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2021シーズン 8月主要レース振り返り(前半)

 

ブエルタ・ア・エスパーニャ前哨戦、あるいはその「裏レース」として、スペイン、ノルウェー、ポーランド、デンマークと世界各地で繰り広げられる大小のレース群。いずれもそれぞれ個性的で魅力的なレースばかりだ。

ここから新たな才能が生まれることも多々ある。たとえば今年のツールで一世を風靡したヨナス・ヴィンゲゴーも、最初にその名が世界に轟いたのはツール・ド・ポローニュであったりする。ポストノルド・デンマーク・ルント(ツアー・オブ・デンマーク)はワウト・ファンアールトやティム・メルリールあるいはマッズ・ピーダスンなどがその名が注目される前から活躍していたレースでもある。

メジャーレースだけでなくちょっと小さなレースで新しく芽吹きだす才能に触れるにはちょうどいいレースが多くあるこの8月前半のレース群を振り返っていく。

  

目次

   

参考:過去の「主要レース振り返り」シリーズ

主要レース振り返り(2018年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど

主要レース振り返り(2019年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど

主要レース振り返り(2020年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど

主要レース振り返り(2021年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど

  

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ブエルタ・ア・ブルゴス(2.Pro)

UCIプロシリーズ 開催国:スペイン 開催期間:8/3(火)~8/7(土)

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北スペイン、カスティーリャ・イ・レオン州ブルゴス県を舞台とする5日間のステージレース。例年、ブエルタ・ア・エスパーニャの前哨戦として注目を集めるレースであるが、今年はその「ブエルタ」がここブルゴスをグランドスタートにするということでさらに注目が集まった。

ブエルタで総合優勝候補になるエガン・ベルナルやミケル・ランダ、アレクサンドル・ウラソフなどの注目選手たちが集結した。

しかし初日にいきなり巻き起こった落車で、そのベルナルや昨年ブエルタ総合3位のヒュー・カーシーなどがいきなり遅れるアクシデント。幸いにもベルナルらは大きな怪我を負うことなく、最終日の山頂フィニッシュでもカーシー優勝・ベルナル区間4位など、悪くない足を見せてくれた。

では総合争いはどうなったかというと、まず第3ステージ、今回のブエルタの第3ステージのフィニッシュにもなっている定番「ピコン・ブランコ(登坂距離7.9㎞、平均勾配9.2%)」の登りでロマン・バルデが抜け出し、これをランダやドメニコ・ポッツォヴィーヴォ、ミケル・ニエベなどが追いかけるが、バルデが得意の下りで一気に3名を突き放す。

途中、落車する場面もあったがそれでもその差は埋まらず、3人に39秒差をつけて見事3年ぶりの勝利を掴み取った。

Embed from Getty Images

 

しかし、最終日超級山岳ラグナス・デ・ネイラ(登坂距離11.9㎞、平均勾配6.2%)の登りでこのバルデが一気に失速。その隙に集団からマーク・パデュン(バーレーン・ヴィクトリアス)が飛び出すなど活性化し、最終的には第1ステージで遅れていたカーシーやベルナルなどが集団の先頭へ。

昨年のアングリルのとき同様に全力を振り絞るような表情で激坂を駆け上がり、カーシーが勝利。総合では大きく遅れているものの、ブエルタ本戦に向けて調子の良さを見せつけた。

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そして第3ステージで3位、第5ステージでも6位でタイムを守り切ったランダが総合優勝。勝利という意味では2年半ぶりとなり、調子が良いにもかかわらず不運もあり結果につながらずにいた彼が、今度こそ完璧な状態でブエルタを迎えることができるか。

クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ区間2勝のマーク・パデュンも総合3位に入り、ほかにもコロンビアの若き才能サンティアゴ・ブイトラゴ(22歳)も最終日区間7位、総合8位と好調で、バーレーン・ヴィクトリアス全体が今期通しての調子の良さを維持していることがよくわかる結果となった。

 

そしてスプリントではフアン・モラノが2勝。これまではフェルナンド・ガビリアの発射台として活躍してきた彼だが、その実力はときに(今の調子の悪い)ガビリア以上と見られることもあり、今回エースとしてそれに相応しい結果を叩き出した。

チームメートのマッテオ・トレンティンもそれぞれ3位・4位といい位置につけているが、一応彼がモラノをアシストした形ではある? トレンティンはすでにブエルタ出場予定がわかっているが、モラノは果たしてどうなるか。 

 

 

アークティックレース・オブ・ノルウェー(2.Pro)

UCIプロシリーズ 開催国:ノルウェー 開催期間:8/5(木)~8/8(日)

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アークティック、すなわち「北極圏」の名を冠するノルウェーのレース。例年、その現実離れした美しい光景が話題になるこのレースも、新型コロナウイルスの脅威を乗り越え、2年ぶりの開幕となった。

本格的な山岳ステージはなく、パンチ力を要求される激坂ステージが総合を左右することの多い今大会。それでも今年は割と長め(と言っても4㎞くらいだが)の登坂がクイーンステージとなる第3ステージに用意され、例年よりはクライマー向けになった印象。

しかしそもそも出場する選手たちにあまりクライマーがいなかったために、この第3ステージの登りでも全体的にペースは緩め。比較的終盤まで集団の数は多く、クリストフもある程度残れる程度の展開となった。

そんな中、最後に抜け出したのがベン・ヘルマンスと地元ノルウェー人で過去にステージ優勝経験のあるオドクリスティアン・エイキング、そしてジロ山岳ステージで逃げ切り勝利をしているヴィクトル・ラフェの3名。

最後はスプリント勝負となり、最も実績のあるヘルマンスが先頭のままフィニッシュまで突っ込み、後ろから追い上げたエイキングもギリギリで差し切れなかった。

4秒差で迎えた最終ステージも、逆転を賭けた攻撃をエイキングも繰り出すことはできず、結局はヘルマンスが総合優勝。

2015年に総合首位のまま最終日を迎え、そこで大きく失速し総合9位まで転落してしまったあのときの悔しさを、6年越しに晴らす形での勝利となった。

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初日ステージでフィニッシュ前3㎞の小さな登りで抜け出して独走勝利を決めたフールガードは、今年のE3サクソバンク・クラシックで8位に入ったり昨年のツール・ド・ルクセンブルクで総合2位になっていたり、そもそも3年前のこの北極圏レースで総合3位になっていたりする、パンチャー・クラシックスペシャリストタイプのノルウェー人。

第2ステージで勝ったラースは2018年のツアー・オブ・ジャパン東京ステージで勝った選手で、何だかんだ毎年勝ち星を挙げているコンスタントに勝てる実力派スプリンター。

地元の英雄アレクサンダー・クリストフはそのいずれも2位と悔しい結果に終わるが、その甲斐あってポイント賞は獲得。

そして最終日は逃げ集団の中から最後、ニキ・テルプストラとの一騎打ちとなったワルスレーベンが勝利。今年のブークル・ドゥ・ラ・マイエンヌでも勝っていたりと強さを見せているが、何と今年いっぱいで引退を決めている。最後に大きな勝利を挙げての引退となって、良かったと言えそうだ。

その背後で最後は諦めて失速したテルプストラ。彼もパリ~ルーベを勝った翌年に思い切ってプロコンチネンタルチームに移籍したものの、それ以来勝利なし。

今のところ来年以降の契約もはっきりしておらず、苦しい立場に置かれていたが、最後はほとんどツキイチになっていたこともあって、もしかしたら最後、勝利を譲ったか。

ベテランから若手まで。「最強」不在の中で、悲喜こもごもの5日間となった。

 

 

ツール・ド・ポローニュ(2.WT)

ワールドツアークラス 開催国:ポーランド 開催期間:8/9(月)~8/15(日)

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丘陵とTTが彩るポーランド最大のステージレース。これをジョアン・アルメイダとドゥクーニンク・クイックステップが圧倒した。

実にポローニュらしい、登坂距離1.5㎞・平均勾配8%・最大勾配14%という急勾配フィニッシュが用意された第2ステージ。その登り口から仕掛けたアルメイダの動きは少し早すぎるかな、と思い、実際にこれを今期好調なディエゴ・ウリッシが残り400mで捕まえ、さすがにこれはアルメイダ厳しいか、と思った。

しかし、そこからさらにもう一段、アルメイダは加速した。その攻撃にウリッシも耐えきれず離れ、念願のプロ初勝利を掴み取った。

しかも、第4ステージのこちらも登りフィニッシュ。ここでは残り3㎞で総合5位ミケルフローリヒ・ホノレがレミ・カヴァニャにアシストされながら飛び出し、総合2位ウリッシは自らからを追いかける必要があった。

その後ろに悠々と待機していたアルメイダ。残り300mでようやくホノレを捕まえたかと思うと、当然そのタイミングでアルメイダがアタックした。

最後はモホリッチ、クフィアトコフスキを共にスプリントで降し2勝目。

翌第5ステージでモホリッチが区間2位に入りボーナスタイムによりアルメイダとの総合タイム差を2秒にまで縮めるも、第6ステージはアルメイダが得意とする個人タイムトライアル。

オリンピックでは16位とイマイチだったアルメイダだが、この日は絶好調でステージ優勝のカヴァニャに続く区間2位の記録。モホリッチには18秒差をつけて、堂々の総合優勝を果たした。

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来年からはUAEチーム・エミレーツの一員となり、世界最強ライダーのタデイ・ポガチャルの第一アシスト、もしくはチームのセカンドエースの座を手に入れることになる。

ブランドン・マクナルティや若き才能フアン・アユソーなどライバルは数多く、その中で存在感を示すうえで幸先の良い勝利となった。

 

スプリントではフェルナンド・ガビリアが久々の勝利。今のところ来季の契約は確定していない彼だが、残留することとなっても直近で勝利を重ねている元発射台フアン・モラノやこのポローニュにも参戦し第1ステージでも2位に入っている「ガビリア2世」ホッジなど、こちらもチーム内ライバルは多い。

かつての「最強」の復活はなるか。

 

EFエデュケーションの「いつか花開く才能」と注目し続けていてやや諦めかけていたファンデンベルフも最終日執念の逃げ切り勝利。

共に逃げていた4名の中で最も強敵だったジャンニ・モスコンが完全に足を失っていたためのが良かった。残る3名の中で、一番最初に先頭に飛び出し、そのまま逃げ切る強い勝ち方。

まだ来季の契約は決まっていないが、引き続きワールドツアーで活躍を続けていってほしい。

 

 

ポストノルド・デンマーク・ルント(2.Pro)

UCIプロシリーズ 開催国:デンマーク 開催期間:8/10(火)~8/14(土)

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今や新たな「一家に一台」となった才能の発掘場、デンマーク。来年はツール・ド・フランスのグランデパールにもなるということもあってさらに注目度の集まるこの国最大のステージレースがこのポルトノルド・デンマークルント(ツアー・オブ・デンマーク)である。

タフな丘陵ステージやタイムトライアルなど、たしかにデンマーク人向きのコースの組み合わせで、過去にはマッズ・ピーダスンやワウト・ファンアールト、ティム・メルリールなどの才能を輩出している。

そんなデンマーク・ルントを今年支配したのはレムコ・エヴェネプール。第3ステージで17kmに及ぶ独走勝利を成し遂げ、最終日TTもセーアン・クラーウアナスン、マッズ・ピーダスンといった地元デンマーク人の強豪を打ち破って堂々の勝利。危なげなく総合優勝を手に入れた。

たしかに、丘陵系のレイアウトに、個人TTがあることは、彼にとってはベストなプロフィールではある。だが、ルフェーブルGMが「昨年のイル・ロンバルディア前の状態に戻った」と評するように、たしかにエヴェネプールは、かつての力をほぼ完全に取り戻しつつあるのかもしれない。

その勢いで世界選手権などにも注目していきたいところ。

 

総合2位はマッズ・ピーダスン、総合3位はマイク・テウニッセン(オランダ)。

例年表彰台の3つのうち2つ以上は常に地元デンマーク人が支配し続けてきた(3つともすべてデンマーク人のことも多かった)このレースにしては珍しく、デンマーク人が2位のピーダスンしかいない状況となった。

もちろん、注目すべきデンマーク人は今年も出てきている。たとえばUno-Xプロサイクリングチームの育成チームに所属しつつ、このデンマークルントを含め何度かトップチームからレース出場しているアントン・チャールミン。今年はツアー・オブ・ターキーのクイーンステージで総合6位、アルプ・イゼール・ツアーで総合2位。U23版ジロ・デ・イタリアの個人TTでも4位に入っている。

今回のデンマーク・ルントでも総合7位。来年はUno-Xのトップチームにそのまま昇格するが、今後も楽しみな選手の1人だ。

トレック・セガフレードの「20歳」マティアス・スケルモースも今回総合8位。今年のツール・ド・ランでも総合5位と、実力の高さを示しており注目の選手の1人だ。

 

 

レディース・ツアー・オブ・ノルウェー(2.WWT)

ウィメンズ・ワールドツアー 開催国:ノルウェー 開催期間:8/12(木)~8/15(日)

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ウィメンズ・ワールドツアーとはいえ、そこまで豪華なメンバーが集まったわけではない中で、クイーンステージの第3ステージを圧勝したファンフルーテンが余裕の総合優勝。

2位はアシュリー・ムールマン、3位はマビ・ガルシアと、順当な面々が並ぶが、驚くべきはこの第3ステージで4位に入ったマーレン・ローセル。先日の東京オリンピックでも銀メダル、昨年の世界選手権でも銀メダルを獲っているTTスペシャリスト。それがここまで登れるのは結構意外だった(また、3位ガルシアは最終ステージで落車したため総合的には大転落してしまった)。

初日のフォークナーは起伏系のスプリントで勝利。2日目のマーカスは逃げ切り勝利。そして最終日ホスキングは純粋なスプリントで勝利。ホスキングは昨年までは数多くの勝ち星を重ねていたが、今年はこれが初勝利。苦しい時期を過ごしていただけに、フィニッシュ後には涙を流す場面も。

逆にコリン・リヴェラは第2・第4ステージで2位続き。ジロ・デ・イタリア・ドンナ最終日ステージは勝ったものの、それも抜け出した小集団の中でのスプリント勝利なので、純粋な大集団スプリントではなかなか勝ちきれないことが続いている。

このあたりの復活も期待している。 

 

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