りんぐすらいど

サイクルロードレース情報発信・コラム・戦術分析のブログ

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【全ステージレビュー】パリ〜ニース2020

 

新型コロナウイルスによる混乱は、一方でこのレースにいつもと違った風をもたらしてもくれた。

「最強」不在のプロトンで、一筋縄ではいかない混乱の中で、意外な勝者、そしてチームワークが連日飛び出す展開。

残念ながら最終日までレースが続くことはなかったが、それでも、大きな中断を前にした2020年シーズン前半戦最大のレースは見事な一週間を提供してくれたように思う。

 

全7ステージの展開、特に勝敗に関わる重要な部分を詳細にプレイバック。

少しでも参考になれば幸い。

※記事中の年齢表記はすべて2020/12/31時点のものとなります。

 

 

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第1ステージ プレジール〜プレジール  154㎞(丘陵)

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「太陽へ向かうレース」とは、すなわち冷たい雨風の地域からのスタートを意味する。

パリ近郊。昨年も激しい横風で荒れに荒れたパリ〜ニース序盤戦は、今年も同様に激しい展開から開幕した。

まずは優勝候補リッチー・ポートの脱落。さらに、ロマン・バルデとワレン・バルギルという2人のフランス人スター選手も落車に巻き込まれる。

バルギルは復帰の際のカーペーサーを利用し、警告にも従わなかったということで失格を言い渡された。

 

そして、残り30㎞地点から立て続けに登場する2つの中間スプリントポイント。

パリ〜ニースは例年、僅差の争いになることも多く、また今年は先日のUAEツアー同様途中でレースが終わってしまう可能性もあったため、この序盤からボーナスタイムを巡る争いは白熱する。

今年ここまで調子の上がり切っていないジュリアン・アラフィリップがティシュ・ベノートと共に抜け出し、2つの中間スプリントポイントを共に先頭通過したうえで、メイン集団から最大で40秒以上のタイムギャップを形成した。

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残り10㎞を切ってもこのタイム差が縮まらない。2人の逃げ切りは濃厚かと思われていたが、ようやく少しずつ、プロトンと逃げ2名とのタイム差が縮まっていく。

そして残り5㎞地点から始まる3級山岳ヌフル=ル=シャトーの後半。

雨に濡れた勾配8%の石畳区間で、プロトンからディラン・トゥーンスとマクシミリアン・シャフマンが抜け出した。

激坂適性の高い2人のブリッジは見事に成功し、残り1.5㎞でジョイン。

フラム・ルージュを通過した時点で追走集団とのタイム差はまだ20秒弱残っており、4名の逃げ切りが決まった。

 

ラストは4名のスプリント。

ここまで、総合タイムを稼ぎ出すことに集中し積極的な先頭牽引を見せていたアラフィリップは早めに力尽きて脱落。

登りスプリントで最初に加速したのはディラン・トゥーンスだったが、少し早すぎたか――昨年のイツリア・バスクカントリーでステージ3勝を記録したパワーパンチャー・シャフマンがこれを追い抜いて、初出場のパリ〜ニース開幕勝利を手に入れた。

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アラフィリップとベノートが抜け出したあと、これを捕まえるべく集団を牽引し続けてくれたのがパトリック・コンラッドとフェリックス・グロスチャートナーであった。

そして最後、20秒まで縮まったギャップを埋めてシャフマンがブリッジできるように、強力なリードアウトで彼を発射させてくれたのがグロスチャートナーであった。

 

まさにチームで掴んだ勝利、掴んだマイヨ・ジョーヌ。昨年のバスクで見せた「強いボーラ」が今年も帰ってきた。

 

 

 

第2ステージ シュブルーズ〜シャレット=シュル=ロワン 166.6㎞(平坦)

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この日もまた、いや前日以上に、横風による激しい展開が待ち受けていた。

 

コース自体はピュアスプリンター向けの平坦ステージ。

しかしコース後半、残り32㎞地点から始まる田園地帯に足を踏み入れるや否や、強烈な横風によってあっという間にプロトンが3つに分裂した。

サム・ベネットやカレブ・ユアンら有力スプリンターたちは言うに及ばず、前日に続きリッチー・ポート、そしてナイロ・キンタナは落車に、ジュリアン・アラフィリップはパンクに見舞われて、第3集団へと脱落。

最終的にこのグループは、先頭から1分25秒遅れでゴールすることになる。

 

30名程度に絞り込まれた先頭集団でも、さらに残り10㎞でペテル・サガンやマッズ・ピーダスンらが強力な牽引を見せて集団分裂。

11〜2名に絞り込まれたこの最終集団の中に、ボーラ・ハンスグローエは4名もの選手を残していた。 

その中に含まれていた、昨年ジロのポイント賞、パスカル・アッカーマン。

ペテル・サガンのリードアウトによって残り150mで放たれたアッカーマンは、誰が見てもこの日最強のスプリンターであった。はずだった。

 

しかし、この日の悪コンディションは知らず知らずのうちに彼の足も削っていたのか。スプリント開始からゴールまでの距離の半分もいかないうちに、早すぎる失速を迎えるアッカーマン。

これを見て、その背後に控えていたジャコモ・ニッツォーロが飛び出した。残り3㎞地点から常にアッカーマンの背後を取り続けていた男。

その後方からは今年のオンループ覇者ジャスパー・ストゥイヴェンも追いすがるが届かず。

そのままニッツォーロがゴールラインを突き抜けて、ツアー・ダウンアンダーに続く今期ワールドツアー2勝目を飾った。

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この日いかにしてボーラ・ハンスグローエやトレック・セガフレードが集団をコントロールしたのか、そしてジャコモ・ニッツォーロのこれまでを綴った記事は以下の通り。

www.ringsride.work

 

  

第3ステージ シャレット=シュル=ロワン〜ラ・シャトル 212.5㎞(平坦)

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前日までの2ステージに比べると、それでも平穏と言える展開となったこの第3ステージ。

逃げはサーカス・ワンティゴベールのトム・デヴリーントただ1人。予定よりもずっと遅いペースでプロトンは210㎞超えの長距離ステージを駆け抜けていく。

ただ、やはりこの日も横風を巡る争いは展開された。残り20㎞を切ってドゥクーニンク・クイックステップによる横風分断作戦が発動。

集団は一気に絞り込まれるが、それでもトップスプリンターたちはなんとか生き残って最後の集団スプリントを迎えることになった。

 

ただ、そのフィニッシュでも混乱は巻き起こった。

ランパールトやモルコフによってリードアウトされるサム・ベネットのトレインと、ジョン・デゲンコルプにリードアウトされるカレブ・ユアンのトレインとが有力だったが、これもフィニッシュ直前にバランスを崩したユーゴ・オフステテールによってベネットが落車。

ユアンも落車こそしなかったもののハンドルが絡まって足止めを喰らった。

 

混沌の最終登りスプリントで先頭を取ったのはイバン・ガルシア。

プロデビュー初年度の2017年にはツアー・オブ・ジャパンに来たこともあり、その後ブエルタ・ア・エスパーニャの山岳ステージエスケープや登りを含んだスプリントステージでの上位入賞、昨年はツアー・オブ・カリフォルニアで初のプロ勝利を飾っている。

いつかブエルタで勝つと信じているこの男が、着実に実績を積み重ねる勝利を掴んだ。

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落車したベネットは幸いにも骨折はなかったものの、翌日の個人TTは未出走となった。

 

 

第4ステージ サン=タマン=モンロン 15.1㎞(個人TT)

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前半の登り区間と後半のテクニカルな下り区間とが設けられた短中距離個人タイムトライアル。暫くはトーマス・デヘントがトップタイムを記録し続け、リッチー・ポートも、ボブ・ユンゲルスも、ヴィクトール・カンペナールツも新バイクを用意してきたFDJのステファン・クンも皆、このエスケープ王の記録を塗り替えることはできなかった。

ブエルタ・ア・アンダルシアの個人TTで4位となったペリョ・ビルバオが中間計測地点でデヘントを超えるタイムを記録するも、下りと平坦の後半戦で失速。デヘントの記録にわずか2秒届かず、このままデヘントの勝利か・・・と思われていた中で、デンマークTT王者のカスパー・アスグリーンが1秒以下のタイム差でデヘントを上回った。

中間計測地点ではビルバオに届かなかった彼が、後半の下り・平坦区間で一気にまくり上げた形だ。

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だが、デンマーク最強は彼ではなかった。総合4位のセーアン・クラーウアナスンが、なんとこのアスグリーンのタイムを12秒も上回る圧倒的なタイムでフィニッシュ地点にやってきた。

カメラモトがついていなかったためどんな走りをしたのかは定かではないが・・・2018年パリ〜ツール覇者にして、先日のオンループ・ヘットニュースブラッドでも最終盤まで残り続けた偉大なるクラシックライダーが、チーム・サンウェブの今期6勝目をもたらした。

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総合勢で大きなリードを手に入れたのはマイヨ・ジョーヌのシャフマン。元々TT能力の高い彼はこの日の優勝候補の1人だったが、実際アスグリーンのタイムを6秒上回る、やはりこれも素晴らしい成績を残して終えた。

総合2位はアナスン。総合を狙ううえではシャフマンの次点につくことになるだろう総合3位はチームメートのフェリックス・グロスチャートナーであり、ボーラは総合争いにおける実質的なワンツー体制を築き上げ、かなり優位に立つことになった。

直接的なライバルになりうるセルジオ・イギータはすでに1分6秒差であり、パリ〜ニースにおけるこのタイム差は、シャフマンが純粋なクライマーではないことを差し引いても決して小さなものではない。

 

なお、総合系の選手の中でのTTタイム差は以下の通りである。

  • シャフマン
  • ビルバオ +9
  • ポート +28
  • ベノート  +30
  • トゥーンス +30
  • グロスチャートナー +30
  • アラフィリップ +30
  • ラトゥール +34
  • イギータ +40
  • ピノ +44
  • キンタナ +45
  • ニバリ +47
  • コンラッド +47
  • オコーナー +57
  • バルデ +58
  • マルタン +60

 

グロスチャートナーが意外に速く、また、TTが決して得意ではないだろうと思われていたイギータが、他の総合系と比較してそこまで悪くないタイムだったのが驚きであった。

先日のコロンビア国内選手権でベルナルを破って2位になっているキンタナも、その意味では悪くない。逆にバルデなんかは相変わらずこのTTが大きな弱点であり続けている。

ヴィンツェンツォ・ニバリもせっかく第2ステージで手に入れたリードを失うような結果になってしまい残念。

 

 

第5ステージ ガナ〜ラ・コート=サン=タンドレ 227㎞(平坦)

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アルプスに近い地域に突入し、アップダウンはそれなりにあるものの、基本はスプリンターのためのステージと思われていた。

しかしアタック合戦の末に形成された逃げ4名の中には、現アイルランドTT王者のライアン・ミューレン、元スロベニアTT王者のヤン・トラトニク、そして2015年ブエルタ・ア・エスパーニャで独走逃げ切り勝利を果たしているアレクシー・グジャールなど、TTスペシャリスト/逃げスペシャリストが揃っていたため、思うようにタイムが縮まらなかった。

 

残り20㎞を切ってタイム差も1分を下回ったが、そのタイミングでプロトンの中で動きが活性化。ドゥクーニンク・クイックステップによる波状攻撃と、それを抑えたあとの牽制合戦などが繰り広げられ、むしろ集団追走の勢いが弱まってしまった。カレブ・ユアンがメカトラで脱落しロット・スーダルが牽引に加わらなくなったことや、トラトニクが逃げていることでバーレーン・マクラーレンがチェック以外では動きを見せなかったことも、この集団の停滞を招いた。

そして残り1㎞でタイム差はなおも10秒。残り200mをトラトニクが通過してもなお、集団との間に差が開いているように見え、このまま逃げ切れるか?!と思った次の瞬間、プロトンの左端から恐ろしい勢いで上がってくる男が1人。

ニッコロ・ボニファツィオ。かつてバーレーン・メリダ発足時にエーススプリンターとして期待されながら、その後は思うような走りができずに昨年からプロコンチネンタルチーム(現UCIプロチーム)所属となってしまった男。

その彼が、あまりにも強い勝ち方で、2016年のツール・ド・ポローニュ以来4年ぶり2度目のワールドツアー勝利を手に入れた。

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前日優勝のイバン・ガルシアが2位。3位にサガンがつけるなど、やはり一筋縄ではいかないスプリントステージとなったこの日。

混戦の中、数少ないチャンスを掴み取ったボニファツィオが、新型コロナウィルスの猛威に苦しむ母国イタリアへの「贈り物」を届けた。

 

 

第6ステージ ソルグ〜アプト 160.5㎞(丘陵)

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6つのカテゴリー山岳を含み、総獲得標高3,000m超えの逃げ切り向きコース。ただし、最終日第8ステージが新型コロナウィルスの影響でキャンセルとなったため、この日が最終日1日前に。

 

逃げは7名。

  • ロマン・バルデ(AG2Rラモンディアル)
  • アレクシー・グジャール(AG2Rラモンディアル)
  • マッズ・ピーダスン(トレック・セガフレード)
  • シュテファン・キュング(グルパマFDJ)
  • ウィネル・アナコナ(アルケア・サムシック)
  • ニコラ・エデ(コフィディス・ソルシオンクレディ)
  • アントニー・ペレス(コフィディス・ソルシオンクレディ)

 

残り47.5㎞地点に設置された中間スプリントポイントへと向かう登り区間。10%勾配が繰り返し登場するこの短い登りで7名はバラバラに。

最終的に先頭に残ったのはバルデとエデの2人だけだった。

 

さらに同じタイミングでプロトンから抜け出したニキアス・アルント(サンウェブ)が、遅れていたアナコナ、キュング、グジャールの第2集団に追いついた。

そして残り44㎞地点から登り始める2級山岳カスヌーヴ峠(登坂距離5.2㎞、平均勾配5.3%)。この登り始めで集団からさらにら抜け出したセーアン・クラーウアナスン(サンウェブ)が、一気にアルントたちの第2集団に追いつくと、アルントが彼を率いて一気にペースアップ。

キュング、グジャールはすぐさま遅れ、アルント脱落後にもペースを上げるクラーウアナスンに食らいついていたアナコナも、やがて山頂目前で切り離されてしまった。

 

そして残り33㎞地点で、クラーウアナスンはついに、バルデ・エデの先頭2名に追いついた。

 

 

残り17.5㎞地点から始まる最後の2級山岳オリボー峠(登坂距離4.5km、平均勾配5.8%)に突入すると同時にエデが脱落。

さらに山頂まで2㎞を残した地点で、バルデすらもクラーウアナスンによって引き千切られてしまった。

 

しかし、クラーウアナスンとプロトンとのタイム差は20秒を総合逆転するどころか、逃げ切りもやや厳しい状況。そこで、山頂まで残り1㎞地点で、集団からヴィンチェンツォ・ニバリがアタック。さらに、ここにサンウェブのティシュ・ベノートが食らいついていった。

山頂まで残り500mを切って、ベノートがニバリを突き放してクラーウアナスンと合流。そして、残る力すべてを振り絞って、クラーウアナスンがベノートのためのリードアウトを見せつけた。

ゴールまで残り13.5㎞。途中、再び訪れた中間スプリントポイント前の勾配10%区間ですら、ベノートを足を止めるには至らなかった。山頂時点で20秒にまで縮まっていたタイム差はその後二度と縮まることはなく、むしろ一時は30秒、そして40秒弱にまで開いていっていた。

最後は、両腕を広げて、そして信じられないといったポーズを見せながらフィニッシュに戻ってきたベノート。

彼にとって、生涯3つ目のプロ勝利。そして、初のワールドツアーステージレースでの勝利だった。

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この勝利で、ベノートはシャフマンから36秒遅れの総合2位にジャンプアップした。

そのシャフマンは残り1㎞のテクニカルな下りで曲がり切れずに単独落車。幸いにも残り3㎞以内での落車ということで救済措置を受けることができたが、そうでなければベノートからさらに18秒ものタイムを失うことになっていた(彼がフィニッシュ地点に辿り着いたのはシャフマンゴールから40秒後だったため)。

 

いよいよ翌日は最終日山頂フィニッシュ。総合首位のシャフマンから2位のベノートは36秒遅れ。そして総合3位のセルジオ・イギータは1分01秒遅れという状況の中で、最後の戦いが始まる。

 

 

第7ステージ ニース〜ヴァルドゥブロール・ラ・コルミアーヌ 166.5㎞(山岳)

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最終ステージのキャンセルにより、最終日となったこの第7ステージは、2018年も同じ第7ステージのフィニッシュ地点に選ばれたラ・コルミアーヌ峠。

ただ、この日が最終日ということで、総合逆転を狙う選手たちの動きは例年以上に活発化。一時はニバリやキンタナやイギータまで含まれた逃げが生まれるなど、かなりのハイペースで序盤は展開された。

最終的にはジュリアン・アラフィリップやトーマス・デヘントなどが含まれる6名の逃げが誕生。前日も逃げて山岳賞ジャージを手に入れていたニコラ・エデはこの日も逃げに乗り、しっかりと山岳ポイントを収集して、ワールドツアーに昇格したチームに「ミニ・ツール・ド・フランス」での成果を持ち帰ることに成功した。

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ジュリアン・アラフィリップは現在2分遅れの総合10位。一時は3分以上に開いたこの逃げ集団の中でバーチャルマイヨジョーヌも手に入れていたが、そうはさせじとボーラ・ハンスグローエがパトリック・コンラッドを先頭に猛追。

ラ・コルミアーヌ直前でタイム差を1分にまで縮め、その背後で36秒遅れ総合2位のベノートを抱えるチーム・サンウェブが虎視眈々とチャンスを伺っていた。

 

そして、逃げ集団の中ではこのラ・コルミアーヌの登坂開始と共にデヘントが独走を開始。

アラフィリップによる総合逆転の目は消えたものの、今度はメイン集団でアルケア・サムシックがペースアップ。さらにはトレック・セガフレードがケニー・エリッソンド、そしてリッチー・ポートをアシスト役として使い、ヴィンチェンツォ・ニバリのためのペースアップ。

この動きで総合4位のグロスチャートナーも遅れ、メイン集団は12名ほどに。残り9㎞。シャフマンは早くも1人になってしまった。

 

だが、もしかしたらこのとき、ニバリの調子は十分ではなかったのかもしれない。残り7㎞でロマン・バルデのアタックをきっかけにエリッソンドが脱落し、ポートがダンシングで前を牽いていくが、そこまでペースが上がり切ってはいない。ニバリも残り6㎞で補給食を口にするなど、万全ではなさそうな様子。

シャフマンも苦しそう。口を半開きにして、肩を左右に揺らし、限界を迎えつつある様子を見せている。それでも、彼が引きちぎられるような状況にはまだ、なかった。

 

そして残り4㎞。2年前にサイモン・イェーツがアタックしたのと同じポイントで、今年はナイロ・キンタナが満を持してのアタックを繰り出した。独走し続けていたデヘントをあっという間に追い抜いて先頭に。メイン集団も動揺し、ポートが落ちて、タネル・カンゲルトやルディ・モラールらのアシストたちも離れていき、集団はニバリ、シャフマン、ピノ、イギータ、そしてべノートの総合上位5名だけに。

ニバリもここでアタックをするが、切れがない。すぐに引き戻され、牽制状態に。残り距離が着実に削り取られていき、シャフマンにとってはどんどん有利な状況へ。

イギータ、ピノもカウンターでアタック。これもシャフマンにとっては脅威となる動きではなかった。だが、ずっと後ろで機会を窺っていた36秒差の総合2位べノートが、残り1.5㎞でついに動き出した。

 

さすがにこれはシャフマンも自ら追いかけるほかなかった。だが、シャフマンにはもうその足は残っておらず、一気に引き離されていく。シャフマンでは追いかけるのが難しと判断したピノらが先頭に出てペースを上げ、シャフマンはその後ろに張り付いていくことに。

ただ、ピノもニバリもイギータも、ここでシャフマンを突き放せるほどのペースは上げられなかった。結局これは、シャフマンを利する形に。

 

先頭でゴールに飛び込んできたのはナイロ・キンタナ。2018年2勝、2019年3勝しかできていない男が、このアルケアに移籍した今年、クラスは小さいながらもすでに5勝目となる。国内選手権以外で出場した今年のレースすべてで何かしらの勝利を飾っている形だ。

ナイロ・キンタナ、完全復活、なるか? 今年のツール・ド・フランスが実に楽しみだ。

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そして、2位でゴールしてきたのがティシュ・ベノート。前日のチーム一丸となったステージ勝利に続き、今日も最後に総合上位勢の中からしっかりと抜け出したこの男は、堂々たる総合2位。

ただ、それでもやはり前日に頑張りすぎて足が十分ではなかったか。残り1.5㎞からのアタックでは、36秒差をひっくり返すのは叶わなかった。

それでも最後はゴール直後に足を止めてフェンスにもたれかかるしかなかったほどに出し尽くした彼は、今年26歳。ステージレーサーとして、着実に成長し続けている。チームの新たなエースとなれるか。

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メイン集団の中での3位争いはピノに軍配。その後ろにイギータ、ニバリ。

シャフマンはそこから少し遅れての6位ゴール。ただ、最後の最後まで、苦しい表情を見せながらもなんとか食らいついていった。ゴール後は地面に倒れこみ、あの表情がブラフではなかったことを証明した。

まさに限界を超える戦いを耐え抜いたマキシミリアン・シャフマン。しかし、その結果、「ミニ・ツール・ド・フランス」の頂点を獲るという偉大なる栄誉を手に入れた。それも、最終日こそキャンセルされたものの、しっかりとクイーンステージを乗り越えたうえで、である。この走りは間違いなく本物であった。

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総合成績

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結果として今年も最後の最後までどうなるかわからない僅差の戦いが演じられたパリ~ニース。

総合上位勢においても、今大会の最有力候補たるイギータ、ニバリ、ピノ、キンタナがしっかりと並ぶ構図に。

 

一方で、第6ステージで見事なコンビネーションを見せたチーム・サンウェブが、若き新エースベノートをあとわずかで表彰台の頂点に立たせうるところまで運び上げてくれていた。

そしてボーラ・ハンスグローエも、第1ステージや第2ステージからチーム全体がエースを支え合う姿勢を見せ続けたことで、総合優勝候補を抱えていたわけでは決してない状況から見事な栄光を掴み取ることができた。

昨年はエマヌエル・ブッフマンがツール総合4位を手に入れたボーラ・ハンスグローエ。今年もまた、この総合争いにおいても十分に期待のできるチームに仕上がっていると言えそうだ。

 

そして総合3位のセルジオ・イギータ。彼もまた、チームに支えられていた。とくに第2ステージの強風区間では、一流のクラシックライダー、セップ・ファンマルクに守られてライバルたちから大きなリードを得ることに成功。さらに決して得意ではなかったはずの個人TTでもニバリやピノたちに先行するタイムを稼ぎ出し、最終的には総合3位をわずか23歳で手に入れた。

最後はティージェイ・ヴァンガーデレンやマイケル・ウッズが、新型コロナウイルスの影響や落車骨折の影響でリタイアしてしまったことが響き、孤独な戦いを強いられたうえで反撃の糸口を掴めなかったのは残念だが、いろいろ万全な状態を用意できれば、今年のグランツールでも総合表彰台を狙っていくだけの力量はありそうだ。

 

その他、トレック・セガフレードのアシスト陣やキンタナの復活など、見るべきポイントは多々あった今回のパリ~ニース。

今、自転車ロードレース界は他のスポーツ同様に完全なる中断の憂き目に遭ってはいるものの、このパリ~ニースで見せた各チーム、選手たちの可能性の輝きは確かに力強く、早く事態が終息し、せめてツール・ド・フランスは万全の状況の中で見ることができることを願っている。

 

「太陽へ向かうレース」。なんとかニースの地に到達することのできたプロトンは、今年もまた、最高のレースを見せてくれた。

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