセテ 184.4㎞(平坦)
- 第6ステージ レケナ〜アルト・デ・ラ・モンターニャ・デ・クリェラ 158.3㎞(山岳)
- 第7ステージ ガンディア〜バルコン・デ・アリカンテ 152㎞(山岳)
- 第8ステージ サンタ・ポーラ〜ラ・マンガ・デル・マール・メノール 163.3㎞(平坦)
- 第9ステージ プエルト・ルンブラレス〜アルト・デ・ベレフィケ 188㎞(山岳)
第2週についてはこちらから
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第1ステージ ブルゴス〜ブルゴス 7.1㎞(個人TT)
1221年に着工され、200年ほどの中断期間を挟みつつ、1567年に完成したブルゴス大聖堂。1984年には世界遺産に登録されたこの荘厳なる大聖堂(CATEDRAL)の「内部」から、2021年のブエルタ・ア・エスパーニャの3週間の旅が幕を開ける(ⅧCENTENARIOは「800周年」を意味する)。
最初の2.5㎞は、ブルゴス城への登坂。公式には登坂距離1.2㎞、平均勾配7.1%。そこから1.5㎞ほどの下りと平坦が続く。
全体の3分の1が登りということで、決して無視はできなさそう。その短さから見ても、パンチャータイプの選手に有利な可能性もあり、マイケル・マシューズなんかは優勝候補の1人と見てよいだろう。UAEチーム・エミレーツのライアン・ギボンスなんかも、今年のヴォルタ・アン・アルガルヴェのTTで区間7位だったりと、適性も含め注目に値する。
もちろん、マキシミリアン・シャフマン、ヤン・トラトニク、プリモシュ・ログリッチなどの順当な選手も候補に上がる。ウランやチェルニーはどうかな・・・。
実績を無視して注目するとすれば、オリンピックでのMTB金メダルを引っ提げてグランツール初出場に挑むトム・ピドコックの存在。何かを成し遂げてしまいそうなこの男が初日から驚かせてくれる走りを見せられるか。
とにかくその短さから、何が起きてもおかしくはない。意外な新ヒーローの登場を楽しみにしていよう。
なお、ブルゴスの地はブエルタ・ア・エスパーニャのスタート地点としては15回、フィニッシュ地点としては17回選ばれているお馴染みの町で、同県を舞台とするブエルタ・ア・ブルゴスもブエルタ・ア・エスパーニャの前哨戦として注目度の高いレースであるが、実は、そんなブルゴスの町がブエルタの開幕地として選ばれるのは初。
2015年には同じこのブルゴスの町でTTが行われた。そのときは38.7㎞と距離は全く違ったものの、トム・デュムランが勝利と共にマイヨ・ロホを奪還。そのまま第20ステージまで保持し続けた。
今年は初日TTということで勝者はそのままマイヨ・ロホ着用の権利が訪れる。今年最初の赤いジャージを着用するのは果たして誰か。
そして今年も、あの2015年のような熱いドラマが描かれるのだろうか。
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第2ステージ カレルエガ〜ブルゴス 166.7㎞(平坦)
ブルゴス大聖堂着工800周年を祝う第1ステージのあとは、聖ドミニコ(SANTO DOMINGO DE GUZUMAN)没後800年(ⅧCENTENARIO)を記念し、ドミニコの生誕地であるカレルエガから出発する第2ステージ。
ブエルタ・ア・エスパーニャにしては非常に珍しい気がする、第2ステージからの正統派な平坦ステージ。何しろ、山岳ポイントが1つもないのだ。ラスト4㎞に小さな登りはあるが、そこからはひたすら平坦。
昨年はパスカル・アッカーマンが2勝。その前年はサム・ベネットとファビオ・ヤコブセンが2勝ずつを分け合った。
今年はヤコブセンが昨年の酷い事故を経て、ツール・ド・ワロニーで2勝するなど復活気味の中で期待が持たれる。また、ツールでは悔しいリタイアを喫してしまったアルノー・デマールも、リベンジを果たせるか。
そしてマイケル・マシューズにとっては、ツールのリベンジであると共に、初日のTTでも良い成績を出しているだろうから、この日の10秒のボーナスタイムをもってマイヨ・ロホを掴み取るチャンスもある。
ところで、スプリントポイントと一緒に記載されている「B」のマークは、もしかしてボーナスタイムポイント? だとしたら、フィニッシュまで16.7㎞地点という微妙な位置にあるこのポイントは、マイヨ・ロホを巡る重要な争いの舞台となりえそうだ。ここも加えれば、第1ステージ上位入賞者のマイヨ・ロホ獲得の可能性はさらに広がるだろう。
ツールでは努力の末にマイヨ・ヴェールまであと一歩というところまで迫っていたマシューズ。出戻りを温かく迎え入れてくれたチームへの恩返しとも言える勝利を持ち帰りたいところ。
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第3ステージ サント・ドミンゴ・デ・シロス〜ピコン・ブランコ 202.8㎞(山岳)
「スペインで最も美しいロマネスク回廊」で有名な修道院の町からスタート。ぜひ一度、「サント・ドミンゴ・デ・シロス」で検索してみてほしい。映像で映るかどうかは微妙だけれど・・・。
そして、この日は山頂フィニッシュ。ブエルタ・ア・ブルゴスでも定番のピコン・ブランコで今大会最初の「クライマー決戦」が繰り広げられる。おそらく、マイヨ・ロホも彼らの手に渡ることとなるだろう。
ブエルタ・ア・ブルゴスでは2017年にミケル・ランダ、2018年にミゲルアンヘル・ロペス、2019年にイバン・ソーサ、そして2020年はレムコ・エヴェネプールが勝利したピコン・ブランコのプロフィールは登坂距離7.6km・平均勾配9.3%。
10%を超える区間もところどころ現れ、最大勾配18%地点がフィニッシュ前600m地点を含み2か所存在。かなり厳しい登りだ。
昨年のブエルタ・ア・ブルゴスでは、残り3㎞でエステバン・チャベスがアタック。これにジョージ・ベネットとリチャル・カラパスとレムコ・エヴェネプールが食らいつき、先頭は4名となった。
ここからのエヴェネプールがひたすらに強かった。決して、ギアを上げたわけではない。ダンシングになったわけでもなく、不意を突いた一撃を仕掛けたわけでもない。ただ単に、ペースを上げた。ただそれだけで、ベネットもチャベスもカラパスも、あっという間についていけなくなった。
2年前までジュニアで走っていたはずの男の、底知れなさを感じさせた瞬間であった。
このとき勝ったエヴェネプールと2位ベネットとのタイム差は20秒。
今大会も、第2ステージから結構大きなタイム差がつく可能性は十分にある。油断のできないステージだ。
なお、今年のブエルタ・ア・ブルゴスでも登場したものの、こちらは山頂フィニッシュではなく、下ってからのゴールとなった。
このときはロマン・バルデが集団から抜け出して先頭通過し、下りでさらにタイム差を広げて3年ぶりのステージ優勝を獲得。
これを追う追走はミケル・ランダ、ドメニコ・ポッツォヴィーヴォ、ミケル・ニエベと、結構意外な面々が揃うこととなった。
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第4ステージ エル・ブルゴ・デ・オスマ〜モリナ・デ・アラゴン 163.9㎞(平坦)
実にブエルタらしい第3ステージを経て、第4ステージは再び、実にブエルタらしくない「山岳ポイントが一つもない平坦ステージ」。開幕地となったブルゴスを発ち、カスティーリャ・イ・レオン州からカスティーリャ=ラ・マンチャ州にかけて横断していく移動ステージ。
ただし、標高は常に1,000m近い。ブエルタ初登場のフィニッシュ地点モリナ・デ・アラゴンは「スペインで最も寒い場所」。昨年の1月には-25℃にも達したという。
もちろん、今は真夏なので、むしろ35℃を超える暑さすらありうる場所ではある。
基本的には今大会2度目の大集団スプリントが期待される、と公式サイトでもコメントされている。ただ、その公式サイトに載っている下のラスト1㎞の断面図を見ると、ラスト1㎞が平均10%弱ある結構な勾配の登りに見えるのだけれど?
実際にはそこまででもなくとも、多少はピュアスプリンター向きではない一筋縄ではいかないフィニッシュになりそう。
また、前日の厳しい登りで大きくタイムを失った選手たちの中から、小刻みなアップダウンを利用して積極的に逃げようとする選手たちが出てくるかもしれない。
いろんなパターンの考えられるステージだ。
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第5ステージ タランコン〜アルバセテ 184.4㎞(平坦)
相変わらず山岳ポイントの一切ないオールフラットステージが続く。この日は名実ともにフラット&フラットで、コースディレクターの人がジロ・デ・イタリアの人と入れ替わったのかと疑いたくなるくらいである。
大集団スプリントを阻む要素は一切ないように見受けられるが、あるとしたら横風。公式サイトによると、この地域(カスティーリャ=ラ・マンチャ州をひたすらスペイン東海岸に向けて移動するエリア)はかなり開けた土地であるとのことで、レースにカオスをもたらしかねない突風が吹きつける可能性はあるという。
フィニッシュ地点のアルバセテはブエルタ・ア・エスパーニャで合計21回訪れているお馴染みの町。前回の登場は2014年。そのときは、ナセル・ブアニがマイケル・マシューズとペテル・サガンを打ち破って勝利している。
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第6ステージ レケナ〜アルト・デ・ラ・モンターニャ・デ・クリェラ 158.3㎞(山岳)
北部スペインブルゴスから始まった2021年のブエルタ・ア・エスパーニャの旅も、国土の中央を突き抜ける6日間を経て、いよいよ地中海を臨む東海岸バレンシア地方へ。
スタートは標高700mだが、そこから下って海抜10mの平地をひたすら突き進む。
今日も山岳ポイントの一切登場しない平坦ステージかな—―と、思いきや。
ラスト1.9㎞に待ち受ける、平均勾配9.4%・最大勾配21%の超激坂アルト・デ・ラ・モンターニャ・デ・クリェラ。クリェラの気象観測所へと登る急坂である。
昨年のボルタ・ア・ラ・コムニタ・バレンシアナの第2ステージでもこのフィニッシュが使われ、そのときはタデイ・ポガチャルがアレハンドロ・バルベルデとディラン・トゥーンスを打ち破った。
今大会も、この短くも厳しい登りで、総合勢による争いが繰り広げられる可能性も。そういう戦略もへったくれもない、裸で殴り合うような展開こそが、ブエルタ・ア・エスパーニャの最大の魅力であるのだから。
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第7ステージ ガンディア〜バルコン・デ・アリカンテ 152㎞(山岳)
バレンシアの美しき海岸線、コスタ・ブランカと呼ばれる地域を北から南に駆け抜ける。
ただし、海岸沿いを巡る平坦ステージではない。
その内陸部をわざわざ駆け巡る、今大会最初の本格的山岳ステージとなってしまった。
ブエルタはこうじゃなくてはね!
スタート開始直後から1級山岳プエルト・ラ・ラクーナを駆け上る。登坂距離9.4㎞、平均勾配6.2%――但し、登り始め1~3㎞地点の平均勾配が10%近くに達するという激坂で、ここでまずは強力な逃げが形成されそうだ。
その後は2つの3級山岳と2つの2級山岳。ひたすら登っては下ってを繰り返すジェットコースターのようなステージで、最後は1級山岳バルコン・デ・アリカンテ。
登坂距離8.4㎞・平均勾配6.2%というプロフィールはとんだ詐欺。ラスト3.5㎞はひたすら9%以上の急勾配が延々と続いていく。
ラスト400mは下り勾配でのフィニッシュ。
真の実力者だけが残ることを許されるサバイバルな展開になることは間違いないだろう。
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第8ステージ サンタ・ポーラ〜ラ・マンガ・デル・マール・メノール 163.3㎞(平坦)
ムルシア州の東海岸、コスタ・カリダを南下する、今度こそ正真正銘の地中海沿いフラットステージである。
第1週で4回目のオールフラットステージ。ただ、近いエリアを使用した2018年の第6ステージでは、横風により集団が大分裂。ティボー・ピノやウィルコ・ケルデルマンが取り残される事態が巻き起こる。
そのとき勝ったのはナセル・ブアニ。ダニー・ファンポッペルや、クイックステップ時代のエリア・ヴィヴィアーニを打ち倒しての、久々の勝利であった。
一応公式サイトでは夏はそこまで風が強くないとは書いてあるが、3年前にそういう事例がある以上、今年も横風による総合アクシデントには注意。
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第9ステージ プエルト・ルンブラレス〜アルト・デ・ベレフィケ 188㎞(山岳)
北部スペインのブルゴスから始まった今年のブエルタ・ア・エスパーニャの第1週は、南部スペインのアンダルシアへ。
2009年の第12ステージでライダー・ヘシェダルがカナダ人初となるブエルタ勝利を飾った地、アルト・デ・ベレフィケ山頂でのフィニッシュとなる、総獲得標高4,500mの本格的山岳ステージである。
ラスト57㎞地点にある1級山岳アルト・コラード・ベンタ・ルイーザは登坂距離22㎞・平均勾配4.9%というプロフィールだがもちろんこれは参考にならない。
下の断面図を見てわかるように、その中盤(フィニッシュまで残り70㎞~66㎞地点)に平均9%以上の急勾配区間が登場。とはいえまだフィニッシュまで残り距離はそれなりにあるため、(今年のツールの第8ステージのポガチャルのような例がなければ)まだ勝負所にはなりそうにない。むしろそこからの下りも勾配が厳しそうなので注意したい。
問題はやはりラストの超級アルト・デ・ベレフィケ。
そのプロフィールは登坂距離13.2㎞、平均勾配6.4%。
序盤に厳しい勾配が用意されてはいるものの、そこからフィニッシュまで8㎞以上残っているため、ここで必ずしも決定的な動きが起きるとは限らない。
2009年にヘシェダルが勝ったときは、ラスト6㎞でメイン集団が動き始めた。
まずはダミアーノ・クネゴが様子見のアタック。これが引き戻されたあと、ラスト5㎞でエセキエル・モスケラが独走を開始。
ラスト2㎞からさらにロベルト・ヘーシンクが飛び出して、単独でモスケラと合流した。
メイン集団を突き放してフィニッシュに向かうモスケラとヘーシンク。
しかし、彼らの目の前には12名の逃げ集団からの生き残りであるダビ・ガルシアとヘシェダルの姿があった。
最後はガルシアをスプリントで振り切ったヘシェダルが、ヘーシンクらの6秒前で右手を挙げた。
果たして今年も逃げ切りが決まるのか、それとも総合勢の中で勝者が出るのか。
第1週最終日を締めくくる、重要ステージだ。
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