今のところ今年のツール・ド・フランスは8/29から開幕予定だが、本来開催されるはずだった日程(6/27~7/19)で、本来使用される予定だったスタートリストを再現して、自転車ロードレースシミュレーションゲーム「Pro Cycling Manager 2020」を用いた「実況」をしてみたいと思っている。
今回はその企画に向けて、全21ステージを3回に分けて「コースプレビュー」していく。
現実のツール・ド・フランスのコースの予習にもぜひどうぞ。
今回は第1週。
第1週とは思えないような、総合争い繰り広げられうる難関山岳ステージの連続。
その狂気のようなコースレイアウトを確認していこう。
注:実際のレースのコースとは、その総距離・各ポイントの位置・山岳ポイントのカテゴリなどが微妙に異なっております。
↓全チームスタートリスト&プレビューはこちらから↓
- 第1ステージ ニース・モイエ・ペイ〜ニース 160.6㎞(平坦)
- 第2ステージ ニース・オー・ペイ〜ニース 188.6㎞(山岳)
- 第3ステージ ニース〜シストロン 197.3㎞(平坦)
- 第4ステージ シストロン〜オルシエール・メルレット 159.3㎞(山岳)
- 第5ステージ ギャップ〜プリバ 183.1㎞(平坦)
- 第6ステージ ル・テイユ〜モン・エグアル 189.2㎞(丘陵)
- 第7ステージ ミヨー〜ラヴァール 162.5㎞(平坦)
- 第8ステージ カゼール=シュル=ガロンヌ〜ルダンヴィエル 140.1㎞(山岳)
- 第9ステージ ポー〜ラランス 155.6㎞(山岳)
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↓第2週はこちらから↓
↓第3週はこちらから↓
第1ステージ ニース・モイエ・ペイ〜ニース 160.6㎞(平坦)
山岳ポイント最大値:6pt
「太陽へ向かうレース」としておなじみのパリ~ニースの終着点にして、第100回記念大会となった2013年のチームTTの舞台でもあったニースを発着する開幕ステージ。
ツールの開幕ラインステージの通例に従って、集団スプリントが見込まれる「平坦」ステージだが、オールフラットでは決してなく、ある意味ニースらしい凹凸が激しいレイアウトとなっている。
スタート直後に3級山岳「コート・ド・リミエ」。登坂距離6㎞・平均勾配5%・最大勾配7%の小さな「丘」で、最初の山岳賞争いが勃発する。状況によっては集団が先頭通過する可能性すらあるだろう。
だが、山岳賞争いはこの登り一発では決まらない。いや、登りは一緒なのだが、この同じ登りがこのステージでは3回登場する。
1位通過は2ポイント、2位通過は1ポイント。勇気ある逃げに乗った少数の精鋭たちの中から、初日のマイヨ・ブラン・ア・ポワ・ルージュの着用者が生まれることになりそうだ。
この3級山岳が3回登場するということからもわかるように、このステージでは50㎞程度の周回コースを3周するという独特なレイアウトとなっている。
これは現地観戦者にとっては実に理想的なコースプロフィール。主催者も、この南国のリゾート都市ニースに世界中のファンがひしめき合う姿を思い描いていたことだろう。
新型コロナウィルス問題さえ、浮上しなければ。
現実のレースがどうなるかはわからない。だが、少なくともゲームの中では、熱狂的な観客の群れが、今大会最初のマイヨ・ジョーヌを巡って全身全霊の加速を見せるトップスプリンターたちを迎えることになるだろう。
今年の「最強スプリンター」は、果たして、誰だ?
第2ステージ ニース・オー・ペイ〜ニース 188.6㎞(山岳)
山岳ポイント最大値:35pt
「様式美」にこだわってきたはずのツール・ド・フランスは、この2020年のコースレイアウトにおいて、まるで「異端」ブエルタに近い試みを為さんとしていた。
すなわち、第2ステージからの、いきなりの本格的な山岳ステージ。しかしそれも仕方あるまい。何しろ、今年のグランデパールの地をニースに選んでしまったのだから。ニースを選んだ以上、そのパリ〜ニースにおける最高の見せ場をツールにもたらさないわけにはいかない。
かくして、2020年のツール・ド・フランスは、2日目にしていきなり、総合優勝候補たちが総合上位に名を連ねることになりそうだ。
3つ登場する1級山岳、その1つ目が、今年のパリ~ニースの(新型コロナウイルスの影響で本来の最終日がキャンセルになった結果)最終日のフィニッシュ地点となった「ラ・コルミアーヌ」。
登坂距離16.4km・平均勾配6.3%・最大勾配9.3%の長く厳しい本格山岳は、パリ~ニースにおいては残り4㎞でアタックしたナイロ・キンタナが勝利を掴んだ。
参考:【全ステージレビュー】パリ~ニース2020
そして続けざまに2つ目の1級山岳「テュリーニ峠」を登る。
登坂距離14.5km・平均勾配7.5%・最大勾配10.2%のこの登りは、2019年パリ~ニース第7ステージの山頂フィニッシュであった。
このときはミゲルアンヘル・ロペスやサイモン・イェーツと共に逃げに乗ったダニエル・マルティネスが、最後の最後で彼らを突き放して見事な勝利を獲得。ヴォーターズGMを発狂させた。
参考:【全ステージレビュー】パリ~ニース2019
ここまでで、過去2年のパリ~ニースにおけるクイーンステージの山頂フィニッシュを立て続けに登らせるというかなりおなか一杯の構成であるにも関わらず、このステージはさらにその先に、近年のパリ~ニース伝統の「最終日レイアウト」を用意してきている。
すなわち、1級山岳「エズ峠」および2級山岳「キャトル・シュマン峠」のセットである。
先の2つの登りに比べると標高の低いこの2つの登りではあるものの、いずれも最大勾配は9.9%の厳しい登り。
そして毎年このパリ~ニースにおける「ドラマ」を生み出す名峠となっている。
そして重要なのは、この2つの登りを経たうえで、フィニッシュは山頂ではなくテクニカルな下りの先にある美しき海岸線「英国人の遊歩道(プロムナード・デ・ザングレ)」での平坦スプリントフィニッシュとなるということ。
パリ~ニースでも、エズやキャトル・シュマンの登りで抜け出して逆転を狙うライバルと、これを追いかけるマイヨ・ジョーヌとの下りにおける熾烈な追いかけっこが幾度となく繰り広げられてきた。
今回も、度重なる強烈な山岳によりセレクションのかかった集団の中から、最後のキャトル・シュマンの下りでアタックした数名のアタッカーによる逃げ切りが期待できるかもしれない。
下りで積極的な動きを見せる男といえばユンボ・ヴィズマのプリモシュ・ログリッチ、あるいは、昨年の大怪我からの復活がかかり、しかも絶対的なエースという立場から解放されているがゆえに自由な走りを許されているクリス・フルームなんかが――この最後の下りで、早くも勝負を仕掛けてくるかもしれない。
また、この日は3つもの1級山岳が用意されており、フィニッシュ地点での山岳賞ランキング上位の顔ぶれは前日からがらっと変わることになりそうだ。
この日うまく逃げに乗って大量ポイントを獲得できたものは、しばらくその赤い水玉ジャージを着続けることもできそうだ。
序盤のアタック合戦、および山岳賞争いにも注目していこう。
あとは、とくにテュリーニ峠からの長く急勾配でテクニカルな下りには注意が必要。
落車して即リタイア・・・そんな危険も孕むコースとなっている。
第3ステージ ニース〜シストロン 197.3㎞(平坦)
山岳ポイント最大値:18pt
今年のツール・ド・フランスのテーマの1つは「平坦詐欺」である。平坦カテゴリでありながら、全部で7つもの山岳ポイントが用意されたアップダウンステージ。
とはいえ、最後の3級山岳からフィニッシュまでは40㎞以上残っており、最終的には集団スプリントで決着するのは間違いない。
初日にマイヨ・ジョーヌを着た「最強スプリンター」はさすがに第2ステージでそれを脱いでいる可能性が高いが、それでも最強の証である緑色のマイヨ・ヴェールを身に着けて、この日2度目の勝利を奪い取ることができるか。
2015年のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネでもこのフィニッシュ地点が使われて、そのときはナセル・ブアニが勝利している。
今年、アルケア・サムシックに移籍したブアニは、キンタナと共に調子のよさを見せている。現実の8/29から開幕するツール・ド・フランスには出場しない可能性が示唆されている彼だが、今回のゲームの際には出場予定となっており、活躍に期待したいところ。
第4ステージ シストロン〜オルシエール・メルレット 159.3㎞(山岳)
山岳ポイント最大値:22pt
2020年のツール・ド・フランスは、第4ステージにて早くも本格的な山頂フィニッシュを迎える。
そこに至るまではそこまで厳しすぎるレイアウトではない。まず注目するべきはスタートから51㎞地点に位置する中間スプリントポイント。
この日最後に仕事をする必要のないスプリンターズチームが、マイヨ・ヴェール争いのためにこの中間スプリントポイントに向けてペースを上げ、早速逃げを捕まえてしまう可能性はある。
その後は2級山岳と立て続けに訪れる4級山岳、長い登りのあとの3級山岳と緩やかに登っていった「途中」の3級山岳。
この最後から2番目の3級山岳ポイントを越えたあとも登りは続き、カテゴリはついていないけれども最大で9%近くある登りが控えている。
だが、それらのアップダウンは総合に影響を及ぼすほどではない。
やはり重要なのは最後の1級山岳「オルシエール・メルレット」。
1952年に生まれたスキーリゾートであり、1971年以降4度ツールのフィニッシュ地点に選ばれた登りは、全体の平均勾配だけを見ると6.5%と緩やかに見える。
だが、残り6~4㎞地点あたりに勾配8~10%の急勾配区間が配置されており、ここで決定的なセレクションがかかる可能性が高い。
総合争いにおける動きは確実に巻き起こる。ここで総合優勝候補が絞り込まれる、ということはないだろうが、それでも、「誰が勝てないか」は明らかになってしまうだろう。
第5ステージ ギャップ〜プリバ 183.1㎞(平坦)
山岳ポイント最大値:3pt
激動の第4ステージを越えて、定番の「アルプスの麓」からスタートするこの日は久々にゆったりとした落ち着いた展開が期待できるステージ。
逃げ切りが狙えるほど厳しくはなく、山岳ポイントも大して存在しない。逃げ集団もそこまで大きくはならず、何の問題もなく集団スプリントで決着することになるだろう。
終盤は登り基調のように見えるが、勾配は2~4%程度と緩やか。ピュアスプリンターたちの足を止めるほどではない。ラスト1㎞はむしろ下り基調で、時速70kmを超える高速集団スプリントで今大会3度目の「スプリンター頂上決戦」が繰り広げられる。
第6ステージ ル・テイユ〜モン・エグアル 189.2㎞(丘陵)
山岳ポイント最大値:22pt
アルデシュ県のル・テイユから出発する前半戦は、小刻みなアップダウンはあるものの基本的には平坦基調。
勝負は中央山塊へと突入する後半の50㎞ほどから始まりを告げる。
とくに残り24.2㎞から登り始める1級山岳「コル・ドゥ・ラ・ルセット」は、ツール初登場ながら非常に難易度の高い登りの1つだ。
勝負所になるのは山頂まで5㎞(ゴールまで18km)あたりから始まる10%以上の激坂区間。
その後も山頂まで常に8~9%近い急勾配が続き、ここで早くも総合勢の中での分断が巻き起こることによって、決定的なタイム差がつけられてしまいかねない危険なレイアウトである。
ラストの2級山岳「モン・エグアル」自体は登坂距離7.5km・平均勾配4%程度、最大でも5~6%程度の緩やかな登りであるため、危険度は小さい。
とにかく、総合優勝候補たちはその前の段階のコル・ドゥ・ラ・ルセットで遅れないこと。
そして、万が一遅れてしまったのならば、モン・エグアルにて死に物狂いで挽回を図らなければならない。
第7ステージ ミヨー〜ラヴァール 162.5㎞(平坦)
山岳ポイント最大値:8pt
レースディレクターのクリスティアン・プリュドムが公式ページで「平坦って何だろうね」と書いてしまうような平坦ステージが続く今年のツール・ド・フランス。
それでもまあ、たしかに集団スプリントにほぼ確実になるという意味では平坦ステージではある。基準はもはやブエルタのそれではあるが。
今日が今大会4回目の集団スプリントステージ。果たして、ここまでで2~3勝はしている「最強」がいるのか。それとも昨年のように、「混戦」が続いているのか。
なお、この日の出発地点には「世界一高い橋」であるミヨー高架橋が存在する。
ゲーム中でも一応再現はされているのだが、やや大人しめ。
このあたりはぜひ、現実のレースにおいてド迫力の空撮を見たいところ。
第8ステージ カゼール=シュル=ガロンヌ〜ルダンヴィエル 140.1㎞(山岳)
山岳ポイント最大値:40pt
すでに第2・第4・第6ステージと総合争いに影響を及ぼす山岳ステージが続いてきている中で、この日も、そしてある意味ではここまでで最大の厳しさを誇る山岳ステージが登場する。
何しろ、今大会初の超級山岳を含むステージである。すでに7ステージを終えてきているプロトンにとって、これはかなり厳しい仕打ちである。距離が短めなのがせめてもの救いか・・・。
まずは残り88.6km地点から登り始める1級山岳「モンテ峠」。
登坂距離9㎞・平均勾配7.5%・最大勾配11.7%。十分厳しい登りだが、この日はこれはほんの序の口である。
続いて残り47.8km地点から登り始める今大会最初の超級山岳「バレ峠」。
2007年に初登場以来今回で6回目の登場となる。最も最新は2017年で、そのときは逃げていたスティーヴ・カミングスが先頭通過を果たしている。
登坂距離12.1km・平均勾配7.7%・最大勾配12.9%。山頂まで7㎞および5㎞の地点にある10~11%勾配区間が勝負所となりやすい。ここでメイン集団から「勝てない選手」が脱落していき、今大会本当に強い十数名の選手たちにのみ絞り込まれることだろう。
だがこれで終わりではない。
最後に、残り20.1km地点から登り始めるのが、1級山岳「ペイルスルド峠」。
登坂距離9.8km・平均勾配7.5%・最大勾配10.1%。
過去何度となくピレネーの激戦の舞台となってきた伝統的な登りで最終セレクションがかけられる。
もしかしたら、ここまでの第4・第6ステージなどで強さを見せた選手も、ここで思わず崩れてしまうかもしれない。
まるで3週目のような激戦の連続を経て、それでもまだ第1週目は終わらない。
第9ステージ ポー〜ラランス 155.6㎞(山岳)
山岳ポイント最大値:41pt
第1週最終盤のピレネー2連戦の2日目。パッと見、前日と比べるとやや難易度が低く見える・・・というのは気のせい。
まず、この日も超級山岳「ラ・ウルセル峠」が待ち受けている。
直後に2級山岳。
だが、このあたりは集団を6~70人程度に絞り込みはしても、まだ決定的なセレクションの理由にはならない。
ラ・ウルセル峠も登坂距離も長く平均勾配も大きな登りではあるものの、それだけならばこの第1週に何度も見てきた山とそう変わりはしない。
問題は、ゴールまで残り25.6㎞から登り始める1級山岳「マリーブランク峠」である。
上のMAPで勾配の厳しさを表す色が異様な黒で表現されている箇所があることがわかるだろう。
そこがマリーブランク峠。
登坂距離7km・平均勾配8.9%・最大勾配12.9%の1級山岳。
そして、山頂まで残り3.5kmを切ったあたりから勾配が10・・・いや、11%を切ることがほとんどない、超凶悪な激坂登坂である。
この山頂からゴールまでは下りと緩やかな登りだけの18.6㎞。
しかし、このマリーブランクで失われたタイムを取り戻すには短すぎる。
前日に引き続き、ここでも大きな総合争いが引き起こされることとなるだろう。
結局、全9ステージ中、5ステージ・・・第2ステージがそれでも、そこまで総合勢の本当の意味での決定的な動きが巻き起こらないとしても、4ステージは重要なステージとなるのが今年のツール・ド・フランスである。
もちろん、まだまだ今年のツール・ド・フランスの「本気」はこんなものじゃない。
次回はさらなる難関コースが待ち受ける第2週を見ていく。
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