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ヘント~ウェヴェルヘム イン・フランダース・フィールズ2019 プレビュー

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Class:ワールドツアー

Country:ベルギー

Region:フラーンデレン州

Organiser:フランダース・クラシックス

First edition:1934年

Editions:81回

Date:3/31(日)

 

「クラシックの王様」ロンド・ファン・フラーンデレン開幕を1週間後に控え、いよいよ佳境に入ってきた北のクラシックシーズン。

251kmとモニュメント以外のクラシック最長距離を誇るこの「風のクラシック」が、ロンド優勝候補たちを絞り込んでいく最終局面となるだろう。

 

昨年はトップスプリンターたちも加わった集団スプリントをサガンが制した。今年はスプリンターが勝つか、クラシックスペシャリストが勝つか。

 

また、今年の今大会の最大の注目ポイントの一つは、いよいよ「あの男」が最高峰の舞台に乗り込んでくること。

ワウト・ファンアールトとマチュー・ファンデルポールがついに、ロードレースの舞台で激突する。

 

 

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レースについて

ヘント~ウェヴェルヘムは、かつてはロンドとルーベに挟まれた水曜日に開催されていたセミクラシックだったが、2010年以降はロンドの1週間前に日程を移し、同時にコースも厳しいクラシックスペシャリスト向けのものにしたことで、2日前のE3と合わせてロンド前哨戦レースとしての役割を担うこととなった。

 

その名前に反してスタート地点はヘントの南西20kmに位置する町ダインゼ。

そこからデパンヌなどにも近いドーバー海峡沿いの横風区間を通過し、再び内陸部に移動したプロトンは残り130kmを過ぎたあたりからフランス国内に一度入り、石畳激坂の連続するレースの中心部に到達する。

 

全長251.5km。

オンループ・ヘットニュースブラッド(200km)、E3・ビンクバンク・クラシック(203km)よりも長く、ロンド・ファン・フラーンデレン(267km)にも匹敵する。

レースの質における前哨戦がE3だとすれば、このヘント~ウェヴェルヘムは長さにおいて最適の前哨戦となるわけだ。

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全部で10個ある登りのうち、本格的な打ち合いが始まるのはベルギーに再入国して最初に登場するセクター6「バネベルグ(Baneberg)」。

残り83km地点から登り始め、登坂距離は300m。最大勾配は20%に達する。

 

続いて残り71.5kmから登り始めるセクター7「ケンメルベルグ(Kemmelberg)」は登坂距離3kmと長く、平均では4%の勾配ながら最大勾配は22%と言われている。

さらにその頂上を越えてすぐの残り69.5km地点からは、登坂距離1km、平均勾配7.3%、最大勾配10%の「モンテベルグ(Monteberg)」。

 

この連続登坂で、最初のセレクションがかかることだろう。

 

さらに2017年から新しく加えられた3つの連続する未舗装路区間「プラグストリーツ(Plugstreets)」は全長4.7km。

最初の2つの区間は登りも含んでおり、2年前はここでスティバルがアタックし、昨年はBMCレーシングのプッシュによりテルプストラが脱落した。

 

 

そして、バネベルグとケンメルベルグについては、残り39km地点から再び通過する。

とくに残り35km地点から登り始める「2回目のケンメルベルグ」は、1回目とは反対方向から登ることに。

距離は502mと短いものの、平均勾配は11.6%と厳しく、最大勾配も変わらず22%。

 

この「2回目ケンメルベルグ」にて毎年、最も決定的な動きが巻き起こっている。

昨年はヴィヴィアーニやデマールなどのスプリンターも残ってのフィニッシュとなったが、クリストフやデゲンコルプはこの2回目ケンメルベルグで脱落している。

2016年も2017年も、いずれも最後の勝負権を得ることができたのは、この2回目ケンメルベルグのセレクションを生き残ったものたちだけだ。

Embed from Getty Images

昨年の「2回目ケンメルベルグ」で抜け出すフィリップ・ジルベール。

 

 

今年もこの2回目ケンメルベルグで集団が絞り込まれるのか。

もしくはここで喰らいつき/もしくはその後の30kmの平坦で追い付いたスプリンターが勝利を狙うか。

 

以下、注目すべき選手たちを紹介していく。

 

 

1.ペテル・サガン(スロバキア、29歳)

ボーラ・ハンスグローエ(BOH)所属

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昨年優勝者にしてこの大会を通算3勝している。ヘント~ウェヴェルヘム・マイスター。

ちなみに3勝というのはエディ・メルクスやトム・ボーネンといったレジェンドたちを同じ勝利数であり、あと1勝を追加すれば、唯一の4勝経験者となる。

彼がなぜこのレースと相性が良いかといえば、クラシック適性とスプリンター適性の両方が求められるレースであること、どんなに調子が悪くともロンドとルーベを直前に控えるこの時期にはきっちりとピークを合わせてこれるプロとしてのコンディショニングの上手さと、そして勝負所「2回目ケンメルベルグ」が、登りだけでなく下りもまたテクニカルで重要であることが、ダウンヒルスペシャリストである彼にとっても特別相性が良いと言えるのだろう。

 

今年はここまで体調不良などもあり、イマイチぱっとしないように思えるサガン。勝利自体もここまでツアー・ダウンアンダー以外ない。

しかし、ティレーノ~アドリアティコのスプリントステージでは2位と5位。ミラノ~サンレモでもしっかりと勝負所に喰らいついていき、E3・ビンクバンク・クラシックでも、17位という結果はあくまでも機材トラブルによるものだった。

 

決して調子が悪いわけではない。このタイミングから突如として優勝をもぎとって、そしてロンドもしくはルーベで最高のコンディションを見せる可能性は十分にある男、それがサガンである。 

 

 

13.エリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、30歳)

ドゥクーニンク・クイックステップ(DQT)所属

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昨年は2回目ケンメルベルグでクリストフなどのライバルたちが脱落する中、ジルベール、ランパールト、スティバルといったチームメートたちに支えられ、完璧なお膳立てをされたうえでゴール前に辿り着いたヴィヴィアーニ。

しかしそのポジション取りに失敗し、行き場を失った彼は勝負すらできないままに2位に沈んだ。レース後、膝を抱えてうずくまるヴィヴィアーニ。勝利を約束されたチームだったからこそ、その過大なるプレッシャーに圧し潰されそうな心境であることをまざまざと見せつけられた。

しかしその後、彼は一気に成長していった。ジロ・デ・イタリアでは鮮烈な開幕勝利を飾り、イタリア選手権の勝利、サイクラシックス・ハンブルクでの勝利、そしてブエルタでも3勝——今年に入ってからもさらなる調子の良さを発揮しつつある。

今年はリベンジを果たしたい。その準備はしっかりとできている。

 

 

31.オリバー・ナーセン(ベルギー、29歳)

AG2Rラモンディアル(ALM)所属

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昨年6位。今年も昨年同様に勝ち星を稼げているわけではないが、ミラノ~サンレモでは終盤に残り2位にねじ込んだり、E3でも追走集団に入り込んだりと悪くない走りを続けている。オンループも10位。今年参戦しているクラシックがこの3つだけなので、かなり安定していると言えるだろう。

今回も、勝てるとは思わないものの・・・TOP10には十分入れる走りは見せてくれそうだ。

 

なお、もう1人注目しておきたいのはクレマン・ヴァントゥリーニ(フランス、26歳)。元ジュニアシクロクロス世界王者で、2018-2019シクロクロスフランス王者でもある彼は、北のクラシックへの適性を持ちつつ、ロードではそのスプリント力の高さに定評がある。

昨年はジロでもTOP10に何度か入り込み、先日もティレーノ~アドリアティコ第6ステージで、ヴィヴィアーニやサガンに混じって4位フィニッシュする実力。ナーセンに近い役割も期待できそうで、いつも単独で戦うことの多いナーセンにとって頼れる存在となれれば良いのだが。

 

 

121.ワウト・ファンアールト(ベルギー、25歳)

チーム・ユンボ・ヴィスマ(TJV)所属

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昨年ストラーデビアンケでいきなり3位に入ったことで、ロード界でも一気に(もしかするとマチュ―以上に)名前を売り出した元シクロクロス世界王者。昨年のシクロクロスシーズンでは、直前の旧所属チームとのトラブルが尾を引いて、心身ともに疲れ果てた+所属チーム無し状態の弊害もあり、世界王者はおろか国内王者すら逃してしまった散々なシーズンだった。 

しかし、蓋を開けてみた今年のロードシーズンにおいては、開幕戦のオンループこそ微妙な走りだったものの(それでも13位)、その後のストラーデビアンケで(今年も)3位、ミラノ~サンレモで6位、さらにはE3では大先輩スティバルにこそ敗れたものの、その他の並み居る強豪を押しのけて2位に入り込む確かな強さを発揮。やはり才能の塊であることを示した。

 

しかし今大会は、いよいよ彼にとっての最大のライバルであるマチュー・ファンデルポールが本格参戦してくる日。ロードで2人がぶつかり合う瞬間もおそらくは初? 一日の長として、そして完璧なチーム力をもって、ライバルを打倒できるか。

 

 

181.マチュー・ファンデルポール(オランダ、24歳)

コレンドン・サーカス(COC)所属

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まだまだ未知数。昨年はオランダ国内選手権ロードとアークティックレース・オブ・ノルウェー2勝を含めて計6勝。

今期は開幕戦となったツアー・オブ・アンタルヤ初日ステージで優勝するもヨーロッパ初戦となったノケレ・コールスではゴール前に落車。救急車で運ばれたはずが翌日にはケロッとしており、ヨーロッパ第2戦となった石畳レース、グランプリ・ド・ドナンで得意の独走態勢での勝利を果たした。

やっぱりマチューはロードでも強いのか。

とはいえ、まだまだトップクラスでのレースには出場していない。今回のヘント~ウェヴェルヘムが初となる。

名だたるクラシックライダーたちを相手取り、ファンアールトに負けないような活躍を見せることができるか否か。

今大会、勝つか負けるかは置いておき、注目する以外に道はない選手である。 

 

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