りんぐすらいど

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ツール・ド・フランス2022 注目コースプレビュー

 

2021シーズンもいよいよ終わりを迎えつつある中、早くもツール・ド・フランス2022のコースプレゼンテーションが行われた。

本来であれば今年行われるはずだった「デンマーク」開幕となるツール・ド・フランス2022。

その全21ステージの中から、注目の12ステージを取り上げて紹介していこう。

 

石畳から急坂、標高2,000m越えの山々に長距離の個人TTまで、非常にバランスの取れた2022年のツール・ド・フランス。

果たしてタデイ・ポガチャルの3連覇が見られるか、エガン・ベルナルのリベンジがなされるか、はたまた・・・。

 

目次

   

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第1ステージ コペンハーゲン~コペンハーゲン 13㎞(個人TT)

 

ツール・ド・フランスで初めてのグランデパールを務めるデンマークの首都コペンハーゲン。ドイツとつながるユトランド半島にも、ノルウェーやスウェーデンが位置するスカンディナビア半島にも属さず、その間に浮かぶシェラン島にて栄えるデンマーク最大の年でもあり、「北欧のパリ」とも比喩される美しい街だ。

この街で繰り広げられるのは、2017年以来となる開幕個人TTステージ。全長13㎞。4年前はゲラント・トーマスが勝利を飾ったこの「マイヨ・ジョーヌを懸けた戦い」を制するのは一体誰か。

実際、デンマーク人は元々TTが非常に得意。優勝候補だけでも元U23TT世界戦3連覇のミッケル・ビョーグ、今年のロンド・ファン・フラーンデレン覇者カスパー・アスグリーン、2019年エリートロード世界王者マッズ・ピーダスン、今年のパリ~ニースTTを制したセーアン・クラーウアナスン、あるいは、今年のツール・ド・フランスを沸かせたデンマークの新星ヨナス・ヴィンゲゴーもまた、TTを非常に得意としているだけに、いきなりのマイヨ・ジョーヌの可能性は十分にある。

この顔ぶれを見ても分かるように、デンマークは今本当に熱い。かつて「一家に一台」と持て囃されていたのはコロンビア人だったが、今ではその役目をデンマーク人に奪われつつあると言っても良いくらい、デンマークの有力選手が各トップチームに散らばっている。

そして、若手の台頭も。つい本日バーレーン・ヴィクトリアス加入が発表されたヨハン・プリース=パイタスンも、今年の欧州&世界選手権U23王者でもあり、注目の存在。さすがにいきなりツールは、と思うが、もしかしたら・・?

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第2ステージ ロスキレ~ニュボー 199㎞(平坦)

 

開幕デンマーク3連戦の2日目はコペンハーゲンの西約30㎞に位置する大聖堂の街ロスキレから、フュン島に位置する町ニュボー(Nyborg)まで。

最も標高の高い部分でも100mに達しないというオールフラットなレイアウトで巻き起こる、今大会最初の大集団スプリント――と、簡単にはいかない可能性がある。

何しろ、フィニッシュまで16㎞の位置に頂点を迎える、全長18㎞の「ストアベルトハビヌスン」――英語でグレートベルト・リンクと呼ばれる、超巨大な橋が待ち構えている。

当然、横風が激しくプロトンを揺らすこととなるだろう。天候にもよるが、この日のフィニッシュは決して、平穏なものとはなりえない——それこそ、いきなりの総合脱落者が出てくる可能性も。思い出すのは、2015年ツール・ド・フランスの第2ステージである。

 

とはいえ、悪天候の波乱よりも、まずは晴れ渡る空の下でこの美しい雄大なる橋の姿を見てみたいものである。

 

 

第5ステージ リール~アーレンベルグ 155㎞(平坦)

 

2018年以来4年ぶりとなる石畳ステージが登場。ただし全体的なイメージは2014年に近く、北から南に移動する中でフィニッシュ地点は7年前同様「アランベール」の町となる。

石畳区間は全部で11か所。1.3㎞から2.8㎞の長さで、全長19.4㎞の石畳区間がラスト75㎞に登場する。

フィニッシュ地点の「アランベール」はパリ~ルーベの「地獄の入口」トルエー=ド=アランベールを想起させるが、7年前同様、その「森の中の石畳」を使うことはない。

それでも、2014年は(まるで今年のパリ~ルーベのように)激しい雨の中で繰り広げられ、ラース・ボームが感動の勝利を遂げた。そして、クリス・フルームがリタイアを喫したステージでもあった。

今年も波乱はあるか?

 

 

第7ステージ トンブレンヌ~ラ・プランシュ・デ・ベルフィーユ 176㎞(山岳)

 

今やすっかりとお馴染みとなったラ・プランシュ・デ・ベルフィーユは、10年前のツール・ド・フランスで初登場となった。

まだブラッドリー・ウィギンスの「アシスト」であったときのクリス・フルームが、初めてツール・ド・フランスで勝利したときの登りであり、その意味で登場から常にこの山は重要な主役であり続けた。

前回の登場は2020年。「あの」忘れられない世紀の逆転劇が繰り広げられた山岳TTの舞台であった。

www.ringsride.work

 

ラインレースとしての登場は2019年に遡る。このときはディラン・トゥーンスが勝利し、ジュリオ・チッコーネがマイヨ・ジョーヌを手に入れた。その前は2017年で、ファビオ・アルが勝利し、2014年にはヴィンツェンツォ・ニバリが勝利した。そして2012年はクリス・フルーム。まさに、「キングメーカーの山」である。

なお、2019年はそれまでと違い、頂上の先にある「未舗装路の超激坂」を使用したが、今回もどうやらそこを同じように使用する様子。登坂距離7㎞・平均勾配8.7%・最大勾配24%。

最初の試練が、プロトンを襲う。

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第9ステージ エーグル~シャテル 183㎞(山岳)

 

「第1週目の最終日」はこれまでも数多くのドラマを巻き起こしてきたグランツールにおける重要なステージ。しかし(このあとに来る過酷なコースのことを考えると)今回の「第9ステージ」は比較的平穏なようにも思える。

スタート地点のエーグルはUCIの本拠地が置かれた町。本来であれば2020年の「幻の」世界選手権の舞台となったはずの町だ。

フィニッシュはわずかにフランスの地に。「太陽の門」という名のスキーリゾートにフィニッシュするが、そこまで難易度は高くなさそうで、逃げ切りによる勝利が決まるかもしれない。

 

ツール・ド・フランス2022における総合争いはまだ本格的な始まりを迎えることはない。但し、それは第2週が始まってすぐに訪れる。

 

 

第11ステージ アルベールビル~コル・デュ・グラノン 149㎞(山岳)

 

これは本当に2週目なのか? 3週目じゃないのか? 第11ステージにしてアルプスの名峰テレグラフ峠から、これが小さく見えてしまうような巨人・標高2,642mのガリビエ峠、そしてフィニッシュもまた標高2,413mのグラノン峠に!

しかもこのグラノン峠、ただ標高が高いだけではなく、登坂距離11.3kmという長さにして平均勾配9.2%という超難関登坂。過去に一度だけツール・ド・フランスに登場したことがあり、それはあのグレッグ・レモンが最初にマイヨ・ジョーヌを手に入れた年であり、しかもこのステージでまさにその栄光のジャージに袖を通したのだとか?

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「標高が高い」ことで最も水を得た魚になる男は――エガン・ベルナルである。2020年に砂を嚙んだこの若きコロンビアンライダーは、我が物顔でツール・ド・フランスを支配しようとする若きスロベニアンライダーにこのステージで一泡吹かせることができるか?

今大会最も熱いバトルが繰り広げられるかもしれない、そんなステージだ。

 

 

第12ステージ ブリアンソン~ラルプ・デュエズ 166㎞(山岳)

 

そしてフランス革命記念日となるこの日、なんと前日にも通過したガリビエ峠をまさかのおかわり! そのまままともな平坦も通らずに「鉄十字」クロワ・ド・フェール峠を通過し、ツール・ド・フランスで最も熱狂的な山、ラルプ・デュエズへと至る。

早くもレースはクライマックスを迎える。まだ12ステージ、やっと折り返し地点だというのに・・・。

ラルプ・デュエズは全部で21のカーブが用意され、歴代のステージ優勝者の名がそのカーブに刻まれるという伝統があり、実際にそこにはファウスト・コッピ、ベルナール・イノー、マルコ・パンターニといった錚々たる顔ぶれが並ぶ。

2011年、2013年、2015年に登場したときはそれぞれピエール・ロラン、クリストフ・リブロン、ティボー・ピノとフランス人勝利が続いていたが、2018年に登場したときはゲラント・トーマスがそのジンクスを破った。同時に彼は、「ラルプ・デュエズを制するものはその年の総合優勝を果たすことができない」というジンクスも打ち破った。

今年は果たして誰がその名を刻むことになるのか。

 

 

第14ステージ サン・テティエンヌ~マンド 195㎞(丘陵)

 

アルプスからピレネーへ。その途上に位置する中央山塊の中を突き進むこのステージは、しかし単なる移動ステージではない。

そのフィニッシュに位置する「マンド」は、2015年に「ピノとバルデが牽制している隙を突いて後方から突如として姿を現してそのまま逃げ切ったスティーブン・カミングス」や、2018年の「ジュリアン・アラフィリップを突き放して逃げ切ったオマール・フライレ」など、数々のドラマを生み出してきた。

その鍵となるのが、ラスト1.5㎞地点で頂上を迎える2級山岳クロワヌーブ(登坂距離3㎞・平均勾配10.2%)。鋭い登りと、そのあとの1㎞の下りを経て、飛行場の中での独特な風景のフィニッシュへとつながる。

今回もきっと、逃げ切りで決まることだろう。果たしてどんな劇的な勝利が待ち受けるのか、実に楽しみだ。

 

 

第16ステージ カルカソンヌ~フォワ 179㎞(山岳)

 

今大会2回目――いや、デンマーク3連戦のあとに1回休息日が挟まるので、正確には3回目――の休息日明けに待ち受けるのは、2017年のフランス革命記念日にワレン・バルギルが勝利した超激坂ミュール・ド・ペゲール~フォワのルートを完全踏襲。

総合争いが巻き起こることはないであろう完全なる逃げ切り向きステージ、というのが基本的なイメージだが、ただ、休息日明けということもあり、まさかのドラマが待ち構えている可能性もある。

油断はできない。こういうステージこそ、何が起こるかわからないのだから・・・。

ミュール・ド・ペゲール、「ペゲールの壁」は、それを引き起こすだけのポテンシャルを十分に、持っている。

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第17ステージ サン=ゴーダンス~ペイラギュード 130㎞(山岳)

 

トゥールマレーの付添人アスパン峠、ポルテ峠の付添人ヴァル=ルーロン=アゼ峠、そして2019年にはサイモン・イェーツが逃げ切り勝利を決めたウルケット・ダンシザンなどを経て、最後は2017年ツール・ド・フランスでクリス・フルームが遅れ、ロマン・バルデが勝利し、ファビオ・アルがマイヨ・ジョーヌを着ることとなった激坂の滑走路ペイラギュードへと至る。

130㎞の短い距離にピレネーの魅力をたっぷりと詰め込んだ1日である。

 

2017年は本当に皆、止まりそうになるくらい苦しみながら最後の激坂を越えていた。クリス・フルームのアシストであったミケル・ランダが淡々と無表情で踏みながら、果敢にアタックしたジョージ・ベネットを冷静に引き戻していた。

残り400m。いよいよ最大勾配16%の滑走路に突入すると、フィニッシュラインへとつながる「まっすぐな激坂」でファビオ・アルがアタック。あまりにも急勾配過ぎてまるでスロー映像に見える勢いで飛び出していくアルだが、これを追いかけようとしたランダのペースにまさかのフルームがついていけない。

さらにこれを見て集団から飛び出したのがロマン・バルデ。この年総合2位になるリゴベルト・ウランもここに食らいつこうとするが、そのままアルを抜き去り、ウランを突き放したバルデが勝利を掴み取った。

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今回もまた、激戦続きで疲弊した「王者」が、崩れる舞台となってしまうのか? 目が離せない「危険な」ステージだ。

 

 

第18ステージ ルルド~オタカム 143㎞(山岳)

 

超級オービスク峠を前座に据える贅沢なこの第18ステージは、シンプルながらいずれも10㎞以上に渡り足の緩められる箇所の存在しない「長くて厳しい」登りの3連発。

分かりやすい厳しさはない。派手さはない。しかし着実にライダーの足を削っていく。そんな、純然たる、妥協のない山岳ステージ。真のクライマーのためのステージが、ツール・ド・フランス2022の最終決戦の舞台として用意された。

個としての力ではなく、チームとしての力が問われるかもしれない。来年に向けてこれまで以上に貪欲な補強を進めるUAEチーム・エミレーツは、「王者」を護る走りを見せられるか。あるいは、「元祖最強チーム」イネオスが、そのお株を取り戻すことができるか?

 

こんなにも美しい、ツール・ド・フランスらしいピュア山岳ステージを最後に見せてくれるあたりが、今回のツールのコース設計のすばらしさを物語っている。

 

 

第20ステージ ラカペル=マリヴァル~ロカマドゥール 40㎞(個人TT)

 

山岳ステージは第18ステージで終わりを告げるが、総合争いの本当の最終決戦の舞台はここ数年の定番となった「最終日TT決戦」。そして、40㎞という、長距離の個人TTが用意されることに。

これで初日と合わせTT総距離は53㎞。58㎞だった2021年よりは短いとはいえ、2015年以降明確だった「クライマー向け」ツールからの完全なる脱却への意図を感じさせる。

この日も(終盤に多少小さな登りがあるとはいえ)全体的にはフラットなレイアウトである点も、2021年と同様だ。

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2019年にトム・デュムランは最近のツールはTTが少なくて気に入らない、ジロ・デ・イタリアの方がよっぽど「オープンだ」と文句を言っていたが、まさにツールもそんな「オープン」なレースへと戻りつつあるようだ。

とはいえ、TTスペシャリスト系オールラウンダーだけが有利なわけではない。第2週から標高2,000m超えの山々が連なり、最終週にも、爆発力だけではどうしようもない本格的な超級登坂が待ち構えている。

第1週には石畳も用意されているなど、とにかく「様々な選手にチャンスのある」コースに仕立て上げようとする意図を感じさせる。

 

決して、今年のツールのように、「ポガチャル1強」にはならないのではないか。

そんな風に期待させる、実に魅力的な3週間のコース設計である。

 

 

総評

 

デンマークで3日間を過ごしたあと、フランス北東部から国境沿いを舐めるように南下し、アルプス、中央山塊、そしてピレネーへ。

第20ステージのところでも述べたように、今回は本当にバランスの取れた良いコースである。第1週の石畳や横風ステージ、パンチャー向けのステージに十分な数のスプリントステージ、そして第3週だけでなく第2週から標高2,000m超えの強烈な山岳ステージが用意されたかと思えば、第3週にもしっかりと、それも、パンチ力だけあれば・個の力さえあれば勝てるような(それはそれでとても魅力的な)「ブエルタ的な」登りだけではなく、純粋な、チーム力が試されるピュアな「ツール的」山岳ステージも用意されている。

そして、長い平坦系個人TT。

 

それはポガチャルやログリッチのようなTT系オールラウンダーに向いているとも言えるし、標高2,000m超えを得意とするエガン・ベルナルやリチャル・カラパスのような南米系ピュアクライマーにチャンスがあるとも言えるし、本当に多くのタイプの選手に可能性を許すコース設計になっていると思える。

 

ゆえに、今年のツールとはまた違った、実にカオティックなドラマが楽しめるのではないかと期待する。ぜひ、多くの選手が「万全」の状態で3週間を戦ってほしいものだ。

 

 

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