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サイクルロードレース情報発信・コラム・戦術分析のブログ

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2021シーズン 9月主要レース振り返り(後編)

 

「フランドル」世界選手権がやはり中心となるこの9月後半のレース。ただ他にも、新型コロナウィルスの影響で本来の開催時期から外れてこの時期にやってきたレースも多数。ここでは紹介していない1クラスのレースも含め、ベルギーやフランスで、スプリンターたちの活躍するレースも多く開催されている。

そんな中で活躍する、フィリプセンとヤコブセンという今年大活躍のスプリンターたち。さらにはそこに食らいつく、若手の姿も・・・。

世界選手権だけじゃない、9月後半のレースを振り返っていこう。

 

目次

   

参考:過去の「主要レース振り返り」シリーズ

主要レース振り返り(2018年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど

主要レース振り返り(2019年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど

主要レース振り返り(2020年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど

主要レース振り返り(2021年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど

  

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エシュボルン~フランクフルト(1.WT)

ワールドツアー 開催国:ドイツ 開催期間:9/19(日)

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例年はメーデー、すなわち5月1日に開催されているドイツ伝統の(1962年から開催されている)スプリンター向けワンデーレース。かつてはルント・ウム・デン・フィナンツプラッツ・エシュボルン=フランクフルトとも呼ばれていた。

当然、過去の優勝者たちもスプリンターで占められているが、とくに2014年から2018年は(未開催となった2015年を除き)アレクサンダー・クリストフが4連勝を記録している。昨年も新型コロナウイルスの影響で中止。前回大会となる2019年はパスカル・アッカーマンが8年ぶりのドイツ人優勝を果たしている(その前は2011年のデゲンコルプ)。

今回もアッカーマンやデゲンコルプなどドイツ人スプリンターが参戦しているほか、ディラン・フルーネウェーヘンやマイケル・マシューズ、そしてジャスパー・フィリプセンといった有力スプリンターたちが集結した。

そんな「最強スプリンター」決定戦だが、今年のとくにグランツールでの実績から見て、やはりこの男が頭一つ抜けていた。

ジャスパー・フィリプセン。彼の強さは、チームにもある。プロチームながら、ワールドツアーチームに引けを取らない組織力を誇るアルペシン・フェニックスが、アレクサンダー・クリーガーに率いられてしっかりと好ポジションを維持していた。

そして左から2011年覇者ジョン・デゲンコルプがスプリントを開始したのを見て自らも発射。この後輪を捉えたまま、残り100㎞を切ったタイミングでスプリントを開始した。

あとはもう、圧勝だった。

チームとしての力も、自身の力も。

一時はティム・メルリールにエースを奪われるかと思われていたフィリプセンだったが、ここに来てその強さと自信とを取り戻す堂々たる勝利を掴み取った。

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グランプリ・ド・ドナン(1.Pro)

プロシリーズ 開催国:フランス 開催期間:9/21(火)

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北フランス、オー=ド=フランス地域圏ノール県の町ドナンで開催されるワンデーレース。かつては4月に開催されていたが、2018年から同地域で開催されるパリ~ルーベの前哨戦的な位置づけとして石畳区間を多く取り入れ、3月開催に変更。昨年はコロナウィルスの影響で中止となり、今年も延期してこの時期に。

前回大会の2019年はマチュー・ファンデルプールが優勝。当然逃げ切りではあったが、2位以下はややクラシックに強いタイプが中心のスプリンターたちが名を連ね、その傾向は今年も同様であった。

とはいえ、やはり勢いに乗っているのはこの男。ジャスパー・フィリプセン。2日前のエシュボルン~フランクフルトの勢いそのままに、圧倒的な強さで勝利を掴んだ。

なお、これでエシュボルン~フランクフルトの2日前のカンピウンスハップ・ファン・フラーンデレンから続いて3連勝。さらに言えば9/26開催のパリ~ショニーでも勝利したので、4戦連勝となった。

今シーズン最強スプリンターは誰かと問われたら、実績ベースでは間違いなくこの男。

2022シーズンの活躍も、実に楽しみだ。

 

 

UCIロード世界選手権「フランドル」

世界選手権 開催国:ベルギー 開催期間:9/19(日)~9/26(日)

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自転車ロードレースの聖地「フランドル」で開催された今年の世界選手権。前半戦は北海を臨む西フランドルの町クノック=ヘイストから西フランドル州州都ブルッヘへと向かうコースを使用したタイムトライアル。

初日に行われた男子エリートでは、コース前半こそワウト・ファンアールトが圧倒的な走りを見せて衆目を驚かせたが、終盤にかけてペースをしっかりと上げていく落ち着いた走りを見せたガンナが前年王者の貫禄を見せつけて2勝目を飾った。ファンアールトは昨年のTT&ロード、今年のオリンピックに続けての2位。ツールでモン・ヴァントゥとシャンゼリゼとTTをすべて勝利するその万能ぶりが相変わらず続き異様な強さなのは間違いないが、しかし勝ちきれない、そんな結末であった。

女子エリートではヨーロッパ選手権ロードでも独走で逃げ切ったエレン・ファンダイクが欧州TT王者ローセルと元世界王者ファンフルーテンを共に倒す強さを発揮。2013年以来8年ぶりのアルカンシェルを手に入れた。

そんなファンダイクとファンフルーテンがモレマやファンエムデンとチームを組んだ「ミックスドリレー」では、同じくマーレン・ローセルやシュテファン・キュング、シュテファン・ビッセガーなど強力なラインナップを揃えたスイスと共に敗北。勝ったのア、トニー・マルティン、マキシミリアン・ヴァルシャイド、ニキアス・アルント、リサ・ブレナウアー、リサ・クライン、ミーク・クローガーで構成されたドイツ。そしてこのミックスドリレーを最後に引退を決めていたマルティンは、まさに有終の美たるアルカンシェルを手に入れることとなった。

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なお男子U23のプリース=パイタスンと女子ジュニアのイヴァンチェンコはともにヨーロッパ選手権TTでも勝利している選手。プリース=パイタスンは来年からUNO-Xプロサイクリングチームに所属することが決まっている。

男子ジュニアを制したワンはたしかに昨年・一昨年と国内選手権も制しているデンマーク人の世代最強であることは間違いないが、しかし世界を舞台にするとそこまで目立った成績を残していない選手。とはいえデンマーク人は今間違いなく伸びつつある存在。今後に期待だ。

 

後半のロードレースは舞台を南に移し、「フランドルの首都」アントウェルペン(アントワープ)から学術都市ルーヴェンへ。

ブラバンツペイルの舞台ともなっているオーベレルエイセ周辺の周回も使用した、パンチャーからスプリンター、クラシックスペシャリストまで、幅広く勝利のチャンスがありうる実に魅力的なコースが用意された。

実際、各カテゴリの勝ち方もまた違いが見えた。昨年から今年にかけてレース数がどうしても少なくとくに非ヨーロッパ系の選手たちが大集団でのレースになれていない状況で開催されたこともあり、ジュニア、U23では男女とも落車が頻発。その中で、アタックによってというよりは自然と縮小していく集団の中で、男子ジュニアではペアストランド・ハーゲネスが勝利。

ツール・ド・ラヴニールで2回連続ノルウェー人が勝利している中で、ジュニアでもノルウェーが世界王者に。ノルウェーの若手は今、伸び続けているのか? なお、来年からはユンボ・ヴィスマのディヴェロップメントチームに所属する。

そして女子ジュニアではアメリカのカイア・シュミットと共に抜け出したゾーイ・バックステットが最後のスプリントを制して勝利。2004年パリ~ルーベ覇者マグナス・バックステッドの娘で、ほかのジュニア勝者がヨーロッパ選手権も含めて18歳ばかりの中で17歳での戴冠というすさまじさ。今後もさらに期待のできる存在だ。

男子U23ではルーヴェンの街中で抜け出した現コルパック・バラン、来年からトレック・セガフレードに所属予定のフィリッポ・バロンチーニが優勝。さらに集団内で先頭を獲ったのは元デルコで現アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ所属のビニヤム・ギルマイ、3位は現ユンボ・ヴィスマ所属のオラフ・クーイ。

ワールドツアー所属選手たちをねじ伏せて見事な独走逃げ切り勝利を掴み取ったバロンチーニ。今年の他の実績も良い選手なので、来年からすぐにでも活躍してくれることも期待できそうだ。

 

というわけで、スプリントだったり抜け出しだったりと、様々な勝ち方を見せているここまでのロードレースの結果。

女子エリートではどんな動きになるのか・・・と思った結果、常にオランダが積極的な動きを見せてマリアンヌ・フォスの勝利へと着実に駒を進めていく中で、最後の最後、ここまでずっと足を貯めていたイタリアが最後、エリーザ・ロンゴボルギーニの強力なリードアウトによって生き残っていたスプリンターのエリザ・バルサモを発射させて勝利。

23歳のサプライズのアルカンシェル。そしてフォスは、あまりにも悔しい敗北を味わった。

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note.com

 

ここまでのイタリアの成功を受けて、男子エリートのイタリアチームも気合が入っていたのに違いない。それこそ女子エリートのように、最後の最後までしっかりと足を貯めて、絶好調のソンニ・コルブレッリの勝利を狙おうと。

そしてベルギーもまた、万全の構えで、レースをしっかりとコントロール下に置き、ジャスパー・ストゥイヴェンとワウト・ファンアールトのダブルエースによる勝利を確実なものにしようとしていたであろう。

だが、それらの計画をすべてぶち壊したのがフランスによる攻撃だった。残り180㎞。全体の3分の1しか消化していない段階で早速仕掛け始めたフランスによって、まずはイタリアがマッテオ・トレンティンやダヴィデ・バッレリーニなどの有力選手たちを早々に失う。

そしてベルギーもレムコ・エヴェネプールやティム・デクレルクの足を早い段階で使わせる結果になり、最終的に先頭にはファンアールトとストゥイヴェンが残ったものの、フランスはアラフィリップとそのアシストのヴァランタン・マデュアス、そしてスプリンター役のフロリアン・セネシャルが残るという万全の体制を迎えることとなった。

そして、前世界王者ジュリアン・アラフィリップにとって、この日は決してベストなコースレイアウトではなかった。ゆえに、彼はうまくいかなければセネシャルに任せると決め、残り60㎞のベケストラートの登りから計5回にわたるアタックを次々と繰り出し、最終的には残り17㎞のシント=アントニウスベルグでのアタックで勝負を決めた。

その戦略は代表監督トマ・ヴォクレールの狙い通りである一方、ある意味でその想像すら超えた勝ち方でもあった。

詳細はこちら

www.ringsride.work

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あらゆるチームが全力を出し尽くした結果、リスキーながら最も効果的な戦い方を迷わず繰り広げたフランスチームがしっかりと勝利を掴む。

コース設定からとにかく魅力的過ぎた今年の世界選手権ロードレースは、その期待にたがわぬ、最高のレースを魅せてくれた。

 

 

ユーロメトロポール・ツアー(1.Pro)

プロシリーズ 開催国:ベルギー 開催期間:9/29(水)

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ベルギー・ワロン地方のフランス国境沿いで行われる伝統的なレース。2016年以降はワンデーレースとして開催されているが、ディラン・フルーネウェーヘン、ダニエル・マクレー、マッズ・ピーダスン、ピート・アレハールトなど、ピュアスプリンターたちが例年勝利を重ねている。

今回も、今シーズン最強格の男が勝利を掴む。ファビオ・ヤコブセン。1年前の悲劇的な事故から半年で復活し、今年は走れるだけで十分・・・と思っていた中での、まさかの絶好調。ブエルタ・ア・エスパーニャではチームも含め圧倒的な強さで3勝を稼ぎ出した。

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一方、2位に入り込んだのがネオプロのジョルディ・メーウス。元SEGレーシングアカデミーでデビュー前から十分に期待されていたが、ノケレ・コールス4位、ツール・ド・ハンガリー1勝、ブエルタ・ア・エスパーニャ区間2位、そしてグーイクス・パイル3位、グランプリ・ド・ドナン2位と9月後半のレースでの好調を引き継いでこのユーロメトロポールでも2位。

その実力は本物。ボーラとは2024年まで契約を結んでおり、サム・ベネットは戻るもののペテル・サガンとパスカル・アッカーマンという2大スプリンターを失うこととなるボーラ・ハンスグローエにとっては、重要なセカンドエース級の存在として注目されることだろう。

 

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