いよいよ本格的なクラシック、ステージレースシーズンの開幕・・・のはずだったのだが。
2月末のUAEツアーを襲った新型コロナウィルス(COVID-19)の流行拡大を受け、まずはイタリアのレースが全滅。次いでスペイン、ベルギー、フランスと続き、ついにはUCIが4月3日までの全てのレースの中止を勧告した(3月16日現在)。
本来であれば追いきれないほどの量のレースが世界各地で展開されるこの3月から4月にかけて、ぐっと寂しくなってしまった・・・。
それでも、そんな中、数少ない開催レースとなったクラシックレースやパリ〜ニースなどで、出場を決めた選手たちによる激しい凌ぎ合いを見ることができた。
もしかしたらこの後しばらく僕たちは彼らのレースを見られないかもしれない。だからこそこの基調な2020シーズンのレース群を振り返り、今年の彼らの走り、輝きを記憶していくべきだろう。
今回もこの3月に開催されたUCIレースのうち、とくに注目すべきレースたちを簡単に振り返っていく。
(記事中の年齢は全て、2020/12/31時点のものとなります)
↓過去の「主要レース振り返り」はこちらから↓
主要レース振り返り(2018年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど
主要レース振り返り(2019年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど
スポンサーリンク
クールネ〜ブリュッセル〜クールネ(1.Pro)
UCIプロシリーズ 開催国:ベルギー 開催期間:3/1(日)
前日のオンループ・ヘットニュースブラッドと合わせ、北のクラシック開幕戦を意味する「オープニング・ウィークエンド」を構成する。オウデクワレモントやクルイスベルグなどのフランドルの代表的な激坂も登場するが、終盤は平坦気味。それゆえにピュアスプリンターたちも意外と残り、最後は集団スプリントで決着することも多い。
一方で、過去に何度か逃げ切りも起きている。たとえば2016年には今年のオンループ覇者ジャスパー・ストゥイヴェンが、昨年はボブ・ユンゲルスが、独走逃げ切り勝利を果たしている。
そして今年も。
残り29㎞地点。スタート直後から逃げ続けていた5名の逃げをプロトンが捉えかけたとき、そのプロトンから1人の狼が飛び出した。
カスパー・アスグリーン。ベルナルやホッジ、ヤコブセンらと共に2017年のツール・ド・ラヴニールで活躍した若き才能は、ホッジたちから遅れること3ヶ月、4/1というタイミングでクイックステップ入りを果たすこととなる。
その後はすぐには頭角を表さなかった彼も、2019年は北のクラシックで才能を花開かせ、ロンド・ファン・フラーンデレンではベッティオルに続く単独2位でゴールする。
そしてその後も国内TT王者になるほどの独走力を活かし、とくにエーススプリンターたちのゴール前1㎞から500mの牽引を引き受ける機関車役として活躍した。
そんな彼だからこそ、昨年のボブ・ユンゲルスのような役割を果たすには十分すぎる実力を持っていた。
逃げ5名にブリッジした後も先頭でペースを上げ続け、かろうじて食らいついていたローイ・ヤンスとボリス・ファレーにも一度も前を牽かせることがないまま、圧倒的な力で彼らを引き千切っていった。
残り10㎞で15秒差。いつ捕まってもおかしくはないタイム差だが、ここからアスグリーンは粘り続けた。もちろんクイックステップのチームメートたちも、集団でそのローテーションを妨害し続ける。
そしてホームストレートでさらに加速するメイン集団をわずか3秒で振り切って、アスグリーンはチームに14勝目をもたらした。
昨年はツアー・オブ・カリフォルニアで総合3位になるなど、多岐にわたる才能を見せつけているこの男。
今後のさらなる進化が楽しみだ。
ドローメ・クラシック(1.Pro)
UCIプロシリーズ 開催国:フランス 開催期間:3/1(日)
ベルギーで北のクラシックが高らかに開幕する中、グランツールやアルデンヌを狙うクライマー/パンチャーたちは、南仏の丘陵地帯で覇を競い合う。
前日のアルデシュ・クラシックに続き、そのアルデシュ県のお隣のドローメ県で開催される、やはりパンチャー向けのクラシックレース。レース前半は比較的平坦だが、レース終盤にかけて標高200〜500mの高低差を常に登るか下るかしていく。
このサバイバルレースで最後に抜け出したのは、前日も積極的な動きを見せていたヴィンツェンツォ・ニバリとワレン・バルギル、そしてサイモン・クラークの3名である。
雨のテクニカルな下りでニバリがリードを保とうとするも残る2人はしっかりと食らいつき、バルギルのアタックもクラークらを突き放すには至らなかった。
最後は純粋なスプリント勝負となり、となればやはりこの男が有利だった。
サイモン・クラーク。山岳逃げが得意なピュアパンチャーで、2年前のブエルタでも逃げ切り勝利。また、昨年のアムステルゴールドレースでは、神がかったスプリントでゴールを突き抜けたマチュー・ファンデルポールの背後で加速し、ジュリアン・アラフィリップやヤコブ・フルサンも追い抜いて2位でフィニッシュしている。
そんな彼が、ニバリとバルギルという2大スターを相手取っての見事な勝利。
🇦🇺@SimoClarke of 🇺🇸@EFprocycling wins 🇫🇷@boucles_classic #LaDrômeClassic #BDA20 (📺@lachainelequipe) pic.twitter.com/IdQTotlepZ
— World Cycling Stats (@wcsbike) March 1, 2020
これでEFプロサイクリングも9勝目。このチームもすでに今年9勝目。かなり元気なチームだと言える。
ツール・ド・台湾(2.1)
アジアツアー 1クラス 開催国:台湾 開催期間:3/1(日)〜3/5(木)
2017年にはベンジャミン・プラデス(チーム右京)、2018年には新城幸也が総合優勝するなど、日本のチームや選手との相性も非常に良いこのレース。今年は新型コロナウイルスの不安もある中で、宇都宮ブリッツェンの増田成幸や、NIPPOデルコ・ワンプロヴァンスの中根英登など、オリンピック選考枠を狙う日本人選手たちも詰めかけた。
そんな中根は第2ステージの登りフィニッシュで3位に入る。増田もこれを追いかけるも、届かずに5位。中根は一時総合3位にまで登り詰めるが、後半のスプリンターズステージでのボーナスタイムを稼がれてしまった結果、最終的には総合7位。それでも、UCIポイントは35ポイントを獲得し、総合24位で終わった増田成幸との間のUCIポイントの差は32ポイントにもなった。これにより、オリンピック選考ランキングにおいて2位の増田と3位の中根とのポイント差が20ポイントを切る。オリンピック出場枠を巡る争いはこのうえなく熾烈なものとなった。
レース全体としては、ステージ3勝のエリック・ヤンと最終日に逆転総合優勝を果たしたニコラス・ホワイトに注目。とくにホワイトは今年23歳の若手。昨年のU23オーストラリア国内王者であり、ツアー・オブ・ジャパンの南信州ステージ3位と日本人にも馴染み深い位置で成績を挙げている選手で、今後の活躍には注目していきたい。
ル・サミン(1.1)
ヨーロッパツアー 1クラス 開催国:ベルギー 開催期間:3/3(火)
アルデンヌの舞台、ワロン地方での開催ながら、石畳混じりの典型的な「北のクラシック」となるこのレース。1クラスということもあり、単純にトップチームの選手が勝つというよりは、下位クラスのチームの選手が勝つような意外な展開も多い。
今年も、ディフェンディング・チャンピオンのフロリアン・セネシャル含むドゥクーニンク・クイックステップが数の優位を見せて展開をコントロールしていくが、最後は珍しく集団が逃げを捕まえて集団スプリントに。その中で勝利を手に入れたのは、クラシック系のレースでのスプリントに滅法強いユーゴ・オフステテール。コフィディスでUCIポイントを荒稼ぎしていた男が、イスラエル・スタートアップネーションでワールドツアーデビューを果たし、その実力の高さをしっかりと見せつけた。
3位にはSEGレーシングアカデミーのダヴィド・デッケル。過去にも数多くのトップライダー(ファビオ・ヤコブセン、ケース・ボル、カデン・グローブスなど)を育て上げてきているこのオランダの最強育成チームに所属するデッケルは、すでに今季出場している3レース中2レースで優勝し、このル・サミンでも3位。来年はどこかのワールドツアーチームに所属して勝利していても全く違和感のない選手で、少なくとも今年のツール・ド・ラヴニールでの1勝はありそうだ。
パリ〜ニース(2.WT)
ワールドツアークラス 開催国:フランス 開催期間:3/8(日)〜3/15(日)
チーム・イネオスやユンボ・ヴィズマなど、有力チームの数多くが出場辞退。一方で、ペテル・サガンやヴィンチェンツォ・ニバリなど、本来ストラーデ・ビアンケやティレーノ〜アドリアティコに出場予定だったスター選手たちが代わりにこっちに出場し、かつ1チームの最大人数が特別に8名になったため、ある意味でこれまでにないような豪華なパリ〜ニースとなった。
もちろん、レース中にも各国の状況が常に変化して、リタイアする選手、チームも続出。最終日もキャンセルされ、全7ステージとなった。
それでも、主催者の意地か、総合争いをやりきらせるという意味でも山頂フィニッシュとなるクイーンステージの第7ステージまでは開催させた。その結果、勝ったのはマキシミリアン・シャフマン。おおよそこのパリ~ニースの覇者らしからぬ選手と思われそうだが、初日の抜け出しと個人TTで稼ぎ出したタイムを、得意のマイペース走行によって第7ステージの登りでも守り切った。
そして、この勝利の背景には、ペテル・サガンやフェリックス・グロスチャートナーなどのチームメートたちの献身があった。チームでつかんだ見事な勝利。それは、昨年のイツリア・バスクカントリーでの敗北に対するリベンジとも言えるかもしれない。
一方で、ティシュ・ベノートを総合2位に押し上げたチーム・サンウェブのとくに第6ステージでの連携プレーは必見。総合3位のセルジオ・イギータも、序盤の横風区間におけるセップ・ファンマルクの守りや、弱点と思われていたTTに対する本人の進化など、獲るべくして獲った成績と言える。
さらにはナイロ・キンタナのいよいよ本当に「復活」と言ってしまいたくなるような勝利。
スプリンターたちも先述のサガンのほか、パスカル・アッカーマンやサム・ベネット、カレブ・ユアンなどのトップスプリンターたちが集結していたものの、パリ~ニース特有の悪天候やアップダウンに悩まされ、結局勝ったのはニッツォーロやボニファツィオなど意外な顔ぶれ。
いや、ニッツォーロに関してはもはや意外ではないだろう。今年、ツアー・ダウンアンダーに続くワールドツアー2勝目。彼の強さはすでに本物であり、今年こそは念願のジロ・デ・イタリアでの「真の」勝利を掴み取れるかもしれない。
もちろん、「延期」となったジロが無事、開催されればではあるが・・・。
各ステージの詳細な振り返りについては、以下の記事を参照のこと。
各チームスタッフ、関係者、選手の無事を祈るとともに、事態のできるだけ早い収束を願う。
スポンサーリンク