暦の上でもいよいよ晩秋の始まる頃。
北イタリアの地で、ワールドツアー最終戦「イル・ロンバルディア」が開幕する。
総獲得標高4,500mに達するという、本格的なクライマーズクラシック。
今年、最後の栄光を掴み取るのは一体どの選手だ。
目次
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コース詳細
かつては年ごとにスタートとフィニッシュとが入れ替わる体裁を取っていたイル・ロンバルディア。
2017年以降は「よりスペクタルな」ベルガモ~コモ方向で固定されていたが、昨年のレムコ・エヴェネプールの悲劇をきっかけに、それまでも繰り返し指摘され続けてきたコースの危険度への批判が噴出。
その影響もおそらくあったのだろう。今年は2016年以来5年ぶりとなる、コモ~ベルガモ方向での開催となった。
しかも、5年前とは通過するコースが変更。結果、総獲得標高は4,500mと、近年最難関のコースが用意された。
過去5年の総獲得標高(シクロワイアードの記載より)
2020年:3,500m(ベルガモ~コモ)
2019年:3,600m(ベルガモ~コモ)
2018年:4,000m(ベルガモ~コモ)
2017年:3,600m(ベルガモ~コモ)
2016年:4,400m(コモ~ベルガモ)
コース全容は以下の通り。
全長239m。名前のついた登りは大小合わせて7つ。
その1つ目はベルガモ~コモ方向では「勝負の始まり」を告げる鐘の音で有名な「自転車の教会」マドンナ・デル・ギザッロ。
今大会ではこの鐘の音に背中を押されたプロトンがしばらく平坦を進んだ先に、最初の本格的な登り「ロンコラ」。
登坂距離9.4㎞・平均勾配6.6%。但し最初と最後は緩やかで、重要なのはその中盤の6㎞。この部分の平均勾配は8~10%に達し、序盤に最大勾配17%が待ち構える。
とはいえ、この登りの頂上はまだフィニッシュまで137.6㎞も残っており、勝負はまだ何も始まっていない。
その直後に越える「ベルベンノ」の登りは登坂距離6.8㎞・平均勾配4.6%・最大勾配8%の緩やかな登り。
残り77.9㎞地点に用意された「ドッセーナ」と残り63.7㎞地点の「ザンブラ」は連続する登り。残り距離的にも、このあたりから本格的なセレクションや動きが巻き起こってくるだろう。ここで抜け出しを図ろうとする選手たちもいるはずだ。
とはいえ、本当の勝負はやはりこの最後の登りで繰り広げられることだろう。
残り41㎞地点から登り始め、残り34.5㎞地点から8~11%の勾配が続き、残り33㎞地点から最大勾配15%の激坂区間が登場する「パッソ・ディ・ガンダ」。2016年イル・ロンバルディア最後の勝負所「セルヴィーノ」の「裏側」にあたる登りだ。
この頂上からフィニッシュまではまだ31.8㎞も残ってはいる。
しかしここまでの厳しい道のりですでにプロトンはバラバラになっているだろうから、ここからまた大きな集団に戻るということはおそらくないだろう。
登りこそ違えどラスト30㎞のプロフィールは全く同じ2016年大会では、最後の登りセルヴィーノで抜け出したエステバン・チャベス、リゴベルト・ウラン、ディエゴ・ローザ、ロマン・バルデの4名は、後続に1分20秒差をつけたままベルガモの街へと突き進んでいった。
そして、意外と侮れないのが、フィニッシュ前3.3㎞地点に用意された、ベルガモ旧市街へと向かう小さな登り「ベルガモ・アルタ」。登坂距離1㎞・平均勾配7.9%・最大勾配12%で石畳を含む短い登り。
5年前はここでチャベスが加速し、バルデが突き放されて最後は3名でのスプリントとなった。
あるいはその前のベルガモフィニッシュだった2014年大会は、このベルガモ・アルタの登りで9名に絞り込まれ、ラスト500mでダニエル・マーティンがアタック。後続が牽制に陥りわずか1秒差で逃げ切った。
マドンナ・デル・ギザッロの教会の鐘の音や「不可能の怪物」ムーロ・ディ・ソルマーノといった、ベルガモ~コモ方面の派手さこそないものの、着実に足を削る登っては下ってのレイアウトによるサバイバルな展開と、最後は様々な勝ち方がありうる予想のつかないフィニッシュ。
シーズン終盤ゆえに足の残り具合も読めない中で、果たしてどんな選手が有力なのか?
次の項目では今大会の注目選手たちを確認していこう。
イル・ロンバルディアの前哨戦となる「イタリア秋のクラシック」の成績と合わせて紹介していく。
注目選手
プリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ)
ジロ・デッレミリア優勝、ミラノ~トリノ優勝
圧倒的絶好調。ジロ・デッレミリアはレムコ・エヴェネプールにアシストされたジョアン・アルメイダを突き放し、ミラノ〜トリノでは先行したアダム・イェーツを軽々と追い抜いていった。
まさに絶好調。手のつけられない強さを発揮している。このままの勢いであれば、当然の如く今回のイル・ロンバルディアも総合優勝候補・・・とは言い切れないのがロンバルディアの難しいところ。2019年もログリッチはジロ・デッレミリアとトレ・ヴァッリ・ヴァレジーネを優勝してイル・ロンバルディアを迎えたが、その好調さゆえにライバルたちの警戒を一身に受け、バルベルデと共に牽制合戦に興じているうちに、バウケ・モレマの抜け出しを許してしまった。
思えば、ログリッチは「そういう」負け方が多い。ログリッチもだし、ワウト・ファンアールトも? ジロ・デッレミリアやミラノ〜トリノのような強さがそのままモノを言う山頂フィニッシュならまだしも、イル・ロンバルディア、しかも今年のこのベルガモフィニッシュでは、牽制し合う中での不意の抜け出しこそが勝利の鍵になりやすく、ログリッチ向きではないと言うこともできるだろう。
一方で、2016年のチャベスのときのように、抜け出したクライマー少人数スプリントであれば、むしろログリッチの得意パターン。
うまくチームメートを残して、なんとかそう言うパターンへと持ち込みたいところである。
タデイ・ポガチャル(UAEチーム・エミレーツ)
トレ・ヴァッリ・ヴァレジーネ3位、ミラノ~トリノ4位
クライマー同士の小集団スプリントという意味では、ログリッチ以上に期待できるのがこのポガチャル。対ログリッチでは2年前ブエルタで1勝、昨年ツールで2勝している。今年のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュでも、アラフィリップを下して勝利を掴んでいる。
ただ、イマイチ調子の波が読みづらい。いや、もちろんトレ・ヴァッリ・ヴァレジーネ3位、ミラノ〜トリノ4位と普通に強くはある。が、やはりツール・ド・フランスのときのような圧倒さはない。少なくとも彼のベストな状態とは言い難いだろう。
そして、チームメートのダヴィデ・フォルモロ(トレ・ヴァッリ・ヴァレジーネ2位)やマルク・ヒルシ、抜け出し独走に強いブランドン・マクナルティなど、チームメートも有力な選択肢であり、必ずしもポガチャルだけで勝利を狙う体制ではない。
トレ・ヴァッリ・ヴァレジーネでは残り120㎞からアタックするなど常識離れしたアグレッシブさも見せているポガチャル。その自由奔放さ、気負わなさこそが、今大会の本命にしてジョーカーとなりうる怖さを持っている。読めない。
アダム・イェーツ(イネオス・グレナディアーズ)
ジロ・デッレミリア4位、ミラノ~トリノ2位
アダム・イェーツにとって、今シーズンは果たして「成功」だったのだろうか?
プロキャリアでは初となるサイモンとの離別。勝てなかったツール・ド・フランスのエースの座を捨てて、エースばかりの最強チームへ。
アシストと化す恐れもあった中で挑んだ春先のレースで見せつけた強さ。ボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャでの総合優勝。そしてエガン・ベルナルとのダブルエースで挑んだブエルタ・ア・エスパーニャ。その、総合4位という成績。
ミラノ~トリノでは最後の最後までプリモシュ・ログリッチと覇を競い合った。一時はその前に出て、勝利も狙えるか?と思っていたが、最後の最後はやはり突き放されてしまった。
今年の彼は強かった。だが、もしかしたらこれが彼のピークなのかもしれない?という思いも。
もちろん、そんなことはない、と吼えるべきときが来る。それがこの、イル・ロンバルディア。彼にとって初となる、そしてサイモンも成し遂げたことのない、モニュメントの勝利を掴み取れるか?
もちろん、独走もスプリントも、決して彼の武器ではない。今年のベルガモフィニッシュは、アダム・イェーツという男にとって、「勝つ」には決して易しいレイアウトではない。
そんな中、チャンスがあるとすれば残り3㎞のベルガモ・アルタ。たとえばアダム・イェーツがティレーノ~アドリアティコ2018の第5ステージで勝ったときも、残り4㎞地点に用意された最大勾配16%の激坂「ムーロ・ディ・フィロットラーノ」でアタックしてそのまま逃げ切った。
2015年クラシカ・サンセバスティアンでは残り7㎞地点のボルダコ・トントーラでアタックしての逃げ切り。
一番苦しい瞬間に一番強い踏み込みさえできれば、チャンスを掴める。
限界を超えられるか、アダム。
レムコ・エヴェネプール(ドゥクーニンク・クイックステップ)
ジロ・デッレミリア5位、コッパ・ベルノッキ優勝
世界選手権前後で色々と話題のあったエヴェネプール。ジロ・デッレミリアではジョアン・アルメイダとのダブルエース、もしくはそのアシストとして働き、彼を2位にしつつ自らも5位。そしてコッパ・ベルノッキでは、スプリンター向けのはずのこのレースをいつも通りの独走で完全に破壊した。
すなわち、調子は良い。昨年は悲劇ではあったが、コースも変更されている(とはいえ、パッソ・ディ・ガンダからの下りもテクニカルだという話なので気をつけてはほしい)。そして、やや彼向きとは言えない頂上フィニッシュのジロ・デッレミリアと異なり、イル・ロンバルディアは残り30㎞からほぼ下りと平坦、一部鋭い短い登りがあるくらいで、逃げ向きとも言える。
ジロ・デッレミリア2位、ミラノ〜トリノ3位の好調ジョアン・アルメイダと、2枚目のアルカンシェルジャージを身に纏ったジュリアン・アラフィリップらと共に、「ウルフパック」らしい走りを見せられるか。
世界選手権の借りを、鮮やかな勝利で挽回しよう。
ダニエル・マーティン(イスラエル・スタートアップネーション)
ジロ・デッレミリア6位、ミラノ~トリノDNF
本当の意味での優勝候補かというと微妙ではある。イタリア秋のクラシックの実績でいえばチームメートでジロ・デッレミリア3位、ミラノ〜トリノ5位のマイケル・ウッズの方がよっぽど調子が良い。
とはいえ、このレースがマーティンにとってはキャリア最後のレースとなる。ジャパンカップを含め数多くのレースで勝利し、日本人にも馴染みの深い、独特の笑顔が素敵な男。
昨年のブエルタでは初勝利を果たし、涙すら浮かべていた男の、驚きの引退宣言から1ヶ月。14年のプロ生活の最後を、栄光の勝利で締めくくってほしい。
2014年にはすでに優勝しているマーティン。そのときもベルガモフィニッシュで、ラスト500mで集団から抜け出して、牽制し合う集団を尻目に逃げ切り勝利を果たした。
今年もマイケル・ウッズやベン・ヘルマンス、アレッサンドロ・デマルキなど、直近レースで調子の良いチームメートに恵まれているため、うまくチャンスを掴んで欲しいところ。
これまでありがとうマーティン。
最後のレースを、存分に楽しんでくれ。
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