コースプレビューに続き、今大会に出場する注目選手たちをピックアップしていく。
例年、総合系の選手も含めけっこう豪華なメンバーが揃うことの多いこの南米レースだが、今年は輪をかけて有力選手が集まっている印象だ。
もちろん、とくに総合系の選手たちは、まだまだシーズン開幕ということで本調子ではない場合も多いため、南米系の選手を中心に、プロコンチネンタルやコンチネンタル所属選手からも注目選手をピックアップしていこう。
(記事中の年齢はすべて、2019/12/31時点での年齢となります)
スプリンター勢
集団スプリントがほぼ確実視されるステージは第1・第4・第7ステージ。第2・第6ステージも集団スプリントになる可能性は高いため、今大会一番活躍が見込まれるのがこのメンバーだろう。
まだ調子が上がり切っていない総合系に比べ、スプリンター勢は割と順当に実力者たちが勝つ傾向にある。その中でも、やはり南米コロンビア勢などに注目していきたいところだ。
フェルナンド・ガビリア(コロンビア、25歳)
UAEチーム・エミレーツ(UAD)
2017年ジロ・デ・イタリア4勝、2018年ツール・ド・フランス2勝の、現役最強スプリンターの1人が、今年は新たなチームのジャージを纏ってシーズンを開始する。
昨年までもこの南米レースには常連として参加しており、サンルイス時代に4勝、サンフアン時代に3勝、合計で7勝も稼いでいる、相性の良いレースだ。
しかし、それらの勝利の立役者であった地元出身のマキシミリアーノ・リケーゼはもう、いない。果たして、彼の実力だけで、勝利をもぎ取ることができるか。
もちろん、新たなチームメートであるシモーネ・コンソンニやロベルト・フェラーリらのアシストとの噛み合わせ次第では、十分に結果を出すこともできるだろう。2019年のガビリアの活躍を占ううえでも、今大会での彼ら新アシストたちとのコンビネーションの具合を、しっかりと見ていきたい。
アルバロホセ・ホッジ(コロンビア、23歳)
ドゥクーニンク・クイックステップ(DQT)
2018年はネオプロでありながらワールドツアーを含む5勝を記録。同じコロンビア出身ということで、早くもガビリア2世などと呼ばれることも。
しかし今年、そのガビリアがクイックステップを抜けたことで、このホッジがエースとして南米レースに乗り込むことに。もちろん、最強の発射台、マキシミリアーノ・リケーゼを引き連れて。
チーム力ではホッジに軍配。経験値ではガビリアに軍配。では、実力では?
ガビリア vs ガビリア2世。こんなにも豪華な対決をリアルタイムで見られるなんて、これほどの贅沢はなかなかにない。
あ、もちろん、リケーゼがエースとなる可能性も十分に、ある。昨年も1勝してるしね。
ペテル・サガン(スロバキア、29歳)
サム・ベネット(アイルランド、29歳)
ボーラ・ハンスグローエ(BOH)
ツアー・ダウンアンダーにも出場していたサガンが、今年はダウンアンダー閉幕後サンフアン開催まで1週間あるからといって、南米に移動してこちらにも出場することに。いくら期間的には余裕があるからとはいえ、地球のほぼ反対側への移動。時差もあるだろうし、そんなに気軽に参加できるようなスケジュールではないと思うのだけれど・・・。
そんなわけで、サガンがエース、とは言い切れない可能性もある。なにしろ、チームメートとして、昨年エリア・ヴィヴィアーニに喰らいついてジロ・デ・イタリアで3勝したベネットを連れてきているのだから。サガン自身も自分がエースであることを否定するかもしれない。
とはいえ、ダウンアンダーでも自分はまだ十分にトレーニングをしておらず本気を出すつもりはないと言いながらしっかりと1勝したほか、各ステージで何度も上位に喰い込んでいた。今回もベネットがエースだからと言いつつ、とくにアップダウンの激しいステージ(第2や第6)なんかでは十分に勝負に絡んでくる可能性はあるだろう。むしろ、ダウンアンダーで体を慣らしている分、今回がシーズン開幕戦となるライバルたちよりも優位とすら言えるかもしれない。
なお、サガンはサンフアンは初出場。サンルイスでは3回出場したことがあるが、最高でもステージ2位で優勝したことはない。ベネットに至ってはサンフアン、サンルイス共に未出場である。
マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、34歳)
チーム・ディメンションデータ(TDD)
2018年は落車に病気にとまったく活躍できない辛い1年となった。一時期はチーム離脱の噂すら出ていたが、今年もまた、レンショーやアイゼルと共に再起を狙う。
そのスタート地点として選んだのがこのサンフアン。サンフアンは初出場だがサンルイスでは3回出場しており、通算2勝。2位も3回獲っている。
今回はレンショー不在だがアイゼルは連れてきており、また集団牽引役として強力なジュリアン・ヴェルモトの存在も頼もしい。ガビリアやサガンを打ち倒すのは容易ではないだろうが、2016年ツールのような鮮烈な復活を、また見てみたくはある。
ただ、本当に、怪我にだけは注意を。
ネルソン・ソト(コロンビア、25歳)
カハルーラル・セグロスRGA(CJR)
プロコンチネンタルチームから期待枠としてこの人物を。昨年のブエルタ・ア・エスパーニャに出場し、第10ステージではヴィヴィアーニ、サガン、ジャコモ・ニッツォーロに次ぐ区間4位に入り込んだ。それ以外にもブエルタ・ア・ブルゴスで区間4位、ブエルタ・ア・アンダルシアで区間3位など。今年はHCクラス以上のレースでの勝利を目指したい。
なお、同チームには2年前のサンフアンで3位を2回、4位を2回と調子の良かったマッテオ・マルチェッリという選手もいる。今年からカハルラルした選手だが、もしかしたらチームのエースはこちらの選手になるかもしれない。
総合優勝候補たち
総合優勝において重要になるステージは2つ。
第3ステージの個人タイムトライアル(12km)と、第5ステージの全長18.9km・平均勾配4.4%「アルト・コロラド」山頂フィニッシュの2つである。
2018年はアルト・コロラドで2位以下に2分近くのタイム差をつけて圧勝したゴンサロ・ナハルがそのまま総合優勝を決めるが、のちにドーピング違反で成績剥奪。
2017年はルイ・コスタがアルト・コロラドを制するも、個人TTでタイムを大きく落としていたため、12秒遅れでアルト・コロラドをフィニッシュしていたバウケ・モレマが総合優勝を果たした。
圧倒的な登坂力を見せるピュアクライマーが勝つか、それともTT能力とのバランスを見せるオールラウンダータイプが勝つか。
ジュリアン・アラフィリップ(フランス、27歳)
ドゥクーニンク・クイックステップ(DQT)
2018年はツール・ド・フランス2勝と山岳賞、その他、ラ・フレッシュ・ワロンヌでアレハンドロ・バルベルデを打ち破っての勝利や、クラシカ・サンセバスティアンでの勝利など、絶好調のシーズンを過ごした。
もちろん、グランツールでの総合優勝を狙えるようなピュアクライマータイプではない。しかし過去にはツアー・オブ・カリフォルニアでマウント・バルディーを制して総合優勝するなど、そこまで難易度の高すぎない山岳であれば十分に戦える力を持っている。それでいて個人TT能力も十分に高いため、今大会最大の優勝候補と言っても間違いではないだろう。
南米レースとの相性についても、昨年2月のコロンビア・オロ・イ・パの山頂フィニッシュでも1勝しているなど、悪くはないはずだ。
ナイロ・キンタナ(コロンビア、29歳)
モビスター・チーム(MOV)
2012年以来初となる、グランツール表彰台を1つも獲れなかったシーズンとなった2018年。
2019年シーズンの再起を目指して、キンタナは、かつて彼が1度の総合優勝と2度の総合3位を獲得している南米レースでのシーズン開幕を選んだ。サンフアンになってからは初。しかしチームメートとして、アナコナ、ベタンクール、カラパス、セプルベダなどの強力な中南米系選手を連れてきており、2500mを超える標高での決戦においては最も強いチームとなることは間違いないだろう。
アルト・コロラドで「強いキンタナ」を再び見ることができるか。
ただ、不安点としてはやはり個人TT。過去のサンルイスのTTを見てみても、アラフィリップあたりが相手だと、12kmでも30秒以上は失ってしまう可能性が高い。その分をアルト・コロラドで突き放さなければならないと考えると決して簡単ではない。仕掛け所が非常に重要になるし、チームメートの役割も大きな比重を占めることだろう。
ダイエル・キンタナ(コロンビア、27歳)
ネーリソットーリ・セレイタリアKTM(NSK)
ご存じナイロの弟。2016年にはツール・ド・サンルイスを総合優勝しているほか、昨年もサンフアンで総合7位、また、コロンビア・オロ・イ・パでもステージ優勝している。
ただ、5年間のモビスターでの生活の中で、十分な成績を出すことができず、今回、ついにプロコンチネンタルチームへと降格となった。
だが、それが彼にとって良い結果だったと言えるように、このチームでのエース級の活躍を期待している。このサンフアンのような、シーズンの外れにある1クラスのレースなんかでは、彼のようなプロコンチネンタルチームのエースがワールドツアーの選手たちを出し抜くことは十分に可能なはずだ。
チームメートも決して悪くない。特に、同じくワールドツアーチームからの移籍となったジョヴァンニ・ヴィスコンティは、あまりにも強力なアシストとして活躍してくれるだろう。むしろ、彼がエースでもおかしくないくらいだ。
ちなみにチームは元ウィリエール。ジロでも活躍していた良いチームだったが、今年、結構な有力選手の放出やリタイアもあり、人数も縮小。チーム名もギリギリまで正式決定しないなどややゴタゴタしていた印象がある。今大会の活躍で、このチームがまだまだ強力であることを示してほしい。
アレハンドロ・オソリオ(コロンビア、21歳)
🏆Stage 8🏆
— Giro d'Italia U23 (@giroditaliau23) June 15, 2018
💓 Maglia Rosa - @EnelGroupIT: 🇨🇴Alejandro Osorio - @fedeciclismocol pic.twitter.com/UTkSzshNw6
2018年はジロ・チクリスティコ・ディタリア(U23版ジロ・デ・イタリア)の第4ステージ、登坂距離10km、平均勾配8.1%の本格的山頂フィニッシュで、同じコロンビアチームのダニエル・ムニョス(今回のサンフアンではアンドローニ・ジョカットリ・シデルメクのメンバーとして参戦)と手を繋ぎながらのワンツーフィニッシュを果たした。
ベビージロ第4ステージは、コロンビアンクライマーが圧倒! - サイバナ
ステージ自体はオソリオが勝利しており、総合リーダージャージも着用。その後も総合リーダーの座を奪われては奪い返しを繰り返しつつ、最終的には総合6位で終えた。
そしてツール・ド・ラヴニールでも、山岳ステージの上位に入りつつ、最終的には山岳賞ジャージを手に入れるという活躍を見せる。ポガチャルら、今年いきなりワールドツアー入りを果たしたメンバーたちと比べるとその成績は一歩劣るが、それでも新世代を担う輝かしい才能の1人である。
さすがにまだ若すぎるので、今回のサンフアンでいきなり成績を出すことまでは望んでいない。とはいえ、南米出身選手の地の利を生かし、意外な活躍を見せてくれることに期待したい。
ニッポ自体はイメリオ・チーマのスプリントとイヴァン・サンタロミータの総合を狙うのが基本線か。日本人としてはやはり、黄金世代の中根英登に頑張ってもらいたいところ。今年はジロ・デ・イタリアの出場権を久々に得られたニッポ。そこで中根が走る姿を見てみたい!
レムコ・エヴェネプール(ベルギー、19歳)
ドゥクーニンク・クイックステップ(DQT)
今、誰もが注目する新人選手。昨年のジュニア世界選手権個人タイムトライアルとロードレースの制覇者で、さらにいえば国内選手権もヨーロッパ選手権もジュニア部門のロード&ITT全てを制覇してもいる。明らかにジュニアカテゴリにおいては規格外の存在で、結果、U23カテゴリをすっ飛ばしていきなりのワールドツアーチーム入りを果たした。それも、最強チームの一角であるクイックステップで。
そんな彼のデビュー戦はこのサンフアンとなる。その後の予定としては2月のUAEツアー、3月に2つのワンデーレースを挟んでボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャ、そして4月にツアー・オブ・ターキーとステージレースを中心にセレクトされている。
世界選手権をジルベールスタイルでフィニッシュしたことから、彼はクラシックタイプと思われがちなところもあるが、実際に今回の世界選手権はクライマー向きだったし、彼自身も自分は石畳向きではなく、グランツールでの勝利を目指していると語っている。
「(ワールドツアーデビューをすることについて)怖さは感じていない。むしろ僕は、世界最高峰のプロトンの中で走るとどんな風に感じられるのか、早く知りたくてうずうずしている。周りのみんなは僕が高いレベルにあるので怖がる必要はないと言ってくれている。僕の最初のワールドツアーレースまであと2ヶ月。僕は本当に、それが楽しみなんだ。怖さは少しも感じていない」
「僕は他の人よりも少し才能があるので、トップクラスのライダーになるのにかかる年月は彼らよりも短くて済むだろう。でも今は、プロの選手たちと一緒に走るのに十分な才能を見せる必要がある」
動じない心。そして、正しく自らの才能を認識しつつ、そこについて回る重圧に対しても自覚的である。
自転車大国ベルギーにおいて、伝説の男の二つ名を継承しているからこそ、彼の背負っているものはきっと余人の想像が及ばないところになるだろう。
誰もが期待し、期待し過ぎている逸材中の逸材。そのデビュー戦は果たして、どうなるか。